連載小説
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後編
そして深夜。
見張りの兵士は兎も角、大臣とかであれば眠っているはずの時間帯だ。
ドアを椅子や体当たりなど、およそ考えられる荒行全てを用いてドアごと破壊したアオマサはサキナの手を取りながら進んでいった。
勿論、サキナの手にはリベクサーが握られていた。
道中、監視の騎士らに見つかりそうになったが物陰に隠れ息を殺してかいくぐった
そんな事を繰り返しながら城内から抜け出し、人気がない門へとたどり着いた。
そこから出れば城の外へと行けて、この首都から抜け出せるのだ。
村への道は長い距離を歩く事になるが、苦ではないしこれでリベクサーが助かるのであれば全く問題ない。
そう思っていたからアオマサはサキナの手を取り、その一歩を踏み出そうとしていた。
だが。



「何処へ逃げると言うの?」



聞きなれた声だった。
その入り口前の茂みから現れたのはクロシエ、そしてその傍らにはクロハがいた。
クロシエらはアオマサ達の進路を遮る様に立ち尽くした。


「ハトラルコ王の命を無視して逃走するというの?」


その目はまるで罪を犯そうとしている者に対して向けられる、相手を非難するかの様な鋭い目だ。
だがアオマサはもう黙ってられなかった。
後ろには守るべきリベクサーがいる。
例えサキナを助けた恩人であろうとも、ここで抵抗しなければリベクサーは死ぬ。
そう思ったのだからアオマサは口を荒げ、クロシエに言い返した。

「・・・やっぱり納得出来ねえよっ!! 一度罪を犯したら裁かれるのは筋だけどよぉっ!! けど、けどそれで命まで奪うなんて事は俺は納得できねえよっ!!」
「貴方はハトラルコ王を、国全体を敵に回すというの? それがどれ程大変で困難なのか分かっているの?」

口調を崩さずアオマサを見定める様に問いかけてくるクロシエ。
相変わらずその目は鋭かった。
だがここで言わなければならない。
自身のリベクサーを救いたいという思いを、その台詞へと賭けて。


「何とかして見せる!! 絶対に何とかして見せる!! 俺は、リベクサーの為ならハトラルコの連中だって!! 俺がリベクサーを守って見せるっ!!」


全ての勇気を振り絞って訴えたアオマサ。
劇の主役だったらまさに主役の様に勇ましく、演技部門があれば高得点を記録できそうな台詞だ。 
アオマサのその勇ましい台詞を聞いたクロシエらは沈黙していた。
アオマサはてっきり、自分の決意に惚れて見逃してくれるのだろうと思っていた。
自分にあれほど優しく接してくれたのだから、もしかすると助け船を出してくれるかもしれない。
リベクサーの処刑について話したのは、そう演技するしかなかったのかも知れない。
そうだ、絶対にそうに違いない。
親魔物主義を掲げる国の女王がみすみすと魔物を見捨てるはずがないのだ。
だからアオマサは期待していた。
クロシエが自分達に助け船を出してくれる事に、そしてリベクサーを救ってくれる事に。
暫くの沈黙が続いた後、クロシエは動いた。

―――腰に身に着けていたジルドハントを鞘から抜刀したのだ。

それを抜いて何をするつもりだ、とアオマサが訪ねようとした時だ。


『ザシュッ!!』


急にクロシエはアオマサに向けてジルドハントを振り回し始めた。
その斬撃は腹部に向かってであり、寸前でアオマサは体を後退させて避けた。
だがクロシエの追撃は止まない。
左右からの斬撃に鋭い突き。
更には首元を狙おうとしていたのが丸わかりの太刀筋を繰り返したのだから、アオマサは本気で殺されるのかと思った。
そしてクロシエの斬撃にかわし切れなくなったアオマサは地面へと尻もちを付いてしまった。
そこでクロシエは口を開いた。

「それは優しさなんかじゃありません。・・・ただの我がままです」

非情とも言えるクロシエの冷たい言葉。

「貴方は・・・切り付けられ魔物と化したハトラルコの女性を考えてない。人切りの対処で傷を負って痛みを受けたハトラルコやアルトンの騎士達の事を、平和を脅かされ恐怖を送った人達の事を考えていない。その人達の事も考えず、口だけの立派な台詞を述べるなど片腹痛いわっ!!」 
「どうして分かってくれねえんだよっ!! 俺はリベクサーを助けたいだけなのにっ!!」
「何も分かっていないのは貴方の方よ!! 何も力も、具体的な解決方法も出さずに、ただ勇ましい台詞だけを吐けば相手は引き下がってくれると思い込んでいる貴方は愚か者としか言いようがないわっ!!」

『だけ』、という言葉を強調しながらクロシエはアオマサに対して怒りにも似た感情をぶちまけた。

「なら大人しくリベクサーから引き下がれって言うのかっ!! そんなの出来ねえよっ!! なあ、あんた女王様なんだろっ!!! だったら俺達を助けてくれよっ!! それともなんだっ!! 女王様なのにたった一人の人間すら救えねえのかっ!! そんなんで王女様背負う気あんのかっ・」

その続きをアオマサは言えなかった。
何故なら疾風の如くクロハが彼の喉元へ槍を突き付けていたからだ。

「クロシエ様を侮辱するなら、俺がブチ切れるぞっ・・・!!」

その気迫と言い、目つきと言い、その殺気は確実にこちらの喉元を切り裂かんとばかりに溢れていた。
全身が恐怖と言う感情に支配され鳥肌が立ち、アオマサは思わず死を覚悟してしまいそうなクロハの怒り。
その怒りがもしリベクサーによって切り付けられた被害者の怒り方だと思ったら、アオマサは胸が苦しくなってきた。
こんな危機的状況だったから、サキナは彼女にすがったのだ。

「リベクサーさんっ!! お願いします、リベクサーさんっ!! どうかお力をお貸しして下さいっ!!」

アオマサを助けようとリベクサーに向って頼む込んでいた。
されどサキナの外見に変化は訪れなかった。
あの黒い液体を噴き出す事無く、リベクサーは何もせずただじっと鞘に収まっていた。

「あ、あのっ? リベクサーさんっ?」
「リベクサーも分かっているからよ。アオマサのやっている事はわがままで、アオマサに力を貸せないという事を」

力を貸せない?
何故リベクサーがアオマサに力を貸せないのかサキナには分からなかった。
だってアオマサに対してあんなに尽くしていた彼女が力を貸せないなんてありえない。
サキナの戸惑っている素振りを察したのかクロシエは、鞘に収まっているリベクサーに向けて口を開く。

「勿論、ただ力を貸す事は出来るでしょう。しかしそんな事をすればアオマサの自分が『守って見せる』という意思に反してしまう・・・。あれだけ勇ましく守ると宣言しておきながら他者の力を貸りたのであれば、それはアオマサは何も力もない、何も出来ない人間だと証明しているのだとリベクサーは分かっているのです。そうでしょう、リベクサー?」

