連載小説
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女辻斬り
柳が風に揺れ、だらりと髪の毛のように垂れ下がった時、鍔切る音が暗澹たる夜闇を切り裂いた。雲間から溢れた月影が、男が掲げた白刃を、しらしらと濡らす。
大上段の構えは天衝くようで、一分の隙もなく、まるで精魂込めた仁王像にも似る。肩幅は熊と見まごうほどにむくむくと膨れ上がり、がっしと大地を踏みしめる威容は、勇壮な巨木を思わせた。蓬髪に伸ばし放題の髭面は、盗賊然として、野卑そのもの。
だと言うのにその精悍たる瞳と、研ぎ澄まされた構えが、ある種の修行者を思わせる凄まじさを、男から立ち昇らせていた。

街の大路の突き当たり。
街道に抜ける橋の真ん前。
凄然と刀を振りかざした男の前には女がいた。
だが彼女は女でもーー。

大上段に構えた浪人、坂下平四郎は相手を端倪すべかざると看破していた。
ーー大した奴だ。
こいつ、隙がない。
内心で舌を巻く。
だが彼とて免許皆伝の腕前、負ける気だけはしない。

女は刀を携えていた。揺(ゆ)らりと、まるで柳のようになよやかな立ち居で、だが頭頂から糸で吊られているかのように、体軸だけはぴぃんと芯が入っている。入れるべきところに力を入れ、抜くべきところを抜いた、油断のない自然体である。抜き放たれた刀を右手に持ち、左手は鞘を引っ掴んでいる。
彼女が女であろうとも、いっぱしの武芸者ともなれば、油断ならないことがわかる。

男が剛の剣ならば、彼女はまさしく柔の剣。
柔よく剛を制すとは、後世発達していく柔術の言葉ではあるが、同様に、剛よく柔を断つと言う言葉も存在する。

視線を交わす男女を中心に、つむじ風が渦巻くように覇気のぶつかり合う。だがつむじ風の内側は、鏡のように静謐な空気で凪いでいた。
真剣勝負。
享楽、虚仮、譫妄、軽薄、不埒、情交。
そうした雑然とした空気は一筋も存在しない。
辻斬り仇討ち痴情のもつれ。
俗世の恩讐欲楽とは一線を画す、武に生きる者の一種凄惨なまでの高潔さが存在していた。

しかしーー

女は目を疑うほどに美しかった。しかもどうしたことか、露出が多い。
凄艶。
豊満な乳房を抑えるさらしは剥き出しで、しかも胸を潰すほどに強くは巻かれていない。動くために最低限固定できればいいらしいそれは、はみ出した上乳と下乳で卑猥に映る。くびれた腰をさらけ出し、袴を履いてはいるが下履きはなく、むっちりと肉付きのよい太腿が、横ぎわからなまめかしい貌を覗かせている。
クッキリとした顔立ちは苛烈なまでの美貌を放ち、良家の子女、公家の娘と言われてもーー否、やはりその鋭い眼光は武家の娘であろう。

そのような娘が何故ここで熊のような男と対峙する?
ーーその理由に、彼女が生きてはいないことが関係するのであろうか。
彼女はーー屍人であった。

凄艶な肢体が青白いのは、なにも月明かりの所為ばかりではない。
そもそもが青いのである。生者にはありえない、死者の青さ。土の昏さ。
なまめかしい腹には十字傷があった。腰から腰まで届くほど、凄惨な横一文字に、へその上から袴の中まで、縦一文字が伸びている。その傷は、外からは見えぬが、その実恥骨にまで届いている。

死者であるはずの彼女が何故動いているのか。
平四郎に慮ることはできないが、しかしその傷を見るに、

ーー見事

と彼は感心してしまう。
あれは自身で割いたに違いあるまい。
彼女が割腹した理由こそ存ずるはずはないが、僅かの躊躇いもないその傷には感服する他ない。
しかし、ならばこそ。

何故彼女は迷い出て、道行く武士に勝負を挑むのか。

平四郎は彼女の瞳を見やる。目線は遠山の目つけとのちの剣道で言われるような、遠くの山を見るように、一所に集中させず、相手を俯瞰して見るような目のつけどころである。だから鷹の目。辺縁視を生かしつつ、彼女の視線を中央に見やる。

眼光は鋭く精悍なものがあるが、生者の精気は欠けている。
虚ろな眸(ひとみ)はまさしく死者のもの。
だが妖しくも凜と射抜く刃の閃きに、

ーー愚問

平四郎は己の疑問を切り捨てる。
女だてら、だがこの女はまぎれもない武士である。
太平楽のこの時代にあって、にわか武士、先祖の立てた武功、家名だけにしがみつく武士は多かれど、この女は本物だ。
軟弱者に辟易していた平四郎は、彼女をそう認めざるを得なかった。
なによりも、彼女から吹いてくる清冽な剣風は、平四郎の心の奥底の闘志を煽り、轟々と燃え立たせているのである。

平四郎は女を武士と思ったことはなかった。
だがこれはーー。

ギリ、と掲げた拳に力を込める。
殺すのは惜しい。
だが手心を加えれば血みどろになって地に沈むのは此方であること必定。
それに何よりも、そのような不純な動機でこの勝負を汚すことこそ割腹ものの無礼。

彼女は剣尖を地面よりも少々浮かせたまま不動。不敵なさまに平四郎の面貌には笑みが浮いてしまう。獰猛で清廉な武士の気炎は、彼の口から焔が滲み出るよう。

刀を構える彼女の右籠手が、風を通して禍々しい音を立てた。まるで骨を編んだかのような無骨で妖々とした籠手は、青白い鬼火を宿し、その鬼火は対峙している間にますます燃え盛っているようであった。

