連載小説
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第壱章 死神は幼子の如く愛を求める
我が肉は生者の憎悪で出来ている
我が血は死者の慟哭で出来ている

我が骨は生者の憤怒で出来ている
我が魂は死者の怨嗟で出来ている

我は死神……生を疎み、死を齎すモノ

そう、思っていた

―死神は幼子の如く、愛を求める―

「…………」
先ず、視界に入ったのは見慣れない天井。
額に何かが乗っている感覚があり、ソレが何かを確かめようと右腕を動かそうとするが、力が入らず、それどころか、引き攣るような痛みが右腕から返ってくる。
試しに他の部分を動かそうと試みるが、答えは右腕同様、痛みが返ってくるだけだ。
痛みを感じるという事は、どうやら僕は生きているらしい。
「……ふぅ」
動かない体に溜息を吐き、僕はどうしてこのような状況に置かれているかを思い出すべく、過去を振り返る。
僕の名はアルト、アルト・カエルレウス。
教団の庇護下にあるプラニスという大きな街で小さなパン屋を営み、常連客で店を何とか経営している貧乏商人だ……表向きは。
僕には裏の顔がある……ソレは、教団お抱えの暗殺者。
人として正しく生きる事を善とし、欲望のままに生きる魔物を悪とする教団、孤児の僕は其処で暗殺者として育てられた。
暗殺者としての初仕事を任されたのは九歳の時、以来僕は暗殺者として数え切れない程の命を奪ってきた。
主な暗殺対象は親魔物派領の領主や貴族、当然魔物も対象内だ。
確か、今年で一九歳の筈だから、この仕事に携わってから一〇年程になる。
「……よし」
自分の過去は思い出せた、次は何故僕は動けないのかを思い出そう。
記憶が確かなら、大体三週間前に僕はジパング地方を訪れた。
訪れた目的は当然暗殺、ジパング地方に静養に来ていた親魔物派の要人の暗殺を命じられ、観光客という触れ込みで僕はジパング地方を訪れた。
人里離れた温泉宿に暗殺対象が宿泊しているという情報を得た僕は、その温泉近くに身を潜め、機を待った。
愛用の鎌を手に、息を潜め、気配を殺し、暗殺対象が温泉に入るのを僕は只管に待った。
妻である魔物と温泉に浸かりにきた暗殺対象を確認した僕は鎌を構え、獲物に襲い掛かる獣の如く飛び出した。
ソレが誤算だと気付くのは幾多も首を刎ねてきた自慢の鎌を止められた時で、暗殺対象の妻である魔物がマンティスだったのが運の尽きだった。
伴侶を得たマンティスは伴侶と共に生きる事を選び、その鎌は伴侶を守る為に振るわれる。
マンティスの鎌に僕の自慢の鎌は受け止められ、弾かれ、返す刃で僕はマンティスの鎌で胸を袈裟懸けに斬られた。
魔物は伴侶を傷付けられる事を物凄く嫌う為、傷付けた者、傷付けようとした者を一片の情け容赦も無く殲滅しようとする。
故に、殺意に燃える瞳を見た僕は、死を齎す暗殺者である僕は初めて死の恐怖を感じた。
初めての恐怖に怯えた僕は恥も外聞も無く、温泉の近くにある夜の帳に包まれた森の中へ逃げ込んだ。
執拗に追跡するマンティス、胸から血を流しながら森の中を逃げる僕。
「……んむぅ」
然し、幾等記憶を検索しても、マンティスから逃げた後の記憶が抜け落ちている。
消え去った記憶を掘り起こすより、現状を把握する方が有意義だ。
そう思った僕は、痛みで軋む身体に鞭打って起き上がろうとして
「あっ! まだ起き上がっちゃ駄目です!」
と、やんわりと押し止められてしまった。
誰だと思って視線を動かすと,色白とは言えない程に肌の白い女性が……否、訂正しよう、「魔物」がいた。
ジパング地方固有の民族服・着物を纏う魔物は、黒味がかった青い髪が印象的だ。
然し、その着物は余す所無く塗れて、ピッタリと肌に貼り付いており、何とも煽情的だ。
横にいる女性が魔物だと判断させたのは、その足元……辛うじて原型を留めてはいるが、その足元はゼリーの如く溶けている。
「ぬれおなご」、ジパング地方固有のスライム種だ。
尤も、知識だけで実物を見るのはコレが初めてだが。
「良かった、漸く目を覚ましてくれたんですね。一週間も目を覚まさなくて、私、ずっと心配だったんです」
