連載小説
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ユウルート1「ねーさんのお手伝い」
歓迎会の次の朝、皆が起き出したので俺も家事を手伝う為に起きる


「皆おはようさん」


「おはよー!今日も元気に行くよー!」


「おはようございますたくまちゃん、しっかりと起きられて偉いですよー」


「…たくま、おはようなの」


「あらあら、朝からみんな元気ねぇ」


「うむ、朝から元気なのは良いことだな」


シルクねぇちゃんの作った朝ごはんを皆に運んだり、食器などを用意して朝の支度を手伝う


「朝からたくまちゃんの用意してくれたご飯だなんて、お姉ちゃん嬉しくて天に昇っちゃいそうですよ」


「いや、作ったのはシルクねぇちゃんやぞ」


「そろそろ時間ないや!いただきまーす!」


各自朝ごはんを食べて仕事や学校へ行くために急いでいるらしい


「行ってきまーす!」


「行ってきますね、たくまちゃん」


「…行ってくるの」


「わしも出るかの」


みんなさっさと家から出て行ってしまう


「皆大変そうやなぁ」


「そういうたっくんは暇かしらぁ?」


「あれ、ねーさん?俺は確かに暇やけど…」


「だったら私のお仕事手伝ってくれないかしら?ちょっと若い手が足りてないのよねぇ」


仕事の手伝い…俺で役に立つだろうか?


「俺でええんか?あまり力仕事には向いてないと思うんやけど」


「あらあら、たっくんは女の子のお願いを断るのかしらぁ?」


「別に断らんが…まぁええか、俺でいいなら手伝うで」


「いい子ね、そうやって女の子のお願いを聞ける男の子はモテるわよぉ」


まぁ別にモテようとか思うわけでもないけど、それでねーさんが喜ぶなら…


「じゃあ行きましょうか、今日はよろしくねぇ」





家を出てから10分ほど歩くと、長い階段の続くねーさんの仕事をしている神社についた


「昔、みんなでここのお祭りに来たことがあったわよねぇ…たっくん覚えてる?」


「あー…確か親父とか母さんもいたっけなぁ、少しだけ覚えとるわ」


そういえば、それ以外でお祭りなんて行ったことがなかったなぁ…


「あれ、そういえば家族みんなで一緒に出かけたことあるのってあの祭りだけだった気がする」


「…そうねぇ、あの後はお父様やお母様は忙しくて会えない日が続いたし…たっくんもすぐにいなくなったから…」


「まぁそれはしゃあないやろ、親父の手伝いしてて分かったけどやっぱり忙しいしなぁ…」


「ねぇ、たっくんは…離れ離れになったこと、怒ってる?」


怒ってる…か、どちらかというと離れたことによる悲しみが大きくて怒るなんてできなかったわけだが


「…そりゃあ、親父を怨んでないと言えば嘘になるで」


「…そう」


「でも、親父の行動が間違っていたとは思わん…現にこうやってある程度自分で何かできるようになっとるからな」


「え?」


「俺はあのままねーさんたちと一緒だったら今頃何も出来ないままやったと思うで?だって、大概のことはねーさんたちが甘やかしてやってくれたし…」


ねーさんたちが姉として俺を甘やかすのは今でも変わらないけど、俺はそれに甘えるだけじゃなく応えていけるようになった


「昔の俺は甘やかされるだけやったけど、今こうやってねーさんが俺を頼って仕事の手伝いをお願いしてくれるのは少なからず俺が頼ることができる器になったからやし…そうしてくれたのは親父やからな、まぁ問答無用に連れて行かれたのは気に食わんが…」


「…たっくん、立派になったのねぇ」


急に抱きしめられた、もとい身体に巻きつかれた


ユウねーさんの抱擁は、シロ姉と同じような身体に巻きついてくる抱擁だ


しかしシロ姉のように勢い余って締め付けるようなことは無く、割れ物を扱うような優しい丁寧な抱擁でシロ姉とは違った柔らかさを感じる


「ね、ねーさん…恥ずかしいで」


「いやぁ、お熱いですなぁ」


ねーさんに抱きつかれていると、着物を着た初老の男性が声をかけてきた


見た所、この神社の神主さんのようだ


「あらあら、おはようございますわ神主さん」


「お、おはようございます…ね、ねーさん恥ずかしいから離れて…!」


「いえいえ、そのままで大丈夫ですよ。仲が大変よろしいようで羨ましい限りですなぁ」


「前に言ってると思うけど、弟のタクマですわ。今日は私のお仕事を手伝いに来てくれたのぉ」


「よ、よろしくお願いします…」


「ユウ様からは毎日何度もお話しを伺っていますよ、タクマ様…今日はようこそいらっしゃいました」


そういって握手を交わす神主さん、いい人そうだ


「お仕事を手伝いに来た、と言いましてもまずは何をするか聞いていいですか?」


「もう少ししたらこの神社で祭りがありましてな、それの準備の手伝いをお願いしたいのです。何分この辺りではすっかり若い衆がいなくなってしまい、準備をするのも大変でして…」


