連載小説
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朝日とともに
001

デルフィア某所

薄暗い一室。
申し訳程度に揺らめく蝋燭の灯火だけが部屋を充たしている。
そんな中で、密かに会話を続ける影が二つ。

「…ぬかりはないのか?」
「ああ、上層部も薄々勘付いていたらしい。あっさり許可が下りた」
「そうか、これで手筈は整ったな。…しかし馬鹿な奴だ。この国を内側から変えるだの、魔物との共存だの…」
「だが、その世迷い言を聞くのも今日までだ」
「違いない……」

002

デルフィア郊外
訓練場

「はぁぁあああっ!」
「ふっ!」

刃と刃が交わり、訓練場に小気味よい剣戟が鳴り響く。一方は、所々に複雑な紋様が刻まれた白銀のマントを羽織っている。
彼女の名はソフィ。
幼少の頃より才能を如何なく発揮し、弱冠二十歳ながら教会騎士団の部隊長に異例の早さで登り詰めるにまで至った。
そんなソフィの出生を快く思わない者も教団内部には多いが、本人は毅然とした態度を崩さない。
また、誰にでも分け隔てなく接するソフィを慕う者も多く、自然と彼女のもとにはそういう者達が集まっていた。

「お前もっ、なかなか腕を、上げたなっ!」
「ギースこそっ、一撃が、更に、重くなっているなっ!」

もう一方は、身の丈程はある巨大なバスターソードが特徴的である。それをまるでレイピアのように軽々と振り回すのだから、いくら模擬戦闘とはいえ、ソフィも堪ったものではないだろう。
彼の名はギース。
どんな戦地にも赴き、確実に依頼をこなす傭兵である。
依頼先のデルフィアで偶然ソフィと知り合い、「馬が合うから」などといった理由で、しばしば彼女の稽古に付き合っている。

「そりゃどう…もっ!」
「っ!!くうぅ…!」

ギースの一閃に、ソフィは体勢を崩される。ギースはそのまま慣性の法則に従い、剣ごと身体を捻る。何とか構えをとるソフィ。しかし、ギースはソフィのロングソード目掛け、鋭く斬り上げる。

「もらったぁっ!」
「しまっ……ぅあっ!」

ソフィの剣が鈍い金属音と共に宙に舞う。
その刀身は、ようやく顔を出した朝日の光を受けて、煌々と輝いていた。


003

同時刻 魔王城

「はあぁ…ぁ……んんぅ♪」

魔王城の個室の中でも、特に豪華な造りとなっている一室。
その理由は単純で、今まさにベッドの上で自らを慰めている彼女‐イルは、魔王の血を引くリリムだからだ。
他のサキュバスとは違い、流れる様な白銀の髪、そして魔王の遺伝子を受け継いだ膨大な魔力を持ち合わせている。

「んきゅぅぅうっ♪そ、そこはぁっ♪」

被虐妄想をしながらの慰めが日課となっている変態リリムは、今日も今日とて己の局部を弄ぶ。

「うあぁっ♪も…いっちゃ……ぁ、ぁ…………っ!!♪」

彼女の身体が強張ると同時に、白濁色の液体が高級そうなシーツの上に飛沫となって撒き散らされた。
事が終わりを迎えると、部屋が静寂に包まれる。
ベッドの上にぐったりと身を投げ出している様は、不思議と彼女の美しさを際立たせていた。

「イル様、報告が……って朝っぱらから何してるんですかっ!ぁ…ひゃぅ……た……只でさえあなたの魔力は…」

あ、見つかっちゃった。
彼女は私の身の回りの世話をしてくれる、サキュバスのテスラ。
真面目過ぎるのがたまに傷ね。
まあ、すごく可愛いし良い子なのだけれど。
今だって私の魔力にあてられて体をもじもじさせているし……おおっと涎が。

「何って…ナニに決まってるでしょ。何か起きたらムラムラしちゃって」
「毎度毎度起こしに来る私の事も少しは考えてくださいっ!」
「むぅ…そこまで言わなくても…それにしても、今日の彼は激しかった…♪無理矢理組み敷かれて…乱暴に胸を揉まれて…お豆さんも捻られて…♪」
「……ドMめ」

ふッ……ドMか。悪くないわね。何とでも言うがいい。
いつか殿方と出逢い、互いに愛を確かめ合いながらも滅茶苦茶に犯されることが私の夢なのだから。
……幸せな未来予想図を思い描いていただけなのにテスラが物凄く冷めた目でこっちを見ている…。そこまで引かなくても良いじゃない…くすん。