僕が目覚めた事を、心底嬉しそうに破顔するぬれおなご。
然し、成程……一週間も寝ていれば、身体が軋むのも納得出来る。
「あっ、申し遅れました。私、ぬれおなごの一媛(イチヒメ)と申します」
そう言って、一媛と名乗ったぬれおなごは丁寧に自己紹介する。
「ぼ、ぼぐ、ば……」
「あっ、ちょっと待っててください。今、お水を持ってきますから」
一週間も寝ていた所為か、上手く喋れない僕を見た一媛さんは奥へ駆けだしていき、奥に行ったと思ったら、直ぐに戻ってきた一媛さんの手には病人に水を飲ませる為の水差し。
「どうぞ、お水ですよ」
そう言いながら、水差しをゆっくりと零れないように僕の口元へ近付けていく一媛さん。
僕はゆっくりと味わうように水を飲み、干乾びた喉を潤わせていく。
一週間振りの水をとても美味しく感じた僕は、ゆっくりと、それでいて貪欲に水を飲む。
「ふぅ……ありがとう。僕はアルト、アルト・カエルレウス」
喉が潤った僕は礼を言うと同時に、一媛さんに自分の名を告げる。
「アルトさん、ですか。いいお名前ですね」
「一媛さん、でしたか……どうして、僕は此処に?」
「……憶えてないんですか?」
そう言いながら一媛さんは天井を見上げ、ソレに釣られて僕も視線を移すと、その先には、何枚かの板が不器用に打ちつけられた個所があった。
不器用な修理が施された部分と、僕が此処にいる理由に何の関係があるのだろうか?
「一週間前ですけど、寝ようと思ってお布団を敷いてたら天井を突き破ってアルトさんが落ちてきたんです。あの時は本当に驚きました」
その時の事を思い出したのだろう……一媛さんは呆れ半分、驚き半分の顔をしている。
が、その一言で、僕は抜け落ちていた記憶を掘り起こす事に成功した。
思い出した……「森の暗殺者」とも呼ばれるマンティスを相手に森の中を逃げ続ける事は困難であり、追い着かれた僕は逃走の為の迎撃を試みたんだ。
然し、ホームグラウンドかつ万全な状態のマンティス、片や出血で今にも倒れそうな僕、どちらが有利かは一目瞭然だろう。
鎌対鎌、暗殺者対暗殺者の対決は終始マンティスが優勢であり、死神を彷彿させる大型の鎌を使う僕は圧倒的劣勢だった。
なにせ、出血の所為で意識が朦朧とし、踏ん張る事も構える事も難しかったのだ。
当時の僕は致命傷を防ぐのに精一杯で、後退しながら戦って……そして、崖に落ちたんだ。
一媛さんの住処は落ちた崖の真下にあったのだろう、修理がされた部分は落ちてきた僕が突き破った穴を塞いだ跡という事か。
因みに後で聞いた事だが、僕が落ちてきた後、やや遅れて僕の鎌が落ちてきたそうだが、その鎌の刃は僕の首を刎ねるか刎ねないか、ギリギリな位置にあったそうだ。
全く、皮肉にも程がある……大陸では「首切り死神」と親魔物派と魔物に恐れられた僕が、自分の鎌で自分の首を刎ねかけたなんて。
僕が落ちてきた所為で突き破られた屋根を修理した後、一媛さんは寝る暇を惜しんで僕の看病をしていたそうだ。
そこまで話した一媛さんは看病疲れか、大きな欠伸をした後、糸が切れた操り人形の如く倒れて眠り込んでしまった。
一週間も寝る暇を惜しんで看病してくれた一媛さんには感謝する、が……
「……………っ!」
一応怪我人である僕を枕にするのは、勘弁して欲しかった。
一媛さんの頭は僕の股間の位置にあって、倒れた時に彼女の頭が僕の股間をしこたま打ち、安らかな寝息をたてる彼女を起こさないように、僕は静かに痛みに悶えた。
× × ×
その翌日、頻りに頭を下げる一媛さんを宥め、僕は軋む身体に鞭打って起きる。
今、気付いたのだが、僕はジパング地方で有名な剣客創作小説―確か、「流浪人 刀心」と言ったか―の主人公の宿敵である全身に包帯を巻いた剣客のような姿だった。
全身に巻かれた包帯以外は下着一枚だけで、正直言って暑い。
一媛さん曰く、
『落ちてきた時、全身に沢山の斬られた痕があって……あぁ、私に医術の心得があれば、ちゃんと包帯を巻けたのに』
との事。
