読切小説
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この街で生きるヒト達 〜ドラゴン娘の場合〜

 視線が痛い。

 普段なら、そのような些細な事など気にせずにとも悠々自適に歩けるものだが、今日は違う。
 全身をマミーのように包帯でグルグル巻きにされ、数歩歩くたびに苦痛の表情を浮かべ、
 息を切り、両腕に抱えた荷物を落とすまいと踏ん張ってる姿は、さも滑稽であろう。
 
 本来なら、このような姿を晒さず家で休養すればよい話なのだが、
 今現在は、家そのものが無い。

 気がつけば、病院のベッドの上で目を覚まし、
 頭を動かした瞬間に走った激痛の為、大声を出してしまったのは、不覚の極みじゃ。

 割と自由に体を動かせるようになったからには、病院を抜け出すのは至極当然の話である。

 そもそも病院そのものが嫌いなのだ。
 第一に食事が不味い。しかもあんな量で腹が満たされると思っているのか、あの愚か者共が!
 そして病院独特の匂いである。
 確かにあの匂いを好き!と言う、特異な奴も居るには居るが、我は好かぬ。ただそれじゃ。

 さて…本来の目的に戻ろう。
 とにかく腹が減っている。減りすぎて周りの者が食料に見えてしまうほど減っている。

 本来の姿であれば、造作も無く襲い掛かり、
 悲鳴すら上げさせずに、一撃で仕留める自信があるが、
 如何せん今の姿は「人間のメス」に酷似した情けない姿…
 恨む…呪うぞ! 皆は、何故このような姿にされたにも拘らず、現魔王を倒し、昔の姿に…


「……〜♪」
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
 声を出さなかった自分を褒めたい。
 考え事をしていたとはいえ、いきなり後ろから抱きつかれたのは心臓に悪いし、
 まだまだ体が痛いのだ…勘弁してくれ。

「やはりお主達か…」
 抱きついてきた者を含め、見知った顔が並んでいる。

「怪我したの〜?大丈夫?」
「最近姿を見せないと思っていたら…いつのまにそのような姿に…」
「なんだよその格好、まさか喧嘩して負けたってんじゃないだろうな?」
「うむ。そのまさかだ。」

「「「へ!?」」」

「う…嘘だろ?」
「だって…貴女は…」
「………」
 抱きついてきたハーピーの娘は、口を開けたまま硬直し
 礼儀が良いアヌビスの娘は、事の重大さに驚き
 さっきまで豪快に笑っていたミノタウロスの娘などは、
 手に持っていた斧を滑らし地面に穴を開けたのを気づいていない。あとで叱られるが良い。我を笑った報いじゃ。

「ドラゴン…」
「そうだが?それ以外の何だと思っている?」
 誰が言ったか、声が小さすぎて分からなかったが、その問いには素直に答えよう。
 あと腹が減りすぎて眩暈がする。

「「「……」」」
 3人は顔を見合わせ、何かしら言おうとしているが、言い出せないようじゃ。
 ふむ…本来なら負け戦の話などしたくはないが、変な空気になっておる。
 目に映ったオープンスタイルのカフェを指差し、飯を奢るなら聞かせてやる!と、持ちかけたら
 皆は納得したのか、カフェの方へスタスタと歩いて行きよった。
 …どうやら奢る気らしいの。
 まぁ、我の恥ずかしい話と主らの財布の中身を比べるなど本来なら釣り合わぬが、背に腹は変えられぬ。
 ふはははは! 飯じゃ! 飯が食える!!
 喜びに震え二回ほど尻尾が地面を抉ったが、牛娘の不注意とは違う。本能じゃ。本能じゃから謝る必要なぞ無い!



「奴は、ドラゴンスレイヤーと名乗っていたな」

「ドラゴンスレイヤー:ドラゴンは幻獣の中でも特に強大な存在として描かれ、これを倒すことのできる武器あるいは英雄は、絶大な力を秘めるものとして「ドラゴンスレイヤー」、すなわち「竜殺し」と讃えられている。竜殺しの物語で基本的な類型は、洞窟などで財宝を守るドラゴンと、それに挑む勇士の戦いというものであり、世界中に散らばる英雄伝説の中では、竜退治は重要な要素ともなっている。…と、伝えられている?」
 うむ、その通り。
 流石は、博識アヌビス。褒めて使わす。
 次は、デザートをメニューの上から持って来いとウェイトレスに頼むとするか。

