チョコと蜘蛛と白い糸
チョコと蜘蛛と白い糸
三方向から煌めくステンドグラスは、そこに描かれた古の聖人を思わせる神々しい光でもって神を祭る神殿を柔らかく照らしている。
朝早い時間であることを証明するように、普段ならば人でごった返しているその礼拝堂も私以外に人はいない。
基本的に孤独を好み、他の修道士からも変わり者扱いされることが多い私にとって、この朝の時間の礼拝堂は貴重な、一人になれる時間である。
美しい光の中、私は今日という日に殉教した古の聖人を思いながら祈りを捧げた。
「『・・・賛美と感謝のうちに、アーメン』」
短い文句を唱え終わると私は先ほどまで開いていた分厚い書物を閉ざして脇に避け、新鮮な空気を吸うことで心を静かに保ち、まず額に指をかざす。
「父と」
そのまま指をおろして胸のあたりまで辿り着くと、また私は微かに口を開く。
「子と」
今度はその指を左肩にまで持ってきて一呼吸で唱える。
「聖霊との」
「みなにおいて」
右肩に指を添わせようとして、私は突如後ろから文句の続きを言われてしまい閉じていた瞳を開く。
「・・・やはり、来ましたか」
私が座っていたのは痛ましい姿で古代の救世主が磔にされている十字架のすぐ前の席。
対して「みなにおいて」という幼い少女の声が聞こえてきたのは礼拝堂の入り口、すなわち私の後ろ四十メートルほど後方だ。
「久しぶりねニンゲン、元気にしてたのかしら？」
ペタペタと素足が磨かれた石に触れる音がして、ゆっくりと声の主が近づいてくる。
「わざわざこんな朝早くに一人でいるだなんて、もしかして私に会いたかったのかしら？」
勝手な声が聞こえて来る、この感じだと私のいる席の二つ三つ後ろの列にまで歩いて来たか？
「私がいつもこの時間にいるのは知っているでしょう？」
足音はすぐ近くにまで来ると、そのまま私の後ろの座席に座る。
「こっち見てよ」
「嫌です、見たら貴方、『こんな幼女の肌が見たいの？、変態』などと言うつもりでしょう？」
私はうっ、と後ろの席で少女が詰まるのを察して気分が密かに高揚するのを感じた。
私に少女を虐める趣味はないが、今後ろにいる人物に関しては別物である。
「貴方の趣味につきあっている暇はありませんし興味もありません、お引き取りを」
私は脇に置いていた『聖務日課』を持つと、座席を立ち上がって少女の姿を確認せず、出入り口にまっすぐ向かう、面倒になる前に一刻も早く立ち去りたかった。
「ま、待ちなさいよっ！」
「待ちません、貴女も大概しつこい人ですね」
近くを通れば袖を引っ張られそうだったため、わざわざ座っていた場所よりも遠いほうの通路へと向かう。
「こっち見なさいよっ！、だいたいなんであんたはアタシの毒を受けても平気なのよっ！」
平気だったわけでない、未知の感覚にとまどってしまったし、実際私でなければ危なかったろう。
なおも無言で離れようとする私に、少女は近づこうとする。
「待ちなさいよっ！、って、あっ！？」
ツルリという擬音が聞こえてきそうなほどに見事な滑りっぷりだったようだ。
見えはしないのに何故わかるかと言うと、私の後ろで少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、石と石がぶつかり合うような音がして、すぐに痛そうなうめき声が聞こえてきたからだ。
「い、痛い・・・」
無視して立ち去ることも出来たのだが、傷ついた少女を見捨てたとあれば後味がよくないし教義にももとる、例え相手が『魔物』であっても、だ。
「仕方ありませんね」
私は踵を返すと、跪いて呻き声を上げる少女に近づき、腰をかがめる。
「ほらほら、見せてください」
どうやら打ち付けたのは右膝のようだ、盛大にこけた音がしたにも関わらず血は出ていないし痣にもなっていない。
「すぐに痛みも引くでしょう、立てますか？」
よせば良いのに私は正面からその少女を見てしまった。
「くす、こんな幼女の肌が見たいの？、変態ね」
先ほどまでの暗さは何処へやら、長い髪に薄暗い瞳のその少女はクスクス笑っている。
身体には紫のニーソックスと真っ平らな胸を隠す服以外は身につけておらず、白い肌に微かに浮かぶ肋骨、その下にあるほっそりした臍、微かに湿り気がある下腹部、未成熟な少女の半裸体が神聖な礼拝堂に晒されると、なんとも背徳的だ。
「はあ、やはりこうなりますよね・・・」
アトラクナクアと呼ばれるその魔物娘は心底心配した私に対してクスクスと笑っているが、その眼に悪意はなく、悪戯が成功した子供のような表情をしている。
「まったく、貴女という人は・・・」
屈託のない笑みに、私も苦笑いしながら彼女と出会った日のことを思い返していた。
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薄暗い部屋、絶妙の湿度と温度で調整された修道院の地下室は、まるで古代の墳墓か、カタコンベの地下墓所のような陰鬱な雰囲気の空間である。
私がここの修道院に入って、もう十年にもなろうか？
