連載小説
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報告書「ヴァンパイア」
 暗く、湿った地下牢。鉄格子で外には出られない。壁や天井には様々な文字が書いてあり、これが魔物の魔力の使用を封じているのだ。

 鉄格子の扉には大きめのランプが煌々と輝いている。『太陽のランプ』と呼ばれるマジックアイテムの光はヴァンパイアが大嫌いな光と同じ効果を持つ。つまりヴァンパイアの力を封じ込める。これで安心して拷問が行えるわけだ。

 アッシュが資料を見る限り、このヴァンパイアは中々愉快な事をしていたようだ。人間を殺す、しかもその頃仕方が残虐。怪力を生かして手足を引き裂き、もがいているところを笑いながら見る。気に入らない者がいると頭を潰してしまう。

 魔物が人を殺すのは非常に稀な事なのだが、この資料もどこか怪しい。依頼書には『最高の屈辱と苦痛を与えたのに処刑せよ』と書いてある。



「最近この手の依頼が多いな」
 傍らに立っていた助手、ミリアに話しかける。彼女はスケルトンだ。墓で彷徨っていたので捕まえた。幸いインキュバスになった体のおかげで、スケルトン如きに多少の精を絞られても大丈夫だ。

「ぅああぁ」

 理性が殆どなく、呻く事と言われたことを実行することしかできないが、これはこれで便利なのでまだ捨てる気はなかった。
 白い骨だけの手足、青白く、ツンとした腐臭が微かにする体。

「……行くか」

 これ以上考えるのを止めて、閉じ込められているヴァンパイアの牢屋の前まで行く。太陽のランプはミリアも嫌いらしく、光に当たらない位置にさり気無く移動している。

 牢屋の中を覗くと、ベッドがひっくり返っている。どうやらヴァンパイアは光に当たらないようにベッドを遮蔽物にしたようだった。

「おい」

 話しかけても反応がない。アッシュは牢屋に入り、ベッドの裏を覗いた。そこには顔を真っ青にした美女がぐったりと横たわっていた。彼女こそ今回の仕事のターゲットだった。

 金髪の髪、メリハリのある体、黒を基調としたレースが編まれているドレスにマント。まさしくヴァンパイアそのものだ。

「……起きろ」

 静かに、低い声でもう一度呼びかける。だが、ヴァンパイアは横目で見ただけで反応しようとはしない。状況を分かっていないような態度だが、小さく震えているのがバレバレだった。

 アッシュはベッドを蹴り上げてヴァンパイアの胸倉を掴み、ランプの光が一番当たる位置まで投げた。

「キャア!」

 更にヴァンパイアを蹴り、仰向けにしてから馬乗りになる。

「返事くらいしたらどうだ? ん?」

「…フン!」

 反抗的な目が気に入った。

 まともに食事も与えず、身を蝕む光の中に居たにしてはまだまだ元気そうだ。これなら多少のことをしても耐えるだろう。

 天井から吊るしてある鎖にヴァンパイアを繋げる。それから様々な器具をミリアに持ってこさせる。これで準備は整った。

 ヴァンパイアは相変わらず気丈な態度を崩さない。ここに連れてこられるまで何もされなかったとは考えにくい。軽く犯される程度の事はされているだろう。これから始まることが同じだと思っているのかもしれない。

「ラフィ・フォン・ドゥーイ、これから始まることは聞いているか?」

「低俗な人間め、私にこんな事をしたことを後悔させて…」

 ッガ!

