連載小説
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夫婦と新人ガイド
「ようこそいらっしゃいました!ここはドラゴニア観光案内所です!改めて紹介させて下さい!ワイバーンのパフィティです!」

 快活に話す若葉色の鱗の金髪黄色目のワイバーン、パフィティは二人に向けて手を差し出して来た。
 少々圧倒されつつも手を差し出せば、ブンブンと豪快な握手をされる。

「早速ガイドをお願いしたいのですが…えっと、二人で。」
「お二人様ですね!つかぬ事をお聞きいたしますが、お二人は番い…夫婦ですか?」
「えぇ、そうだよ。」
「やっぱり!ということは新婚旅行ですか⁉いいですね〜♡私もつい先日ダーリンができて家で毎日…♡っと、話が逸れてしまいました!お二人のような新婚さんには、ガイドが一日付き添い絶景スポットからお土産屋さん、女王様のお城やご宿泊の旅館などを一日掛けて案内する一日コースがおすすめですが、いかがでしょうか?」
「ん〜、それじゃあ一日コースで!」
「はーい!それではこちらの書類にサインをお願いします!…はい!では早速ガイドを…と思うのですが、お二人はドラゴンの…それもとても仲の良い夫婦と見立ててお願いがあるのですが…」

 ここまで勢い良かったパフィティが、指先をちょんちょんしながらバツが悪そうな愛想笑いでお願いをしてくる。
 「叶えられる範囲であれば…。」とニクスが申し出れば、パフィティはぱぁっと笑顔を輝かせた。

「ありがとうございます。おーい、フランネルちゃーん!」
「はい、なんですか先輩?」

 パフィティが案内所の奥に向けて手招きしするとここへ、青みがかった黒い鱗の特徴的な、黒髪と蒼眼のドラゴンがやって来た。

「こちら、新米ガイドのフランネルちゃんです!実は今回が初仕事!お二人にこの子をお付けしたいのです。」
「わ、私がガイドを…⁉」
「ぼくはいいですよ。」
「うん、俺もフランネルさんで大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます!それではフランネルちゃん、素敵なガイドよろしく♪お二人にも良いドラゴニアの旅を〜♪」

 そう言って書類をフランネルに押し付けると、パフィティは足早に案内所の奥へと消えた。

「…任されてしまっては仕方ありません。改めてパフィティからご紹介預かりました、フランネルです。この度はドラゴニア観光案内所をご利用ありがとうございます。早速ですがこのドラゴニアを満喫できるようご案内致します。」

 少々不服そうに切れ長の目を細めて書類を片付けると、艷やかな長い黒髪を揺らしガイドブックらしき本を開いて案内を始めた。

「ここが竜翼通りです。我らが女王陛下がいらっしゃる頂上の城へと続くメインストリートです。」
「おお…!」
「す、すごい…」

 目の前に見えるのはなだらかで途轍もなく続く坂道。そして何より竜姿のワイバーンが五人同時に並走出来そうな程に道幅が余りにも広い。
 その両脇から道の端の至る所に店が開かれており、この栄え多くの魔物と人が行きかう道がドラゴニアの一部に過ぎない事に二人は言葉を失う。

「この通りで揃わぬモノはないと言われておりますので、時間のある時にでもどうぞ。」
「え?」

 本を片手に事務的に淡々と通りについて説明すると、フランネルは次の場所へと移動しようとした。

「待って!初仕事だったよね?緊張しなくていいよ。」

 それを止めたのはクーツィアだった。
 腕を掴まれて止められたフランネルは、バツが悪そうに顔を曇らせて俯く。

「…すみません。人間の男をガイドするのでしたら多少自身はありましたが、伴侶のある…それも旅行に来た同族となると…」

 そう口籠るフランネルに、クーツィアがそっと手の甲に手を重ねた。

「最初から上手くできる人なんていないよ。どうしても堅苦しくなっちゃうっていうなら、ぼくたちのことを友達だと思って!」
「友…達…?」
「そう!自分が楽しい…友達と共有したいところへ案内してくれればいいよ!」

 クーツィアに言われたフランネルは、青天の霹靂とばかりに大げさにたじろいて目を丸くする。
 そして一つ咳払いすると口を開いた。

「…なら…、無理にかしこまる必要もない…のか?」
「自然が一番だよフランネルさん。さぁ、どこへ連れてってくれるの?」
「そ、そうだな!なら私お気に入りの場所に連れて行ってやる!こい‼」

