連載小説
[TOP][目次]
第一章
「ねぇ……また会えますよね?」
「……ああ」

今にも夕陽が沈むであろう最中、俺は砂浜で隣に座っている彼女の言葉に答えた。
もうすぐ俺は彼女と離れ離れになる。
そんな想いが脳裏を過り、溢れ出そうな涙を必死に堪えた。

「これ……よかったら貰ってくれますか?」

そう言いながら彼女は俺に一つのペンダントを差し出した。
そのペンダントには青い貝殻が飾られてとても綺麗に光っていた。

「なぁ、これって……もしかして……」

よくみると、そのペンダントは彼女がいつも首に掛けているものと似ていた。
ただ一つ違うのは、俺が貰ったペンダントの貝殻は青色、彼女のは赤色だった。
俺の言いたいことを察したのか、彼女は徐に頷いた。

「小さい頃、お母様にペンダントの作り方を教わりましたの。ちょっと見た目は悪いかもしれませんけど……でも、それでもあなたに貰って欲しいのです。私のこと、忘れて欲しくないから…………」

彼女は潤んだ瞳で俺を見つめながら言った。
忘れて欲しくない。
その想いがどことなく俺には伝わってきた。

「忘れない……忘れるもんかよ! 例え離れ離れになっても、お前のこと、絶対忘れない!」

俺は彼女が差し出したペンダントを受け取り、首に掛けてみた。
自分ではよくわからないが、似合っていることは確かだ。
彼女が俺のために作ってくれた大切なものだから。

「だから、お前も俺のこと、忘れないでくれよ…………サフィア……」
「はい……私、あなたのこと……キッドのこと……絶対忘れません……」

彼女は泣いていた。溢れんばかりの涙を流していた。
それを他所に、夕陽の光が彼女の魚の下半身を光らせていた。


〜〜〜5年後〜〜〜


あれから5年の歳月が経ち、俺は各地を旅して戦士や荒くれ者と戦う日々を過ごしていた。
ただ、戦うと言っても、それは戦士としてじゃなく、海賊としてだ。
海賊と一言で聞いたら、略奪を繰り返す野蛮な荒くれ者のイメージが強いが、俺はそいつらとは違う。俺は一般的な海賊とは違い、無闇に一般市民や商船に危害を加える様な真似はしない。俺が獲物として標的に定めるのは悪名の高い領主や商人、または逆に襲いかかってくる海賊だけだ。そいつらを倒すことで収入を得て暮らしている。
甘いと思われるかもしれないが、罪のない人には手を挙げない。それが俺のポリシーだ。

俺は今、海賊船を手に入れて大勢の仲間たちと過酷な旅をしている。
俺の船の名は、『ブラック・モンスター』
普通の商船と比べて5倍以上のデカさだ。しかもとてつもなく頑丈で、性能抜群の大砲がズラリと並んでいる。凄いのは外見だけじゃない。贅沢にも、船員一人ひとりに自室が与えられ、プライベートは完全に守られている。キッチン、ダイニング、医療室、大浴場など、基本的な設備は全て備えられている。
だが、俺にとってこの船で誇らしい所は外見でも、設備でもない。
俺にとっての船の誇り、それはマストのてっぺんにて風に靡かれながらも我が存在を誇示するかのように立つ海賊旗だ。
俺の海賊旗は黒色の生地の上に髑髏のマーク、そして髑髏の下には俺の所有する武器である長剣とショットガンが交差するように描かれている。
一見シンプルに見えるが、この旗は俺の誇りでもあり、覚悟の証でもある。
この海賊旗の下に、俺は海賊とて生きている。
今までも、そしてこれからも…………。


ここは、とてつもなく広い海。
俺は今、その海上にて敵の船の一団と戦っている。
敵の正体はマストのてっぺんに立つ旗を見てすぐに分かった。
奴らは魔物を敵対視している教団の連中だ。