「聞いたことに答えろ」

 レイギスの口から血が流れた。一瞬何をされたか分らなかったらしく、ポカンとしていたが、されたことを理解した瞬間に鬼のような形相で睨みつけて来た。どんな顔をしようとも何もできないことは彼女自身分かっている。それでも睨まずにはいられなかった。

「人間…貴様!」

「それとも何をされるか聞いてなかったか? なら教えよう。お前はこれから処刑される」

 処刑、という言葉に小さく反応したのをアッシュは見逃さない。

「処刑されるまでにわずかな日数がある。それまで、お前に凌辱と拷問をする。それだけだ」

「なぜ私がそんな事をされなければならないの!」

 髪の毛を掴み、乱暴に引き寄せる。それから囁くように

「人間を殺した罪だ」

 耳元で言われたことが不快だったのか、首筋に噛みつこうとした。それを余裕をもってかわし、キスができそうなほどの近距離でにらみ合う。

「……ッペ!」

 唾を飛ばしてきたが、アッシュは気にならない。むしろこうした気丈な態度を取ればとるほど興奮してくる。笑みが自然にこぼれた。

「いい度胸だ。まずは基本的な攻めから始めようか」

 ミリアに命令し、ドレスを剥ぐ。すると美しい肢体が現れた。魅了の呪文が使えなくとも、男を引き寄せるには十分だった。

 持ってきた器具の中で、鞭を取り出す。

「たかが鞭程度で、私を屈服させられると思っているの?」

 ラフィは鞭の恐ろしさを知らないらしい。使う者が熟練者なら、たったの数発でショック死してしまう、その事実を。急所でも何でもない、背中や太ももでだ。

「お前が今までどれだけ温い叩かれ方をされたか、よくわかる発言だな。なら、お前の言う、たかだか鞭でどれだけ耐えられるか試してみるか」

「やってみなさい」

 歯を食いしばり、体中に力を入れて叩かれるのを待つラフィ。それを嘲笑うような非情の一撃が彼女を襲った。


 ッヒュ、バシィィン!


「…ぁ……ぐあ……」

 叫ばなかったのではない。叫べなかったのだ。叩かれたのは背中。赤い筋どころか、血が流れていた。

 ショック死させるつもりもないので、ある程度の手加減はしている。が、快楽を与えるためにやっている訳ではないので、十分な痛みが走っているだろう。

 続けて何度も鞭を振るう。



 バシィィン! バシィィン! バシィィン!



 瞬く間に赤い筋と血が流れていく。

「キャアア! あああああ! イヤアアア!」

 悲鳴が響き渡る。体中万遍無く叩いた所でいったん止めた。ラフィは大粒の涙を流し、泣いていた。

 
 ……しゃあぁぁぁぁぁ


 今まで我慢してたのか、叩かれたことによって大量の尿が放出された。足元に大きな水たまりを作っていく。

「…ククク」

 その無様な格好にアッシュは笑いが止まらなかった。鞭をいったん離し、ラフィの目の前に立つ。

「高貴なヴァンパイア様がお漏らしか」

「…げ、下衆め。インキュバスのくせに人間の味方なの?」

 どうやら叩かれながらもアッシュの正体を探っていたらしい。あの痛みの中、魔力を探るとは根性がある。

「痛みにはある程度強いな」

 次に手にしたのは大人の玩具。それにスライムから作ったローションをつけて、濡れもしていないラフィに無理やり挿入した。

「い、いったい」

 もちろん感じるはずもなく、ただ痛みに顔をゆがめるだけだ。玩具のボタンを押し、非常に緩やかに震えだす。

「女を抱いたことがないの? こんなやり方じゃ感じないわよ」

 アッシュはラフィを無視した。備え付けの椅子に座り、ミリアを呼ぶ。

「ミリア、餌の時間だ」

「あう」

 今まで近くで立っていただけのミリアは、アッシュに呼ばれるまま、膝元に座りっ込んだ。

 やることは分かっているのか、アッシュのズボンを脱がし、先ほどから大きくなっていた陰茎を口に含んだ。アッシュの陰茎は大きく、喉の奥まで加えこんでも全部入りきらない。

