連載小説
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(99)ドッペルゲンガー
あの人の姿を見なくなって、どれほどになるだろうか。
私はあの人のすんでいるところも、名前も知らない。
ただ、時々町ですれ違う程度の人だった。
特に美男子だというわけでもないし、直接言葉を交わしたこともあまりない。
ただ、時々顔を見て、買い物をしてお店を出ようとするときに出入り口で会ったら、扉を開けたまま支えてくれるような人だ。
でも、私はそんなあの人のことが、なぜか気になってしょうがなかった。
もしかしたら、これが好きだという感情なのだろうか?
「だったらとりあえず、声かけてみなさいよ」
と、女友達は言った。
「顔と、ちょっと優しくされたぐらいでコロっといっちゃってるんだから・・・しばらく話してみれば、頭がさめるかどうかするんじゃない?」
ということらしい。
だが、私が覚悟を決めて、とりあえずあの人に声をかけようと下コロから、あの人の姿が見えなくなった。
いつもの時間に買い物に出ても、いつもと違う時間に散歩をしても、あの人と会うことはなかった。
住人全員の顔は知らないが、私とあの人が住んでいるのはそう大きな町ではない。
だから、少しずつ時間をずらしていれば、いつかあの人と出会えるはずだった。
だというのに、あの人と会えない。
私は、あの人が町を離れたのではないかと、不安になった。
そして今日もまた、私はあの人の姿を求めて、町を歩いた。
すでに必要なものは買い物袋に入っている。だが、まだ帰らない。
買い物袋に忍ばせた、私の思いをつづった手紙をあの人に渡せるよう、私は町を歩いた。
そして、太陽がだいぶ傾き、あたりが赤く染まるころ、私はやっとあの人を見つけた。
通りの向こうを、誰かと一緒に歩いている。
楽しげに誰かと談笑するあの人の姿に、私は声をかけようとした。
だけど、あの人を呼び止めることはできなかった。
あの人は、女の人と手をつないで歩いていたからだ。
私ではない、女の人。
私ぐらいの背格好で、私みたいな髪型をした女の人。
夕日とあの人の影のせいで、あまり顔は見えなかったが、あの人は女の人と歩いていた。
私の胸がずきんと痛んだ。
あの人はあんなに幸せそうな顔をしている。
あの人はあんなに楽しそうに話をしている。
私以外の誰かと。
私は、なにも考えられなくなり、手紙を買い物袋に入れたまま、あの人と誰かの後をゆっくりとついていった。
少し先を、あの人が歩いている。
あの人の楽しげな顔と、何か言葉を紡ぐ唇が、私に向けられているような気分になる。
そう、私のあの人は、今一緒に歩いているんだ。
夕日が赤く染めあげた町を、あの人と私は歩いていた。
そして、あの人は町の一角、幾度か来たことのある区画に入っていき、並ぶ家の一軒の玄関をくぐった。
程なくして家の窓を柔らかな光が照らし、楽しそうな声が響いた。
私はしばらく、窓を照らす光とあの人の影を眺めてから、家に戻った。
そして、テーブルの上に買い物袋を放りだし、私はベッドに入った。
食事もせず、着替えることもなく、毛布を頭までかぶり、私はじっと丸くなっていた。
涙は出ない。悲しくもない。ただ、胸の奥が痛いだけ。
なんで今日、買い物をした後いつまでも町をうろついていたんだろう。
なんで今日まで、あの人に手紙を渡そうとしていたのだろう。
なんであの人のことを想っていたのだろう。