その間様々な役目を果たしては来たが、記念すべき十年目の役目はこうして地下に保管された酒と保存食を管理することだ。
いくつか部屋は別れているのだが、私が今いる区画にはワインの酒樽が所狭しと壁際に並べられ、樽にはうっすらと埃も積もっている。
「ふむふむ、状態は良さそうですね」
壁に並べられた酒樽は昔ながらの製法で醸造され、こうして地下の保管庫へと運ばれてくる。
「これは、ふむ、明日には出せますか」
修道院の典礼や日々の料理に使い、さらには外に出荷するためにはこうして時々様子を見てやる必要があるのだ。
私は酒樽の後ろに嵌められたラベルを見ながら手元の資料と照会し、日付が大丈夫かどうかを確かめる。
もしやり方を間違えてしまえば他の修道士から非難が殺到するのは火を見るよりも明らか、キチンと管理せねばなるまい。
「？・・・妙だな」
異変に気付いたのはこの時、赤ワインの保管庫の確認を終わり、白ワインの区画へと行こうとした時のことだ。
「どこからだ？」
微かに聞こえてくるコツコツという音、まるで固い岩盤を叩き割ろうとするような、そんな音だ。
「食料泥棒、まさか、こんな時代に？」
基本的に私は修道士のため外には出ないが、それでも今外では異界から来た『魔物娘』とやらが色々やってることは知っている。
なんでも人間と共存したいのだそうで、すでにこの日本を始めいくつもの国が受け入れを始めているとか。
もっとも、基本的に外には出ずに、生涯独身の誓いを立てている私には関係ないことだが。
本題はここから、話しによれば魔物娘が来たことにより理由はよくわからないが犯罪率はぐんと下がり、おまけに人々の平均所得もうなぎのぼりらしい。
故に軒並み強盗、泥棒、追い剥ぎは廃業し、まさに平和な時代がきているわけだ。
そんな時代にわざわざ地下に進入してまで食料を狙うものがいようか？、いやいまい、そう私は判断したが、いささか不気味なので音の発生源を調べてみることにした。
耳を澄ませながら地下を歩くこと数分、意外なことに発生源はすぐ近くにあるようだ。
「ここかな？」
場所は酒、ではなくクッキーやココアを作るためにカカオが保管されている部屋、全体図で見れば地下室の東端となる場所である。
「よいしょっ！」
気合いで微かに感じた恐怖を払いのけるとともに私はすぐ近くにあった掘削用のつるはしを握って発生源を抉ってみる、すると・・・？
「うわわわわっ！」
「なにっ！？」
ドバッと恐ろしい勢いで粘着質の糸のような何かが穴から漏れ、遅れて白い影が飛び出してきて、真っ白に染まる床の中央に倒れた。
「な、何だ？、何が起きたのですかっ？！」
慌てて右手で顔をかばったものの、代償として右手にべったりと糸が張り付いてしまった、さしずめ糸で作られた籠手だろうか？
「あ、あんたっ！、ニンゲンっ？！」
保管庫内部に発生した糸の海の中央に倒れていた白い影の正体は小さな体躯の少女だ。
アメジストを思わせるような紫の長髪、美しくも禍々しいルビーのような赤い瞳、ほっそりした後ろの腰からは蜘蛛か何かのような足が伸びている。
「君は、アトラクナクア、ですか？」
話しには聞いたことがある、地下に住み、巣をかけながら未来の夫が来るのを待つアラクネの種族がいると。
「そうよ、あたしはアトラクナクア、ここはどこなの？」
どうやらよくわからないまま修道院の地下に来てしまったらしい、巣をかけている最中に勢い余ってここまで来てしまったか？
「とにかく本来ここは女子禁制、はやく糸を解いて立ち去ってください」
私の右手は白い糸に絡みとられ、アトラクナクアの左手へと繋がっている。
このままでは何かと不都合だ、はやく解いてもらわないことには日常奉仕に支障をきたすことになる。
「ううん、解けなくはないけどさあ〜」
楽しんでいる、そうとしか思えぬニタニタした笑みを浮かべてアトラクナクアは近くに落ちていた小石を拾った。
「見返りに何くれるの？」
「・・・はあ？」
相変わらずニタニタと笑うアトラクナクア、自分の過失だというに、何故代償を要求するのか。
「私は修道士ですから個人の持ち物はほとんどありません、あるとすればこの身この命くらいです」
「それが欲しいのよ」
刹那アトラクナクアは素早く、まるで気配を感じさせない所作で動くと、私の首筋に噛み付いた。
「な、にをっ」
痛みはない、だが噛み付かれた瞬間火箸で突かれたような熱を感じ、直後その熱は血管を通じて全身に広まり、瞬時に私の身体を焼き尽くす。
「うあっ！」
バクバクと高鳴る心臓、目の前にいる、私の腕と糸で繋がれた少女が、まるで世界一の美少女のように感じた。
「クスクス、なあに貴方、こんな身体の女の子に欲情してるの？、最低ね」
心底楽しそうにアトラクナクアは近づいて来る、ああ、このまま彼女に身を委ねてしまえばどれだけ気持ちが良いだろうか。
「変態、こんなにおっきくして、貴方それでも修道士なの？」