 フランネルの硬い事務的な態度が一変、本を閉じて仕舞うと砕けた口調で案内を始めた。
 表情も仏頂面でない高貴さを感じさせる笑顔から、接し易い雰囲気となる。

(それにしても友達…か。)

 歩きながらニクスは、楽しげに話し始めた二竜を見つめてしみじみと思い耽る。
 ニクスの目線の先には、クーツィアの尻尾が嬉しそうにブンブン揺れていた。
 現在のクーツィアに友達がいない訳ではない。だが彼女は元々、親も分からぬはぐれのドラゴン。
 当然同族なんて目にする機会などなかった。

「おーい、遅いよー!」
「はぁ、待ってくれよ。」

 ニクスは優しい気持ちのまま微笑むと、クーツィアたちの後を駆け足で追った。

「ここが私のお気に入りの店、『ラブライド』だ。」

 案内されたのはお洒落なつくりの建物の飲食店。外からでも既に美味しそうな匂いを充満させていた。
 クーツィアのお腹からクーと可愛く音が鳴る。
 思い返せば朝から直行でのドラゴニア入り。二人は何も食べていない。

「入る前に1ついいかクーツィア。」
「なぁにフランネルさん?」

 呼び止めたフランネルがもじもじと恥ずかしそうにしながら続ける。

「私のことは是非呼び捨てで呼んでくれ。その…、その方が…嬉しい…///」

 最後は俯いてもごもごと尻すぼみになるフランネルを、クーツィアは手を取って向き合った。

「もちろん!だってもう友達だもんね!フラン!」
「…っ‼そう…だな!」

 クーツィアの呼び方に目を輝かせ、フランネルは店内へと足を踏み入れる。

「パムム3つとホルスタウロスビターミルク1つと、夫婦の果実ミックスジュースを1つ。」
「はーい♪大変申し訳ございませんが、夫婦の果実ミックスジュースのみ後ほどご用意させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構わない。」
「ありがとうございます!それではパムム、おつくり致しますね♪」

 そうにこやかに注文を承ったワイバーンの店員は、スッと何処からともなく串に刺さった生肉を取り出すと徐に真上に振り上げて生肉を宙に放った。

 ゴオォッ‼

 瞬間、ワイバーンの店員は真っ赤なブレスを噴いて肉を焼いた。
 その焼かれ落ち始める肉に向けて、隣にいたサラマンダーの店員が包丁…もとい幅広の片刃剣が一閃すれば、綺麗にスライスされる。
 そうして切られた肉がワイバーンの店員の手に用意されていた生地に落ちれば、あっという間にバーガー状のジャンクフードが出来上がった。

「パムムはここ、ラブライドの定番メニューの1つだ。」

 二人がこの豪快な調理を圧倒されていれば、フランネルがクーツィアにパムムを手渡して解説を始める。

「パムムの魅力と言えばまず最初に挙げられるのはこの調理パフォーマンス。見慣れたドラゴニアの住人であってもこれにはいつも胸を昂らせられる。勿論、味も絶品だ!」

 パムムが調理されるとフランネルが適当な席に座って手招きし、自身の持つホルスタウロスビターミルクと普通のホルスタウロスミルクについて説明してくれる。
 そうして説明が終わると、サラマンダーの店員が色鮮やかなビッグサイズのジュースがニクスとクーツィアの間に置かれた。

「大変お待たせ致しました!夫婦の果実ミックスジュースお持ち致しました!ごゆっくりどうぞ♡」
「すごい…!」
「ラブライドの人気ナンバー1のメニューだ。別名『恋が実っていくジュース』と言われているが、二人は既に…その…、仲が良いな!当然、味も絶品であることは保証する!」
「うん、ありがとうフラン♪一緒に飲も?ニクス♡」

 誘われるがままニクスがストローに口を付けると、見計らっていたクーツィアが同時にストローに口を付けた。
 二人は酸味と甘味、そして爽やかな味への変化を愉しみ飲み続ける。

「プハッ…♡」
「…クーツィア///」

 そうして一気にジュースが飲み干されたら、二人は同時にストローを離して代わりにお互いの唇に熱く触れ合わせた。
 お互いの口内に残る仄かなジュースの香りと味を求めて、音を立てて唾液を啜り合った。