 ちゅばちゅばと下品な音が地下室に響く。ミリアはアッシュのものを口で奉仕しながら自分の秘所を激しくいじっていた。陰茎を吸う音と、秘所をいじる音がラフィの耳に響く。

 すると、今まで気にならなかった玩具の振動に、膣が甘い痺れを放ち始めた。

「…くぅ」

 ミリアは口での奉仕に慣れているらしく、裏筋を玉から大きく舐め、亀頭周りを舐り、小さくキスしたりしていた。

 奉仕されているアッシュが小さく呻くのを見れば、どれだけうまいかがわかる。奉仕しているミリア自身も感じているのか、小鼻を鳴らし、夢中になっている。

 いよいよミリアの奉仕は激しさを増し、頭を激しく上下に振って射精を促す。食道まで届いているほどに深く深く咥え込み、ジュルジュルとバキュームをする。

「出るぞ」

 わずかな時間でアッシュを射精させてしまったミリアは、精液を飲み干す。尿道に残っている僅かな精子も、強力なバキュームで吸いつくした。

アッシュの陰茎は全く萎えていなかった。それを恍惚とした表情で、ゆっくりと扱く。アッシュの顔と陰茎を交互に見ている。これはミリアのおねだりだ。

「いいぞ」

 ミリアの軽い体がアッシュに乗る。座ったままお互いを向く、対面座位というやつだ。

「あぅうあああ、あ、あ、あああぅ」

 挿入してからすぐに動き出すミリア。口での奉仕よりも、もっと卑猥な音がする。パン、パンという腰をぶつける音、グチュグチュと交合している音、そしてスケルトンのミリアの嬌声。

 ラフィの秘所は漏らしたかのように濡れていた。挿入された玩具ではもはや物足りない。魔物としての本能を揺さぶられてしまったのだ。叩かれて赤くなっている鞭の痕の痛みすら甘く感じる。

「あうううおああああああああああああ……ぁう」

 アッシュよりも先に絶頂を極めてしまったらしく、ミリアの動きが止まる。

「どうした? 動かないと搾り取れないぞ?」

 ミリアは何とか動こうとするものの、絶頂の余韻か、ゆるゆるとした動きしかできないようだった。それを見かねたアッシュは自ら動き始める。

 その場で立ち上がり、ミリアを上下に揺さぶる。スケルトンであり、軽いからこそ簡単にできる荒業だ。それは自分の快楽しか求めていないような激しい動き。

 アッシュは突き上げながらラフィの目の前まで歩いてきた。

「ずいぶん物欲しそうに見ているな」

「ハァ、ハァ……いらないわ」

 顔を真っ赤にし、一瞬だけ目をそらす。その態度にアッシュは満足したのか、ミリアに対する攻めに集中し始める。

「ああう、あぅああああ! あああああしゅぅううう」

「またイクのか? 合わせてやる。何時でもイけ!」

「あ、あ、あ、あ、ああ、あああああ、あああうあああ!」

 ビクンビクンと震え、今日2度目の絶頂を極めたスケルトンは、激しすぎる性交に気絶してしまったらしい。半分開いた眼には意志が感じられない。

 アッシュはミリアを牢屋の端に置いた。ミリアの秘所から抜き取られた陰茎はまだ萎えていない。白く濁った愛液に、鈴割れから漏れている精液の匂いがラフィの鼻を、目を刺激した。

「欲しいか?」

「何度、言ったら、わかるの? …いらない」

「生唾を飲み込みながら言うセリフじゃないだろ?」

 腰を左右に振り、陰茎を揺らす。ラフィの視線はそれに釘付けだ。

「…ど、どうせ何を言っても犯すんでしょ? やるならやりなさいよ」

「じゃあ犯さん」

「……なんですって?」

 アッシュは新しい器具を取り出す。革で出来たパンティ。ただ穿くためには中心にある陰茎の張り型を咥えこまなければいけない。しかも、鍵が付いていて自分では外せない作りになっている。ラフィに刺さっている張り形を取り、そのパンティを無理やり吐かせた。

「イ、ヤ。いやああ」

 性質が悪い。それも決して絶頂できない程度に緩く振動している。そして、鍵を閉められた。

「食事だ」

 追い打ちにしかならない宣告。アッシュは自分の手首を切って、ラフィの口に押しつけた。血はヴァンパイアの食事であると同時に媚薬だ。こんな緩い刺激の中で血を飲んでしまったら発狂しかねない。

