連載小説
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ep四・きやがれ、ケダモノの村
あ、お久し振りですニャ。
ウチ、オトモアイルーでネコマタのガチャですニャ。
今日もウチの相棒……、ううん、旦那さんの狼牙さんと一緒に水没林で狩りに来ていますニャ。
先日、アオアシラというかヒグマというか、とにかく初めてのおっきなターゲットを倒すことが出来て、自信を付けたり取り戻したりしたウチらコンビは、今日は水没林で、おっきな猪ことドスファンゴを狩りに……。
「おい、ガチャ。お前も剥ぎ取れ。今日は生肉でも構わんぞ。こいつの素材はポッケ村にいた時からゲップが出る程持っていたけどよ、たいして使う気にならなかったから、むしを生肉を剥ぎ取れ。姉さんから宅急便で届いた味噌で鍋にするぞ。」
…………狩りに来たんだけどニャー。
あ、今返り血でせっかくのユクモ装備を真っ赤に染め上げて、スプラッターでグロテスクな見た目のこのハンターさんが、狼牙っていうウチの旦那さんですニャ。
旦那さんってば、水没林に到着するなり、支給品も取らずにキャンプを飛び出しちゃって…。
もうちょっと初めて来た狩猟場なんだから、観光がてらに採掘ポイントを探してピッケルでカンカンしたり、素敵な風景眺めながらお弁当食べたり……ウ、ウチは旦那さんのお膝でお昼寝して、ウニャウニャしたり…♪
でも旦那さんってば、すっかりバーサーカーモードを発動しちゃって…。
「旦那さん、相変わらず仕事が早いニャー。」
「おう、これでも元G級ハンターだからな。」
……絶対、ウチの皮肉も通じてないニャ。
でも、旦那さんって元G級とか言ってるけど、よくピッケルは忘れるし、回復薬や食料を忘れたりするし、そもそも装備にまったく気を使わないから、モンスターにやられてキャンプ送りになることも多いニャ。
「旦那さん、装備作らニャいの?」
今だって、未強化のユクモ装備。
裸よりマシって程度の鼻紙装備だニャ。
「……いつかは作るさ。でも、デザインがなぁ。」
旦那さんの言う欲しいデザインって、どれもこれも派手なのニャ〜。
「ユクモも悪くはない…。だが、ラージャンのような傾いた着物を一度でも着てしまうと、普通のデザインでは物足りなくてなぁ…!あの金色の輝きが恋しい…。素材集めるのは、死ぬ程苦労したけどさ。」
ラージャンって……幻獣キリンを捕食するってあのラージャン…?
旦那さんはお姉さん以外の誰とも組まなかったって聞いてるし、お姉さんがいない時は一人で狩りをしていたということは………、やっぱり実力はあるみたいニャけど、普段の行動を見ていると、ウチ、あんまり信用出来ないニャ。
「ああ、そうだ。」
「ニャン?」
「言い忘れてたが、新しいオトモを雇うことにした。」
「ニャー!?」
突然何を言い出すニャ、このトーヘンボクは!
何!?
ウチの居場所に乱入ニャ!?
ここはいつからス(わん♪)Uの対戦台なったニャ!?
「何でもオトモレベルが、お前と違って高いらしい。色々教えてもらえ。」
「………了解ニャ。」
教えてもらえ?
ふっふっふ、旦那さん、それは大きな間違いニャ。
フルフルとギギネブラくらいの大きな間違いだニャ。
教えてもらうんじゃニャいよ。
どこの猫の骨だか知らニャいけど、ここが『ウチの縄張り』だって教え込んでやるニャー!!


