連載小説
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魔物娘生物災害 T
少女は本を開いた。
その本のタイトルは魔物娘生物災害事件。
それは架空の反魔物派の都市で起きた事件についての小説であった。


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反魔物領のカルコサと言う都市で、それは起きた。

最初に異変が起きたのは、カルコサに唯一設立されていたセイレム学園。
学園の学生及び教員の比率は偏っており、男女比が3:7で女性が圧倒的に多い。
だからだったのかもしれない、『彼女達』に真っ先に狙われることとなったのは…


その日の講義は既に終盤に差し掛かっていた。
学園には学生が200人程、教員が30人程の規模である。
それぞれがクラスごとに分けられ、20人クラス10個が、現在それぞれの講義を受けている。


始めに『それ』が起きた時、学園にいた誰もその異変に気が付く事は無かった。
無理もない、地方都市の学園では魔術師の常勤はまず無いからだ。
校舎の『教室以外』に現れた大量の転移魔法陣から、彼女達は現れた。

生気のない瞳、色白の肌、衣服の意味を成していない着衣。
それが彼女達の特徴であった。


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その日、セイレム学園の高等学部3年、アルトリアは魔術の講義を受けていた。
赤色の髪に切れ長の黒い瞳という、珍しい髪色をした人間の男だった。
だが、性格は温厚そのものであり、身長が少し低めな事も合わせてそれほど威圧感は無い。

隣に座るのが、レインと言う名の人間の男で黒髪、緑眼。
身長はアルトリアよりも更に低く、全体的に影が薄い。
彼の特徴である風変わりな瞳は、色々な噂が絶えない。
ただ、常に眠そうにしているため、表立って波風を立てるようなことは無かった。

そしてレインの隣に座っている男が名をティクと言い、茶髪、黒眼の彼は他の2人より身長が高く体格も良い事以外は容姿に特徴は無いが、口が少々悪く、荒っぽいところも目立っていた。

3人は入学以来の腐れ縁である。

彼らは並んで座り、互いに内容を教えあったりして、講義を聴いていた。
真面目だが、堅苦しくは無く、魔物が苦手という、反魔物派には珍しくない男達だった。

『それ』が起きた時、3人は『それ』自体ではなく、何かが立てる音に気が付いた。

「なぁ…今の音…」
「…んぁ…なんだ…ティク」
「レイン、寝てちゃだめだよ…」

ペタペタと言う裸足で歩く足音とアァ〜とかウゥ〜という、意味の無い呻き声が聞こえてきた。
3人は有り得ないと思いながらも、まさかと言う気持ちもあった。

カルコサは関を挟んで反魔物領が目と鼻の先にある都市である。
その上、この地方都市は背後を山脈に抱かれ、親魔物領へ行くよりも、隣の都市に向かう方が難しいと言う状況であった。
実際のところ、いつ休戦協定を破って侵攻してきてもおかしくない上、その際には真っ先に狙われる場所でもあった。

その立地状況が、3人を不安にさせた。

「…ここって何階だっけ?」
「レイン…よせ、ここは3階だ…」
「そうは言うけどティク、これ普通じゃないよ?」

彼らだけではない、他の学生や教員もその場に似つかわしくない声に、不安感を募らせた。
そして、ガリガリと扉を引っかく音と扉を叩く音が、各教室に響いた。

「誰よ…講義中に!!」
「あ…教授…待ってくd」

女教授が激昂し、扉に向かって歩き、学生の静止も聞かずに、扉を開いた。
引き戸が横に開かれた瞬間、『彼女達』が雪崩れ込んできた。

彼女達の身体的特徴…生きているように見えない容姿。
そう……彼女達は『ゾンビ』だった。

「「「「!!???」」」」
「ァ〜おとこ〜おんな〜」
「あ…貴女達…誰……いや、何を…キャァァァァァ!!!!」

6人のゾンビ娘達はあっという間に教室に入り込むと、一番近い女教授の身体を掴み、床に押し倒す。
生気の宿らない瞳は女教授を震え上がらせた。

「やめて…いやぁ…やめてぇぇぇぇ!!!」

彼女の脳裏に浮かんだのは、魔王交代以前のゾンビの所業、皮膚を喰い破り、肉を裂き、ハラワタを引き摺り出し、人肉を喰らう化け物。
自分の衣服に手を掛けられ、引き千切られたところで、彼女は諦めた。

「ァァァァアア〜」
「!?」

だが、次に彼女が感じたのは発狂するような激痛では無かった。

快楽。

随分と彼女が味わっていない感覚だった。
閉じていた目を開き、身体に目をやると、そこには自分の秘所を舐め回すゾンビと自分の乳房を咥えるゾンビ、それに胸の辺りに跨り、自分の顔をまじまじと見つめているゾンビがいた。
他のゾンビ達は、学生達を狙っているようだった。