 アッシュは戦士としての素質もあるのか、その血は豊潤で味わい深く、簡単に言ってしまえばとても美味しいものだった。

 今までほとんど食事を与えられていなかった事、目の前の痴態で体が興奮し始めたこと、そして久しぶりに与えられた食事が極上のものだったこと。

 それらの事実はラフィにとって最悪なことばかりだった。

 空腹によって、それを撥ね退ける事も出来ない。与えられた分だけラフィは喉を潤してしまう。

「んん、ん……ぷは」

「もういいのか?」

 目の前には極上の血。手首を伝い、下に降りていく。

「牢屋の染みにしていいのか?」

 抗えなかった。息を整えることもなく、口に含む。ラフィは快楽に苛まれながら、決して絶頂することなく肢体を震わせ、極上の血を飲みながら泣き崩れていた。










 目覚めの気分は最悪だった。体が重く、体重が増えたように感じた。

「そうか、昨日はヴァンパイアに食事を与えたのか」

 少し血が足りないようだった。が、体を流れる魔力は充実している。やはり上位種のヴァンパイアは良い魔力を持っている。

「あああうぉうおおおあ?」

 助手のミリアが食事を運んできた。パンが焼かれもせずにそのまま皿に乗っている。アッシュは特に文句を言うこともなく食べた。所詮スケルトンに料理をしろと言う方が無理なのだ。

「そういえば、ヴァンパイアは?」

「ああぅうううう?」

 聞いても無駄だ。アッシュ場自分の足で様子を見に行くしかない。薄暗い廊下を進み、地下牢への扉に近づくと、叫び声が聞こえた。

「―――あぁあっぁぁっぁ、足りないの…もっとおおお! あああ!」

 一晩中張り形で弱く刺激され続けたラフィは目の焦点が合っていない。鎖に繋いだままなので、自分でいじることもできない。腰を前後に振って涎をたれ流し、それ以上に秘所から愛液を漏らしていた。

「気分はどうだ?」

 呼んでから反応するまで随分と時間が必要だった。それだけ追い詰められているのだろう。睡眠不足に中途半端な快楽攻め、牢屋の中は甘い匂いで一杯だった。

 アッシュの姿を確認すると、虚ろだった目が急に理性を取り戻した。

「絶対、に……ゆる、さない…」

 これには驚かされた。

 痛みには強くても快楽に弱いのが魔物だ。大多数の魔物はこの時点で挿入を懇願し、負けを認めて忠誠を誓う。もしくは狂ってしまう。そんな中でラフィは意識を保つどころか反抗さえしてくる。

