連載小説
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(93)ホブゴブリン
その日、山近くの集落に、御神輿がやってきた。
わっしょいわっしょい、と響くかわいらしい声に、住人たちは家屋から顔を出した。
鋼の眼帯で顔を覆ったサイクロプスと鍛冶屋の夫婦の前を、人間のそれより小さな御神輿が通っていく。
デュラハンと人間の夫婦の前を、日避け布で覆われたお神輿が通っていく。
雑貨屋の主人とゴブリンの前を、御輿を担ぐかつての仲間が通っていく。
そして御神輿は、並ぶ家屋の一軒の前で止まった。
「よぉい、しょーお!」
ゴブリンたちが声を合わせ、御輿を地面におろした。
そして、下手すれば数十体はいようかというゴブリンの間から一体が飛び出し、けたたましく玄関の扉を叩いた。
「お届けである!」
そう呼びかけるが、扉は閉まったままだった。
「でてこい!お届けである!」
ゴブリンが声を張り上げるが、扉が開く気配はなかった。
「留守かな?」
「寝てるんじゃないの?」
「引っ越ししたのかも」
御輿の周りのゴブリンたちが、そう言葉を交わす。
すると、扉を叩いていたゴブリンの表情に不安が宿った。
「・・・」
彼女はちらりと背後に目を向けると、布で隠された御神輿の上部を見た。
見ただけだったが、それだけでゴブリンの表情から不安がかき消える。「・・・!」
彼女は顔を正面に向けると、もう一度扉を叩いた。
「お届けである!いるのならば戸を開け!」
「あの・・・」
ゴブリンたちの横から、不意に声が響いた。
御輿の周りの一団はもちろん、扉を叩いていたゴブリンが顔を横に向けると、紙袋を抱えた若い男が困ったような顔で立っているのが見えた。
「あぁ・・・その家の住人だけど、何の用かな?」
外見こそ小柄な少女であるが、数十体という人数に圧倒されつつも、男はそうゴブリンたちに尋ねた。
「うむ、お届けである!」
男の問いかけに、玄関前に立っていたゴブリンが答えた。
「お届け?」
「我らがボスを、嫁として婿殿の下までお届けにきたのである!」
「は?嫁?婿?」
ゴブリンの口から飛び出した言葉に、男は目を白黒させた。
「者ども!御開帳!」
減感作期のゴブリンの言葉に、御輿の周りにいたゴブリンが、御輿にかけられた日除けの布に手をかけ、開いた。
布の下にいたのは、御輿に取り付けられたイスに座る、ほかのゴブリンとは明らかに違う姿のゴブリンだった。
頭から生える二本の角は、片方が妙に大きかった。
そしてほかのゴブリンたちと変わらぬ年頃に見えるというのに、その胸元には大きな膨らみがあった。
ゴブリンを統べるゴブリン。ホブゴブリンだった。
「・・・」
ホブゴブリンは静かにイスから立つと、ゆっくりと御輿から地面に降り立った。
ゴブリンたちは足早に移動すると、自分たちの長から男へと続く回廊を作るように整列した。
ホブゴブリンは、ゴブリンたちの作った回廊を、しずしずと歩き始めた。
「え、えーと・・・」
「コラ、じっとしていないか」
歩み寄ってくるホブゴブリンに、どうしたものかと男がうめくと、いつの間にか彼の側に立っていたゴブリンが、そう彼を窘めた。
「婿は花嫁の到着を待つのだ。略式だが、そわそわしていいという訳ではないぞ」
「いや、そういう風習だっていうのはわかるけど、何で俺・・・」
「それはボスが選・・・静かに!」
ゴブリンは言葉を切ると、姿勢を正した。
もうすぐ側にまでホブゴブリンが迫っていたからだ。
ホブゴブリンは、ゆっくりゆっくり男の前に歩み寄ると、立ち止まった。
「・・・お慕いしておりました」
ホブゴブリンの唇が開き、高く透き通った声が紡がれる。
