連載小説
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闘技会と赤目の男
「あン……はぅん……気持ちイイ……♪」

 ……揺れ動く船室のベッドで、褐色の女体を抱きしめる。彼女の尾に燃えあがる炎……彼女いわく、消えることのないその愛欲の炎は、物を燃やすことも無く、静かに部屋を照らしていた。
 ジュリカは抱き合いながら、俺の男根を程よい肉づきの太腿で挟み込み、ずりずりとすり合わせていた。互いの性器からでた汁が潤滑油となり、にちゃにちゃと卑猥な音を奏でる。娼婦が体内に射精させずに客を満足させるのに使われる性技だが、彼女を焦らすためにやらせているのだ。すでに口での奉仕をしてもらった後なので、男根を元気にさせる意味もある。

「あんっ、もう……入れるっ」

 我慢できなくなったのか、彼女は腰をずらした。
 ぬるりと、男根がジュリカの膣に呑みこまれる。強烈な締め付けが男根を襲い、ジュリカは精液にまみれた顔を快感に歪ませる。

「あはぁっ、これ、これ♪」

 俺を抱きしめたまま、ジュリカは巧みに腰を動かす。

「イイっ……スティレット……何回ヤっても……ああん♪」
「ああ、お前は何回ヤっても……飽きないな!」

 ほどなくジュリカは絶頂し、その締め付けで俺も射精する。全身で互いの体を味わうべく、しがみつくように抱き合いながら、つかの間の脱力。そして再び、快楽の時が始まる。

 静かに揺れる船の中で、俺達の喘ぎ声だけが響いていた。









… … …

 潮風が穏やかに吹く中、貨客船は港に入った。
 港には人と魔物が入り乱れ、鳥の翼を持った娘たちが船乗りと談笑していたり、下半身が蟻の女たちがせっせと貨物を運んでいたりする。警備に当たっているのはケンタウロスや狼女たち。教団の兵士だった俺からすれば異質な光景……しかし、今まで見てきたどんな町よりも平和そうだった。

 ジュリカを伴って、船から降りる。彼女はあれ以来、俺にべったりくっつき、隙あらば抱きついたりキスを求めてきたりする。本番も数えきれないくらいしたが、もうすっかり彼女無しではいられなくなってしまった。
 そして今、彼女の目的地であるこの町に来たのだ。

「ここにお前の姉さんがいるのか?」
「ああ。私設軍で教官やってるんだ」

 俺と肩を組みながら、ジュリカは言う。
 あの後、行く宛の無い俺は彼女について行くことにした。ジュリカは姉に会うため、ヴァンパイアの領主が治める町へ向かっていたのだ。それがこのルージュ・シティ。人と魔物の共存を掲げ、短期間で目覚ましい発展を遂げたという。確かに町の賑わいは大したもので、あらゆる魔物と人間が手を取り合って生きているようだ。
 しかし当然のごとく、魔物を駆逐しようとする教団からは睨まれており、自衛のための私設軍が存在する。ジュリカの姉は傭兵として各地を転戦した後、この町で正規兵となったらしい。彼女の姉と言うからにはかなりの強さだろう。会うのが楽しみだ。





「よし、その部屋で頼む」
「かしこまりました」

 ……とりあえず、まずは港の宿屋にチェックインする。部屋は一つしか空いていなかったが、元々別々の部屋に泊まるという選択肢は無いので特に問題は無い。ちなみにここへ来る前に、別の町で盗賊の捕縛などの仕事を引き受け、金は稼いだ。ジュリカと二人でなら楽な仕事で、フレイルも新調できた。

「それにしても、客が多いな」
「ええ、明後日に闘技会があるのですよ」

 年老いた主人は穏やかな口調で答えながら、部屋の鍵を渡してくれた。闘技会という単語に、ジュリカが目を輝かせる。

「闘技会……この町でかい?」
「はい、私設軍の訓練用闘技場が開放されまして、大きな試合が開かれるのです。……これに詳しく載っています」

 主人は客用の新聞を一冊くれた。『ルージュ日報』と書かれており、この町独自の物のようだ。

「『闘技会開催 市外からの来客者多数』……なるほど、盛り上がってるみたいだな」
「おっ、まだ出場者募集してるみたいだよ」

 ジュリカが指さした所には、出場者の募集は明日に締め切られると書いてある。人と魔物が入り乱れるこの町で、どんな奴が出場するのか……興味ある。

「出るか? 一緒に」
「そうこなくっちゃね」

 ジュリカは嬉しそうに抱きついてきた。なめらかな頬をすり寄せ、柔らかな胸を押し付けてくる。彼女の甘い吐息を楽しみながら、俺は再び新聞に目をやった。
 闘技会のルールは武器の使用無制限、ただし対戦相手を殺害した場合失格……一見自由度が高いルールだ。しかし武器を多用して、尚かつ殺さないよう手加減できる使い手が、それだけ多くいるということになる。楽しみだ。

