読切小説
[TOP]
故郷なき者
それは、森と川が近くにある大きな道だった。
ブーーーーーン
そして、その道を一台の大きめモトラドが走っていた。
モトラドに乗っているのは、名前をアレン・ギルフォードと言う。十八歳の青年である。
モトラドには、テントや燃料タンク、着替えの入ったトランクなど、正に旅人の持ちモノと言える物が括り付けられていた。
アレンの服装は、黒の上下にグレーコートを羽織った感じで、腰の後ろには銃が一丁、ホルスターに収まっている。
モトラドは、これまた黒いボディーで、海を渡って来た商人を助けた時に譲り受けた物である。最近は、此方の大陸でも流通している。
暫く進むと二つの道が合流している場所に差し掛かった。
キイッ
アレンは、モトラドを止め、鞄から地図を出した。
「う〜ん、このまま北に行くと山を抜けないといけなくなるな〜かと言って南には大きい森が在るし、あまり時間も無い」
アレンが空を見上げると、日はすでに傾き始めていた。すると、
ドドドドドドッ
アレンの来た道の方から多くの足音が聞こえて来た。
「うん?」
アレンが振り向くと、少し離れた所から、騎士団と思われる一団が近づいて来る。
「まずいな」
アレンは林を抜け近くに在った大きな川の土手にモトラドを移動させた。
騎士団は、先ほどまでアレンが居た場所を通り、北へと向かう。
「北の方で戦争でも在るのか?」
アレンは茂みから騎士団を見ながら言う。
「これじゃあ、北は無理だな。けど、夜に成るまでの残った時間で南の森を抜けるのは無理っぽいし、うむむむむ―――」
アレンが腕組みしながら川を見ていると、
ぷかぷか
「うん?」
川上から木が流れて来た。だが、その木を良く見ると、
「えっ!子供!」
その木には、子供が一人しがみ付いていた。
「はっ!いけない!」
川は、今アレンの居る所からは、岩や渦などが多い場所に成っていた。
アレンは着ていた服を素早く脱ぎ、下着姿で川に飛び込んだ。
「はあっ、はあっ」
アレンは木の下に着くと、子供を抱え直ぐに岸に戻った。
ザバッ
「はあーっ、はあーっ!」
アレンが岸に付き、川を見ると、先ほどまで子供がしがみ付いていた木が渦に巻き込まれ、バラバラになって行くのが見えた。
「すーー、はーーー!」
取りあえず、アレンは安堵し、抱えたままの子供を見る。そこで、アレンは自分の胸の辺りに、何か固い物が当たって居るのに気づいた。
「えっ?」
アレンが子供の頭を見ると、
「つ、の?」
その子供の頭には角が二本生えていた。そして、その更に下、アレンのお腹には何か柔らかい物が当たっている。それは、子供にしては発達し過ぎの胸だった。
アレンは驚き、その少女の脇を持ち正面から体全体を見る。そして、自分が何を助けたかを知った。
「ホブゴブリンか?」
「うっ・・・」
すると、ホブゴブリンがアレンの声に反応して起きた。そして、一言、
「貴方は、誰ですか〜?」
「君こそ誰だ?」
「私ですか〜?私の名前はラピスで・・クシュンッ!」
ホブゴブリンは名前を言うと小さなくしゃみをした。

パチッパチッ
アレンは冷えた体を温めるため、近くから木の枝を拾って来て、それに火を点けた。
アレンとラピスは二人でその火を囲む。そして、アレンはどうして流されていたのかをラピスに聞いた。だが、その理由はとても簡単な事だった。
「なるほど、即ち仲間と筏を作って川で遊んでいたら、筏が壊れてしまいそのまま流されたと・・」
「はい〜、アレンさんが助けてくれなかったら、私」
ラピスの目がウロウロし始める。
「あー、泣くな、泣くな」
アレンはラピスの頭を撫でながら宥める。
今の状況、アレンは濡れた下着を履き換え元々着ていた上下の服を着る。一方、ラピスと言えば、濡れた服は木に引っかけてたき火で乾かしているため、アレンのコートを羽織ってアレンに寄り添っている。
「(いかん!なんだかドキドキしてきた!)」
アレンは気を紛らわすため空を見る。すでに辺りは薄暗くなっていた。そして、寄り添うラピスをチラッっと見る。すると、その視線に気づいたラピスと目が合う。
「(うっ!)」
アレンは直ぐに目を逸らす。
「(置いて行く訳には、いかないよな〜)」
アレンは「はっ〜」と溜め息をつく。
「今日はここで野宿か」

アレンは、モトラドに乗せていたテントを降ろし、川原に建てて夕食の材料調達の為の釣りを始めた。ラピスはと言うと、乾いた服を着て、
「少し食べ物が無いか周りを見てきますね〜」
と言って、森に入って行った。
ラピスは、何処か抜けている様で割と確りしている。
「よっと!」
パシャ
アレンの釣りは好調、中位の魚を6匹釣り上げた。
「結構取れたな、いい感じだ」
アレンが釣竿を片付けていると、
ガサガサ
後ろの茂みが動きラピスが帰って来た。
「わ〜、いっぱい取れましたね〜」
「そうだろう〜、そうだろう〜」
そう言いながらアレンが振り向くと、
「!!」
ラピスは、手に零れんばかりのきのこや木の実を持っていた。
「えへへ〜」
そして、眩しいまでのスマイル。
ガクッ
「(ふっ、流石は野生の女の子だ。俺の・・・完敗だ!)」
アレンは川原の石に腰かけ、燃え尽きた男のポーズを取る。

ラピスのお陰で夕食は何時のものより豪華だった。そして、アレンが夕食を食べ終わり夜風に当たっていると、
クイクイ
「うん?」
不意にラピスがアレンの袖を引っ張った。
「なんだ?」
アレンがラピスの方を向くと、ラピスが川沿いの林の方を指差す。
「あっちの方に、温かい水が在った」
「えっ!あっ!」
アレンがラピスに引っ張られながら林の中に入ると、
「うわっ!温泉だ!」
恐らく、少し行った所に山が在るからだろう、林を抜けた所に天然の温泉が沸いていた。すると、
クイクイ
再度ラピスがアレンの袖を引っ張った。
「一緒に、入ろ〜」
「えっ?いや、流石に二人で入るのは、」
「・・・・」
ラピスがアレンを上目遣いで見る。アレンは目を逸らす。
「ここは、一人ずつ入って――」
チラッ
「ひぐっ・・ひぐっ・・」
既に目から涙が零れんばかりの涙目。

