読切小説
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いつもこの時期になるとあの日のことを、お前のことを思い出す。
お前があんなにも早く死ぬなんて、私には信じられなかった。信じたくなかった。
こんなにも老いさらばえた今でも、嘘であればどれだけ良かったかと思わずにいられない。

年に一度だけこの墓地を訪れ、墓参りをする。
これまで、どれほど多忙だったとしても、これを欠かしたことはない。
お前に会える唯一の日なのだから。

墓参りが終わっても、日が暮れるまでお前に話をする。
私にとっての人生の楽しみはそれしかない。
我ながら、なんと陰鬱な人間だと思わずにはいられない。

帰ってきて、風呂に入って、飯を食い、寝る。
普段ならそれで、また新しい朝が始まる。そのはずだった。

その日は夢を見た。夢の中の私は若かった。
その夢にはお前もいた。あの頃のお前がいた。
夢の中の私たちは交接に耽っていた。
淫夢というものを、この歳になっても見るとは思わなかった。
あの時代にしては豊満だったお前の乳房を弄びながら、私は些かの焦りを含みながらも余裕の面持ちで挿入を繰り返す。
その度にお前は私に嬉しい反応を返してくれる。
しかし、どうも解せない。あの頃のお前は、こんなにもいやらしく大声で喘ぐ女だったろうか。
まあ、これは夢なのだ。そんなことは些細なことだ。今は久方ぶりの邂逅を楽しむとしよう。
そんなことを考えている間も、動きを止めることはない。むしろ、それは激しさを増す一方だ。
私もお前も、限界が近い。ああ。限界だ。


そこで目が覚めた。
股間に久しくなかった感覚があった。下着は白濁した液で湿っていた。

それからというもの、私は少しおかしくなってしまったのか。
思春期の子らがするような想像が、四六時中頭を駆け巡る。
それは夜も、淫夢となって現れる。
日に日に、それは淫猥になっていく。
お前の艶かしい肢体の全てが私に心地良い快楽を与えてくれる。
お前だとは信じがたいような所作を以て。
たとえ夢でも、淫夢だとしても、お前に会えるのならこれ以上の幸福はない。
今日もまた溺れていく。

そうして幾度の朝を迎えただろうか。
ふと、懐かしい感じがした。この感じを私は知っている。知らないはずがない。
いてもたってもいられずに、私はその感じのする場所へと急ぐ。
いつもであれば人気もなくがらんとしている居間に一人の女がいた。
美しく煌く長くて艶やかな黒髪。凛として、整った顔立ち。
あの頃から、私にはもったいないと思っていたお前が、変わらずそこにいた。
肌が青白いこと。そして、浮遊していることを除けばだが。

「久しぶりだな」
「ええ、そうですね」
「その様子を見るに、化けて出てきたのか」
「そう思っていただければ、差し支えないかと」
「ということは、私にも遂にお迎えが来たのかな」
「いいえ、それは違いますよ」

言いながら、お前は私に近づいてくる。無い足取りは軽そうに見える。
数秒も経たぬ内に完全に密着し、お前は私の首に腕を絡ませ口づけをする。

「こんなにも老いてしまった私でもいいのか」
「私はあなた様でさえあれば、他には何もいらぬのですよ」
「それは、光栄なことだな」

言って二人の影は倒れた。


――――

その後、彼らがどうなったかを知る者はいない。
12/11/18 04:10更新 / 山風

■作者メッセージ
まあ、幽霊って良いよねってだけ

例によって、何かあれば指摘してくれれば有難い

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