読切小説
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見てる魔物は見てる。
詳しいことは少々割愛したいが、魔物娘と呼ばれる存在がこの世に現れ早十数年。もうすっかり両者が隣にいることが当たり前な程に馴染んだ現代、とある電車にて、ひとりの青年の物語があった。

その時は夕方だった。スーツを着ている仕事終わりであろう会社員風のその青年は既に席に座れていて、その隣の一席だけ空いている。そこに魔物娘と人間の夫婦が現れ片方だけが座った。

電車が動き出してしばらくして次の駅に着きそうな頃、何をどう思ったか青年は「自分はあたかもその駅で降りるようにして」席を立った。当然その夫婦のもう片方は座った。駅に降りた後ちょっと後ろを振り返るとその夫婦はそれはもう満面の笑みで愛を語らっている様子だった。
その青年が「自分が行動を起こして良かった。それだけで自分は報われた。」と思わせる位に。

そのもう一つ次の電車を青年は待っている。

ーーと。

「ふーん、かっこいいじゃん。」


「あー…なるほど…、そう、そうでしたね。ここはたしか貴女が降りる駅でしたっけね…。」
思い切り『見つかってしまった』とでも言いたそうな顔で、青年は声をかけてきたその女性ーーどうやら上司のようだーーに向かって口を開いた。

「良いよ良いよーそういうかっこいいの。お姉さん好きだぞー。」
「からかってるんですかもう…。あのですね、いや全然…その…あそこに僕が座っているべきじゃないって思ったまでですから。そういうのじゃないですから。」
「うんうん分かってる分かってるwwwそういうことにしておいてあげるからwwww」
「(…あーあ、マジで楽しんでるよこの人…。)」


「ほら…もう早く帰ったらどうです、僕は次のやつを待っているんですから。」
未だに照れを隠しきれない顔で青年はやんわり『もうあんたは帰れ』と上司に促す。
「はーいはい。恥ずかしがりな後輩君の為に退散してあげますよっと。」
散々からかわれた後、笑い疲れた顔をして上司は改札へと踵を返した。
…のだが何かいい忘れたように振り返る。

「…ねぇ!」
「…何ですかー?」
「今の君さ、惚れそうなくらいカッコイイから!」

言うだけ言って階段を上っていった。

その後来た電車に乗って青年は帰った。
「(まったくあの人は人の気も知らないでホンットにもう…。……明日、どんな顔して会えばいいっていうんだ…。)」
思わず青年は鞄を抱えて顔を埋めた。

夕陽はまだ沈まなそうだ。
青年の顔が赤いのは夕焼けに照らされてか、それともーー

…たまにはいいことをしてみるのも良いかもしれない。
18/05/12 23:33更新 / だだいち

■作者メッセージ
…とクッソ短い日常の一コマです。
小さな善行を重ねること位でしか自分を張り続けられない。
けど、そのほんの少し残った優しさこそ割りと大切なものだったりする……かもしれない。
魔物娘の方々は見つけてくれるかもしれない。

お目汚し失礼しやした。

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