無貌ともおもえるまでの無表情。ただ煌々と目だけが輝く彼女。
だがどうにも。
ーー昂揚しているのは確からしい。

大上段に構える男に、自然体に剣気を流す女。
両者一歩も動かず、ただーー時を待つ。

魚が跳ねた。
それは真実の魚か。
それとも彼らの剣気によって象られた夢幻の魚か。

パシャリと乾いた水音が落ち。

両者どちらともなく白刃に月明かりを返す。

いざ尋常に、ーー勝負。



武者修行の坂下平四郎がその噂を聞いたのは茶屋だった。
町民たちが平四郎の厳つい風貌に、ひそひそと囁き出したのだ。

「聞いたかお前さん。また、出たんだってよ」
「ああ、そうらしいな。女の辻斬りだろ」
「いやいや誰も死んでねえんだから辻斬りじゃあねぇだろう」
「だが確かに切られてるんだろ」
「そうらしい。しっかしぶっ倒れてたお侍さんを起こしたらどこにも傷はねえ。だっけど、股間は濡れてるってぇ塩梅だ。お侍さん、子種を吐いてぶっ倒れてるのさ」
「くく、相手の女はえれぇ別嬪さんだって言うじゃねぇか。大方酒に酔って幻の美女と交(まぐ)わって、それを切られたって言ってんだ」
「へへっ、違ぇねぇ。じゃねぇと女の辻斬りに切られたなんて、太平楽のこの世でも、お侍さんが自分で言うわけがねぇ。いや、この噂を吐いてんのはヤられたお侍さんじゃあねぇってことだな」
「しかしその女、死人だって噂もある。それに、侍連中の間じゃあその女、滅法強くて近頃じゃあ刀を下げて近くを通る奴はいねぇってもんだ。この前も道場師範がぶっ倒れてたってぇな。ああ、この街じゃあその辻女をやっつけられるお侍さんはいねぇのか」
「おい、辻女じゃあ意味が違うぞ」
「ああそうだ。じゃあ相棒、いっしょに辻女でも引っ掛けねぇか?」
「ははは、お互い女房にバレたら殺される」
「違ぇねぇ。ははははは」

「「ははははは。違いねぇ。じゃねぇよ」」
と、精悍な女どもの声がかかった。
途端、男どもは震えだした。必死の弁明を繰り返すも、

「「問答無用」」

首根っこをむんずととっ捕まえられて、猫のようにぶら下げられながら連れていかれた。

「あの女ども、できる……」

男どもを連れ去った鬼のような女房たちに、感心した声をあげる平四郎であったが、彼らは間違いなく自分に聞かせるためにあの話をしたのだろう。
彼らの話に出た道場は、平四郎はたやすく破った。
この街はこの程度かと落胆していたのだが、侍を貶すような町人たちの言葉に憤慨することなく、平四郎はむしろ俄然面白がった。

それなら一丁俺が試してやろうじゃあないか。
そうして他の町人にもふらりと話を聞きーーまるで熊のような彼に話しかけられた町人の中には、ふるえてへどもどする者もいたがーー、その女が出ると言う橋を割り出したのであった。

しかし、美しい、死人、女の辻斬り……。
どうにも戯作じみてはいる。
真っ当に考えれば、そうした噂を流して客を呼ぶ、遊女の手練と思えなくもない。

どちらにしても構うものか。
女の辻斬りであれば腰の刀で斬り伏せ、辻女であれば股の刀で斬り伏せる。

それでいい。

そう思って彼はぷらぷらと川のほとりを歩いていた。いや、彼としてはワザと隙を見せ、女辻斬りとやらが自分を狙いやすくしたつもりではあったのだが、それは熊のごとき容貌の坂下平四郎。
その歩みは泰然として、生半な辻斬りでは斬りかかりようもない威容であった。

だが日が落ちて人通りも消えた頃、煌々と足元を照らしていた月影が俄かに暗然とした雲に覆われ、背筋をささくれ立たせるような気味の悪い風が吹いた。
ふと見れば、柳の下に女はいた。
不気味な夜闇に、青白くポゥっと浮かびあがっていた。

河原を眺めて平四郎に横顔を見せるそのさまは、凄艶として妖艶で、線の細い首筋、さらしを弾けさせんばかりに膨らんだ乳房、なやましい腰つきには思わず欲情を抱いた。
だが、スラリと送られた流し目は、哀しげでありながらも、次の瞬間、清冽な剣気を放った。

それを受けた途端、平四郎からは彼女に催した劣情が、雲散霧消してしまった。
代わりに、ふつふつと魂を底から煮えたぎらせるような、勇猛な剣気が噴き出てきた。
女は艶やかな口元を歪めると、平四郎に向き直り、鬼火を灯して刀を抜き放った。
平四郎も刀を咄嗟に刀を抜いた。

武士ならば、家名を掲げて名乗り合うのが礼儀であろうが、女を死人と見て取った平四郎は、死者には不要、乃至(ないし)、家の誇りではなく己の剣を試すのに、言葉は不要、出会ったからには剣で語るべし。
とばかりに、女もそれに倣ったのか、互いに無言のまま、目線を離さず刀を握ったまま、じりじりとにじり寄り、油断なく一足刀の間合いへと立ち入った。

しかし、膠着した。

互いに構え、向き合うことは永劫にも似た時間を思わせ、心身を剥き出しにし、互いに互いの隙を探り、知ろうと読み合う行為は、それでもーーただ楽しかった。
そう、命を懸けた場であるはずなのに、平四郎にとってこの対峙は心から愉しかったのである。
不思議な感覚であった。
命を削り会うことが楽しかったのではない。この女とこうしていることが、こうできる相手と巡り会えたことがただ楽しかった。

しかしこのまま膠着しているつもりは彼にはさらさらなかった。
楽しくとも、負けたくはない。
これほどまでの愉悦を与え、昂ぶらせてくれたこの女には、だからこそ勝ちたい。
彼は俄然意欲を燃やし、女の隙を伺い動きを読んだ。

