連載小説
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魔物アプリ……スライム編
 スマートフォンの普及と共に増大した物と言えば、やはりアプリと呼ばれる一種の携帯ゲームであろう。気軽に手に入り、気軽に遊べ、気軽に作れる。忙しいサラリーマンから遊び盛りの学生、果てには年配の方々に至るまで、幅広い年齢層の心を掴んだと言っても過言ではない。
 しかし、通常のゲームとは異なり、一般人でも作成出来るという利点は、相手のデータを盗み取る為の違法なアプリを作れる事も可能にしてしまった。また最初は無料を謳い、後々高額の課金を請求するという後出しとも呼べるケースも発生している。

それによって人々はアプリを選ぶ際にも、違法か否か、課金制度はどうなのか、広告通りの品物なのか……等々、様々な部分に気を付けながら購入するようになった。

日を追うごとに増え続け、進化していくアプリ。そんな最中、あるアプリが若者達を中心に密かに人気を高めていた。
面白いか否かと言われれば、そのアプリをする人にもよるが、何よりもそのアプリには人間誰しもが持つ好奇心を刺激する様な『都市伝説』が噂されていた。



よくある学校からの帰り道の途中、同級生や先輩後輩と言った幅広い友人同士で繰り広げられる他愛の無い会話の中で、突然その話題が現れた。

「魔物アプリ?」
「ああ、凄いんだぜ! 俺のダチがこれに嵌まってよ、俺も試しにダウンロードしてやってみたんだけど……色々と凄いんだって!!」
「よく分からないんだけど、何が凄いの?」

 スマートフォンを片手に自慢気に語る友人を目前にし、ヒビキ・レイは少し困ったような表情を浮かべて首を傾げた。目の前の友人は魔物アプリなる物を凄い凄いと褒め称えるものの、一体何が凄いのかを全く教えてくれない。肝心な所が聞き出せなければ意味が無いという意味を込め、改めてその魔物アプリとやらの何が凄いのかと訪ねた。

「この魔物アプリは様々な種類が存在するんだ。ほら」

 そう言ってスマートフォンの画面をヒビキに見せると、そこには魔物アプリという題名で多種多様のゲームが画面一杯にズラリと並んでいた。パズルやテトリス、格ゲーやクイズや育成ゲーム等々、確かに種類は豊富そうだ。しかし、この程度のアプリゲームならば他のアプリでも同様のものがあり、何ら珍しい事でもない。

「で、これの何が凄いの? 中身はよく見掛けるアプリゲームっぽいけど?」
「ふっふ〜ん♪ 実はな、このアプリゲームは巷で都市伝説にもなっているぐらいに有名なゲームなんだぜ」
「都市伝説?」

 ヒビキ自身は都市伝説だの噂だのという胡散臭い話には興味のきょの字も抱かない人間だ。学校内で当たり前のように広まっているその手の類にさえ関心を寄せないのだが、今回ばかりは自分と仲良くしてくれる友人が鼻息を荒げて熱弁するものなので、少なからずの興味を抱いていた。

 そして友人は意気揚々と、その都市伝説とやらをヒビキに耳打ちで教えてくれた。

「ああ、このゲームを徹底的に遣り込むと……彼女が出来るんだよ」
「……ウソだ〜」

 友人が前振りで勿体ぶっていたのが悪かったのか、それとも過度に期待していた自分が悪かったのか。何とも微妙な都市伝説にヒビキも今度こそ呆れ顔を浮かべ、冷めた目で友人を見詰めた。

「いや、マジで! 本当だって!! つか、俺もコレで彼女ゲットしたんだから!!!」
「フーン、ソウナンダー」
「あっ、その口の利き方、さては信用していないな!?」
「信用云々以前に、ゲームを遣り込んだだけで彼女が出来るなんて……何と言うか、しょぼい都市伝説だなーって思っただけだよ」
「何だとー!?」

ゲームを遣り込んだだけで彼女が出来るのだとしたら、今頃世の中はリア充ばかりになっているに違いない。そうヒビキが頭の中でぼやいている一方で、目の前の友人は身体を震わせながら魔物アプリの素晴らしさを語るのを止めようとはしなかった。

「兎に角、このゲームに出てくるキャラは皆可愛い子ばっかりだし、実際に出来る彼女も可愛いんだぞ!! お前も騙されたと思って、一回このゲームをやってみろ!!」
「やだよ、ゲームを買う余裕だって無いし、課金とか面倒だしさ」