するとサキナはリベクサーを自身の目線まで持っていき、語り掛けてくる。

「えっ? でもっ?」

当然リベクサーの言っている事はサキナにしか分からないのでアオマサは求めた。

「な、何て言ってるんだ?」

「・・・『クロシエ殿の言う通りだ。私が力を貸せば、アオマサの、正義感という名誉を傷つけてしまう。アオマサは無力な者だと言っている事になる』、と」

アオマサはここでやっと分かった。
リベクサーが何故何も言ってこなかったのを。
自身のプライドを尊重し敢えて、何も言わなかったのだ。
確かに自分に花を持たせようとしていた、という点ではリベクサーらしい献身さであるが。

「でもお前、殺されるんだぞっ!? それでも良いのかよっ!?」
「・・・『私よりもアオマサの方が傷つけられるのはずっと心が痛む。アオマサよ、実感しただろう。そなたの力ではハトラルコの騎士らに敵わない。もし私を守ろうと騎士らに立ち向かい、そして死んでしまったのであれば私はもう耐えられない』、と・・・」

そんな事を言われてしまったのならばアオマサはその口を閉ざしてしまった。
リベクサーの言っている事は真実だったからだ。
もし今自身に向けられているその剣が不殺の力を持つジルドハントでなく、肉体を傷つけ血を噴き出させる武器であったら。
もし自分と敵対する相手がクロシエでなく、殺意をむき出しにしたハトラルコの騎士らだったら。
間違いなく自分は殺され、サキナとリベクサーを悲しませてしまうだろう。
それでは本末転倒もので、犬死となってしまう話だ。
だが抵抗しなければ。
抵抗しなければリベクサーの方が死んでしまう。
それだけは嫌だった。
だからアオマサはすぐに立ち上がり、サキナの手を掴み走り出そうとした。
されど茂みから、城壁の扉から、あるいはそのまま走ってきた、いかつい目をした騎士らが現れ、アオマサとサキナの道をふさいだ。
アオマサらは気づかなかったが、そのいかつい目の騎士らはアルトンの騎士らではない。
ハトラルコの騎士らであった。
そのハトラルコの騎士らはアオマサらを取り囲み、そして包囲する。
逃げる隙など与えないと言わんばかりに騎士らは目つきを尖らせ威嚇させてくる。
その完ぺきな布陣にアオマサらは何も出来ず、出来る事と言えばその場に立ち尽くすしかなかった。
それがただ時間だけが過ぎていく策なのは分かっているが何も出来ないのは事実だ。
自分には彼らを押しのける力がないから。
暫くそのまま騎士達がこちらをにらみ続けていると、ふと包囲していた騎士たちの内、3人が引き下がる。
引き下がったのはある人物がアオマサらに近づこうとしていたからだ。
立派なあごひげを生やした威風ある王、ハトラルコ王だ。
ハトラルコ王はアオマサのすぐ近くまで来ると止まり、両目でアオマサらをじっと見つめた。
その目はまるでアオマサを蔑(さげす)んでいるのか、それとも哀れんでいるのかの様な眼差しだった。



「何故、逃げた?」



ただ一言、ハトラルコ王は呟いた。
そんな事は容易に察せられるだろうし、加えてその眼差しが気に入らなかったアオマサは口を荒げて叫んだ。

「それは勿論、リベクサーを逃がす為だ!! あんたの権力とかを見せつける為なんかにリベクサーを生贄にされてたまるかよっ!! この人殺しがぁっ!!」

「貴様っ!! 王に向って無礼だぞっ!!」

王のすぐ傍にいたハトラルコ騎士が声を荒げるがアオマサはまだ動じなかった。

「無礼も何も一人の命を消そうなんて馬鹿な王様は、王様なんかじゃねえっ!! リベクサーが可哀そうだと思わねえ奴は人間なんかじゃねえっ!!」

余りにも無礼千万なアオマサの台詞にその騎士は怒りを露わにし、柄を掴み抜刀した。

「この、貴様っ!!」
「止めよ」

手を挙げ、騎士に静止を求めたハトラルコ王。
その騎士は多少口ごもったが、剣を鞘に納め王に一礼した。
そしてハトラルコ王は再びアオマサに対して、鋭い視線を向けた。

「では質問を変えよう。ハトラルコの民全員に謝罪するという選択を取らずに何故逃げようと決めた?」

「っ!!」

それを聞いたアオマサは言葉を詰まらせた。
自分がそんな選択肢を選ばなかったのは二つ。
そんな事が出来ないと分かっていた、もしくは考えていなかったからだ。
自分はリベクサーを救いたい一心で、サキナと共に彼女を連れて逃げようとしていた。
けれどそれは問題をほっぽり出して他人に問題を解決させてやろうという、無責任な輩の選択だ。
その事実に気付いてしまったのだからアオマサは言い返せなかった。
だがアオマサの防衛本能とやらはそれを受け入れる事は出来なかった。
受け入れては最後、自分の選択は間違っていたと認めてしまうのだ。

「そんな事、無理に決まっているだろうっ!! 一人一人謝罪して説得するなんて何年もかかっちまうだろっ!!」
「無理かどうかの問題ではない。それを考えなかった事に問題がある。そなたは、下策を選んだのだ」

何故自分の選択が下策なのか、アオマサには理解出来なかった。
いや、理解したくなかった。
だがハトラルコ王は静かな声で諭してきた。

「事は感情論で割り切れぬ問題でもある。一人の為に数多くの犠牲を払う事は許されぬのだ。そなたが上策を立てていたのであれば何ら問題はない。されど立てられなかった上に逃亡するのは見過ごす訳にはいかん。そこに正当性など存在しないと主張する事になるのだ」

そしてそこにあるのは我がままで自己満足でしかない、という事だ。
リベクサーを救いたい。
響きはかっこいいが周りを見渡せば解決しなければ問題が山積みのまま、自分は逃げようとしていた。
皆に迷惑をかけて、自分はかっこいい台詞など吐くのは正義でも何でもない。
クロシエの言う通り、その選択は『愚か』で『我がまま』な選択だ。
そして自分には何の特殊な力などない。
人を動かせる権力もなければ、武勇に優れているわけでもない自分がリベクサーを守って見せるなどと言うのは、ただの思い上がりだったのだ。
その真実に気づいてしまったアオマサの防衛本能は沈黙するしかなかった。
黙り続けていたアオマサにハトラルコ王は奥歯を噛みしめる様の素振りを見せた後―――。



「周りの事を考えず、自分とその親しい者の事しか考えぬ者に・・・・救う権利などない・・・」



静かに告げてきたハトラルコ王の言葉。
全て事実で、正論に近かった。
何も言い返せない、何も言えない。
アオマサはただただ、口を閉ざし沈黙するだけだった。

「そ、そんなダメですよっ!! リベクサーさんっ!!」

急にサキナがリベクサーを顔辺りまで持っていき、首を横に振った。
聞こえなくてもサキナの素振りから何を言っているのか想像できる。
大人しくその身を差し出そうとしている事を。
されど何やらサキナとひと悶着を起こしていた。
「絶対に逃がします」やら、「決して渡さない」やら、「ですけれどっ!!」などなど。
リベクサーの声を聞こえるのはサキナだけだった故、傍から見ればサキナが一人芝居をしているようなやり取りだ。
やがて話が終わった様な素振りをサキナが見せた後。