「女の涙に勝てない俺って・・・」
「わ〜〜〜」
結果、アレンはラピスと一緒に入る事になった。
「でも、は〜〜、気持ちいい」
アレンは湯船に首の所まで浸かる。すると、アレンの前をラピスが背泳ぎの形でプカプカと胸を浮の様にしながら通る。
「・・・・・」
ムクッ
アレンの逸物が反応する。
「(落ち着け〜、アレン・ギルフォード、こんな時こそ平常心だ!)」
アレンは目を瞑り、平常心を保とうとする。しかし、目を開けるとラピスの胸が見える訳で、
「(そっ、そうだ!頭の中から性欲と言う言葉を消せばいいんだ!消えろ、消えろ、消えろ、・・・よし!今頭の中から性欲と言う言葉が消えた!)」
しかし、
「ア〜レ〜ン〜」
ザバッ
行き成りラピスがアレンの背中に抱きついた。
プニッ
「(ああ、やわらかい〜)」
アレン、湯中り&興奮し過ぎによりダウン。

温泉を出る頃には、アレンは湯でダコになっていた。
「ああ〜、駄目だ。今日は早く寝よう」
そう言って、アレンはテントに入る。しかし、ラピスは、
「うん?」
アレンのコートに包まって、テントの外に居た。
「ふ〜、何やってんだ?」
アレンがラピスに聞く。
「私が入ると狭く成るから」
ラピスらしい理由だった。
「は〜、今夜は冷える。入れよ」
「え?でも」
「いいから」
「・・・はい!」
ラピスは笑顔でテントに入って来る。そして、コートに包まろうとするが、
「お前はこっちだ」
アレンは寝袋をラピスに渡す。
「じゃあ、寝るぞ」
そう言うと、アレンは点けていたランプを消した。
アレンがコートを体に懸け、頭の後ろで手を組む。そして、寝ようとすると、
クイクイ
「うん?」
頭の後ろで組んでいた左腕をラピスが引っ張った。そして、アレンの左腕を横に出すと、寝袋をアレンの横までもって来ると、アレンの腕を枕にする。
「おやすみなさ〜い」
そして、寝息を立て始めた。
「ふっ、全く、しょうがない奴だ」
アレンも右腕を枕にして眠りにつく。

次の日の朝、アレンたちは再度、川と森で朝食の材料を調達した。結果は勿論、アレンの負け。
二人は朝食を取り、これからの事を考える。
「う〜ん、これからどうするか」
無論、アレンは南か北に行きたい訳だが、
「どうするの〜?」
問題は先ほどから首を傾げながら此方を見ているラピスだ。勿論このままラピスを置いて行くのは可哀想だ。
「お前、一人で仲間の所まで帰れるか?」
「う〜〜ん、自信・・無い」
「だよな〜」
「うう、ごめんなさい」
ションボリ涙目、
「ああ、だから泣くなって!」
そうなると、必然的に如何するかが決まる。
「わかったよ。お前の家は、この川の上流に在るんだよな?」
「うん、真っ直ぐ流れて来たから、多分そう」
「じゃあそこまで送ってやるよ」
「ホント!」
「ああ、ホントだ」
「は〜、アレンだーい好き♪」
ピョン、パシッ
「うわっ!」
ラピスがアレンの首に抱きついた。
「えへへ〜」
「こらっ、離れろ!刺さる!刺さる!角が刺さる!」
抱きついたラピスの角が目に刺さりそうになり、アレンはそれを必死に避ける。

「よいしょっと」
ガコッ
アレンはモトラドにテントなどを積む。元から大きなモトラドなので荷物を詰めれば後ろにもう一人は座れる様になる。そして、先にアレンがバイクに跨りバランスを取る。
「よし、ほら、乗れ」
「は〜い、よいしょ」
ラピスはアレンの後ろに乗る。
アレンはそれを確認するとモトラドのエンジンを掛ける。
ブロロロロロロロッ
「しっかり掴まってろよ」
「は〜い」
そう言うとラピスはアレンの肩に手を掛ける。
「うっし!行くぞ!」
「しゅっぱ〜つ!」
アレンとラピスを乗せたモトラドは走り出す。

モトラドは山への道を走る。
速度は、ラピスが『ゆっくりが良い』と言うので低速だ。
アレンとラピスは流れる風景を楽しみながら道を進む。そして、太陽が丁度真上に来た頃、道の近くに大きく開けた場所を見つけそこで昼食にする。
昼食は、朝、アレンがテントなどを片付けてモトラドに乗せている間に、ラピスが朝の残り物で作ってくれた弁当である。
「じゃ〜ん」
風呂敷を広げると魚と山菜を焼いたものと木の実が入っていた。
「おっ!いいねえ〜」
「えへへ、・・・」
「では、頂こうか」
「うん」
そう言ってアレンが魚と山菜を焼いた物を口に運ぶ。
パクッ、モグモグ
その光景をラピスはドキドキしながら見ていた。
「うん、美味い!」
「良かった」
ラピスは安堵する。
「いや〜、ラピスは将来、良いお嫁さんに成るよ」
「そうかな〜、でも・・・・出来れば、アレンのお嫁さんが良いな」
「うん?何か言ったか?」
「なんでもないで〜す」
「そうか」
そして、二人は昼食を終える。

昼食を終えた後、アレンが芝生に寝転んで昼寝をしようとする。その際、アレンはあえて左腕を真横に出すと、
トコトコ、ポフッ
ラピスが来て、アレンの左腕を枕にしながら寝始めた。
「ははっ、可愛いな」
アレンは右手で寝ているラピスの頭を撫でる。
「う〜ん、えへへ」
気持ち良かったのか、ラピスが寝たまま笑う。
「(山の方に行けば、こいつとの短い旅も終りか、・・・少し寂しいな)」
ラピスを山に在ると言うゴブリンの集落に連れて行けば、ラピスとは当然お別れだ。
「(もしかして、俺、こいつの事を・・・)」
アレンは気持ち良さそうに寝ているラピスの顔を見る。
「(ふっ、柄にもない事を考えちまったな)」
アレンは右腕を頭の後ろに回し、目を閉じ眠りにつく。

