連載小説
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メダルと欲望と毒舌魔女B
「ハハハハハ!壊れろ!壊れろぉ!」
蜘蛛の異形ースパイダー・ゴレイブーへと姿を変えた男は、街を滅茶苦茶にし始めた。腕から白い糸を出しては建物に張りつけ、壁を力任せに崩していく。口からは紫色の液体を放ち、それを浴びた物は無惨に爛れていた。素肌にまともに食らおうものならば、地獄の苦しみを味わうことは容易に推測出来る。
「何なのあれ?何なのあれ?」
「んなこと俺が聞きてぇよ」
ヒノ達は今、路地裏へと逃げこんでいた。
人々が逃げ惑う中この判断が正しいのかは、今は誰にも分かりかねることだった。
「よし、俺があいつぶっ飛ばしてやる」
「ヒノ!?」
「本気ですか!?」
ああ、と短く返事をして首をポキポキとならす。
「こちとら色んな場所行って体は鍛えてあるんだ。あんなやつ相手にすんのは初めてだけど、お前らを逃がすまでの時間稼ぎは出来んだろ」
軽く体を動かしながら、スパイダー・ゴレイブを一瞥する。
「でも、ヒノさんはどうするんですか?」
「テキトーに相手して逃げるさ」
そのあとは自警団に任せる、そう言いながら路地裏から出ていく。まだヒナタが何か言いたそうにしていたが、ティセがゆっくり首を横に振ると言葉を飲み込んだ。
「ヒノ、死んだら許さないわよ」
「おう、任せとけ」

















「脆い、脆すぎますね。神の力の前には何者も無力ですね」
街道のど真ん中で両手を広げ、恍惚とした声色で呟く。
ヒュウッ!
突如スパイダー・ゴレイブに影が差すと、その影はすぐに濃さを増し。
「うぉらぁぁ!」
ヒノの鉄拳が地面にめり込んだ。
「ほう、出てきましたね」
間一髪で避けたスパイダー・ゴレイブは愉快そうな声を漏らす。
「魔物は全て祓います!消えなさい!」
一時の間も置かず溶解液が放たれる。それはヒノへ向かって直進する。
「当たるか!よっと!」
素早く体勢を立て直しサイドステップでその場を離れる。ヒノが足を着けると同時に溶解液が石畳に着弾し、悲惨な光景を作り出した。
「死ね!死ね!」
「よっ、はっ、とっ、ほっ」
次々打ち出される溶解液をステップや側転、時に上体だけを大きく後ろに反らして交わしながらスパイダー・ゴレイブとの距離を詰めていく。
順調に距離を縮め、あと少しでヒノの拳の射程範囲に入る。思い切って飛び込めば意表をついて叩き込める、そのような考えが脳裏に過る。被害は小さくしておくに越したことはない。ヒノはその作戦を実行した。
「とりゃあああっ!・・・・・・!?」
「掛かりましたね」
ほぼ零距離。届きそうで届かないところで、ヒノは全く動けなくなった。
「私の周りに無数の糸を張り巡らせておきました。貴方は私の掌で踊っていたにすぎないのですよ」
顔をしかめる。誤算だった、このような姿の者が直線的な攻撃能力しか持っていない訳がない。ヒノは自分の浅はかさを恥じていた。
「この距離なら避けられませんね」
スパイダー・ゴレイブが溶解液を掛けようとした時。
「『ファイアバレット』!」
「ぬおっ!」
ヒノの後方から火球が撃たれ、まともに食らったスパイダー・ゴレイブは大きく吹き飛んだ。
「大丈夫かい」
「悪い、助かった」
首だけを動かし、後方を見たが。
「ったく、久しぶりに遊びにきたらなんてことになってんだよ」
声はすれども姿が見えない。ヒノが戸惑っていると。
「下見なバカ」
やっと姿を確認出来た。ヒノの腰ほどまでしかない少女であった。
「魔女、さんかな?」
「他にどう見える?『ウインドカッター』」
彼女の魔法により、ヒノを縛っていた糸が切り刻まれ、再び自由の身になる。
「っぐぅ、魔族が調子に乗るな!」
少しだけふらついたが、まだまだ動けるであろうスパイダー・ゴレイブが激昂する。
「『フレイムバルカン』!」
即座に魔力を練り上げ、人差し指と親指と中指を立てて銃を象ると、無数の赤い弾が撃ち出される。赤弾は次々とスパイダー・ゴレイブに命中し、次の行動に移ることを許さない。
「逃げるよ」
「あ、おい!引っ張んなよ!」