「急に押し掛けて驚かれたかもしれませんが、どうか私をあなたの妻として下さい」
「え、えぇと、ね・・・」
男はホブゴブリンの言葉に、どうしたものかと考えようとした。
しかし、こうして側に立ち、見下ろしてみると、彼女の不釣り合いに大きな乳房が気になってしょうがなかった。
「はいと言ってうなづくのだ・・・!」
男の傍らに立つゴブリンが、小声で男をせかす。
男は、ゴブリンの明日からのこもった小さな声に、ハイと答えるほか選択肢がないことを悟った。断ったら、このゴブリン達に袋叩きにされかねない。
「は、はい・・・」
「・・・ありがとうございます・・・」
男の返答に、ホブゴブリンはにっこりと微笑んだ。
「リナ」
「はいボス」
彼女は、男の傍らに立つゴブリンに目を向けると、続けた。
「約束通り、私は嫁としてこの人の下でしばらく暮らします。その間、私に代わってゴブリン達をあなたに任せます」
「はいボス!任されました!」
ゴブリンは薄い胸を、拳で軽く叩いた。
「それではリナ、後のことは任せましたよ」
「はいボス!ボスもどうかお元気で!また来ます!」
ゴブリンはホブゴブリンに一礼すると、くるりと整列するゴブリン達に向き直った。
「よーし!山に戻るぞ!御輿担ぎの隊形!」
ゴブリンの一声に、整列するゴブリン達はわらわらと御輿に集まり、誰も乗っていないそれをかつぎ上げた。
「せーの!」
「わっしょい、わっしょい!」
ゴブリンのかけ声にあわせ、御輿が動き出し、ゴブリンの一団が家の前を離れていく。
その様子を、男とホブゴブリンは見送っていた。
「・・・・・・・・・」
御輿が通りを抜け、かけ声が聞こえなくなるまで、二人は無言で立ち尽くしていた。
そして、風の向きによってはかけ声のようなものが聞こえるような気がするというところまで声が弱まったところで、ホブゴブリンが男を見上げた。
「その・・・ごめんなさい」
「ん?」
不意の謝罪に、男は戸惑った。
「突然押し掛けて、嫁にしてくれだなんて言い出して、本当にごめんなさい!」
ホブゴブリンはそう言葉を重ねると、男に向けて頭を下げた。
「いやいやいや、確かに急でびっくりしたけど、そこまで謝るほどのことじゃ・・・」
「いえ、謝らなければならないんです。私、さっきまでゴブリン達のリーダーのようなことをやってましたが、それから逃れるためにあなたを利用したんです。私、そのぐらい最低なことを、あなたに・・・」
言葉の半ばから不明瞭になり、ぐすぐすと涙ぐみ始めたホブゴブリンに、男は慌てた。
「ええと、まずは家に入って・・・ね?」
「えぐっ、うぅ・・・」
嗚咽するホブゴブリンの背中を軽く押しながら、男は家に入っていった。



男の家の中、台所におかれたテーブルに向かって、ホブゴブリンはいすに腰を下ろしていた。
「はい、お茶」
男が湯を沸かし、ホブゴブリンに茶を出す頃には、彼女の嗚咽は落ち着いていた。
「ちょっぴり苦いから、砂糖を入れておいたから」
「ありがとうございます・・・」
目元に涙の跡を残した彼女が、そう頭を下げる。
ホブゴブリンは茶の入ったカップを両手でつかむと、縁に唇を寄せ、茶を口に含んだ。
「・・・・・・おいしい・・・です・・・」
口中に広がった甘みと香りに、ホブゴブリンが感想を漏らす。
「だいぶ落ち着いたみたいだね」
ちびちびと茶を飲む彼女に、男は微笑んだ。
「それじゃあそろそろ聞かせてくれないかな?何で急に、俺のところにきたのか」
「っ・・・」
男の問いに、ホブゴブリンが動きを止める。
「ああ、別に責めようとしてるわけじゃないよ。君みたいなその・・・かわいい子が来るのはうれしいけど、急すぎてびっくりしてるんだ。だから、何で急にきたのか、何で俺だったのかを教えてほしいだけなんだ」