大量の斬られた痕……ソレは恐らくあのマンティスから受けた傷だろうが、本来、魔物は人間を傷付ける事を本能的に避ける傾向があるのだが?
「……あ、そうだった。一週間も寝込んでいたから、鈍ってなければいいけど」
ある事に思い至った僕は若干の不安を感じながら、体内の魔力を一定の法則を以て肉体に循環させる。
「『擬態(メッフォ)』」
体内で循環させた魔力は体外へ放出され、放出された魔力は次第に僕の身体を包み込み、ある変化を齎した。
「あ、あれ? あれれ? アルトさん、妖怪さんだったんですか?」
一媛さんが首を傾げるのも無理はないか、何故なら今の僕は「魔物」なのだから。
正確に言えば、擬態……弱い生物が強い他の生物の姿を真似るように、僕は魔法によって魔物に擬態する事が出来る。
自画自賛だが、僕の擬態はほぼ完璧であり、リリムやバフォメットといった魔法に長けた最上位級の魔物でなければ、先ず見破られる事は無い。
尤も、僕が擬態出来るのはサキュバスの亜種族・アリスだけで、アリスは突然変異でしか生まれない稀少種族の為、非常に露見し易いという欠点があるのだが。
余談だが、暗殺対象に近付く為に擬態したら、
「幼女可愛い、幼女可愛いよ、ハァハァ」
と、社会的に駄目な性癖の男性―稀に女性も混じっていたが―に性的に襲われかけた事は数え切れない程あったりする。
魔物が男性を襲う理由は伴侶、若しくは餌となる精を得る事。
推測に過ぎないが、あのマンティスは伴侶を奪われるとでも思ったのだろう、故に伴侶を奪わせんと苛烈な攻撃をしてきたのだ……女の嫉妬は恐ろしいという事をあの時体感した。
因みに、擬態の際には僕は魔力で服を再構築する事が可能で、全身に巻かれていた包帯は魔力に分解して仕事着に再構築させた。
「鏡、鏡っ、と……腕は鈍ってないな」
一媛さんもやはり魔物だからか、身嗜みを整える為の鏡はあるらしく、僕は鏡を見る。
アリスは如何にも幼女が着るような少女趣味全開の服を着ているが、鏡に映るアリスは、アリスの持つ魅力とは無縁な服を着ている。
所々に十字架を提げて裾がボロボロに摺り切れた蒼い長外套、空色を其調とした縞模様のベスト、所々に色褪せた部分のある紺色のズボン。
全身青系統の色で統一された服を纏うアリスが擬態した僕の姿であり、純粋な愛らしさが売りであるアリスの魅力を一切感じさせない。
まぁ、九割強が「変わった服を着たアリス」で納得し、魔物が人間を殺す筈が無いという先入観のお陰で、僕は幾度も暗殺に成功しているのだが。
「え、えぇっと……アルトさん、ですよね?」
「そうだよ、こんな姿だけど僕はアルトだ」
今の僕がアルトなのかを聞いてきた一媛さんに、纏う服はそのままに擬態を解いた僕は、今の姿を説明する。
勿論、どうして屋根を突き破って落ちてきたのかを含めて、だ。
僕が暗殺者である事を知った一媛さんは、怯えた表情を見せるが、何故か直ぐに表情から僕に対する怯えは消えた。
「どうして、怖がらない?」
怯えの消えた一媛さんに、僕は当然の問いをぶつける……僕は魔物を殺す暗殺者なのに、何故僕の事を怖がらない、と。
その問いに対する一媛さんの答えは、僕に衝撃を与えるには充分過ぎた。
「確かに、殺し屋さんというのは怖いです……ですけど、アルトさんはアルトさん。私が惚れちゃったアルトさんですから、怖くないです!」
「…………………………は?」
惚れた? 誰が? 誰に?
一媛さんが? 僕に? 惚れた?
あまりの衝撃発言に思考が凍結する僕に対して、一媛さんは言ってしまったという感じで頬を紅くし、両手で押さえながら悶えている。
「な、何故……?」
凍結した思考で漸く捻り出した僕の声はあまりの衝撃で震えており、何故かマンティスに追われていた時以上の悪寒が身体中を駆け巡る。
「え、えっと、ですね……アルトさんは、私の旦那様の理想像とピッタリでして。あの時アルトさんが落ちてきて、そのアルトさんが理想像とピッタリで二回も驚きました」
頬を紅くしつつモジモジと悶えながら、一媛さんは僕への好意を告げるが、彼女の告白は僕の耳には入ってこない。
何故僕が、何故僕が、何故僕が、何故、何故、何故何故何故、何故なんだ!

