読切小説
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小さな蛇と大きな幸せ
「ねぇ、おとーさん」
部屋の向こうから我が愛娘、ニカがずりずりと這ってきた。
「ん?何だい?」
「んーっとね、えーっとね…ご本、読んで?」
成程、ニカの両手には数冊の絵本が抱えられている。
「ああ、いいよ」
「わぁい!」
ニカは嬉しそうにどの本を読んでもらうか選んでいる。
普通、本を読んであげるだけではこうも喜ばないだろう。
だが、俺は仕事で世界各地を毎日の様に渡り歩いている。
妻もモデルとして働いているので、中々ニカの世話をしてやれない。
保育園に預けて友達が沢山出来たと言っていたが、それでも家族の代わりにはなれない。
「…お父さん?どうしたの?」
「ああ、すまない…この本がいいのかい?」
「うん!」
「分かった。じゃあ、読むよ?」
取り敢えずこの事は後で考えるとして、今は本を読んでやろう。



        *        *        *


「…こうして王子様とお姫様は結ばれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ…めでたし、めでたし」
「……私も…いつか王子様と…」
ニカを見ると、髪の蛇達と一緒に幸せそうに目を閉じてうっとりしている。
可愛い。物凄く。
うっとりしたニカを見ていると、不意にニカが悲しそうな表情になった。
「…どうした?」
「ねぇ、お父さん…次はいつ帰ってこれるの?」
「…そうだな。今度はちょっと遠くまで行くから…二、三週間ぐらいかな」
「そう…」
「ニカ、ごめんな。」
「ううん。いいの。それがお父さんの仕事なんだもん…」
「…そうだ、ニカ。いつもいい子で待ってくれてるから、ほら、お土産だ」
そう言って俺はポケットから細かく装飾された見事な髪飾りを取り出し、ニカに付けてあげた。
「うん。ニカに似合ってる。凄く可愛いよ」
頭を撫でてあげると、髪の蛇達が気持ち良さそうに鳴いた。
「これ、ずっと大切にするね!」
余程気にいってくれたのか、ニカは鏡を見ながらくるくると回ったりしている。
「お父さん!」
「何だい?」
「…大好き!」
「俺もだ…ニカ」
「なぁに?」
「お前は今…幸せか?」
「うん!とっても!…お父さんは?」
「ああ。俺も今、とっても幸せだ」
10/08/21 16:34更新 / 手袋

■作者メッセージ
男×魔物(妻)は沢山ありますが、娘とは中々無かったので…つい、やっちゃいました。
べ、別にツンデレが上手く書けないから娘にした訳じゃ無いんですからね!?

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