読切小説
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好きな人
「はぁ…」
夕暮れの商店街を歩いてる男。彼の名は矢田柏嬉(やた かいき)。
彼は今、落ち込んでいた。 
(俺も…彼女欲しいな…)
柏嬉も今年で18となる。しかし、女性と付き合ったことがない、俗に言う彼女いない歴もその1と8のみを使う数字で成り立っていた。彼自身も最近までは、それほど気にしてはいなかった。しかし小学校からの親友に彼女が出来たのが4ヶ月前。
それからと言うものノロケというほどの物ではないが、その親友の話を聞くたびに少し気持ちが沈んだ。別段嫉妬と言うことではなかったが、それでも幸せそうな親友を見ると恋人が欲しいというのは当然の反応であっただろう。
今日、今さっき柏嬉はその友人と彼女を見たところであった。かなり、騒がしかったし、何よりその彼女は白蛇であった。普通の人男性ならあまり羨ましいと言う感情はわかないかもしれないが親友の話から2人が愛し合っていることが分かっていた柏嬉にはただただ羨ましかった。

(でも、やっぱり付き合うなら好きな人が良いよなぁ)
柏嬉には思い人がいた。
「カーイくん!」
後ろから柏嬉にお呼びがかかる。
「箒さん」
柏嬉を呼んだ声に振り向き、思わず顔を綻ばせる。
真下箒(ました しゅう)。背は168の柏嬉より少し高め。胸は大きく、スタイル抜群。そして背中には大きくな羽が二枚。大人の色気を纏ったフェアリーの女王ティターニア。魔物娘だ。噂をすればと言うのであろうか、箒は柏嬉の思い人である。と、言っても噂はしていないのだが。
なんともありがちなシチュエーションだが柏嬉と箒は家が向かい同士のである。この流れからも分かるように幼い頃からお互いを知っており、仲がよかった。
「今帰りかな?」
「そう、ですね」
「ん?どうしたの?元気ない?」
箒は柏嬉の異変にすぐさま気づく。
(久しぶり会ったのに、俺のこと分かってくれてる…)
箒の心配とは裏腹に柏嬉は喜ぶ。
「もし、何もなかったら一緒に帰らない?もちろん、カイくんが良かったらだけど…ダメ、かな?」
「え、えっと箒さんはお買い物は?大丈夫ですか?」
「あとはお魚屋さんだけだね〜」
この商店街は三百メートルとそれなりで、その中でも魚屋は商店街の東の入り口にある。箒と柏嬉の家は東口から近く、つまり、生物である魚は最後に買うのが定番であった。
「じゃ、じゃあ御一緒させていただきます。」
「ふふっ、そんなに改まらなくて良いのに♪それじゃ、いきましょうか。」
夕暮れの商店街を二人は歩き始めた。




「カイくん久しぶりだよねぇ。最近は忙しい?」
早速箒からの詮索が入る。
「いえ、それほどでも。でも、高3ですし一応勉強が忙しくならないといけないんですけどね…」
ならないといけないのね。
クスッと笑って言う箒。柏嬉は慌てる。
「な、なんかおかしなこと言いましたかね…」
「ううん、別におかしいことはないけど。かいくんはそういう、冷静というか、おっとりしたところは昔から変わらないんだね。」
そういってクスクス笑う。顔を赤くする柏嬉。
(うぅ、笑われてる。格好悪いなぁ…)
少し落ち込む柏嬉に箒は再度問いかける。
「ほら、その顔!やっぱりなにかあるんでしょ?どんな事でも良いからお話してみて、ね?」
ずいっと顔を近づける。
「い、いえ、今のは…その…」
柏嬉は口ごもる。
(いい匂い…)
香水の類ではない。「女性」が発する匂いだ。少し匂いに気を取られた柏嬉はそうだそうだと目の前に意識を向ける。
すると箒の雰囲気が変化していた。
「そ、そうだよね。私なんかじゃ相談相手として役不足ですよね…ごめんなさい」
擬音?を点けるなら、ふえぇが一番あうだろうか。いきなり敬語に、そして雰囲気が幼くなった箒。これはティターニア特有のものである。見た目や普段は大人であるが、根本は甘え気質なのだ。
「ま、待って下さい。泣かないで。話しますから!箒さんにお話ししたいなぁ。」
パァァ、顔が輝く。分かりやすすぎる機嫌の直り方だ。
(よ、良かった。俺もだけど箒さんもかわらないなぁ)
「それで!何のお話なの?」
「う〜ん、大したことはないんですが。」
柏嬉が語り出した。


