連載小説
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2.Feel me
「森の中?」

「そうじゃ。入ったばかりの所と結構奥にな」

依頼は二件あった。
一つは届け物。もう一つはマリーの個人的な物。
マリーの身長1.5倍はあるリュックを背に掛けている。

「これがなかなかな物でな」

中身の入っていない瓶をカインに見せる。
リュックには空の瓶がいくつも入っている。

「蜜か……。ハニービー?アルラウネ?」

森に空き瓶を持っていけばおのずと使用できる機会が限られてくる。
水を汲もうにもコルクの栓では不釣り合いであるからだ。
そしてこの森。
鬱蒼と生い茂る木々や草木をかき分けて進んでいると、出会ってしまう相手も予想がつくからだ。

「この森のアルラウネが旦那を捕まえた、もとい結婚したらしくての」

嬉しそうに笑顔で喋るマリーをしり目に、カインは考えごとをしていた。
アルラウネが二つ返事で蜜を渡すのか、と。

「のぅ、お前様。聞いても良いか?」

「ん?どうかした?」

唐突にマリーが口を開くと、飛び出した内容は質問だった。

「何も説明せず連れまわしておるが何とも思わぬのか?」

質問の内容は、ギルドから今に至るまでの一件であった。
宿屋のエリから紹介状を渡され、ギルドに辿りつけば惑わされ、気が付いたら内容も知らない仕事を引き受けることとなった。
思い返してみれば断るタイミングなどいくらでもあり、途中で逃げ出すという選択肢もあった。
カインは旅人という立場を活かした言い訳もでき、逃げ出してしまえば行方をくらますこともできた。
なぜそうしなかったのだろうか。
理由は明白だ。

ただ、おもしろそうだったから。

「まぁ、成り行き?面白そうなら手を出してみるのも一興さ」

あっけらかんに言うカイン。
そう言われたマリーは目を丸くしており、茫然としたまま歩いている。

「と、ところでお前様。お前様は戦えるのかの?」

ふわふわの手を素早く前後させ、パンチをするような動きをした。
背丈が小さいものだから一瞬何をしているか分からず、動きを頭の中で繰り返して思い出しながらやっと気づくことが出来た。
戦えるか、と投げかけられたカインは自分の両手を見て考えた。

「いや、素人に毛が生えたくらいだよ。君の手みたいにね」

くくっ、と笑いながらマリーの両手を見る。
マリーは自分の手を見てはっとし、頭にきたのか角をカインに押しつけている。
刺したいのだろうか角がカールしているため、うまく刺せずぐいぐいと押してしまっている。

「で、じゃ!こうなった理由を話しておくぞ?」

語気を強めながら喋る。
マリーが説明した内容をかいつまんでみるとこうだ。

珍しく独り身の旅人が来たから確保しておくと後々楽だ。
ギルドの仕事を頼めばしばらくは滞在してくれるだろうし。
あと、人が良さそうだから好きになさい。

三行でまとめることのできる内容をマリーは長く、サバトの事を交えながら話していた。
現状のサバトの財政難から脱出するためにも自ら依頼を受け、道中で拾い物があればプラスの収支になる、と。
半分以上がギルドと関係が無かったためカインは真面目に聞くことをやめ、空を眺めながら聞いたふりをしていた。
当のマリーは説明に夢中になっていたためか気づいていない。

「わかった。しばらくは手伝うよ?」

「おぉ!それは助かる!サバト支部からも助力はするぞ?」

結構です、と冷たくあしらうカインに、マリーは小さな体で憤慨し、カインの背中に飛びついていた。

「お前様よ!人の好意は受ける物じゃぞ!」

「だってバフォメットだもん」

背中にマリーを乗せたまま、子供の様な言い訳をするカイン。
マリーは更に憤慨し、器用に背中に掴まったままばしばしと背中を叩く。
ふわふわとした手のせいかカインはマッサージのようにしか思えず、小さな声でもうちょっと下、と呟いている。

広い森の一本道を黒い背中にバフォメットを乗せた、黒い男が歩いている。男の髪は黒檀のように黒く、青い海を押し込めたような瞳。
首筋には黒い模様が、外套は黒く、少女を背に乗せて歩いていた。
13/05/10 23:44更新 / つくね
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■作者メッセージ
やっぱりエロがない!不思議……

何かあったら耳元で囁くように教えてもらえると幸いです。

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