非難の声すら耳に心地よく感じる、アトラクナクアの毒は、麻薬のように速やかに私の脳を侵し、徐々に判断力を奪う。
「ほら、自分で脱ぎなさい、あたしは変態修道士に触るなんてまっぴら・・・って」
気づけば私はすぐ近くにある巨大な樽に左手をついていた。
「あんた、何して・・・はあっ？！」
「アーメンっ！、サルヴェ・レジーナっ！！、クォ・ヴァディスっ！！！」
落ち着くためにはこれしか手はない、わけのわからないかけ声とともに私は樽に頭を何度も打ち付けて、頭を冷やそうと企てる。
「ちょ、あ、あんた何してっ！」
アトラクナクアの声をよそに何度か頭をぶつけていると、樽が真二つに割れて中に詰まっていたカカオ豆が辺りに飛び出し、床に散らばる。
「はあはあ、ようやく、戻りましたね」
ズキズキ頭は痛むものの、とりあえずアトラクナクアの毒はなんとかなったようだ、そんな私を彼女は信じらない表情で見つめる。
「し、信じらんないっ！、あんた、変態なだけでなくて馬鹿なのっ！？」
「馬鹿ではありますが、変態ではありませんよ、さあ、とりあえず修道院長のとこに行きますよ」
無理やり右腕に繋がれた糸を引っ張り、私はアトラクナクアを連れて行こうとする。
ちなみに修道院長の拳骨は大地も砕く、カカオ豆が台無しになったと聞けば激怒することは想像に容易い。
「ちょ、離しなさいよっ！、これはあんたがやったことであたしは関係ないでしょ？」
「さあ、どうかな？、単に散らばるだけならともかく、カカオ豆はどれも糸でべったりですね」
今度は私が笑みを浮かべる番だ、アトラクナクアは床の惨状と自分の左腕とつながる私の右手を代わる代わる見つめた。
「ぐぬぬぬぬ、ニンゲンのくせに、あたしの脚になるニンゲンのくせに！！」
「観念しなさい、さあ行きますよ」
嫌がるアトラクナクアを引っ張り私は修道院長のいる部屋へと向かう、さてさてどうなることやら・・・。
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「失礼しました」
修道院長の部屋から出ると、私とアトラクナクアの頭には大きなタンコブができていた。
「うう、どうして私がこんな目に・・・」
相変わらず私の腕と糸を通じてつながるアトラクナクアだが、先ほどまでの威勢はどこへやら、しょんぼりしている。
「失敗は贖うべきです、貴女もまだまだ修行不足ですね」
「それはあんたたち信者の理屈でしょっ！、何であたしまでこんな目に・・・、ってあんたなんであたしを引っ張るのよ」
「私はこちらに用事があるのです、そろそろ九時課の時間ですしね」
繋がっている以上は従わざるを得ない、アトラクナクアは無理やり私に引っ張られ、その意思に反して礼拝堂へと向かう。
「わ、わかったわよ、解くわよっ！、それでいいんでしょっ！」
パチリと音がしてアトラクナクアの糸が切れ、私の右腕は数時間ぶりに自由を取り戻した。
「やれやれ、最初からそうすれば良かったのですよ、それとも私と一緒にいたかったのですか？」
「なっ！？」
アトラクナクアは目に見えて狼狽しているように見える、チラチラと視線は泳ぎ、モジモジと脚を擦り合わせているからだ。
「何だったら九時課に参加しますか？、女子禁制ですので隠れていなければなりませんが」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・お・・・」
「・・・お？」
「覚えてなさいよおおおおおおおおおおっ！！！」
最後のは辺り一面に響くような大声だった、キーンと耳鳴りに悩まされている内にアトラクナクアはどこかへ去ってしまっていた。
「はあ、何を覚えていれば良いのやら」
その後地下の様子を見に行ったのだが、カカオ豆も床に張り付いた糸も消え、綺麗に掃除されていた。
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そんなことがあったのがつい先週のこと、それ以来このアトラクナクアは私にことあるごとにつきまとっている。
「ニンゲンっ！、あんた今日が何の日か知ってるわよね？」
無視しながら中庭を歩いているのにしつこい、周りの修道士はもう慣れたのか、私に近づこうともしてこない。
仕方がない、私は足を止めるとゆっくり振り向く（無論半裸の姿からは微妙に目を逸らして）
「はあ、聖ヴァレンティヌスの殉教日がどうかしたのですか？」
「どうかしたかじゃないわ、ニンゲンの風習ではチョコを渡すらしいわね、こないだのカカオ豆から作ってきたわよっ！」
そう言いながらアトラクナクアは私にハートの形をした包み紙を差し出してくる、形はグチャグチャでかろうじて形がわかるくらいだが、何となく梱包した者の温かい気持ちが感じられる品だ。
「・・・そうですか」
「ふふん、有り難く食べてもいいわよ、ニンゲンの風習に則ってね」
ドヤ顔で知識を披露するアトラクナクアだが、私は包みを調べながら微笑む。