脳髄を焦がす快感の波に攫われながら、彼女は学生達を心配していた。
だがそんな意識も、徐々に飲まれていく。

「アッ…イヤァ!!」

クチュ。

そんな湿った音が彼女の頭にやたらと響いたと思った瞬間、太腿に痛みを感じた。
見れば、ゾンビが1人、太腿の付け根に噛み付いていた。
それも甘噛みより少し強いくらいの強さで。

歯が皮膚を突き破ったが、血は殆ど出ていない。
むしろ血が流れる感覚よりも、何かが流れ込む感覚が彼女の意識を削り、やがて視界が暗転した。



一方、女教授が押し倒され、素肌を晒され嬲られている光景は教室にパニックを引き起こした。
学生達が立ち上がり、教壇から一斉に離れる。
女学生達が、右往左往を始め、そのうち1人が教室から出ようと、もう1つの引き戸を開けた。

「逃げまs…え…何…キャァァァァ!!!」

すると、外で待っていたゾンビ達が、彼女に殺到してきた。
あっという間に、姿が見えなくなる女学生。
ゾンビ達の体の隙間から、差し出された彼女の手が宙を掻き毟り、千切られた着衣が放り投げられる。
やがて、もがく手が力を失い、床に落ちた。

そして開けられた扉から入ってきて更に増えるゾンビ達。
いくら力がそれほど強くないと言っても、数人がかりで押し倒されては、手の打ち用が無い。
混乱に拍車がかかり、次々と女学生が取り押さえられていく。



そんな中、教室の一番奥に身を寄せている唯一の男子学生3人は気が気ではなかった。

「ねぇ、逃げようよ、あれやばいよ」
「同意だが…この状況は逃げるのも至難だぞ?」
「どうすれば…どうすればいいの…!!」

アルトリアとティクの会話をボ〜ッと聞きつつ、レインは先程から窓ばかり見ている。
叫び声が上がり、衣服を引き千切られゾンビに犯されて、女学生が嬌声を上げる。
そんな混沌とした状況であるが、レインは何かを考えているようだった。

「なあ…ティク…」
「何だよ、レイン」

2人が話している間、アルトリアは教室の椅子を持って、ゾンビを警戒している。
とりあえず、隙を見つけて、廊下に飛び出そうと考えていた。
ゾンビが10人以上入ってきたとは言っても、動きはゆっくりで、一番近いところにいる人間を追いかけるため、男子学生3人は未だに狙いを付けられていなかった。

レインは教室の窓を見ながら続けた。

「窓伝いに、化学実験室まで逃げない?」
「「!?」」

彼等の教室が入っている階は一番端が化学実験室になっている。
そこは薬品の管理のために、施錠がしっかりしているため、篭城に向いていた。
水道もあるため数日は凌げる、そう考えての提案だった。

他の2人も考えはあったようだが、特に異論があるわけではないようだった。

「他の奴にも声かけた方がいいかな?」
「あ〜手近な奴だけでいいんじゃないか、一気に窓際に移動してきたら、多分誰か落ちるぞ…」
「わしは…快眠が約束されるなら…何人でも良いや〜」

などとのたまっている間に状況が悪化を続ける。
教室の女学生で立っている者が減り、逃げ回っている女学生をゾンビが追い回している。
その両者の数に明らかな差が生まれてきた。
人間1人をゾンビ5・6人が追いかける状況になっている。

「やめてぇぇ…離してぇ!!、いやぁ!いやぁぁぁぁ!!!」
「ぁ〜おんな〜なかま〜…チュプ…ジュル…」
「やめてっ!…いやっ!!………う…嘘…気持ち良いなんて…いやだっ…わたし…こんなことした事無いのに……いっ!!!……イダァァァァァイィィィィ!!!」

また1人、女学生がゾンビ4人に押し倒され、服を剥がれ、散々秘所を舐め回された挙句、二の腕に噛み付かれた。

不思議な事に、ゾンビ達は押し倒した女性に長時間纏わり付く事はなく、服を千切り、身体のどこかに噛み付いてすぐに開放している。

結局、教室の中で追い回すゾンビは女学生の数が減っても減らず、1人ずつ取り囲まれては彼女達の無表情な顔に見つめられながら、床に倒され、嬲られていく。

更には、どうやら廊下でゾンビが待っていて、教室から飛び出す学生を片っ端から押し倒しているようだった。
この状況では男3人でも逃げるのは難しい。

逃げるには窓伝いを行くのが得策だと判断し、ティクが窓を開けた。
その音に気が付いたのか、教室の中のゾンビが数人、3人に狙いを定めて動き出す。

窓の直ぐ下には石造りの細い細い道のようなスペースがある。
元々は清掃用だったそこに、レイン、ティク、アルトリアの順で並び、移動を始める。

「こっちです!!、早く!!」

アルトリアが、石の窓縁から、自分が居た教室の中に声を掛けた。
その時点で残っている女学生は4人、声を聞いて窓までたどり着けたのは3人、窓縁の石道に降りて、3人についていけたのは2人だった。