その膠着が破られるのはーー、夢幻の魚の水音。



大上段に構えられた平四郎の刀が、稲妻と見まごう鋭さ、速さ、力強さで苛烈に夜闇を割いた。まさに白刃は雷の煌めきを誇った。
剣圧だけで怖気付きそうな気迫と精妙な技の冴えに、だがしかし、女は艶やかな口元を歪めると、地に下げていた切っ先を颶風のように切り上げた。

「うむぅ!」

平四郎は驚嘆の声を上げた。乾坤一擲。渾身の切りおろしを、彼女は細腕の刀で自身の右に逸らした。茫々と青白い鬼火が気炎を巻き上げ、骨を編んだかのような籠手がガチャガチャと死者の快哉を謳う。

だが平四郎は逸らされた勢いを殺さず、刀を返し寸分違わず同じ軌道で返した。
軌道には女の胴がある。生前の傷を、再びかっさばく軌道である。
だが女も鬼火の籠手で刀を振り下ろした。
生者よりも艶やかな死者の笑みが顔に浮いている。

ぎぃん。

パッと清冽な火花が散り、平四郎は追撃して来た女の鞘をも弾き、跳ね返りざまの刀を女の貌に向かって押し込んだ。鞘はひゅるひゅると落ちゆく鳥のように風を鳴らし、宙に飛ぶ。だが女は諸手に刀を捕えると、鏡合わせのように、同様に押し込んで来た。

弾き、合わせる。
鞘がカロンと乾いた音で落ちた。
だが彼らの蜜時は濡れに濡れた。
火花が散り、煌めく華の内で彼らは幾合も刀を合わせた。

刀で語り、平四郎は女の悲しみを知った。
女であることで刀の道を行けなかった無念を知った。
まさしく死者の鬼気迫る剣気には、無念の悲しみと、今好敵手と出会えた歓喜が宿っていた。

それならば孤高に我を高め、剣の道を志す己の気骨も彼女に知れただろう。
彼女の無念など知ったことではない。
ただ、この永劫にも思える凝縮された剣戟に、生前も死後の己も全てかけ、ぶつけあえる喜びに浸れば良い。

だが決して、負けてはなるものか。

平四郎は、負けん気強く我武者羅だった悪童時代に戻った気がしていた。
それならば眼前の彼女は、清冽に咲き誇るお転婆娘か。

彼らはどちらともなく笑っていた。笑い、魂削る死闘に身を焦がした。

「おぉおッ!」

右八相変形に刀を構え、熊じみた膂力を以て平四郎は女を叩っ斬ろうとした。

「はぁあああッ!」

死したはずの女の唇からはまるで華散らすような裂帛の気勢が迸った。右脇構えから放たれた切り上げの軌道は、真っ向から男の切りおろしにぶつかった。

暗澹たる雲は彼らを中心に渦を描いて晴れていた。眸(め)のように不気味な三日月。しかし燦然と降り注ぐ星が静謐と降り注いだ。

男と女は互い違いに抜けていた。

死闘の幕開けを告げた夢幻の魚の水音が、
パシャリと侘しく静寂(しじま)を打つ。

彼らは満面の笑みを湛え、不動に星の光を浴びていた。
勝負の、行方はーー。

次の朝、女辻斬りにやられた侍は股間を濡らして倒れているというが、平四郎の姿はなかった。
そして、その女辻斬りは、二度と姿を見せることはなかったと言う。



「ようやく見つけました。我が生涯、いえ、死後永劫の我が主君」

道端で土下座する女辻斬りに、平四郎は面食らった。折れた彼女の刀が転がり、籠手が砕けていた。晴れた星影がまるで清め水のように彼らに降り注ぐ。暗澹たる雲は、もはやない。
勝ったのは、ーー平四郎であった。

いくら死人と言えども女、そして高潔の武士(もののふ)である。
噂によれば彼女に負けた侍たちに死人はいないと言う。
勝ったのならばそれ以上、平四郎が女を打擲する道理はなかった。

それに、聞けば彼女ーー名はお麗と言うらしいーー、一時代前の武家の娘と言う。
剣合で平四郎が感じた通り、剣の道を志したかった彼女は、女として生まれたからにはそれは許されなかった。しかも望まぬ政略結婚に使われそうになり、ならば死して来世に望みを託す、次は男に生まれるよう、腹をかっさばき子袋を取り出し引きちぎり果てたと言う。
壮絶すぎる気骨であった。

だがどうしたことか、死して葬られたはずの彼女は目覚め、墓から抜け出し気付ばそのような姿となっていた。
そして、自身が何になったかを悟った。

落武者ーー。
あやかしであり、魔物娘なのだと言う。蘇った彼女には生前と異なり、剣の道以外にもう一つ、死して冷たくなった身を焦がす、願望があった。
主君に仕えたい。
たった一人の、この身のすべてを賭けて仕える主君に。

だがなよなよしい主君に仕えるなど慮外。
あやかしと化した自身を怖れず、尚且つあやかしとして生前よりも磨きに磨いた剣技を振るう自分。それを叩き伏せられるほどの豪傑こそを主君としていただきたい。叩き付せられずとも、これはと思う男ならばよい。

だが、坂下平四郎は彼女の望みを申し分なく叶えた。
そして道に膝つき肘も額も擦りつけ、懇願しているのであった。
むっちりと膨らんだ双臀が、袴を押し上げなやましい曲線を描いている。思わず揉みしだきたくなるような尻だった。

平四郎は困ったように顎を掻いた。伸び放題の髭を太い指がゴワゴワとまさぐる。
自分は武者修行の身、それに自身こそどこぞの藩に仕官する身であって、主君として人を仕えさせる身ではない。
それに、女はあやかし、死人であるのだ。いくら腕が立ち凄艶の、申し分のない美女だとは言え、そのような女を仕えさせては、それが明るみになった時に、困る。