 ヒビキもスマートフォンのアプリゲームは幾つか持っているが、殆どが無料であったり、課金を必要としないアプリばかりだ。もしくは課金を必要とするアプリでも、敢えて課金に手を出さず、無課金でとことん楽しむタイプだ。良く言えば財布に優しい、悪く言えば守銭奴だ。

 しかし、そんなヒビキの発言を予測していたかのように、友人はニヤリと口の端を吊り上げて意味深な笑みを浮かべる。

「実はこの魔物アプリ……無料・無課金・一生楽しめるの三拍子が揃っているんだぜ」
「何……だと!?」

 噂や都市伝説には一切興味を持たなかったヒビキだが、無料といった現実味のある言葉を耳にした途端に目を見張り、驚きの表情を露わにした。今の時代に『無料』ほど美味しいものはなく、また恐ろしいものもない。しかし、それでも魔物アプリの無料はヒビキの心をガッチリ掴んでいた。

「でも、そんな好条件のアプリなんて逆に怪し過ぎるよ。裏に何かあるんじゃ……」
「その裏にあるのが、あの都市伝説だよ」
「どういう意味?」

 好条件のアプリと、彼女が絶対に出来るという都市伝説。この二つの関係は何ぞやと問い質すヒビキだが、本人は自分が魔物アプリなるものに興味津々である事に全く気付いていない。そして友人もそれを察せぬまま、魔物アプリの都市伝説についてもう少しだけ掘り下げて教えてくれた。

「このアプリを遣り尽くした……まぁ、所謂全クリした直後にメッセージが浮かぶんだよ。しかも、そのメッセージの内容がな――――」


「“人生を棒に振る覚悟はありますか?”って何とも意味深なメッセージなんだよな〜、これが」


 確かに意味深だ。同時におぞましくも感じる。人生を棒に振るなんて、とてもじゃないが普通の会話では滅多に使わない台詞だ。
 そんなメッセージが出るアプリを使いたいと思う人間は居ないかもしれない。しかし、友人からの積極的な勧誘と、無料・無課金・一生遊べるの三拍子の魅力に惹かれたヒビキは帰宅後、そのアプリをダウンロードしてしまうのであった。




友人から聞いた話によれば、このアプリの出所は極一部の人間にしか知られていない秘密のアプリだそうだ。表沙汰になると規制に引っ掛かるとか、色々と怪しい部分が否めない。が、ヒビキ自身もそんな怪しさを承知の上でアプリをダウンロードしてしまったので、最早後戻り出来ない状況だ。

「ダウンロードしたのは良いけど、種類が豊富でどれにしようか迷うな〜」
 
 諦めを抱きながら早速ダウンロードした魔物アプリを眺めながら、ヒビキはその種類の豊富さに改めて悩まされた。魔物アプリと名前が付いていたので、魔物を倒すゲームかと思いきや、全くの逆であり、魔物を育てたり、魔物を仲間にして冒険したりするゲームが殆どだった。
 そしてどれが良いかと迷いあぐねていると、ヒビキの視線にあるゲームが止まった。

「あ、これが良いかも。スライム消しか……。ぷよ●よみたいな感じだし」

 説明欄には同じ色のスライムを縦横四つに並べて消し、点数を高めていくという某パズルゲームと同じ内容のものであった。成る程、これはパクリと言われて問題になるわな。そんな事を思いながらも、ヒビキはそのゲームを選択し、不安と好奇心を入り交えながらゲームを開始した。

「何だ、意外と普通じゃんか」

 赤や青、黄色や緑、紫や黒と言った色取り取りのスライムが上から落ちて来て、それを縦横に並べては消していく。時には態と積み重ねて、一気に連鎖消しをやってみたり、全く以て某パズルゲームと変わらない内容だった。

「これを遣り込んで彼女が出来るなんて……やっぱり嘘臭いなぁ」

 やはり友人の話しはデマだったのだろうか。もしかしたら彼女が出来たのも偶然だったのかもしれない。そんな風に自己判断し、友人から聞かされた都市伝説は嘘だったと決定付けようとした矢先だ。

 淡々とこなしていたスライム消しのゲーム画面の映像が突然切り替わり、あるメッセージが出現した。

『おめでとうございます! スライム消しのポイントが10000点を超えたのでボスに挑戦する資格を獲得しました!』
「あ、これボス戦もあるんだ。というか、最初からボスを用意しておくべきなんじゃ……」