「わかりました・・・」
彼女はカップをテーブルに置くと、口を開いた。
「私、さっきのゴブリン達のリーダーのようなことをしていました」
ぽつりぽつりと、彼女は言葉を紡いでいく。
「それはホブゴブリンに生まれたゴブリンの仕事なんですけど、私には特に取り柄がないんです。他の子みたいに足が速いわけでも、頭の回転が速いわけでもなく、ただホブゴブリンってだけでリーダーをやってたんです」
どこかくらい表情で、彼女は続ける。
「実質的に群を率いていたのは、さっきリーダーの座を譲ったあの子で・・・私はなにもしてませんでした。だというのにあの子も、みんなも、私のことを慕って・・・何もできない私に、あんな綺麗な目で見られる資格はないんです・・・」
「それで、俺のところに逃げてきたってことか・・・」
「はい・・・私のせいで、ごめんなさい・・・ご迷惑をかけないうちに、出ていきますので・・・」
彼女はそう頭を下げると、立ち上がろうとした。
「いやいや、ちょっと待ってよ。もう出ていくの!?」
「はい・・・このままいては、お邪魔になりますので・・・」
慌てる男に、ホブゴブリンはそう答える。
「でも、あのゴブリン・・・君たちのニューリーダーが様子を見に来たとき、君がいなかったら・・・」
「・・・あ」
男の一言に、ホブゴブリンは短く漏らした。
どうやら、群から離れることばかり考えていたらしく、その後のことまで頭が回っていなかったらしい。
「君がいなかったら、僕がゴブリン達に袋叩きにされるよ・・・」
「す、すみませんでした・・・痛っ・・・!」
ホブゴブリンは勢いよく頭を下げると、額をテーブルの天版にぶつけて声を上げた。
自分がいなくなった後に頭が回らなかったり、不注意で体をぶつけたりするあたり、彼女の言うとおり、かなりニブい方のようだ。
「じゃあ、君はしばらく家にとどまってもらおう」
「いいんですか?」
「大丈夫。君一人養うぐらいの余裕はあるしね」
男にとってはむしろ、彼女がいなくなってゴブリンに襲われるより、ニブい彼女を外に放り出す方が寝覚めが悪いほどだった。
「あ、ありがとうございます・・・!」
彼女は男の言葉に、再び頭を下げ、もう一度テーブルに額をぶつけた。



それから、男とホブゴブリンの生活が始まった。
ホブゴブリンはやる気満々で、家事を一手に引き受けようとしていたが、男はそれを止めた。
ホブゴブリンがニブいというのもあったが、彼女が家事をしたことがないと言うのが最大の理由だった。
ゴブリン達に囲まれ、ほとんど何もやってこなかったおかげで、料理や掃除はおろか洗濯物一つ畳めないのだ。
そのため男は、数日かけて彼女に家事を教えていった。
衣類の畳み方や、洗い方、掃除の仕方などだ。
料理については、刃物や火の扱いがあるため、男はホブゴブリンにはあまり任せようとしなかった。
家事の大部分を男が行い、ホブゴブリンがそれを手伝いながら覚えていく。
そんな日々が、しばらく続いた。
ホブゴブリンは失敗を繰り返しながらも、徐々に家事を覚えていった。
シャツを裏返したまま畳んだり、男のズボンに妙な折り目をつけたり、床を拭きながらテーブルに頭をぶつけたり、バケツの水をひっくり返したりと、ホブゴブリンは失敗をいくらでも繰り返した。
だが、男は彼女のミスを指摘しつつも、根気よく教えていった。
そして一月ほどかけて、ホブゴブリンはついに衣類の畳み方を間違えることなく洗濯物を仕舞い、物を壊すことなく掃除をすることができるようになった。
「これで、お掃除おしまいです・・・」
怪我もせず、物も壊さず、ホブゴブリンは綺麗になった部屋を見回した。