「・・・はい、体をお貸ししますっ!!」



体を貸す?
ま、まさか?
まさかリベクサーが自分を助けようとしているのか。
サキナはリベクサーを鞘から抜刀した。
それと同時にリベクサーの刀身から黒い液体が溢れ出てサキナの手を、腕を、右半身を侵食していく。
その姿を見たハトラルコ騎士らがすぐに構えを取り、鋭い目つきでサキナを睨みつける。
そしてサキナの右目が真っ赤に染まれば浸食が完了した合図だ。 
だがサキナ、もといリベクサーは騎士らに剣を振るわなかった。


『アオマサ、もう良い』


いつもの冷静な口調で振舞いながらそう告げてきたのだから、アオマサはもう泣きそうだった。

「で、でもリベクサーさん?!」

堪らずサキナが声をかけるがリベクサーは変わらぬ口調で語り掛ける。

『サキナも、もう良い。罪を犯した者は公平な裁きを受けなければならない。それが世の中の常だ。・・・だが最後に言わせてほしい。アオマサ、貴方と最後に過ごした時間は私にとって至福だった』

まるでそれはリベクサーの遺言に聞こえてきた。
だが聞きたくない。
これが遺言になるなど苦痛以外の何物でしかない。
首を振ってアオマサはその台詞を聞こえない振りをした。
そしてプライドやら正義感とやら、大事な物全てを投げ捨ててアオマサは訴えた。

「頼むっ!! 俺と一緒に逃げてくれっ!! 俺のプライドだとか名誉とか気にせずに、こいつらを蹴散らしてっ!!」
『それは出来ない。逃げた所でハトラルコから追われる身になるのは必然だ。そうなればアオマサとサキナは傷つく。ならば私は大人しく裁きを受け入れるよう。これが最善の策であり、私の最後の献身だ』

その台詞でアオマサは全て悟った。
自分は何も分かっていなかった事を。
そして自分は最も愚かであった事を。
だからもう、アオマサはその場で頭を下げるしかなかった。
何も出来ない自分の無力さも込めて。


『ハトラルコ王よ。この度は私自らの欲望を満たす為の凶行。ゆえにアオマサとサキナに罪はない。裁きを受けるべきものはこのリベクサー。何卒、寛容な判断を・・・』
「あい分かった。リベクサーよ、そなたの言い分。このハトラルコ王が承った」


それを聞いたリベクサーは軽く頷くと、黒い装甲らが液体となってサキナの体から引いていく。
まるで潮が引いていく様に落ちていき、その宝剣の中へと消えていった。
同時にハトラルコ王がサキナの前に立ち、その手を彼女の前に出した。
その手が何を意味しているのか、サキナには痛いほど分かる。
だからリベクサーの柄をぎゅっと握りしめていた。

――――構わん。私を渡せば、全て収まるのだ。―――


(そんな声で、言わないでくださいリベクサーさん・・・)

サキナはゆっくりとリベクサーを鞘に納め、ハトラルコ王の手のひらの上に置く。
がサキナはリベクサーを、柄を掴んでいるその手を中々離そうとはしなかった。
離したら最後、自分との永遠のお別れとなってしまうからだ。
だがリベクサーの意思を尊重しなければならない。
でなければ彼女の願いを不意にしてしまうし、ここで抵抗してしまっては何の為に彼女が訴えたのか意味がない。
小指から一本ずつ柄からゆっくりと離していき、最後に人差し指と親指を同時に離せばリベクサーはハトラルコ王に手渡された。

「もう寝るのだ。寝れば、辛い気持ちが和らぐ・・・」

ハトラルコ王が静かに伝えてきた慰めとも見て取れる台詞。
それが辛い現実からの逃避を進める台詞なのは分かっていた。



♢♢♢♢♢♢♢♢



サキナが覇気を失ったアオマサを支えながら去っていくのを見届けた後、当てられた客室へと戻ったクロシエとクロハ。
二人の表情は当然、暗い顔だった。
部屋の明かりなど付けず、クロシエは窓越しで外の月を見つめていた。
その姿は儚げで、悲しそうだったからクロハは思わず声をかけてしまった。


「クロシエ様・・・」


「ええ・・・・」


「俺には分かっていますクロシエ様・・・。本当はリベクサーを助けたいという事を・・・。したいのに出来ないという事を・・・」

お付きの騎士としてクロシエの考えていた事は容易に察せられる。
―――クロシエは、リベクサーを救いたかった。
魔物と人間との共存を願っている彼女ならまず考える事だろう。
だがクロシエの立場では彼女を救う事は出来ないのだ。
何故なら。

「・・・私が手引きしたと知れたならば、ハトラルコの大臣らはここぞとばかりに私を批判してくる。いえ、私だけになら非難が及んでも良いの。けどそれを口実にまたアルトンに宣戦布告をしてくるのであれば、再びアルトンの人々が犠牲になる。それだけは絶対にしてはいけないの・・・。自分の満足の為に、その他数百人の幸せや日常を奪ってはいけないの・・・」

自分の為にアルトンの人々を戦争に巻き込む。
それは絶対にやってはいけないタブーであるとクロシエは掲げていた。
だからリベクサーを助けたい、けれど助けたらアルトンの人々を巻き込んでしまうという板はさみに晒されているクロシエの心情、クロハには痛いほど分かるのだ。
自分だって助けたい、リベクサーを。
だが一介の騎士が助けたらそれで問題は起こるし最悪、国同士の問題になりかねない。
そしてそれを口実にまたハトラルコが攻められてきたのであれば何の為に助けたのか本末転倒ものだ。

「それにクロハ・・・。王からの依頼は、人切りの対処であって人切りの保護ではない。アルトンとしてもこれ以上の干渉は出来ないし、したくないないの。他国で犯罪を犯したのであれば、その国の法律に乗っ取って裁きを受ける。そこは守らないといけないの・・・」

国同士で必要以上の干渉は両国の関係をこじらせてしまうのは歴史を見れば周知の事。
魔物達の間ではまた別の問題になるだろうがこれは人間の、ハトラルコ自体の問題だ。
親魔物国としても折り合いは付けなければならないのだ。
だからクロハはそっとクロシエを抱きしめた。
背中から両腕を回し自身の体温がクロシエの体へと伝える様に。
そして右手で金髪の頭を優しく撫で、クロシエを落ち着かせる。


「どうかそのお辛い気持ち・・・、俺でよければ・・・お吐きくださいませ・・・」


クロシエは無言のままゆっくりと頷き、その抱擁を受け止めていた。

「ジルドハント。お前も辛いんだろ? 俺の中で・・・」

ジルドハントも同じ気持ちなのだろう。
リベクサーを助けたいが、助けようと思ったらクロシエの体を借りなければならないのだからこちらも問題物だ。
そもそもジルドハントの性格上、クロシエの選択に彼女は従うしかないのだから。
クロシエは鞘に納めたジルドハントをクロハの胸元に持っていく。
感じるのか分からないがジルドハントを自身の胸元へと寄せてクロシエと共に抱きしめる。
それは人肌の暖かさとなってクロシエを、ジルドハントを癒してくれるはずだ。
だからクロハはこのまま抱きしめていようと決めた。
クロシエがもう良いと言うまで、ずっと。
月の光がクロハとクロシエ、そして剣のジルドハントをを照らしている。 
その光が何処か悲しげに輝いていたのは気のせいではなかったはずだ。