昼寝から起きた後、アレンはゆっくりとモトラドを走らせる。そして、山岳地帯に入って少し行った所でラピスが声を上げた。
「この道、見覚えある!」
「そうなのか?」
「うん!あそこの角を曲がったら、私たちが住んでる洞窟が在るの!」
「そうか、やっと帰れるな」
「うん!」
ラピスはニコッリと笑う。
「(そして、こいつとの旅の終着点か)」
そして、二人を乗せたモトラドが角を曲がる。しかし、
「!!」
そこに在ったのは、
「なんだ、こりゅ!」
そこには、確かに洞窟が在った。しかし、洞窟からは黒い煙がもくもくと出ている。
「うっ!」
そして、アレンは、その匂いで、煙が火薬によるものだと言う事に気づく。
「みっ、みんなっ!」
ピョン
「あっ、おい!」
焦ったラピスは、モトラドから飛び降り、一目散に洞窟に入って行った。
「くっそ!」
アレンもモトラドを降り、ラピスの後を追おうとする。すると、
「うん?」
アレンは視界の端にある物を見つけた。
「これは?」
それは、多くの人の足跡だった。
「十人や二十人じゃないな。数百くらいか」
そこでアレンは昨日別れ道で見た騎士団を思い出した。
「奴らか」
その足跡は、一度洞窟に入りその後出て来て山の奥の道に続いている。
「何者かが洞窟に入って、その後山の奥の方に向かったのか」
アレンがその足跡をまじまじと見ていると、
「え?」
一つの不審な足跡を見つけた。
「こっ、これは!」
それは、洞窟に入って出た足跡とは少し違い、時間が経ってもう一度洞窟に入った足跡だった。しかも、まだ新しい、
「ラピスが危ない!」
アレンは急いで洞窟に入った。

その少し前、洞窟に入ったラピスは、
「みんな〜、みんな〜!」
洞窟の広くなっている場所で声を上げていた。しかし、ラピスの声に答える者は居ない。
「みんな〜、何処行っちゃったの〜」
ラピスはその場にへたり込み、泣きそうになっている。すると、
カツッ、カツッ、
一つの足音が近づいて来た。その足音はラピスの後ろで止まる。
そして、ラピスがそれに気づき振り向く。
「アレン?」
しかし、そこに居たのはアレンでは無く、鎧に身を包んだ兵士だった。
すると、兵士は行き成りラピスの首元を掴んで持ち上げた。
「きゃっ!」
ラピスは首元を掴まれ、ぶら下がっている状態になった。そして、兵士が喋り出した。
「はっ!もしかしてと思って戻って来てみりゃあ、居るじゃねえか!しかも、ホブゴブリンと来たか、こいつは大手柄だ!」
兵士はラピスを持ち上げていた手に力を入れる。
「ぐっ、あっ!」
ラピスは自分の首を絞めている腕に手を掛け、振りほどこうとするが、
ぐっ、へたっ、
全く力が入らない。
本来、ホブゴブリンは、普通のゴブリンより力が強く、人の腕を捻る事など朝飯前なのだが、今のラピスにはその力は無かった。
「はははっ、無駄だ!お前の怪力は、この魔消石によって使えない様になってんだからな!」
そう言って兵士は首にぶら下げていたペンダントを見せつける。

魔消石:魔法使いが長い年月を懸けて作った、魔力を吸い取る石。上級の魔物(ヴァンパイアやドラゴン)などには効き目は無いが低級の魔物には効き目が有り、その魔物の能力などを無くしてしまう。対魔物用のアイテム、旅人のお守りとしても人気。

「さて、このまま連れてても良いんだけど、抵抗されても面倒だし〜、取りあえず、死ね!」
グッ
兵士の手に力が入る。
「あっ!がっ!」
ラピスの首が締まり、少しずつ意識が無くなって行く。
「(たすけて、たすけて)」
ラピスは心の中で叫ぶ。一度命を助けてくれた心優しい者の顔を思い浮かべて、その名前を、
「(アレン!)」
その瞬間だった。
ダンッ
洞窟内に銃声が響き、一発の弾丸がラピスを掴んでいた兵士の腕を貫いた。
「ぐわわわわぁぁぁ!」
そして、ラピスの首を掴んでいた手から力が抜け、ラピスは地面に倒れそうになるが、
ダッダッダッ、パシッ
そんなラピスを走って来た者の腕が抱き止める。そして、兵士から距離を取る。
「ラピス、大丈夫か?」
「ア、レン?」
ラピスを抱き止めたのはアレンだった。
「ああ、俺だ」
「アレン!」
パシッ
「うわっ」
ラピスは、まだ力の入らない腕でアレンの抱きついた。アレンはその勢いで尻もちを着く。
「アレン、アレン!」
「へっ、よしよし、怖かったな、もう大丈夫だぞ」
アレンは抱きついて顔をすり付けて来るラピスの頭を撫でる。そして、アレンは、傷口を握り、唸っている兵士に視線を向け警戒する。兵士もその視線に気づきアレンを睨む。
「きさま〜!よくも!」
兵士は腰の後ろから銃の様な物を取りだす。
「!!」
アレンが警戒するが、
ダンッ
兵士はそれを洞窟の天井に在る外に通じている穴めがけてそれを撃った。そして、それは洞窟の外で異様な音を立てて弾けた。
「しまった!信号弾か!」
「おおよ!これで直ぐに仲間が来てくれる」
「くそっ!」
アレンは男に背を向けると、洞窟の出口へと走った。

アレンはラピスを抱えたまま洞窟を出た。すると、山の奥の道の方からモトラドのエンジン音が聞こえて来た。
「不味い!」
アレンはその状態でモトラドに跨る。
「ラピス!確り掴まってろよ!」
「う、うん!」
ラピスはアレンと向き合う形でアレンのお腹の辺りにしがみ付く。それを確認すると、アレンはモトラドを急発進させた。そして、それと同時に山の方の道からモトラドが四台見えて来た。

洞窟の中に居た兵士が洞窟から出て来ると、丁度洞窟の前に四台のモトラドが来た。
「なんだ、何か有ったのか?」
モトラドに乗っていた一人の男が兵士に話しかける。
「さっき逃げた奴らを追ってくれ!野郎、ホブゴブリンを連れている!」
兵士はアレンたちの行った道を指差す。
「ヒュ〜大手柄じゃねえか!分けまえは多めにな」
「分かっている!」
「よし、行くぞ!」
そう言うと四台のモトラドはアレンたちを追って走り出した。

