連載小説
[TOP][目次]
Introduction:とある計画書および収録後の風景
               魔王軍『日本』侵攻作戦
      人外的特徴の強い魔物娘の民間浸透計画 第14案
 『MMM作戦』概要説明及び『第@プラン 恋するゼリー作戦』計画書


発案者:第46魔王女   ルクリー=P=レゼンテート

添削者:第46魔王女側近 リューナ=アシスタンス

□前文

 魔王軍魔術部隊、通称サバトの中央本部が、別世界への『確実な』出入り口を
偶然ながらも開発して、早10年以上。
ジパングに極めて近い環境と文化(どちらも過去のものらしいが)を持ち、
我々の存在にも比較的理解のある『日本』という土地にゲートを繋げられたのは
非常に幸運な出来事だったと言える。
まずはこの日本に、民間の志願者を気軽に移住させられる環境を作り、
やがては別世界全域の侵攻の拠点とするのが、日本侵攻作戦の当面の目的である。
これまでの多くの策により、魔物が空想上の生物としてしか認知されていなかった
日本にも、我々を受け入れる下地が整ってきたと思われる。
しかし、未だ一部の人間には、人と異なる者への偏見が根強く残っており、
人に擬態する魔法を使える者や、人間社会から離れた場所で生きられる者以外にとっては
まだまだ移住しやすいとは言い難い状況が続いている。
この『MMM作戦』は、我々魔物娘の中でも、そうした特に人間と異なる特徴の種族を
別世界の社会に人知れず浸透させ、移住しやすい環境を作る計画の一環である。


□『MMM作戦』概要

 別世界人の主な情報源『テレビ』で放送される『通信販売番組』なる物の形式を取り、
別世界の民間人の元に『商品』に見せかけた魔物娘達を販売・発送し、
彼女達のパートナーにさせる、あるいは女性の場合、同族に変えさせる等の方法を用い、
気付かれないよう日本の社会における人外的特徴の強い魔物娘の数を増やし、
社会に浸透させることで、彼女達への差別や偏見を無くしていく。


◎作戦@ 恋するゼリー作戦 概要

 MMM作戦のテストを兼ねて、様々な環境に適応可能ながらも
人間とは大きくかけ離れた特徴を持つ『スライム種』の魔物娘達をまず派遣し、
別世界人の社会にスライム種を浸透させる。


□作戦詳細

 既に日本に送られている諜報部隊に情報を提供してもらい、
スライム種の力で解決が図れそうな私生活における悩みを抱え、
その中でも比較的良好な人格を持っている人間を選び出して、標的にする。
標的の家にあるテレビに、こちらで制作した通信販売番組を個別に送信。
『商品』に見せかけたスライムに興味を持たせて購入させ、
スライムを対象者の家に送り込み、交わらせ、カップルにする。
これを繰り返してスライムと男性のカップルを増加させ、スライム種が社会に浸透し、
スライム種の社会的な安全が保障された所で、彼女達の移住を許可する。
また、これらの一連の流れは『MMM作戦』の基本方針ともなる。


□作戦要員

 番組の舞台として必要な『セット』を準備するのにジャイアントアント数名、
番組を制作・放送する施設『テレビ局』にあらかじめ送り込み、
『カメラ』等の機材の扱いや『番組編集』等の技術を習得させておいた魔物娘15名、
この世界から魔力によってテレビとリンクし、個人の家にゲリラ放送を行うため
サバトの中でも特に魔法に精通している者を数名、
別世界に駐留し、『電話』による応対をしてくれる人員およそ5名、
そして本作戦の主役である、スライム種の魔物娘全てを多数集める。
尚『商品を販売する』形式を取るため、対象の興味と購買意欲を向上させるべく
『商品』の解説・宣伝を行う『プレゼンター』役も必要だが、
これは私こと『ルクリー』と、側近のデュラハン『リューナ』の二人で行う。


□備考

・本作戦は、別世界の機材や単語を扱う必要がある。
 『商品』以外の作戦参加志願者には、必要知識をまとめた書物を配布または貸与し、
 あらかじめ習得させておく。

・本作戦では『商品』の他にも、アフターサービスとして
 サバトが新開発した精力剤『∞クライマックス』を販売する予定である。
 この薬は本作戦だけでなく、この世界の魔物娘達や、
 先に別世界へと送り込んだ魔物娘達にも高い需要がある事が予想される為、
 生産ラインの確立を急がせるように。

・本作戦は『商品販売』の形式を取る以上、別世界の通貨もいくらか入ってくるが、
 決して、営利目的で多くの料金を取ったりはしない。
 この魔王軍に所属している以上、我が母の持つ想いや目的は
 既に全ての者が理解してくれているとは思うが、
 本作戦はあくまで『人外的特徴の強い魔物娘達を社会に浸透させて、偏見を無くし、
 彼女達が別世界において幸福な生活・恋愛・結婚が出来るようにする』
 ための計画の一環である事を忘れてはならない。
 入ってきた通貨は、別世界に移住した魔物娘達の為に、有効に使うように。