こんなに胸が痛い想いをするぐらいなら、あの人のことなど知らなければよかった。
私は、毛布の中でぎゅっと目を瞑っていた。

頭の中であの人の顔が浮かんだ。
楽しげに微笑むあの人の顔だ。夕日ではなく、ろうそくかランプの柔らかな光に照らされた顔は、私を見ていた。
「・・・・・・」
あの人の唇が動き、何事かを紡ぐ。
「・・・・・・」
『私』の唇が動き、何事かを返す。
するとあの人はいっそう笑みを深め、『私』もそれに応えるように微笑んだ。
あの人は私のそばにくると、そっと私の肩に手を回した。
あの人の温もりが私を包み、あの人の胸の中に、私は頭を預けた。
「・・・・・・」
『私』が何かを言うと、あの人は何もいわず、ただ『私』の頭を撫でた。
あの人の手の感触が心地よく、私は胸の中からあの人を見上げた。
あの人は『私』を撫でる手を止め、私を見下ろした。
一瞬、私とあの人の視線が交わり、あの人がゆっくりと顔をおろしていく。
そして、あの人と『私』の唇が重なり合った。

目を開くと、私は一人で毛布を被って、ベッドの中でうずくまっていた。
体を起こすと、微かに頭が痛むのを感じた。
すでに日は昇っており、今の今までぐっすり眠っていたのだと、私は理解した。
寝すぎた。
軽く延びをして、私はあくびをした。
大きく開く口を、誰にと言うわけではないが手のひらで隠すと、唇の端に指が触れた。
昨夜、私があの人と重ね合わせた唇。
本当は毛布の中で丸くなっていただけだというのに、あの人の唇の感触が残っているような気がした。
私はあくびの後も、閉じた唇を指先で撫でた。
他の人の唇など触れたこともないが、つるりとした柔らかい唇は、心地よかった。
では、あの人の唇はどうだろう。昨夜、確かに唇を重ねたというのに、唇が触れた感触は残っているが、どういう感触だったかが思い出せない。
私は悔やんだ。

昨日の服を着替え、昨日の材料でご飯を作って食べると、少しだけ元気が出た。
私は家を出ると、まっすぐにあの人の家を目指した。
窓にはカーテンが掛かっており、まだ寝ているのか出かけているのか、いまいち区別が付かなかった。
私は、あの人の家と隣家の隙間に体を滑り込ませ、あの人の家の壁に耳を当てた。
「・・・・・・」
聞こえる。
あの人の声が聞こえる。
あの人は、私ではない誰かと、何かを話していた。
内容まではわからない。だけど、楽しそうなのはわかる。
私は目を閉じ、あの人がなにを話しているのか聞き取ろうとした。

脳裏に、あの人の顔が浮かんだ。
壁も家具も天井も床も横倒しになった世界で、あの人の顔だけがまっすぐだった。
私とあの人がベッドに横になっているときがついたのは、少ししてからだった。
同じベッドに寝転がり、シーツの縁からはむき出しの肩が出ている。
きっと、『私』とそういうことをした後なのだろう。
「・・・・・・」
あの人が口を開き、そっと『私』に手を伸ばした。
あの人の手が、『私』の頭を撫でる。
大きく、温かい手のひら。昨夜、『私』を沢山愛してくれた手のひら。
あの人の優しい感情が、手のひらを通じて私に届く。
だけど、あの人が見ているのは私ではなく、『私』だ。
「・・・・・・」
あの人が何かを囁くが、それは『私』に向けられたものだった。
あの人がそっと顔を近づけ、あの人と『私』の唇が重なり合う。
何かがふれている感触が、私の唇に伝わった。目の前にあの人の顔があり、あの人と唇を重ねているような気分になる。