♢♢♢♢♢♢♢♢



翌日の昼すぎ。
人切りの公開処刑が行われると聞き、ハトラルコ中の―――少なくとも首都に住んでいる者は―――民衆が処刑所へと出向いていた。
観客席とかは用意されておらず、所狭しと民衆が押し寄せていた。
その中心となる舞台にはハトラルコ王が立っていた。
右手には重々しい籠手を身に着け、その手には・・・。


「ハトラルコの民たちよっ!! 既に噂として広まっているであろうっ!! 人切りという存在が我々を苦しめている、とっ!! その真意を今ここで語ろうっ!! 今日、この日まで重圧を敷いていたのは不確定な情報で混乱を招くわけにはいかなかったのだっ!! されどもう案ずることはないっ!! 人切りは我らの手によって捉えられ、今この場に連れて来られているっ!! そしてその下手人である者がこれだっ!!」


そう言いハトラルコ王は天高くへと宝剣を掲げた。
王が今握っていた鞘には煌びやかな装飾が施されていて、その柄にはルビーやサファイアの宝石類が埋め込まれている芸術品の宝剣だ。
当の民衆は首を傾げたり、怪訝な目でそれを見ていた。
遠目でも太陽の光がその鞘と装飾らを反射させ、輝きを放っているのが分かるが。
やはり大抵の民衆がこう思っているだろう。


―――その美術品か何かに相当する剣が本当に人切りだというのか? と―――


明らかにその綺麗な宝剣が原因なのかと尋ねたい眼差しであった。



『ボコ、ボッ、ボコッ!!』



不意にその宝剣の柄から黒い液体が溢れ出てきた。
黒い液体はハトラルコ王の右手に向って、はいずりながら浸食しようとしている。
傍観者の多くが驚き、女性らが小さい悲鳴を挙げる。


「むんっ・・・!!」

ハトラルコ王は顔を力み、籠手に力を込め始める。
すると籠手が少しばかり光を放つと、黒い液体の動きが鈍り始める。
もだえ苦しむ様に縮小していき、そして柄の中へと消えていった。
その一連の光景を見ただけど、ハトラルコ国民の多くは確信しただろう。
あの宝剣が異常な代物であるという事を。
再びそれを天高くへと挙げ直したハトラルコ王は口を開く。


「今見ての通り、この宝剣は魔の力が込められた呪剣。そしてこの力によって罪なき者を宿主として人切りを行っていたのだ!! この卑劣かつ凶悪な蛮行、許すわけにはいかんっ!! この呪剣は永久に消え去らなければならないのだっ!!」


だれも異論を唱えなかった。
十分な証拠が挙げられていたから口を挟もうとする者などいなかったのだ。
宿主はどうしたという多少の疑問はあったかも知れないが、その宿主は操られていたと聞けば単なる被害者だったと考えられるし、何より今この両目であの剣が異様な代物だったと目撃したのだ。
だから民衆は黙っていたのだ。
そしてハトラルコ王の合図と共に騎士らが数人がかりで大釜を運んで、王の目の前に置かれた。
大釜の中を覗けば、煮えたぎるマグマがボコボコと音を立てていた。
別にこの大釜の中にマグマを直接注ぎ込んでいる訳ではない。
簡単な転移魔法で大釜の中身をマグマが活性化している火山内へと繋いでいるだけなのだ。


「民達よっ!! 今、その眼に焼き付けるのだっ!! この呪われし魔剣が解け落ち、そして消える様をっ!!」


そう言いハトラルコ王はその宝剣を持っていた手を離した―――
重力の法則によって、それは大釜へと落ちていく。



『ジュッ!!』



マグマに触れた瞬間、宝剣から煙が上がってきた。
金属が解かされているという証だ。
宝剣はみるみると崩れ落ち、高値で売れそうなルビーやサファイアといった宝石類も崩れ落ちていく。
そしてとうとう、跡形もなくそれは、マグマの中に飲み込まれ消えていった。
静かにその光景を見届けた民衆。
しばらくの沈黙の後、王はその口を開いら。

「改めて言おう、ハトラルコの民達よっ!! 我、リュウジン・ハトラルコが存命する限り決して魔物らの侵略を許すつもりはないっ!! 我が同胞たちよっ!! そなた達の平穏と安全は必ずや保障しようっ!!」


高らかに、そして勇ましく宣言したハトラルコ王。
その姿に感動と、とりあえずの安心を覚えた人々らは次々に歓声を上げた。


「王様万歳〜〜〜!!」 



「ハトラルコ王、万歳〜〜〜!!」



「ハトラルコ国に栄光を〜〜〜!!」



その称える声を王は眉毛一つ変えず受け止めていた。
手を振りながら国民の声に答えているその姿はまるで道化師の様だった。



♢♢♢♢♢♢♢♢



公開処刑を遠巻きで鑑賞していた私服姿のクロハは重々しく息を吐いた。
この民衆の中に紛れて見届けたサキナもまた自分と同じ重苦しい気持ちを感じているのだろう。
例え剣とはいえ、自我を持った一人の魔物。
悲鳴も何も言えず死んでいく光景をこの目で見てしまうなど親魔物主義である自分に取っては拷問でしかない。
だが一番辛いのはクロシエの方だ。
見たくもない魔物の処刑を最後まで見届けたいと訴え、アルトンへと帰る日と重なっていたにも関わらず、この民衆に紛れて最後まで見届けたのだ。
自分だったら見たくないので帰還の日だからとすぐに国へ帰ろうと決断するなのに。
クロハの隣にいたクロシエの表情はフードで隠れていたからその表情は計り知れない。

「クロシエ様・・・」

堪らずクロハは声をかける。
ここにいては気が滅入るだけです、今すぐにでも国に帰りましょうとクロハはそう進言しようとしたが。

「大丈夫よ、クロハ」

何故かクロシエの声色は平気そうだった。
最初は気丈に振舞っているだけかと思っていたが、親愛な魔物の一人が死んだにも関わらず立っていられずに倒れ込む素振りや、頭を抱えてうずくまる素振りすら見せていない。
クロシエの腰辺りに身に着けてあるジルドハントだって、何らかの反応は見せていないが、平然としてられないはずなのに。

「大丈夫だから、クロハ」

だからクロハはその時、分からなかった。
何故大丈夫だと言ってられるのか、何故平気そうに振舞ってられるのかを。



♢♢♢♢♢♢♢♢



クロシエが合同の警備を終えたアルトンの騎士達を連れて本国へと帰った翌日。
サキナは首都ハトラルコの関所前にいた。

「お騒がせしました・・・と言えば宜しいのでしょうか?」

そう言いサキナは複雑な表情を浮かべていた。
リベクサーを殺したハトラルコ王を恨むべきなのだろうが、本来おおらかな性格であるサキナはどうしても王を憎む事は出来なかった。
何しろ抵抗できなかったとは言え、人切りの片棒を担いだ自分にはお咎めはなし。
しかも村まで馬車で送る手筈もしてくれたのだから複雑な表情になるのも仕方なかった。