 ヒビキの呟きなど画面の向こうに届く筈がなく、次のメッセージが出現すると共に、スライム消しのボス達の映像が現れる。

「ええっと……難易度でボスをお選びください。超簡単でスライム。簡単でバブルスライム。普通でレッドスライム。やや難しいでダークスライム。難しいでクィーンスライムか……。どれもスライムばっかりだなぁ」

 流石は魔物アプリというだけの事はある。何て関心しながら、スライム消しのボスをどれにしようかと選び始めるが、ここである事実にヒビキは気付いた。

「でも、魔物と言う割には……どれも可愛い子ばっかりだなぁ」

 難易度によって異なるボス達はどれも可愛い容姿をした魔物キャラばかりであり、二次元とは言え、そこら辺の萌えキャラと比べたら圧勝するだろうと言わしめる程の可愛さだ。
プレイヤーの腕前に自信が無くとも、好みのタイプが上位ボスに居れば、その子に勝負を挑んでいたかもしれない。しかし、ヒビキはこういったパズルゲームは得意中の得意であり、全国大会でもトップ10内にランクインする程の腕前の持ち主だ。

 裏付けされた力量と自信を以てして、ヒビキが挑んだのは当然最高難易度のクィーンスライムであった。クィーンスライムを浮かぶと画面上に彼女が出現し、彼女の名前と共に台詞が現れる。

『ふふふっ、よく来ましたわね。可愛がってあげますわよ』
「よし、やるぞー!」

 相手が可愛いボスキャラである上に最高難易度と来れば、パズルゲームのプロであり男でもある彼も心が躍ると言うものだ。そしてヒビキとクィーンスライムとのバトルが切って落とされた。

 バトルの内容は某パズルゲームと全く同じだ。先にスライムが天井にまで積んだ方が負け。そして勝負を三回先に制した者が完全な勝者となる。
だが、最高難易度のボスという事もあって、その勝負は熾烈を極めた。どちらも高度な技術と知識を必要とする連鎖コンボを幾度と決め、互いに一歩も引かない激戦となった。

「強いな。でも、まだまだ……!」

 ヒビキがニヤリと笑みを浮かべると、目に止まらぬ速さで且つ的確にスライムを積み上げ、相手に反撃の隙も与えぬままに一気に15連続コンボを決めて勝負を勝ち取った。

「よし!」

 先ずは初戦を決めてにんまりと笑みを浮かべるヒビキ。すると、画面上に再度クィーンスライムが台詞と共に現れる。

『ふふふ、中々やりますわね。私も正直見縊っていましたわ。これはお詫びの印ですわ』
「え……ええ!?」

 お詫びの印とは何だと思いながら画面を注視していると、今まで女王や貴族が見に纏う豪華な衣装で隠されていた胸が露わになったではないか。今にもはち切れんばかりの巨乳が画面一杯に映し出され、ヒビキはそれをマジマジと眺めてしまう。
ヒビキぐらいの年頃ならば女性の身体に興味を持ち始めてもおかしくはなく、こっそりとアダルトサイトやらで女性の裸を眺めた事もある。が、流石にこの勝利演出は不意打ちであり、ヒビキも想像以上の興奮に満たされた。そして下半身が後少しで見える所で、またもやクィーンスライムからの台詞が出現する。

『もしも、あと二回勝てたら……もっと凄い事が起こりますわよ。尤も、貴方が最後まで勝てたらの話ですけどね』
「す、凄い事……!?」

 最初は上半身の裸だとしたら、次は下半身であるのは間違いない。では、最後も勝ったらどうなるのか。その性的興奮がヒビキの中で一杯になり、次いで何が何でも絶対に負けられないと意気込んだ。

 2回戦目は相手の動きが若干速まった上に以前同様の正確な積みも加わり、更なる激闘となった。しかし、これも時間を掛けて何とか勝利。そして予想した通り、クィーンスライムの下半身も露わになり、あられもない彼女の裸体が完成した。

此処まで来れば最後の勝利イベントが大変気になるが、同時に此処からが本番だと言えよう。最初に比べて二回目はクィーンのスライムを積む動きは速まっている。となれば、最後は最高速度で挑んで来るに違いない。