疲労感が体を支配しているが、それ以上に達成感が彼女の胸を満たしていた。
「お疲れさま」
ホブゴブリンに手を貸さず、ただ見守っていた男が、彼女に向けてにっこりと微笑んだ。
「もう一人で掃除ができるようになったね」
「はい、ありがとうございます・・・!」
ホブゴブリンが、喜色満面の笑みを浮かべながら、男にそう応えた。
「じゃあ今度は、もう少し短い時間でできるよう目指そうか」
「はい・・・」
昼過ぎに始めた掃除が、夕方までかかったことを思いだし、ホブゴブリンは肩を落とす。
「なあに、一月でここまでできるようになったんだ。君ならもっと早くできるよ。それより、お風呂わかしておいたよ。入ってくるといい」
「あ、ありがとうございます・・・」
一生懸命掃除をしたおかげで、ホブゴブリンの体は汗に濡れていたため、男の薦めはありがたかった。
「では、ささっと入ってきます!」
「ゆっくりでいいよ。ご飯の準備しておくから」
男に頭を一つ下げると、ホブゴブリンは浴室に向かった。
汗に濡れた部屋着や下着を洗い物かごに放り込み、一糸まとわぬ姿になる。
彼女は浴室にはいると、湯をたたえた浴槽から手桶で湯を汲み、自分の体にかけた。
汗ばみ、べたついていた彼女の肌を湯が洗い流していく。
「ん〜♪」
疲労感の残る体を湯が撫でていく心地よさに、彼女は声を漏らした。
そして彼女は石鹸を手に取ると、軽く手で泡立ててから体に塗り付けていった。
左右の腕に泡を塗り付け、太腿へと手を移す。やや細目の太腿を洗うと、次は膝からスネへと手を動かす。
お湯だけでは洗い流せない汚れが、石鹸の泡によって落とされていく。
また、ふわふわとした泡の肌触りは、とても心地の良い物だった。
四肢を一通り清めると、彼女は腹に手を当てて擦った。
へその穴を軽くくすぐってから、わき腹、腰を清めていく。
「♪〜」
体を清める心地よさと、ついに一人で掃除ができるようになった達成感に、彼女は自然と鼻歌を奏でていた。
衣類の片づけと掃除ができた。次は洗濯で、その次は料理。
それらをこなせるようになれば、妻として胸を張れるはずだ。
そうなれば、自分は名実ともに男の嫁になれる。
彼女の思考がそこに至り、彼女の両手が乳房に触れたところで、ふと彼女が止まった。
家事を完璧にこなせるようになれば、彼の妻になれる。では今は?
疑問が彼女の胸中にわき起こった。
確かに、初めて彼の家に来たときより、いろんなことができるようになった。だが、まだ彼の妻と言うには不十分だ。
事実、妻の仕事には夫と寝床を共にすることがあったが、男は彼女の体に触れるどころか、同じベッドに入ろうともしなかった。
「・・・・・・」
ホブゴブリンは、自身の豊かな乳房に手を当て、石鹸の泡を塗り付けた。
今群を率いているゴブリンによれば、男を魅惑する究極の武器だと言っていた。
だが、今の彼女にしてみれば、昔と変わらない邪魔な重りでしかなかった。
自分は男の嫁としてこの家に来たつもりだったが、彼は自分のことをどう思っているのだろう。
ホブゴブリンの胸の内で、不安と疑問が膨れ上がっていく。
だが、いくら考えても答えは出そうになかった。
「・・・わかりません・・・」
彼女は浴室でそう呟くと、手桶を手に取り、体を覆う石鹸の泡を洗い流すべく、湯を汲んだ。
いくら考えても分からない。ならば、答えを聞けばいい。
彼女はそう心を決めた。



彼女が風呂を出て、男と夕食を平らげ、片づけをした後、ホブゴブリンは寝間着姿でベッドに腰掛けていた。
寝室ではあるが、彼女がいつも使っているベッドではない。
男がどこからか運んできた、男専用のベッドだった。
「・・・・・・」