「聖ヴァレンティヌスの殉教日には別にチョコを贈る由来はありませんよ？」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはおそらく今のアトラクナクアのような表情を言うのだろうか？、呆然とした彼女の表情はなかなかに新鮮ではなかろうか。
だが好意そのものは素直に嬉しい、生涯独身を誓う以上こんな機会はないからだ。
私は十字を切ると彼女に礼を述べるが、どうもアトラクナクアはワナワナと震えている。
「どうしました？、具合でも？」
「・・・お」
「お？」
「覚えてなさいよおおおおおおおおおおお！！！」
またしても凄まじい声で捨て台詞を残すと、そのまま知り合いの魔物娘はまたしてもどこかへ去っていった。
「だから、何を覚えていれば良いのやら」
とにかく貰えたのはありがたい、あんな美人から貰えるならば男心も疼くというもの、私はチョコを仕舞うと朝の光が満ちる中庭をゆっくりと歩いていく、もうすぐ三時課の時間、急がねば。
一日の終わりに読書をするのは修道士の基本、アトラクナクアのチョコを食べ、私は自室の机にて『聖務日課』と向き合う。
ペラペラとページをめくっていて、ふとした違和感に私は周りを見渡した。
部屋には簡素なベッドと神学に関する書物を収めた本棚くらいしかなく、部屋そのものも四畳程度しかない。
見慣れたいつもの部屋、だが何故違和感があるのだろうか？
ページをめくろうとしてようやく私は違和感の正体に気付かされた。
「っ！」
私の右手はいつの間にやら紫の蜘蛛の脚を思わせるものへと変わり果て、よく見れば身体も変調をきたしている。
調べた結果ではある程度身体が大きくなり、脚はあたかも刀か何かのように鋭く尖り、まるで化け物の手のようになっていた。
尋常ではない出来事に私は慌てふためき、血の気が失せるのを感じる。
「ふふん、驚いた？」
いつの間にいたのか、全く気配を感じられなかったが、部屋の中にアトラクナクアがいた。
不法進入と思っていたが、こっちはそれどころではない。
「チョコに仕込んでおいた毒は上々、あんたはこれであたしの眷属であたしの脚、これからは・・・、ちょ、なんでこっち見ないのよっ！」
「うるさいですね、読書課の最中ですよ？、っと、なかなか捲れないな」
悪戦苦闘しながら『聖務日課』をめくろうとするがなかなかうまくいかない、しかし爪に引っ掛けるようにすればめくりやすいようだ。
「よし、捲れた」
身体が変われば本も捲れないかもしれない、と不安だったもののなんとか出来そうでホッと一安心、だがどういうわけだか私の近くにいるアトラクナクアはおかんむりの様子。
「ちょ、ふざけないでよっ！、あんた身体が変身してんのよっ！、なんでそんな落ち着いてられんのよっ！」
「いや、『聖務日課』が読めないのは問題ですがなんとかなりそうですし、あっ！」
しまった、大切なことを忘れていた不心得ぶりに我ながら腹が立つ。
「よくも、やってくれましたね」
「ふ、ふん、やっと気づいた？、そんな姿じゃあたし以外とは一緒にいられないわよね？、さあ地下にあたしたちの愛の巣を・・・」
「これではロザリオが手繰れない、なんたることだっ！」
この新しい手には指がない、これではロザリオの祈りが捧げられないではないか、ジワジワと焦燥が首をもたげ、心を締め付ける。
「い、い、異常よあんたっ！、気づいたら身体が変異してるのよっ！、なんでそんな落ち着いてるのよっ！」
何やら喚き散らすアトラクナクアだが、私はそれどころではない、私は己の中の焦燥から生じた怒りをぶつけるように、右手と左手で少女の小さな身体を拘束する。
「な、何すんのよっ！」
「責任をとってもらいますよ、私をこんな姿にしたのですから」
そのまま私は怒りのままに彼女を抱えて、『頭』のすぐ上にある生殖嚢に放り込む。
「ひぎあっ！、ちょ、な、なんなのよっ！、らめ♡、そんなとこ・・・ひぎいっ♡♡」
「良いですか？、これから貴女は私の半身、祈りの中に入ってもらいますよ？」
手始めに読書課からだ、私は開いたままだった本にアトラクナクアを向かわせる、顔は見えないが恐らく不満げにしているのだろう。
「な、なんで混沌の魔物たるあたしがそんな七面倒な・・・あひい♡」
不満を垂れるようなので、とりあえず生殖嚢の中にあるぬるぬるの触手を彼女のキツキツの肛門に差し込んでおく。
触手そのものからも粘液は分泌されているのか、特に湿っていないにも関わらず触手はすんなり肛門に浸入した。
「はい、かイエスで答えて下さい」
しばらく待ったが返事がない。
よろしい、私は肛門を蹂躙すべくぬるぬるの触手を動かし、ついでに抵抗する足を抑え込み、足の裏をくすぐる。
なんだか彼女を性的に責めるのが楽しくなってきたのは内緒だ。
「あひゃひゃひゃひゃ♡♡♡、ひい♡、ひい♡、わ、わかりまひた、な、なんでも、言うこと、ききまひゅう・・・」
どうやら聞き入れてくれたようだ、私は満足して頷くも、外から見たら大蜘蛛の頭が微かに揺れたくらいにしか見えないだろうか？
「お、おぼえて、なひゃい、よ・・・♡♡♡」