「それで?どんな感じで戦ったんだい?」
「うむ。それはの…」

 
----。

 最初は、我の集めた宝を盗みに来る盗賊と思っておったが、
 「スレイヤー」と聞き俄然その男に興味を持った。

 我らの種族の中では、何処其処の者が倒された、追い返した等々。
 有名であるが故にその手の話が、聞こえてこない日は無かったが
、我にはそのような者達を何度も倒し、
 追い返してきた歴史と誇りがある! 
 未来永劫負けるつもりは毛頭無い!! ……そう確信して生きてきた。

「…と、言うわけでお前の命…貰い受ける!」
「ハハハハ!…やれるものならな!!」

 2・3の言葉を交わし、先に動いたのは、どちらだったか…
 最初から巨大化していた我は気合も魔力も充分だ。

 流石に「スレイヤー」を名乗るだけあって攻守共に過去に相対した、どの者達よりも強い!
 魔法力をその身と刀身に宿し、身体能力と切れ味を倍化させて、
 堅牢な鱗を例え切り裂けなくても斬撃にも似た衝撃だけで我が身を削り
 今迄に何十人も屠ってきた死角からの尻尾の攻撃さえも
 地上・空中問わず分身して避ける人間離れした桁外れの回避力!
 素晴らしい!たかだか数十年の人生の中で、人間はここまで強く成れるのか!

「…その先を我に見せてみろ!人間!!」
「オオオォォォ!!」



「誇ってもいい、我をここまで追い詰めたのはお前が始めてだぞ!?」
「……余裕だな…1回も『ブレス』を出さずに勝利宣言か?」
「ならば……ヨカロウ、コれガ…オのぞミノ……」 
「…(待っていた!ブレスを吐き出すその一瞬に全てを賭ける!)」

 違和感を感じたのは、ブレスを吐こうとしたときじゃ…
 上手く魔力が練れない…何故かこの者を敵と認識できない…あまつさえ愛しく感じる…
 今気づいた…これが


 『魔王の魔力の影響』


 ……全てが無駄になった。
 今迄、生きてきた栄光も我の誇りも…
 全身全霊を賭けて、我に挑む男の意思も

「……お前…泣いて…?」
「…だまれ…黙れ!!……ダマレェェェェ!!」

 すまなかったな青年よ
 我は、主が倒すべきドラゴンではない。

 茶番は終わりだ
 我の首は渡せぬが、せめて強敵だったと記憶してくれ…

 鱗の隙間から漏れる魔力の余波で崩れる落ちる洞窟
 絶大な魔王の影響に逆らうには、ちっぽけな意地を賭けての『自滅』!

 決着は、洞窟の崩落で、生死不明の痛みわけ。
 


「と、なる予定だったのじゃが…の」
「良く…無事だったなぁ…」
「まぁ…の」
 言いたいことは分かるが、それなりの理由がある。

「我の事を「ドラゴンの呪い」であのような姿にされた人間…、と、思ったらしい…」

 自滅しきるほどの魔力が残っていなかった事で、
 巨大化が解けた『魔物娘』の姿の我を背負い洞窟の完全崩落前に入り口に辿り着き
 異変を感じていた、この都市の市長に二人揃って助けられ、即入院。

「で、今に至る」
「…う〜ん…」
 店主よ…ジュースのお代わりは、まだか!
「あのね?」
「苦しゅうない。申してみよ。」
「そのお兄ちゃんは、『魔物娘』の事を知らなかったの?」
「あぁ、まったく知らなかった…と言っておった。」
 真実を知らされ、奴の常識が崩れ去る音は聞いていて胸が透く思いがしたものよ

「他には、なんて言っておったか…」
 奴の修行した土地は、一切の情報を絶ち、他者との交流も途絶える陸の孤島。
 彼の地は、「スレイヤー」とは、呼ばれぬけれども
 優秀な剣士や騎士・術士を多く輩出した村があって、
 そこで生まれ育った奴も当たり前のように修行して大きくなる
 村、独特の慣わしである、「古いスレイヤー」を「新たなスレイヤー」が倒して村を出る
 …「スレイヤー」に限るが、己が倒すべき「ドラゴン」の場所が分かるとか言っておったな。

「「「……」」」
「ん?何かを言いたそうな顔をしておるの?」
 腹も膨れたし今日はお開きかの。 いやぁ、有意義な時間であった。次も是非頼む。

「なんで」
「倒されたのも関わらず」
「そんなに詳しくて、あまつさえ笑みを浮かべるのです?」
 ん?まだ何かあるのか?
「まぁ、直接本人から聞いたしのぅ…」
 

「それは」
「どこで」
「どのような場面で?」
「ぐっ…黙秘する!」

「「「「……」」」」
 ぬう…ここまで、食べさせたのだから全部言え!と、奴らの声がするし、
 そこなるウェイトレスも何時の間にか聞き耳を立てている…どうしてこうなった?
 