何故、僕を愛しいと言う!

「『召喚(アルギズ)』!」
「ふえ? きゃ、きゃぁっ!」
一媛さんの告白に思考が凍結から一気に過剰放熱した僕は、自慢の相棒である鎌を召喚、腕は鈍ってないなと意識の片隅で思考しながら、僕は目前の魔物に鎌を振り下ろす。
突然の殺気を感じ取った一媛さんは、僕の凶行に驚きながらも、スライム種とは思えない敏捷さで振り下ろされた鎌を避ける。
僕は避けられた事を意識から追い出し、更に連撃を一媛さんへと繰り出す。
左薙ぎ、右薙ぎ、斬り上げ、斬り下ろし、逆袈裟。
振り回される鎌で住処の家具は無惨に斬り裂かれ、思考の過剰放熱で狂戦士と化した僕の攻撃を一媛さんは紙一重で避けていく。
「い、いきなり、どうしたんですか、アルトさひゃぁっ!」
「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 僕は、僕は、僕は僕は僕は僕はっ!」
僕は咆吼する。

「僕は愛さない、愛されない、死神なんだ!」
× × ×
一つ、昔噺をしようか。
いやいや、構えなくていい……そこまで長くもないし、それ程昔じゃない。
この昔噺の主人公は一人の少年、物心つく前に人間同士の争いで両親を失った孤児さ。
その少年、何が起きたのかも分からず、戦場でぼぉっと案山子みたいに突っ立ってた。
争いが終わった後、偶然通りかかった教団の老騎士に拾われて、少年は老騎士の所属する教団が守る街に連れていかれたのさ。
その老騎士ってのが、ねぇ……教団内での立場は熟練中の熟練の騎士だが、裏じゃ魔物と仲良くしましょうとほざくお偉いさんや魔物を人間流に暗殺する殺し屋だったのさ。
老い先短い身だと自覚してた老騎士は、拾った少年を後継ぎにしようと自分の持つ技術を徹底的に叩き込んだよ。
そりゃぁもう、見てるコッチが止めてやれよと言いたくなる位にな。
ありゃ鬼だ、人間の皮を被った鬼だね。
人間と魔物の肉体構造、武器や魔法の扱い方、暗殺者としての心構え、その他諸々。
徹底的に老騎士の技術を叩き込まれる少年にとっちゃ、毎日が地獄さ。
んで、少年は思ったよ……あぁ、自分は愛されてないんだ、誰も愛してくれないってな。
そんな地獄のような毎日の中での少年、唯一の心の安らぎは一体の魔物との交流さ。
あ、何で魔物を嫌ってる教団が守る街の近くに魔物がいんのかって?
そりゃ、アレだ……あまりに弱っちいんで、流石の教団も無視してたんだとよ。
種族はゴブリン、名前はタルト、ひでぇ方向音痴で仲間からはぐれた、はぐれゴブリンさ。
少年にとっちゃぁ、タルトは姉貴分で大事な友達、地獄じみた訓練の疲れを癒してくれる唯一の存在だったね。
朝昼晩ぶっ通しの訓練の合間にタルトに甘えて、タルトを心の支えに地獄の訓練頑張って、少年は砂が水を吸い込むみてぇに老騎士の暗殺技術を学んでいった。
そんで、やってきました初仕事、その内容はある一体の魔物の暗殺。
初仕事で緊張するだろう、と老騎士は緊張を解す薬と言って少年に飲ませたんだが、そりゃ大間違い、実は一時的にあらゆる感情を消す薬だったのさ。
薬を飲んで初仕事に挑んだ少年、見事に初仕事は大成功。
薬の切れた少年が見たのは何だと思う? ま、オチは分かるだろ?
そうさ、デュラハン宜しく首と胴体がサヨナラしたタルトなんだよ。
恩を仇で返す、ならぬ愛を刃で返す。
勿論少年は泣いたよ、ワンワン泣いた、涙が出なくなっても泣き続けたさ。
んで、少年は思ったよ……あぁ、自分は愛せないんだ、誰も愛せないんだってな。
誰からも愛されない、誰も愛せない、長い長ぁい一人ぼっちの始まりさ。
初仕事を見届けた老騎士は寿命でくたばって、教団は老騎士の後継ぎとして少年に暗殺の仕事をどんどん回す。
一人ぼっちの寂しさ胸に隠し、鎌を振っては首が一つ、二つと転がって。
どんどん首が転がる度に、少年はどんどん一人ぼっち。
察しのいい諸君なら……この少年が誰なのかは、もう分かるだろう?
そうさ、一媛ちゃんに告白されて暴れてるアルト君さ。
さぁて、昔噺は此処で終わりだ……孤独な死神と、その死神に一目惚れした魔物。
どんな物語を紡ぐのかが楽しみだね、クックックッ……
× × ×
妖怪は総じて人間より身体能力が高い、と昔偉い学者様が言っていましたが、運動音痴な私にそんな自覚はありませんでした。
なので、現役の殺し屋さんであるアルトさんの鎌を紙一重で避けている私に、内心驚きを隠せませんでした。
「僕は愛さない、愛されない、死神なんだ!」
アルトさんは、哀しそうに叫びました。
愛さない、愛されない、と。
どうして、そんな哀しい事をいうのですか。
「落ち着いてください、アルトさん!」
そう叫びながら、私は振り回される鎌を掻い潜って、アルトさんに抱きつこうとします。
私は土壇場で自覚した、妖怪の高い身体能力を今は有難く思います。
横薙ぎに振るわれる鎌を紙一重で避けた私は、そのままアルトさんに抱きつきました。
「離せ、離せ、離せぇっ!」
「離しません!」
私を振り解こうとアルトさんは暴れますが、私も譲らずギュッと抱きしめます。
アルトさんの体は男の人にしては小さくて、細くて、まるで女の子のようで。
それでも、私を振り解こうとする力はとても強くて。
「離せ、離して、離してよぉっ!」
「嫌です、離しません!」
私を振り解こうと、より一層力を籠めるアルトさんですが、私には私を振り解こうとするアルトさんが寂しさで駄々をこねる子供に見えました。
「落ち着いてください、アルトさん! 貴方がどうして暴れるのかを、私は知りません!」
「離してよ、離してよ、僕を離してよぉっ!」
「だけど、自分は愛されないなんて言わないでください! だって!」

アルトさんを愛する私が此処にいますから

私の必死な言葉がアルトさんに届いたのでしょうか、急に私を振り解こうとする力が抜け、アルトさんの手から鎌が抜け落ちました。
「な、んで? 何で? 何で僕を、愛するの?」
「好きな人を愛するのに、理由なんて無いんです。好きだから愛するんです」
「うあ、うあぁ、うあぁぁあああぁぁあぁぁああぁぁあぁぁぁああぁぁあぁっ!」
私の言葉を聞いたアルトさんは子供のように胸の中で堰を切ったように泣き始め、そんなアルトさんの背中を私は優しく撫でて……
傍から見れば、泣きじゃくる弟をあやす姉に見えるかもしれません。
それでも、私はアルトさんが泣き止むまでずっと、小さな背中を優しく撫でていました。