アレンたちは南へと向かっていた。勿論、当てが在る訳ではない。ただ今は逃げる事を考えていた。すると、ラピスはアレンの顔を見上げて話しかけて来た。
「ねえ」
「うん?」
「どうして、アレンは私を助けてくれるの?」
確かに、アレンには何の関係も無い事、あの場であんな事をすれば追われるのは分かっていた筈である。しかし、アレンはそうしなかった。
「何でだろうな〜、俺にも良く分からん!」
「?」
「でもな!これだけは言える。俺は、あそこでああしなきゃ、多分、一生後悔してただろうなって」
「それって、如何言う事?」
「さあな、もしかすると、俺はラピスに惚れてんのかもな!」
「え!」
ラピスはアレンの顔を見上げながら少し頬を桃色に染める。
「アレン、実は私も―――」
ラピスが『好き』と言おうとした時だった。
「ラピス!掴まれ!」
「え?」
キィー
アレンが急にハンドルをきった。
ヒュンッ
そして、アレンたちの横を弾丸がとうり過ぎた。
「くそっ!追手がもう来たのか!」
アレンがミラーで確認すると、アレンたちから数十メートル離れ、モトラドに乗った男が四人アレンたちを追って来てきて居る。
ダンッ、ダンッ、ダンッ
男たちは、アレンたちに向けて銃を撃って来るが、アレンは、それをミラーで弾道を読んで避ける。

「チッ、あいつ、なかなかやるな。おいっ!」
男たちのリーダーと思われる男が右端に居た男に声を掛けた。
「はっ!」
「確か、もう少し行くと右に曲がるカーブが在ったな」
「はい、間違いありません!」
「よし、お前は横の森を突っ切って、先回りしろ。男に構うな!何としてもホブゴブリンを手に入れるんだ!殺しても構わん!」
「了解しました!」
そう言うと右端に居た男は方向を変え森へと入って行った。

「どうすればいい!どうすれば!」
アレンは弾丸を避けながら男たちから逃げる方法を考える。すると、前方にカーブが見えて来た。
「そうだ!あれだ!」
アレンは良い案を思いついた。
「そうと決まれば!ラピス、全力で掴まってろよ!」
「うん!」
ブーーーーーン
アレンは思い切ってスピードを上げる。そして、カーブに差し掛かった時、
キイイイイィィ
アレンが急にブレーキを握った。
「おりゃっ!」
アレンは何とかそのカーブを曲がりきる。
男たちも並んで、アレンのした様にカーブに差し掛かる。その瞬間、
バッ、カチャ、
アレンはハンドルから右手を離し腰の後ろから銃を取り出す。そして、
「そこだっ!」
ダンッ、
体を捻って後ろの男たちの方に銃を撃つ。
アレンの撃った弾丸は、カーブの内側、即ち右端を走っていたモトラドのタイヤに当たる。
パンッ、
「うおわっ!」
右端の男は、当然バランスを崩し、モトラドごと倒れ、カーブを曲がろうとした時の遠心力で左方向に滑る。そして、勿論横に居た仲間はそれを避けるために急激に速度を落とさなければいけなくなる。
「よしっ!」
アレンは前を向き直し、再度スピードを上げる。その光景を見ていたラピスがアレンを見ながら言う。
「うわ〜、アレン凄い!」
「ははは、まあな!」
アレンも得意げに言いながら銃をしまう。
「ラピス、後ろから追っては来てるか?」
アレンに聞かれ、ラピスはアレンの右わき腹の横から顔を半分出して後ろを見る。
「ううん、来てないよ」
「そうか」
アレンは取りあえず安心する。
「よしっ!じゃあ、このまま南に逃げ―――」
アレンが油断した瞬間だった。
ブーーーーン
行き成り、横の森からモトラドに乗った男が出て来た。そして、
カチャ、
銃を構える。
「不味いっ!」
その狙いは、今アレンにくっ付いているラピスの頭。そして、男が引き金を引く。
ダンッ、
その瞬間だった。
アレンは咄嗟に右手でラピスの頭を掴み、左の方に押した。
「きゃっ!」
スカッ、
そのお陰で、ラピスに弾が当たる事は無かった。しかし、
ドシュッ
「ぐっ!」
ラピスの頭を狙っていた弾丸は、先ほどまでラピスの頭が在った、アレンの右わき腹に当たった。
「アレンっ!」
それに気付いたラピスが焦る。
「くそがーー!」
アレンは、再度銃を取り出し、男目がけて撃つ。
ダンッ、ガスッ、
「ぐはっ!」
弾丸は見事男の胸に当たった。
男は転倒し、アレンはその横をとうり過ぎた。
「アレン!傷が!」
ラピスが傷口を抑えながらアレンに言うが、
「今は・・それどころじゃ・・ない・・もっと遠くに・・逃げないと」
アレンは傷の手当てもせずに逃げる。ただ南へ、南へと、

暫くして、後ろから来ていた三人の男が来る。
一人は破損したモトラドを乗り捨て、仲間のモトラドの後ろに乗っている。
三人は、道に倒れている仲間を見つけ、一人がモトラドから降り、生死を確かめる。
「駄目です。死んでます」
「そうか、バカな奴だ。油断しよって」
「どうしますか?」
「そうだな〜」
リーダーらしき男は腕組みをしながら道に点々と残る血の後を見る。
「どうやら相手も手負いの様だ。このまま追うぞ!」
「はっ!」
「お前はこいつのモトラドに乗れ!」
「了解」
そう言って、モトラドの後ろに乗っていた男が、死んだ男のモトラドを立たせ跨る。
「よし、行くぞ!」
そして、男たちは薄暗く成り始めている道を、血の後を辿りながら進み始める。

