読切小説
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脳まで抱かれて
 恐怖。

 得体の知れない、恐怖。

 平原を歩く度に、息が詰まりそうな感覚に襲われた。魔界から一歩でも遠ざからねばならないのに、恐怖が体を縛り付けていく。手にするハルバートが重い。使い慣れている愛用の武器なのに、それを引きずるようにしながら僕は敗走していた。魔界への侵攻は失敗に終わった。精強を誇るレスカティエ教国の軍勢が、魔王軍の前に脆くも崩れさった。堕落した勇者の軍……裏切り者たちの前に。

 無様に敗走することができたのは僕一人。他はみんな今頃、貪り食われているのだろう。僕は少しずつ敵地から離れているのに、恐怖は強まるばかりだった。
 それが何かは分からない。だが魔物とは違う、もっと混沌とした何かが近づいている。そんな恐ろしさを感じていたのだ。僕の勘はよく当たる。恐ろしいことに、よく当たるのだ。


「……そんなに急いで、何処へ行くの?」


 ふいに聞こえてきた声。反射的に身構え、振り向く。ハルバートの柄をしっかり握り直し、切先を声の主へと向けた。

「ふふっ。そんなに恐い顔して……どうしたの?」

 そいつは僕を見つめて、小さく笑った。
 そいつは人間だった。人間の形をしていた。長い黒髪の美しい、何処か儚げな女。歳は僕より少し上、二十歳に達しないくらいだろうか。言葉には僕と同じ、レスカティエ人のアクセントが含まれている。紺色の装身具に身を包み、腰に吊っているのは聖剣……勇者の持つ武器だ。
 だがそれでも、僕は構えを解かなかった。勘が言っていた。こいつは敵なのだと。

 女はしばらく、僕のハルバートの切先を見つめたまま、動かなかった。だがやがて、聖剣の柄に手をかける。

「……ボクが遊んであげるよ。おいで」

 微笑みを浮かべて抜き放たれた剣は、油を塗ったかのような光沢を持っていた。繊細な装飾の施された柄を両手で握り、女は刃を水平に構える。どこまでも余裕の笑みを浮かべたまま。

 黒曜石のような、深い黒の瞳と目が合った瞬間。僕は恐怖に駆られた。闇をそのまま形にしたようなその瞳に、魂が吸い込まれるような感覚を覚えたのだ。
 その恐怖に、体が突き動かされた。

「うおおおおおッ!」

 雄叫びで恐怖を打ち消しながら、ハルバートを振り上げて吶喊。
 だがそれは悪手だった。使い慣れているとはいえ、ハルバートを上段に振り上げて打ちかかるには間合いが近かったのだ。僕が攻撃を繰り出す寸前、女はすっと僕の懐へ潜り込んできていた。ハルバートの間合いの内側へ。

 押当てるように、ゆっくりと剣を繰り出される。咄嗟にハルバートを構え直し、柄で刃を受け止めた。そのまま押し返しつつ、掌の中で柄を滑らせ、先端部付近を掴んで間合いを短くする。
 そのままフック部分で剣を引っかけ、押さえつけた。だが女が身を引くと、彼女の聖剣はするりと抜け出してしまった。

 再び柄を滑らせて間合いを伸ばし、横薙ぎを繰り出す。左右へ移動しながら、立て続けに。女はタイミングを合わせて後退し、避ける。反撃してくる様子はないが、僕の攻撃はかすりもしない。焦燥感が湧き立ってきた。
 それに対し、女の方は相変わらず微笑を浮かべていた。クスクスと妖しい笑い声を漏らしながら。

「……メルセに師事したんだね?」
「な……!」

 その言葉に心臓が飛び跳ねた。勇者メルセ。レスカティエ随一のハルバートの使い手で、勇者候補生の僕も指導を受けている。だが、何故そんなことが分かった……?