「あ…ぁ…///」

 これを顔を真っ赤にしながらパクパクと口を半開きにして凝視するのはフランネル。
 クーツィアはディープキス越しに、彼女の羞恥に塗れた顔に気付くと、尚見せつけるようにニクスの頬に手を添えてキスを続けた。

「…ぁ…///」

 ようやく口が離れれば、真っ先に切なげな声を上げたのはフランネルであり、真っ赤な顔を更に赤くして「楽しんでくれっ!///」と一言言うなり店の外に出て行ってしまった。
 二人はその様子を見届けて顔を見合わせると、どちらともなく破顔する。

「それじゃあお言葉に甘えて愉しもっか♡」
「えっ?///」

 クーツィアは席を立って厭らしい笑みを浮かべると、座っているニクスから器用にペニスを取り出し、その上へと腰掛けてしまう。

「ぐっっ…///我慢できなくなった?///」
「うん♡下からも食べたくなっちゃった♡」

 そのままクーツィアは嬉々として甘えるように腰を揺らしながらパムムを頬張る。
 今すぐにでも肉厚な乳房を甘やかしたくて仕方なくなったニクスだが、我慢して手元にある残りのパムムにかぶりつくのであった。

「んぐっ…‼///クーツィアもう…///」
「ん…ゴクン♡いいよ射精して♡♡」
「うううっっ‼///」
「はふ…あっっ‼♡♡♡ふふ…ごちそうさま♡♡」

 そしてニクスがパムムを食べ終わると同時に射精し、クーツィアは腰を痙攣させながらも指に付いた油を一舐めしながら淫らに微笑んだ。

「…ここは竜の寝床横丁と呼ばれている場所だ。かつて私の先輩が観光の穴場と激推しして下さった場所なのだが…その…///み、見ての通りディープなスポットなのだ…///」

 次に連れて来られたのは薄暗い高濃度の魔力が漂う何とも妖しい道。
 フランネルが恥ずかしげに言い淀みながら説明する端々で、多くの人と魔物が交わっていた。
 3年前の己たちならフランネルと同じ様に恥ずかしがってしまっていたであろうが、ここ最近は自分たちの住む町にもこの様な場所が増えた為、二人には特にこれといった動揺はない。

「…その、一つ聞いてもいいかクーツィア。」

 フランネルが立ち止まり、顔を朱に染めつつも意を決した表情で質問する。

「いいよ。」
「ありがとう。聞きたいというのはクーツィア、君自身のことなのだ。」
「ぼく?」
「あぁ、クーツィアも私も同じドラゴン。なのに私は…見ていて分かると思うのだが奥手で…。どうしたらクーツィアの様に物腰柔らかでいられるのだろうか?やはり伴侶の存在が大きいのか?」
「んー、なるほどね。つまり今の自分に女としての魅力に自信がないってことだね?」
「う…;そうだ。」
「…実は僕はね、生まれが特殊なんだよ。ニクス…夫との出会いもね。」

 そう言ってクーツィアは少し長くなると前置き、遠い所を見ながら自身の過去をフランネルに話し出す。

「…そうして今、ぼくはニクスと共にいるんだ。お互いを人生において変えの利かないたった一つの宝物…最後の宝石って見立ててね。」

 話し終えればフランネルは…こっそり聞き耳を立てていた周りの魔物たちは涙ぐんでいた。
 それを見てクーツィアは少し恥ずかしげに、しかし嬉しそうに笑うとニクスに抱きついてキスをした。

「フランちゃんなら大丈夫だよ。自身が欲する…欲望を叶えてくれる男性を見つけられる。だってぼくたちは魔物娘なんだもの♡」

 そうしてもう一度キスをすれば、服を直してフランネルの手を取り微笑むのだった。

 パチパチパチ…
「…素晴らしい愛のお話をありがとう!」

 徐に拍手をしながら、つい先程まで交わっていたであろう魔物娘が近づいてくる。

「私はリャナンシーのフウワ。夫ともう一人の妻のドワーフと一緒にアクセサリー店を営んでる者よ。」
「ハイナだよ!よろしくぅ♡」

 そう自己紹介したフウワの隣に、ハイナと名乗ったドワーフを肩に乗せた、赤いバンダナをした髭面で筋骨隆々の男がやって来て会釈する。

「夫のブロデウスだ。クーツィアさん…だったか?盗み聞きしてすまない。だが本当に素敵なお話だった。もし良ければ、俺の店に来てほしい。あんたたちに相応しいアクセサリーを作りたい。ガイドさんもいいかい?」
「私は構わないが…」
「俺たちはもちろんいいよ。な、クーツィア。」
「うん!」