三方向から煌めくステンドグラスは、そこに描かれた古の聖人を思わせる神々しい光でもって神を祭る神殿を柔らかく照らしている。
朝早い時間であることを証明するように、普段ならば人でごった返しているその礼拝堂も私以外に人はいない。
基本的に孤独を好み、他の修道士からも変わり者扱いされることが多い私にとって、この朝の時間の礼拝堂は貴重な、一人になれる時間である。
美しい光の中、私は今日という日に殉教した古の聖人を思いながら祈りを捧げた。
「『・・・賛美と感謝のうちに、アーメン』」
短い文句を唱え終わると私は先ほどまで開いていた分厚い書物を閉ざして脇に避け、新鮮な空気を吸うことで心を静かに保ち、まず額に指をかざす。
「父と」
そのまま指をおろして胸のあたりまで辿り着くと、また私は微かに口を開く。
「子と」
今度はその指を左肩にまで持ってきて一呼吸で唱える。
「聖霊との」
「みなにおいて」
右肩に指を添わせようとして、私は突如後ろから文句の続きを言われてしまい閉じていた瞳を開く。
「・・・やはり、来ましたか」
私が座っていたのは痛ましい姿で古代の救世主が磔にされている十字架のすぐ前の席。
対して「みなにおいて」という幼い少女の声が聞こえてきたのは礼拝堂の入り口、すなわち私の後ろ四十メートルほど後方だ。
「久しぶりねニンゲン、元気にしてたのかしら？」
ペタペタと素足が磨かれた石に触れる音がして、ゆっくりと声の主が近づいてくる。
「わざわざこんな朝早くに一人でいるだなんて、もしかして私に会いたかったのかしら？」
勝手な声が聞こえて来る、この感じだと私のいる席の二つ三つ後ろの列にまで歩いて来たか？
「私がいつもこの時間にいるのは知っているでしょう？」
足音はすぐ近くにまで来ると、そのまま私の後ろの座席に座る。
「こっち見てよ」
「嫌です、見たら貴方、『こんな幼女の肌が見たいの？、変態』などと言うつもりでしょう？」
私はうっ、と後ろの席で少女が詰まるのを察して気分が密かに高揚するのを感じた。
私に少女を虐める趣味はないが、今後ろにいる人物に関しては別物である。
「貴方の趣味につきあっている暇はありませんし興味もありません、お引き取りを」
私は脇に置いていた『聖務日課』を持つと、座席を立ち上がって少女の姿を確認せず、出入り口にまっすぐ向かう、面倒になる前に一刻も早く立ち去りたかった。
「ま、待ちなさいよっ！」
「待ちません、貴女も大概しつこい人ですね」
近くを通れば袖を引っ張られそうだったため、わざわざ座っていた場所よりも遠いほうの通路へと向かう。
「こっち見なさいよっ！、だいたいなんであんたはアタシの毒を受けても平気なのよっ！」
平気だったわけでない、未知の感覚にとまどってしまったし、実際私でなければ危なかったろう。
なおも無言で離れようとする私に、少女は近づこうとする。
「待ちなさいよっ！、って、あっ！？」
ツルリという擬音が聞こえてきそうなほどに見事な滑りっぷりだったようだ。
見えはしないのに何故わかるかと言うと、私の後ろで少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、石と石がぶつかり合うような音がして、すぐに痛そうなうめき声が聞こえてきたからだ。
「い、痛い・・・」
無視して立ち去ることも出来たのだが、傷ついた少女を見捨てたとあれば後味がよくないし教義にももとる、例え相手が『魔物』であっても、だ。
「仕方ありませんね」
私は踵を返すと、跪いて呻き声を上げる少女に近づき、腰をかがめる。
「ほらほら、見せてください」
どうやら打ち付けたのは右膝のようだ、盛大にこけた音がしたにも関わらず血は出ていないし痣にもなっていない。
「すぐに痛みも引くでしょう、立てますか？」
よせば良いのに私は正面からその少女を見てしまった。
「くす、こんな幼女の肌が見たいの？、変態ね」
先ほどまでの暗さは何処へやら、長い髪に薄暗い瞳のその少女はクスクス笑っている。
身体には紫のニーソックスと真っ平らな胸を隠す服以外は身につけておらず、白い肌に微かに浮かぶ肋骨、その下にあるほっそりした臍、微かに湿り気がある下腹部、未成熟な少女の半裸体が神聖な礼拝堂に晒されると、なんとも背徳的だ。
「はあ、やはりこうなりますよね・・・」
アトラクナクアと呼ばれるその魔物娘は心底心配した私に対してクスクスと笑っているが、その眼に悪意はなく、悪戯が成功した子供のような表情をしている。
「まったく、貴女という人は・・・」
屈託のない笑みに、私も苦笑いしながら彼女と出会った日のことを思い返していた。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_
薄暗い部屋、絶妙の湿度と温度で調整された修道院の地下室は、まるで古代の墳墓か、カタコンベの地下墓所のような陰鬱な雰囲気の空間である。
私がここの修道院に入って、もう十年にもなろうか？