 刹那、甲高い音と共に、鋭い衝撃が手に伝わった。その途端に武器が軽くなる。
 それもそのはず。一瞬の内にハルバートの穂先を切り落とされていたのだ。重い金属の刃がどさりと地面に落ち、僕の手に残ったのはただの棒だった。

「間合いを詰められたら『雄牛の型』、反撃に転じるときは『聖ウィルギルスの型』……彼女の教範通りだ」

 剣をゆらゆらと揺らしながら、女は笑う。長い黒髪が風に靡いていた。
 やはりこいつはレスカティエの人間らしい。いや、『だった』のだろうか。この気配、この重圧はむしろ魔物に近い。だが先ほど戦ったような魔物たちとは違う。こいつはもっと、混沌とした何かを秘めているように思えた。

「ただ教わった戦い方をなぞるだけじゃダメだよ。もっと意表を突かなきゃ……」

 揺らめくような足取りで数歩、僕から放れる。聖剣を片手で持ち、肩越しに振りかぶった。

「……こんなふうに」

 女の右手が振り下ろされ、掌から聖剣がするりと抜け出す。銀色の刃が僕目がけて飛来した。

「くっ!」

 回転するそれを、柄だけになったハルバートで辛うじて叩き落す。手に重い衝撃が襲いかかった。だがそれだけではない。その瞬間、女の姿が消えていたのだ。

 背後に気配を感じた時にはもう、手遅れだった。
 二本の腕が背中から胸へと絡み付いてきた。腕だけではない。ぬめりを帯びた、紫色の……触手が僕の手足に巻き付いていた。

「ほぉら、捕まえた……」

 クスクスと笑う声が、耳元に囁かれる。触手は女の黒髪がうねり、変じたものだった。髪以外にも体から触手が突き出し、僕に絡み付いてくる。背後にいるため全身を見ることはできないが、世にもおぞましい姿であることは想像に難くなかった。
 だが僕を拘束する力は弱く、むしろ優しく抱きしめられているような感覚だ。それでも僕の体は引きつったかのように動かなくなっていた。

 確信してしまったのだ。こいつには勝てない。僕は助からないのだと。

「……安心して。ボクに任せて」

 優しい口調で語りかけながら、おぞましい魔物は触手を僕の耳へ這わせてきた。生理的嫌悪感のあまり吐き気さえ催した。それだけでは済まなかった。細い触手の先端が、耳の穴へ侵入してきたのだ。

「や、止め……ろ……!」
「ふふっ……止めてあげない。君の頭の中、溶かしてあげる……」

 ねっとりとまとわりつくように、魔物の囁きが耳に注がれた。同時に触手は耳の奥へ、奥へと入り込んでくる。鼓膜を透過するかのように、さらに奥へ……
 先端が頭蓋の中へ到達したと分かった途端、体からふっと力が抜けた。ハルバートの柄が手から落ちる。立っていられなくなった僕の体を、魔物はゆっくりと地面に横たえた。

「あ……あ……あ……あ……」

膝の上に頭を乗せられ……果たしてこれは膝なのだろうか、人の肌とは明らかに違うぬめりを感じる……優しく頬を撫でながら、触手は僕の頭を、脳を掻き回している。

「どうかな……気持ちよくなってきたかな……」

 彼女の言う通りだった。触手が頭の中で蠢く度に、蕩けるような快楽が広がるのだ。蜜のように甘い毒を流し込まれ、脳が融解しそうになる。おぞましい行為を受けているはずなのに、幸せな気分がわき起こってくる。砂の城が崩れるかのように恐怖心がなくなっていき、安心感と多幸感に変わっていった。
 頬を撫でる手を握ると、彼女もそっと握り返してくれた。何故か嬉しさがこみ上げ、頬が緩んでしまう。

「あはっ……涎、垂れてるよ」

 彼女は僕に顔を近づけると、口元をぺろりと舐めてきた。舌のぬめりが触れた瞬間、体が痺れたように硬直する。気持ち良さによって。

 先ほどまで白かった魔物の肌はうっすらと紫がかり、髪は全て粘液を纏った触手となり、盛んに蠢いていた。前頭部と側頭部の三カ所には目玉のようにも見える球体が浮き出て、緑色の光を放っている。そして口元には妖しい、しかし優しい笑みが浮かぶ。