「下女として、婢女としてでも構いません。それに……、あなたさまであれば、夜伽も……」
あまりの言い分に面食らうも、面を上げ、濡れた瞳でスラリと妖しい流し目を送られれば、思わず唾を呑んでしまう。
が、平四郎は平然を装う。

「お前、それが嫌で腹を割いたのではなかったのか?」

そうだ、彼女の死因はそれであったはずだ。だと言うのに彼女は、

「それは望まぬ相手との場合です」凛と瞳には微塵の悔悟も存在しなかった。あるのは信念を貫いたと言う、壮絶なまでに鋭い輝き。
平四郎は、身惚れてしまう。
だが彼女の瞳はすぐに妖しの光を宿す。

「それに、あやかしとして起き上がった私は、子袋も元通り、どうにも、子まで孕めるようになっていることがわかるのです。平四郎さまであれば、私はーー」

ほう、と吐かれた女の息には、まぎれもない情欲の色があった。妖花の香りがここまで届く。平伏した女の青白い死者の肢体が、仄かに青白い月光に濡れ、燐光をまとうようにしらしらと照り映えていた。死者の淫熱は鬼火となってチラつき、女の肢体に、一種凄惨なまでの翳を刻む。
女が濡れた流し目を送る。

「平四郎さまは、私を抱きたくはないのですか?」
「ーーーー」

平四郎の反応に、女の肢体からは、清冽な、妖気そのものの、情欲の芳香が放散された。彼女こそが、月明かりに燃える鬼火そのものであった。
彼女はおもむろに立ち上がると、平四郎の手を取った。そそり立つ巨峰が、挑発的であった。

「一度、試してくださいませ」

貞淑であったはずの彼女の言とは思えない。
だがそのウットリとした貌は、好いた男だけにしか見せない乙女の顔であった。

背筋がぞわとした。
それは男の欲望が屹立した疼きであった。
彼女が妖物であろうと死人であろうと、麗しい乙女には違いない。肌の色は青く死者のそれではあるが、月明かりに揺らめいて、生者よりも生々しく、なまめかしく感じられた。
それはすでにあやかしに魅入られたと言うことでもあったのであろう。

平四郎の股間は盛り上がり、お麗に引かれるがまま。嫋やかに細い、女の指。よくこれでああも刀を振り回せたものだと、引く力も華奢な女のもの。そのなよやかな力加減に、自分が女に誘われると言うことを強く意識させられ、平四郎は昂ぶってしまう。

だがーーその指は、冷たい。死の冷たさだ。絡みつく指は妄念のように、背筋を泡立たせる。それでも平四郎はお麗に手を引かれた。情欲のままに誘うこの女を、あのように苛烈に華々しく自分と斬り合いつつ、今は妖艶と化した彼女を抱きたくて仕方がない。

橋の下へと連れ込まれた。草履の裏に触れる砂利が、玲瓏な夜気を伝える。橋の影の深い夜の帳の静寂(しじま)を、川の流れだけが閑(しず)かに横切って行く。
くるりと振り返り、彼女は平四郎の胸にしな垂れた。冷たくとも柔らかな女の肉体が、むしろ生者よりもなまめかしく彼を誘った。お麗は細腕を厳しい男の背に回し、肢体を擦り付けるようにして、
ツ、
と、青い顔を仰向けて口をねだった。

見よ、可憐な乙女をシッカと抱きしめ、熊のような男が、これまた熊のようにゴワゴワとした髭面で花のような唇を覆って行くではないか。夜半、橋下の秘め事。だがそれは背徳的なものではなく、西洋の戯曲的な美しさがあった。

女の唇の柔らかさに、平四郎は感動していた。ふるんとして吸いつき、なんと彼女の方から舌を伸ばして来た。唇を舐められ、平四郎は唇を開いて招いてやった。さっそくとばかりに死女の舌が己の舌を搦め取り、にちにちと淫靡な蛇のように絡みついてくる。
巧みな遊女のような舌遣いに、平四郎からも舌を絡める。女の口に差し入れれば、舐め回しやすいように、絡みつきやすいように、彼女は受け入れてくれた。

ゴワゴワした髭面を、女の繊細な輪郭に押しつけながら、甘露のような女の唾液を啜り、平四郎は陶酔してしまう。
美女と野獣。熊のような髭面に吸われる花のような唇。

否、

その唇は可憐ではあっても死の昏病(くらや)みに鬱(う)っそりと咲く婀娜花である。男と睦み合いながら、艶やかな面貌にうっすらと開く裂け目からは、烱々と妖しげな眼光が漏れた。
男を惑わす黄泉の鬼火。平四郎は、妖しげなゆらめきに惹きつけられ、肉欲の道に惑う。



「はっ、あ……」

女の喘ぎがせせらぎに流れて行く。平四郎は土手の芝生に背を預けたお麗にのしかかり、その細い首筋に牛のような舌を這わせていた。強(こわ)い髭面がが、チクチクと肌理(きめ)細やかな肌にささる。
武骨な愛撫に、お麗は唇を快美に戦慄かせた。
平四郎の節くれだった太指が、お麗のたわわな豊乳を、さらしの上から無遠慮に揉む。ゆるく抑えるだけにしか巻かれていないさらしの下で、たまらない乳肉が卑猥に変形する。
平四郎の熊のように大きな手にも収まりきらない。掌(たなごころ)の果実は、軽い力でも驚くほどに指が沈み、しかもムッチリとした弾力で押し返してくる。

平四郎は彼女の首筋に赤い点々を刻みつつ、彼女の乳に我を忘れた。

「あぁ、あぁ……」

甘えた声音が降り、もっと揉んでもらいたそうに身をよじる。

「これは、たまらんな」
「ああ、私は、平四郎さまのものですぅ……」

橋下の影は夜の帳に隠れてなお暗く、女の喘ぎと男の欲望が澱のように凝って絡み合う。

彼女の肌は甘かった。伽羅木のような薫りまである。死者とは思えない肌つやのなめらかさ、匂い立つ女体に平四郎は鼻息が荒くなってしまう。熊のような巨体が、牛のように荒ぶって、お麗の肢体を舐めしゃぶる。