「はぁ、はぁ……と、とにかく、こちらとしてはちゃんとした用向きがあるんです!真面目に聞いてください!」
「わかった、わかったわよぉ。で、どんな報告なの?」

…十中八九いい報告ではなさそうだけれどね。

「……はい。」

呼吸を整え終わった彼女は、その据わった目を私に向けて言い放った。

「デルフィア教国、宣戦布告です」


004

同時刻 魔王城
サバト総本部

長い長い廊下に、とてとてと可愛らしい靴音が響く。
その小さな身体には不釣り合いな程の大きな三角帽子。あどけなさを一層際立たせるシャツとショートパンツ、そして太股まである縞模様のソックス。
両手には、今にもこぼれそうな大量の書類を抱えている。
邪神教サバトの布教者、魔女である彼女‐ルカは、案の定書類をはらはらと落としながら、ようやく辿り着いた先のドアを開ける。

「バフォさまー!お待たせしました!ネクロマンシーに関する実験報告書ですっ!」
「〜〜〜っ、バフォさまではないっ、儂の名はタバサじゃと何度も何度もゆうておるじゃろうがっ!」

部屋に入ってきたルカに早速弄られているのが、サバトの創始者、バフォメットのタバサである。
山羊を彷彿とさせる湾曲した角、滑らかな体毛に覆われた掌と脚。その掌には、禍々しい髑髏の装飾が施された大鎌が握られている。

「きゃー♪バフォさまが怒ったー♪」
「じゃから…もう…うぅ…ひっく……ぐす…儂の威厳が…」
「……(あぁ…あのタバサ様が泣きじゃくっておられる…♪こんなに可愛いお姿を見られるなんて…記憶球持ってきて大正解…♪)」

…こんな彼女がタバサの右腕を任せられるほどの実力の持ち主なのだから、なんとも気の毒な話である。

005

数分後

「…♪さて、そろそろ話を本筋に戻そうかの」
「サバト製菓の新商品、マロンフラワー味のキャンディー、お気に召していただき光栄です♪」
「うむっ。」
「では、本題に入らせていただきます。ネクロマンシー、結果から言いますと、実験は成功です。主に人間に対して使用しますが、親魔物領に住んでいる女性が亡くなった場合、遺族の同意があれば、優先的に使用するという方向性で調整しています」
「ふむ…特にアンデッド系のなかでも指折りのデュラハンとして蘇生させた場合、即戦力とまではいかぬが十分な戦力補強が可能、か…。その術はもう使用可能なのか?」
「はいっ!」
「…良かろう、上出来じゃ……む?」
「どうされました?」

やや険しい顔つきになったタバサに、ルカは小首をかしげた。

「いや、イル殿から今連絡が入った」
「……なんと?」

そう聞いた彼女に対して、タバサはにまりとして言った。

「布教の大チャンスじゃと」

006

一時間後
デルフィア郊外
訓練場

一通りの訓練を終えた後、軽く水浴びを済ませたソフィとギースは他愛もない雑談をして楽しんでいた。

「…そう言えばお前、まだアレを続けているのか?」
「?……あぁ、あの事か。勿論だ。私はこの大戦で、この手で救える限りの命を救うと決めた。人間であろうと魔物であろうと関係ない。…いつかこの国でも、人と魔物が同じ空の下で共に笑いあえる日が来ると、そう信じているからな」

…やっぱりこいつは、出会った時となにも変わっちゃいないな。自分の信念を曲げずに、目指す理想に向かって、ただ愚直に突き進む。
まあ、かく言う俺も、こいつのそういう所が好きなんだが。

「わかった、俺も親魔物領出身の身だ。そこまで言うのなら異論は無いよ。但し、一つだけ忠告しておく。教団の上層部が、お前の事を色々嗅ぎまわってるらしい。命を護る事も大事だが、自分の命は粗末にするなよ」
「……!ああ、ありがとう。滅多に無い君からの忠告だ。胆に銘じておくよ」

会ったばかりの頃は分からなかったけれど、今なら分かる。
これが彼の『優しさ』だ。
いつの間にか心を見透かされていて、その心の穴を塞ぐように私をいつも助けてくれる。
そんなことが続いていくうちに、じわりじわりと彼に心を溶かされて、私は彼に惹かれていったのかもしれない。
暫くの間沈黙が続いていると、街の方角から誰かが此方に向かってきていた。あの隊章は…うちの隊のものか。

「隊長ー!あ、ギースさんもご一緒でしたか」
「おう、邪魔してるぜ」
「それで、どうした?緊急なのか?」
「あ、は、はいっ!」

そこで一拍間を置いた後、彼は云った。

「デルフィア教国、魔王軍に宣戦布告!隊員、至急大聖堂前に集合せよとの事です!」


14/10/22 00:35更新 / ぎんとんぼ
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