「もったいない」

 美しく、強靭な精神を持つヴァンパイアを処刑しなければいけない事実に、アッシュは少しだけ残念そうにした。

 気を取り直し、残虐な笑みを浮かべて近づく。

「こないで」

 赤い瞳は涙ぐみ、最高級の糸のようなブロンドの髪は汗で首筋に張り付き、形のいい胸は乳首がツンと尖り、尻からは男を誘う蜜が流れ出る。

 もしも魔法を封じていない空間ならば、彼女に抵抗できないだろう。それだけの妖艶さをもっている。凌辱されようとも高貴さを失っていなかった。

 すぐにでも彼女に陰茎を挿入したい衝動に駆られる。だが、アッシュはそれを理性で抑える。

「随分といい匂いをさせているな」

「はぁぁん」

 乳首を軽くこねまわすだけで体を震わせるラフィ。ミリアが後ろに回ったことに気がつかなかった。ミリアは張り形付きのパンティの鍵をはずし、一気にずり下げる。

「っきゃああああああああああ!」

 今までゆるい刺激で蕩けきっていたので、その衝撃でラフィはあっけなく絶頂した。叫び声を上げてからも、口を金魚の様にパクつかせる。

「ミリア、生やせ」

「ぁあうう」

 スケルトンとは骨を基礎に魔力で仮初の体を作っている存在だ。つまり、訓練すれば人間の範疇を超えない程度に形を変えることができる。

 ミリアの陰核が大きく膨らんでいく。そこには幾分か小さいが確かに陰茎ができていた。

「ス、スケルトン、如きが、私、に触るな。汚らわ、しい…」

「うまく出来たら今夜は4回だ」

 アッシュの声に反応したのか、小さかった陰茎が大きく膨らんでいく。その陰茎はアッシュと変わらないほどに、むしろアッシュの陰茎とそっくりのものが出来上がった。

 いつも挿入されているので、その大きさが普通だと思っているらしく、ミリアが陰茎を生やすときはだいたいこのサイズだ。

「…っひぃ」

 冷たい陰茎が濡れそぼった秘所を擦る。ラフィは抵抗しようとするが、一晩続いた快楽攻めで動きが鈍く、ミリアの陰茎を咥えこんでしまった。

「やめな、さい! あぁん! アンデット! あぁああ! 冷たい!」

 嫌がってい、る素振りをしているがミリアの腰に合わせて激しく動いている。

「…ククク、久しぶりにあれをやるか…」

 その小さな1人言は誰にも聞かれることはなかった。







 それから毎日、彼女に対する凌辱は続いた。


「いつまでこんな事をされないといけないの…」

 今日の分の凌辱も終わり、ミリアは冷たい精液のついた体を拭いていた。2日に1回のシャワーは許されているが、冷たい真水しか出てこないこのシャワーは嫌がらせにしかならない。

 タオルを濡らし、体を拭いてから頭を思いっきり洗う。水は冷たく、凍えそうになるが、それよりも体を走る快感のほうが問題だった。

「ひゃぁあん!  んぁ」

 洗う度に漏れてしまう喘ぎ声、扉の前ではスケルトンのミリアが立っている。逃げ道はなかった。

「ああうう」

 外からミリアの声が聞こえる。どうやらシャワーの時間は終わりらしい。敏感になった肌を優しく拭いてから牢屋に戻って行った。



「…誰?」

 自分の牢屋に入ってから何かの気配を感じた。ベッドの下に何かがいるらしい。ラフィは用心深くベッドをずらす。

「クゥーン」

「犬?」

 なぜか犬がベッドの下にいた。犬は足にけがをしている。どこから入り込んだのだろうと周りを見渡すと、牢屋の壁に通気口があることを思い出した。

 椅子を台にして通気口をのぞきこんだ。

「…あ」

 この子犬しか通れないような隙間、そして外は10メートル以上向こうにある。ここから出ることは不可能だった。

「そっか、あんたも閉じ込められたか」

 頭を撫でると子犬は嬉しそうにその手を舐めてきた。

「ぅぅうっ」

 急に涙があふれてきた。子犬の怪我に響かないように何度も何度も撫でる。今はそうしていたかった。


 冷静になってから子犬をどうするか考えた。このままだと絶対に見つかる。1番良いのはあの通気口から帰ってもらうこと。だが子犬は足を怪我をしていて外まで出られないだろう。

 カシャン、カシャンとミリアの足音がした。ラフィは慌てて子犬を後ろに隠す。ガラガラと食器台の音もする。ラフィ以外にも凌辱している魔物がいるらしく、ミリアは食事を運んだりしに行く。

アンデットだから出来る不眠不休の行動だった。

「ああおうああああ」

「ねえ」

 ミリアに交渉してみることにした。交渉が理解できるとは思わなかったが、言わないよりましだった。

「あう?」

「パンをくれる?」

「……あー」

 ミリアはノロノロと食器2つを取り出し、1つスープを注ぎもう1つにパンを乗せてミリアに手渡した。

 何度か話しかけてわかったことがあった。基本的に脱出するための言うことは聞かないが、それ以外にはゆるいくらいに聞いてくれる。どうやら禁止事項を覚えるのに一杯らしかった。