聞いているだけで甘く蕩かされるような女の艶音は、官能によがっていた。平四郎の魁偉な容貌に怖じけるどころか、逞しい肉体で蹂躙されることを期待するような女のくねつきだった。体温のない死女の肉体が、自身の欲情に反応して火照っているようで、平四郎の股間はますます昂った。

「なんと淫らな体だ。体つきは生きていた頃変わらないのか?」
「はい……。胸も尻も、変わりません」

本当は、もう少々控えめではあった。だがそれを知るものはもういない。
それを知らない平四郎は乳房を握る指に力を込める。
少し強すぎたかもしれないが、女の唇からは官能の喘ぎが迸ったのみだった。

「もったいない、それで男を知らずに死ぬとは……」

思わず漏らしたそれは、まぎれもない平四郎の本音であった。
だがその肉惑を、死後とは言えこうして自分が一人占めして好きにできると言うことは、僥倖以外のなにものでもない。
平四郎は彼女の身体に自分を刻み付けるように、艶やかな肢体の肌を撫で回す。さらしを唾液でベトベトにする。

「あぁ……。私の操は、平四郎さまのために取っておいたのです」

今はじめてあったばかりの自分に、そんなわけがない。
しかしこうして彼女の豊満な乳房を舐っていられると言うことは、そのようにも思える。
平四郎はさらしの上から柔肉に歯を立てた。甘噛みだが鋭敏な快楽にのたうつお麗の股に、ぐぃと怒張した魔羅を押し付ける。

ぽぽぽ、と鬼火が散って、一瞬羞じらいの朱を浮かべる青肌が見えた。息を引きつらせ、切なげに眉をひそめつつも、情欲の期待に瞳を潤ませる、女の貌であった。

法悦に極まって行く女の喘ぎに、平四郎はさらしを解きにかかった。ハラハラとほどけて行く隙間から、さらにむっちりと乳肉が膨れ上がって来た。
夜目は効く方ではあるが、しかし闇に闇にもぐっては、せっかくさらしをといたところでその生肌は拝めない。それをチト残念に思った。
と、

茫(ボウ)ーー。

青白い鬼火が灯った。
尚いっそう青白い彼女の玉肌が、あらわに浮かび上がた。
死者の焔に照らされた死者の肉体は、女の豊満な陰影を、妖しげな翳を以て描き出した。その凄艶な肢体に、平四郎は刮目して息を呑んだ。
羞じらいを含みつつも情欲の期待が抑えきれない媚びた目線。清冽な剣気を放った彼女のその表情だけでも、平四郎は抑えきれない獣慾を覚える。

豊満な乳房は、なるほど、あれで締めつけていたのだな、と思うほどに見事に触れ上がっていた。平四郎の熊のような両手でも、肩乳も包みきれない。巨峰を下ればなめらかな裾野に十字の傷。
それは痛々しいよりも、むしろ彼女の魅惑を際立たせていた。生前の高潔さの証であり、その彼女が自分にだけ魅せる媚態。平四郎は思わずその傷を指でなぞっていた。くびれた腰がなやましくよじられ、袴の隙間から覗く肉づきのいい太ももは、すでに濡れているかのようにシットリとしていた。

「申し訳ありません。このような傷物の肌で……」

本当に申し訳なさそうな顔をしていた。

「何を言うか。この傷はお前の純潔の証だ。傷物と言うのなら、今から俺がするのだ」

平四郎の言葉にお麗はウットリとして頷いた。

「はい、平四郎さま。お麗を、あなたさまの手で、傷物にしてください」

蕩けた表情と声音に、平四郎は参ってしまいそうだった。艶態だけで男をこうも昂らせるとは、まさに魔性の女だ。
平四郎はマジマジと見やった。
すると彼女は花のように身悶えた。

「そんなにマジマジと見られれば、恥ずかしい、です……」

平四郎は我が耳を疑う。

「自分で火を灯したではないか」

鬼火を平四郎が灯せるわけがない。自分は確かに彼女の肢体を存分に見たいと思った。だがしかし、口に出してはおらず、なによりそれを灯したのは彼女である。
傷跡を撫でる太い指に、お麗が身体をくねらせつつ言う。

「平四郎さまが見たそうにしていましたので……。それに、お麗の身体を、しっかりと検分していただきたかったからです。あなたが召し抱えるに足る女の身体であるかどうか……」

生者のものよりもなまめかしく瞳は潤んでいた。
平四郎の男がぞくぞくと泡立ってしまう。彼はなめらかな肌を撫で回す。

「ならば存分に検分させてもらおうか」
「あぁっ、う……」

すりすりと乳輪をなぞれば、女の肢体が強張った。乳輪から膨らんでいる乳首は、彼女の滾りをまざまざと見せつけていた。ギュッと眉根を寄せて感じる女に、平四郎は嗜虐心をそそられる。

「お麗、感じるか? 俺に嬲られて」
「あっ、くぅ……」

平四郎はジリジリと焦らすように、執拗に乳輪の辺縁だけを責め、その聖域内には押し入ろうとはしなかった。お麗が焦ったそうにしても、乳塔には触れないよう巧みに躱し、柔肉を揉みつつ焦らした。

「正直に言え。言ったら触ってやるぞ」
「うぅ……」

すり、すり……。

「あっ、あぁ……」切なげな声音が、徐々に意味のある言葉を紡ぐ。「か、感じて、います……。ですが……、これでは……、はぅ……」

花のような吐息。女の身悶えにふるりと乳がゆれる。腰がかすかにくねりはじめていた。

「どうした? して欲しいことは、言ったらしてやるぞ」そう言って彼は下乳に吸いつく。乳輪を撫でつつ、ぴちゃぴちゃと谷間へと舌を這わせて行く。

「あっ、くぅう……」顔を挟み込んで来る乳圧がたまらない。髭が彼女の繊細な乳肌を刺激し、女の官能を高ぶらせて行く。彼女はなやましく喘ぎつつ、意を決したかのように唇を戦慄かせる。「乳首……、平四郎さまに、乳首を触っていただきたいのです。擦ったり、つまんだり、引っ張ったり……。舐めて、転がして、吸いつきも……。ああ、なんと私は浅ましい……。ですが、意地悪です、平四郎さまぁ……」

