読切小説
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手厚いお世話に、触れ合いを
私がそこで生まれたのはどうしてなのか今でもわからない。
鳥達が運んでくれたのかもしれない。もしくは魔界の王女が触手の森にするつもりだったのかもしれないし、どこかの商人が落としていったのかもしれない。はたまた、誰かに捨てられたのかもしれない。
どうしてだか分らなかったが私は魔界の森の中で芽を出した。
周りに触手はなく木々も普通なものであり眩しい日差しが差し込んでくる。それでも空気に混じった僅かな魔力からここが魔界であることは理解できた。

だが魔界であっても普通の森となんら変わらないこの場所では訪れる者はいなかった。

空気中の魔力だけでは足りない。もっと魔力を求めて触手を伸ばすが私自身の触手は短く、操れる触手は他にない。雨は時折降り注いでも魔力の渇きは誤魔化せない。
どうしようと困っても魔力を貰える女性は訪れない。来るのはせいぜい獣を狩るマンティスぐらい。魔力を貰おうと触手を伸ばすが届くはずもなく彼女は何事もなかったかのように去っていく。
どうしよう。そう困り果てていたその時。

「…なんだこれ」

黒いズボンと金色のボタンを付けた黒い上着、さらには黒い髪の毛と黒い瞳をした人間が―貴方が現れた。







初めて出会ったその時から貴方は何度も私の元へと訪れた。
私の事が珍しかったのかとても興味深い目をしながら蠢く私へと指を伸ばす。温かく、優しい指先へ私は体を絡ませた。滴る粘液を掬い撫でてくれる感触はとても心地良いものだった。
それでも時間が来れば離れてしまう。それはとても寂しいこと。貴方には帰る場所があるのだからそれは仕方のないことだった。
だけど私は絡みつくのをやめない。貴方の指先を離そうとはしない。

「…全く仕方ないな」

そう言った貴方は私の傍で夜中まで一緒に居てくれた。
私は貴方が言ってくれるその言葉が好きで、私と共にいてくれる貴方が大好きだった。

「ほら、水だよ」

そしていつも訪れる際には錆びついた如雨露を持っていた。私の事を普通の植物と同じと考えていたのか水を根元に注いでくれる。
だが触手である私にとって必要なのは魔力であり水ではない。気持ちは嬉しいが魔力がなければ枯れてしまう。
時に貴方は私の生える土中に動物の骨の粉をまいてくれた。でも魔力の宿らぬただの骨はやはり私の飢えを満たしてはくれない。
またある時には魚を粉にしたものをまいてくれた。それが私を助けるために用意してくれたものだとは分かってもやはり私の体を満たしてくれなかった。



―それでも私へ向けてくれる優しさがとても嬉しかった。



ある時貴方は商人のゴブリンと共に来た。
元々人懐っこい性格と商人という職業柄なのか彼女は貴方に抱きついたり抱っこされたりと甘え放題だった。それは魔物と人間のあるべき姿。仲睦まじい様は祝福すべきもの。

そして、魔力を得るための格好の餌食だ。

本来なら私は彼女の頭の中がぐちゃぐちゃになるまで粘液と愛撫を行い、二人に性交を促す。交わる魔物からは大量の魔力が漏れ出しそれが私にとっての餌となるからだ。
だが私にその気が起きなかったのは動かす触手が自分以外になかったのと、貴方の隣に女性がいたからだろう。

仲良く話す姿は私の目にとても羨ましい光景だった。

でも私には楽しく話す口はない。

触れ合う指先など持ち合わせていない。

微笑みを向ける顔も魅力的な体も何もない。



―私は、触手なのだから…。





「ほら」

ゴブリンの商人が帰った後で貴方はいつも私に水を注いでくれる如雨露を持ってきてくれた貴方。だが、いつもと違って中から魔力があふれ出していることに気付いた。

「さっきあの子から買った肥料だよ。普通の肥料じゃなくてこれなら元気になってくれるかな」

空気中に漂うものを濃縮したようなそれは私の体へと降り注ぎ、私の体を潤してくれた。枯れかけた私はようやく一命を取り留めることができた。

「…そっか。やっぱり知らない植物じゃ勝手が違うもんだなぁ」

私が元気になる姿を嬉しそうに見守ってくれた貴方。伸ばされた指先に絡みつくと優しく笑ってくれる。それが私も嬉しくて何度も何度も貴方に絡みついていた。





それから貴方は私に何度もその水を注いでくれた。おかげで女性が来なくとも私は十分な魔力を蓄えられ生きることができていた。
全ては貴方のおかげであり、感謝すべきこと。感謝なんてものだけでは足りず恩返しなんてできるかもわからないほどの事だ。
だけど私は触手。感謝を述べる口はなく、恩を返せるものはない。
そして何より私はこの場所から動けない。地中に根を張っている故に貴方が来ることを待つことしかできない。そして貴方が来なければ生きることはできなくなってしまう。
だけど、貴方は毎日如雨露を片手に来てくれた。
晴れた日も、雨の日も、雲に覆われた空の下でも、照りつける日差しが厳しい中でも。



―暴風雨にさらされた嵐の中でも。



風が吹き荒れ雨粒が叩きつけたその日。木々がざわめき葉が千切れるほどの風と雨の中で貴方は必死で私を守ろうとしてくれた。
成長した私の体は大きくなってしまったから風よけになるものはなく、雨を凌げるものもない。だから貴方は必死に私の根付いた土を掘って私を別の場所へと避難させようとしてくれた。
大きく広がってしまった私の根を傷付けまいと二つの手で、爪を立てて土を掻き出してくれた。