「ならば…お主等に聞いても良いだろうか?」
 しかたあるまい…アレを話すか。
 言うなれば、あのまま死んでいれば、こんなに苦しくならずに済んだものを…
  



 ようやく開放され気がつけば、時計の針は夜の10時を軽く超え、
 足取りは重く不快な痛みが、全身を駆け巡る。
 だが、心だけは、頭上に輝く月のように澄んでいる。

「皆と話し合えてよかった…」
 3人娘は<グッド・ラック!>と、叫び、それぞれの家路につき、
 ウェイトレスの娘は、他の娘よりも真剣にアドバイスまでくれた。
 とても有り難い。あの者とは、良い関係が築けそうだ。

「ようやくココまで…」
 重い足を引きずって病院の明かりが見えた時、人影が見えた。
  
----。

「何時だと思ってる? 今迄何をしていた?」
「主には関係あるまい! 我の自由だ。」
「看護師や担当医、他の人も心配して…」
「心配?ハハ…主は失望の間違いじゃろ?」

「「……」」

 この者は、あの図鑑を読んだのだ。さぞ幻滅したであろう。
 主が、倒すべきドラゴンはこの世には居ない。
 例外も居るかも知れぬが、出会える可能性は低い。
 我も図鑑を読んだ時、我は違う!と、一笑にふしたが、我は例外に成りえなかった…

「「……」」

 駄目じゃ…せっかく皆が、アドバイスをくれたと言うのに…

「…一つ、聞いてもいいかな?」
「……なんじゃ?…」
「あの時、自分から死のうとしていなかったか?」
 この男は何を…言って?

「どうして…そう思う?」
「お前は、最後まで俺に勝てると思っていた…実際にそうだろ?俺も狙っていた…。『ブレス』こそお互いの生死を分ける一撃だ!出せればお前の勝ち。吐き出す瞬間の硬直を狙い、顎を切り裂ければ俺の勝ち…でも出さなかった…いや。「出せなかったんだ」……」
「「……」」
 
 視界が歪む…可笑しいのぉ…
 身体が痛くて、まともに立っていられない。喉が渇く。景色が流れて…アレは月?
 
「…!」

----。

「…ィ? …ロ!」
「……?」
 耳元から声がする。
 後ろに倒れこんだと思っておったのに痛みが来ぬ。
 …なるほど。
 主が、後ろから支えてくれていたか…これは
「褒美じゃ。受け取れ…」
「…え?」

「「…!!」」

 …あぁ、そうじゃ。街に行けばたまにカップルがしておるの。
 所謂「キス」接吻じゃ。
 ……マテ …マテマテ …マテェェ!?

「違う!?誤解じゃ?何をしておるのだ我は!?」
「ちょ!?暴れるな!落ち着け!!」

「「………」」
 
----。
 
「ン…ハァ…ウン…アァ!!」

「…頼むから、階段を登るたびに…その…声を上げないでくれ…」
「出来ぬ相談だな。…ン 包帯が擦れて アァ… 洩れるのじゃ…。」

----。

「手間をかけさせたな。 すまぬ」
「一応、俺のせいでもあるしな…俺のほうこそ」
「そうじゃな。主が、我を倒そうとしなければ、こんな情けない姿を晒さずにすんだのだ。」
「「……」」
 今は、ベッドの上じゃ。
 明日、我が目覚めるまで、看病せよ!ときつく申してある。
 夜風が気持ちいい。思ったより早く眠る事が出来そうじゃ。

「ところで…主は、これからどうするのだ?」
「その事なんだけど…暫くこの街に住む事に決めた。まさか、村の外がこんな事になっていたなんて夢にも思わなかったしな」
「そ、う…か」
 今の我はどのような顔で答えているのだろうな…
「こう言っては、なんだけどお前とは、なんとかやっていけそうな気がするんだ!殺しあったんだけどな…」
 …我も同じ事を考えていたよ。

「おやすみ」
 その言葉を聞いて、夢の中に落ちていく
 明日は、今日より良い日になると信じて…
11/10/10 09:33更新 / ooparts

■作者メッセージ
実は、名前とか考えるのは苦手です。
他にも魔物娘さんが出てきますけどあくまでメインはドラゴン娘です。

それでは、また…

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