連載小説
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1.村に向かうまで
息が、苦しい。

足音が後ろから迫ってくる

斬られた傷が痛い

走るたびにズキズキする

後頭部に激痛が走った。

頭を殴られた。

血が出た。

血だ

死ぬ

死にたくない……


死に た  く


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北の大地に、古い城が建っていた。

ここは魔物達が反魔物組織や教会との戦いの拠点としている砦。
戦うための戦士、仲間を救護する衛生兵、そして戦いの作戦を決める参謀など、多くの魔物がいた。

「司令!北からのを第3部隊が退けたとの報告が入りました」

「北西の第6部隊から援護の要請が来ています!」

「第4部隊を第6部隊への援護にまわして、救護部隊に第3部隊の手当の用意をさせなさい」
「了解しました!」

ここの砦にいるのはは参謀兼司令官のアヌビス、情報伝達の魔女達、それと任務に出動していない幾つかの部隊だった。
今年に入ってから教会との戦いが激しくなり、今日も砦は大騒ぎだった。
大勢の魔物達が司令官であるアヌビスに報告をし、それに適切な指示を返す。

「緊急連絡です!」

そんな時、一人のハーピーが偵察から戻ってきた。

「あなたは偵察部隊の…何かあったの?」

すっかり疲れ果てている。よほど急いで飛んできたのだろう。

「ひ、東のカナック村に、教会の部隊が攻めてきて……」

それを聞いたアヌビスは顔を曇らせた。
カナック村はかなり大きな村で、この辺りで唯一の親魔物派の村だった。
大きな村でありながら、森の中にあったために、教会に気かれずにいた、”隠れ里”だった。

「そう…それで?」
「他の隊員は村で警戒体制に、私は報告に戻りました。」

少し考えた後、アヌビスが指示を出した。

「…わかった。増援を送るわ!救護部隊に第1部隊を随伴させてカナック村へ向かわせなさい!」
「了解です!」

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カナック村への道を、第一部隊の乗った馬車がガラガラと音を立てて走っていた。

救護部隊には回復魔法を得意とする大勢の魔物達が所属していた。
そして、随伴する第1部隊はこの砦において最も優秀な部隊だった。
この部隊は、オーガのフィル、デュラハンのセラ、アマゾネスのマール。
そしてその3人をまとめるリザードマンの4人だけと言う少数精鋭の部隊だった。

リザードマンの髪は美しい金色で、その体はリザードマンにしては珍しく、強固な鎧に包まれていた。
名前はオリビア・リズレイ。
彼女はこの第1部隊の隊長だった。

「けっ、教会の屑共め、とうとう町にまで手を出しやがったか」
「しかし、早く行かないと村人が危険ですね。偵察部隊だけで持ちこたえられるとは思えない」
「…敵は叩き斬るのみ…ふふふ…」

他の隊員がそんな事を話している間も、一人で外の景色を眺めていた。

「カナック村が近いです!全員警戒態勢に入って下さい!」

馬車を操っているセラがそう叫んだ。
その声を聞くと隊員達はピタリと黙り,馬車の中に緊張した空気が流れた。

「なっ……!?」

セラが驚いた声を上げた。

「どうした?」

隊員達がセラにそう聞くと、セラは途切れ途切れに言った。

「村が…滅茶苦茶に…」
「…何?」

隊員は彼女が何を言っているのか一瞬理解できなかったが、外をのぞいて絶句するしか無かった。

村は悲惨な状況だった。民家は完全に崩れ、倉庫はボロボロ、村の中央に生えていた太い木は根元からぼっきりと折れていた。
それだけではなく、崩れた民家のいくつかはメラメラと燃えていたり、一部の民家は凍結していた。
相当強力な魔法でも使わなければこんな風にはならないだろう。

「なんだこりゃ…教会にこんな魔法が使える奴なんていたか?」

隊員達が呆然している中、オリビアが馬車から降りた。

「…救護部隊2人と第1部隊1人のペアになって村人と偵察部隊の捜索に入る。村人がいたらここにつれてきてくれ。セラはここで待機していろ。」

3人はオリビアの声を聞いて我に帰ったようで、あわてて整列した。

「それから、村の中央には近づくな。村の崩壊の原因が魔法だとすれば、発動されたのはあの辺りだ。何があるか分からない」
「了解!」

指示を聞くと、隊員達はすぐに行動を開始した。
11/09/20 07:35更新 / ホフク
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