連載小説
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旅4 意外でもない緊急事態発生!!
「な、なんじゃこりゃーーーーー!?」
「…やっぱり驚くよね」

現在19時。ユウロが旅に加わってから5時間程経過。
あれからノンストップで歩き続けたが、ユウロが言ったとおりやっぱりテトラストまでたどり着かなかった。
が、一応川沿いまでは着く事が出来た。まだ都市なんて微塵も見えてこないけど。

「外から見たら普通の2、3人用のテントなのに内部が豪華な小屋だったら誰でも驚くって!!」
「ね?そうでしょアメリちゃん」
「うーん…」

私たちは川沿いから少し外れた場所に広場みたいになっている部分があるのを発見したので、そこで例の『テント』でキャンプする事にした。
『テント』の外見だけを見たときにユウロが「これ、本当に俺も入れるのか?絶対無理だろ」とか言っていた。やはり初めての人間はそう思うよね。アメリちゃんはそんな私たちに対してずっと不思議そうな顔をしているが。

「それだけじゃなくて、ルーンが刻まれたスイッチを押すだけで段階調節が可能な熱を発するプレートと蛇口と電灯があって、食材を保存や保冷する事が出来る不思議な箱に、ちょっと大きめのベッドがいくつかあるし、トイレとシャワーまで完備しているという豪華な王女仕様…」
「はあっ!?マジかよ!?スゲーな!!」

これが普通の人間の反応である。間違ってもこの小屋を普通だとは思わない。
これを普通だと言い張るアメリちゃんはやはり大物か……ってリリム=魔物の王女だから大物だけど。

ユウロは目を見開きキラキラさせながら小屋中を隈なく探索している。
こうしてみると怖い勇者という印象は皆無だ。むしろ私よりも年下の男の子を見ているような気分だ。

「うわあーー!!マジなんだよこれ!?ヤベーよ!!」
「ヤベ?」
「まもののちからってすげー!」
「…なに言ってるの?」

なんかユウロが良く分からない事を言っているが、興奮している事だけはわかった。
男の子って未知の物を見ると皆こうなるのかな?それともユウロがはしゃぎ過ぎなだけかな?

「…ねえサマリお姉ちゃん、アメリ早くごはん食べたい」
「……そうだね。はしゃいでるユウロはほっといて夜ご飯の準備しよっか」
「うん…ところで今日の夜ごはんなに?」
「今日はハンバーグにしようかと。もちろんアメリちゃんにも手伝ってもらうよ!」
「うん!アメリがんばってお手伝いする!!なにすればいい?」
「それじゃあ私がボウルの中に包丁で切ったものを入れていくからそれを捏ねて平らな円の形にしていって!」
「はーい!!」

とりあえずはしゃぎっぱなしのユウロはそのままほっといて私とアメリちゃんは夜ご飯の準備にとりかかった。


…………


………


……







ジューーーーーー……

「……うん!良い感じに焼けた!ハンバーグの完成!!」
「わーい!!いいにおいー!!」

程良い焦げ目がハンバーグに付いてきた。
アメリちゃんが意外と手際が良くて予定よりも早く完成した。パンとスープも準備できたし早速食べる事にしよう。

「うおーー!!ここはこうなってんのかー!!マジパネェ!!」
「おーいユウロー!ご飯出来たよー!!いつまではしゃいでるのー!?」
「ん?あっ!もうご飯!?何も手伝わなくてゴメン!!」
「別にいいよ。いろいろこの小屋を見てたんでしょ?これからよく使うんだからいろいろ知ってた方が良いからね。でも明日からはちゃんと手伝ってね」
「了解!!じゃあご飯にしようか!俺朝から何も食べてないから腹へって仕方ねえんだよ!」

……ってことはお昼ご飯も食べずにアメリちゃんを待ち伏せしていたのかぁ……大変だったんだなぁ…

「……もしもーし、なんでかわいそうな子を見るような目で俺を見てるの〜?」
「ユウロはかわいそうな子だな〜と思ったからだよ」
「……………ご飯にしようぜ」

誰でもわかる位落ち込んだユウロもおとなしく席に着いた事だし、早速夜ご飯のハンバーグを食べる事にしよう。




「「「いただきます!!」」」

とりあえず真ん中で切って……うん!ちゃんと中まで火が通ってる!これなら大丈夫だ!!