ブーーーーーン
暗くなった南の森の道を一台のモトラドが走っていた。
勿論、乗っているのは、アレンとラピスだ。
「アレン、止まって!もうあいつ等、追って来てないよ!」
ラピスは、必死にアレンにモトラドを止めるように言う。しかし、アレンは止まらない。
「逃げなきゃ・・・出来るだけ遠くに・・」
アレンが何かに取り付かれた様にモトラドを走らせる。すると、モトラドが道に突き出ていた石に乗り上げ、アレンはバランスを崩し、道の脇に生えていた草の上にラピスと一緒に投げ出された。
ドサッ、
ラピスは転がりながら着地するが、アレンは力無く倒れうつ伏せになる。
「アレン!」
ラピスが急いでアレンに近寄る。
「おお・・大丈夫・・・だったか?」
「それは、私よりアレンの方だよ!」
アレンの脇腹は血で染まっている。
「ああ・・・そうだったな・・・俺・・撃たれたん・・だった・・・」
「そうだよ!だから、早く手当てしないと!」
ラピスが傷口に触れようとするが、
ポンッ
それより先に、アレンの手がラピスの肩に触れた。
「お前は・・・逃げろ・・」
「えっ?」
「あいつ等は・・・簡単に・・諦める・・筈がない・・直ぐに・・追って来る」
確かに、普通、あそこまで追って来ていた者が、そう簡単に手柄を諦める筈が在る訳がなかった。
「幸い・・・ここは森だ・・他の魔物も・・居る・・・森の奥に・・逃げるんだ・・」
「でも、それじゃあ、アレンが!」
「バカ野郎・・・ここで二人して捕まったら・・・逃げた意味が・・・無くなるだろうが・・俺の事は・・良いから・・・早く・・」
「やだよ〜、アレンも一緒に来てくれないと!」
ラピスは涙目に成りながらアレンを揺する。
「一緒に・・行ったって・・もう無理だ・・・もう・・・目が・・霞んで・・・お前の顔も見えない・・・」
既にアレンの意識は、薄くなり始めていた。そして、少しずつ、アレンの瞼が閉じて行く。
「アレン、ひぐっ、アレン!ひぐっ」
目から涙を流しながら、ラピスは必死にアレンを揺らすが、
「・・・・」
アレンの反応は無い。
「うわ〜〜〜〜ん!アレン!ひぐっ、死んじゃ嫌だよ!ひぐっ、目を開けてよ!ひぐっ、私を一人にしないでよ〜!ひぐっ、アレン〜!」
ラピスはアレンを揺すりながら大声で泣き出す。
「(だから・・・泣くなって・・・子供の・・泣き声は・・嫌い・・なんだよ・・・これじゃ・・・ゆっくり・・・寝れねえ・・だろう・・が・・・)」
薄れ行く意識の中で、アレンが最後に聞いたのは、ラピスの泣き声と近づいて来る馬の蹄の音だった。

「ここだな」
アレンたちが入った南の森の入口に、アレンたちを追っていた三人の男たちが来ていた。
「はい、血の痕はこの道を進んでいます」
一人の部下がリーダー格の男に言う。
「どうします?」
「勿論、このまま追う」
「えっ!」
二人とは別にいた部下の男が反応する。
「どうした?」
「お言葉ですが、ここから先は、深い森です。しかも、もう夜です。このまま追うと、我々が森の魔物の餌食になってしまいます!」
「バカ者!ここまで来て、手ぶらで帰れるか!」
「しかし!」
「心配するな!私がこいつを持っている限り、森の魔物ごときに遣られる訳がない!」
そう言って、リーダー格の男は手に持っていた魔消石を他の二人に見せる。
「「おお〜〜」」
「ふっ!分かったら行くぞ!」
「「はいっ!」」
部下の二人が返事をした時だった。
「確かに、それなら、この森の魔物は大体倒せるだろうな。魔物ならな」
その場に四つ目の声が現れた。
「「「え?」」」
そして、三人の男が反応した時だった。
シュンッ
三人の前から後ろへ、一つの人影が走った。そして、
スー、カチン、
剣を鞘に戻す音がしたと思うと、
カスッ、ガラガラ、
三人が乗っていたモトラドがバラバラになってしまった。三人は、先の無いハンドルを握っているだけ。
「なっ、何者だ!」
三人が後ろを振り返り、そこに立っていた人影に言う。
「貴様らに名乗る名前は、生憎持ち合わせてはいない!」
そこに居たのは、背中に長めの剣を背負った男だった。
「くそっ!」
モトラドに乗っていた男たちは、それぞれの武器を構えようとするが、
「あれ?」
武器が見当たらない。そこで初めて、三人は自分の武器がモトラドと一緒にバラバラになっている事に気づいた。
「「「・・・・・」」」
「序に、これは没収です」
三人はバラバラになった武器から視線を前の男に向ける。剣を背負った男の手には魔消石が在った。即ち、三人は裸同然の状況である。
「逃げろ!」
勝てないと思ったリーダー格の男が叫び、それに反応して他の二人がとリーダー格の男が背中に剣を背負った男に背を向け走り出そうとするが、
「「「何処に行くの」」」
三人の前に魔物が現れた。
リーダー格の男、振り向いて走り出した瞬間、ミノタウロスにぶつかり首根っこを持ち上げられる。
強気だった部下、右の森に入ろうとした瞬間、アラクネの糸により、みの虫状態。
弱気だった部下、林に飛び込んだが、その瞬間、アルラウネのつるに捕まる。
あっと言う間に三人は掴まってしまった。
「ご苦労様です」
剣を背負っていた男は三匹の魔物に言う。
「ああ、気にすんな、それより、こいつらどうすんだい?生憎、アタイはこう言う男は好みじゃないんだけど」
ミノタウロスが男の首根っこを掴んでブラブラさせながら言う。
「私も、好みでは無いです」
アラクネもみの虫状態の男をつつきながら言う。
「私は、この子みたいの弱気の男の子が好きですよ」
アルラウネは早くも男の服を脱がしに掛かっている。
「そうですか、では、その弱気な方は好きにしてください」
「やったー!」
「こいつ等は?」
「その二人は、マタンゴの所に連れて行けば、後はあちらが何とかしてくれるでしょう。このまま逃がすと、何時我らの居場所を奪いに来るか分かりませんからね」
「「了解よ、レイ」」
ミノタウロスとアラクネは男たちを連れて森に入って行く。アルラウネは、
「お持ちかえり〜〜」
と言いながら、森の奥に消えて行った。
「さて、私も帰りましょうか」
レイと言われた男も森の奥へと消えて行く。

ゴオオオオオオオォォ、
そこには、燃える町が在った。
「え〜〜ん、え〜〜ん」
そして、その光景を前に、泣く子供が一人居た。
その村は、その子供にとって故郷である村だった。しかし、他国同士の戦争に巻き込まれ、燃やされてしまったのだ。
友達を失い、家を失い、家族をも失った。
その子供には、もう何も無かった。すべてを失った。そんな日の光景、忘れてくも忘れられない光景。
とても嫌な夢だった。