「今、君の頭の中から、僕への恐怖心を消しちゃったんだ。これで仲良くなれるよね……?」
「……うん」

 僕は素直に頷く。彼女のことはもう恐くなかった。この後殺されたり、食われたりもしないと信じていた。根拠はないが、そう信じてしまった。
 彼女は嬉しそうに笑い、ゆっくりと触手を引き抜き始めた。ぬるぬると耳の穴を滑って出ていく感触が何とも気持ちいい。僕は先ほどまで何故彼女を恐れ、戦おうとしていたのだろう。

「君の名前はトゥール・ケルヴェインっていうんだね……?」
「えっ……!?」

 名乗っていないはずなのに、不意に名前を呼ばれた。驚く僕を見ながら、彼女は髪……触手の先端を摘んだ。

「これで頭の中を覗いたんだもの、名前くらい分かるさ。……君もレスカティエの、勇者候補生なんだね」
「あなたは……?」
「ボクはミカラ……忘れられた勇者」

 寂しげに名乗り、また僕に顔を近づけてくる。
 唇が僕の口に触れ、柔らかな感触に体がぴくりと震えた。続いて舌が入り込んでくる。舌と舌が触れ合い、絡み合ういやらしいキス。初対面の、しかも魔物にこんなことをされているのに、何故か僕はわくわくしていた。これから自分が彼女にどうされるのか、期待を抱いてしまったのだ。

 再び、耳から触手が入ってくるのが分かった。またあの快感が脳内に広がる。口の中を舌で舐め回されながら、頭の中を触手でくすぐられる。もっとして欲しい。もっとくっつき合って、気持ちよくなりたい。そんな思いが心を支配していた。

 唇が離れ、触手が引き抜かれた。ミカラは再び頬を撫でてくれたかと思うと、自分の胸元に手をかけた。布を裂く音がし、紺色の服が無惨に破れる。その下には彼女の薄紫色の肌が……大きく膨らんだ胸があった。
 思わず、生唾を飲み込む。生まれて初めて見た、母親以外の女性の胸だった。触手から滴る粘液がふくらみをぬらぬらと妖しく輝かせ、それがいやらしさを強調している。勇者候補生として日々禁欲を心がけ、性的なものからは目を逸らす癖がついていた。それだけに今目の前に曝け出された魔物の乳房に釘付けになってしまう。

 ああ、魔物の虜になった勇者たちはみんな、こうやって堕ちていったのか……
 そんなことを考えていると、ミカラは僕の口元に胸を近づけてきた。至近距離でふくらみが揺れている。

「……舐めてみて」

 胸が高鳴った。女性の胸を舐める。この美しい魔物の、ミカラの胸を。
 高ぶりを押さえきれず、噛りつくように乳首に吸い付いた。舌先で彼女の肌を一舐めした途端、口の中に甘さが一杯に広がる。

「ふふっ……美味しい?」

 ミカラは僕の頭を撫でながら、乳房を舐めさせてくれる。まるで赤ん坊にお乳を飲ませるかのように。僕は夢中で舌を動かし、甘い胸を味わった。

「君の脳を弄って、ボクの肌が美味しく感じるようにしたんだ。……んっ、舌、気持ちいい……」

 うっとりとした声を漏らしながら、ぎゅっと僕を抱き寄せてくるミカラ。顔がその胸に埋まった。

「……分かるよ。君もボクと同じ……ずっと一人だったんだ」

 どこまでも優しく、ミカラは僕を抱きしめる。温かく、柔らかな胸だ。

「勇者は誰にも甘えることを許されない……ボクもそうだった」

 そうだ。僕は一人だった。選ばれし勇者として、幼い頃に親元から引き離され、厳しい修行を受けながら育った。名誉なことだと言い聞かせられ、自分でもその気になっていた。魔族から世界を救うのは自分たちなのだと、同じ境遇の子供たちと一緒に頑張ってきた。
 だがそれでも、心の中の空虚さはなくならなかった。