「うおっ!なんだこれ!?めっちゃウマい!!下手すりゃそこらへんの店で売ってるものよりウマい!!」
「もぐもぐ……おいしーーー!!」

ユウロが大げさなリアクションをしている気がするが、おいしいと言ってくれるのは嬉しい。
いつも通りアメリちゃんもおいしいと喜んでくれている。
喜んでくれる人が居る……これだから料理は止められない。

「すごいなサマリ!実は料理の修行でもしてたのか?」
「ううん。小さいころから普通にお母さんの料理の手伝いをしていただけだよ」
「それでこんなにウマくなるものなのか!?スゲーな!!」
「ありがと!でも今日はアメリちゃんが上手にハンバーグを捏ねて形を整えてくれたからおいしいんだよ!」
「えっ!?アメリが!?ホントに!?」
「うん!」
「ホントに!?わーーい!!」

実際材料を捏ねて混ぜ合わせる工程がきちんとできていたからおいしいと言えるだろう。
つまり、今日のハンバーグがおいしいのはアメリちゃんのおかげでもある。
そのことをアメリちゃんに言ってあげたら凄く喜んでくれた。


……喜んでいるアメリちゃんはまるで天使だよ!!可愛すぎるよ!!

……あれ?リリムって悪魔だから天使は失礼か?まあいいや。可愛い事には変わりない。


「サマリお姉ちゃん、明日までにはテトラストに行ける?」
「う〜ん…どうだろう…ユウロはどう思う?」
「俺は難しいと思うな。地図を見た感じ何もなければ夕方までには着くかもってところかな」

なにもなければ…か。

「つまり、今日みたいに誰かさんがアメリちゃんを狙って襲って来たりすると到着しないだろうってことか」
「……ごめんなさい。俺がバカでした」
「いや、別に攻めてるつもりは無かったんだけど…」

ちょっと触れた気はするが別にユウロを攻めていたつもりは無い。なのにユウロがまた落ち込み始めた。
いくらなんでもメンタル面弱過ぎである。本当に強いのか疑問が出るほどだ。

「ま、落ち込んでないで早く食べましょ」
「はい…」
「サマリお姉ちゃん、ごちそうさまー!!」
「え!?アメリちゃんもう食べ終わったの!?私まだ半分は余ってるのに!?」
「うん!おいしかったからあっという間に食べ終わっちゃった!」

元気よく言うアメリちゃんの笑顔は素敵だな〜……



……あれ?



「アメリはみがきしてくる!その後今日もいっしょにシャワーあびよ!」
「うん。でもお皿洗ってからでいい?」
「あ、皿洗いは俺がやっておくよ。準備のときは手伝わなかったし、これぐらいはやるよ」
「ならユウロに任せるよ。じゃあアメリちゃん、私がご飯食べ終わったらシャワー浴びよっか!!」
「うん!!」



……うん、やっぱり。



「「ごちそうさまでした!」」
「はみがきおわったよー!!」
「じゃあアメリちゃん行こうか!」
「うん!」
「それじゃあユウロ、お皿洗いよろしくね!」
「おう、任せとけ!」



……間違いない。



どういうことかとりあえずシャワー中にアメリちゃんに聞いてみるか。


====================


シャアアアアアアア……

「アメリちゃん、ホント綺麗な身体してるね…うらやましいよ…」
「アメリは魔物だもん!でもサマリお姉ちゃんは人間さんなのにすっごくきれいな身体してるよ!!」
「ホントに?ありがとう!……ってアメリちゃんどこ触ってるの!?」
「おっぱい」

今はアメリちゃんとシャワーを浴びている。

昨日も思ったけど、アメリちゃんの身体は世にいる男子を皆夢中にさせられるのではないかと思うほど綺麗だ。肌だけでなく、

白く流れるようなさらさらとした髪の毛も美しい。人間には無い翼や尻尾、角なんかはマイナスになるどころかむしろその美しさを引き立てている。
子供のころからこんな身体を普通に手にしているなんて…アメリちゃんの言い方からしてリリムだからという事でもなさそうだ