「……ん?」

 ある一文が、目にとまった。


 ……闘技会の参加者は今日までで16名。昨日、傭兵ヅギ・アスター氏も出場を表明した。普段はルージュ教会で雑用をしている彼は、「遊びに来るガキどもが出場しろとうるさいから」と苦笑交じりに話していた……


 ヅギ・アスター。奴が、俺が囚人兵部隊に放り込まれるきっかけを作ったあの男が、この町にいるのか。そして闘技会に出場するということは……闘うことになるかもしれない。

「どうしたの?」
「……何でもないさ」

 ジュリカの肩を抱きながら、俺は拳を握りしめた。
 これが宿命なら、俺は逃げない。自分の過去に向き合う時が来たのだ。目を背けていては、目の前にいる真っすぐな女は俺に失望するだろう。

 俺に後戻りはできないのだ。人殺しとなった、その日から。







… … …


「えーと、スティレットさんとジュリカさんですね。登録完了しました」

 闘技会の申し込みは私設軍の本部で行った。軍の様子はかなりしっかりしており、人も魔物も使命感を持っている。加えて特殊な技能を心得た者も多そうだし、教団でもこの町を陥落させるのは難しいだろう。命を預けるなら、こういう軍隊にしたいものだ。もっとも、これからは腕一本で自由に生きてみたいが。


「おっ、ジュリカじゃないか!」

 ふいに、背後から快活な女の声がする。俺達が振り向くと、そこにいたのは緑色の肌に角を生やした女。麻でできた簡素な衣類を身にまとい、肌の多くが露出している。

「姉上、久しぶり!」

 ジュリカが嬉しそうな声を上げた。彼女が、ジュリカの姉らしい。
 確かに無駄のない筋肉が作る美しい肢体、そして目つきもジュリカに似ている。ただ、どう見てもサラマンダーではないが。

「元気だったかよ、男も見つけたのか?」
「うん、こいつ凄く強いんだ」

 ジュリカは俺の肩に手を回してくる。当然の礼儀として、挨拶することにした。

「スティレットと呼んでくれ。傭兵みたいなもんだ」
「あたしはオーガのセシリア、私設軍の教官だ」

 そう言って、彼女は俺の全身をざっと見見渡し、笑みを浮かべる。

「……確かに修羅場くぐってそうだな。ジュリカが認めるだけのことはあるぜ」
「二人とも違う魔物みたいだが、義理の姉妹か?」

 俺の問いに、セシリアは首を横に振った。

「血は繋がってるぜ。あらしらの母さんはエキドナなのさ」

 エキドナ……あらゆる魔物を生み出す、魔物の母と聞いたことがある。なるほど、それで姉妹でも種族が違うということか。魔物とは面白い。
 しかしセシリアの好戦的な目つきは、俺やジュリカと同類の証だろう。仲良くなれそうだ。

「二人とも、闘技会に出るのか?」
「ああ、登録は済ませた。あんたは?」
「もち、出場するぜ。強い奴が集まるぞ」

 胸の前でガシッと拳を合わせるセシリアに、ジュリカは目を輝かせた。

「姉上、どんな奴が来るんだ? 軍人か?」
「そうさな、例えばこの町の教会にいる……」


 ……セシリアが言いかけた時、部屋のドアが荒々しく開かれた。

 戦慣れしたもの特有の足運びで、一人の男が部屋に入ってくる。ルビーのような赤い瞳、整った顔立ち、比較的高い身長、修道士の服装。そして左手にぶらさげた、何か丸い物の入った布袋。
 人品卑しからざる風貌とは裏腹に、禍々しい気配を放つ、その男。
 俺の心臓が跳ねた。こいつは、戦争が産んだ狂気の産物とも言える傭兵……見間違えるはずもない。


「……ヅギ・アスター」

11/04/12 23:54更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
社会人になったばかりなので少しずつしか書けなかったりしますが、何とかやってます。長さ的には「悪食の場合」と同じか、少し短い程度になるかと。

では、次回もお楽しみに……してくださると嬉しいです(爆)

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