彼女は耳に意識を傾け、男が風呂場で立てる音を聞きながら、そわそわと待っていた。
やがて、男が浴室の扉を開く音が響いた。
「・・・!」
ホブゴブリンはにわかに全身を緊張させ、姿勢を正した。
そわそわと揺れていた体が指一本動かなくなる。
「ふぃ〜、いい湯でしたよ・・・っと・・・」
寝間着に着替え、寝室に入ってきた男が、語尾を弱めていった。
「えぇと・・・そこ、俺のベッドなんだけど・・・」
「知ってます」
念のためと言った様子で話しかけた男に、ホブゴブリンは妙に無愛想な言葉で応えた。
「あー、今日はそっちで寝たい気分なんだね。だったら、今夜はベッドを交換して・・・」
「違います」
ホブゴブリンは短く言うと、男の顔を見た。
若干戸惑ったような男の視線と、不安と緊張を帯びたホブゴブリンの視線が交錯する。
そして、この一言を本当に口にしていいのか、とホブゴブリンは逡巡してから、言葉を続けた。
「今夜は・・・私と寝て下さい」
「・・・うーん、もう少し寒い季節なら、僕も歓迎だったけど・・・」
「そういう意味ではありません。妻として、私は夫のあなたと一緒のベッドに寝たいんです」
「・・・・・・」
彼女の言葉に、男は沈黙した。
「この一月、あなたが私と一緒に寝ようとしなかったのは、とても不安でした。あなたが私を、妻と見ていないのではないかと思えたからです」
男に向け、ホブゴブリンは自身の抱える不安を吐露する。
「事実、私は何もできていませんでした。でも、あなたのおかげで掃除など、妻としての仕事ができるようになってきました。ですが・・・洗濯や料理はできないので、まだ妻を名乗れません。それでも、こうして妻としての勤めを果たしたいんです・・・!」
「いや、妻としての勤めとか、そういうのに囚われなくていいから・・・」
「私は本気です!」
男の言葉に、ホブゴブリンは珍しく大きな声を上げた。
「私があなたの嫁になろうと決めたのも、前々からあなたのことを知り、密かに慕っていたからです。実際のところ、ゴブリン達から離れるために利用した風ですが、私の想いは本物だと信じています。だから・・・」
彼女は言葉を震わせながらも、続けた。
「私を、あなたの妻にして下さい・・・!」
目元に浮かぶ涙が、ホブゴブリンの視界から、男の姿を滲ませた。
「・・・実を言うと、俺が君の姿を見たのは、あの日が最初だった・・・」
涙に滲む影が、ホブゴブリンに向けて言葉を紡ぐ。
「でもあの日、君が乗っていたお神輿の布が開いた瞬間、俺は君のことが好きになっていた。だけど君は、ゴブリンの群から離れるため、俺を利用したと謝った。だから僕は、君が別の誰かと幸せになれるよう、いろんなことを教えることにしたんだ」
へへへ、とどこか照れくさそうな笑い声を挟んでから、彼は続ける。
「でも・・・本当は君が僕のことが好きだと知れて、よかった・・・」
「あなた・・・っ!」
ホブゴブリンが男を呼んだ直後、未だ滲んだままの彼の姿が大きくなった。
男がホブゴブリンに迫ったのだと彼女が気がついたのは、唇が重なった後だった。
「ん・・・!」
不意のキスに驚きながらも、ホブゴブリンは彼の体に手を回し、抱きつきつつキスに応じた。
言葉もなく、二人は無心で互いを抱き合い、唇を吸っていた。
そして、たっぷり間をおいてから唇をはなすと、二人の呼吸は乱れに乱れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
瞳をとろんと蕩けさせ、頬を赤く染めながら、彼女は自身の唇と男の唇をつなぐ唾液の糸が、延びて切れるのを見ていた。
男は彼女の体に腕を回したまま、そっと力を込めた。ホブゴブリンの体がベッドの上に押し倒される。