そういえばこの辺りは昔からお年寄りばっかりだった気がする


「もうじゃんじゃんこき使ってくれていいわよぉ、そのために連れてきたんだから」


「ま、まぁ出来るだけ頑張りますわ」


「もう少ししたら人も集まりますので、それまでに何か聞きたいことはありますかな?」


「えー…じゃあさっきから気になってたんですが、なんでユウねーさんや俺が神社の神主さんに様付けされて呼ばれてるんですか?」


そんなに偉くなったなんてことはないんだけど…


「それはねぇ、たっくん…私がこの神社の神様だからよぉ♪」


「…は?」


「はい、この神社ではユウ様…すなわち龍神様を祀られています」


た、確かにユウねーさんは神々しいまでの美貌の持ち主だけど…


「まぁ、祀られるようになったのは少し前からだけどねぇ」


「な、なんでユウねーさんが…?」


「前に祀られていた龍神様が、婿探しの為に消息を絶ってしまったのです…そしてこの神社が寂れていく一方だったところに新しい代替わりとして、ユウ様を祀らさせていただいているわけですな」


前の神様…なにやってんだよ…


「ま、そういうことで少し前から神様やってるのぉ♪」


「確かにユウねーさんは龍やけど…それだけでなれるものなんか?神様には見えないというか…」


神様だと言われてもイマイチよく分からない


「ひどぉい、お姉ちゃん神様頑張ってやってるのに…たっくんはお姉ちゃんに神様は出来ないっていうのね…」


「あ、ちがっ…!そういうんやなくて!」


「よよよ…悲しいわぁ…」


あああ、しゃがんで地面にのの字を書き始めた…


「タクマ様…ここはどうかユウ様のフォローを…」


ひそひそと神主さんが耳打ちをしてくる、いやそうは言っても…


「い、いやぁ普段は優しいお姉ちゃんだったから分からなかったけど神様のユウねーさんも素敵だなぁ!こんな神様だったらいくらでも信仰しちゃいそうだなぁ!」


とりあえず勢いで言ってみたがこんな見え見えのお世辞じゃ…


「あ、あらそう?もぉ〜、たっくんったらお姉ちゃん恥ずかしいじゃないの…でも嬉しいからギュってしてあげちゃう♪」


機嫌が一転したねーさんが人目を憚らずに抱きついてくる


「ね、ねーさん!いきなり抱きつくのは…」


「なぁに、照れてるの?もぉ〜可愛いんだからぁ〜♪」


「や、ねーさんってば…」


「ほっほっほ、いやぁお熱いようで何よりです」


「か、神様がこんなんでええんかいな…」


「既にお相手がいらっしゃるようですと、先代の様に急にいなくなるなんてことが無さそうなので何も問題はありません」


いや…ほらそういうんじゃなくて、神様の威厳とか…


「いいのよぉ、それに今は神様じゃなくて…たっくんのお姉ちゃん♪」


「はぁ…もう好きにせえ、仕事が始まるまでやけどな」


ねーさんを含めうちの姉達は強引というかなんというか


…いや、俺が逆らえないだけか





「すいません、このテントここですか?」


「おぅ、助かるぜ兄ちゃん!」


集まってくれた近所の方達と祭に必要なものを組み立てたりしていく


俺を抜くと一番若い人で、この今一緒に作業してる50代半ばの気のいいおじさんだったところを考えると思いの外高齢化が進んでいるようだ


「いやぁ兄ちゃんがいてくれて助かったぜ、おかげで予定より早く全部終わっちまったよ!」


「いえ、ねーさんの頼みでしたから」


「そういや兄ちゃんはあのユウ様の弟だったなぁ、ユウ様の弟ってことは同じ家で暮らしてるんだろ?」


「まぁ、今までは地方の方にいたんで…一緒に暮らし始めたのは最近ですけどね」


「ユウ様みたいな美人な姉がいるとはうらやましいぜ、魔物だから血も繋がってないって話だし結婚もできるみたいだし」


そういえば随分前に、相手が魔物だと親族でも結婚が出来るように法律が変わったんだよなぁ


「い、いや俺とねーさんはそういう関係じゃないんで…」


「なんでぇ、あんなに仲が良いからてっきりそういうもんかと思ったが…」


「あらぁ、何の話ぃ?」


向こうで作業を手伝っていたねーさんの方も終わったらしく、こちらにねーさんが来た


「ゆ、ユウ様!いや、その…」


「あらぁ、たっくん何の話をしてたのかしらぁ?」


「え?い、いや…ラジオ体操第2のゴリラみたいな動きには何の意味があるのかを科学的根拠に基づいて…」


「そ、そうですユウ様!」


「…さっき、結婚とか聞こえたけどぉ?」


…ちゃんと聞いてた上で俺に聞くのか、それを