本当にキスをしているのは『私』のはずなのに、私の胸に喜びが生まれる。
本当にキスをしているのは『私』だから、私の胸がズキズキと痛む。
もっと続けたい。もうやめたい。全く正反対の感情が生じ、私は引き裂かれそうになった。
だけどあの人は、私の苦しみに気がつくはずもなく、頭を撫でていた手を、『私』の頬へ移した。
『私』の頬を撫で、首筋をたどり、あの人の手が『私』の肩を抱く。
シーツの下で、あの人は『私』を抱き寄せた。
あの人の腕の中に『私』の体がすっぽりと収まった。
全身を包まれる安堵感と、あの人の腕の中にいるという事実に、『私』の胸が高鳴った。
どこかぼんやりとしたあの人の腕の感触と、抱かれているのが私ではないと言う事実に、一つ胸が打つ度に痛む。
あの人が私の背筋を撫で、『私』と体を密着させた。
『私』の下腹に、何か固く熱いものがふれる。
あの人の・・・アレだ。
驚きこそあったものの、嫌悪も羞恥もなく、ただあの人の一部が『私』に触れているという実感だけがあった。
あの人を感じながら、私はじっとしていた。

目を開くと、いつの間にか太陽が高く昇っていた。
時刻は昼過ぎだろうか。少々ぼんやりとし過ぎたようだ。
私は建物の隙間で立ち上がった。
すると、妙に湿った下着が、私の両足の間を擦った。
一瞬、うつらうつらしている間に漏らしてしまったのかと不安になるが、様子が違った。
湿り気は私の両足の付け根から滲んでいるものの、粘つきを帯びていた。
寂しい夜に、一人自分を慰めたときに指先に絡む、あの粘つき。
それが、下着を濡らしていた。
まどろみながら見た夢とはいえ、あの人に抱かれていたのだ。
抱かれていたのが本当は『私』であったとしても、私にしてみればあの人の腕の中にいるのは私だった。
だが、壁一枚隔てたところまであの人に迫ることができたのに、私は一人寂しく下着を湿らせている。
その事実が、情けなかった。
私は建物の隙間から、人通りのない瞬間を見計らって、通りに出た。
そして下着の湿り気の不快感を、可能な限り無視しながら、私は家を目指して歩いていった。
今日は買い物はいいだろう。昨日の分があるし、あの人も日が暮れるまで『私』といちゃつくのに忙しいだろうから。
心のどこかで、諦めめいたものを感じながら、私はゆっくりと足を進めていた。
そして、もうすぐで家と言うところで、不意に私は呼び止められた。
「ああそこの、そこのお嬢さん」
見ると通りの端、家屋の壁を背にするようにして、ローブ姿の女の人が小さいテーブルを前に腰掛けているのが目に入った。
「そうだあなた。ちょっとこちらへ」
私は、その占い師めいた女に呼ばれるまま、彼女の方へ歩いていった。
「あなた、片思いしてるね?」
占い師の言葉に、私は胸の奥が痛むのを感じた。
「んー、辛そうだ。かなり辛い片思い・・・さては、相手にすでに恋人がいるのだろう」
恋人かどうかはわからないが、手をつないで歩き、唇を重ね、同じベッドで寝起きする男女が恋人でないというのは無理がある。
「うん、辛いなあ」
占い師が私の顔を見ながら、こくこくと顔を上下に揺すった。
私は占い師の言葉に頷きこそしなかったものの、表情で肯定していたらしい。
「だが、安心しなさい。私はそういう悩める女の子を手助けする方法を知っている」
占い師というものは、もう少し俯瞰的な立場からものを言うのではないのだろうか?