「ほら、ゴハン食べな」

「ワン!」

「静かに」

「クゥーン」

 子犬は元気にスープをなめ始める。
「名前、考えてあげるわ。光栄に思いなさいよ? このラフィ・フォン・ドゥーイ様がわざわざ考えてあげるんだから」

 ゆっくりと時間をかけて食べ終わった子犬はラフィの膝の上でスヤスヤと寝ていた。やわらかいお腹を撫でながら、ラフィはなるべくいい名前をつけようと考えていた。

「あんまり物々しいのも言いにくそうだし、うーん。…アニー」

 パッと閃いたので口に出す。それはこの小犬にとても合っているような気がした。

「フフフ、アニー」

「クゥーン」

「あ、返事した。やっぱりアニーで決定ね」

 この日、ラフィは一晩中アニーを撫でて過ごしていた。

 調教中はどうしようかと思ったら、それは杞憂に終わった。調教が激しくなっていき、別の部屋でやるようになったからだ。

 木馬、貼り付け台、アイアンメイデン、見たこともない体を拘束する椅子。そしてなによりここは腐った臭いがするのだ。

 あまりにも多くの人間魔物の血と命を吸いすぎた道具はまがまがしい雰囲気に満ちている。もちろんアッシュは分かっていてこれを使っている。

 今日は木馬に跨らせ、両足に重りを付けて揺らしていた。

「あぁおおおあ! おああああぁ!」

 腕は後ろで拘束され、アイマスクで視界を封じられ、ギャグボールで口を塞がれていた。

 最近こういう攻めが増えてきた。ただひたすらに痛みを与え、アッシュが満足したら解放するというパターン。

 その中で痛みの中に快楽があることをラフィは意地でも認めたくなかった。

「言葉がしゃべれんのか? ミリアの仲間入りだな…ククク」

 木馬を蹴り、衝撃を与えてラフィの様子を見て楽しむ。腰が震え、どうやら絶頂したようだった。

 足の重りを外され、床に這いつくばるラフィ。

「今日は終わりだ」

 それだけを言って立ち去るアッシュ。入れ替わってミリアが拘束を解き、牢屋に連れて行く。

 精神の限界などとっくに超えていた。それでも自分を見失わないのはひとえに子犬のアニーがいることだった。ここに帰ってくれば愛犬が迎えてくれる、戯れることができる。それだけが彼女を支えていた。