「う…ここ何よ、高いじゃない!!」
「るせーよ、文句があるなら教室に戻れこのアホ」
「何よ!!そんな言い方しなくてもいいじゃない!!!」
「あ〜…五月蝿くて目が覚める…」

最後尾の女学生が窓を閉めながら声を上げ、ティクと言い争う中、先頭のレインは隣の教室の前を通りかかった。
窓から覗く光景…それはゾンビに捕まり、ゾンビ達に女学生が嬲られ、噛み付かれる光景と、男学生が犯される光景。

女学生については、噛まれてしまえば開放される、意識を失ってもそれ以上は今のところ無い。
だが、男学生は皆、5人も6人もゾンビが身体に纏わり付いており、どう見ても一度や二度犯された様子ではない。
既に、目が虚ろな男学生もいるところから、既に何人にもまわされている様だった。

そんな光景に、レインは目を背けながら、それでも前に進む。
後に続く仲間達もそんな状況に思わず声を失い、言い争うのも止めて押し黙った。

やがて、二つの教室の前を通り、その惨状を目の当たりにしたところで、化学実験室の窓硝子まで来た。
レインは窓を左右に動かすが、開く様子は無い。
当然だ、この時間はどのクラスも使っていない、使わなければ施錠する、それが原則だ。

よって、レインは窓硝子を破ることにした。
だが、人一人分の幅しかない清掃用の石道の上では上手く姿勢が取れない。

だから、彼は無理矢理自分の拳を叩き付けた。

「ハッ!!!!」
「!!、レイン、大丈夫?」
「…痛ぅ…」

砕け、実験室内に飛散する硝子。
裂け、血が吹き出るレインの左拳。

硝子だけでなく、レイン自身の顔にも朱の飛沫が筋を引いた。
彼は靴を脱ぎ、窓に残った硝子を靴で排除し、入り口を作った。

「…こっちだ…早く」

レインが床の硝子に気をつけながら、先頭を切って入り、仲間を呼んだ。

「…無茶苦茶だな…」
「傷見せて…レイン…」

全員が実験室に入り、破れた窓にはカーテンを引いた。
後で塞ぐ…などと考えつつ、アルトリアがレインの左拳の傷を見る。

「うわっ…硝子刺さってるよ」
「…わし…らしくない事した…」
「いや、仕方ないだろ…あの状況じゃ…」
「僕が傷を見るよ…ティク、消毒用のアルコールとか持ってない?」
「んなもんあるか、これでもかけとけ!!」

ティクがレインの左手に浴びせかけたのは、いつの間にか見つけていた実験用のエチルアルコール。
消毒用としても使われるので、間違いでは無かったが…

「ンーー!!!!」

激痛にレインは思わず、屈み込んだ。
声を上げるのは仕方ないにしても、できるだけ音は立てないほうがいい。
先程の硝子破りやその前の口論だって、ゾンビに聞こえているはずだ。
そう考え、左手を口に当て、身体を丸めて音を小さく済まそうとした。

だが、くぐもる声しか漏れさなかった為か、それとも廊下に響き渡る悲鳴と嬌声でかき消されたのか、ゾンビに気づかれることは無かったようだ。

「…ティク…やりすぎだよ」
「ん…すまん」
「いてぇ…まあ気…にするな…」
「僕が硝子を抜くから…ティク、ピンセット持ってない?」
「だ か ら ん な も ん あ る か ! !」

小声で抗議するティク、そこに命辛々逃げ出すことに成功した女学生2人のうち、先程ティクと口論をしていた女学生が、さりげなくピンセットを差し出した。
アルトリアは丁寧にそれを受け取ると、レインの拳の硝子の除去に取り掛かった。

「あ…すまねぇな…」
「いいわ、私も助けてもらってるし、貸し借り無しよ!!」
「私もです……ありがとうございました…」

2人の女学生が礼を言うと、何となく3人は照れてしまった。
彼ら…異性と付き合った経験が0である。
よって、面と向かって会話をするのは少し恥ずかしい様だった。

そして、重大なことに気付く…

「「(あんた達・お前ら)名前なんだっけ?」」

その場の5人が押し黙ってしまったのは言うまでもない。

〜続〜
10/09/01 13:54更新 / 月影
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■作者メッセージ
(´・ω・`)プロットの段階で某アニメとぶつかってました…はい、ゾンビ物です。

バタリアンとDawn of the Dead(旧)を見ていて書きたくなりました まる
しかし、某ゲームの影響もありそうな予感。

数Partに分かれますが、よろしくお願いします。

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