「怯むな! 戦え! 魔物共を皆殺しにしろーーーー!」

敵の船で一人、周囲の仲間たちに大声で指示を出している男を見た。

「そうか、あいつが敵のカシラだな」

俺は船に乗り込んでくる敵を右手の長剣と左手のショットガンで追い払いながら、敵の筆頭であろう男をこの目で標的に定めた。

「ヘルム! 悪いが俺は一旦ここを離れる!少しの間気張ってくれ!」

俺はすぐ近くで剣と楯を駆使して敵を次々と斬り倒していくヘルムに伝え、敵の船に勢いよく飛び乗った。

「任せてくれるのは構わないけど、無茶だけはしないでくれよ、キッド!」

流石は俺の右腕。いつでもどこでも頼りになるな。

背後から聞こえる頼もしい声の主に感謝しながら、俺は迫ってくる敵をショットガンで射ち倒し、
敵の筆頭の前に立ちはだかった。

「おのれ……キッド・リスカード! 人間の敵である魔物共の味方をする悪魔め!」

敵の筆頭は湾曲刀を構え戦闘態勢に入った。

「俺が悪魔か……まぁ、それは大目に見てやるとして、まずは魔物を敵と言ったのを謝ってもらおうか」
「うるさい! 魔物は我々人類を滅ぼす最凶、最悪の敵だ! 貴様はあろうことか、魔物を船に乗せ、魔物と共に航海をしていると聞いた! これは神への冒涜だ! 我々が何としても貴様らの悪行を止めてみせる! 覚悟!」

敵の筆頭は湾曲刀を構えたまま、俺に向かって突進してきた。その勢いのまま、敵の筆頭は湾曲刀を縦に振る構えに入った。

……今だ!

俺はその瞬間に生じる隙を見逃さなかった。
湾曲刀が振り下ろされる瞬間に、素早くショットガンで敵の筆頭の腹部を狙い撃った。

「うぐっ!!」

敵の筆頭が怯んだその瞬間、右手の長剣を横一文字に振り、敵の筆頭の首を斬った。

「…………ッ!……」

首を斬られた敵の筆頭は言葉にならないうめき声を上げ、そのまま前方へ倒れこんだ。

「ポセイドンに感謝しな……お前みたいな大馬鹿野郎の魂も、温かく見送ってくれるんだからな」

肉塊となった敵の筆頭を見下ろしながら、俺は情けの一言をかけた。

「どうやら、そっちは問題無かったようだね」

背後からヘルムが声をかけてきた。
俺の船へ視線を移すと、仲間たちだけでなく船の方まで無傷だったようだ。
船では仲間たちが勝利の雄叫びを上げ、魔物たちがそれぞれの自分の夫と共に無事に勝った喜びを分かち合っていた。中には人眼も気にせず抱き合う夫婦までいるが……まぁ、気にしないでおくか。

「しっかし、今回の連中は大したことなかったな。教団の奴らも弱体化してきたか?」

俺は教団の手ごたえの無さに呆れながらも、長剣とショットガンをそれぞれ左右側面の腰に携えられている鞘に収めた。

「残念だけど、教団は弱くならない。僕がこんなことを言うのもアレだけど、確実に強くなってきているんだよ。君も、仲間のみんなもね。」
「お前もな、相棒!」

俺が称えると、ヘルムは得意のスマイルで返してきた。
これが世の女たちに人気なんだよな。
特に中年のおばはんに……って、そんなこと思っている場合じゃないな。

「野郎ども! こんな所に長居は無用だ! 敵の船に積んである食料、金品、その他もろもろ、盗れるだけ盗ってずらかるぜ!!」
「ウォォォォォォ!」

俺の呼びかけに威勢の良い返事を返した仲間たちは、それぞれ自分の仕事に取り掛かった。俺は自分の愛船、ブラック・モンスターへ戻り、仕事に取り組んでいる仲間たちを見回した。
敵の船に飛び移り、船の外から中に至るまで調べ、余った食料や金品を運ぶ仲間。
ブラック・モンスターを進める準備をする仲間。
自室へ戻って嫁とヤりまくろうとする………………ん?