 こんな風に、誰かに抱きしめて欲しかった。

「でもね、ボクは寂しくなくなったんだ。『混沌』の一部になったから……」
「こん……とん……?」
「トゥール。ボクとずっと一緒にいよう。寂しくないように」

 ミカラは諭すように微笑みを浮かべる。ずっと一緒に、という言葉を聞いてますます心臓が高鳴った。この優しい、甘い胸にいつでも抱いてもらえるのか。甘えていられるのか。脳を操作するというおぞましい行為をされたのに、僕はミカラにずっと甘えていたいと思ってしまった。

「んっ、んん……良い子だね、トゥール」

 夢心地で乳首にしゃぶりつく僕を、彼女は笑顔であやす。このまま時間が止まってもいいと思った。
 すると、またも彼女の触手が近づいてきた。今度はどうされてしまうのだろう……淡い期待を抱きながら、頭蓋へ侵入してくるそれを受け入れた。また脳が蕩けていく。

 微かに金属音が聞こえた。腰のベルトを外された音だった。服を少しずつ脱がされ、下半身が外気に触れる。

「あっ……」

 彼女の掌が、一番敏感な箇所に触れた。ぬめりを帯びた、柔らかな女性の手。それが男の器官を握り、滑らかに愛撫してくる。教団で禁じられている背徳的な行為だった。それなのに、僕はミカラに男根を弄ばれることに悦びを感じていた。

「ふふふっ……おちんちん、ぴくん、ってなったよ」

 耳元に熱い吐息がかかった。ミカラもまた興奮しているのだと分かり、何か嬉しかった。彼女も僕と同じものを感じている……それが不思議と嬉しかった。
 ミカラの手はペニスを単調に撫で擦り、ゆっくりと粘液を塗り付けてくる。耳を触手に犯される快感が、ペニスの快感と合わさっていく。手の感触だけでも最高の刺激だった。自分の手で何度やっても、こんなに気持ちいいことはなかっただろう。僕は甘い胸を舐めながら、その快楽をただただ享受した。

「うん、良い子だね……筆下ろし、気持ちよくしてあげる……♥」

 手の動きが早まった。反射的に脚がびくんと跳ね上がる。それをミカラは楽しそうに見つめ、笑っていた。耳の穴が触手で掻き回され、脳を愛撫される。ペニスの愛撫と相まって、体中が天国にいるような心地になってくる。
 目を閉ざし、彼女に身を委ねた。そして、次の瞬間……

「わっ♥」

 迸ったそれに、彼女は歓喜の声を上げた。僕はただただ乳首に吸い付き、甘えながら射精の快感に溺れていた。教団の教えも、祖国のことも、もうどうでもいい。今はただただ、気持ちいいんだから。
 うっすらと目を開けると、ミカラの手に絡み付く白濁が見えた。彼女が指を広げると糸を引くそれが、たまらなくいやらしかった。

 快楽に侵されていくうちに、ふと視界に歪みが生じた。自分が壊されているのではないか……そう思って少しだけ恐怖心が蘇った。妙に懐かしい感覚だった。

「今ね、トゥールの脳に幻覚を見せているんだよ……」

 僕のゆっくりと胸元から引き離し、ミカラは優しく語りかけてくれる。視界が歪み、ノイズが走った瞬間、はだけていた彼女の胸が白い布で覆われた。頭を撫でてくれる手には同じ色の長手袋が嵌められる。
 そして頭にはベールを纏い、ミカラは触手を引き抜いてゆっくりと立ち上がった。

「似合ってる……かな?」

 はにかみ笑いを浮かべ、その姿を僕に見せつけてくる。純白のウェディングドレス。触手蠢く魔物の体なのに、その姿は神々しかった。ベールが透けて触手の髪が見え、スカートの裾から見えるのは赤みを帯びた多数の触手だ。

