連載小説
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出会いと出愛
「働きたくない…帰りたくもない…」
と一言小さく漏らし
いつも通りの帰り道いつも通りの愚痴
いつも通りに働いていつも通りに帰る
そんな、安定しているようで、とても
不安定である生活の中で、すっかりと擦れてしまった心根をいつもの様に。
「…でもまぁ…明日になれば忘れるさ」
と一言呟き、誤魔化す帰り道。
「…ここ…入った事ないよな…」
そんな【いつも通り】を変えたくて。
「行ってみるかな…どうせ帰っても
寝るだけだし…損は無いだろ」
帰り道から外れた、その階段を上る。
「…はぁ…意外と…くっ…キツイな…!!」
運動などロクにしていないため
私の身体は悲鳴をあげた
はっ…はっ…と短く息を吐き
必死に登り、見えてきたのは
「こんな所に…なんで神社が…?」
人の気配などない、寂れた神社が
まるで時間が止まったように
ぽつんと建っていた
「…来て正解かもしれないな」
1人そう呟き、賽銭箱の前の段差に
「よっこい…しょっと」
座り込む。
上がった息を整え
静かに
すぅっと深呼吸
大きく吐いた息は、空気と溶け合い
空間の一部になったような
不思議な感覚がした
「…これで酒でもあれば…最高の
瞬間なんだがなぁ…」
そう、独り言を漏らしていると
「もし?…誰かいらっしゃるの?」
ふと耳に、鈴の音の様な
透き通った、心地よい声が届く
「もしそこに居るのでしたら…
冷えてしまいます…どうぞ中へ…」
再び声がする
「あんたは誰だ…?何故中にいる?」
すっかり疑り深くなった自分が
とても滑稽に思えたが、聞かずには
いられなかった。
「私は鈴白…巫女でございます…」
そう落ち着いた声が帰ってきた。
私はどうにも落ち着かなくなって
「いえ…その…変なことを聞いて
申し訳ない…直ぐに帰りますので」
逃げ出すようにそう伝えるが
中から
「いいえ…せめてお茶だけでも…
ご一緒していただけませんか?」
悲しそうな声が返ってくるのだ。
私は、自他共に認める小心者で
そんな声を聞いてしまえば。
心苦しさには勝てるはずもなく。
「…少しだけですよ…」
と拗ねたように答えるしかないのだ
だがそんな気持ちも。
「ふふふっ…お優しいのですね?」
なんて言葉が帰ってくれば、
歯痒さに支配され、
すっかり萎れてしまうのである。

そうしてとぼとぼと、中に入ると
この世のモノとは思えぬ程
ゾッとするような美女が
「ようこそおいでくださいました…」
と華が咲くような微笑みを浮かべ
本当に嬉しそうにこちらを見ている
だが、私は。
「あ…あんた…人間じゃないのか!」
驚きを隠せなかった。
股下から、人間の脚ではなく
蛇のような胴体になっているのだ。
「そう驚かれると…何だか悲しいです
でも…きっと…きっと…
受け入れてくれますよね?…」
そんな言葉と共に、粘つくような
とても強い執着を感じる視線に。
思わず
「ひっ…!」
と小さく悲鳴をあげる。
すると蛇女は。
「……あぁ…あぁ…そう…そうですよね…
解らせて上げるしかないのですね…」
酷く暗い目で、こちらを見てくる。
その眼を受けた身体は
「う、うごけよ…動いてくれよぉ…」
すっかり言う事を聞かなくなり
蛇女の接近を許してしまう
「さぁ…あなたさま…私を惚れさせ
その上で悲しませた罪…
その身に教えて差し上げますね…︎❤︎」
そうして私と蛇女…鈴音の
甘く、鈍く締め付けるような。
不思議な共同生活が始まるのである。
これは、「私」が、鈴音に
骨の髄まで愛される話である

18/10/29 17:53更新 / 魔畜
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