「はっ!はぁー、はぁー」
アレンはガバッっと布団から上半身を起こした。
「ゆっ夢か、は〜〜〜」
先ほどの事が夢で在った事を確認すると、アレンは安心して再度布団に倒れる様に横に成った。そして、寝たまま周りを見回す。
「ここは、何処だ?」
アレンが寝かされて居たのは、ある部屋の一室に在るベッドの上だった。
「そうだ!ラピスは!」
アレンは、ラピスが居ない事を知り焦ったが、そこでアレンは、自分の寝ている足元の横から聞こえて来る寝息に気づいた。
「スー、ピー、スー、ピー」
間違い無くそれはラピスだった。
「はー、心配させやがって」
そう言いながら、アレンはラピスの頭に手を伸ばし撫でる。すると、ラピスは気持ち良さそうに笑う。その時、アレンは有る事に気づく。
「あれ?そう言えば、傷の痛みが無い?」
アレンが着せられている服を上げ、傷が在る筈の脇腹を見るが、
「傷が・・・無い!」
そこには、傷はおろか痕すら無かった。そんな事をしていると、
ガチャ、
部屋に在った扉が開き、一人の女性が入って来た。しかし、その女性の下半身は人ではなく白い馬だった。そう、アレンの目の前に姿を現したのはユニコーンだった。
「・・・・」
アレンは初めて見るユニコーンの姿に驚く。すると、
「お加減はいかがですか?」
ユニコーンが話しかけて来た。
「あっ、はい、大丈夫です」
「うふ、そうですか。お茶はいかがですか?」
「あっ、どうも」
そう言って、アレンはユニコーンが出してくれたお茶を受け取り、口に運び一息つく。そして、先ほどから気に成っていた事をユニコーンに聞く。
「あの、一つ聞きたい事が在るのですが」
「はい?」
「ここは、どこなんですか?確か、森で倒れて、意識が無くなって、それから起きたらここに寝かされてて、今一状況が理解できないと言うか、何と言うか」
「ここは貴方が倒れた森の中です」
「森の中?」
「はい、私が駆け付けた時、貴方はとても危険な状態で、すでに意識が有りませんでしたので」
「どうして、俺を助けてくれたんだ?」
「私も昔、ある旅人に命を助けてもらった事が在りまして、それで貴方を見捨てる事が出来なかったのです」
「そうでしたか」
「うふふ、それに、助かったのは、私のお陰だけじゃありませんよ」
「えっ?」
そう言って、ユニコーンはラピスの方に視線を向ける。
「もし、この子があそこで泣いて居なかったら、私は貴方に気づく事が出来ませんでした」
「そうか、こいつの泣き声で・・」
「ええ、私を見た途端、『助けて!助けて!』って、私の服を掴んで泣き付いて来たんですよ。それから、傷を直した後も、貴方の所から離れようとしませんでしたし。」
「・・・・」
アレンもラピスを見る。
「よっぽど、貴方の事が心配だったんですね」
「そうか、こいつに心配かけちまったな」
そう言って、アレンが再度ラピスの頭に手を伸ばすと、
「うっ、う〜〜〜〜ん、うん?」
ラピスが目を覚ました。
「・・・・」
そして、体を起こし、アレンの姿を認識すると、
「アレンっ!」
「うわっ!」
ラピスはアレンに飛びつき、首に手を回して顔を擦り付ける。
「アレン!アレン!」
ラピスは、アレンの存在を確かめる様に何度も名前を呼びながら顔を擦り付ける。一方、アレンは、
「おわっ!やめろ!目っ!目に!目に角が刺さる!」
アレンは必死にラピスの角を避けていた。
「うふふ」
ユニコーンは、そんなアレンたちの姿を見ながら笑う。