 それでも。
 それでも僕の目に映る、彼女の花嫁姿は美しかった。

「ミカラ……っ!」

 彼女の名を呼び、その体に抱きつく。彼女が行った通りそのドレスは幻で、実体がなかった。僕の手は純白の布地を何の抵抗もなく通過し、ミカラの柔らかな肌に触れていた。

 再びいきり立ったペニスはスカートをすり抜け、彼女の柔肌に食い込む。情欲が心を支配していた。ミカラがこの感情を脳へ植え付けたのか、それとも僕が元々持っていたものかは分からない。とにかく僕はそれに身を任せ、快楽を求めて腰を上下させた。彼女のお腹にペニスが滑らかに擦れていく。先ほどまで身にまとっていた装身具はどこへ行ったのか、幻覚のウェディングドレスの下には何も着ていないようだ。触手同様にぬめりを帯びた素肌に数回擦りつけ、先端がおへその窪みにひっかかる。

「う……」

 女の人のおへそ。いやらしい所ではないはずなのに、何故かとても興奮してしまう。感極まったペニスは簡単に達してしまった。脈打つペニスをさらになすりつけ、吐き出す精液をお腹に塗り付けていく。

「やぁん、早いよぉ……♥」

 僕の頬についばむようなキスをしながら、ミカラはそっとペニスを握ってきた。硬さを保ったままの肉棒は更なる快感を求めて疼く。

 次の瞬間、先端部分が柔らかい物に触れた。

「あ……!」

 体が震える。くちゅっと小さな水音を立てて亀頭にフィットしたそこは、彼女の体で最も淫らな場所だと本能的に分かった。

「ほら、おいで」

 誘われるままに腰を進める。肉棒がずぶずぶとそこへ埋まっていった。ミカラの抱擁が強まる。

「んんっ、そう……もっと、奥までぇ……♥」

 蕩けるような声が耳に響いた。ぎゅっと目を閉ざして快楽だけを感じていたが、彼女の顔が見たくて目を開く。声と同様に蕩けた表情がそこにあった。うっとりとした表情で目を潤ませ、じっと僕を見つめていた。
 ペニスが根元まで穴に埋まると、僕たちは唇を触れ合わせた。舌を絡ませ合い、ねっとりと互いを味わう。外部の肌だけでなく彼女の口腔も甘く、唾液が極上の蜜のように感じた。

 『下の口』はぶちゅっ、ぶちゅっと音を立てて蠢き、肉棒を断続的に締め付けてくる。咀嚼するかのように、美味しそうに。生まれて初めて味わう女性の穴だ。禁欲的な祖国で生きていても、これに対する憧れは心の奥底に確かにあった。今それが沸騰した湯の気泡のように湧き上がり、弾けていく。

「んちゅっ、ぅぅ……んんんっ♥」

 舌が絡み合った直後、膣内で奇妙なうねりが生じた。甘く咀嚼してくる下の口の中で、ペニスに異物感を覚える。複数の細い何かが肉棒に絡み付き、尿道口辺りをくすぐるってくるのだ。
 驚きながらも悶える僕から、ミカラは唇を離す。

「ぷはぁ……えへへ♥」

 悪戯っぽく彼女が微笑むと、女性器の中に生えた触手がぞわぞわと蠢いた。

「あはっ、ほらぁ……♥ ねっ、どう? ボクの中……ボクのおまんこ、気持ちいい?」
「あぅっ……んぐっ。き、気持ちいい……ミカラのおまんこ、気持ちいい……ッ!」

 恥も外聞もなく口走るうちに、自分の中で何かが壊れていくような気がした。

 互いに全く腰を動かさなくても、僕は彼女の蠢く膣と、その中でうねる触手で刺激される。ミカラの方も触手が肉棒へ擦れる度に快感を得ているようで、熱い吐息を漏らしながら喘いでいた。だが強烈な快感を受けても、まだ僕は射精できずにいた。達しそうになると触手の動きが緩やかになってしまうのだ。
 僕の顔に困惑の表情が浮かんだのだろう。ミカラは意地悪な笑みを浮かべた。

「まだまだ、遊んであげるんだから。ほら……」

 髪の触手が頭をもたげ、僕に狙いを定める。これで何度目になるだろうか、脳の改造が始まった。
 触手が脳へ与えてくる快感を楽しんでいるうちに、体に異変が生じた。背中や脇腹に触れる彼女の腕。それがまるで男根に触れられているかのように思えてきた。