「そういう連中が多いけど、私は直接解決につながるアドバイスをする方が好みなんだよ」
占い師は私の疑問に、そう答えた。
「まず一つ。あなたの恋敵は、魔物だ。あなたの体から、独特の魔力の気配が立ち上っているからわかる。だけど、魔物だからと言って諦める必要はない」
人差し指を立てながら、占い師が言う。
「魔物は強い。しかし人にも勝つ方法は残されている。一つは、あなた自身も魔物になる方法だ」
一体なにを言っているのだろう。そんなことできるはずがない。
「わかっている。これはまあ、過激な・・・過激な連中のやり方だ。だから、私は別の方法を教える。魔力から判断すると、あなたの漕ぎが滝はドッペルゲンガーという魔物だ。他人の姿を借り、男に取り入ろうとする魔物だ」
人に擬態する魔物。なんと恐ろしいのだろう。
「だが、ドッペルゲンガーにも弱点はある。それは、新月の夜に力を失って元の姿に戻ることだ。新月の夜の間だけは、ドッペルゲンガーは男から離れようとする。その瞬間をねらい、あなたがドッペルゲンガーに接触すれば・・・」
勝てる。
「そうだ」
占い師は一つ頷いた。
そうとわかれば話は早い。新月の夜はいつだったか。
「三日後だよ。でも夜になる前からドッペルゲンガーは動くだろうからね。注意しなさい」
占い師の言葉に、私は礼の言葉を口にした。
そして財布を取り出そうとしたところで、彼女は私を止めた。
「お礼は言葉だけで十分だよ。あなたが幸せになってくれれば、それでいい」
私は占い師にもう一度礼を言った。
銀髪の占い師は、にこにことほほえみながら、立ち去る私を見送ってくれた。

赤い。町が赤く染まっている。
夕日が赤く染めているのだ。
私はあの人の家の向かいの隙間に身を潜め、じっとそのときを待っていた。
今夜は新月。占い師によれば、ドッペルゲンガーは一人になる。
そこを私が襲えば・・・私は『私』になれる。
ここ数日、目を閉じる度にあの人の姿が私の目蓋の裏に浮かんだ。
あの人は優しい言葉をかけ、優しく触れ、抱いてくれる。だが、それはすべて『私』に対する言葉であり、愛撫であり、抱擁だった。
私に向けられたものではない。
あの人の優しさを感じられるだけに、私に向けられた想いではないと言うのが辛かった。
だが、それも今日で終わりだ。
じっとあの人の家を見つめていると、扉が開いた。
でてきたのは、女が一人だった。
あの人の姿はない。
女は、きょろきょろと通りの左右を見回すと、あの人の家と隣家の隙間に、こそこそと入っていった。
夜を迎えて招待が露わになる前に、身を隠したのだ。
私はそっと家屋の隙間をでると、女の入っていった隙間に身を寄せた。
夕日のせいで影が濃く、ちょっと隙間をのぞく程度ではあの女の姿は見えない。
私は、占い師と会った日の時のように、隙間に入っていった。
すると壁と壁の隙間に、私に背を向けて女がかがみ込んでいた。
ちょっと。
「っ・・・!」
私が声をかけると、女がびくりと体を跳ねさせた。
そこでなにをしているの。
私の問いに、女はそうしていればやり過ごせるとでも言いたいのか、じっとしていた。
こっちを向きなさい。
あの人のそばにいる魔物が、一体誰の姿をまねているのか確かめるため、私は女の肩をつかんだ。
そして、ほんのわずかの抵抗をねじ伏せ、私は女にこちらを向かせた。
私の目に入ってきたのは、私だった。
鏡で見るより、少しだけ目鼻が違う気がしなくもないが、私自身が私だと思う程度には、私だった。
私の肩をつかんでいた指から力が抜け、私の口から途切れ途切れの声が漏れる。
なぜ?なぜドッペルゲンガーが私を?
疑問が頭の内側を巡り、私を退かせた。
『私』は壁の隙間の間で立ち上がると、私を向いた。
『私』の背格好は私と変わらず、ますます『私』が私であるという想いを強めていった。
『私』は私。私は『私』。目を閉じる度に私が見ていたのは、『私』が見ていたものだったのだ。
私が『私』で、『私』は私で。
つまり。私は誰?
