読切小説
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エンジェルちゃんとハンバーガー食べたい
ある日、僕の家に天使様がやって来た。
……インターホン鳴らして。

「こんにちは!私天界から来た天使のアニーって言います!突然ですがあなたは天界から善行を積んだ人間だと認められました!なのでその報酬としてあなたを幸せにする為に私が派遣されたという訳ですね!さあ何でも望みを言ってください!天使である私に可能な限りのありとあらゆる手段を駆使してあなたを完膚なきまでに幸せなハピネス状態にしてあげますとも!」

とりあえずドアを開けて応対した僕に、マシンガンの様な勢いでセールストーク(?)を展開した自称天使様。
息継ぎ無しで長台詞を言ったからだろう。肩で息をしている。
背中に羽つけて、頭の上に天使の輪が浮かんでるし外見はまあ天使だ。
良くできたコスプレ衣装だと思う。
うん、相手しちゃダメな手合いだコレ。

「間に合ってます。お引き取りください」

丁重にお断りしてドアを閉めようとすると、彼女がドアの隙間に足を挟みこんで来る!

「ちょっと待っ……」

ガンッ!

「あ痛ぁぁぁぁぁっ!」

結構強い勢いでドアを閉めようとしていたので、必然的に彼女の足を挟んでしまう。
マズい! 不可抗力とはいえ、女の子を怪我させたとあっては男の名折れだ!
例え相手が自称天使様の不審者だとしても!

「ちょっ、大丈夫ですか⁉︎
あのタイミングで足挟み込むなんて正気ですか⁉︎ バカなんですか⁉︎
コレで怪我してもそちらの過失による責任が大きくなりそうですが、その辺りは後でお話するとして怪我無いですか⁉︎」

「心配してるのか貶してるのかどっちなんです⁉︎
後、そのやたらと説明臭いセリフは何なんですか⁉︎
過失とか言われても意味が分からないんですけど、私……!
ううっ……」

おおう、中々キレのあるツッコミが返って来たな……
これで不審者じゃ無ければ仲良くできたかも知れないけども。
足を抑えてしゃがみ込む彼女にもう一度確認する。

「真面目な話、怪我の方はどうです?
無理そうなら救急車呼びますけど……?」

「ノ、ノープロブレム……!」

涙目で笑いながら親指を立てる彼女。
……いや、大丈夫じゃないだろう。
かなり強い勢いで挟んでしまったし、普通に怪我してる筈だ。
仕方ない、救急車呼ぼう。
僕がスマホで119をタップしようとすると彼女が声を上げる。

「ストップ119! 救急車はマズいです!
私、戸籍とか無いので色々メンドイ事になります!
なぁに大丈夫!
この程度のケガ、私のエンジェルパワーでこう……しゃららーん♪」

彼女が足元に向かって指を振ると、何かキラキラした粒子みたいなモノが脚に纏わりつく。
何だアレ……? 手品……?

「復活! 復活! 私、復活!」

そう叫びながら、元気に立ち上がる自称天使様。
無事をアピールするためなのだろう。
その場で入念に屈伸運動を始める。
我慢したり、痛がってる様子は無い。

「ふふーん、見ましたか私の『回復の奇跡』!
どうもあなたは私が天使であると信じてなかったご様子。
しかし今ので理解できたでしょう?
この私がホンモノの天使であると!」

「奇跡……?
そんなバカな。魔法で治したとでも言いたいんですか?
いくらなんでもそんな……」

「奇跡も、魔法も、あるんだよ……」

何故か遠い目でそんな事を言い出す自称天使様。
わけがわからないよ……

ぐうぅぅぅっ……

突如目の前の自称天使様の方からそんな音が聞こえて来た。

ぐうぅぅぅっ、ぐぐうぅぅぅぅっ……

立て続けに響き渡る音。
間違いなく彼女の腹の音だ。

「腹、減ってるんですか……?」

「そうみたいですね!」

まるで他人事の様に答える自称天使様。
後から思えばその時の僕はどうかしていた。
こんな不審者相手にどうしてこんな事言ってしまったのか……

「じゃあ、何か奢りましょうか? そんな高いモノは無理ですが」

僕の言葉にその娘はキョトンとした後、心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。

「ホントですか⁉︎ 嬉しいです!
実はかれこれ3日程マトモな食事してなかったので……!」

その笑顔を見た瞬間、僕の心臓が高鳴る。
何だか気恥ずかしくなった僕は目を逸らしてしまう。

「……近所にあるハンバーガーショップで良いですよね? そこが1番近いので」

「はんばーがー? 何だか強そうな名前の食べ物ですねー。
何にしても楽しみです、とっても!」

ハンバーガーも知らないのか?
まさか本当に天使だったりして?
何考えてるんだ僕は……
そんな現実離れした事ある訳ないだろ……

「とりあえず行きましょうか?
何だか僕もお腹空いて来ちゃったので」

「あなたもお腹ペコペコですか。
私たちペコペコ仲間ですね!
ユニット名なんですが、『PEKO PEKO PARTY』……
略して『P3』とかカッコいいと思うんですが如何でしょうか?」

「何の話してるんですか……」

僕たちはそんな馬鹿話をしながら、駅前のハンバーガーショップに向かった。
途中で彼女から天界とか、魔物とかどこまで本当なのかさっぱりわからない話をしながら……
楽しい、と。そう感じてしまった。彼女と話すのが。
本人に言うと調子に乗りそうなので、絶対言わないけど。