「・・・!」
男が放つ興奮と欲情の気配に、ホブゴブリンは体に緊張が走るのを感じた。
男がようやく自分に触れてくれるという期待。初めてへの不安。その二つが彼女の内側でごちゃ混ぜになり、恐れとも喜びともつかない感情に変質していく。
ただ一つはっきりしているのは、彼女の心に、この場から逃げ出したいという感情がないことだった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
男は、微かに震える手を上げると、ホブゴブリンの乳房に触れさせた。
寝間着越しに、彼女の豊かな胸部に男の指が埋まり、形を変えた。
程良い弾力を備えながらも、男の指を柔らかく受け入れる乳房の感触は、男の手に快感を生じさせた。
同時に、興奮のためか熱を帯びた彼の指は、ホブゴブリンの乳房の表面を揉み、もっと強く揉んでほしいと芯を疼かせた。
「はぁ・・・ん・・・ぅぁ・・・」
呼吸が乱れ、ホブゴブリンの口から喘ぎが漏れる。
そして、たっぷりと男が彼女の乳房の柔らかさを、その指でもって堪能する頃には、ホブゴブリンの体はできあがってしまっていた。
「はぁー・・・はぁー・・・!」
彼女は四肢から力を抜き、ベッドに体をゆだね、肌をしっとりと汗で湿らせていた。
身を起こす力も残っていないように見える一方で、不規則に彼女の体がぴくりと震える。
「ずっと・・・こうしたかった・・・」
彼女の乳房に触れながら、男はそういうと、彼女の頬に唇を当てた。
「こうやって、君を感じたかった・・・」
吐息が肌を撫でるのが感じられるほど顔を寄せながら、彼はそう囁く。
彼の告白は、ホブゴブリンの五感を通して彼女の意識に染み渡った。
「私も・・・うれ、しい・・・!」
ホブゴブリンの唇が開き、興奮に震える声音が紡がれた。
「こんなに・・・こんなにしてもらえて・・・あなたが、私のことを・・・想って・・・」
興奮に蕩けた意識が、ごちゃ混ぜの言葉を彼女の唇から紡ぐ。
ホブゴブリン自身も、もはや自分が何を言っているのか分からなくなっていたが、それでも男には彼女の想いが伝わっていた。
「はぁはぁ・・・」
「あぁ・・・ん・・・」
もはや意味のある言葉は紡がれず、吐息だけが寝室に響いていた。
そして、男の指がひときわ強く彼女の乳房に沈み込んだ瞬間、ホブゴブリンの全身が震えた。
「あ・・・!」
短く彼女が声を漏らし、体を硬直させる。
乳房から走った痺れが、彼女脳天にまで届いたからだ。
乳房を揉まれ、体温を感じる。ただそれだけで、ホブゴブリンは達してしまっていた。
「・・・っ!」
彼女は体を震わせながら、目をぎゅっとつぶった。
興奮に潤んでいた瞳から涙が絞り出され、彼女の目尻からこめかみへ溢れる。
「・・・はぁはぁはぁ・・・」
ホブゴブリンはしばしの意識の空白を味わうと、荒く呼吸を重ねた。
「あぁ・・・かわいい・・・」
男は、絶頂に瞳の焦点をぼやけさせ、荒く呼吸を重ねる彼女の涙を、軽く吸った。
「きもち・・・よかったです・・・」
半ば呆然とした様子で、彼女がそう言葉を紡ぐ。
「今度は、私が・・・」
ホブゴブリンは、おぼつかない手つきで男の肩に触れた。
「いいよ、じっとして・・・え・・・?」
男は彼女の手を取り、そっと押しとどめようとするが、彼女の手は止まらなかった。
むしろ、男の手を物ともせず、そのまま彼の肩口に触れたのだ。
やがて男は、ろくに抵抗することもできず、ベッドの上に仰向けに転がされていた。
「ふふふ、私の番・・・」
意識の内で何かが入ったのか、淫らな色を瞳に宿したホブゴブリンが、男を見下ろしながらほほえんだ。