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「あ……あの…初めまして…ミャ。」
狼牙とガチャがユクモ村に帰参すると、自宅の前で村長と一人のネコマタが待っていた。
このネコマタは村長の知り合いの娘らしく、まるで初めて狼牙と顔を合わせたガチャを彷彿とさせるように、オドオドとした様子で、俯きながらチラチラと上目遣いに狼牙を見詰めていた。
人見知りが激しいらしく、頬を真っ赤に染めている。
年の頃は、人間で言えば14歳くらいであろうか。
「村長、あんた、わかってて紹介しに来てるだろ?」
「おほほ、手を出しちゃ駄目ですよ♪」
ガチャに続き、またしても幼い少女がオトモとして雇われた。
本来、狼牙の性格上はガチャですら、オトモを雇いたくはないところではあるが、自分で作った莫大な借金の利子をなしにしてくれることを条件に、彼は村長であるこの稲荷に逆らうことが出来ないのである。
(感じるニャ。この女は旦那さんをウチから奪おうとする雌猫ニャ。)
狼牙の足下に隠れるようにして見ていたガチャは、ハンターに人気の月刊誌『月刊・狩りに生きる』の奥様向けのコーナーを読んで身に付けた余計な知識と、本人も意味はよくわかっていない表現で、新しくやってきたネコマタのことを睨んでいた。
その様子は、さながら新しく生まれてきた弟(もしくは妹)に母親を取られて嫉妬する子供のようである。
「クソ、また借金で俺の人生は縛られるのか…!」
「あら、良いじゃないですか。このままオトモを雇い続けていれば、いずれはあなた好みのハーレムが作れるんですよ。」
「俺は、姉さん以外の女性に興味はない!!」
狼牙以外の村人が、『それはアカン!』と心の中で総ツッコミを入れる。
しかし、どこに出しても恥ずかしくないくらい彼の人並み外れたシスコン具合を考えれば、そんな駄目発言もどこか納得せざるを得ず、ガチャに至っても『他の女に奪われるくらいなら』などと考える始末である。
「あ……あの…私……ご、ご迷惑…だったでしょうかミャ…?」
不安そうに新しいオトモは、おずおずと訊ねた。
不安そうな彼女を落ち着かせようと、村長は笑顔で、
「そんなことはありませんよ。」
と、優しい手付きで彼女の頭を撫でた。
「彼、人見知りが激しい性格なので、落ち着かないだけなのですよ♪」
「誰が人見知りだ、誰が。」
「ささ、ハンター様。この子に名前を。立派なオトモとして頑張れるように、新しい明日に相応しい名前を考えてくださいな♪」
「無視するなよ!話聞けよ!!」
村長と狼牙のやり取りを見てて、ガチャはニヤリと黒い微笑を浮かべた。
(クックックック……良い気味ニャ。ウチみたいに花子とかタマとかダサい名前を付けられて、デフォルトの名前を名乗るが良いのニャ。ウチの縄張り、旦那さんのお膝の上を横取りしようとする雌猫には、それがお似合いニャよ♪)
明らかに村長の悪影響を受けている多感な時期のガチャ。
これから新人がダサい名前を付けられて、彼のあまりのセンスのなさに凹むであろう姿を想像して、ガチャは口元を押さえながら爽やかな笑いを漏らしていた。
「う〜〜〜〜む………そうだなぁ…。」
ガチャに名付けた時のように、狼牙は考え込む。
頭の中にはどれ程の名前が浮かんでいるのかはわからないが、どうせろくな名前ではないだろうと、新人のネコマタを除いたその場にいる誰もが思っていた。
「髪も白いし、毛並みも真っ白で綺麗だから…イズミ(良澄)なんてどうだ?」
「あ……ありがとうございます…!素敵なお名前……、私頑張りますミャ…!」
新人オトモ『イズミ』は、狼牙に名前を貰い、初めて笑顔を見せた。
その笑顔は、まるで夏の向日葵のような明るい笑顔であった。

ちなみにこの後、イズミにだけ良いアイディアが浮かんだことに拗ねてしまったガチャのなだめることに、狼牙はしばらく時間と労力を注ぎ込まねばならかったのである。
「結局、ウチなんかより新しい女の方が良いんニャよね…。慣れた女より少しぎこちない女の方が良いって雑誌にも載ってたけど、その通りだったんニャね…。旦那さんのへんたい!うわきもの!おたんこなす!しすこん!れいけつかん!ろりこん!!」
「待て、お前意味がわからず叫ぶのはやめろ!!」
ガチャの好きなお菓子を買ってやったり、新しいオトモ装備を二人分新調してやったり、ガチャの機嫌が直るまで膝の上であやしてやったりした結果、疲労と借金だけがまた蓄積した、と狼牙は同じように村に住むリザードマンのハンターに漏らすのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「一つ、二つ、三つ、猪鹿蝶!!」
「じゃぎー!!」(鳴き声)
鉄刀【禊】で放つ斬撃がドスジャギーの肉を断つ。
その内の大振りで放った立て斬りがドスジャギィの襟巻きを切り裂いた。
「ガチャ、お前はこの間の熊にやったみてえに右から爆弾投げろ!イズミ、お前の武器は鈍器だ。こいつの頭をぶっ叩いて目ぇ回させてやんな!」
俺は自分の立ち回りを考えつつ、二人のオトモに指示を与えた。
イズミを雇い、ガチャの機嫌が直って4日目。
色々な狩りの準備を終えて、俺たちは今、砂漠のど真ん中にいる。
村長に命令されて、近頃オアシスの水場を荒らしているという鳥竜種ドスジャギィを俺たちは狩猟しに来ているのである。
何故かこいつを見ていると、ドスランポスを思い出してしまう。
何故かこいつの襟巻きを見ていると、クック先生を思い出してしまう。
ドスランポスもクック先生も、元気にお盛んに今日も繁殖しているだろうか…。
「ガッテン承知のすけだニャー!喰らえ、乙女の魂完全燃焼!!」
まるでどこかの野球漫画のピッチャーのように、高々と足を上げるダイナミックな投球フォームで振り被って、ガチャは小タル爆弾を全力投球でドスジャギィに投げ付けると、小気味の良い音を立てて小タル爆弾が爆発する。
あまりの衝撃に、ドスジャギィが怯む。
「よし、怯んだぞ!イズミ、今だ!!」
今だ、と叫んでみたのだが、待てど暮らせどイズミは姿を見せない。
おかしいな、と首を捻ってみるのだが、いるはずのイズミの姿が見当たらないのだ。
「お〜い、どこいった〜?」
「ニャ〜?新人どこ行ったニャ〜?」
そろそろ、ドスジャギィの怯みも解けるだろうに…。
まさか、他の大型モンスターがいたのか?
その大型モンスターに連れてかれたとか?
「じゃぎー!!」(鳴き声)