 正に一瞬のミスが命取りとなる。その覚悟を以て、ヒビキは最後の勝負に挑んだ。

三回目の勝負はやはりヒビキは想像した通りのものとなった。クィーンの動きは更に加速し、今までとは比べ物にならない困難を極める戦いであった。最初は自信を持っていたヒビキだったが、予想以上の手強いクィーンの攻めで防戦一方だ。
しかし、流石に連戦で指が疲れていたのか、連鎖の為にスライムを積む最中に指が縺れてしまい、違う所にスライムを置いてしまった。

「しまった……!」

 何とかミスを修正しようと試みたが、程無くして向こうの連鎖攻撃をモロに受けてしまい、この勝負は敗北してしまった。そして四回戦目も先程の敗北が尾を引いていたのか、同様のミスをしてしまい二敗目を喫してしまう。
 二勝した後の二敗、これで後が無くなり、ヒビキは一先ず大きく深呼吸した。確かにクィーンと名乗るだけあって強い。しかし、勝てない相手ではない。ミスさえしなければ絶対に勝てる相手だ。そう自分に言い聞かせ、最後の五戦目に突入した。

 今まで以上の集中力と指捌きでスライムを積み上げ、連鎖消しで一気に勝負を決めようとするも、相手も同様の連鎖消しで相殺してくる。やはり同じ力量を持つ者に、同じ技で挑むのは焼け石に水のようだ。

「連消しだと効果が無いとなると……やっぱ、この手だよな」

 そう言ってヒビキは今までの連鎖消しの手法を変更し、今度は小技で攻める事にした。その小技とは派手な十連鎖消しから、四〜五連鎖消しをして相手に確実にダメージを与えるというものだ。
 相手は大技狙いでスライムを大量に積む故に時間が掛かる。ならば、その積むまでの間にチマチマとダメージを与えれば相手の積みを邪魔出来る上に、やがて自滅へと追い込めるだろう。

 そしてヒビキの目論みは見事に当たった。チマチマと邪魔する事で相手の連鎖を封じ込め、反撃らしい反撃を与えずに勝利を手に入れた。せこいようにも見えるが、勝利を得た事に変わりはない。

 勝利した事も嬉しいが、それよりもヒビキが待ち望んでいるのは最後のエロイベントだ。赤裸々になった上半身と下半身、通常のアダルトゲームでさえも、そこがゴールであってもおかしくはない筈だ。それ以上にどんなエロスが自分を待ち受けているのか、想像しようにもし切れず、ヒビキの期待と興奮は高まる一方だ。

 そうしながら待つ事数秒後、画面上にクィーンスライムからのメッセージが出現する。頬を薄ら朱色に染め、何処か扇情的に感じるクィーンスライムの立ち絵にヒビキはゴクリと固唾を飲んだ。

『あらあら、私の負けですわねぇ。本当にお強いのですのねぇ〜。そんな貴方には特別な御褒美を与えませんとね』

 そう言った次の瞬間、クィーンスライムの姿を隠すかのように彼女の台詞とは別のメッセージが現れ、それを目にした瞬間、ヒビキは目を見張った。

『此処でYESかNOかを選ぶのは貴方次第ですが、YESを選んだ場合には貴方は自由を奪われます。人生を棒に振る覚悟はありますか?』

 てっきり嘘かと思われていた都市伝説が実在するのを目にし、ヒビキの心臓がドキンと跳ね上がった。
ここでNOを押せば人生を棒に振らずに済むのは間違いない。だが、ヒビキが持つ好奇心、そして何より性欲に目覚めたばかりの青年の欲望が禁断のボタンへと彼の指を誘う。

 そしてヒビキの人差し指がYESのボタンを押した瞬間――――画面の映像がプツンッと途切れ、何も映らない真っ暗な画面に変わってしまった。

「あれ、電池切れ? おかしいな、この間充電したばかりなのに……」

 試しに電源ボタンを押してみたり、操作を試みるがスマートフォンはうんともすんとも言わない。もしかして壊れたのか……最悪のシナリオが頭の中を過った、その時だった。

 画面一杯に綺麗な青が広がったかと思いきや、画面からその青がドロリと溢れ出て来たのは。

「う、うわああああ!?」

 予想外の事態にヒビキは思わずスマートフォンを投げ捨ててしまう。が、それでも青いドロドロした液体は止まる事無く画面から噴き出し続けている。

「な、何だよ……これ!?」

 異常な光景にヒビキの思考は完全に停止に近い状態に追い込まれたが、やがて青い液体が自分の足の傍までやって来るのを見て、漸く逃げて助けを呼ぶという選択肢が頭に浮かぶ。
 早速そうしようと扉のドアノブに手を掛けようとしたが――――そこで思わぬ声がやって来た。