「ううっ!」

 そっと頭を撫でられ、思わず声を出してしまう。体に触れられるとそれだけで快感が走り、ペニスが穴の中で反応する。肌に与えられる刺激を全て快楽に書き換えられてしまったのか。

「これで全身がおちんちんになったのと同じだね……ふふっ」

 妖しい笑みと共に、ミカラの髪の触手が一斉に伸び始めた。何をされるのか察した僕は思わず彼女から離れようとする。だが抵抗は一瞬で諦めた。しっかり抱きすくめられた僕の体は女体の温もりから離れることを拒否し、肉棒は膣内の触手でしっかりと拘束されていたのだ。

 次の瞬間、触手が一斉に襲いかかってきた。服の袖から、裾から、襟から、性感帯の巣となった僕の素肌へ、直接。

「ぁあああああぁぁ!」

 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

 その言葉だけが脳内を埋め尽くす。ミカラの言葉通り、前線がペニスと同じくらい敏感になった僕の体に、触手の拷問的な愛撫は強烈すぎた。

 本物のペニスがびくびくと脈動し、狭い膣内に精液を迸らせる。膣内触手がそれを絡めとり、奥へと吸い上げていくのが分かった。それでも結合部からは精液と愛液の混じった汚汁がどろどろと溢れてくる。それほどまでに大量の精液を、いつまでも放ち続けていた。

「すごいッ……温かぁい……もっと、もっと出してよぉ♥」

 甘い声でねだりながら、ミカラは触手をさらに激しく動かす。

 耳にけたたましい叫び声が聞こえた。誰だか分からないが五月蝿い。

 黙れと言おうとして、そレが自分の声だと気づいタ。

「ああぁぁぁああっあぁっぁっあっ!」
「あんっ♥ またイクの? いいよ、イって……ボクの中で、中で……♥」

 ペニスが震える。射精する。気持ちいい。気持ちいい。気持ちいイ。

 触手が擦る。触手が擦れる。触手が擦レる。

 思考が混沌として。混沌とし

 視界が明滅してイku

「あははっ……凄い、凄いよ、トゥール……♥」

 ミカラも気持ち良さソうだ。ナカがぷるぷル震えテ、肉棒締め付ケてくル。
 溶ケる。ペニsuが溶けru。

「わっ、まだ出るの……? 気持ちイイよぉ……♥」
「あがっ、う、が、ぉ、ぉ」

 気持ちi ■■射精止まra■い 呑■■■ ミカラに■■■■■■ 

 ■■ニnatte■■ ■■■■■■ ■■■僕も■■■■ナイ■■■■

 ■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■

「んっ、う、お、ォ、ぉぉ、お、ぉ」
「……ふふっ。トゥールったら、壊れちゃったんだ?」

 ■■■■ 触手■■■■ kimotiii ■■■■■■

 ■■■好■■■■ ■■■ ■■■■■■■■ニ■■■

「気持ちよすぎたのかな? じゃあ、修理してあげる……」

 耳ニ■■入っ■■■ 

 ミカラ ミカラ ミカラ ミカラ ミカラ






「……ようこそ、混沌へ」



















………












……


























「あんっ♥ そこ……もっとぉ……」

 木漏れ日の差す、爽やかな森の中。今日も僕とミカラは散歩をする。住んでいるのは地面の下だが、こうして二人で散歩をするのが日課なのだ。とはいえ、僕は自力で歩かず、彼女に運んでもらっているのだが。

「トゥールぅ……気持ちイイよぉ……♥」

 悶えながら歩みを進めるミカラを喜ばせるため、女の穴の一番奥をぐりぐりと掻き回す。膣内の触手と握手するように絡ませ合い、同時に彼女の胸にも手を伸ばす。左右の乳首に手を巻き付けて搾るように刺激すると、乳液がぴゅっ、ぴゅっと吹き出した。
 空いている腕二本をお尻の方へ回し、ぷりっとした柔らかな肉を愛撫する。