 そのまま竜の寝床通りを進み、その更に裏道らしき場所を歩けば、洞窟型の住居の前でフウワは止まった。

「ここが私たちのお店。オーダーメイドを専門にしているの。ブロデウスはね、装飾品作りの天才なの♡先ずは私たちが是非作りたい物を見せるね。」

 にこやかにフウワが言えば、肩から飛び降りたハイナが家の扉を開け手招きした。

「すごい…な…」

 家に上がったニクスが感嘆の溜め息を吐く。
 天井一面に吊るされた煌びやかな装飾品の数々。
 脇からハイナが「それ全部試作品ね。」と片手間に告げた事に対して、更に驚かされる。

「待たせた。これだ。」

 そうして持って来られたサンプルは3つ。

「これは…首飾りと首輪と…腕輪?」
「首飾りは番いの首飾り、首輪は結婚首輪、ブレスレットは…ドラゴニウム入りのこの店オリジナルアクセサリーだろう。」
「正解だ。」

 持ってこられたサンプルをフランネルが言い当てれば、そのままそれぞれについて説明してくれる。

「番いの首飾りは私たち竜の爪をそのまま使った、主に伴侶となった男が身に着けるアクセサリーだ。妻が夫への愛情の深さを表しているというが…実際は知らん…///…次に結婚首輪は永遠の愛を象徴する女性用の首輪だ。番いの首飾りの対と呼んで差し支えない。…つ、妻が…その…夫を主と認めた証だ///そしてブレスレットに使われているドラゴニウムは、魔界銀を媒介に竜の魔力が結晶化した希少金属だ。貴金属と混ぜ合わせると魔力を拡散させる性質から、武具からお守りまでいろいろなものに加工される。長々と説明したが、どれもオーダーメイドとなると日が掛かる上に値が張る。」
「どれか一つだけでもいい。俺に、あんたたちの愛の象徴を作らせてほしい。」
「お代も安くしとくからさぁ…ね?♪」
「えっと…」
「全部作ってほしい。」

 食い気味にお願いしてくるブロデウスとハイナに戸惑うクーツィアの横で、ニクスがきっぱりと答えた。

「いいの?確かに安くはするけど、フランネルさんの言う通り高いよ?それにオーダーメイドは制作までに数日が掛かるけど、滞在期間は大丈夫?」

 フウワが試すような眼差しでニクスを見据えるが、構わないと首を振る。

「日数なんていくらでも伸ばせるさ。それに説明を聞くとどれもお互いの愛の証なんでしょう?なら折角安くしてくれるって言うんだから買わない手はないよ。あ、でも首飾りってドラゴンの爪を使うんだっけ?クーツィア…無理…かな?」
「そんなっ‼爪なんて直ぐに生え変わるよ!だから全部作ってもらおう!」

 そう言い淀むニクスに対して、クーツィアは興奮気味に勢い良く首を横に振ると、その場で一つ自身の爪をフウワに差し出してしまうのだった。

「まぁ待て落ち着け!確認だ。首飾りと首輪とドラゴニウムのアクセサリー…全部作るんだな?」

 勢いに圧倒され苦笑いになりつつも、ブロデウスが真剣な目で二人を見据える。

「あぁ!」
「はい!」
「よし、交渉成立だ。先ずはドラゴニウムのアクセサリーだが、ブレスレット意外にも別のアクセサリーに加工出来るが、何か要望はあるか?後デザインについても何か取り入れて欲しいものがあれば言ってくれ。」
「それじゃあ結婚首輪のデザインなんだけど…」
「…フウワさん、番いの首飾りについてお願いがあるんですけど…」

 そうしてアクセサリー製作が始まる。
 ドラゴニウムのアクセサリーがブレスレットに決まるまでは直ぐであったが、二人のそれぞれ他2つへのデザインの要望が終わらず、余裕でお昼を過ぎるのであった。

