連載小説
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はじまりは些細なことから
校門前で友人たちと別れそれぞれの家に帰る高校生。

俺、木崎カイトもまた校門を出て最寄りの駅に向かって歩いていた。

「木崎、お疲れー。」
「おう、またなー。」

俺の横を颯爽とワーキャットの友人が走り去る。駅前で彼氏と待ち合わせとか言ってたな。そういえば俺も今日なんか約束があったような…。

「きーざき君」

呼ばれ振り返るとクラスメート、斎藤マキ(人間)が後ろにいた。

「今日は一人なの?」

いつも一緒に帰るメンバーがいないことを不思議がるマキ。

「なんかゲーセン行くんだってよ」
「一緒に行かないの?」
「誘われたんだけど断った」
「用事でもあるの?」

そう俺は断ったのだ。自由な時間がいつもより多い部活が早く終わる今日に限って。何か用があった気がするのだが、何もなかったような気もする。じゃあなぜ友人の誘いを断ったのか説明できない。

「うーん、気まぐれ?」

そういうことにしておこう

「ふーん、そうなんだ」

二人並んで歩く。途中、マキに誘われコンビニに寄る。何を買おうか飲料売り場前で思案しているとマキが聞いてきた。

「木崎君は好きな人っている?」
「いきなりだな。んー、いるっちゃいるが…。」
「そう、なんだ…。どんな人、もしかして付き合っている?」
正直返事に困る。というのも俺の恋人はヴァンパイアだ。別にヴァンパイアであることが問題ではない。ヴァンパイアとつきあっている高校生は全国にいる。俺は違う。彼女は社会人なのだ。俺は学生。相手が社会人ということ言えば、きっと面白半分でいろいろ聞かれる。それが嫌だから恋人がいることを俺は周りにほとんど言っていない。
黙って商品棚からコーラを取り出しレジに向かう。

「もー、答えてよ」不満顔のマキを無視して会計を済ませる。マキは吸うタイプのアイス(しかもパキっと折って2人でシェアできるタイプ)を買った。コンビニを出ると。

「はい」
「ん?」
「これ、半分こ」

マキがアイスを折って半分を俺に渡してきた。

「サンキュ」

言いつつ駐車場を横切り道に出る。その途中に彼女はいた。運転してきた車に寄りかかり、腕を組み、不機嫌な顔をして。

「こんなところで何をしている?カイト 約束を忘れたのか?」
低く冷たい声が俺の背筋を震え上がらせる。
俺たちの前まで来ると行く手を塞ぐように立つ彼女。

「リーシャっ」
彼女を見て思い出した。俺は放課後会う約束をしていたのだ。この状況はいろいろまずい。

「木崎君、この人は…。」
戸惑うマキ

「カイト、その女は誰だ」

警戒心むき出しのリーシャ

「こいつはクラスメートの斉藤マキ。帰り道が同じだからこうなったんだ。それから…ごめん。」
「本当だな」
「ああ」
「斎藤です。…えっと、木崎君 この方は?」

恐る恐るマキが尋ねる。
ばれてしまっては仕方がない。
「彼女はリーシャ、俺の恋人だ」

驚くマキ。その反応に得意顔になるリーシャ、しかしすぐいつもの顔に戻り、腕組をやめると俺の背後にまわり両脇に腕を通し抱きついた。右手は左胸、ちょうど心臓の位置、左手は下腹部ベルトの下あたり。そして俺の左肩越しにマキをにらみつけ、威嚇するように、見せ付けるように、知らしめるように宣言した。

「そう、私はカイトの恋人、そしてカイトは私のもの(恋人)だ」

あっけにとられるマキ。

「悪いが私たちは約束がある。カイト行くぞ」

呆気にとられるマキを尻目にリーシャに腕をつかまれ車に乗せられる。彼女も乗り込もうとしてやめる。再びマキのもとにいく。

「これも私のものだ」
言いつつマキの手から彼女の分の折ったアイスを奪い取った。






マキから奪ったアイスを吸いつつ運転する彼女。助手席に座る俺。

「約束忘れてた。ごめん」
学校の事情で放課後の部活がいつもより早く終わるこの日。職場を早退した彼女が学校まで迎えに来てデートの予定だったのだ。

「まったく、予定の時間になっても連絡もよこさず何かあったのかと心配して通学路を走ってみれば、何をしているんだお前は」
不機嫌さを隠さず言う。その口調はヴァンパイアらしく傲慢で上から目線の強い言い方だが、強気な言動の裏に惜しみない愛情がこめられていることを俺は知っている。だからこそこちらもきちんと誠実な態度で接しなければいけない。

