読切小説
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Ohmagatoki
革ジャンに夕暮れの風が染みる。

夕暮れ。黄昏。逢魔ヶ刻。
高速道路をひたすらに走る。奔る。駆ける。
沈み行く太陽に向かって奔る。
僕たちの家へ向けて駆ける。

奔る僕たちの後ろから、街灯が一つづつ追いかけてくる。
もうすぐそこまで紫の空が僕らを飲み込もうと迫ってきている。

山に向かって必死に翔る、ブラックハーピー。
顔を覗かせ始めた月に向かってふらふら飛ぶワーバット。
帰宅組と出勤組。

隣の車線をとんでもないスピードで疾走するコカトリス。
すげぇ。リアルロードランナーだ。
けたたましくサイレンを鳴らし「止れェ!!」と無線で叫びながら追いかけるワーシープ…のコスプレをしたアヌビスの婦警さん。

「怖ッ!!」
10km位手前で追い抜いたのだが、まぁ捕まらなくて良かった。
と言うか。眠くならないのか?いやむしろ、ワーシープが車運転して大丈夫なのか?コスプレだけど。これがホントの覆面?
などと考えていると、
「問題ない。こちらはずっと速度を守っている。誰かの鉄馬と違ってな。」
ちくりと皮肉って来た。
「反省してまーす。」
「誠意が足りん!」
「あだッ」
尻尾ではたかれてしまった。
そう言えば、どこにメーターが着いてんだろう?

僕には相棒がいる。
鉄で出来た鉄の相棒。
でも。
ゴメン相棒。浮気しちった。
ゆるして、な?

「ヒトの背中で何を考えとるか!?」
また尻尾が飛んでくる。
彼女に怒られてしまった。
「あぺぁ」
変な声が出た。
「声に出てた?」
恐る恐る聞いてみる。
「いや。そんな気がしただけだ。」
「怖ッ!!」
「五月蝿い。振り落とすぞ」
洒落になってないって。

いつの間にか、隣車線にセダンに乗ったサキュバスの一家が並走していた。
さらにもう一つ奥の車線をドラゴンがアメリカンクルーザーでタンデムして行った。
バックシートのドラゴンさんが思いっきり着膨れしていたけど。
明らかに腕と脚と体のバランスが悪い。
たぶん五倍くらいに膨れてた。もこもこハイパー。
冬眠対策か?と言うかそこまでして連れ出したいのか?わかるけど。

並走するサキュバス一家の助手席がおかしい。羽しか見えない。
と。助手席の奥さんが顔をあげた。
口から何やら白いものを垂らしながら。一瞬眼が合ってしまった。
で。何事もなかったかのようにまた顔を伏せた。運転席側に。
おとーさんは何事もなかったかのように運転していた。
うん。ぼくは、何も、見て、ないよ?

おとーさんの顔?
いや。ふつーでしたよ?
ええ。ふつーです。
ふつーにきまってるじゃないか。

後部席のサキュバスの子供がコッチを見ていたから、さわやかな笑顔で手を振ってあげた。
あとじゃんけんもした。あっち向いてホイも。
笑顔が可愛い。

「楽しそうだな?」
心なしか彼女の顔が綻んでいるのがわかる。
「ん?まぁね。子供はかわいいよね。」
「ところで今の助手席の――」
「あ〜!オークが空飛んでる!」
左前方のそらを指差す。
「なに?」
それにつられて左を見る彼女。
眼前に迫る壁。
「前!前!!前〜〜!!!」
「ぅおわ!!」




「寒くない?」
と僕は彼女に尋ねる。
「問題ない。」
とまたまたぶっきらぼうな答え。
「オマエが背中にいるから。」
風の悲鳴と蹄の音にかき消された。
「え?」
「…ッ!なんでもないっ…!」

あ。さっきのコカちゃんが捕まってる。あれ?でもアヌビス姐さんの顔が赤い?コカちゃんも顔が赤い?
いやコカちゃんが赤いのはわかる。スゲーよくわかる。全力疾走だもんな。だが『アヌビス姐さん』の顔が赤いってのはどういうことだああ〜〜?
…いかんいかん。

少し彼女がよろめいた。危ない。
「大丈夫?」
「あぁ。」またもやぶっきらぼうな声。
彼女の肩に革ジャンをそっと掛ける。

「ありがとう」さっきより小さな声だったけど、今度はちゃんと聞こえた。
「いいえ。どういたしまして。」耳元でそっと囁いてやる。

「ッ!ばか…」

気づけば、いつの間にか街灯に追い越されてしまった。
あたりは赤から紫を越え青黒く。
オレンジのまばらな街灯。
群青の中に広がる彼女の金の絹糸。

彼女の蹄が刻むリズムが心なしか早くなった。
僕たちの家はもうすぐそこだ。
13/03/08 20:44更新 / ぼーはん

■作者メッセージ
単車で奔ってると、偶に前を走る車の子供とじゃれてます。事故らない程度に。
中指おったてる子供にはど〜したらいいんでしょ?(笑)
と。いうか魔物娘とタンデムしたい。ケンタ種さんは難しいけど。

エキドナさんとかエキドナさんとかエキドナさんとか。さっきゅんとかさっきゅんとかさっきゅんとか。
あ。でもバフォ様ケツに乗っけて、キャーキャーやるのもソレハソレデ…
失礼しました。(笑)

今日も読んでいただきまして、ありがとう御座います。

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