少女ークレットーに足を引かれ、若干ふらつきながらその場をさるのだった。
「・・・っく、絶対に逃がしませんよ!」
















「災難だったね」
「腕っぷしには自信あったんだがね」
二人は通りの外れにある倉庫へと避難していた。先程戦っていた場所からはそれほど離れていないため、見つかるのは時間の問題だろう。
「ババアにはミスの尻拭いさせられるし、足は痛めるし、化け物に出くわすわ。今日は厄日か?」
行儀悪く胡座をかいて悪態をつくクレット。そんな彼女を尻目にヒノはこれからのことを考えていた。
(真っ向勝負は危険だな。だからって魔法も効果が薄そうだったし、どうすりゃいいんだ・・・)
ブオン。
二人の間でそのような音が響いた。
「なんだ?今の?」
ちらりとクレットを見れば、何やら慌てた様子でポーチをかき回している。一度目を大きく開くと、手をポーチの奥に突っ込み水晶を取り出した。それは炎のように赤く輝いていた。
「この近くに『アレ』が?」
「どうかしたのか?」
ヒノの問いには答えず、当たりをてくてくと歩き回る。水晶が場所によって輝きを強まらせたり弱まらせたりする。
倉庫の隅へ移動。光が弱まる。元の位置へ。光が強まる。入口付近へ。光が弱まる。元の位置へ。光が強まる。魔法を使って倉庫の天井へ。光が弱まる。元の位置へ。光が強まる。

「まさか・・・」

怪訝そうな顔でヒノを見る。
「お、俺、何かしたかい?」
「あんた、変な形の鉄の塊持ってないかい?」
『変な形の鉄の塊』。思い当たるものが一つあった。
「っと・・・」
バッグを漁る。色々と詰め込んでいるため、探すのに少しばかり時間をとったものの、目当てのものを取り出した。
「これか?今朝ひろったんだけど」
目を丸くするクレット。奪うようにしてそれを引ったくると、じろじろと見回す。
「目立った外傷は・・・ないな。メダル・・・ある、スキャナーもちゃんとついてる・・・」
「何ぶつぶつ言ってんだよ」
一通り眺めた後、ヒノに向き直る。その目にふざけている様子はなかった。
「あんた、諦めは悪い方かい?」

