「すみません、一媛さん……取り乱した挙句、見苦しい物を見せてしまって」
「いえ、お気になさらず」
一体、どれ程の時間アルトさんは泣いていたのでしょう……漸く泣き止んだアルトさんは、目元を真っ赤に腫らして、私に謝りました。
そして、アルトさんは自分の過去をポツポツと話し始めました。
後にお師匠様となるお武家様に拾われた事、一日中死ぬ程辛い鍛練を強いられてきた事、姉代わりの妖怪さんとの触れ合いが唯一の安らぎだった事。
そして、その妖怪さんを自分の手で殺してしまった事。
余程思い出したくないのでしょうか、感情の消えた、淡々とした口調で話すアルトさんの過去を私は静かに聞いていました。
「だから、僕は愛されない、愛せない。誰かに愛して欲しくても、僕を愛してくれる人はいない。誰かを愛したくても、暗殺者の僕には愛せない」
「……大丈夫ですよ」
まるで感情の無い人形のような顔になったアルトさんの手を、私の気持ちがアルトさんに伝わるように私は優しく握りました。
アルトさんの手は体温の低い私でも冷たく感じる程に冷えていましたけれど、ゆっくりと温もりを取り戻していって。
「誰かが愛さなくても、私はアルトさんを愛します……死が、二人を別つ時まで、ずっと」
「……一媛さん。ソレ、意味を分かって言ってますか?」
「ほぇ?」
私、変な事を言いました?
何だか、アルトさんの顔が灯りの無い部屋でも分かる位に、凄く紅くなっていて……
「僕の住む大陸の方では、ソレ……結婚式の時に神父が言う、宣誓ですよ。一媛さんにも分かり易く言えば、永遠の愛を神に誓う言葉です」
「……………………えぇっ!」
そ、そうだったんですか!
だから、アルトさんの顔が凄く紅くなっていて……は、ははは、恥ずかしい。
「無知は最も深き罪である、と偉人が言いましたけど……知らなかったとはいえ、そんな恥ずかしい言葉を臆面も無く言わないでください」
「す、すいません……でもでも、私の気持ちは本当ですよ!」
そう、私の、アルトさんが大好きだという気持ちは本当で、こうして話しているだけでも、アルトさんへの愛しさは募っていくばかりです。
「分かっています」
「え?」
「一媛さん、貴方が僕を本気で愛してくれている事を……だから」
そう言いながら、アルトさんの顔がどんどん私に近付いてきて……
「僕は一媛さんの愛に、僕なりに答えたいと思います」
そして、アルトさんの唇が私の唇に触れたのは、その直後でした。
× × ×
「んむぅ!?」
一媛さんの愛に答えようと、僕は彼女の唇を奪う。
「ん、んふ……ふぁ…ちゅずっ」
不意打ち気味なキスに驚く一媛さんだが、魔物の本能の成せる業か……直ぐに順応して、僕の舌を自分の舌と絡めてくる。
僕と一媛さんの舌が、互いの口腔内で踊る、踊る、踊る。
僕は一媛さんの舌を吸い、舌を放せば返礼と言わんばかりに一媛さんが僕の舌を吸う。
一媛さんは僕の舌を舐めつつも甘く感じる唾液を流し込み、その返礼で僕も自分の唾液を彼女の口腔へと送り込みがら彼女の舌を舐める。
じゃれ合うように舌を絡めあっていた僕達だが、多少の息苦しさを感じて唇を離す。
名残惜しむように鈍色の橋が僕達の唇を繋ぎ、再び僕達は唇を重ねる。
「あむ、れるる…ちゅず、ちゅる……んふ、んむっ…んく、っ、んちゅ……っ、んっ」
今度は激しく、荒々しく、息苦しさも忘れて情熱的に舌を絡めあう。
その動きに連動して、一媛さんの豊かな胸が僕の胸板を擦り、互いの胸から伝わる刺激が僕達のキスをより情熱的にしていく。
一体、どれ程の時間をキスに費やしていたのだろうか、流石に息苦しくなった僕達は唇を離すと、月明かりに晒された一媛さんの口周りが僕の唾液で艶かしく輝いている。
尤も、一媛さんから見れば、僕の口周りも同じ状態なのだろうが。
「んぁ…ア、ルト、さん……」
キスの余韻から抜けきっていないのか、一媛さんの顔は快感で蕩けており、頬は真っ赤に染まっている。
僕が視線を下へと移すと、其処にはズボンの中で激しく自己主張する逸物と、洪水の如く蜜が溢れた一媛さんの秘所。
どうやら、キスだけで準備が万端に整ったようだ。
僕はズボンの前を開けて逸物を外へ晒し、一媛さんの着物―正確に言えば、彼女の身体の一部だが―を捲り、秘所の入口に逸物を宛がう。
僕の逸物を見た一媛さんは、驚愕と期待の混ざった目で逸物を凝視する。
それも当然か、僕の逸物は小柄な体格の僕に見合わぬ大きさで、人間の女性では破瓜とは違う痛みで泣きそうであり、弾倉も目に見えて大きいのだから。
大砲の如き逸物を凝視する一媛さんに、僕は女性の扱いが不器用だと告げると、
「ど、うぞ……アルトさんの、お好きな、ように」
快感で蕩けきった笑顔で誘う一媛さんに、僕の理性の箍が決壊した。
―ズニュゥッ
「ひぁぁっ!」
一媛さんを押し倒し、滾った逸物を彼女の秘所へ一気に侵入させ、沸騰する欲望のままに彼女の秘所を荒々しく突いていく。
引き抜けば、逃さぬように締めつけ、蜜が秘所から流れ出る。
押し入れば、迎えるように包み込み、蜜が秘所から溢れ出る。
大砲の如き僕の逸物を一媛さんの秘所は受け入れ、往復する度に脳が溶けてしまいそうな快感が津波の如く僕達を襲う。
「だ、めっ! は、げし、いっ! わた、し、溶けちゃい、ますぅっ!」
一媛さんの艶声が僕の耳を犯し、その声を聞いた僕は更に激しく逸物で彼女の秘所を突く。
もう、僕には加減が出来ない……我武者羅に、一媛さんの秘所を壊さんばかりに腰を振り、貪るように一媛さんの唇を奪い、荒々しく舌を絡めていく。
「んむ、んちゅ、ちゅる…れる、ちゅず……んぶ、くふ」
豹変した僕に驚きながらも、一媛さんは快感と愛情が混ざり合い、僕の野獣じみたキスに蕩けきった顔で答える。
肌同士がぶつかり合う音、淫らな水音、僕達の息遣いだけが、一媛さんの住処に響き渡り、只でさえ激しい行為が、快楽の三重奏で更に激しさを増していく。
そして、激し過ぎる快感を与えられた僕の逸物がブルリと震え、限界が近い事を告げる。
逸物を突き入れられる一媛さんもソレを感じたのだろう、キスで口が塞がっている彼女の快感で蕩けた目が僕に訴える。
―私の中に出して
只でさえ決壊していた僕の理性が一媛さんの目を見た瞬間に木端微塵に弾け、同時に僕は限界を迎えた。
「………………っ!」
逸物から放たれる熱い精液が秘所の最奥、子を宿す聖なる宮に叩き付けられていく。
最奥に叩きつけられる快感に一媛さんは絶頂を迎え、キスで塞がっている彼女の口からは声にならない恍惚の叫びが漏れる。
溢れんばかりに一媛さんの中へ精液を注ぎ込んだ僕だがあまり疲労は無く、彼女の秘所に突き入れている逸物は未だに滾っている。
「ふぁぁ……凄いです、まだ、大きい……」
唇を離し、まだやれるのかと聞くと、一媛さんは艶のある笑顔で答える。
その笑顔はまだ大丈夫だと言っているようで、その笑顔に僕は再び腰を動かす事で答える。
「やぁん❤」
僕達の夜は、まだ終わりそうにない。