どかっ

ばきっ

「じゃ、じゃぎー…!」(鳴き声)
怯みが解けて襲ってきたドスジャギィを殴り飛ばして黙らせる。
まったく、どこに行ったんだか…。
「本当に最近の新人さんは気分がたるんでるニャ。そんなんでウチの旦那さん奪おうとは、脇腹でお湯がチュンチュン沸いちゃうのニャよ。」
……片腹痛いとヘソでお茶を沸かすが混ざったか?
てか、お前だって新人だろうに。
年だって、お前の方が幼い……って。
「あっ。」
「見付けたニャ!」
岩陰から恥ずかしそうにこちらを覗いている影。
間違いなく雇ったばかりのイズミだった。
「おい、イズミ。何をしているんだ、早くコッチ来い。」
「先輩と旦那さんの命令は絶対ニャ!早くコッチ来て、ドスジャギィを狩るお手伝いをするニャ!あ、ドスジャギィさん。もうちょっとだけ待っててほしいニャ。新人にお説教したら、すぐに狩りを開始しますニャ。」
「じゃぎー!」(鳴き声)
………会話が成立しているのか?
ガチャとドスジャギィが意思の疎通を図っている間に、無理矢理とは言え雇い主となった俺は、岩陰から出るのが恥ずかしそうなイズミの下へ足を進めた。
「おい、一体何があったんだ。」
「あ………あの……。」
消え入りそうな声。
なかなか喋ろうとしないイズミを待ち続ける。
1分、2分の何とも言えない間が非常に長く感じた。
「実はですね……。」
「「実は?」」
「じゃぎー?」(鳴き声)
……いつの間にかドスジャギィまで会話に入ってきている。
いかんな、待たせすぎたか?
「わ、私……平和主義の性格でして…ミャ。攻撃する……とか、争いからは極力逃げたいと思ってます…ミャ…?あ、そ、その代わりですミャ、さ、採取とか採掘とか笛を遠くから吹いたりするのは……その…頑張りますミャ。」
……………またか。
……俺は再び村長に厄介ごとを押し付けられた。
そう確信した、太陽がギラギラと照り付ける砂漠の暑い午後だった。


んで、

ガチャと打ち解けたドスジャギィは捕獲した。

ちょうどペットに欲しがっている変わり者の貴族がいるから『無断で』送り付けておいた。

可愛がってもらえよ。



12/01/07 02:34更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
狼牙の装備
頭:ユクモノカサ
胴:ユクモノドウギ
腕:ユクモノコテ
腰:ユクモノオビ
脚:ユクモノハカマ
(いずれも未強化)
武器:鉄刀【禊】
称号:電撃合体ジンオウガ

ガチャのステータス
毛並み:アメショー
なつき:★★★★★★★★★★★★(バグ止まらない)
レベル:6
攻撃力:40
防御力:40
攻撃 :近接と爆弾
標的 :大型一筋
性格 :旦那さん愛してる!!
装備 :アシラネコシリーズ/ジャギィネコナイフ

イズミのステータス
毛並み:白
なつき:★
レベル:11
攻撃力:123
防御力:149
攻撃 :攻撃しない
標的 :小型一筋
性格 :平和主義という名のビビり
装備 :アシラネコシリーズ/アシラネコトゲ棍棒


こんばんは、お久し振りです。
そして年明け早々、更新したのがこれかよ!という宿利です。
新年あけましておめでとうございます。
遅いですね、すみません。

実はあらすじに書いていた告知ですが、
新規約に伴いまして、『Lost in BLUE』及び『Rootes』
を近々公開停止に致すことを決定しました。
ただし、両者共に未だ完結していない物語なので、
ピクシブの私のページにて掲載していこうと思っております。
しばらくは準備に追われて更新どころではありませんが、
どうぞこれからも末永く宿利作品を楽しんでいただけることを祈りつつ、
そうしていただけるように、これからも一層の努力をしていこうと思います。

それでは最後になりましたが、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ピクシブの私のページはこちら
↓↓↓
http://www.pixiv.net/member.php?id=3117715

今はイラストしかアップしておりません^^;

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