その間様々な役目を果たしては来たが、記念すべき十年目の役目はこうして地下に保管された酒と保存食を管理することだ。
いくつか部屋は別れているのだが、私が今いる区画にはワインの酒樽が所狭しと壁際に並べられ、樽にはうっすらと埃も積もっている。
「ふむふむ、状態は良さそうですね」
壁に並べられた酒樽は昔ながらの製法で醸造され、こうして地下の保管庫へと運ばれてくる。
「これは、ふむ、明日には出せますか」
修道院の典礼や日々の料理に使い、さらには外に出荷するためにはこうして時々様子を見てやる必要があるのだ。
私は酒樽の後ろに嵌められたラベルを見ながら手元の資料と照会し、日付が大丈夫かどうかを確かめる。
もしやり方を間違えてしまえば他の修道士から非難が殺到するのは火を見るよりも明らか、キチンと管理せねばなるまい。
「？・・・妙だな」
異変に気付いたのはこの時、赤ワインの保管庫の確認を終わり、白ワインの区画へと行こうとした時のことだ。
「どこからだ？」
微かに聞こえてくるコツコツという音、まるで固い岩盤を叩き割ろうとするような、そんな音だ。
「食料泥棒、まさか、こんな時代に？」
基本的に私は修道士のため外には出ないが、それでも今外では異界から来た『魔物娘』とやらが色々やってることは知っている。
なんでも人間と共存したいのだそうで、すでにこの日本を始めいくつもの国が受け入れを始めているとか。
もっとも、基本的に外には出ずに、生涯独身の誓いを立てている私には関係ないことだが。
本題はここから、話しによれば魔物娘が来たことにより理由はよくわからないが犯罪率はぐんと下がり、おまけに人々の平均所得もうなぎのぼりらしい。
故に軒並み強盗、泥棒、追い剥ぎは廃業し、まさに平和な時代がきているわけだ。
そんな時代にわざわざ地下に進入してまで食料を狙うものがいようか？、いやいまい、そう私は判断したが、いささか不気味なので音の発生源を調べてみることにした。
耳を澄ませながら地下を歩くこと数分、意外なことに発生源はすぐ近くにあるようだ。
「ここかな？」
場所は酒、ではなくクッキーやココアを作るためにカカオが保管されている部屋、全体図で見れば地下室の東端となる場所である。
「よいしょっ！」
気合いで微かに感じた恐怖を払いのけるとともに私はすぐ近くにあった掘削用のつるはしを握って発生源を抉ってみる、すると・・・？
「うわわわわっ！」
「なにっ！？」
ドバッと恐ろしい勢いで粘着質の糸のような何かが穴から漏れ、遅れて白い影が飛び出してきて、真っ白に染まる床の中央に倒れた。
「な、何だ？、何が起きたのですかっ？！」
慌てて右手で顔をかばったものの、代償として右手にべったりと糸が張り付いてしまった、さしずめ糸で作られた籠手だろうか？
「あ、あんたっ！、ニンゲンっ？！」
保管庫内部に発生した糸の海の中央に倒れていた白い影の正体は小さな体躯の少女だ。
アメジストを思わせるような紫の長髪、美しくも禍々しいルビーのような赤い瞳、ほっそりした後ろの腰からは蜘蛛か何かのような足が伸びている。
「君は、アトラクナクア、ですか？」
話しには聞いたことがある、地下に住み、巣をかけながら未来の夫が来るのを待つアラクネの種族がいると。
「そうよ、あたしはアトラクナクア、ここはどこなの？」
どうやらよくわからないまま修道院の地下に来てしまったらしい、巣をかけている最中に勢い余ってここまで来てしまったか？
「とにかく本来ここは女子禁制、はやく糸を解いて立ち去ってください」
私の右手は白い糸に絡みとられ、アトラクナクアの左手へと繋がっている。
このままでは何かと不都合だ、はやく解いてもらわないことには日常奉仕に支障をきたすことになる。
「ううん、解けなくはないけどさあ〜」
楽しんでいる、そうとしか思えぬニタニタした笑みを浮かべてアトラクナクアは近くに落ちていた小石を拾った。
「見返りに何くれるの？」
「・・・はあ？」
相変わらずニタニタと笑うアトラクナクア、自分の過失だというに、何故代償を要求するのか。
「私は修道士ですから個人の持ち物はほとんどありません、あるとすればこの身この命くらいです」
「それが欲しいのよ」
刹那アトラクナクアは素早く、まるで気配を感じさせない所作で動くと、私の首筋に噛み付いた。
「な、にをっ」
痛みはない、だが噛み付かれた瞬間火箸で突かれたような熱を感じ、直後その熱は血管を通じて全身に広まり、瞬時に私の身体を焼き尽くす。
「うあっ！」
バクバクと高鳴る心臓、目の前にいる、私の腕と糸で繋がれた少女が、まるで世界一の美少女のように感じた。
「クスクス、なあに貴方、こんな身体の女の子に欲情してるの？、最低ね」
心底楽しそうにアトラクナクアは近づいて来る、ああ、このまま彼女に身を委ねてしまえばどれだけ気持ちが良いだろうか。
「変態、こんなにおっきくして、貴方それでも修道士なの？」
非難の声すら耳に心地よく感じる、アトラクナクアの毒は、麻薬のように速やかに私の脳を侵し、徐々に判断力を奪う。