(・・ですけど、逃亡の手引きをしたという事で今後の首都への出入りを禁止されましたが・・・。それは止む無しですよね・・・)

人切りの件に関しては止む無しという一面があってお咎めなしだが、こちらの件に関しては擁護できなかったという訳だ。
そんな彼女の心情を察せず、あるいは察する術がなかった彼はサキナに声をかけた。
「いえいえ、貴方はただの被害者です。そこまで畏まる必要はございません」
そう言い若い男性である大臣の一人、クルシスはサキナに向って一礼した。
「けれど王様の命令を無視してリベクサーさんを逃がそうとしたんですよ。それで王様に対して無礼を働いて・・・」
「お二人のお気持ちを察すれば、それも止む無しだと思います。されど私達は国を守るという王の意思を尊重しなければなりません。どうかこれだけは分かってください」

分かるもの何も立場という関係上、王を裏切る事などあってはならない。
だからサキナは、少なくとも目の前にいるクルシスを批難する気にはなれない。
彼に取って王の命令は絶対なのだから。
ふと、クルシスは思い出したと言わんばかりに表情を変えて背中に負ぶっていた荷を降ろしゴソゴソと中身を漁り始めた。

「ああ、忘れる所でした。特にこれと言ったものではございませんが、これを王から預かっています」

そう言いクルシスがサキナに向けて差し出したのは。

「これって・・・?」

それは細長い布に包まれていた物体だった。
布は古ぼけていて中身は何なのかサキナには見当が付かなかった。
「一体、これは?」
「私にもよく分からないのです。王はこれをサキナ殿に渡せばよいと」
恐る恐るサキナはそれを掴んだ。
両手でそれを袋越しから握りしめて、中身が何なのか確認し始めると―――


「えっ? ええっ!? んなっ!?」


するとサキナの目が、表情が信じられないと言わんばかりに見開き次には言葉にならない声を挙げて困惑していた。
「何か心当たりでも?」
思わずクルシスがサキナに声をかけてきた。
「い、いえいえっ!! 何でもありませんっ!! 王様にありがとうございますって言っておいてくださいっ!!」
「わ、分かりました。では、村までお送り致しましょう。どうぞあの馬車に」
サキナが喜ぶようなものだったのか知らなかったがクルシスは取り合えず馬車に乗るよう、彼女を促した。
その間、サキナはその布の中に入っている物体を大切に抱きしめていた。
まるで自身の赤子か、もしくは大切な形見かの様に抱きしめていた。

(本当に何が入っているんだろうか?)

あのボロ袋の中身が何なのか、クルシスには本当に見当が付かなかった。



♢♢♢♢♢♢♢♢



アオマサはサキナより一足早く村へと帰っていた。
理由は勿論、リベクサーが処刑される光景など見たくなかったからだ。
そして当のアオマサにはリベクサーを逃がそうとした逃亡の共犯罪と王様に無礼を働いた不敬罪がかけられ、その結果ハトラルコの首都から永久追放という刑にさせられた。
永久追放と言っても、首都に二度と足を踏み入れるなという意味であり結果的にこれといったお咎めはないに等しい。
最もアオマサにとっては誰が二度と王様の顔なんぞ見るかという気持ちであったが。
そして、三日かけて村へと帰ってきたサキナはすぐさま自分の家へと歩き始める。
無論アオマサに会いたいが故だが、もう一つ理由があったのだ。
扉の前に立つと3度、ノックをして家へと上がり込んだ。


「アオマサさん。ただいま帰りました」


なるべく明るい声でサキナは家の中に声を響かせる。
見ればアオマサはそのまま椅子に座っていて、窓の景色をじっと見つめていた。
その目は何処か遠くを見つめている。
だが声は聞こえた様でアオマサは顔をサキナの方へと向けた。

「ああ・・・、お帰りサキナ・・・」

はっきりと分かる。
他人に叩かれて非難されて、元気や気合といったポジティブな気持ちがそぎ落とされた声色だった。
無理もない話だ。


「最後は・・・どうだったんだ・・・?」


主語が抜けていたがその質問が誰に対してなのか容易に分かる。

「マグマの中に入れ込まれて、溶け落ちました・・・。後王様に対して黒い液体を噴き出して浸食しようと思われていましたけど・・・出来なかったみたいです」

絶対に聞きたくはないだろうなと思いながらもサキナはそう伝えたのは、妻としての務めだった。

「そうか・・・」

だた弱々しく吐いたアオマサ。
そして再び窓の方へと顔を向けると、じっと見つめ始めた。
今のアオマサは大事な人を失い、心砕かれた人間だった。
もう何もしたくない。
もう何もいらない。
通常であれば立ち直れる事はまず不可能だ。


―――されどサキナはその術を持っていたのだ。 
そう、王様は決して冷酷な人間ではなかった事を。
そしてアオマサの、大事な人は『生きている』事を。
「あの、アオマサさん。会わせたい人がいるんですけど」
「ん?」
そう言いサキナは大事に持っていたボロ袋の、その中身を取り出しアオマサに見せつけた。


―――その中身は剣であった。


その鞘は派手な装飾がない質素で、握る柄も銀色に染められ平凡な形をしていた。
一般の剣と何ら変わらない何処にでもある様な剣だった。
アオマサは一瞬、自分に対して何らかの皮肉かと邪推した。
だがサキナが柄を握り、抜刀すると―――

「っ!?」

アオマサは驚いた。
―――その刀身は白銀色で、その周りを囲む様に水色の水晶みたいな刃先が取り付けられていた。
そして抜刀と同時に刀身から黒い液体が噴き出してくる。
黒い液体はその刀身を侵食し、禍々しい大剣へと変貌させた。
次にサキナの手を、腕を、体を侵食していき禍々しい装甲へと形作られていく。
一度サキナが両目を閉じ、もう一度開けばその右目は真っ赤に染まっていた。
驚きすぎて言葉を失ってしまったアオマサ。






『また会える事になろうとは、例えようのない喜びだ。アオマサよ』





あの忘れる事のない冷静な口調で、今は穏やかさも併せ持つ声色だった。
夢でも見ているのかとアオマサは思った。
だが現実だ。
自身の目の前には死んだと思われたはずの彼女が。
自分に対して永遠の別れを告げた彼女が。



「噓、だろ・・・・?」



『嘘でも夢でもない。私、リベクサーだ』



死んだはずのリベクサーが、サキナの体を借りて立っていた。
思わずアオマサは椅子から立ち上がって、彼女の元へと近づいた。

「で、でもお前は確かにマグマの中に溶けて消えたって・・・?!」
『いや。あれは私の鞘と柄だけだ。王は手を打っていたのだ。私の刀身だけをすり替えて置き、装飾が付けられた鞘と柄を普通の刀身に変えて、それを処刑の際に使った。そして刀身、つまり私だけを活かしておいたのだ』

それを聞いた瞬間、アオマサの頭が停止しかけた。
あり得もしない人物がリベクサーを助け出した事や、今ここにリベクサーがいきている事や、兎に角様々な事情全てが信じられなかったのだ。
何か言葉を紡ごうとしても『えっ』、や『その』といった単語ばかりだった。
だからリベクサーは一から説明し始めた。