暫くして、アピスが落ち着いた頃、
「では、私はお邪魔な様で、失礼します」
ユニコーンが部屋の出口へ向かう、
「あっ、待ってくれ!」
アレンがユニコーンを呼び止めた。
「はい、何でしょう?」
「あっいや、まだ名前を聞いていなかったから」
「ああ、そうでしたね。私は、コハクと言います」
「そうか、ありがとうコハクさん助けてくれて」
「どういたしまして」
そう言って、コハクは部屋から出て行った。だが、
「あっ、そうそう!」
直ぐに扉が開き、コハクが顔だけ出してアレンに言った。
「その布団は汚しても構いませんから、今夜は頑張ってくださいね!」
バタンッ
コハクは、その一言を残して扉を閉めた。
「・・・・」
アレンはその言葉に少々呆れながら、未だに抱き付いているラピスを見る。
「(そう言えは、こいつには、もう、帰る場所は無いんだよな)」
そして、アレンは、ラピスには、もう帰る場所が無い事を思い出す。
「ラピス」
「うん?」
アレンは、ラピスを首から離し、ベッドの横に腰を掛ける様に座らせ、自分もその横に座る。
「お前、これから、如何する?」
「これから?」
「ああ、行く宛ては有るのか?」
「・・・無い」
ラピスは少し俯いて言う。
「そうか」
「うん」
「それなら・・・俺と何処かで暮らさないか」
「えっ?」
アレンはラピスから視線を少し逸らして言う。
「俺も、お前と同じなんだ、住んでた所が戦争で無くなっちまってな。何処か、住みやすい国が無いか、旅をしながら探してたんだ」
「・・・」
「それで、一人で旅をしてたんだが、お前と会ってから、短かかったけど、何時もより楽しかった。お前と別れないといけないと思うと少し寂しく成った」
「・・・」
「だから、もし、お前が良いなら、俺と一緒に―――」
「アレンっ!」
「うわっ!」
ラピスが再びアレンに抱き付いた。アレンは、その反動でベッドに仰向けに倒れる。ラピスは、アレンの体の上にうつ伏せ状態で抱き付いている。
「私、アレンと居たい!一緒に居た!これからも、一緒に!」
それは、ラピスの心からの言葉だった。
「私、アレンの事が、大好きだから!」
その言葉を聞き、アレンもラピスを抱きしめる。
「俺も、ラピスの事が好きだ!これからも一緒に居よう!」
「うん・・・うん!」
そして、二人は暫くそのまま抱き合っていた。すろと、ラピスが口を開いた。
「アレン」
「うん?何だ?」
「しよ♪」
「えっ?」
アレンは少し戸惑が、コハクさんの言葉を思い出した。
「いや?」
「・・・ふ〜、分かったよ」
アレンは了承する。
「えへへ」
二人は着ていた服を脱ぐ。すでにアレンの逸物はやる気満々に成っていた。
「アレン、ここに仰向けで寝て」
「うん?わかった」
アレンはラピスに言われたとおりベッドに仰向けにねる。すると、ラピスが自分の大きな胸でアレンの逸物を挟み込んだ。
「どこでそんなの覚えたんだ?」
「えへへ、前の友達に教えてもらったの」
「そっ、そうか(誰か知らないけど、グッジョブ)」
そして、ラピスが胸を上下させる。
「うっ・・・」
優しい圧迫感にアレンの体は刺激される。
「気持ちいい〜」
「ああ、とてもいい感じだ・・」
「えへへ〜、じゃあ続けるよ〜」
そう言って、ラピスは腕で胸に圧力を加え続ける。
「ぅ、ぉっ、ぁっ、・・・ぁ」
すると、
「はむっ・・ちゅっ・・」
「うっ!」
ラピスがアレンの逸物を舐めた。
「そっ・・それも・・友達に・・教えて・・・もらったのか?」
「うん!続けるよ〜」
「おっ、おう」」
「んっ・・・ちゅ、はっ・・・んっ・・・」
そして、アレンが限界を迎える。
「ぐっ、ラピス、もう・・出る」
「んんっ!!」
ドプッ!ドチュ!!
アレンの精子がラピスの口の中に出る。ラピスはそれを飲んだ。
「んっ、は〜、あはは、いっぱい出たね〜」
しかし、アレンの逸物はまだ健在だ。
「まだ元気だね〜。じゃあ、今度はこっちね〜」
ラピスは体を起こす。逸物を自分の秘部に宛がう。そして、
「せ〜の!」
ズプッ
「ちょっ!」
ラピスが一気に腰を落とした。
「〜〜〜〜〜」
ラピスは、目に涙を浮かべながら出したい声を我慢する。
「バカ野郎・・普通一気に入れるか〜」
「だっ、だって、一気に入れた方が痛くないって聞いたから」
「(何処まで純粋なんだか)」
ラピスの秘部には血が滲んでいた。
「じょあ、動くよ」
「ああ」
ラピスはアレンの上に跨る様な形で腰を上下させる。アレンもその動きに合わせて腰を上下させる。
「はぁ・・はぁ・・うっ・・くっ・」
「んっ、・・ああっ・・はぁ・・うんっ・・」
ラピスが腰を上下させていると、
ガシッ
不意にアレンがラピスの胸を掴んだ。
「あんっ!」
ラピスの体に強い刺激が走った。そして、ラピスの上半身から力が抜け、アレンの方に倒れ込んで来た。アレンはそれを両手と胸で受け止め、腰の上下運動を続ける。
「だい・・じょうぶ・・か?」
「だっ・・だいじょう・・ぶ・・です」
そう言ってラピスも、その状態のまま上下運動を続ける。そして、アレンは二度目の絶頂を迎える。
「ラピス、もう、出るぞ!」
「うん!いいよ!何時でも、出して!」
「ぐわっ!」
「ふっ、ふわぁぁー!」
ドピュッ!ドピュ!ビュッ!
ラピスの中にアレンの精子が流れ込む。
「はぁー、はぁー」
「ふー、ふー」
二人は肩で息をしながら、息を整える。
「はーー、で、何時までこうしているつもりなんだ?」
「うーーん、今夜は、このままで」
「まったく、しょうがない奴だ」
「えへへ」
そして二人は、そのまま眠りについた。

その頃、隣の部屋
「はぁ、はぁ、あの子たちも遣るわね。あんな声聞いたら、私たちも、遣らざるおえないじゃない!ねっ、貴方!」
「はぁ、はぁ、ああ、そうだな!コハク!」
そこでは、レイとコハクが交わっていた。

次の日の朝
アレンが起き、部屋を出ると、
「あら、おはようございます」
肌がツヤツヤしたコハクが居た。
「どっ、どうも」
「昨晩は二人ともなかなかハッスルしてましたね」
若干下ネタ交じりな事をコハクが言う。すると、家の玄関と思われる扉が開いて、男が一人入って来た。
「うん?ああ、貴方ですか」
「どうも」
アレンは軽く会釈する。
「貴方のモトラド、家の前に持って来て在りますよ」
「あっ、ありがとうございます!・・え〜と」
「レイです。レイ・イレイサー」
「ありがとうございます。レイさん」
「いえいえ」
そう言って、レイは椅子に座る。
「そんな所に立っていないで、貴方も座ったらどうですか?」
「あっ、はい」
アレンはレイに言われ近くの椅子に座る。そして、レイとコハクを見て、
「あの、もしかして、お二人って、夫婦ですか」
「あら、分かります」
「ええ、何となく」
そんな話をしていると、
「ふわ〜〜」
アレンの出て来た部屋から着崩された服を着てラピスが現れた。
「アレン、おはよう〜」
「おう」
「よいしょっと」
ラピスはそう言うとアレンの膝に座る。
「どうやら、貴方達も夫婦の様ですね」
「あはは、まあ、そんなところで」
アレンは少し照れながら頭を掻く。すると、不意にレイが話し始める。
「そう言えば、貴方達はこれから、如何するんですか?」
レイが聞いて来たのは、アレンたちの今後の事だった。
「元々、住みやすい国を探して旅をしていたので、まあ、このまま二人で旅をしようかと思っています」
「そうですか」
レイが納得する。すると、コハクが、
「じゃあ、貴方、あそことか良いんじゃないかしら」
「あそこ?」
「ほら、貴方が前に良いって言ってた国」
「ああ、あそこか」
「何処か良い国が在るんですか!」
「はい、実は私も、一年位前まで旅をしていてね。シュトレイユと言う国が在るんですよ」
「シュトレイユ」
「そこが、数年前に私が立ち寄った時に住む候補に上げていた国なのです」
「・・・・」
「行ってみますか?」
「えっ!」
「シュトレイユに」
「教えてくれるんですか!」
「ええ」
「ぜひ!」

ドサッ
アレンはモトラドに荷物を乗せ跨る。そして、ラピスはその後ろに乗る。
「道順はよろしいですか?」
「良いも悪いも、ただこの道を真っ直ぐに行って森を抜ければ良いだけじゃないですか」
「ふっ、そうでしたね」
「私たちも、もう暫くしたらシュトレイユに移住しようと思っていますから、また会えるかも知れませんね」
「そうなんですか。じゃあ、その時は、今回お礼をさせてもらいますね」
「ふふ、楽しみにしておくわ」
ガチッ、ブロロロロロロロ
アレンはモトラドのエンジンを掛ける。
「では、お世話に成りました!」
「ええ」
「ああ」
そして、アレンがモトラドを発進させる。
「またね〜」
最後にラピスが振り向きレイたちに手を振る。そして、レイたちの姿は見えなくなった。
「さて、行くか、ラピス!一緒に!」
「うん!一緒に!」
二人を乗せたモトラドが森の道を進む。