「あらあら、折角の御褒美を無駄にしてしまうのですか?」
「え?」

 聞き覚えの無い女性の甘い声にヒビキはドアノブへ伸びていた腕を止め、後ろへ振り返る。すると、今まで画面から溢れ出続けていた青い液体が漸く止まり、今度は一つの塊へ変化する。そこで終わりかと思いきや、今度はその塊が更に変化し、世にも美しい女性へと姿形を変えてみせた。

 その姿は正に――――ヒビキと先程まで戦っていたクィーンスライムそのものであった。

「えっ、えっ、ぅえ!?」
「うふふ、可愛らしい反応ですこと」

 状況を飲み込めずに混乱しているヒビキを見て、クィーンスライムはさも楽しげに微笑んだ。




 暫くして落ち着きを取り戻したヒビキは女性の形を維持したままアヒル座りをするクィーンスライムの前に正座し、この現状について改めて説明を求めた。

「これは一体どういう事なんですか?」
「あら、やっぱり気になりますの?」
「そりゃ気になるでしょう! 画面から突然ゲームのキャラが出てくるなんて―――」
「ゲームじゃありませんわ。私達は実在する魔物ですわよ」
「……はい?」
「う〜ん、どう説明すれば宜しいでしょうか。まぁ、私が分かっている事を可能な限り説明しますので、落ち着いて下さいませね」
「は、はぁ……」

 掴み様が無いクィーンの言葉に少しやり辛さを感じながらも、我慢しながら彼女の話しにヒビキは耳を傾けた。
 クィーンの話しによれば自分達……魔物と呼ばれる種族は遥か昔から存在し、人間に色々と悪さをしてきたそうだ。その後、魔物を統一していた魔王の座にサキュバス種が即位した事により、世界中の魔物は人間に害を与える存在から、人間と愛を育む存在へと変わっていったそうだ。

 しかし、それも遠い遠い昔の物語。その後は人間達の技術発達と、それに伴う環境破壊によって魔物達が慣れ親しんだ環境は失われていき、ある者は魔界へ帰り、ある者は人間には絶対に踏み入れられない辺境の地へ隠れ住んでいるそうだ。
現在において魔物の伝説を本物だと信じ、魔物達と仲良く住んでいる人間も極一部となってしまったとの事だ。

「魔物が存在し、人間と仲が良いのは分かりました。では、どうして魔物である貴方は僕のスマートフォンから現れたんですか?」
「ああ、それはバフォメット様のおかげでございますわ」
「バフォメット?」

 聞き慣れない単語が突然登場し、ヒビキが首を傾げるとクィーンはバフォメットについて語ってくれた。

「私達の魔物の中には人間が生み出した技術を積極的に取り入れ、研究するグループが幾つか存在するのです。その一つ……と言いますか、その中でも最大のグループがバフォメット様率いるサバトですわ」
「じゃあ、この魔物アプリとかを開発したのも、そのバフォメットという人なんですか?」
「はい、その通りでございます。バフォメット様の魔力と探究心によって、このアプリは生まれたと聞きました」

 どういう理屈でスマートフォンの画面から魔物が飛び出てくるのかは分からないが、このアプリを生み出したバフォメットという魔物はかなり凄い奴だとヒビキは感心した。しかし、同時に分からない事もある。

「それで、この魔物アプリの目的は一体何なの? 単なる遊び目的とは思えないんだけど」

 アプリを通じて人間社会に魔物を送り込むというのは、下手をしたら社会に多大な混乱を招く恐れがあるかもしれないが、クィーンスライムの話を聞く限り、今の魔物達は人間に害を与える様な悪い存在……即ち敵ではないようだ。
 しかし、バフォメットがこのアプリを開発したという事は、魔物達にとっても何らかの目的や利点があるという事を意味する筈だ。それは何かとヒビキが真剣な面持ちで問い質すと、クィーンスライムはウフッと妖しげな微笑みを浮かべて、ヒビキの手に自信の手を重ねる。
ヒンヤリとした彼女の手にヒビキの身体が一瞬ビクリと反応するが、そんな事よりもクィーンから溢れ出る大人の色気にヒビキの興奮が一層高まる。