甘えた声音が男を煽った。いじらしく青い頬を染めても、期待を隠せない口元がかすかに緩んでいた。平四郎はたまらず乳首に吸いつく。

「あぁあぁあッ!」

甲高い嬌声が迸った。

ちゅく、ちゅく……。

髭面が美女の乳房に吸いつき、舐め転がしながら吸い上げる。反対の乳首は指でつまみ、擦り、扱いて引っ張り上げてやる。
クリクリと敏感な箇所を責め立てられ、焦らしに焦らされたことも相まって、淫らな嬌声高らかに、女はますます昂ぶった。狂態とも言えるなまめかしさで、腰がくねり、股間に押しつけられた逞しい男根に、媚びるようだった。

平四郎は右の乳首を堪能すると、反対側に移る。彼の唾液に濡れてピンピンに勃起してさらに膨れ上がった乳首は、卑猥なことこのうえない。ゴツゴツとした指が芋虫のように女の肌を這い、腰を撫でさすり、彼女の死因である腹の傷をなぞった。

「あぁ、平四郎さまぁ、ご無体をぉ……。アッ! あぁ……乳首、乳首をそのようにキツく吸われては、と、取れてしまいますぅ。あぅっ、はぁあ……」

己の身体にむしゃぶりつく男の蓬髪を抱いて、お麗はギュッと眉根を寄せて瞑目し、ぶるぶるとふるえた。
ーー果てたらしい。

荒く息を吐く女に、平四郎は容赦なく口を下に向けて這わせて行く。同時に、袴の上からでもわかるくらいに濡れそぼった女陰を、上からすりすりとなぞってやった。彼女の傷跡に、口つけた。

「あはぅっ、ふっ、くぅ……」

切なげに眉尻も眦も下げて腰をくねらせる女体の傷痕を、平四郎は丹念に舐め回して行く。
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに、彼女は男に身を任せた。

「お前の肉体を、本当に傷物にするのは、俺だ」
「ーーーーッ!」

ビクっ、ビクっと、まるで稲妻でも奔ったかのように肢体が跳ねた。きゅうぅ、と爪先が丸まった。袴の股間部分は、まるで粗相したようにグッショリと濡れていた。
涎が滲むことも慮外において口を半開け、トロンと恍惚とするお麗の袴を、平四郎はしゅるしゅると剥いていく。
夜闇の鬼火に燃える衣擦れが、淫猥な響きを奏でた。

するりと袴を落とせば、淡い茂みが露わとなった。平四郎がぐいと太腿を押し開けば、その裂け目で花弁がくにゅくにゅと蠢き、花蜜が溢れた。生前も死後もまだ男を知らないはずの女陰は、その形こそは清廉無垢なれど、そんじょそこらの遊女も見せないほどの、魔性の誘惑であった。
ーーあやかしの牝華。

「平四郎さまぁ……」

平四郎が抑えている太腿には力が入っていた。羞恥が女肉をふるわせていた。しかし足を閉じることを、彼女は必死でこらえていた。そのいじらしくも健気なようすに、平四郎の胸の裡(うち)には愛しさすら込み上げた。
荒い息でむっちりとした太ももを、尻を上げさせるまでに押し上げて、より女陰を広げさせた。

「あぁっ、この格好は、恥ずかしい、恥ずかしいです平四郎さまっ。ご、ご容赦をぉ……」

ふるふると太腿がふるえるが、しかし抵抗する力は決して入らない。太腿に引かれて割れ目が開き、淫らでも薄桃色に清純を示す媚肉に、平四郎は感動すら抱いてしまう。
彼にマジマジと見られていることにも感じているのだろう、こんこんと秘蜜が湧き出していた。

平四郎は髭面で彼女の股間を埋めた。甘酸っぱい女蜜が口に広がった。

「ひぃうッ! あぁあッ!」

お麗は感極まり、ピィンと足先が伸びてしまう。ぴちゃぴちゃと、犬が水を飲むような音がする。ぼぉうと鬼火が奮えた。

「あっ、あぁう……。女陰(ほと)を舐められてッ、あぁ、吸われて、舌がナカにぃ……」

羞恥に頬を染めつつも、精悍でもあったはずの彼女の貌は、トロンと情欲に爛れ、涎を垂らしながら身をくねらせた。唇の隙間からチロチロと桜色の舌がエロティックに覗き、死者でありながらも快楽を求める倒錯的な肉体は、淫猥な芳香を放って男を虜にした。

平四郎は土手肉を頬張るようにして割れ目を咥え、ふっくらした恥肉も、ぬめついた媚肉も、ともに舌を這わせた。縮れた陰毛と髭が絡み合い、擦りつけながら女蜜を堪能した。トロトロと溢れて止まらない。襞を丹念になぞり、くちゅくちゅと粘膜を絡み合わせて啜り上げる。

じゅ、ずずずずず……。

「はぁおッ! あぁあああああ〜〜〜〜ッ!」

よがり泣く女の凄まじさ。平四郎は夢中で彼女の蜜壺を舐め回し、啜り上げた。
華蜜が口の中に甘酸っぱい魅惑で花開く。抱え込んだむっちりとした太腿もたまらない。
貌を隠していた肉マメを剥き出し、無骨な指先がクリクリと撫で回す。擦られ、つままれ、捻られ、彼女はなんどもビクビクとのたうった。
そのたびに平四郎の口へと、ぶしゅりと蜜が噴き出した。
濃厚な牝の香りと味わいに、平四郎は眩々(くらくら)してしまう。