「奴ら、何処へ行った?奴らは絶対に消します!」
「俺なら此処さ」
スパイダー・ゴレイブがヒノ達を探し回っていたところに、ヒノが姿を表した。
「諦めてでて来ましたか」
「生憎、諦めは悪い方でね」
そう言うヒノの腰には鉄の塊、ベルトが巻かれていた。
「は!今更何が出来ると?力の差は歴然でしょう」
ベルトのメダルがはまったバーを斜めにして、右腰のスキャナーを手に取る。一連の動作をしながら、ヒノはクレットとのやり取りを思い出す。
(そいつはウチのバフォが作った新型の鎧らしい)
(鎧?これが?)
(そいつにメダルを嵌め込んで腰のスキャナーで読み込むと、対応した魔物の力纏って戦える・・・らしいよ)
(だいたいわかった。つまりこれを使って戦えってことだな)
(だけど事態が好転するとも限らない。それでもやるかい?)
(それでも・・・)
「それでもやる!それが俺達『オーガ』だからな!」 スキャナーを握りしめ、右からメダルを読み込んだ。
キキキン!
「変身!」
(『ハーピー!』『ワーキャット!』『デビルバグ!』ハ!キ!バ!ハキバハッキッバッ♪)シャキーン!
男性の声と歌をその耳に響かせながら、ヒノの体が変化する。ベルトから放たれたメダル形のオーラが3つ、頭・胸・足へと移動し、ヒノに被さっていく。
頭に移動したメダルは羽を広げた鳥を模したゴーグルに変化し、ヒノの両目に装着された。
胸のメダルは大きな円形の装飾が着いた胸当てへと変化した。円の中には上中下段に別れ、それぞれ鳥・猫・虫をイメージしたレリーフが描かれている。更にヒノの両肘から先が橙色の毛に覆われ、掌に肉きゅうが出来る。さながら猫の手である。
そして足のメダルは黒光りする脚甲となった。所々窪みで線引きされており、まるで昆虫のようだ。
「お前ぶった押すけどいいよな?答えは聞いてねーけど」
「ふ、出来るのですか?」
「俺に質問すんな!行くぜ!」
雄叫びを上げてスパイダー・ゴレイブへと突進していくヒノ。
「ふん!」
溶解弾が放たれる。胸当ての円形の上部と下部が光る。
「ふん!ふん!」
休む間もなくできれば放たれる溶解弾。ヒノはそれを辛うじて避けていく。いや違う、最小限の動きだけで避けているのだ。
(すげぇ・・・。さっきより格段に見えるし動ける!)
此れならばこの蜘蛛男に決定打を与えられるかもしれない。そうしているうち、ヒノは蜘蛛男の眼前へと迫っていた。
「ひいっ!」
「覚悟しな」
顎を揺らす回し蹴り。間髪入れずに連続パンチを叩き込む。
「がっ!たっ!きっ!りっ!ばっ!」
「おらおらおらっ!うらあっ!」
一際強力なストレートで敵を吹き飛ばす。
「しゃうたあっ!」
悲鳴を挙げながら吹き飛び、壁に激突したスパイダー・ゴレイブ。
「はあ・・・はあ・・・、ならば!」
鍵盤を引くように両手をわきわきと蠢かせる。微かにしゅるしゅるという音が聞こえた。間違いない、先程の糸を張っているのだ。
「糸を張りました。近づけばまた動けなくなりますよ」
得意気に言っているが、言葉の端々には動揺が感じとれる。形勢を巻き返されかけているのが、結構な負荷になっているようだ。
「そーか?とも限らねぇぜ」
余裕を持った軽口を叩きながら、ヒノは目と両手に意識を集中させた。
(この目なら見える筈だ。あと胴体がワーキャットなら・・・)
胸の円形の内、上部と中部が光る。するとヒノの視界が変わる。世界が更に明るく、細やかに見えた。そしてスパイダー・ゴレイブの周囲を囲む無数の細い糸。見えさえすれば、まずかかることはない。気がつくと両手の猫手には、鋭利な爪が発現していた。
「おおおおおっ!」
さらに大きな雄叫びと共に突進する。無数に張り巡らされた蜘蛛糸を切り捨てていく。そして標的の目前へ辿り着くと。
「覚悟、いいかい?」
「よ、よくない!」
「答えは聞いてねぇっ!」
まず縦切り。次に横切り。突き刺し連打の後に。
「ふん!でぇや!」
突き刺したまま、真後ろへと投げ飛ばした。
受け身などとれる筈もなく、頭から石畳に墜ちていく。もう大分重症なのか、びくびくと痙攣している。
「決めるか」
スキャナーを取り、変身した時と同じようにしてメダルを読み込む。
キキキン!
(スDャニングチャージ!)
声が響くと、ヒノの胸の円形が上中下段全てが光を放つ。
「たあっ!」
垂直に跳ねる。ジャンプが頂点にまで達すると、ヒノとふらふらと起き上がったスパイダー・ゴレイブを繋ぐように、円形のエネルギーが3つ出現する。
「せいやあー!」
その3つのエネルギーを通りながら、ヒノは強烈なジャンプキックを放った。それは一直線に標的を捉え。
「ウボアー!」
スパイダー・ゴレイブに炸裂、爆発させた。
爆発の中から男が姿を現す。その右頬からカードが剥がれおちると、青い炎に包まれて跡形もなく消え去った。
「・・・かふっ」
情けない声を上げて前のめりに倒れる男。どうやら気絶したようだ。
「これが・・・仮面・・・ファッカー・・・」
建物の陰から一部始終を見ていたクレットは、静かに呟くのだった。

















To be continued・・・

現在使用可能メダル
ハーピー・カラー
ワーキャット・カラー
デビルバグ・カラー
11/05/23 02:48更新 / Joker!
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■作者メッセージ
土下座する準備は何時でも出来ているっ!
どうも、Joker!です。
序章を投稿してから早3ヶ月。本編やっちまいました。
井上テクニックが含まれているでしょうが、そこもパロディと言うことで・・・、駄目?

とりあえず、腐乱死巣様に最大級の謝辞を。ライダー少女風になってしまいましたが、お気に召しませんでしょうか?
そして序章の方で感想を下さった皆様。幾つもの挫折を味わいながらも形に出来たのは皆様のお陰です。

此処からはどうでもいい設定を。
ネタ元準拠。
主人公ヒノ・ウェジー、ネタ元の主人公の名前を捩りました。
相棒役クレット、アンクレットから。
ヒロイン(?)ヒナタ・レイク、これもネタ元のヒロインから。元の方のような怪力は有りませんが。
店長ティセ・ホワイトストーン、名前は捩り、後ろはそのまま英訳。
蜘蛛の人、やっぱ初回の敵は蜘蛛ですよね?
敵役ゴレイブ、神の奴隷。god+slaveの造語。

では最後に次回予告でお別れしましょう。




〜♪
『次回!仮面ファッカーオーガ!』



ヒノ「良いもん手に入れたぜ」
クレット「下手したら大変な事になるよ」
ナルシャ「仮面ファッカーオーガの誕生じゃ!ハッピーバースデー!」
ヒナタ「僕、ヒノさんに危ないことしてほしくないです」
ヒノ「欲に塗れんのは悪いことじゃねぇよ。そうじゃなきゃ、守れないこともある」









嘘です。Jokerは何も考えてはおりません。

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