                                     以 上


──────────────────────────────────────────






 〜収録後〜


っはあぁ〜…。これで第一回の収録は完了…っと。
 みんな、お疲れ様ー!」
「お疲れ様です、姫。」
「自分が言い出したこととはいえ、番組撮影がこんなに疲れるなんてねぇ…。」
「弱音は敵ですよ、姫。聞いた話では、普通『番組』とやらは、
 普通30分から1時間もの長さのものを放送するそうじゃないですか。」
「ほんと凄いわよねぇ…。私達なんか5分作るのがやっとなのに…」
「我々のような素人ほどではないにしても、毎日毎日かなりの労力だと思われます。
 それに比べれば、これぐらいはどうって事ありませんよ。
 世界にはこんな事よりも、さらに苦しい…」
「本当は?」(スポッ)
「うぅ…疲れたよぅ、ルクぅ〜…。なでなでして…?」
「はいはい、貴方は何時までたっても甘えん坊さんね。可愛い♪」(なでなで)
「えへへ…って、(カポッ)
 姫!?夫でもないのに、勝手に首を外さないで下さいと何度言ったら…!」
「えぇ〜?あのリューナちゃん、可愛くて好きなのに…。」
「あ、あんなダラけたのは私と認めませんッ!
 精の補給も大変だし、しかもこんな、まだ人がいる所で外すなんて…」
「もう…昔は首なんて外さなくても
 『ルクちゃん、ルクちゃん』って気軽に呼んでくれたのに…
 どうして今は『姫』なんて畏まった言い方になっちゃったのかしら?」
「側近として、常に気を引き締めておくのは当然です!」
「だからって、そんな真面目してばっかりだと、幸せが逃げちゃうわよ?
 折角本性はあんな可愛いんだから、アピールしないと損だってば。
 そうだ、今度あの彼の前で外してみたら?絶対振り向いてくれるから。」
「そッ…それはそうと、姫。お聞きしたい事があるのですが…」
「話そらしたわね?…まあいいわ。何?」
「…姫の姉上様達をはじめとする多くの者が、この世界の侵攻よりも、
 むしろあちらの世界への進出の方を優先しております。
 そして、どちらの世界の侵攻にもあまり興味の無かった姫までも…。
 一体、どうしてなのですか?」
「そうね…。ちょっと重い話になっちゃうけど、大丈夫?」
「私は構いません。」
「それじゃあ、話してあげる。
 もちろん、夫探しや、別世界の技術の獲得も理由の一つなのだろうけど、
 とりあえず私の場合は…何て言うか…
 『あの世界を変えたい、変える手伝いをしたい』…って所かな。」
「そ、それはまた、大きく出ましたね…。」
「…ねえ、リューナちゃん、
 前に私と、向こうの大きな町に行った時、そこにいた人々を見て…どう思った?」
「そうですね…。
 ……何と言うか…皆、どことなく生気がなさそうに見えました。
 顔では笑っていたとしても、心には何か、もっと暗い物が潜んでいるような…」
「そこなのよ。
 文化や技術はここより遥かに上で、生活的にも恵まれている筈なのに、
 あそこにいた大人達は…自分が生きる事に必死で、他は目に入らないような人ばかり。
 まるで、昔私が魔界にした反魔物領の貧民街の人々みたいだったわ…。」
「…大人だけではなく、子供…それも、思春期の少年少女達もそうでした。
 私達の世界の少年少女達とは…何か根本的に違う。」
「…そうね。
 ちょっと前に、彼等の学校もちょっと覗いてみたんだけど…
 子供達の多くは、同年代の子に対する姿勢が、何だかこっちとは明らかに違ったの。
 こっちみたいに『仲間に入り、友達を作る』事を頑張ってるんじゃなくて、
 みんなまるで『集団から孤立しない』事に必死になってるって感じだった。
 そしてそこから外れた存在は…真っ先にいじめられる。」
「…可哀想な。そんな環境で、子供が正しく育つのですか?」
「日本は、表向きは発展していても、政治や教育は上手く行っていない…
 政治の事なんて全然わからない私だけど、それはすぐ判った。」
「奥底は、そんな国だったなんて…」
「そして…日本だけじゃなく、世界。
 あの世界にいる、高い知恵を備えた存在は、人間しかいない。
 髪の色も、目の色も、肌の色も、あの世界には数えるほどしかない。
 なのに、人種や考え方、宗教の違いから来る差別や争いが、いまだに続いているの。」
「…教団の者達に見せてやりたいですね。意地でも認めないと思いますが。」
「第一、あの世界には『愛』が少ないのよ。特に日本なんて、
 誰かと結婚したくても、家が欲しくても、子供が欲しくても、
 それをことごとく『お金』や『立場』が邪魔をするのよ?そんなの、許せない。
 まあそれ以外に、性格に難のある人間が多いって言うのもあるけど…