もはやはじめの清冽な顔貌はどこへやら。
はひはひと快楽に噎ぶ女は、男に吸われて淫らな婀娜花となって腰をくねらせていた。

女の蜜汁でしとどに濡れた髭を離せば、彼は己の袴に手をかけた。

彼女の瞳がまん丸くなったのも、無理はない。男であっても、むしろ男の方が驚愕と言う点ではその度合いは大きいのではなかろうか。

威容を誇ってそびえ立つ肉刀は、溢れ出した欲液で凶悪に角張った雁を濡れ光らせ、毒々しいまでの血管が、肉に凸凹と漲っていた。ゴロリと膨らんだ二対の睾丸が垂れ下がり、まさしく女を悦ばせ、孕ませる器官であると言う雄々しさを備えていた。

途端、お麗は欲望に歯止めが効かなくなったかのようにはっはと犬のように喘ぎ、唇の隙間から桃色の舌が淫らなくねつきで見え隠れした。自分から太腿を上げて手で支え、男を滾らせて思う存分に貫けるようにした。肉ビラがくねつき蜜が溢れる。

平四郎は荒い息を吐き、思わず呻いた。
これが処女か。
これがあやかしの妖威か。
まさしく目も眩むような妖花の誘惑に、一気に根元まで腰を埋めた。
淫らな陰唇を巻いて、ずぷりと肉根がハマりこむ。

「あぁあああッ!」

おとがいを仰け反らせて女は絶叫を迸らせた。瞳を白黒とさせ、己を貫いた灼熱の剛直を、ぶるぶると感じた。
突き入れた平四郎も、ぶるぶると身体を戦慄かせ、たまらない処女のキツい締めつけに、ネロネロとザワつき絡みつく肉襞の献身に、拳を握った。

名器。
これほどのものに出会ったことなどない……。
感動と快楽に、打ち震えてしまう。

「ふ、太いぃ……、熱いぃ……。これがぁ、平四郎さまのぉ、男、根……。あぁあああ……。気持ち良い……」

あまりに逞しすぎる肉根で一気に肉道を押し広げられ、結合部からは肉根を伝ってぬるりと朱が滴っていると言うのに、彼女はよがり悦んでいた。
さすがは魔物娘である。
その死者の肉体に刻まれた貪欲な肉欲は、淫熱で肢体を燃え立たせ、男の腰に足を回し、背を抱いた。そして彼女の方から腰を動かし出して男を驚かせた。

「く、ください。平四郎さま……。お麗に肉の法悦を。子種を注ぎ、主君の胤を孕ませてくださいませ……。ご奉仕、させていただきます。あぁああ……」

「おぉお……。すごい、これは、おぉおお……」

ご奉仕と言いながらも自身こそが肉欲を貪っているお麗だが、その顔は至福に染まって蕩けていた。
あまりにも幸せそうで気持ち良さそうで淫らな彼女の面貌に、たまらなくならない男などいない。平四郎の方からもガシガシと腰を動かし、女陰を愉しませる。相手もみっちりと絡みついて、精を搾ろうと蠕動して来る。
魔性のうねりに翻弄されてしまう。

しかし相手にとって不足はなしと、平四郎は下からしゃくりあげて来る女に、負けじと掬うように腰を動かし、体重をかけて押し潰さんくらいに肉先で子宮を押し込む。力一杯の肉杭の突貫に女は噎び、しかし愉悦に肢体をくねらせた。
まさしく彼は死の香りのする凄艶な妖花に絡みつかれていた。
ーーたまらなかった。

腰を大きく引き、ちゅぷちゅぷと肉先の膨らみで浅瀬を掻き回しながら乳房を掴み上げ、乳首を舐め転がす。甘みが増えている気がした。
揉みしだき、陰核を捻れば跳ねながら肉根を迎え入れてくれる。まろみのある蜜液がどんどん粘り気を増して絡みつく。うねうねと激しく蠢く媚肉はまるで咀嚼されているようだ。
蜜液を溢れさせながら奥まで押し込めば、子宮口が甘えるように、否、果敢に吸い上げるように吸い付く。

たまらない極上の女体は、感じさせ、性器をこすり合っているうちにどんどんと、さらに具合が良くなる。
まるで平四郎の精気を受けて、陰々と咲き誇るようであった。
激しく振りたくれば女の法悦は感極まり、ぐちゅぐちゅと結合部からは淫らな水音が泡立ち、ぱんぱんと腰打つ音が闇に揺らめく鬼火を凄艶とくゆらせる。

「あっ、はぁあああっ! 平四郎、さまぁあっ! はぁああっ!」

愛しさすら含めて己の名を呼ぶ彼女に、極上の快楽を与えてくれる彼女を、平四郎は手放したくなくなっていた。
こんな女であれば、あやかしでも死人でも構わない。この女に仕えられて、一国一城を築きあげることこそ、男子の本分ではなかろうか。
平四郎は呻きながら彼女のナカで己が膨れ上がるのを感じた。
もうすでに、欲望の溶鉄は、根元までせり上がっていた。

「はっ、あぁあああっ! 平四郎さまのものが、私のナカでさらに膨らんでぇっ! あっ、あぁ……。出る、射精するのですね! 出して、ナカで出してくださいっ。私が、平四郎さまのものであると言う証を刻んでくださいませッ! はあぁあッ!」

ビックビックとふるえて蜜を噴き出す身体で、お麗はなおもしがみつくと、平四郎の腰に回した足をキツくキツく締め上げた。腰が密着し、凶悪なうねりが精を引っこ抜こうとした。

「ぉおっ、ぉおおおおっ!」

平四郎はぐぃいと深く深く肉根を突き入れると、彼女の膣奥で爆発させた。尿道を焼き切るかのような圧倒的快楽。身体中のふるえが止まず、白濁が脈打つ男根を通って、子袋に注がれる。