「ほら、自分で脱ぎなさい、あたしは変態修道士に触るなんてまっぴら・・・って」
気づけば私はすぐ近くにある巨大な樽に左手をついていた。
「あんた、何して・・・はあっ？！」
「アーメンっ！、サルヴェ・レジーナっ！！、クォ・ヴァディスっ！！！」
落ち着くためにはこれしか手はない、わけのわからないかけ声とともに私は樽に頭を何度も打ち付けて、頭を冷やそうと企てる。
「ちょ、あ、あんた何してっ！」
アトラクナクアの声をよそに何度か頭をぶつけていると、樽が真二つに割れて中に詰まっていたカカオ豆が辺りに飛び出し、床に散らばる。
「はあはあ、ようやく、戻りましたね」
ズキズキ頭は痛むものの、とりあえずアトラクナクアの毒はなんとかなったようだ、そんな私を彼女は信じらない表情で見つめる。
「し、信じらんないっ！、あんた、変態なだけでなくて馬鹿なのっ！？」
「馬鹿ではありますが、変態ではありませんよ、さあ、とりあえず修道院長のとこに行きますよ」
無理やり右腕に繋がれた糸を引っ張り、私はアトラクナクアを連れて行こうとする。
ちなみに修道院長の拳骨は大地も砕く、カカオ豆が台無しになったと聞けば激怒することは想像に容易い。
「ちょ、離しなさいよっ！、これはあんたがやったことであたしは関係ないでしょ？」
「さあ、どうかな？、単に散らばるだけならともかく、カカオ豆はどれも糸でべったりですね」
今度は私が笑みを浮かべる番だ、アトラクナクアは床の惨状と自分の左腕とつながる私の右手を代わる代わる見つめた。
「ぐぬぬぬぬ、ニンゲンのくせに、あたしの脚になるニンゲンのくせに！！」
「観念しなさい、さあ行きますよ」
嫌がるアトラクナクアを引っ張り私は修道院長のいる部屋へと向かう、さてさてどうなることやら・・・。
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「失礼しました」
修道院長の部屋から出ると、私とアトラクナクアの頭には大きなタンコブができていた。
「うう、どうして私がこんな目に・・・」
相変わらず私の腕と糸を通じてつながるアトラクナクアだが、先ほどまでの威勢はどこへやら、しょんぼりしている。
「失敗は贖うべきです、貴女もまだまだ修行不足ですね」
「それはあんたたち信者の理屈でしょっ！、何であたしまでこんな目に・・・、ってあんたなんであたしを引っ張るのよ」
「私はこちらに用事があるのです、そろそろ九時課の時間ですしね」
繋がっている以上は従わざるを得ない、アトラクナクアは無理やり私に引っ張られ、その意思に反して礼拝堂へと向かう。
「わ、わかったわよ、解くわよっ！、それでいいんでしょっ！」
パチリと音がしてアトラクナクアの糸が切れ、私の右腕は数時間ぶりに自由を取り戻した。
「やれやれ、最初からそうすれば良かったのですよ、それとも私と一緒にいたかったのですか？」
「なっ！？」
アトラクナクアは目に見えて狼狽しているように見える、チラチラと視線は泳ぎ、モジモジと脚を擦り合わせているからだ。
「何だったら九時課に参加しますか？、女子禁制ですので隠れていなければなりませんが」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・お・・・」
「・・・お？」
「覚えてなさいよおおおおおおおおおおっ！！！」
最後のは辺り一面に響くような大声だった、キーンと耳鳴りに悩まされている内にアトラクナクアはどこかへ去ってしまっていた。
「はあ、何を覚えていれば良いのやら」
その後地下の様子を見に行ったのだが、カカオ豆も床に張り付いた糸も消え、綺麗に掃除されていた。
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そんなことがあったのがつい先週のこと、それ以来このアトラクナクアは私にことあるごとにつきまとっている。
「ニンゲンっ！、あんた今日が何の日か知ってるわよね？」
無視しながら中庭を歩いているのにしつこい、周りの修道士はもう慣れたのか、私に近づこうともしてこない。
仕方がない、私は足を止めるとゆっくり振り向く（無論半裸の姿からは微妙に目を逸らして）
「はあ、聖ヴァレンティヌスの殉教日がどうかしたのですか？」
「どうかしたかじゃないわ、ニンゲンの風習ではチョコを渡すらしいわね、こないだのカカオ豆から作ってきたわよっ！」
そう言いながらアトラクナクアは私にハートの形をした包み紙を差し出してくる、形はグチャグチャでかろうじて形がわかるくらいだが、何となく梱包した者の温かい気持ちが感じられる品だ。
「・・・そうですか」
「ふふん、有り難く食べてもいいわよ、ニンゲンの風習に則ってね」
ドヤ顔で知識を披露するアトラクナクアだが、私は包みを調べながら微笑む。