「むぅ…もっといろいろな場所を案内したかったが思いのほか時間がなくなってしまったな…。」
「すみません…;」

 昼食には遅すぎる時間、3人は竜の寝床横丁を先の店で食事を摂った。

「でもこの竜丼って料理辛くてシャキシャキでおいしいね!」
「辛くて絶品だろう?竜丼は私の大好物なのだ!ニクスが食べているのはドラゴンステーキだな。…うん、どちらもドラゴニアの名物料理。次に食べる機会があれば、お互いの逆の料理を食べるといい///」

 その提案を頭の隅に置き、空腹だった3人はペロリと料理を平らげるのであった。

「それじゃ俺、勘定してくる。」
「あぁ。…クーツィア、ちょっと耳を貸せ…」
「ん?」

 ニクスが勘定している間にフランネルはそそくさとクーツィアに耳打ちする。

「この両方の名物料理なのだがな…、ドラゴンステーキは竜を惹きつける効果がある。そしてこれから向かう場所は温泉宿…。もう私の言いたいことは分かるな…?///」


 察したクーツィアは目を見開くと、夫の方を反射的に見た。

(やだ…、匂いだけでとろけちゃう…///♡♡)
「宿へ案内すれば、私の役目は終わりだ。」
「えっ⁉」
「そういう契約だからな。それにすまん。明日は騎士団としての仕事があるから無理なのだ。」
「おーい、次はどこへ行くの?」
「あぁ、すぐ行く。なに、これが今生の別れではない。お前たちが帰る際には、例えガイド中でも見送りに行くことを約束する。」

 そう言ってフランネルは店から出るなり、元の姿となって飛び立ってゆく。
 不満を言いたいクーツィアであったが、、グッと堪えて元の姿となって後を追った。

「ここは竜泉郷。ドラゴニア屈指の温泉街で、お前たちの泊まる宿がある場所だ。」
「本当に…すごい…。初めて見るよ。」

 ドラゴニア国内から出てしばらく、クーツィアは目の前に広がる景色に感嘆の声を漏らす。
 時刻は黄昏。無数の湯気と夕日に反射する温泉は正に幻想的だった。
 景色に見惚れている内に、先導していたフランネルが緑色の屋根をした建物前に降下する。

「ここが今回泊まってもらう旅館、『緑龍の社』だ。ジパングにある神社という建物を模したと言われている。」

 そこで二人はまたも言葉を失う。
 ドラゴニア国内でも故郷の町でも見かけた事のないジパングの建物に、圧倒されたのだ。
 フランネルはそのきらきらと瞳を輝かせては仲睦まじく乾燥言い合っている二人をジッと見つめると、ふと唇の端を緩ませて寂しげに笑い、クーツィアに仕舞っていたガイドブックを押し付けた。

「後は旅館の者が案内をしてくれるだろう。これは私たち観光案内所の者が持つガイドブックだ。ドラゴニア領は広い。是非今日行けなかったところへ足を運んでみるといい。」
「待って!」
「私の仕事は終わったんだ。後は夫婦で…」
「ぼくはまだガイドしてほしい!行くよ!」
「ちょっ…待っ…;」

 去ろうとするフランネルをクーツィアが全力で止め、そのまま引きずるように旅館へと入ってしまった。

「…やれやれ。」

 一人取り残されたニクスであったが、クーツィアの心中を察して後から旅館へと続くのだった。

「お待ちしておりました。緑龍の社へようこそおいで下さいました。わたくし、この旅館の女将をしております、龍のメノウと申します。」

 旅館に入るとそこには、艶やかな緑の長髪に宝石と見間違いそうなほど美しい鮮やかな緑色をした鱗の、絶世の美女と呼べる龍が待っていた。

「ささ、お部屋へご案内致します。」

 メノウは柔和に微笑むと優美に振り向いてクーツィアたちを中へ通してくれた。

「クーツィア…、ここの温泉は男女で浸かるものなのだが。」

 そうして部屋に案内されるなり、クーツィアはフランネルを連れて湯に浸かるのだった。

「無理言って女将さんに頼んじゃったから大丈夫!それよりも、やっと二人でお話しできるね!」
「た、確かに…ではなくてだな!///私は二人を思って案内を終えるはずだったのだぞ⁉」
「でも二人で話し合える暇はなかった!せっかく初めてできた同族のお友達なのに、寂しいよっ!」
「っ…!…私…だって…」
「それじゃ、他愛のない話でもしようよ!まずは好きな男のタイプからだよ⁉」
「えぇ…⁉///」