「ぐっ…ちゃんと聞いてたんかい…せや、ねーさんと結婚するのかー、とか付き合ってるのかー、とかそういう話をしてたんや」


「たっくんったら、もうお姉ちゃんっ子なんだからぁ…お姉ちゃんの弟ラブラブポイントのゲージを振り切っちゃうわよぉ」


なんだその弟ラブラブポイントって…


「まぁそれはおいといて、もう仕事終わらせていいみたいよ?晩御飯も作らなきゃいけないでしょ?」


「せやな…じゃあおじさん、お疲れ様でした」


「おぅ、ユウ様をよろしくな!」


俺はユウねーさんと一緒に神社を後にした、そして神社の階段を降りたところでねーさんに手を引かれる


「ねーさん、そっちは家と違う方向やで」


「えぇ…ちょっと、寄り道していかないかしら?」


「寄り道?まだみんな帰るまでに時間あるし、別にかまわへんけど」


「ふふ、ありがとう」


ねーさんはそういって微笑み、俺の手を引いていく


その通りに進んでいくと、神社の裏の方にある見晴らしのいい丘のほうへ出た


「うわぁ、すっごいなぁ!ここら一帯見晴らせるやん!」


「えぇ、いい場所でしょ?是非たっくんにも教えてあげたかったのよぉ」


昔住んでた時には知らなかった、こんな場所があるなんてなぁ


「私が何か辛い時や悲しい時、悩む時…そんな時は必ずここに来るのよぉ」


「…そういうのって普通知られたくないんとちゃうんか?」


「…たっくんにだから教えたのよぉ?姉様や妹達は知らない私の秘密の場所なんだから」


「そんな場所に俺なんか連れてきて良かったんか?」


「たっくんだからって言ったでしょ?…たっくんには知る資格があるから」


「えぇ?そんな資格、俺にあるとは思えんなぁ…」


「この場所はね、私がたっくんと別れた後に見つけた場所なのよ?…だから、たっくんには知ってほしかったのよぉ」


「うーん、よく分からんが…解放的でええ場所やな!」


夕陽が街を茜色に染め上げていく、見晴らしのいいこの丘ではその様子がよく分かる


「ねぇたっくん…あなたは…」


ユウねーさんが何か言いかけた時、丘にすごい風が吹き抜ける


「うおっ!」


「きゃっ!」


咄嗟にねーさんの手を取り、風から守るように身体を抱き寄せる


「すごい風やったなぁ、ねーさん大丈夫か?」


「あ、ありがとう…」


「で、ねーさん一体何を言おうとしてたんや?」


「え?あー…」


ねーさんが何か考えるように視線をキョロキョロさせる


「き、今日のご飯のメニューは何かしら?」


「せやなぁ、なんか今日は力仕事があったから力のつく肉でも食べたいなぁ」


「まぁ、私お肉大好物なのよぉ」


「そういやそうやったなぁ、じゃあ帰って準備しますかね」





たっくんが急に抱きしめたりするから言えなかった…決意が鈍ってしまった


(あの事は、絶対にたっくんに伝えなくちゃいけないのに…)


たっくんに言わなきゃいけないのに、でも…言ったら私はたっくんとはもう会えない、会わす顔がない


たっくんに嫌われてしまうだろうし、もっと酷いことをされてしまうかもしれない


いや…たっくんは優しい、優しすぎるから…きっと許してくれる…けどそれでは私が私を許せない


でも、覚悟はしてた筈なのに…


あんな風に抱きしめられたら…あんなに頼れる存在になってしまったら…離れられなくなってしまう


あの昔、たっくんを私達の家から離れさせたのは…


他でもない、私なのに…
15/06/29 02:20更新 / ミドリマメ
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■作者メッセージ
ドーモ、ミドリマメです。


更新が遅くなり申し訳ありませんでした、ユウねーさんの話を考えるのが大変で他の短編を書いたりしていたらだいぶ遅れてしまいました。


ユウねーさんだけ、他の話より少しだけ重くなるかもしれません…あくまで少しだけの予定ですが。


ユウねーさんは龍ということもあり、実際に神社で祀られている神様で地元の人には尊敬される存在です。どういう経緯で神様になったか、などをいろいろ考えていたのですが…簡単に前の神様がいなくなったから新しく神様になったというシンプルな理由にしました。


少しだけ重くなるかも知れませんが、いちゃいちゃほのぼのは入れますのでどうかお付き合い下さい。

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