彼女は、寝間着の胸元のボタンをはずすと、押し込められていた乳房を解放した。
布の内側から、興奮の熱と汗による湯気がもわりと立ち上る。
そして彼女は、男の寝間着のズボンを下着ごと引き下ろし、屹立を露出させた。
「ふふ・・・おっぱいで、気持ちよくして上げます・・・」
「あぁ・・・」
彼女の言葉と、ホブゴブリンの乳房に、男は胸の奥で期待が膨れていくのを感じた。
ホブゴブリンが上半身を倒し、乳房の間に肉棒を迎える。そして、乳房の左右に手を当てると、彼女はぐいと左右から圧迫した。
「あぁぁ・・・!」
肉棒を襲う圧迫感に、男は声を上げた。
先端から根本近くまで、熱く濡れた肉がみっちりと肉棒を包み込み、ぐいぐいと圧迫してくる。
そして、肌を通して男自身の脈動とは異なる、もう一つの脈動が感じられた。
「気持ちいいですか・・・?」
乳房を圧迫する手を、軽く上下左右にゆらしながら、彼女が問いかける。
「私のおっぱい・・・」
「あ、あぁ・・・!きもち、いぃ・・・!」
男は、彼女の手の動きにあわせて肉棒を擦る乳房の肌に、そう上擦った声で返した。
「よかった・・・」
どこか嗜虐的であった淫らな気配に、安堵感を滲ませながら彼女が言う。
「初めて、私のおっぱいが役に立ちました・・・」
上下左右に手を動かし、時折ぎゅっと胸を寄せながら、彼女は続ける。
「走るのにも邪魔で・・・お掃除の時も何かにぶつけたりしてた私のおっぱい・・・こんな風に喜んでもらえて、うれしいです・・・」
「あぁ・・・そ、そこ・・・!」
強めに乳房を圧迫しながら、上半身全体を動かすホブゴブリンに、男が声を上げる。
乳房で包み込まれたまま肉棒をしごかれる快感は、男の手を遙かに勝る物だった。
「あ・・・びくびくしてきた・・・もうすぐ、なんですよね・・・?」
乳房の間でにわかに脈動を強めた屹立に、彼女はそう男に問いかけた。
だが、射精寸前の肉棒を乳房でしごかれる快感のせいか、男には返答する余裕はなかった。
「このまま、出して下さい・・・!」
彼女はそう言うと、肉棒を乳房の間に沈め、きゅっと力を込めた。
その瞬間、彼女の乳房の圧力にあらがって、肉棒が一回り膨張した。
「う・・・!」
男の小さなうめき声の直後、彼の屹立から白濁が迸る。
「私のおっぱいで、出してる・・・」
乳房の間で脈打つ屹立と、じわじわと広がっていく精液の熱に、ホブゴブリンは男が本当に自分で感じていたことを実感した。
すると、彼女の胸の奥に、精液の熱や興奮とは異なる、別の温もりが生じた。
「うぅ・・・あぁ・・・」
男はしばし精液を放つと、小さく肉棒を震わせてから射精を終えた。
「ふふ、こんなにたくさん・・・」
乳房の間から肉棒を抜き、谷間を広げながらホブゴブリンは呟いた。
彼女の乳房の谷間には、白濁がねっとりとへばりついていた。
そして、精液の放つ匂いが、彼女の鼻腔から意識へと染み込んでいく。
もっとこの白濁がほしい。
もっと気持ちよくなりたい。
もっと気持ちよくなってほしい。
魔物の本能もあるが、それ以上に男と結ばれたいという想いが、ホブゴブリンの内側で膨れ上がっていく。
「もう、我慢できません・・・!」
彼女は男の足の間で膝立ちになると、そのまま彼の腰をまたいだ。
そしてそのまま、寝間着のズボンに指を食い込ませると、彼女はホブゴブリンの怪力のまま、布地を引き裂いた。
濡れた下着がちぎれ、透明な滴を溢れさせる慎ましやかな女陰が露わになる。
「私と・・・!」
思いの丈を口から紡ぐより先に彼女の体が動き、屹立に腰を下ろした。
小柄な体躯に合わせた、小さな女陰が屹立を受け入れ、大きく広がる。
裂けんばかりの広がりに、一瞬ホブゴブリンの表情が強ばった。だが、屹立が彼女の腹の奥、膣の底に達した瞬間、彼女の顔から緊張が消える。