「ケダモノ」
野獣じみた行為が終わった後、一媛さんは快感の余韻で顔を真っ赤にしながら、ジト目で僕を睨む。
なにせ……僕は自己最高記録、実に一〇回も一媛さんの中へと出した上に、彼女の身体が壊れるのでは危惧する程に激しく責めたのだ。
「ケダモノ、ケダモノ、アルトさんはケダモノです!」
僕は萎えた逸物を晒しながら、正座で一媛さんの羞恥混じりの罵声を浴びる事になった。
× × ×
「すぅ……すぅ……」
説教が終わった後、一媛さんは激し過ぎる行為の疲れで今は可愛らしい寝息をたてながら、夢の国へと旅立っている。
僕は身嗜みを整え、一媛さんに布団を掛けて彼女の住処を出る。
名残惜しさで振り返ると、視界には古びた小屋……恐らく、以前猟師が使っていた小屋を再利用したのだと僕は推測するが、何時までも見ている訳にもいかない。
僕には、やるべき事が出来たのだから。
「『空走(スウォック)』」
足に魔力を漲らせ、僕は地面を走るかの如く、明るくなり始めた空を走る。
一週間の休養と一媛さんとの性行為により充分過ぎる程に蓄えられた魔力なら、無補給でジパングから大陸のプラニスまで空を走れるだろう。
高々度の空を疾駆する僕は豆粒のように小さくなった一媛さんの住処を一度だけ見下ろし、届く筈が無いと理解しながらも呟いた。
「……さよなら、一媛さん」