………
「そ、それではカイくんは彼女がいないんですか?いたことも?」
「そ、そうですよ。悪かったですね!」
思わずふてくされてしまう柏嬉を見て箒は妙に嬉しそうである。
「そっかぁ〜、私はてっきり毎週日曜に朝早く家をでているのは彼女に会いに行ってるのかと…」
「あれはただのバイトです。というか、なんで知ってるんですか!」
「お隣さんだもんね〜。それくらいはね〜」
ニヤニヤしながら箒は柏嬉を見る。
(あぁ…バカにされてる?呆れられてる?もう、どうしよう…)
柏嬉がやはり話さなければ良かったと後悔していると、ここから箒の質問ラッシュが始まった。
「でも、さっきの話だと好きな人がいればつき合いたいんだよね?」
「そう、です」
「年上派?年下派?」
「えっ、そりゃ…年上ですかね」
「引っ張りたい?引っ張られたい?」
「う〜ん…よく色んな事で悩むので引っ張られる方がいいですかね」
「じゃ、じゃあ」
ここで少し間を置く箒。



「……ま、魔物娘は?」


さらに暫くの沈黙。
「えっ?あ、あぁ、もちろん、僕のことを愛してくれるなら問題ありません。」
(この質問って…いや、でも…)
疑問符を浮かべる柏嬉とは裏腹にホッと、柏嬉にはどのアルファベットがつくか予想もつかない胸をなで下ろす箒。
「そっかぁ良かったぁ。」
柏嬉は混乱中である。そこにさらに核心を突いた質問が。
「それなら、今、好きな人はいるの?」
バクン。柏嬉の心臓が跳ねる。
「……い、いません」
とっさに言ってしまった柏嬉。
「ほ、ほんとに?ホントにいないの?」
「いません」
それは照れからか、それとも箒の質問が妙に具体的であり、このままでは箒のことを好いている事がばれるからか、柏嬉自身にも分からなかった。
また、暫くの沈黙。そうしている間に魚屋に着いた。