「先程、サキュバスの即位で変貌した魔物達は人間とより良い関係を築く為に愛し合うと言いましたわね。でも、人間と仲良くする以外にも目的があるのです」
「……と、言うと?」
「大昔の魔物は野生動物や人間の血肉を餌としてきました。しかし、今は違います。人間の……特に男性のみが持ち得る生命エネルギーを主食として生きています」
「生命エネルギー?」

 そんなものが男にあっただろうか……ふと視線を明後日の方向へ向けて思考を巡らしていると、気付かぬ内にヒビキの股間にクィーンの手が置かれていた。

「生命エネルギー……簡単に言い換えると男性の精液の事ですわ」
「えっ、ええええ!?」

 男性の精液だと告げられた途端、ヒビキの脳裏に卑猥な映像が浮かび上がる。怪しげなアプリを契機に、まさかこんなエロ漫画みたいな展開になるとは誰が想像出来たであろうか。

「ね、念の為に聞きますけど……どうやって精液を採取するのでしょうか?」
「ふふっ、それは決まっていますわ」

 ふんわりと微笑んだかと思いきや、次の瞬間には彼女の一部であるスライムに身体を捕らえられ、そのまま優しく押し倒される。そして彼女はヒビキの耳元で甘く囁いた。

「セックス……ですわ」




「おっ、おおう」
「ふふっ、気持ち良いですか?」

妖艶な笑みを浮かべたクィーンスライムは自身の持つ豊満な胸でヒビキのペニスを挟み込み、何度も扱き上げる。自分の手による自慰ならば幾度かした事があるが、他人の身体の一部を使ってペニスを扱かれるのは初めてだ。
彼女の身体を構築するスライムのボディは生身の肌とは異なる感触と快感を生み出し、ヒビキはそれに身を震わせるばかりだ。

「や、やば……。もう出ちゃう……!」
「出しちゃっても良いですわよ❤ 私の身体を、貴方様の精液で汚して下さいませ❤」
「うっ、ああ!」

 クィーンの甘い申し出に誘われるかのように、ヒビキは彼女の胸の谷間の中で思い切り射精してしまう。煮え滾った白濁の精液が、彼女の青いスライムと交じり合い、情欲的な青と白のコンストラストが生まれる。
 彼女を汚してしまった背徳心と、彼女を穢してしまった興奮とが入り混じり、更なる性的欲求がヒビキの中で高まるが、肝心のヒビキのペニスはダラリと力無く垂れ下がったままだ。

「あら〜。一回射精して、疲れ果ててしまったみたいですわね〜。じゃあ、回復して差し上げますわ❤」
「え、回復?」

 一体どのような方法で回復させるのかとクィーンを不思議そうに眺めていると、彼女は自分の胸の先端にある乳頭にヒビキのペニスを押し付けるや―――

「えい❤」

ズプンッ

「はぅあ!?」

 ―――自由自在のスライムの特性を活かし、自分の胸の中にヒビキのペニスを収めてしまった。二次元などで乳房の中にペニスを入れて扱くニプルファックというものを見た覚えがあるが、まさか現実で体験する事が出来ようとは……なんて感動する暇も無く、入れた次の瞬間にペニスを圧迫するスライムの感触にヒビキは頭の中が真っ白になった。

「おっ! おっ! おおっ!?」
「うふふふ、気持ち良いですか〜?」

 ペニスをすっぽりと収めたクィーンの胸の中は、まるで生きたオナホのようだ。分厚くて冷たいスライムがぐにゅぐにゅと蠢き、ペニスに絡み付いてくる。しかも、半透明のスライム故にペニスにスライムが絡み付く所が丸見えで、とてつもないエロスを感じられた。

 そんなニプルファックを少し味わっただけで、彼女の胸の中で鎌首を擡げていたペニスがムクムクと力を取り戻して勃起していく。やがて射精前と同じぐらいか、それ以上にまで膨れ上がるとクィーンはペニスを引き抜いた。

「さてと、ヒビキ様のペニスも大きくなりましたし、そろそろ本番へ参りましょう」
「ほ、本番って言うと……」
「決まっていますわ❤ 貴方様の立派なモノを、私のココに差し込むのですわ❤」

 まさかと思いながらも恐る恐る尋ねると、その問いに対しさも当然だと言わんばかりにクィーンは自身の股を開いて女性の秘部を曝け出す。ココまで見せ付けられれば、何をするかなど一目瞭然だ。