そこまで考えたところで、私の意識は暗転した。

目を開くと、私はどこかの部屋のいすに座らせられていた。
窓から射し込む光は白くなっており。すでに夕刻どころか翌朝になったことがわかった。
私は、ゆっくりと立ち上がると、かすかに聞こえる物音を頼りに、部屋を出た。
玄関から続く廊下に出て、並ぶ扉の一枚にたつ。
その向こうから聞こえる音に吸い寄せられるように、私は扉を開いた。
瞬間、部屋の内側から溢れだした熱が、私の体を撫でた。
むせ返るような濃厚な匂いが、部屋を満たしている。
見ると、ベッドの上で一組の男女が重なり合っていた。
あの人と、『私』の二人が、あの人を下にするようにしながら重なり合っていた。
二人は動きを止め、不意に開いた扉に顔を向けた。
あの人が目を開き、『私』がにぃと微笑む。
そして、『私』が私を招くように、手を差し伸べた。
私は『私』に招かれるまま、ふらふらとベッドに歩み寄った。
『私』が腰を浮かし、両足の間で咥えていたあの人の分身を解放する。
あの人自身には、透明な液体と白い粘液が絡みついていた。
私は、あの人の股間にそそり立つ肉棒に目が釘付けになり、吸い寄せられるようにベッドの上に上っていた。
『私』の下腹を圧迫していた肉棒。つい先ほどまで、『私』の中に入っていた肉棒。
すぐ目の前にある、私が触れたくて、見たくて仕方のなかったモノに、私は無意識のうちに唇を寄せていた。
熱く固い、唇とは真逆の感触が私の唇に触れる。
あの人のモノは、私のキスに小さく跳ねた。
唇から離れそうになるのを、私は指でとらえた。
だがどうしよう。もう少しキスをしてみよう。
指で、粘液に濡れる肉棒をとらえたまま、私はキスを繰り返した。
赤く膨れた先端に一つ。張り出した段のところに、右と左に一つずつ。肌色の部分に何度も。キスを繰り返す。
そのたびに、あの人の分身はびくびくと震え、太腿に一瞬力がこもるのが見えた。
気持ちいいのだろうか。あの人の表情を伺うため、私はキスをしながら目を上げた。
しかし、目に入ったのはあの人の心地良さそうな顔ではなく、横を向き『私』と唇を重ねている様子だった。
『私』への嫉妬が胸の中で燃え上がる。あの人の心を、『私』とのキスから私へ取り戻さなければ。
私は、肉棒に降り注がせていたキスを止め、唇を離した。
そして、女友達との会話の中で聞いたことのある行為をする。
口を開き、肉棒を咥えたのだ。
あの人のモノは少し太く、意識して口を開かないと入らないほどだった。
だが、私は肉棒の半ばまでを咥え、唇で締め付けながら、舌で擦った。
先端の膨れた部分や、段の部分を撫でたり擦ったりすると、あの人の腰が時折跳ねた。
そして、『私』と重ねたままの唇から、小さな声が漏れる。
感じているのだ。
少しだけ『私』に対して優越感を覚えていると、『私』はあの人の唇から顔を離した。
唾液の糸が二人の唇をつなぎ、切れる。
そして、『私』が唇をすぼめてキスをしながら、ゆっくりと顔を下げ始めた。
あの人の顔から首筋、鎖骨から胸板、腹へと移動していく。
そして、私の側までくると、私が咥えきれなかった肉棒の舌半分に、『私』が舌をのばした。
口の中で、あの人の先端がびくびくと震えた。
びくんと震えることはあったのに、連続して脈打つのは初めてだ。
舌をのばし、肉棒の根本の辺りをなぞる『私』に目を向けると、視線だけで『私』が笑みを浮かべるのが見えた。
負けていられない。
私は唇をすぼめ、舌先で口の中の部分を舐め回した。
顎が痛くなり、舌の根本が疲れてくる。だが、動きはゆるめない。
一方『私』も、舌をのばすだけではなく、あの人の足の間に顔をつっこみ、肉棒の下に垂れ下がる袋を口に含んだ。