「んぁぁああ・・・!」
口を開き、霰もない喘ぎ声を上げながら、彼女は腰を揺すり始めた。
「これ・・・気持ちいい・・・!こんな、こんなに・・・!」
ぐぢゅぐぢゅと、ホブゴブリンの股から濡れた音が響き、男のうめき声が間に挟まる。
「あなたも・・・気持ち、いい・・・?」
「うぅ・・・!」
射精直後の肉棒を責められる刺激に、男は苦しげに声を漏らした。
だが、刺激が強すぎる一方で、心地がよいのも事実だった。
乳房以上の締め付けと熱に、男の肉棒に血が再び集まっていく。
「あぁ・・・!なかで、大きく・・・!」
一度の射精で少しだけ萎んでいた屹立が膨張する感覚に、ホブゴブリンの声が裏返った。
彼女の小さな膣は限界まで広がり、もはや膣壁の弾力だけで肉棒を締め付けているような状態だった。
だが、内蔵を押し広げられる感覚と、屹立をギチギチと締めあげられる感覚に、二人は声を上げながら快感を覚えていた。
「あぁ・・・ん・・・ぐ・・・!」
「あんっ!んぁ・・・!ひゃ・・・!」
二人のあえぎ声が、二人の動きにあわせて響き、徐々に動きが小さくなっていく。
二人とも限界が近いのだ。
「も・・・もう・・・!」
「出して・・・!いっぱいだしてください・・・!」
ホブゴブリンがそう求めた直後、男が二度目の限界を迎えた。
「・・・!」
「んぁああああ!」
男が小さく呻き、ホブゴブリンの口から大きな声が溢れる。
男の肉棒から噴出した精液が、彼女の腹の中を叩いているためだ。
興奮のためか、指で摘んで持ち上げられそうなほど濃厚な精液が、彼女の膣底を打つ。
半ば固形化した白濁の衝撃に、彼女の意識が突き上げられていく。
「・・・っ・・・かは・・・!」
ホブゴブリンはそう、肺の空気を残らず絞り出しながら喘ぐと、男の胸の上に倒れ込むようにしながら、脱力した。
「おぅふっ!?」
不意に胸の上に倒れ込んできたホブゴブリンの衝撃に、男の口から吐息が絞り出され、精液が少しだけ勢いを増す。
柔らかく大きな乳房のおかげで、痛みはなく、ただ衝撃だけが伝わった。
だが、それでも一瞬苦しい思いをした。
「あぁ・・・びっくりした・・・」
驚きのあまり、男の興奮と快感がリセットされ、彼は妙に冷静になっていた。
「大丈夫・・・?」
「んぁー・・・」
男がそう、自分の胸の上に体重を預けるホブゴブリンに問いかけるが、彼女は意味をなさない呻きで答えた。
どうやら快感のあまり、意識が蕩けてしまっているようだ。
「仕方ないなあ・・・」
肉棒の収まりはつかないが、まだ彼女の内側に入ったままだ。
つながったまま、今夜は一緒に寝るとしよう。
男は、妻の頭をなでながら、胸に押し当てられる乳房の柔らかさと、彼女の内側の温もりを感じていた。
12/12/14 21:06更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
「おっぱいだ!」
「イエスおっぱいですボイン!」
「パイズリーもやった!」
「イエスパイズリーもやりましたですボイン!」
「だが、胸の谷間から先っちょ露出させて、舌でペロペロがないのはどういうことかね?」
「ノー胸の谷間から先っちょ露出させて、舌でぺろぺろ&顔面に噴出して『きゃあ!』でありますボイン!」
「なぜだ」
「おっぱい大きい娘さんはまだいますので、パイズリー関連は消費しつくすべきではないと判断したからでありますボイン!」
「それなら仕方ない」
「イエス仕方ないでありますボイン!」

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