『王はこう言った。「我は罪を犯した者には必ず罰を下す。されど命を取る事とは別である」、と。私はハトラルコ王によって匿われたのだ。そして芝居を頼まれたのだ。わざとハトラルコ王を浸食しかけようと黒い液体を噴き出しハトラルコの民に見せつけよ、と。あれは私にとって一部、人間で言えば『服』みたいなものだ。その状態でも多少は操れる。鞘から例の黒い液体を溢れ出させて、浸食する様なふりをするのもたわいない』
「じゃあ、芝居をやったのかよ? な、何でだっ!?」
『この様な芝居を売ったのは主に2つ。一つは私を完全に死んだとハトラルコの人々に思わせる為だ。人々を恐怖に駆り立て混乱に陥れた私と言う存在を取り除くには、完全に死んだと思わせなくてはならなかった。加えてアオマサ、そしてサキナを安全にする為にも死を偽装しなければならかった。もし私が生きているとなれば、一枚岩ではないハトラルコの大臣らは精鋭を差し向け排除しようとするかも知れんだろう。そうなれば傷つくのはアオマサとサキナだ。それを元から防ぐ為に私が死んだと大々的に知らせなければならなかった』

確かにリベクサーが死んだとなれば、ハトラルコの大臣はもうアオマサとサキナを監視する必要がなくなり、目もくれない事だろう。
そもそもアオマサもサキナも被害者としての面を持っているのだから、これ以上の追及は愚かな事と結論付けるはずだ。

『そして二つ目は私自身の罪を清算する為だ。私は自身の欲望の為に罪なき人々をあやめた。それだけは消せない罪であるが、王は私の一部を取り上げる事でその罪を許したのだ。装飾を取り上げられた事に不満などない。それでアオマサとサキナを助けられるし、ただの『服』みたいな物だから減るものではない。それにこうして生きるのを許されているのだから』

そこでようやくアオマサは理解した。
リベクサーは死を偽造して自分達の安全を確保したという事を。
王は自分達を助けるために、動いていたことを。
されど。

「で、でもそしたら俺にその話をしてくれても良いじゃねえかっ!! そしたら俺も演技して上手くいけたんじゃないのかっ?!」
『敵を騙すにはまず味方から、という。何も知らされていなければ、アオマサは事を起こす者であると王は見抜いていた。加えて他の騎士らに演技ではなく、本当だと思わせる事が重要だった。だから何も知らずに事を起こせる役、真実を知らないアオマサが必要だったのだ。そして最後の念押しとしてアオマサとサキナを他のハトラルコ大臣や騎士らとの接触を防ぐ為に首都への出入りを禁止させた。この田舎町ならいるのは駐在兵だけ。事を起こさない限り、首都への連絡はほぼしないだろうと』

その為の処遇だったとは知らなかった。
そこまで考えていて、尚且つリベクサーと自分達を助けたハトラルコ王。
聡明で本当に賞賛出来る王様だった。
だが同時にアオマサはハトラルコ王に対して本当に無礼を働いてしまった事に後悔した。
王は自分らを助けようと働いていたにも関わらず、自分は人殺しなどと罵倒してしまったのだ。

「俺・・・。王様にあんな酷い事言っちまったよ・・・・。それにクロシエ、さんにも酷い事を・・・」
『・・・王から伝言を預かっている。「もう我を頼らないでもらいたい。そしてひっそりと暮らせ」と』

そう言いリベクサーは首を横に振った。
気にする必要はないぞアオマサ、という意味だ。

『私が聖剣として主君に勤めていた頃、私は知った。王とは、皆を守るために存在するもの。そしてそこには贔屓を作らず、平等に接するべきだと。その平等を守る為、ハトラルコ王は何も言わずに事を起こしたのだ。だから罵倒など些細な事だと王は割り切っている。それはクロシエ殿も同じだ。何しろハトラルコ王はクロシエ殿にも芝居を頼んだのだからな』
「んなっ?! クロシエ、さんにもっ!?」
『愛する魔物娘を上手く助ける為なら喜んで引き受ける、と。だから罵倒など気にするな』
「それとサキナの口からも良いですか?」

急にサキナの声、という表現はおかしいが、兎に角サキナが会話の中に入り込んできた。

「けどサキナはこう思うんです。これからは本当の意味でリベクサーさんを守って欲しいって。でなければ王様がこんな事しないと思いますし」
『だから気にするな。それが王の務めだ。そして私も務めを果たそう。我がリベクサーはそなたと共に歩もう』
そう言い、リベクサーは侵食されていないサキナの左手をアオマサの前に出した。


『アオマサよ。このリベクサー、生涯をかけてそなたの剣となり、寄り添いあおう。私と共にいてくれるか?』


まるで結婚式での誓いの言葉みたいだった。
生涯を一緒に歩もうとする彼女の台詞。
その返答は、言うまでもない。


「・・・ああ、勿論だ。俺、お前の事を愛するさ・・・」


そう言いアオマサはその体を抱きしめた。
熱く、強い抱擁だった。
そしてアオマサの両目からは熱い涙が零れていた。
一緒に暮らせるという嬉しい感情が爆発し、その涙を流していたのだ。

『ありがとう。アオマサ』

するとサキナの左手がアオマサの背中へと回され、優しい抱擁がアオマサに対してなされた。
女性からの抱擁は柔らかく、人肌の温度が胸元を中心に広がっていく。

「ですけれどサキナもまた愛してくださいね? だってアオマサさんの奥さんはサキナだけなんですからね?」

そう、忘れてはいけない。
サキナもまた自分の大切な妻だ。
絶対に疎かにしないし、自分の妻なのだから愛でなければならない。
だからアオマサはサキナにも伝えた。


「ああ・・・勿論だ。二人まとめて愛してやるよ」


そう言いアオマサはサキナの頭を優しく撫で始めた。
そうすればサキナの顔は穏やかで幸せそうな表情へとなる。
そして、リベクサーにもその暖かさは伝わっていく。
だからアオマサは感謝した。
これからも自分を支えてくれるサキナ。
自分と共に歩いてくれるリベクサーに。
そして自分達とリベクサーを助けてくれたクロシエとハトラルコ王に。




♢♢♢♢♢♢♢♢



ハトラルコ王はプライベートルームで一人、ワインを飲んでいた。
葡萄酒のコルクを開け、中身をグラスへと注ぎ一口。
そこで一息吐いた。
大事を成し遂げ、緊張が緩んだ際に放たれる息だ。
その息が吐かれたと同時に、ふと視線を感じた。
この部屋にノックをせずに入ってくるなど失礼だが、相手は分かっていた。



「いつも思うが、どうやって入ってこれたのだ?」



「あ〜らっ♥ それは乙女の秘密でしょ。リュウジン」



仲良さげな声を挙げながら、笑みを浮かべていたのは女性だった。
だが皮膚の色は青白く、背中からは翼が生えていて明らかに人間ではない。
そう、彼女は。
過激派の中核に位置する種族、『デーモン』だったのだ。