「あっ、あっ、あんっ♥ トゥール、ボク……ボク、イっちゃう……♥」

 彼女がこちらを見下ろしながら、恍惚の表情で僕の体を撫でる。この蕩けるような視線で見下ろされると、例えようも無い多幸感に包まれるのだ。乳房から垂れる乳液を目に浴びながら、急激に締め付けてくる膣に感極まった。
 ついにはどくどくと激しい勢いで、それをミカラの中に迸らせた。逆流して地面を濡らす程に。

「あああんっ……出て、出てる……気持ちイイ……♥」

 身を屈めて僕に手を添え、おしっこを我慢するような姿勢で絶頂を味わうミカラ。彼女の股間から吹き出したのは尿ではなく、大量の愛液だ。中へ射精しながら、僕は音を立てて彼女の甘い汁を啜る。

 歩みを止めて絶頂の余韻に浸るミカラが愛おしくて、僕は彼女のおへそをコチョコチョと弄くった。

「やぁん、悪戯しないでよ……♥」

 くすぐったそうに笑う彼女を見上げ、僕も笑った。

「ねぇ……ボク、喉が乾いちゃった」

 ミカラは唇に指を当てて言う。要望に応えるため、僕は膣内からそれをズルズルと引き抜いた。彼女の腰にしがみ付く手足を動かして胸の方までよじ上り、白濁と彼女の汁にまみれたそれをミカラの口へ押し込む。

「ん……」

 じゅるじゅると音を立て、彼女はそれを吸い立て、舌でしゃぶってくる。一生懸命に舐める顔が可愛い。時々歯が当たるのさえ気持ちよかった。
 やがて口腔に白い水分を提供すると、ミカラは喉を鳴らして飲み下していった。とても美味しそうに。

「ぷはっ……ありがとう」

 とても爽やかな笑顔で見下ろしながら、優しい手つきで撫でてくれる。彼女の手に自分の手を何本か絡ませて、くっつき合った。

 それにしても、いつから僕の手足はこんなに増えたのだろうか。昔は紫色じゃなかったし、ちゃんと骨と指のある手足だった気がする。胴ももっと長かった。今は体中ぐにゃぐにゃで短く、ミカラの髪とお揃いの触手を生やしていた。ペニスも触手の一本になって、それを舐めてもらったり、アソコに挿入したりして楽しんでいる。まあそんなことを疑問に思っても仕方ないことだろうし、彼女とずっとくっついていられるのだから嬉しいが。

「あ……」

 ふと、ミカラが後ろを振り向いた。近づいてくる足音に気づいたのだ。

 顔見知りの、人間の女の子だ。近くの村の農民だった。ぼーっと夢見るような面持ちでゆっくりと歩いてくる。
 ミカラは彼女に微笑みかけると、僕を一度地面に降ろした。そして近づいてきた女の子を抱きしめ、可愛い耳へ触手の一本を伸ばす。

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」

 ぴくん、ぴくんと体を痙攣させながら、少女は声を漏らす。やがて水音が響き、スカートに染みが広がっていった。尿が太ももを伝って、足下に水溜りを作っていく。
 少ししてミカラが抱擁を解くと、少女はまた夢見るような表情で回れ右をし、元来た道を歩いて行った。お漏らししたことさえ気づいていないようだ。ここ何週間か、彼女はミカラの元へ通ってきている。

「……もうすぐあの子も仲間になるよ」

 楽しげに笑いながら、ミカラは少女の後ろ姿を見送った。ミカラたちはこうして仲間を増やしていくらしい。脳を操り、性欲を呼び覚まし、魔物の本能を植え付けて。

 ……ふと、遥か昔に聞いた話を思い出した。いや、僕の時間の感覚は少し狂っているので、本当はそれほど昔でもないだろうが。祖国にいた頃、メルセ先輩が酔って話してくれたことがある。レスカティエにいた、とある女勇者のことだ。
 その人は剣術にも秀でていたが、どちらかというと考古学を学ぶことを好んでおり、撃剣指南に推されたときもそれを断ったらしい。大昔の遺跡を調査しては、主神教団、魔物、異教徒などの遺産を発見してきた。古文書を解読し、失われたと思われていた工芸品を見つけ出し、危険な遺物を教団の管理下においた。華々しい活躍ではないが、その活動は上層部から一定の評価を得ていたという。