 それも多分、今の社会の状態に関係があると思うの。」
「聞けば聞くほど…悲しくなってきますね。」
「…みんな、私と同じような事を感じたんだと思う。
 はっきり言ってあの世界は、かつてのレスカティエと同じ位…
 ううん、それ以上に、大きな闇を抱えているわ。そして…悲劇も。」
「悲劇…姫が、この世で一番嫌いなものですね。」
「ええ。
 悲劇なんて大ッ嫌い。三文芝居でも、幸せな結末の方がよっぽどいいわ。
 あの世界における男と女、魔物と人間の間で起こりうる悲劇や障害を、未然に潰す!
 んで、そのついでにカップルがいっぱい出来たら一石二鳥でしょ?
 夫探しも、別の世界の技術獲得も大事だけど、私が手伝う一番の理由はそれね。」
「何とも姫らしいですね。」
「他のみんなも、早く差別の無い世界、最終的には魔界に変えて、
 そこで思う存分、平和で幸せな生活をしたいって思いは、同じくあるはず。
 …でも、昔デルエラお姉ちゃんがやったような力技は使えない。
 だからこうして、小さな事からこつこつと頑張るしかないのよ。」
「…相手はたった一つの国などではなく、全世界ですからね。
 規模も大きいし、下手な真似をして事を大きくしてしまえば…諸外国から睨まれ、
 最悪、こちらを殺す気で来る敵が、二倍に増えてしまう…という事ですか。」
「いいえ…向こうの世界には、高い技術力で作られた、超強力な兵器が多くあるらしいの。
 二倍なんてものじゃない…実質的には、数十倍、数百倍にまでなるかもね。」
「考えるだに恐ろしい…。
 …皆がわざわざ、小さい…というか、回りくどい作戦を行っていたのは、
 その為だったのですね。」
「回りくどいなんて失礼ね。これでもみんな真剣なんだから。」
「そうですね。申し訳ありませんでした。皆それぞれ必死に…
 …いや、そんなに真剣なら、計画書もキッチリ書いて下さいよ!
 8割方も私が添削したんですからッ!!」
「自分では完璧な出来だと思ってたのに…」
「完璧にダメな出来ですッ!
 全文口語だし、ダジャレとかポエムとか要らないですから、計画書に!」
「え〜、あの完璧なポエムの何処がいけないのよ?」
「しかも完璧って、そっちだったんですか!?
 …全くもう、重い話が見事にぶち壊しではないですか…。」
「その口火を切ったのは貴女じゃないの。」
「そうですけど、元はと言えば姫の責任でしょう!」
「まあまあ、もういいじゃない。これからはふざけずちゃんと書くから。
 それより、第一回収録終了記念って事で、お菓子でも食べない?奢るわよ。」
「ふざけてたんですね…。
 まあ、せっかく姫が奢ってくれるのなら頂きますが。」
「それじゃあ、ハイ♪」
「ありがとうございます…って、恋するゼリーじゃないですかッ!!食べろと!?」
「フフ…冗談よ♪
 本当は、城下の宵闇通りの、あのケーキ屋さんの新作を予約してあるのよ。
 リューナちゃんには、まだまだいっぱい手伝ってもらうから、
 それ食べて英気を養ってもらおうと思ってね。」
「…『嘘』とかじゃありませんよね?」
「勿論本当よ?何でそんな事を…」
「あっはぁぁ〜…ありがとう、ルク〜♪
 覚えててくれてたんだ、私があそこの隠れファンだって。
 しかも新作をいち早くなんて…幸せだよぅ…♪」
「ふふふ…目がすっごく輝いてる。それに涎も…」
「……あッ!?ま、また自分を見失ってしまった…。
 もう、こ、これは姫のせいですよ!?首を外したせいで、魔力が…」
「ああもう、リューナちゃんってホント可愛いわぁ…♪」
「か、可愛いなんて言わないでー!!」





 …リューナちゃんと二人でケーキ屋さんに向かう途中、
ふと、この計画に『商品』として志願してきた彼女達の事を思い浮かべる。
確かに他の種族より賢くはないかもしれないし、
彼女達なりに、こことは全く違う世界への不安もあっただろうけど、
それでも『別世界の素敵な男性に出会いたい、愛し合いたい』という希望を胸に、
この素人が考えた計画に志願してくれた、勇気あるスライム娘達だ。

(その勇気に報いるためにも…頑張らなくちゃ、ね。)

 私は魔界の薄暗い空の下で、密かに気合を入れ直すのだった。




 
12/04/17 01:26更新 / K助
戻る 次へ

■作者メッセージ
大丈夫だ…三ヶ月ならまだギリギリセーフ…
(完全にアウトだよ。ていうかもうタイキックだよクソ野郎。)
…という訳で、初の現代モノに挑戦です。
この話はちょっと重い感じですが、本編は全然そんな事ないので、
いつものようにゆるくお付き合い下さいませ。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33