ハンバーガーショップに着いた僕たちは、サッサとスマホで注文を済ませて席に着く。
モバイルオーダーというサービスの普及のお陰で、ファーストフード店はほとんどレストランと変わらない感覚で利用できる様になった。
便利な世の中になった物だ。
彼女の分は僕と同じ「テリヤキバーガーセット」にしておいた。
とりあえず肉食わせとけば良いだろう、という安直な考えで決めた。

「いやー、何から何までスミマセン。
自分で言うのも何ですが、私の知っている下界の知識は偏ってるので……
こういう店での立ち回り方とかは全然知らなくて」

「別に構いませんよ。
それより……アニーさんでしたっけ?
今さらなんですけど、貴女って本当に天使なんですか?」

「……?
本当も何も最初からそう言ってるじゃないですか。
私はあなたを幸せにする為に天界から来た、と。
それは真実です。神に誓って」

はっきりと。
そう言い切る彼女の目には迷いが無くて。
僕は何故かソレを正視出来なくて……目を逸らしてしまった。

その時、僕たちのテーブルに料理が届く。
ホール従業員から料理を受け取った僕たちは早速食べようとしたのだが……
肝心の彼女がハンバーガーを凝視したまま動きを止めてしまった。
ああ、ひょっとして……

「食べ方、分からなかったりします……?」

僕の言葉に彼女はコクコクと頷く。

「お恥ずかしながら……
えっと、バラバラに解体して食べるんですかコレ?」

「まさか。こうやって食べるんですよ」

僕はハンバーガーを手で掴み、かぶりつく。
正しいマナーとかは知らないけど、多分これで合ってると思う。

「おー、ワイルドですね!
オレサマオマエマルカジリですね!」

彼女は僕に倣ってハンバーガーにかぶりつく。
はむっと。豪快に。
その表情がみるみる明るくなって、喜びがこちらにも伝わって来る。

「ん〜っ……美味しいです! とっても!
こんな美味しい食べ物があるなんて……!
下界、恐ろしい場所!
先輩のエンジェル達が下界に行ったきり、『探さないでください』ってメール送って来て蒸発するのが良く分かります!
お陰で私たち後輩の作業量がヤバい事になるんですが、そうなっちゃうのも仕方ないですね!
初めて食べたハンバーガーは堕天味!
思い出の味ですよ、コイツは……!」

「……それは良かったです」

喜んでくれたのは嬉しいが、天界とやらの生々しい労働環境が垣間見えて複雑な気分になってしまった。
その後、何度もハンバーガーにかぶりついては幸せそうな顔をする彼女を見ながら僕もハンバーガーを食べる。
いつ以来だろう? 誰かと食事するなんて。
何か良いな、こう言うの……
僕がそんな事を考えてると、彼女の頭の上の天使の輪がオレンジ色に発光し始める。

「むむっ! ビビッと来ましたよ!
あなた今『幸せ』を感じましたね!」

「はぁっ? 何を根拠にそんな……!」

「ふっふっふっ、無駄ですよ。天使の私に嘘は通用しません!
何を隠そう、私の頭上の天使の輪にはあなたの感情を感じ取る機能があるのですから!
まぁ私も下界に降りる時に初めて聞いたんですけど、この話」

「そんな厄介な能力持ってるとは……!
後、雑ですね天界も貴女自身も……自分の能力なのに知らなかったんですか?」

「……人員不足なので」

ボソッと呟いた一言から闇を感じる……
そもそも質問の答えになってない所も含めて。
僕の中の天界って世界のイメージがどんどん塗り替えられて行く……

「まぁ何はともあれあなたを幸せに出来て良かった……
察するに私と一緒に食事したから幸せを感じられたんですよね?
なるほど、なるほど……ではこれからも一緒に食事を取りましょうね?
そうしてもっともっとあなたを幸せにするのが私の使命なので!」

「……ちょっと待ってください。何ですか、これからもって。
まさかとは思いますけど、ずっと僕に付き纏うつもりなんですか、貴女?」

「当たり前でしょう?
あなたを幸せにする、という使命には期限なんてありません。
だからこれからもずっと一緒ですよ? あなたと私は」

それが当然と。
何の疑問も抱かずに。
彼女は断言する。

「……っ! 困りますよ、そんなの!
僕にだって生活があるし、それに……男女が一緒になんて、その……」

「大丈夫! 絶対何とかなります!
だって私天使ですよ? いざとなれば神の御加護でゴリ押ししますとも!
だからあなたは大船に乗ったつもりでいてくださいね?
きっとあなたを世界で1番幸せにして差し上げますから!」

その時の彼女の笑顔はとても眩しくて……
真っ直ぐに僕の心に突き刺さったのだ。
僕は彼女に見惚れながら、確信していた。
きっとこれからも彼女には敵わないだろうな、と。
……しょうがないよ。きっとコレがそうなんだ。
「惚れた弱み」とはこう言うモノだと。
僕はこれから先もずっと思い知らされる事になるんだ。
彼女の頭上の天使の輪は、いつの間にかピンク色になっていた。
僕の内心を表すかの様に……
21/11/20 22:00更新 / H.H

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