「……あ、れ?」
アルトさんとの激し過ぎる交わりで疲れて、何時の間にか眠っていた私が目を覚ますと、其処には誰もいませんでした。
嫌な予感がした私は掛けられていたお布団を跳ね除け、住処にしている猟師様の小屋から飛び出しました。
私の目に入るのは昇り始めたお日様、耳に入るのは川のせせらぎと鳥さん達の囀り、鼻に届くのは森の香りと愛しい人の残り香。
アルトさんの残り香を感じた私は一気に力が抜けて、その場に座り込んでしまいました。
「どうして? どうして!? どうして、私を置いていくんですか! やっと、やっと、大好きな旦那様と会えたのにぃ! うわぁぁああぁあぁぁああぁぁぁあぁっ!」
アルトさんがいない事に耐えきれなくなった私は、森中に響き渡りそうな程に大きな声で泣きました。
ずっと、ずっと、お日様が沈む時まで私は泣き続けました。
× × ×
「任務開始から既に一ヶ月、『狗』はまだ帰還しないのか?」
「所詮『狗』も人間、返り討ちに遭ったのかもしれません」
「むぅ……困ったな、『狗』にしか出来ない任務が溜まっている。新しく育てるにしても、『狗』に並ぶ暗殺者にまでするには時間が掛かる」
ジパングから離れた大陸……反魔物領・プラニスを守る教団の幹部は、何時まで経っても帰還しない『狗』に焦りと苛立ちをぶつけていた。
『狗』は嘗て教団に所属していた暗殺者エルヴァン・シェルゼヴェリィ唯一の弟子であり、彼の持つ技術を全て受け継いだ『狗』は、この教団にとって重要な戦力だった。
その重要戦力の未帰還、『狗』にしか出来ない任務が山のように溜まっているのだ。
プラニスを守護する教団の基地、最上階にある幹部用会議室が重苦しい沈黙で覆われた時、不意に扉が開かれる。
開かれた扉に幹部達が視線を移すと其処には変わった服を纏う一体の魔物、魔物の登場に警戒する幹部達だが、その警戒も一瞬で解かれる。
「『狗』か、驚かせるな……」
「驚かせて申し訳ありません、只今帰還しました」
「帰還早々に済まんが、報告……」
「報告も大事ですが、実は皆さんに『お土産』があります」
「お土産」……『狗』の言葉に幹部達が首を傾げていると、『狗』は唐突に指を鳴らす。
『狗』が指を鳴らした瞬間、全ての窓が甲高い音と共に割れ、割れた窓から無数の魔物が雪崩れ込んでくる。
「なっ……!?」
「これが『お土産』です……お気に召さないでしょうが、どうぞ充分に堪能してください」
「き、貴様ぁぁぁああぁぁっ!」
幹部の怒声が会議室に轟くと同時に、階下から微かだが艶かしい艶声の合唱が幹部達の耳に入ってくる。
「う、裏切ったなぁっ! アァァルゥトォォォ、アルト・カエルレウスゥゥゥゥゥゥッ!」
新魔王歴二二七年 籠手月(七月)ノ二七日、反魔物領・プラニスは裏切り者の手引きで侵入した魔物達により、僅か一週間で制圧。
制圧後、近隣の親魔物領に吸収・合併され、地図上から消滅した。
× × ×
「はぁ……」
アルトさんが突然いなくなってから、もう半年が経ちました。
この半年間、私はずっと溜息を吐いてばかりの毎日を過ごしています。
住処の周りは昨日の朝から降り続けた雪で、すっかり冬一色、真っ白に覆われました。
雪は今日の昼頃に止みましたが、やっぱり夜は寒くて、温もりが恋しいです。
「そう言えば……アルトさんが落ちてきた日も、こんな綺麗なお月様が出てましたねぇ」
夜空を見上げると、真っ白に覆われた森を照らす真ん丸なお月様。
半年前の出来事なのに、私には何十年も昔に思えます。
「アルト、さん……」
私の愛する旦那様……アルトさんの事をを想うだけで、私の胸は寂しさで締めつけられ、私の秘所は愛しさで疼きます。
どうして、突然いなくなってしまったのでしょう?
どうして、私を置いていったのでしょう?
「はぁ……考えても、寂しいだけです。もう寝ましょうか」
あぁ、今夜も寂しさと愛しさで枕を濡らして、私は眠るのでしょう。
そう思いながら、私は住処にしている小屋へと戻り、押し入れからお布団を出して……
その時でした。
―バキャァッ!
「ひぁっ!」
突然、屋根が突き破って何かが落ちてきて、私は驚いて腰を抜かしてしまいました。
舞い上がる雪と木片の中に人影が見え、一体誰なのかと私は思いましたが、私の鼻に届く懐かしい香りが、突き破って落ちてきた人影の正体を教えてくれました。
「アルト、さん?」
私の愛しい旦那様の名前を呼ぶと、雪と木片で出来た煙の中から現れたのは
「…………」
気まずさと恥ずかしさの混ざった顔ではにかむ、アルトさんでした。
その姿を見た私の胸は嬉しさで溢れ、お布団を敷こうとしていた事も忘れてアルトさんに飛びついて、その勢いのままに抱きつきました。
抱きついてきた私を小柄な身体で受け止めたアルトさんは、私の耳元へと顔を近付けて、小さくても、シッカリと聞こえる声で囁きました。
「ただいま、一媛さん」