「乙女、か。確かに女はいつまで経っても乙女だというが」
「全く驚いたわよ〜。公開処刑なんて。あれ程大々的に宣言したんだから、やっぱり過激派の子達も『魔剣とは言え我が同胞だ』とすぐに物量戦でハトラルコを制圧しようなんて事言いだしたわ。私が話を通さなかったらもうここは魔界になっていたかも?」
「感謝はしておるさ。こうして民達が平穏を送れるのもそなたらのおかげだ」
「そう言えば貴方に向って悪口いった子がいたって聞いたけど、大丈夫なの? リュウジン、悪口にあまり強くないし〜」
「だがそうしてくれたおかげで事が上手く運べられた。周りの者もあの者の叫びで信じ込んでいるだろうからな」

何ともないと言わんばかりに『デーモン』に向って真顔の表情を見せたリュウジン。
だがそう言うが頭の片隅では少しだけ傷ついた自分がいた。
人からの罵倒などもう慣れていたと思っていたが、やはり根っこの部分は変えられないものだと、リュウジンは実感した。
ああ、と『デーモン』は思い出したかの様に呟いた。

「あと、ね。その子は少なくとも私の基準では善人だと思うけど、何であそこまで非情な台詞を言ったの? 決してリュウジンの考えは間違ってはいないとは言わないけれど、やっぱり言い方ってものがあるんじゃないの? 例え演技だったとしても」

首を傾げながら不思議そうに尋ねてくる『デーモン』。

「隠れて聞いていたのか?」
「まあ、ね」
「・・・確かにあの者は善人だ。されど、掴めもしない雲を掴めると思い込んでしまう癖がある。その正義感を持つのは悪い事ではない。だが一度思い込むと周りを良く見ようとせず、足元が一歩踏み出せば崖に落ちてしまう足場になっていた事に気づけない。それは危ない正義だ。命を落としかねないし、無暗に他人を巻き込ませてしまう」
リュウジンの考えに『デーモン』は納得したかの様に頷いた。
それは確かに正義ではあるが、考えもなしに走り抜け、ふと後ろを振り返って見たら犠牲が沢山出てしまったのであれば、正義の為の行動だと言い難い。
と考えれば誰かが止めなければならないのは必然だっただろう。
「なるほどね。だからそれを貴方が気づかせて、あの子に教導したって訳ね。でもあの子が気づいて、自分のものとして取り入れるには時間がかかるんじゃないの?」
「時間はかかるだろうが、必要な事だ。青年は青臭くまっすぐだ。だからこそ考えさせるきっかけを与えなければならない。それが我々、大人としての務めだ」  
「本当にめんどくさいわね、貴方って。・・・ねえ、こんな大変な事止めて私と一緒に気持ちいい事しない?」

そう言い『デーモン』はリュウジンの頬を指先で軽くなぞってきた。
少しだけ伸びていたた爪先が頬に触れてくすぐったかった。
次には耳元まで近づき、息を吹きかけるかの様に囁いてきた。
悪魔の吐息がリュウジンに襲い掛かる。

「大体さぁ、いつまでも反魔物主義を掲げていても時期に全ての国が魔界に変わっちゃうんだから時間の問題よぉ。楽になりたいんだったら今この瞬間でもぉ〜」

普通の男性であれば誘惑に屈してしまいそうな『デーモン』の囁き。
甘美で妖艶な女性の囁きだ。
だがリュウジンは軽く鼻を鳴らすと、その右手で優しく彼女の顔を自身から遠ざけた。


「男が一度背負った重き荷、簡単に捨てる訳にはいかんな」


それを聞いた『デーモン』は不思議そうな表情を浮かべていた。
「そなたの言う通り、魔物は人々と友好を結びたがっているのは周知の事。反魔物主義を掲げているのは時代遅れと思われるだろう。だがな、全ての人間が認識を変える事は難しい。どうしても魔物に恐怖を覚えてしまう者がいる。どうしても魔物は危険だと考えを改めない者がいる。どうしても考えを改めきれず零れ落ちてしまう者がいるのだ。その者らを見捨てて、楽な道に走るのはハトラルコの『王』としてどうしても出来ん。王たるもの全てを背負い、民を守るべきなのだ」
「それが貴方って事? それがどんなに険しくて難しいのか分かっているの?」
決して批判はしていないが棘がある台詞で問いかけてしまった『デーモン』。
だがここで悠然とリュウジンが彼女に返す事が出来たのは、王としての素質と器があったからだ。

「男とは、時に自らいばらの道を進もうとするものだ。それがあの日、私が王位を継承した際に掲げたルールであれば貫かねばならん。女であるそなたが分からないのも無理はないな」

『デーモン』の彼女は何とかリュウジンの言い分を分かろうと考えてる表情ではあったが、次にはやはり理解できまいと首を傾げていた。
その素振りにリュウジンは彼女、引いては魔物娘にとって一番大事な『扱い』を伝え始めた。

「安心しろ。魔物らが入り込んできて、騒ぎを起こした際には上手く逃がそう。だがルールを破った罰は命を奪う以外の処遇できっちりと受けて、な。私が掲げるのは折り合いの付いた生き方だ。魔物が好きであればそれで良し、魔物が嫌いであればそれも良し。互いの主張を押し付けずにそれぞれの生き方をすべきなのだと。・・・・最も大臣らと国民らの暴走を止めきれずアルトンへ宣戦布告をした事に関しては私の非だ」
「過ちを自分のせいにしちゃだめよ。そもそも起きた条件と時期が悪すぎたんだし、大臣達が独断で進めてしまったんだから止められなくて当然よ。まあ貴方がそう言うのであれば私は待って挙げるし、色々手回しはしてあげるけど・・・」
「・・・何故そこまで世話を焼かす? そなたが人間に対して過保護なのは知っておるが、これは私の我がままだぞ?」
魔物らにとって、自分が反魔物主義を掲げる事など、愚かで我がままみたいなものだというのに彼女はそれに付き合っている。
しかもこれといった見返りも要求しないで、彼女は自分に力を貸しているのだからリュウジンは今でも驚きを隠せないのだ。

「そりゃあ、さあ・・・。最初に会った時貴方が私の誘惑に屈せずに、『このハトラルコを魔界に染めるというなら私は戦おう』。なんてカッコいい目つきで言われたら・・・・、私ねえ・・・」

そう言いながら体をもじもじさせて、何か言いたげそうな、されど恥ずかしそうな表情を浮かべていた『デーモン』。
余りにも一目瞭然で、本当に愛くるしい姿だった。
その姿を見たリュウジンは自然と頬を緩めた。
「少なくとも、私が王としての責務を全うする間までは屈する訳にはいかん。だが報酬、もとい少しの交わりは良いだろう? 性的な物は除いて、な」
それを聞いた『デーモン』はパッと笑みを浮かべ喜んだ。
「ならポーカーでもやりましょうか? 一回負けたら、グラス一杯分のワインを飲み干すという罰ゲームはどうかしら?」