「いらっしゃい!おや、こりゃまた久しぶりにみる並びじゃないのぉ〜」
魚屋のオヤジが言う。箒、柏嬉の自宅周辺は大きなスーパー等はなく、買い物と言ったら商店街でする事が当たり前。子供の頃から通っているため顔もよく知られているのだ。
「カイ坊!とうとう箒ちゃんを落としたのか?えぇ?良いじゃないか!お似合いだよ!お・似・合・い!」
「ちょ、ちょっとおじさん!静にしてよ!」
オヤジは60を目前に健康で声もデカい。今の柏嬉には困る要素でしかなかった。
「なぁに言ってやがる。お前は物心つく前から『ぼくはぁ、箒おねぇちゃんと結婚するんだぁ。』ってこの商店街で言い回ってたじゃねーか!」
「おじさん!声マネ止めて。それに昔のことだから!箒さんも困って…」
そう言って箒の方を向く。箒は顔を真っ赤にしてこちらを向いていた。しかし、満面の笑みだ。
「いやいや、この魚屋のオヤジには分かるぞ!!八百屋、ハンコ屋、おもちゃ屋。どの店主の目は欺けても、俺の目はごまかせねぇぞ!ガハハ」
「〜ッ」
勢いが止まらないオヤジにとにかく何か言い返そうかと柏嬉が口を開こうとした瞬間。
「そ、そうですよね?かいくん、私のこと好きですよね?」
それよりも早く箒が口を開いた。しかもオヤジに同意する内容だ。
「いやぁ、分かるよ!俺も20の時に今のかみさんと結婚したが好きだったのは13の時からだった!懐かしいなぁ、あの頃のあいつは〜」
オヤジが自分語りを始めているが二人の耳には届いていない。
「カイくん、私のこと嫌い?私はね。いや、お姉ちゃんはね。カイくんが好きだよ。高校に上がって少し疎遠になっちゃったけどそれでもお姉ちゃんにはカイくんしかいないよ!」
「…」
「さっきのカイくんの好きな人はいないっていうの。嘘だって事くらい分かるよ。カイくん!本当のこと言って!」
「……そ、それは」
「ってな感じでかみさんと結ばれたのさぁ。いやぁ、あの頃は良かったなぁ。…あら?なんだカイ坊!告白か?ここでか!?」
柏嬉の声をかき消す。
「お、おじさん、少し待って…」
流石に箒が止めにはいるがオヤジは続ける。
「箒ちゃん。これだけ言わせてくれな!カイ坊!いや、柏嬉!お前!好きな人に好きと伝ないなんて、そんな無駄なことするなよ!もし、上手く行ったなら後悔するぞぉ〜。もっと早く言っておけば、もっと2人の時間を作れたのに!ってな。」 
なぁ、箒ちゃん!そう言ってガハハと笑う。
「おじさん…」
柏嬉の目の色が変わる。少しの間をとり、スウッと息を吸い込み、


「箒さん。僕、矢田柏嬉は真下箒さんが好きです!僕とつき合って下さい!」


そう言ってバッと頭を下げる柏嬉。

ポカーンとしている箒。
「しゅ、箒ちゃ〜ん。同じ男として言うがこの状態で焦らされるのは生きた心地がしないと思うぞ〜」
ここばかりは、オヤジも小さい声だ。
これにハッとする箒。


「も、もちろん!というか、遅いよ!カイくん!遅い!どれだけ待ったと思うの!?」


少し泣き目な箒。顔を上げる柏嬉も同じである。
「ほわぁ、ホントに告白するとはな!見直したぞカイ坊!」
この声で空気が元に戻った。
「よ、良かったぁ」
ヘナヘナと座り込む柏嬉。
泣いている箒。
ガハハガハハと笑うオヤジ。
夕暮れの商店街に三つの影が落ちていた。




………
「おじさん。本当にありがとう。」
「なぁに、俺が何したって言うんだ!ん?それが言えるなら言えってんだ!」
「私からもお礼を。」
「箒ちゃん!これオマケしといたから。今日は特別だ!そのかわり、また贔屓に頼むよぉ」
グッと親指を立てるオヤジ。
「もちろんです。」
あんたぁ!。店の奥から声が聞こえてくる。
「今行くぞぉ!それじゃ、お二人さん。またな。俺の愛するかみさんが待ってるからな」
そう言って店の奥に消えていった。


帰り道。微妙にくすぐったい空気に2人は戸惑っていた。
「相変わらず元気そうでしたね。」
「そうね〜」
箒は空を見上げている。
「箒さ…」
「カイく…」
ハモり。顔を見合わせる2人。
「ハハッ」
「フフッ」
同時に笑い出す。
二人の家が見えてきた。日が落ちて暗くなってきている。
「箒さん。まだまだ優柔不断で今日のも勢いだったけど、また改めて告白するよ。」
指を絡めて箒の手を握る柏嬉。その目は箒を真っ直ぐに見つめている。
「待ってるね♪」 
箒もそう言って強く握り替えす。
その日は月が綺麗であった。
17/12/11 01:42更新 / J DER

■作者メッセージ
前回の作品で登場人物全員幸せにと言ったので描きました。つまり、矢田は前回と同一人物です。個人的にティターニアはエロが無いと普通の人間、姉属性な魔物娘とのかき分けが難しいと感じました。

最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

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