「ただいま、アニー」

「ワン!」

 いつものように膝に乗せ、全身を優しく撫でてあげる。そうすると幸せそうにするのだ。

「できれば外で走らせてあげたいんだけどな・・・」

 アニーを抱きしめながら彼女は眠りに落ちた。







 とうとう、考えたくないことが迫ってきた。

「あれがお前を処刑するための断頭台だ」

 それは非常にシンプルな造りの断頭台だった。首を固定する台、上から落ちてくる巨大な刃。黒く変色しているのはきっと血だ。

「…ぁ……あぁ……」

 これからも続くと思っていた地獄の日々、その終止符は目の前にある。ラフィはその場に座り込んだ。

「なあに、すぐに死ぬわけじゃない。せいぜい怯えながら待つんだな」

「……ない…」

 鎖を引かれ、引きずるように牢屋に戻ってきた。

 すぐそこに死が迫ってくる。ヒタヒタと、決して逃げきれない速さで。体は震え、涙が出てくる。

 腕の中にいるアニーがあたたかい。

 カシャン、カシャンとミリアの足音。ラフィの牢屋の前で止まった。

「あううあ」

「……何?」

 首輪を持っている。調教が開始されるらしい。死刑を宣告したばかりでいつも通りの調教が始まるのだ。

 逆らう気力をほとんどなくしているラフィは、素直に従う。もう一度だけアニーを見てから連れていかれた。




「今日はやけに素直だな」

「………」

 ただ流されるだけで反応もしない。目はここではないどこかを見ている。だが、それはアッシュの予想のうちだった。

「あと1回だ。あと1回調教する。その次の日にお前の処刑が始まる」

「……」

「次に会うのが最後になるわけだ。最大限お前の要求を聞いてもいい。ミリアに欲しい物を伝えるんだな」


 ラフィは今の言葉を反芻していた。すぐに来るかもしれないし、いつまでも来ないかもしれない。

 ただアニーと別れることだけが心残りだった。



「おいで、アニー」

「ワン!」

 その日から食事が少しだけ豪華になった。1日中アニーと戯れていた。今まで粗末な服しか来ていなかったが、ここに来たばかりのような豪奢なドレスを着込んでいた。

 アニーは成長してしまって、穴を通って出ることはできない。

 精一杯、悔いがないように過ごしてきたつもりだった。そして処刑の日は何となく予想がついていた。感じていた。

 アニーをベッドの下に隠し、静かに椅子に腰をおろした。

 コツコツと人が歩く音が聞こえる。

「…よう」

「最後ね」

「あぁ、最後だ」

 覚悟を決め、豪奢なドレスを着たラフィは美しかった。そして彼女を処刑しなければならないことに心から残念だった。

 手を出し、立ち上がるのを促す。そのまま手をつないで廊下を歩いて行く。

「ねえ、お願いがあるんだけど?」

「犬のことだろう?」

 少しだけ握る手の力が強くなった。

「そう、アニーのこと」

「俺が言っても動揺しないってことは、予想してたか」

「えぇ、でも何でアニーを使って私を責めなかったの?」

 アッシュは小さくため息をついた。その姿が一瞬だけ、酷く老いた老人に見えた。

「俺も歳だ。少しだけ疲れただけだ」

「何歳なの?」

「無駄話は終わりだ」

 小さい部屋だった。

 小さなランプ、テーブルクロスがひかれた真ん中には、オルゴールが置いてある。

 オルゴールは宝箱の形をしている。下の方にネジがあるタイプだった。

「ここで何をするの?」

 アッシュはオルゴールのねじを巻き、オルゴールを開けてそっと置いた。流れ出す音楽、悲しくなるような、それでいて美しい旋律だ。

 そっとラフィに手を出す。それだけで察したのか、ラフィは手を取ってその場で踊り始めた。

 ゆるやかに、静かに。

 何回も繰り返し、やがてオルゴールは止まり、それと同時に二人の動きも止めた。

「…明日に処刑だ。昼に迎えに行く」









「報告書 ヴァンパイア、ラフィ・フォン・ドゥーイ」

 痛みと快楽を交互に与え、混乱させることから始める。

 じらし続け、快楽を限界まで高める。

 この時点で快楽の虜になる。

 気が狂ったヴァンパイアを処刑する。

 緑の月23日 死刑執行。

 遺体は、教会の浄化作業の下、火で跡形もなく消す。

 不浄の魔物はこうして浄化さた。


 調教者  アッシュ・ランバード





「……甘いな」

 アッシュは膝の上に乗っているアニーを撫でながら呟いた。アニーに嫉妬しているのか、後ろからミリアが肩に顎を載せている。

「ああおうあ?」

「何でもない。…もう歳か」

 止まっている暇はない。もうすでに次のターゲットは指定されている。ここ20年で一番ぬるい調教をしてしまったのだ。次こそは厳しくやろうと決めてアッシュは報告書を教会に送った。
10/04/18 16:20更新 / Action
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■作者メッセージ
自分自身で予想外www

アッシュの設定を考えているうちにこんな性格になっていしまった。

甘いね、温いね、今回はお試しだと思ってください。次は『痛み』をテーマにした調教を開始する。

快楽とは違う。ただ痛いだけ。

そんなのが苦手な人は次の作品は見ないほうがいいかも。

でもちょっと疲れたから、次は甘々なラヴが書きたいにょろー!

拷問してほしい魔物娘がいたら申告書に感想メッセージとして書いて送ってね! 

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33