 俯き口を噤んでしまったフランネルに対して、クーツィアは怒涛の質問攻めを始めた。
 クーツィアの勢いに動揺するも、彼女は律儀に全て答えた。

「なんだかお話というよりフランへの質問タイムになっちゃったね。」
「もぉ…ねぇクーツィア、私は素敵な男に出会えるだろうか?」
「出会えるよ。フランは美人で可愛いもん!それに聞いた感じガイドのお仕事はお婿さん探しみたいなものでしょ?ムッツリな男が好き…きっと見つけられるし、その人に素直に思いを伝えれば大丈夫。」
「ほ…んとう?」
「うん!だからね…」

 ザバッと湯から立ち上がれば、フランネルの手を引く。

「これからもお友達でいて?フラン!」
「…あぁ‼///」

 フランネルは典型的な何処か高慢高圧なドラゴンであった。
 それが災いして、彼女には友達と呼べる者がいなかった。
 そんな彼女を理解し、ガイドの仕事に送り出してくれた先輩であるパフィティも、既に旦那持ちで恋の悩みなどを素直に明かす事もなかった。
 だが今、目の前の同族は、友達だと手を差し伸べてくれた。

(ありがとうクーツィア…。私はもう自分のプライド…こだわりから抜けだせる…。)
「…やっぱりフランは可愛いね!」

 晴れ渡った笑顔を零すフランネルに、クーツィアは近い彼女の幸せを察して、最高の笑顔を向けるのだった。

「ガイドのはずが、すっかり世話になったな。」
「クーツィアにも友達ができたんだ。こちらこそ世話になったよ。」

 用意されていた浴衣に着替え、泊まる部屋に戻って来た二人。先に浴衣姿になっていたニクスに、フランネルは改めて別れのあいさつを始める。

「いや、ニクス。あんたに対して私はだいぶぶっきらぼうな態度を取りまくってしまった。ガイドである前に、一匹の魔物娘として詫びさせてくれ。すまない。」
「気にしてないよ!けどそれなら俺からもお願いします。これからもクーツィアの友達でいてやってください。日中クーツィア自身が語ったとおり、辛い目にたくさんあってきた。クーツィアにはずっと幸せでいて欲しい…それが俺の幸せなんです。」
「あぁ、約束する。…だがまぁ、ずっと言おうと思っていたがニクス…お前は本当にイイ男だな。好みの男の条件に加えてやろう!」
「好み…へっ⁉」
「あはは!♪」

 戸惑うニクスに、笑うドラゴン二人。
 そうして二人はフランネルを見送るのであった。

「…ありがとう。」

 遠くなってゆく初めての同族の友に対して、クーツィアは優しく微笑みながら夫の肩によりかかり小さく感謝を述べるのだった。

「…行ったな。」
「そうだね…♡///」

 見送って早々、ニクスの手を引き部屋に戻れば、クーツィアは浴衣を脱いで裸を晒す。
 晒された乳房の先端はビンビンに勃起しており、その表情は淫らに蕩けきってワレメから蜜を太ももを伝い漏らしていた。

「我慢してた?///」
「うん♡この旅館に着く前から♡クンクン…、あぁ…♡♡このニオイ最高♡♡」
「…夫をほったらかしにした分…、しっかり元を取らせてもらうからな…///」
「いや〜ん♡♡食べられちゃう♡♡早く食べてぇ♪♡♡」

 2人はそのまま眠ってしまうまで、新しい友達に喜びを込めてお互いの身体を重ねた。
 そうして翌朝の事。

「…ぅ…?股が…?」
「ん…♡♡おはよう、アナタ…♡♡///」

 ニクスが目を覚ませば、瞳を紫色に爛々と輝かせたクーツィアが、嗜虐的且つ淫らな笑みを浮かべて激しい騎乗位をしていた。

(あぁ…たしか今日って満月…)

 そんな事を思い出しながらニクスは一発、クーツィアに精を搾り取られるのであった。
23/07/11 22:33更新 / 矛野九字
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■作者メッセージ
えー、難産でした。

遅くなり申し訳ございません。

タグもドラゴンになっていなかったので修正。

これからも緩いペーズながらこの物語は完結させるので、待って頂けたらなぁなんて思っている所存です。

それでは次回もお楽しみに! ノシ

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