…正直魔物がうらやましい。


まあだからといってまだ魔物になりたいとは思わないけど。


で、そんな話をしていたら突然アメリちゃんが私と自分の胸を触り始めた。

「アメリ小さいけどこれから大きくなるかなぁって…」

それはいらぬ心配だと思うのだが。アメリちゃんまだ8歳だし。今大きいほうが怖いよ。

「いや、アメリちゃんはまだ早いから…これからだんだん大きくなるから…」
「ホント?」
「たぶん…知ってるお姉さん達は大きかった?」
「うん!」
「じゃあ絶対に大きくなるから心配しなくても良いよ……」

……本当にうらやましい。成長期が過ぎた結果Bサイズで止まった私と違って将来有望ではないか。


シャアアアアア……


「ところでアメリちゃん、ちょっといいかな?」
「ん?なーにサマリお姉ちゃん?」

ちょっと悲しくなるようなトークはひとまずここで切り上げて、いよいよ本題に入ることにする。

「アメリちゃんさぁ…もしかしてユウロのこと嫌い?」
「え!?そ、そんなことないよ!!ユウロお兄ちゃんキライじゃないよ!!」
「ふーん……じゃあさ……」

さっきからずっと…それこそユウロと旅するようになった今日の昼からずっと気になっていた……




「なんで…アメリちゃんはユウロとお話ししないの?」




そう、あれから一度たりとも二人の間で会話をしていないのだ。

夜ご飯のときもそうだ。
二人ともずっと私としか喋ってない。
私を介してしかユウロとアメリちゃんは喋っていないのだ。


「えっと…それは……その……」
「どうしたの?嫌いじゃないんでしょ?」
「うん……でも………」

アメリちゃんがおどおどとし始めた。
嘘をつくような子ではないからきっと嫌いではないのだろう。
嫌いではなく、「でも…」ということは……

「好きでもないってとこかな?」



シャアアアアア……



シャワーの音がはっきりと聞こえる。それだけシーンとしているのだろう。



「…………」


アメリちゃんはゆっくりと、しかし確実に縦にコクンッと首を振った。


「どうして?やっぱり殺されかけたから?」
「うん……」

それはそうだ。誰だって自分を殺そうとしていた人とすぐに仲良くなんてなれるとは思えない。

「もう絶対に殺さないと言ってても恐い?」
「うん…こわい……」

やっぱり、まだアメリちゃんは完全にユウロを信頼できていないようだ。

「ユウロお兄ちゃんが本当はやさしい人だってのはわかってるんだけど……」
「恐怖のほうが勝ってて話しかけにくい…ってことかな?」
「そうなの……なかよくなりたいけど……」

まあユウロを誘った時からこうなることはなんとなく予想は出来ていた。
いくら魔物であっても子供だ。そんなに簡単に割り切れることではないだろう。大人だって無理な事もある。

それでもアメリちゃんはユウロと仲良くしたいと思っているのだ。私が何とかするべきかな?

「そうだね。旅は長いんだし、ゆっくりでも良いからユウロの事好きになれると良いね」
「うん…アメリがんばる!!」

とりあえず今日アメリちゃんが寝てからユウロにもいろいろと聞いてみよう。

なのでアメリちゃんとのこの話はおしまい。後は楽しく身体を洗ったりしよう。

「それじゃあ身体洗ってあげるね!」
「えっ!?それぐらいアメリできるよ!!」
「わかってるよ!昨日は自分で洗ってたの見てるからね。そうじゃなくて私がアメリちゃんの身体を洗いたいんだけど……ダメ?」
「いいよ!!アメリをきれいにしてね!!」


アメリちゃんの身体を洗う時に肌に直に触れたが、アメリちゃんの肌はどこを触っても気持ち良かった。尻尾や翼もすべすべのプニプニで不思議な感じだった。敏感なのか洗っているときアメリちゃんがくすぐったそうにしていたけど。

とにかく、アメリちゃんの全身をもうずっと撫でまわしていたいぐらい良かったのだ!!



……って私は変態か!!