「ごめん」

再び謝る。僕の不注意で彼女を傷つけてしまった。学生と社会人では生活リズムが違うためなかなか会う機会がない。だから、合える時はできるだけ長い時間一緒の時間をすごしたいのだ。
また俺はインキュバスではない、しかもインキュバスになりにくく魔物の匂いもつきにくい体質なのでほかも魔物に目をつけられやすい。
加えて俺は高校生、盛んな年頃である、学校という常に同じく盛んな年頃の異性と一緒の空間にいる。そして生活範囲が違うため彼女の管理の目が届かない。だから誘惑され襲わないか、襲われないかと心配している。誤解とはいえ今回は彼女の不安が俺のせいで的中してしまった。些細なことで信頼関係が壊れ破局することは恋愛によくある。俺は彼女の信頼に応えなければいけないのだ。

「約束を忘れることは仕方がないのかもしれない、忘れて帰宅するならまだしも女と2人仲良く帰るなんて。」
久々に会えると思いきや、約束を忘れ、あろうことか女友達と談笑しながらの帰宅しようとしていたのだ。これで怒らないわけがない

「本当にごめん。それにしてもいきなり私のものだとか言いだしてびっくりしたんだけど」
「あの女はお前に好意を持っているように見えた。だからわざと2人で分け合えるタイプのアイスを買ったのだ。」
「そうだったのか、俺には分からなかったな」
「さりげなく仕掛けるのが女というものだ。だから相手がいることをはっきりわからせる必要があったのだ。それにお前の隣はあの女ではなく私のものだ。」
「なんというか、いろいろごめん」
「ところで謝罪の言葉以外に私に何かかける言葉はないのか?」
「というと?」
「まったく、気が利かないな。彼女と2人きりのこの状況で言うことなどたくさんある。さっきの流れで言うなら今から会えなかった分楽しもうとか、その服似合っていねとか、香水変えた?髪切ったのとかあるだろう」
今の発言は本気でがっかりしている。うん、今度からそういうことが言えるようにしよう。
「せっかくこの日のために新しい服も買ったし、香水も変えたし、髪も少し切ったというのに」
ことごとく彼女の期待を裏切る俺。本当に申し訳なさすぎる。いくら謝っても済まない。どうすれば…。

「ありがとう、俺のために」
「そういう言葉を私は求めているんだ。覚えておけ」

彼女の機嫌が直ったようだ アイスを吸う俺

「許したとは一言も言っていないぞ」
思わずアイスを吹き出しそうになる。むせる俺。機嫌は直っていないようだ。

「そもそもお前は私の恋人(もの)だという自覚が足りない」

説教が再開する

「あの…リーシャさん」
「さん付けするな」
「何度もごめん」

彼女は俺に対して下手に出たり媚びるような態度を嫌う。ヴァンパイアなのに。むしろヴァンパイアだからこそだ。恋愛対象さえ見下し餌としてしか見ることができない自分を嫌っている。
告白がある、痴話げんかがある、デートがある、時にはすれ違いがある、素直に気持ちが伝えられる、相手と心を通わせられる、そんな「普通の恋愛」を彼女は望んでいる。だから今のような上下関係を前提とした態度を取ると容赦なく怒る。普通の恋愛のために俺にも対等な態度で接するように言ってくるのだ。支配と被支配の関係は恋愛関係ではないというのが彼女の持論だ。(性事情までそうなのかはわからないが)ただ口調はどうしても変わらない。内容に問題がないので俺は気にしていないが。

「あの女私のことを知らなかったようだが、カイトは私の存在を学校では言っていないのか?」
「ああ、いろいろ詮索されたくないから言ってない」
「だから自覚が足りないと言っているのだ。恋人の存在を周りに知らせておけばあんなことは起こらない」
「わかった気をつける」

何だろう怒られてばかりで車内2人だけの空間が重苦しい。居心地が悪い。運転している彼女の横顔を見る。
長くのばした髪。宝石のような真っ赤な目。時々見える八重歯。口紅をつけずともつややかな唇。


 唇


車は赤信号で止まる。その時

「リーシャ」
「なんだ」

こちらを振り向き言い終わるか終らないタイミングで彼女の唇と俺の唇が触れ合う。驚き目を見開く彼女。が俺の意図を察したのかすぐ優しい目つきになる。
ただ唇が触れあうだけのキスが今のこの空気を何とかしたいおれの精一杯だった。
たぶん30秒もない時間だった。それでもこの空気を変えるには十分だったようで

「このくらいで許されると思うな」

青信号になり前を向くリーシャ。怒っていたことを思い出したのか少し不機嫌な表情に戻り厳しい口調で言う。
その顔が赤くなっていたのはたぶん俺の見間違いではない。
14/03/03 11:08更新 / 明後日の女神
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■作者メッセージ
はじめまして明後日の女神と申します。
初投稿ということで改善点があればアドバイスよろしくお願いします。

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