皮に包まれた二つの玉が『私』の口の中に消え、ころころと頃がされる。
「うぅ・・・!」
あの人が苦しげな声を漏らし、シーツに指を食い込ませた。
すると、私の口の中であの人の肉棒がいっそう大きく脈打ち、先端から熱いものがほとばしった。
のどの奥にたたきつけられる、粘ついた何かに私は驚き、口を離してしまった。
だがあの人の肉棒からほとばしるモノは止まらず、小さくせき込む私の顔にまとわりついていく。
私は、のどの奥の不快感と戦いながら、顔であの人の迸りを受け止めた。
そして、私の咳とあの人の迸りが収まる。
私は落ち着いたところで、顔にへばりつくべたつく白いモノを拭った。
これが、精液なのだろうか。
どこか妙にさめた頭でそんなことを考えていると、『私』が顔を私に寄せてきた。
私と同じ形の唇が開き、肉棒の根本を舐め、玉を転がしていた桃色の舌が伸ばされる。
そして私の顔にへばりつく精液を、『私』は舐めとった。
ほんの一すくいが、『私』の口の中に消え、軽く口の中で転がしてから、音を立てて飲み込む。
そして、『私』は再び顔を寄せると、今度は私の顔全体を舐めまわし始めた。
顔にへばりつく精液を一滴も残すまいとするかのように、『私』の舌が私を蹂躙する。
私は、『私』の舌に圧倒されながらも、口の中に残っていた精液を飲み込んだ。
苦みと粘つきがのどを擦りながら、胃の中に落ちていく。
これで、私もあの人を取り込んだのだ。
やがて、私の顔が『私』の唾液まみれになり、あの人の精液がすべて『私』の胃の中に消えていった。
放たれたときは少しだけ驚いたが、こうしてみると私ももっと飲めばよかった。そんな気がする。
だが、後悔するにはまだ早かった。
あの人の精液は、まだいくらでももらえるのだから。
見ると、あの人の両足の間で、あの人の分身は再び天井を指すようにそそり立っていた。
私は、あの人の肉棒に顔を寄せると、再び咥えようとした。
だが『私』の手が私の肩を押し、私から場所を奪う。
『私』は乳房であの人の肉棒を挟むと、どこか挑発的な視線を私に向けた。
そのぐらい、私にもできる。
私は着たままだった衣服の上をはだけると、乳房をむき出しにし、『私』にぶつかっていった。乳房と乳房で押しあい、『私』の谷間からあの人の肉棒を奪おうとする。
しかし、力が拮抗しているためか、四つの乳房で肉棒を圧迫する姿勢で、動きが止まってしまった。
私と『私』がにらみ合い、同時に両手で乳房を圧迫する。
そして、地宇佐で肉棒をこねるように、手を動かした。
私と『私』の四つの乳房が、肉棒をこね回し、あの人が声を上げる。
そして、乳房の間で肉棒が跳ね、私と『私』に向けて白濁が迸った。
降り注ぐ精液を、私と『私』は奪い合うように啜った。
そうすれば、あの人の気持ちをより深く自分に向けられるという風にだ。
やがて、二度目の迸りも勢いを失い、射精が収まった。
あの人の呼吸は荒くなっており、少しだけ疲労が滲んでいた。
だが、まだ止まらない。
私は『私』を突き飛ばすようにしながら身を起こし、スカートをまくりあげて、下着を脱ぎ捨てた。
そして、あの人の腰の上にまたがり、少しだけ柔らかくなった肉棒に腰を下ろす。
一瞬痛みが走り、あの人が私の中に入った。
痛みに思わず動きを止めてしまうが、涙に滲む視界の中、『私』があの人の上半身に寄り添うのが見えた。
肉棒を挟み込んだ乳房を体に押し当て、そっと唇を寄せる。
『私』の、あの人の気を散らそうと言う小細工に、私は痛みをこらえながら腰を上下させて抵抗した。
あの人が私の腹の奥を押し開き、へその裏をこつんと小突く。
痛みをかき消すような甘い刺激が腹の奥から溢れだし、全身に広がっていく。
私の、痛みをこらえるために食いしばっていた歯の間から、小さく声が漏れだした。