=====================


現在22時。隣から可愛らしい寝息が聞こえてきた。
身体を洗いシャワーを浴び終わった後一緒にベッドに入り、少ししてからアメリちゃんが夢の世界に行ったようだ。

「アメリちゃん寝たかい?」
「うん。気持ちよさそうに寝てるよ」
「そうか。それで、話って何だい?」

いつもなら私もそのままアメリちゃんと一緒に夢の世界に行くのだが、今日は違う。
ユウロと話をするため、アメリちゃんを起こさないようにしながら私はベッドから抜け出した。

「そうね…じゃあまず、ユウロはアメリちゃんの事をどう思ってるの?」
「どうって……元気で可愛い女の子だな〜って思ってるよ」
「ふーん…じゃあなんでずっとアメリちゃんとお話しなかったの?」
「……気付いてたんだ…」
「そう言うってことは自覚はあったのね…」

なにも話しかけなかったのはアメリちゃんだけじゃない。ユウロもアメリちゃんに話しかけていなかった。
アメリちゃんはユウロを怖がっているからってわかるけど、なんでユウロはアメリちゃんに話しかけないのかがわからない。

「いや…やっぱりちょっと距離を置かれてる感じがするし…」
「あー、アメリちゃん言ってたよ。やっぱりまだユウロが恐いってさ」
「……だよなぁ…。例え立場が逆だとしたら俺だって恐いと思うからなぁ…」

アメリちゃんが壁を作っている感じは確かにある。
だが…それは話しかけない理由としては少し弱い気がするのだが…

「それにさ…俺、ちょっと怖いんだ……」
「……何が?」
「…子供と接するのがさ…」
「はあっ!?」
「ちょ!?あんまり大きな声出すなよ!!アメリちゃん起こしちゃうじゃん!」
「あ、そっか…ごめん。でもなんで怖いの?」

ユウロの言い方的に私の両親のときとは違い『魔物と』接するのではなく『子供そのものと』接するのが怖いのだろうけど…

意味がわからない。子供と接することの何が怖いというのだろうか?

「やっぱ意味わかんねえよな…」
「うん!だって子供のどこが怖いのか見当もつかないんだけど…」
「…そうじゃねえんだ…」
「そうじゃないって…」

じゃあ何だというのだろうか?

「いや…そのな…あんま詳しくは言えないけど…俺、昔自分に起こった事のせいでさ…子供と接する事によって傷付けてしまうんじゃないかって思っちまうんだよ…」
「えっ!?どういうこと?」

子供との接し方がわからないっていうのならまだわかる。自分が育った環境に子供と接する場が無かったと考えればいい。
だが、傷付けてしまうとはどういう事なのだろうか?それに自分に起こった事って?

「だから詳しくは言えないって…まぁ、子供を傷付けずに接する自信が無いんだよ…」
「……」

意味がわからない。

が、ユウロはとても深刻な顔をしている。
それに、詳しくは言えないっていうより詳しく言いたくなさそうだ。
言いたくない事を追求するのもよくないのでとりあえずその事については置いておこう。

「つまり、アメリちゃんを傷付けそうで怖いから距離を置いているということ?」
「ああ……情けない事にな……」

ユウロはユウロで何かあるってことかぁ……
これじゃあ仲良くなってもらうのは時間がかかりそうだな……

「……」
「……」

二人が今後互いの事をどう思い、どう接するか…結構根深い問題だなぁ…
私がどうにかできるようなものでもないな……解決できるのは時間だけかな…
これ以上はなにも話すことないし、もう寝ようかな…

「でもさ…」
「ん?どうしたのユウロ?まだ何か言いたい事あるの?」

もう切り上げて寝ようとした時に、突然ユウロがまた口を開いた。

「このままじゃダメだって思ってる。俺だってアメリちゃんと仲良くなりたいからな!だから、明日からはなるべくアメリちゃんと接してみる。だから…サマリは……」
「だから私は何?」
「その…もし今後俺がアメリちゃんを傷付けそうになったら全力で止めてくれ。お願いだ」

そして、真剣な顔つきで、私に決意と、お願いを言ってきた。

「…本当はそうならない事が一番いいんだけど…わかった」

だから、私も真剣に答えた。

「…ありがとう。もちろんそうならないように気をつけるさ!」
「ふふっ…これからずっと一緒に旅するんだからちゃんと仲良くなってよね!」

そして、自信を持った良い笑顔になった。
これならすぐにとはいかなくてもきっと仲良くなってくれるだろう。

「ああ!!そんじゃ話しも終わったことだし寝るとするか!俺こっちのベッドを使っていいんだよな?」
「うん。私はまたアメリちゃんを抱いて寝るよ。それじゃおやすみ」
「ああ、おやすみ…」