数年後、シュトレイユの町中、
そこには一軒の店が在った。
ガチャ
すると、その店から一組のカップルが出て来た。しかし、女の方は下半身が蛇である。つまり、魔物と人のカップルだ。
「ありがとうございました〜」
そして、それをホブゴブリンが見送る。それはラピスだった。
すると、店の横の方に在った作業場からアレンが出て来た。
「おっ、やっとあいつらも結婚か」
「うん、ダイヤの指輪二つ、サイズはこれ」
「はいよ」
ラピスは持っていた紙をアレンに渡す。
そう、ここはアレンとラピスが営んでいる宝石店なのだ。

あの後、アレンたちはシュトレイユに住む事を決め、家を建てるお金を貯めるために店で働いていた。
シュトレイユに住み始めて数日、アレンたちが店の方の願いで山に山菜を取りに行った時のことだ。
「あれ?」
二人で山菜を取っていた筈なのに、何時の間にかアレンの前からラピスの姿が消えていたのだ。アレンは心配になり辺りを探していると、
「アレン〜〜」
森の奥の方からラピスが泥だらけで現れた。
「ラピス、何処行ってたんだ、心配したんだぞ」
「あっ、ごめんなさい」
「まったく。で、何処行ってたんだ?」
アレンが聞くとラピスが手に持っていた布の包みを差し出した。
「これ、見つけて来た」
「これ?」
アレンが、その包みを受け取り広げると、
「こっ、これは!」
そこには岩石の塊が幾つか包まれていた。しかし、その岩石からは、赤や青や緑や透明の塊が見え隠れしていた。
「どっ、何処でこんな見つけて来たんだ!」
「う〜〜ん、うろんな所、何となく在る場所が分かるの」
そう、ラピスが見つけて来たのは様々な宝石の塊だった。そして、町に帰りそれを売ると一家族が余裕で住めるような家を建てる事が出来た。
その後も、ラピスは山に行くたびに何処からともなく大小様々な宝石を取って来た。そこでアレンがそれを使ってラピスに指輪を造る事にした。
元々手先が器用だったので、直ぐに指輪は出来あがった。そして、それをラピスにプレゼントすると、ラピスは飛び跳ねながら喜んだ。さらに、それをラピスが町の魔物達に見せたところ、数日後には数件の依頼がアレンたちの家に来た。その大半が人間の男から魔物の女へのプレゼントだった。それ以来、何度も依頼が来たため、アレンは働いていた店を止め、家の横に作業場を造り、装飾品を造る仕事をする様になった。そうして出来たのがアレンとラピスの宝石店だ。

ラピスとアレンが店の前に居ると、
『パパ〜』
行き成り、複数の影がアレンを襲った。その数、六。
「おっと」
一つは首に、一つは右腕に、一つは左腕に、一つは背中に、一つは右足に、一つは左足にそれぞれの場所にしがみ付いて来た。
「おいおい、危ないだろ」
『パパは強いから大丈夫』
「あはは、皆パパが大好きなんですよ」
そう、その六つの影はアレンとラピスの子供、
長女:ルビー
次女:シェル
三女:スピネル
四女:パール
五女:ルチル
六女:ショール
の計六人だ。
そして、アレンたちが店の前で騒いでいると、
「こんにちわ」
一人の男がやって来た。実はこの男、町でも評判の写真屋の亭主で、今日は十回目の結婚記念に皆で写真を撮ってもらう約束をしていたのだ。
「おお、もうそんな時間か」
「皆、早くパパから降りて着替えて来なさい」
『は〜い』
そう言うと子供たちはアレンから降り家へと入って行った。
「アレンも」
「はいはい」
アレンもラピスに背中を押されながら家に入る。

「ほらほら〜、急いで〜」
「わかった、わかった」
アレンがラピスに急かされながら着替えていると、
「今日も仲良いわね」
隣の家の窓からコハクが二人を見ながら言った。

コハクたちは、アレンがシュトレイユに住み始めてから数日して此方に越して来た。その際、アレンは、助けてくれた時のお礼に二人に結婚指輪を造って渡した。その指輪は、今コハクの手に光っている。
さらに、コハクたちは此方に来るさい、ラピスにとって良い情報を持って来てくれた。それは、ラピスの故郷に居た筈のゴブリン達の事だった。
あの日、ラピスの以外のゴブリン達は、騎士団の接近を事前に察知し、山の奥に逃げていたのだ。無論、騎士団はそれを追った訳だが、ゴブリンたちが逃げた場所が運悪くドラゴンの住処だった為、騎士団はその場で壊滅、ゴブリンたちは無傷という結果に成ったらしい。

「ええ、まあ」
コハクたちは、アレンたちの家の隣に家を建て暮らしている。
「アレン、急いで!」
「うふふ、ではお邪魔の様ですから退散しましょうか」
そう言うとコハクは家の奥の方に入って行った。

アレンが急いで外に出ると、既に写真の準備が出来ていた。
「はい、じゃあ並んで」
写真屋の亭主に言われ家族全員が並ぶ。
子どもたちは前に並び、アレンとラピスは後ろに二人で並ぶ。
「じゃあ、撮りますよ」
すると、準備が出来たところで、ラピスがアレンの服を引っ張った。
「アレン、もう少ししゃがんで」
「うん?」
アレンは言われたとおりに少ししゃがむ。
「はい、笑って」
写真屋の亭主がカメラを構える。
「もう少し」
「こうか?」
更にアレンはしゃがむ。
「うん、そこで良いよ」
やっとの事でラピスからOKが出た。
「はい、チーズ」
スッ
「えっ?」
写真屋の亭主がシャッターを切ろうとした瞬間、ラピスがアレンの顔を引き寄せ、
チュッ
唇にキスをした。
カシャ
写真には、六人の子どもたちと、その後ろでキスをするアレンとラピスが映っていた。

END

11/12/02 00:37更新 / アキト

■作者メッセージ
前作では、誤字の指摘、ありがとうございました。今回も誤字脱字が有れば、言ってくれるとありがたいです。
今回は、予想以上に話しが長くなってしまいましたが、飽きずに読んでくれると嬉しいです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33