 既にパイズリやニプルファックなどを経験してしまったからか、今更戸惑う感情などヒビキには持ち合わせていなかった。彼女からの申し出に対し、ヒビキはコクリと頷き、彼女の上に覆い被さる。そして彼女が曝け出した性器に自身のペニスを宛がい、一気に彼女の中へと押し込んだ。

「ん、あああああっ!!」
「うぉあ!?」

 クィーンは自分の中にヒビキが入って来る感覚に喘ぎ声を洩らし、ヒビキは初めて女性の中へ入った感触に驚きの声を上げる。二人とも当初はセックスの感触に声を上げるばかりで、互いの顔も見遣る余裕など無かったが、やがてこの感触に慣れて来ると視線を交わし合い、優しいキスやら激しいキスを交わすようになる。

次いでヒビキも不器用ながらも腰を前後に動かして感覚を楽しみ始めた。彼のペニスが奥へ行けば行くほど、肉襞ならぬスライム襞が複雑に絡み付き、絶頂へと誘ってくれる。

「うあぁ、出る! 出るぅぅぅっ!!」
「構いませんわ、出して下さいまし❤ 貴方様の精液、私の中で沢山吐き出して下さいませ❤」
「ああああ!!」

 その言葉を合図に激しく腰を打ち付け、クィーンの腰に密着させた瞬間、ヒビキのペニスの先から新鮮な精液が放出され、彼女の中を満たしていく。
彼女の身体が他の魔物と異なりスライムだからか、暫くは下半身の中央部分にヒビキが放出した精液が溜められていたが、やがて四散して消えた。恐らく、これが彼女の言う生命エネルギーを食すという事なのだろう。

 スライム越しに精液が消えていくのをマジマジと眺めていると、ヒビキの頬にソッとクィーンの手が添えられる。

「余り見られると、流石の私も恥ずかしいですわ」
「す、すいません」
「ふふっ、可愛いですわね。でも、これからも旦那様が望むのであれば、どんなプレイもしてあげますよ」

 まるで夫婦のような遣り取りにヒビキは何も言えなくなり、赤面し――――そして我に帰る。

「……“旦那様”?」

 今更ではあるが、違和感が無かったと言えば嘘になる。無論、魔物だのスマートフォンから飛び出してくるだのと常識外れの出来事が立て続けに起こった事は論外だ。
最初に違和感を抱いたのは、ヒビキ様と彼の名前を平然と呼んだ時だ。少なくとも自分から名乗った覚えも無いし、最初はアプリをダウンロードした際に情報を共有したのかなと思っていたが、その呼び方が旦那様へランクアップした瞬間に違和感は疑惑へと変わった。

「まるで夫婦の様な呼び方ですよね……」

 恐る恐る……という言葉がピッタリ当て嵌まるぐらいにゆっくりと聞き返すと、クィーンはにっこりと笑みを浮かべて『当たり前じゃないですか』と言葉を返した。

「私とこうやって会う前に、意思確認したではありませんか。“人生を棒に振る覚悟はありますか?”って」
「それって、つまり……どういう意味でしょうか?」

 最後の悪足掻き、そう呼ぶに相応しい問い掛けを敢えてヒビキは口にした。そしてクィーンは未だに現実を受け止めきれていないヒビキにトドメの真実を伝えるのであった。

「あのメッセージでYESを選んだ瞬間、私達は夫婦として法的にも周囲の人間にも自動的に認知される魔法が仕組まれていますのよ」

 それを聞いた瞬間、ヒビキは生まれて初めて意識を遠のきそうになる気分を味わった。同時にこれだけ激しいセックスをしておきながら、下の階に居る家族が何一つ訴えて来ないのはそういう事だったのかとも理解した。

 そして取り返し様の無い己の判断を恨むのであった……。




 魔物アプリ――――それは単純なゲームという体裁を取った、人の心を永遠に縛り付ける魔性のゲーム。それが幸か不幸かはプレイヤー次第。



 さぁ、そこの貴方……人生を棒に振る覚悟があるのなら、是非試してみませんか?
14/05/08 22:50更新 / ババ
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■作者メッセージ
魔物娘とアプリを融合した作品を書いてみたいなーと思ってやってしいました(汗) こういうアプリはどうでしょうかというご意見あったら、感想の方でお教え下さいませ〜w

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