 あるときレスカティエの植民地で、古代の邪教徒が作った寺院が発見された。その勇者は邪神信仰についても研究していたため、調査隊の隊長に抜擢され、寺院を調査した上で破壊せよとの命令を受けた。
 調査隊の出発から三日後、寺院は完全に破壊された。そして生還したのは彼女一人だったという。それも正気を失い、薄ら笑いを浮かべた口から意味の分からない言葉を紡ぎ続けていたそうだ。怖いもの知らずとして知られるメルセ先輩でさえ、その姿には得体の知れない恐怖を覚えたという。そのため寺院で何が起きたのか、今尚分かっていない。

 その勇者は厳重な監視の下で入院していたそうだ。しかし数日後の夜、メルセ先輩が宿舎へ帰る途中でふいに出会ったという。何かに呼ばれているかのように歩いていた、とのことだ。先輩が声をかけると、その人は微笑んで手を振り、夜の闇に溶け込むかのように姿を消した。
 その後、彼女は寺院で魔物と戦い戦死していたことにされた。上層部にしてみれば、勇者が邪教の寺院で正気を失ったなどと国民に公表できなかったのだろう。それ以降彼女のことを語る者はなく、国民たちから忘れ去られたという。

 話を聞いた次の日、メルセ先輩にその人のことを尋ねると「そんな話をした覚えはない」と突っぱねられた。確かその、忘れ去られた勇者の名は……

「……さ、トゥール」

 ふいに、ミカラは僕を抱き上げる。とても優しい手つきで、労るように。

「そろそろ帰ろう」

 にっこりと微笑み、彼女は僕を腰へしがみつかせる。彼女の肌に触れ合うと、母体のような安心感に包み込まれた。
 また女性器に僕の器官を突き立てようと思ったが、また少し悪戯心がわき起こった。多数の手足を動かし、彼女の背中側に回り込む。

「あっ、こらぁ……♥」

 嗜めつつも、ミカラは僕を止めようとしない。柔らかなお尻へしがみつき、挿入用の器官を谷間へ割り込ませる。すぐに穴を探り当て、ぬるりと押し込んだ。

「やぁっ♥ お尻も……気持ちいい……♥」

 女の穴とは違った直情的な締め付けと、丸いお尻の抱き心地を楽しみながら、ミカラの嬌声に耳を傾ける。手足で彼女の胸や股間を愛撫してあげるのも忘れない。体をいやらしくくねらせながら、ミカラはゆっくりと帰路についた。僕をお尻にくっつけて。

 彼女が何者でも、どうでもいいことだ。どうせ僕はもう彼女の一部であり、同じ一族を内包する大いなる混沌の中にいるのだから。幻のウェディングドレスを纏ったミカラに抱かれ、共に蕩け合ったあの時から。

 僕はミカラに愛の言葉を囁こうとした。だが今の自分には声を発する器官がないことを思い出す。腕の一本を伸ばすと、ミカラの後頭部から背中に垂れている触手に触れた。それを通じ、彼女の脳へメッセージを送る。

「……うん……うん。ボクも大好きだよ」

 後ろ手で撫でながら答えるミカラ。それを聞いて、僕は再び濁った快楽に身を委ねた。








――fin
15/06/28 21:00更新 / 空き缶号

■作者メッセージ
お読み頂きありがとうございました。
マインドフレイアさんは魅力的だけど書くのが難しい……という声を聞いて書いてみました。
難しく考えなくても、魔物娘の特徴でいろいろ遊べる。
要するに催眠系エロゲみたいな錯覚プレイが可能なのではないかと。
そういうエロゲってダークなのが多いようですが、図鑑世界なら漏れなくハッピー。
そうやって書いて、気がついたら1万字越してやがった……
ちなみに寄生タグは最後にトゥールがミカラに寄生する感じになったので。

さて、今度こそ連載を何とかせねば。
もう待っててくれる人いなかったらどうしよう……

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33