そのまま私はアメリちゃんを抱きしめながら夢の世界に入っていった……


====================


現在9時。私達は朝ご飯を済まし、今日中にたどりつくために早速テトラストに向かう事にした。
今は落ちたら危ないぐらい急な流れをしている川沿いを上流方向に歩いている。

私を先頭にして、ユウロとアメリちゃんを二人一緒に歩かせながらだ。

この形で歩いている理由はもちろん、二人に仲良くなってもらいたいからだ。そして仲良くなるにはお互いの事をよく知ってよく接することが大事だと思ったからだ。

「…ねえユウロお兄ちゃん」
「…何だいアメリちゃん?」
「川のながれはやいね…」
「落ちないように気をつけてな」
「うん、だいじょーぶ!」

少したどたどしいけど一応会話をしているようだ。
今日の朝もお互いに「おはよう」って言ってたし大丈夫そうかな。

「そういえばアメリちゃんって魔法使えるの?」
「使えるよ!」

へぇ〜、知らなかった〜。いままで一回もアメリちゃんが魔法を使っているところを見たことないからな〜。

「でもあまり使いたくない…」
「なんで?」
「うーん、アメリはあまりほかの人にいたくしたくないから…」
「あれ?ってことは攻撃系の魔法を使えるの?」
「うん。おそわれたときにまもれるようにってお姉ちゃんやお母さんのしりあいからおしえてもらったの!」

意外だ…攻撃する魔法使えるんだ〜。
あ、でもベリリさんが襲われた時に私が足手まといになるって言ってたしそれぐらいは出来てもおかしくないのか。

「……じゃあなんで俺に使わなかったの?痛くしたくないっていっても自分を殺そうとしてたわけだし…」
「それでもいたいのはイヤだからなるべくにげられそうならにげるようにしてるの」
「昨日は?」
「昨日はおなかいたくてしゅう中できなかったから…それに近くにいるサマリお姉ちゃんにも当たるかもしれなかったし…」

アメリちゃんは優しすぎるなあ…自分の命の危機だってのに私の事気にするなんて…


こんな感じに二人が話しているのを私が聞き耳を立てながら、私達は川沿いを進んでいった…



………


……





「で、どんだけかかるのよ…」
「うーん…そろそろ都市の一部ぐらい見えてもいいと思うんだけどな〜…」
「アメリつかれた…」

4時間歩き続けたが一向に見えない。
目的地のかけらも見えない事もあってなんだか疲れてきた。

「はぁ…お昼ご飯にしよっか」
「賛成!」
「アメリおなかすいたー!!」

なので私達はお昼ご飯を食べることにした。

今日のお昼は朝に作って置いたお弁当だ。なんとなくこうなる気がしたから作っておいてよかった。流石に今からご飯を作る気力は無い。

「おいしー!!」
「うん、やっぱりおいしいな!」
「どういたしまして!」

川沿いにあった座れそうな石に腰掛けてゆっくりとお弁当を食べている。川の流れが遅かったらのどかな光景にでもなっていたのだろうが、轟々と音が聞こえる程の川では危険しか感じない。

このまま何も起こらずに、今日中にテトラストまでたどり着ければいいが…



………


……





「「「ごちそうさま!!」」」

ご飯も食べ終わったので早速出発することに………!!





どおおおおおおおおおおおおん!!





「きゃあああああ!!」
「くっ!!サマリー!!」
「サマリお姉ちゃん!!」


…ほら、何か起こった。嫌な予感がしたんだよ…

何か大きい物……それこそ大きな斧みたいな物がいきなりどこかから飛んできた。
当たりこそしなかったものの、すぐ近くの地面に落ちたときの衝撃で私は吹き飛ばされてしまった。
そしてそのまま……



ザパアアアアアアアアアアアン……



私は激流の川に投げ込まれてしまった。


「ゴボッ!!ブグボッ!!」

流れが速いうえに服が水を吸って身体が重くなり上手く泳げない。
しかも意外と深かったらしく、水面に出ることもできない。
流されるうちに水を飲んでしまい、もう空気が……



「ゴポッ………」



だめだ……息が出来なくて……意識が………

あれ?…なんだろ……?

