連載小説
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託した相手は狼女(ワーウルフ)
親魔物領に存在する広大な森林地帯。

この森には様々な魔物娘達や野生の動物たちが住んでいる。

そんな森には、四季折々の様々な木の実や山菜。主要都市を結ぶ大きな道路が通りたくさんの旅人が通行する、魔物娘たちにとっては楽園ともいえる豊かな森林地帯である。

いや、魔物娘だけではない。

この近隣の小さな村や町でもこの森の恩恵は日々の生活においてなくてはならないものになっていた。

そんなある日。

雷雨が鳴り響く夜の森の中を一人の女性がその手に小さな赤子をもって走っていた。

女性の背中には、方から脇腹にかけて何かで切られたような大きな傷跡があり、今にも倒れそうなほど弱っていた。

そんな彼女の身を包んでいるローブには十字架をあしらった模様がフードの前に描かれている。

どうやら、教会の人間のようだ。

そんな彼女は、木の枝をくぐり、小川を渡り、根っこを飛び越えて森の奥へ奥へと走っていた。

その背後からは、彼女を追ってきたのか数人の足音が響いていた。

「はぁ…、はぁ…。もう少し、もう少しでこの森を抜けられる…」

彼女がそう思った、その瞬間だった。

一瞬の気の緩みか、それとも暗くて足もとが見えなかったからだろうか。土の上に出ていた小さな木の根につまずいてしまった。

「きゃっ…!!」

体制を立て直そうとしたが、弱った体で走りすぎた所為か足を上手く動かす事が出来ず、その場に倒れてしまった。

しかし、すかさず体を横にひねったおかげで腕の中の子供はけがをすることはなかった。

彼女は自分の腕の中で静かに眠る子が無事なのを確認すると、安どの表情を浮かべた。

しかし、追ってくる足音を聞いた瞬間、その表情が焦りに変わった。

このままだと、追手に追いつかれてしまう。

もし、捕まってしまえば最悪の場合、この子ともども殺されてしまう。

そんな事は絶対にさせない!

この子だけでも何とか守り切らないと!!

そう思い、子を隠せるような場所を探すがその場所は小さな広場のようになっており、隠せるような茂みも穴もない。

絶望に浸り、自分が信仰していた主神を恨み、無念の涙を流していると、彼女の眼の前に数人の人影がうつった。

追手かと思って、顔をあげてみると、そこには体中に獣のような毛を生やしまるで狼のような耳を生やした女性たちだった。

彼女はその姿をもつ彼女たちを知っていた。

教会は敵と見なす「ワーウルフ」と呼ばれる魔物。

狼の姿をした魔物達だった。

「ちょっとあんた。大丈夫かい!?」

そのうちのリーダーと思われるワーウルフが近付いてきた。

普段だったら、見た瞬間に自分の魔法で焼き殺す相手だったが、今はそんな気は起きなかった。

それよりも、彼女達を神が与えてくれた救い主とまでこのとき感じていた。

彼女は最後の力を振り絞り、自分の腕に抱いていた子をそのワーウルフ達に渡そうと腕を伸ばした。

「この子を…、この子を…」

まるで、うわ言のような声しか出なかったがそれでもこの子だけでも助けたいという思いで必死にワーウルフたちに向って必死に腕を伸ばした。

「・・・・・・」

そんな彼女の姿を見て、ワーウルフ達は何かを感じ取ったのか、彼女から腕にいる子供を受け取った。

「その子を・・・、私の息子を・・・お願いします・・・」

それだけを言うと彼女が伸ばしていた両手が地面に落ちた。

「!!、ちょっと大丈夫!?」

「しっかりして!!」

他のワーウルフたちが彼女に駆け寄るが、彼女は力尽きてしまっていた。

最後の力を振り絞り、子供を託した母親の力。

それを目の当たりにしたワーウルフ達はリーダーの腕で静かに眠る子供に向けられていた愛情を感じ取った。

来ているローブから自分達を敵とみなす教会の人間だと分かる。

それでも、この感じる殺気から我が子を助けるために敵に託す、その覚悟。

それを感じ取ったワーウルフ達は静かに立ち上がった。

「貴女の意志、確かに受け取りました。後はお任せください・・・」

彼女の最後を見届けたワーウルフは、受け取った子供を抱いてそのまま森の中に消えていってしまった。

力尽きてしまった彼女の意志を引き継いで以降という覚悟の元、腕の中で眠る子供を強く抱きしめて・・・。





その後、武装した教会の兵士達が現われた。

その全てが白銀に金色の刺繍が入った鎧を着ている。

兵士達は力尽きた女性を見つけると剣を抜いた。

殺気を放っても何も反応しない彼女に不審に思いながらも警戒して彼女の所に近寄ると、その首筋に手を当ててそっと脈拍を測り始めた。

その当てていた手からは何も反応がない。

それを確認した兵士達は、剣を収め女性の亡骸を乱暴に持ち上げるとと元来た道を引き返していってしまった。
12/05/04 15:00更新 / ランス
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■作者メッセージ
眠い目を擦りながらやりたかったネタでやっています。

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