「あぁあああッ! はぁあ、あぁあああああッ! 平、四郎、さまのぉ、子種……あとちゅぎ……。お子が、私の胎……。お仕えいたします……。熱い……、熱い……」

忘我の恍惚で淫らな肢体を戦慄かせる女に、平四郎はこれほど美しいものを見たことはないと思った。止まらない射精が脈打つごとに、ぶしゅぶしゅと蜜が噴き出しビクッビクッと女体の絶頂が伝わる。腰のくねりはやまず、根こそぎ精を搾ってきた。

荒い息を吐きつつも、平四郎はお麗の瞳を真っ直ぐに見た。
蕩けた瞳には妖しげな光が宿っていた。
この妖艶な輝きが、いざ刀を取ると清冽な輝きとなるのだ。この淫靡な輝きは自分しか知らない。自分だけのものに、したい。

「お麗、俺に仕えてくれるか? 俺に仕えて、妻となってくれるか?」
「ーーーーッ」

平四郎の言葉に、お麗が巻きつく力が強まった。
それが答えであった。

「お麗は、果報者です」

快楽に蕩けながらも、彼女はしっかりとそう言った。

それでは臣下をねんごろに可愛がるのも主君の務め、と。
平四郎はまだまだ逞しい男根で腰を振り出した。
まだインキュバスにならない身でありつつも、彼は類い稀な精豪であった。一度に七はかたい。
情事の余韻が身体に纏綿としていたお麗だったが、突然の抽送に憤慨することなくーーむしろ歓喜を迸らせてーー、彼女の方も嬌声をあげながら腰を振り出した。

さすがは魔物娘である。
しかし、それから二度三度とナカに精を放つ主君に、彼女はこれで彼が魔境に入ればどれだけの精を放つのか。側室は許すが自分もシッカリと可愛がらなくては許さない。扠(さて)子供の名はなんとしようか、などなどーー。
快楽にふやけ切り、朦朧、曖昧模糊とした頭で、彼女は霞の向こうで思った。

橋の下で行われた死人との情交、魔性の快楽(けらく)。
夜の帳は鬼火一つを灯して閑かに広がり、川のせせらぎだけが、彼らの絡み合うケモノの咆哮を聞いていた。

「はぁ、逞しかったです、平四郎さまぁ……」

ウットリと美貌を蕩けさせ、お麗は彼の剛根を頬張っていた。浅ましくもちゅくちゅくと吸いつき、肉肌にこびりついた淫液をこそぎ取り、なおも舐めしゃぶる女の貪欲に、平四郎は快楽を感じつつも戦慄もしていた。
しかし、河原の土手に寝転んで、諸手を組んで枕にし、毛むくじゃらの身体を真っ裸、堂々たる居住まいで裸の落武者にしゃぶらせる。
すでに一国一城の主と言った風情である。
まだ暗い橋の下には、蒸せ返るような淫靡な性臭がわだかまり、鬼火が美女の貌を濡らしていた。死者であるはずなのに、どうにも生者以上にツヤツヤしているように見受けられる。

平四郎は肉肌を這い回る女の舌に呻きそうになるのを堪えつつ、

「お麗、俺はやるぞ。俺はお前の主君となって、一国一城の主となるのだ」

と、言った。
決意を固める男だが、女はふふふと笑って上目遣いを寄越した。

「いいえ、そこまでは」

拍子抜けする言葉に平四郎は鼻白んだが、根元まで咥え込まれてはさすがに呻いてしまう。

「んぅ、ああ、ご立派です。これだけしたのにまだ硬くなる……」

女はすりすりと頬ずりした。淫乱な痴態、それに折檻するために平四郎は彼女を後ろ向きにさせると、尻から犯した。

「あぁああッ!」

女の肢体が波打ち、ばるんとたわわな果実が弾けた。

「なんてことを言うのだ。せっかく俺が決意をしたと言うのに」

平四郎の剛直に貫かれ、女は尻をくねらせてよがった。平四郎は容赦なく抽送をはじめた。この男、体力も精力も剛の者である。
お麗はよがり啼く。だが喘ぎ喘ぎも言う。

「私は、平四郎さまがいて、あぁあっ……。この魔羅があれば良いのです。一国一城、お家すらなくとも、私はあなたさまに仕えさえできれば……。あぅっ、く、逞しすぎますぅ……」

ぶるぶるとふるえる彼女に、平四郎は苦笑する。髭面の野卑な面貌が、この上なく優しそうに見えた。

「この、浅ましい女め。淫らに尻をふって……くぅっ、ならばどんなに風雨吹き荒ぶあばら家だとて文句は言わせんぞ。どこでも連れて、どこでもこうしてよがらせてやる」

ぱんぱんと凶暴な肉音が立つ。肉肌に媚肉が絡みつき、男を愉しませ、精を絞り上げようとしてくる。平四郎は髭面を快楽にしかめた。

「はぁんん! はい、はいっ。お麗はどこまでも平四郎さまにお供いたします。あぁ、逞しく、熱い……。もう、私はこれがないとぉ……。あぁっ、奥、もっと奥を力強く突いてくださいっ。平四郎さまの子種をたっぷり注いで、私に玉のようなお子を作らせてくださいませぇ……」

「おぅっ、承知した。たっぷり責め抜いてたっぷり出してやる。俺の子を孕め、お麗!」

「はぁあああッ!」

ぱつぱつぱつぱつぱつ……。
肉音がまだ明けやらぬ空へと消えていく。

どぷぅううっ……。
女の中で男の欲望が爆ぜた。

明けない夜はないと言うが、平四郎もお麗も、夜が明けなければ良いと思いつつ、死が薫る肉欲の宴に耽り続けた。

二人のその後の消息は、誰も知らないーー。
18/08/14 21:49更新 / ルピナス
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