……なんか…視界の端に……青い……人………?…………

…………………………


=======[ユウロ視点]========


ザパアアアアアアアアアアアン……

「サマリ!!」
「サマリお姉ちゃん!!」

くそ!いったい何だ!?

突然上から大きな斧…それこそサマリと同じ位大きな斧が降ってきた。
当たりこそしなかったけど、大きな衝撃でサマリが吹き飛ばされて川に落ちてしまった。
流れが速すぎるせいであっという間に流されて見失いそうになる。

「お姉ちゃん!!おねーちゃーん!!」
「ちくしょう!!いったい何が……!?」

見失わないように急いで追い掛けようとして振り返ったら……

「まずは一体。次はそこのリリムです…」

茶髪で背の高い女性が立っていた。

「だれだお前は!?」
「私はホルミ…そこにいる魔物を倒しに来た勇者です…」

やっぱり勇者だったか…武器は見当たらないが…ってことはさっきの斧はこいつのか?
しかしさっきの斧はこいつが投げたとは思えない。オーガみたいに筋肉がついているならまだしも、下手すればサマリのほうが筋肉付いているんじゃないかと思うほど腕が細いのだ。

「これはお前がやったのか?」
「ええ…その斧『タウロ』を投げてあなた達と一緒にいた魔物を吹き飛ばしたのは私です…」

嘘だろ!?こんなに細い腕で投げられるものなのか!?
衝撃からしてこの斧は絶対に重い。男の俺ですら投げるどころか持ち上げられる自信が無い。

「絶対嘘だろ!?」
「ほら…これならどうですか?」
「!?」

そう言ってホルミはさっきの大きな斧のとこまで行き、斧をヒョイと軽く片手で持ち上げた。

「な!?」
「この斧には不思議な魔力が流れていて…持ち主は重量を感じずに持つ事が出来るようになってるのですよ…」

それで簡単に持つ事が出来るのか…インチキだろ…
それに『タウロ』って、勇者やってたときにしょっちゅう自分の知識を自慢してたウザい同僚から聞いた事があるぞ。
たしか世界に12種類、各一つずつしかない出所不明の古代の聖なる武器『コンステレーションシリーズ』のうちのひとつじゃないか。
そんなもの持っているなんてどんだけ強い勇者なんだ………


………ってちょっとまて!!


「今なんて言った!?」
「はい?えっと…この斧には不思議な魔力が流れていて…」
「そこじゃなくてもう少し前!タウロを投げて〜のところだ!」
「だから、その斧を投げてあなた達と一緒にいた魔物を吹き飛ばしたのは私ですって…」
「バカ!!今お前が吹き飛ばした女の子は正真正銘人間だ!!」
「……へっ!?嘘です…よね?」
「ホントだ!」
「そ、そんな……」

やっぱりサマリを魔物だと思ってやがった。どうりでさっきから変だなと思ったんだよ。

ホルミも人間を倒す気は無かったようで、さっき自分が吹き飛ばしたのが人間とわかった瞬間顔を青ざめておどおどし始めた。

「わ、私は人を殺してしまったのですか?」
「まだ死んだと決まってない!助けに行くから邪魔しないでくれ!!」
「え、ええ…」

ホルミのせいで完全に見失ってしまった。どこか岩にでも引っ掛かってくれたらいいが……

「行くぞアメリちゃん!!」
「……さない……」
「アメリちゃん?」

とにかくサマリを探すために急いで川沿いを下っていこうとしてアメリちゃんに声を掛けたのだが反応が無い。
不思議に思ってアメリちゃんのほうを見てみると、下を向いてブツブツと何か言っていた。
その表情は見えないが…なにかしらただならぬ空気を醸し出していた。

