読切小説
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やどゆうれい
私の怖いことは雷に、お化けに、真っ暗に、蛇。

「成る程な、小説に使えそうだ。……お前、ゴーストの癖に変なもの嫌いなのか、つかお化けはお前だ」

違うよ、私は幽霊だもん。
お化けは時間関係なく現れて、誰でもいいから襲う妖怪みたいなの。
私は幽霊だから決まった時間通りに現れて特定の人を襲うの。

「なら俺じゃなくて別の人狙ってくれよ……お前の流してくる妄想で寝れない……」

やだ、私は貴方気に入ったんだもん。
それに私、他の男の人に行ったら貴方、一生童貞のままだよ。

「うるせー!! 童貞は関係ないだろうが!!」ドン!!

宿屋なのに大声出すから……。

「いや誰のせいだよ。つか何で俺なんだよ」

墓場でみんなとお話ししてたんだけど、一ヶ月くらい前に貴方が通りかかって私の墓石にいきなり抱き付いたから気に入っちゃった。

「……あー、酔っ払ってた時か。いや、別に前からストーカーしてたとかじゃないのならいいけど」

私はこれでもお金持ちの娘だったの、ストーカーなんてしない。
淑女だよ、私は。

「淑女はな、気に入っちゃった男の頭の中にハードすぎる性交妄想は流さねえっての。すまんが明日は新しい作品を書きたいんだ、おやすみ」

ねえ寝ようとしないでお話ししようよー、ねー、起きて。
起きろー。
……あぅー……寝ちゃった。



「あー、おはよう……ん? おい、どこ行った?」

「……そっか、特定の時間にしか出ないんだっけか」

「ついつい話しかけちまったな」

「……そういえば缶詰始めた時からか、見えたのは」

「夢かと思って最初は無視してたんだけど、もうゴーストってわかってからはつい話しちまったな」

「だがそれが運の尽きってやつか、気に入られちまったな」

「いや、正直嬉しかったけどな。魔物とは言え可愛い女の子が部屋にいて」

「今まで一人で作品書いてきたけど、やっぱり話し相手がいるだけで違ってな」

「どんどん、書けてさ」

「それもこれもお前がいたお陰だな」

「だからな、出てこいよ」

「幽霊だからとか、お化けじゃないからとか関係なくさ」

「……頼むよ……」



おはようー。
ね、ね、お話ししよ。

「……おう」

どうしたの、元気ないね。

「何でもねえよ」

あ、そうそう、重大なニュースがあるよ。
私ね、もう少しで実体化できそうなの、それで……。

「実体化か、今度はベタベタもはいるのか……。嫌だな」

むー、そんなに嫌がらないでよ。

「大体幽霊ってどんなもの食べるんだよ」

精液。

「即答かよ」



ある宿屋にはたまに小説家がやって来る。
だが奇妙な男で、独り言や夜中に突然大声を一人で出す変人だ。
だがその時だけは、楽しそうな、そう、見えるらしい。

まるで、隣に見えない誰かがいるような。
14/06/25 11:04更新 / 空鬼

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