「おい、コラ! 仕事やれ! 仕事!」
「ひぃ! す、すみません! すぐ行きます!」
「チッ! 見つかったか……」
「あぁ? 何かいったか!?」
「い、いえいえ、何でもないですぅ。さ〜、お仕事お仕事♪」

俺に怒鳴られたのは、慌てて敵の船に乗り、運び作業を行う弾薬運びの男と、
悪態をついたことを誤魔化しながら船を進める準備に取り掛かるダークエルフの夫婦だ。
ったく、油断も隙もねぇぜ……。
心の中で毒づきながらも、俺はあの仲の良い光景が羨ましいと思っていた。

俺の船に乗っている男の仲間たちの殆どが魔物の嫁を連れている。
そいつらの殆どは初めて出航した時から一緒にいる訳じゃない。
長い旅を経て、各地の島や国々を訪れ、そこで嫁として船に連れていく仲間が大多数だ。
剣術が取り柄の戦闘員はリザードマンを、酒に目がない砲手はアカオニを、海に出て間もない新人キャビンボーイはワーラビットをそれぞれ娶っている。
さっき俺が怒鳴ったダークエルフを嫁に連れている弾薬運びの男もその内の一人であり、なんでも、以前上陸した親魔物国家の国で出会い調教された結果、自分の内に眠るMッ気が目覚めて旅に連れていきたいと悟ったのがきっかけだそうだ。
そんな時、俺は魔物たちにお決まりのセリフを言う。

『ようこそ、我が海賊団へ! 俺がこの船の船長だ! 歓迎するぜ!』

そんな感じで、俺の船の仲間たちは魔物の嫁を連れている訳だ。
乗せる理由は特にない。だが、乗せない理由はもっとない。
俺は人間と魔物が共存することを快く思っている。多くの人間が魔物と暮らすことは喜ばしいことだ。だから俺は仲間が魔物の嫁を連れていくのを認めている。普通の旅とは違ってかなり危険な分、愛する者と一緒にいる幸せを感じさせてやりたいと思っていた。

……と言っても、肝心の俺にはその嫁がいないんだけどな。
言い訳がましいかもしれないが、俺には嫁が来ない。いや、嫁を娶る気になれない、と言った方がいいか。周りの仲間たちは『そろそろ嫁を娶った方がいい』って言ってくるが、どうしてもその気にはなれなかった。
そう言われる度に俺の頭には、ある人魚の姿が浮かんだ。
5年前、俺に青い貝殻のペンダントをくれた、あの人魚の姿が…………。

「キッド、出発の準備が出来たよ」

海を眺めながら物思いに耽っている俺にヘルムが呼びかけた。
気づけば仲間たち全員が俺の船に戻り、俺の号令を待ち侘びていた。
おっと、ボーっとしてる場合じゃないな。
俺は仲間たちに向き直り、コホンと咳払いをしてから大声で言った。

「野郎ども!準備はいいか!?」
「ウォォォォ!!」
「目的地に着くまで気を緩めるなよ!これから向かう国は……お前ら、わかってるよな!?」

俺の質問に誰もが無言で強く頷いた。
これから俺はとある国に行く。そこは俺が生まれ、育ち、そしてあの忘れもしない出会いを果たした国だ。
そう、俺は一時帰省する。その国の名は……。

「目的地は……俺たちの故郷、カリバルナだ!!」

続く
11/09/01 11:13更新 / シャークドン
戻る 次へ

■作者メッセージ
さて、私にとって記念すべき(?)第一作ですが……
本来なら読み切りのつもりだったのですが、書きたい所が多すぎてしまい、連載という形で投稿しました。

この小説を投稿したきっかけですが、以前から他の作者様の小説を読んでいる時に、「海賊が主役の小説ってまだ投稿されてないのかな?」と思い、筆を(というかパソコンを)執らせて頂きました。

誤字・脱字、指摘したい部分があれば遠慮なくご報告お願いします。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33