「ア、アメリちゃん?」

話しがけづらいが、このままではよくないと思い話しかけたが…
その声に反応したわけではなさそうだが、アメリちゃんは顔をあげた。

「……」

顔をあげたので確認することが出来たアメリちゃんの表情は……

「ゆるさない!!よくもサマリお姉ちゃんを!!」

…涙を流しながら怒っている。しかも、かなりの怒りで歪んで見えるほどだ。

「な、なんですか!?」
「うるさい!!サマリお姉ちゃんをかえせー!!バカーー!!」

叫んだアメリちゃんは、ホルミを睨みつけながら両手をそろえて前に勢いよく突き出した。
その手の前にどこからか発生した光が集まって……

「ホルミさんなんてだいっキライだーーーー!!『デストラクションレーザー』!!」
「!?」

掌からホルミに向けて一直線に極太の光線が発射された。おそらくアメリちゃんが使えると言っていた攻撃系の魔法だろう。
高エネルギーなのか地面の砂利が浮かび上がり、この光線に当たったら塵も残ってない。

ってこんなのあたったらホルミのやつ死んじゃうんじゃないか!?

「くっ!!こんなもの!!」


バアアアアアアアアンッ!!


が、ホルミは斧を盾のように使用してアメリちゃんの魔法を防いだ。さすが聖なる武器、傷一つ付いていない。

しかし安心した。直撃してたらきっとホルミは死んでいただろう。
別にホルミを心配しているんじゃない。アメリちゃんを人殺しにしたくないからだ。

「いきなり攻撃してくるなんて…これだから魔物は……」
「はぁ……はぁ……うるさい!!先にサマリお姉ちゃんにこうげきしたのはホルミさんのほうだよ!!」
「うっ!」
「それなのに……それなのにぃ……!!バカーーーーーーー!!『ロックスライド』!!」
「っ!?アメリちゃん!!」

今度は小さな手を真上に突き上げて叫んだ。
そしたらホルミの真上に魔法陣が出現し、そこから無数の岩が降ってきた。

「くっ!この!」

が、これもホルミは斧を振り回して岩を粉砕しながらなんとか回避している。

「よけないで!!今度は…」
「やめろアメリちゃん!!」
「きゃ!?じゃましないでユウロお兄ちゃん!!」

たたみ掛けるように他の魔法を使おうとしてまた腕を前方にのばしたアメリちゃんを、俺は腕を掴んで咄嗟に止めた。

「アメリちゃん!今はこんなことしている場合じゃないだろ!?」
「でも!!ホルミさんはサマリお姉ちゃんを…!!」
「こんなことをして時間を無駄にしたら余計にサマリが助からなくなってしまうだろ!?」
「あっ…でも……でも!!」
「でもじゃない!!」

俺が大きな声で叱ったらアメリちゃんはビクッと身体を震わせた。

「アメリちゃんはサマリに居なくなってほしいのか!?」
「イヤだ!!だけど…!!」
「それにアメリちゃんは人を傷つけたくないって言ってたじゃないか!!アメリちゃんがサマリの為に攻撃してたとしてもそれを知ったサマリが喜ぶと思うのか!?」
「!!」
「喜ぶわけがない!むしろ絶対に悲しむだろ!?」
「うん……」
「わかったらサマリを探しに行くぞ!いいn……」







どっぱああああああああああああああああああああああん!!!!







「……今度は何だ!?」

アメリちゃんを叱って、とりあえず落ち着いてくれたみたいだから早速サマリを探しに行こうとした時に、いきなり大きな音が辺りに響いた。

ホルミが何かしたのかと思い見てみたが…

「な、なんですかあれは!?」

どこか一点をみながら驚いた顔をしていただけだった。
ってことはホルミの視線の先に何かあるという事か…

振り向いてその視線の先を見てみると……



「…ユウロお兄ちゃん、アレ何?」
「なぁにあれぇ……」



川の少し下流のほうに、20メートルは超えるほどの水柱があった。
12/03/11 17:34更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
前半部分が思ってたより長くなってしまったので、本当はホルミの件は旅4で終わらせるつもりだったのですが半分に分けました。

アメリちゃんが使っていた魔法ですが、以前も他の作品で使用した某人気ゲームシリーズの「わざ」の名前を自分なりに変えたものです。
なのでユウロはあんなこと言ってますが、この作品中魔法で人や魔物が死ぬことは絶対にありません。というか誰も死にません。あたりまえですが。

次回はようやく到着……のはず。でもリリムはまだ出ない……かも。

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