一見すればただのお遊び程度でしかない、と思われがちだがワインをグラス一杯飲まされるという罰ゲームは巧妙であった。

「・・・負ければ酒を飲まされ、思考が回らなくなり、そして負ける確率が上がるという訳か? これは参ったな」
「『デーモン』流のお戯れ、って事よ。ああ、不可抗力が起きても私知らないわよ〜。勝手に襲ったんだから止む無く、ね〜♪」
意味深で淫らな笑みを浮かべた『デーモン』。
それを見たリュウジンは彼女が求める見返りが何なのか察した。
薄々感づいてはいたがもっと良い男がいるはずなのに、こんな我がままな自分の何処が良いのか・・・。
だからリュウジンは口を開いた。


「ふっ・・・。酒には強い部類だ。それに、余計な心配はするな。そなた以外の乙女に貞操を捧げるつもりなどないからな」


それを聞いた『デーモン』の彼女は面をくらったかのように驚いた。
余りにも自然で、そして意地悪な程の台詞回しだったから。

「・・・そういうのズルい・・・」

両頬を膨らませ、潤んだ目で『デーモン』は将来の旦那を愛しそうに見つめていた。



♢♢♢♢♢♢♢♢



「・・・もしや、あれは演技だったのですか?」


アルトンへと帰国し、公務室で真実を聞かされたクロハだが。
クロシエに何か言いたげで、不満を含んでいる様な表情でクロシエに問いかけてきた。

「8割、9割ね。本当に欺くにはクロハの協力も必要だったの。でも救いたかったって意思は本物だし、クロハに抱きしめられたかったていうのも本当よ」

クロハは最初の内、自分は信頼できる人ではなかったのかと愕然としたが。
次にはクロシエがクロハに抱きしめられたかったという台詞を告げてきたのだから、もう気にしない事にした。 
加えて親愛なる魔物娘のリベクサーは無事だったという事も要因だったから。
「・・・・でもまさか、そんな裏取引があったとは」
「裏取引、というよりも王の独断みたいなものだけど・・・。案外驚かないのね?」
「魔物の公開処刑となれば過激派の魔物らが黙っていないですから。けれど動かなかったという点からもしや、と」
だとしたらそれはそれで何かしら問題が発生するだろうがもっと気になる事があった。
「・・・されど鞘は兎も角、柄を変えられても大丈夫だという話をハトラルコ王は何処から?」
「私に尋ねてきたの。あの日、『刀身だけを変えてもかの者は生きられるか?』と。私はジルドハントにすぐ聞いたの」
そう言いクロシエは腰に携えているジルドハントに目をやった。
「・・・変えても大丈夫だと、答えたのですね」


―――元々鞘といった装飾は我々にとって本当に『飾り』でしかありませんですので―――


とジルドハントは伝えていたのだが、クロハにはジルドハントの声は聞こえなかった。
しかしクロシエの素振りでクロハは察せられる。
「そこからはもう迅速だったわ。代わりの鞘と柄を用意して、彼女の鞘と柄と交換して演技を頼んで・・・」
「それでアオマサさん達の安全を確保した、という事ですか。・・・けど、やはりハトラルコ王は・・・気づいているのでしょうね・・・」
クロハはクロシエの腰辺りにあるジルドハントを見つめた。
・・・もうハトラルコ王は、クロシエの秘密に勘付いているのだろう。
元々武勇に優れていないはずのクロシエが何故強くなったのか。
クロシエの携えているジルドハントの秘密を。

「ええ。でも、気づいていない振りをしているだけよ。・・・それでも振りをし続けるという事は守るべきルールが王にはあるからだと思うの」

国を守る人間としてのルール。
クロシエとハトラルコ王は似た者同士。
違いは掲げているのが親魔物主義か、反魔物主義かだけ。
そのだから尊敬もしているし、負けてられないという気持ちにもなれる。
自分も彼と同じように国を立派に治めて見せよう、だから。

「ジルドハント。クロハ」

「はっ」


―――はい―――

「これからも私はアルトンを発展させていきたいの。だからここから先、貴方達の力が必要となるの。だから私に引き続き、力を貸してちょうだい」
「何を改まっておいでですか? 『俺』はクロシエ様の騎士です。これからもお傍にて仕えますよ」

―――私もクロハ殿と同じです。生涯をかけて忠義を尽くしましょう。

そう言いクロハはクロシエに向って深々と一礼した。
もしジルドハントに人の体があれば、クロハと同じ深々とした一礼をするだろう。
だからクロシエは二人に感謝した。
自分にはこうして支えてくれる忠臣がいる事に。



♢♢♢♢♢♢♢♢



定例会議の時間帯が迫っていたので公務室から出たクロシエとクロハ。
その会議へと続く廊下を歩いていると向こう側から見知った女性が一人歩いてくる。

―――クロシエの母、レイヤ・テル・アルトンだ。

すぐさま通路をレイヤに譲り、一礼するクロシエとクロハ。
そんな二人にレイヤは軽く頷くと、クロハの方へ顔を向け。




「娘をよろしくね♪」




そう言い残して去っていった。
しかも去り際の時、笑みを浮かべながら。
最初はただの労いの言葉なのかと思っていたが、だんだんとクロハは深読みしてきてしまった。
何しろ自分に対してクロシエの名ではなく、『娘』と呼んで挨拶してきたのだ。
普通であれば名前で呼ぶはずなのに何故?
そう思ってしまったのだから、クロハはつい口にしてしまった。

「クロシエ様。き、きっと深読みし過ぎですよね?」

「どうかしら、ね・・・?」

対するクロシエもまた深読みしていたのか、ぎこちない口調であった。
確かに自分達は立場以上の関係を持っているのだが、それは少なくとも母には知られていないはずだ。
でも考えれば考えるほど、母の台詞が意味深に聞こえてくる。

「気にしてはいけない、わね」

そう自分に言い聞かせてクロシエは前を向いて歩いていく。
勿論クロハもそれ以上言わずにクロシエの後を付いていった。
ただ一人、ジルドハントは・・・。


――――答えは、レイヤ殿のみぞ知る。ですか―――


やはり意図が読めない以上、ジルドハントはそう結論付けるしかなかったのだった。
18/04/16 18:07更新 / リュウカ
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■作者メッセージ
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて『狂気の聖剣』、無事に完結となります。
・・・となりますが私自身として、今一度ガイドラインを熟読し、肝に銘じるべき作品であったと考えています。
感想欄にてご指摘の通り、『もし本当に処刑したのであればガイドラインに違反する事である』のは私としても重々承知の上であり、勿論ここでのガイドライン、特に『魔物娘が殺す、殺されるというのは絶対にやってはいけない』という規則を私は絶対に尊重しておりますので、『実は処刑を偽造して魔物娘は生き延びていた』という展開を用意しておりましたので問題はないかと当初は考えておりました。 
ですが私は読者の皆様に『話の続きを気にさせ、見たくなる』という言わば一種の『期待感』を刺激させるという選択肢を取り、結果的に誤解を招きかねない、もしくは不安を煽る話の区切りをしてしまい、感想欄にて上記の指摘が発生してしまったと認めざる負えません。
それについては私としても深く反省するべき点であり、ここの小説投稿サイトのルールを破るつもりはなかったとはいえ、この様な話の展開をしてしまったのは反省するべき事だと考えました。
言葉でしか謝罪は出来ないのですが、ガイドラインに接しかねないかも知れない展開をしてしまい、申し訳ございませんでした。

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