「……という事があって、漸く、一媛さんの元に帰ってこれました」
「そう、だったんですか」
いなくなってから帰ってくるまでの半年間、何をしていたのかを尋ねた私にアルトさんはゆっくりと話してくれました。
私と一緒に暮らす為には、私達妖怪さん―アルトさんの住む場所では、妖怪さんを魔物と呼んでいるそうです―を嫌う教団という人達から離れなければならなくて。
その人達から離れる為に、妖怪さんと仲良しの街と話し合って、アルトさんの住んでいた街をアルトさんの手引きで攻め込んでもらって。
妖怪さんを嫌う街から、妖怪さんと仲良しの街に作り替えてもらって。
争いのお膳立てをしたアルトさんは、争いの後始末を手伝っていて、それが終わったのが一週間前の事で。
私の知らない間に色々な事があって驚きましたけど、その全部が私とアルトさんが一緒に暮らせるようにする為である事が一番の驚きでした。
「漸く、一緒に暮らす事が出来ます。半年も待たせてしまって、申し訳ありません」
「何をしていたのかは分かりましたけど、どうして」
突然いなくなったのですかと尋ねようとしたら、アルトさんは私の唇に人差し指を当てて。
「分かっています……どうして突然いなくなったのか、ですよね? 答えは、一媛さんを巻き込みたくなかったからです」
「え?」
「今回の裏切り、下手をすれば一媛さんを危険な目に遭わせてしまう可能性がありました。教団は魔物に籠絡された組織の人間に対して、非道な行為を躊躇無しに断行します」
アルトさんの話では、尋問という名目の拷問、心を壊してしまう程に強力な自白剤等々、教団の人達は仲間を籠絡させた魔物を意地でも聞き出そうとするそうです。
それはアルトさんがお膳立てした争いが失敗して、もしアルトさんが捕まってしまったら、教団の人達は私の事を知る為、アルトさんに酷い事をするという事。
「教団が魔物を嫌っているのは、先程話しましたね。下手をすれば、魔物と仲良くすればこうなるぞ、という見せしめで、僕と一緒に一媛さんが殺されてしまう可能性があった」
「だから……私を、守る為に?」
私の言葉に、アルトさんは重い顔で頷きました。
「突然いなくなった事は謝罪します。ですけど、いなくなったのは……んむっ」
何か言おうとしたアルトさんの口を私は自分の唇を重ねて塞いで、私は今までの寂しさをぶつけるように舌を絡ませました。
あぁ、懐かしい……蕩けてしまいそうな程に甘い、大好きなアルトさんとのキス。
息苦しさも忘れて、夢中でキスする私とアルトさん。
どれ位、キスをしていたのでしょう……満足した私は唇を離し、アルトさんに言いました。
「私を守ろうとして、いなくなったのは分かりましたけど……」
「けど?」
「私達はこ、ここ、恋人同士ですから……どんなに辛い目があっても、私はアルトさんと一緒にいたいんです」
私の言葉にアルトさんは驚きましたが、直ぐに優しい顔で微笑んでくれました。
「申し訳ありませんでした、相談も無しにいなくなってしまって。ですけど、これからは、ずっと、貴方と一緒に、生きていきます」
一言一言、噛み締めるように、アルトさんは私と一緒にいたいと言いました。
だから、私もずっと言いたかった言葉をアルトさんに言いました。
「はい……私も、アルトさんと一緒に、ずっと、生きていきます」
そして、図った訳でもなく、私達は声を揃えて  

死が二人を別つ時まで、永遠に貴方を愛します

× × ×
さぁさぁ、どうでしたかな?
孤独な死神と、その死神に一目惚れした魔物の物語は?
折角なんで、二人のその後を教えてあげようじゃないか。
アルト君と一媛ちゃん、半年も逢えなかったから溜まってたのか、ウッフン、アッハン、ズッコンバッコンとハッスルしまくり。
近くの魔物達も惚気に中てられちまって、旦那がいる娘は旦那とハッスル、一人身の娘は未来の旦那を夢見て自分を慰めてたね。
いやぁ、羨ましいね、全く。
んで、アルト君と一媛ちゃんは山の麓にある温泉街へ降りて、二人で土産屋を始めたのさ。
最初は経営難できつかったが、元々アルト君は表稼業でパン屋をやってたからね。
アルト君特製のパンを売り始めたらソレが大当たり、どんどん売り上げも伸びてきたよ。
今じゃ、地元じゃ有名な土産屋さん、大陸の方からもお客がやってくる程さね。
お二人さん、金だけじゃなくて子供にも恵まれてね……アルト君と一媛ちゃん、今じゃスンゴい大家族、いや、超家族?
二七人の娘さんに囲まれながら、幸せに暮らしてるってよ。
ま、こんな所かな?
それじゃ、次のお話を用意しておくから、それまで諸君は楽しみにしてくれたまへ。
それでは、サラダバー!
我ながら、ネタが古いね……
12/08/29 16:10更新 / 斬魔大聖
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■作者メッセージ
東方魔恋譚、第一話はぬれおなご。
お気に召してもらえたでしょうか?
次は大百足とウシオニの予定です。
遅筆で拙いとは思いますが、宜しく御願いします。

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