両足の付け根のぬめりが強まり、出入りする屹立の滑りがよくなる。
そして、徐々に痛みが弱まり、快感が大きくなっていくのを私は感じていた。
あの人も、眉根にしわを刻み、『私』と唇を重ねながらも哀感に顔をゆがめていた。
腰を上げ、下ろし、体の内側であの人の分身を擦る。
すると胎内であの人はぴくぴくと肉棒を痙攣させ、全身に小さく力がこもった。
私の体で、感じてくれているのだ。
私は心地よさとともに、愉悦を覚えた。
あの人を胎内で感じている。あの人が私を感じている。あの人と一つになっている。
それら一切合切が胸の中で混ざりあい、私に悦びをもたらした。
やがて、私の中で屹立が強く脈打ち始めた。
私の口の中に精を放つ直前、私と『私』の乳房の間で白濁を迸らせる直前、あの人の肉棒は強く脈打っていた。
あの人が、私で達する。
その予感に、私は肉棒が抜けない程度に腰の動きを強めた。
膨張とほんの少しの収縮を繰り返す肉棒が、私の腹の内側で擦られる。
そして、あの人は低い声を漏らしながら、限界を迎えた。
直後私の腹の中に、熱いものが迸った。
火傷するのではないかというような熱と、胎内を指でつつかれるような勢いに、私の背筋が自然とのけぞる。
下腹から背骨を伝わり、意識に快感が叩き込まれたからだ。
快感は私を絶頂に導き、意識を白く塗りつぶしていった。
視界から、『私』も部屋の景色も、あの人の姿さえも消え去り、胎内を押し広げるあの人の屹立と迸る精液の感覚だけが残る。
そして、快感に焼き焦がされながら、私自身が消えていった。

目を開くと、私はベッドに転がされていた。
すぐ側では、つい先ほどの私のように、あの人の腰を『私』がまたがっていた。
あの人が私ではなく、『私』と繋がっている。
だが、不思議と怒りも妬みも私の内側に湧かなかった。
私が気がついたからだ。『私』が私であることに。
ドッペルゲンガーは、私の姿を使って、あの人の側に立った。
だが、あの人の心は『私』の姿を通じて、私に向けられていた。
あの人が『私』に愛を囁き、『私』を抱きしめるのは、私を愛しているからに他ならない。
ならば、あの人が『私』を抱こうと、私を抱いていることに変わりはない。
あの人と私と『私』。三人で愛し合えばいい。
私は、けだるさの残るからだを動かし、あえぐあの人の顔に近づいた。
そして、苦しげにも見える悦楽の表情を浮かべるあの人の唇に、私はそっと唇を重ねた。
『私』と幾度もキスを交わした唇は、とても柔らかく、温かだった。
12/12/20 18:27更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
双子と3Pしたい。
多くの男性は多かれ少なかれそういう欲望を持っているはずだ。
実際私もそうです。
二卵性で似ているけど違う胎内の感触を味わってもいいし、一卵性でまるきり同じ二人相手にがんばってもいい。
片方とズブズブヌプヌプの爛れた性活を送って、未だ処女のもう片方に手ほどきセックスしてもいい。
そういうのいいよね。
そしてドッペルゲンガーの記述を見てみたら、女性がドッペルゲンガーを見たら肉体的にも精神的にも感化されるとあるじゃないですか。
黒づくめ地味ロリもいいけど、後天性の一卵性双生児いいよね。
同じ顔の二人が、『どっちが気持ちよくできるか』対決を目の前でしてくれるとかいい。
チンコが二本欲しくなります。
まあ、いずれドッペルゲンガーも正体を現して地味ロリになるでしょうけど、その後も三人で疑似母娘丼を楽しめるからいいですよね。
うん。

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