「聖ヴァレンティヌスの殉教日には別にチョコを贈る由来はありませんよ？」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはおそらく今のアトラクナクアのような表情を言うのだろうか？、呆然とした彼女の表情はなかなかに新鮮ではなかろうか。
だが好意そのものは素直に嬉しい、生涯独身を誓う以上こんな機会はないからだ。
私は十字を切ると彼女に礼を述べるが、どうもアトラクナクアはワナワナと震えている。
「どうしました？、具合でも？」
「・・・お」
「お？」
「覚えてなさいよおおおおおおおおおおお！！！」
またしても凄まじい声で捨て台詞を残すと、そのまま知り合いの魔物娘はまたしてもどこかへ去っていった。
「だから、何を覚えていれば良いのやら」
とにかく貰えたのはありがたい、あんな美人から貰えるならば男心も疼くというもの、私はチョコを仕舞うと朝の光が満ちる中庭をゆっくりと歩いていく、もうすぐ三時課の時間、急がねば。
一日の終わりに読書をするのは修道士の基本、アトラクナクアのチョコを食べ、私は自室の机にて『聖務日課』と向き合う。
ペラペラとページをめくっていて、ふとした違和感に私は周りを見渡した。
部屋には簡素なベッドと神学に関する書物を収めた本棚くらいしかなく、部屋そのものも四畳程度しかない。
見慣れたいつもの部屋、だが何故違和感があるのだろうか？
ページをめくろうとしてようやく私は違和感の正体に気付かされた。
「っ！」
私の右手はいつの間にやら紫の蜘蛛の脚を思わせるものへと変わり果て、よく見れば身体も変調をきたしている。
調べた結果ではある程度身体が大きくなり、脚はあたかも刀か何かのように鋭く尖り、まるで化け物の手のようになっていた。
尋常ではない出来事に私は慌てふためき、血の気が失せるのを感じる。
「ふふん、驚いた？」
いつの間にいたのか、全く気配を感じられなかったが、部屋の中にアトラクナクアがいた。
不法進入と思っていたが、こっちはそれどころではない。
「チョコに仕込んでおいた毒は上々、あんたはこれであたしの眷属であたしの脚、これからは・・・、ちょ、なんでこっち見ないのよっ！」
「うるさいですね、読書課の最中ですよ？、っと、なかなか捲れないな」
悪戦苦闘しながら『聖務日課』をめくろうとするがなかなかうまくいかない、しかし爪に引っ掛けるようにすればめくりやすいようだ。
「よし、捲れた」
身体が変われば本も捲れないかもしれない、と不安だったもののなんとか出来そうでホッと一安心、だがどういうわけだか私の近くにいるアトラクナクアはおかんむりの様子。
「ちょ、ふざけないでよっ！、あんた身体が変身してんのよっ！、なんでそんな落ち着いてられんのよっ！」
「いや、『聖務日課』が読めないのは問題ですがなんとかなりそうですし、あっ！」
しまった、大切なことを忘れていた不心得ぶりに我ながら腹が立つ。
「よくも、やってくれましたね」
「ふ、ふん、やっと気づいた？、そんな姿じゃあたし以外とは一緒にいられないわよね？、さあ地下にあたしたちの愛の巣を・・・」
「これではロザリオが手繰れない、なんたることだっ！」
この新しい手には指がない、これではロザリオの祈りが捧げられないではないか、ジワジワと焦燥が首をもたげ、心を締め付ける。
「い、い、異常よあんたっ！、気づいたら身体が変異してるのよっ！、なんでそんな落ち着いてるのよっ！」
何やら喚き散らすアトラクナクアだが、私はそれどころではない、私は己の中の焦燥から生じた怒りをぶつけるように、右手と左手で少女の小さな身体を拘束する。
「な、何すんのよっ！」
「責任をとってもらいますよ、私をこんな姿にしたのですから」
そのまま私は怒りのままに彼女を抱えて、『頭』のすぐ上にある生殖嚢に放り込む。
「ひぎあっ！、ちょ、な、なんなのよっ！、らめ♡、そんなとこ・・・ひぎいっ♡♡」
「良いですか？、これから貴女は私の半身、祈りの中に入ってもらいますよ？」
手始めに読書課からだ、私は開いたままだった本にアトラクナクアを向かわせる、顔は見えないが恐らく不満げにしているのだろう。
「な、なんで混沌の魔物たるあたしがそんな七面倒な・・・あひい♡」
不満を垂れるようなので、とりあえず生殖嚢の中にあるぬるぬるの触手を彼女のキツキツの肛門に差し込んでおく。
触手そのものからも粘液は分泌されているのか、特に湿っていないにも関わらず触手はすんなり肛門に浸入した。
「はい、かイエスで答えて下さい」
しばらく待ったが返事がない。
よろしい、私は肛門を蹂躙すべくぬるぬるの触手を動かし、ついでに抵抗する足を抑え込み、足の裏をくすぐる。
なんだか彼女を性的に責めるのが楽しくなってきたのは内緒だ。
「あひゃひゃひゃひゃ♡♡♡、ひい♡、ひい♡、わ、わかりまひた、な、なんでも、言うこと、ききまひゅう・・・」
どうやら聞き入れてくれたようだ、私は満足して頷くも、外から見たら大蜘蛛の頭が微かに揺れたくらいにしか見えないだろうか？
「お、おぼえて、なひゃい、よ・・・♡♡♡」
17/03/14 00:44更新 / 水無月花鏡