「…っ」

何度も何度も土を掘っていたからだろう、貴方の指先からは血が滲んでいた。土中の石で切れてしまったのか、鮮やかな赤色が私の上に滴り落ちてくる。初めて感じる貴方の体液は雨よりも温かかった。
それでも貴方は土を掘るのをやめず血と土が混ざり合っても手を動かして私の根を探す。
やめてと叫びたかった。自分の命がかかっていても貴方に辛い思いをして欲しくなかった。
貴方がずぶ濡れで泥だらけになった頃、ようやく根を全て掘り返すと貴方は私を優しく抱きしめてくれた。雨の冷たさで震える腕に抱えられて私は貴方の住む家へと運ばれた。
廃れた小屋の中で貴方は大きな植木鉢に私を植え直してくれた。敷き詰めた土は私のいたところと同じものですぐさま馴染むことができた。

「あぁ…よかった…」

疲れたように床に座り込んで安堵のため息と共に漏らした言葉に私は泣きたくなった。
涙が流せるのなら枯れるまで泣いただろう。
声が出せるのなら声が掠れるまで喚いただろう。
それでも貴方は優しい笑みで私に笑いかけてくれた。
それがどれだけ嬉しくて、申し訳なかったことか。

―ごめんなさい。

そう伝える言葉を私は喋れなかった。

―ありがとう。

そう言える口を私は持っていなかった。

―震える体を温めたい。

そう思っても貴方を温める体は私にはなかった。



―とても…大好きです。



そう想っても貴方へ伝える方法が私にはなかった。



その日から私は貴方の傍に居ることとなった。
毎日日が昇るころに起き、日差しが窓から差し込む時間帯に水をくれる貴方。時には植木鉢を抱えて外で日向に置いたり、害虫がいないか念入りに調べたりもしてくれた。それでいて私に指先を絡めて撫でてくれる。
普段と何も変わらない。いつも一緒にいる時間が増えただけの毎日。
だけどそれが心地よくて、いつも一緒に居られることが私にとっては嬉しかった。訪れる時にしか共にいられなかった前と違っていつも貴方が傍に居てくれた。甘えるように体を伸ばせばいつも遊ぶように指先で撫でてくれた。


―その毎日はとても心地よいものだった。


―だけどそれだけでは物足りなくなっていた。


貴方とともにいられる時間は好きだ。だけど私は貴方に何もしてあげられない。
貴方が触れてくれる瞬間が好きだ。でも私は貴方に何を返せただろうか。
私は何度彼に命を救われたことか。だというのに私は恩を返せていない。この感謝の気持ちを伝える手段が私にはない。

―自分が触手であることを恨んだ。

―だけど愛してくれるこの体を嫌いにはなれなかった。

―でも、貴方へ抱いた気持ちはどうもできなかった。





いつものように貴方は眠りについていた。こじんまりとしたベッドの上、窓から差し込んでくる月明かりに照らされながら貴方は穏やかな寝息を立てていた。
対して私は貴方の傍の窓際にいた。隣にはいつも私に水をくれた錆びた如雨露が置いてある。今はないが私のために用意した魔力の混ざった水が入っているものだ。
いつも貴方がくれる水はあのゴブリンが来た日から魔力が溢れたものとなった。彼女から何かを買い取ったというわけだろう。
それがきっと如雨露の向こう側にある紫色の液体だ。瓶詰されているが私が触手であるからか濃密な魔力だと感じ取れる。ただ近づいただけでもむせ返りそうなそれは人間相手にふりまけばそのまま魔物になることだろう。

―…なら、私ならどうなるのだろうか。

魔力を生きる糧とする触手の私が濃密な魔力にさらされたら、濃厚な魔力をこの体の限界までため込んだらいったいどうなるのか。
それは私にもわからなかった。

でも、迷いはなかった。

あるのは羨望と、感謝と、好意だけ。

私は精一杯体を伸ばし瓶へと絡みつき、力づくで引き寄せて鉢の角に叩きつけた。ばりんっと、大きな音が鳴り響く。私の体には瓶に詰められていた濃密な魔力の塊が降り注いだ。





―それが今までの事。






―そして、今。





気づけば私は貴方の傍に立っていた。
濃密な魔力を被った私の体は大きく膨れ、人の形に近くなっていた。顔があり、首があり、腕があり、お腹があって胸もあってお尻もある。しかし手足の先は指ではなくて触手である。
それでも重なる肌があり、抱きしめる腕があり、絡める触手があって、話すための口がある。
触手ではない体がある。
貴方と触れ合える体がある。

「貴方…」

この体をどれだけ欲しがったことだろうか。
貴方に寄り添えるものをどれだけ求めたことだろうか。
今なら貴方に触れられる。それどころか抱きしめることもできるし、想いを伝える言葉も喋れる。魔物のように、女性のように、一人の人間のように貴方に向かい合うことができる。
ベッドの端に座って眠っている貴方の顔を覗き込む。いつも私に向けてくれた闇色の瞳は閉ざされ優しく話しかけてくれた唇の間からは寝息が漏れている。深い眠りについていることは確かだ。
それをいいことに貴方の着ている服を脱がしにかかる。前を五つのボタンで留めただけのその服は触手の手でも容易に外せ、すぐに貴方の肌が露わになった。普段服で隠れた胸は私のように膨らんでいるわけではない。触れると堅そうな胸やお腹に触手を這わせると思った通りの感触が伝わってきた。
私はそっと体を倒して貴方と重なる。這いまわるように触手を広げ貴方の体を包み込む。

「…温かい♪」

指先しか知らなかった私にとって伝わってきた感触と体温は言葉にできないほど心地よいもの。
腕を伸ばし手を包み込んだ。既にないがそこには私を助けるために頑張ってくれた傷跡がある。その跡なぞるように触手を絡め私は貴方の顔を見た。

「貴方…♪」

いつも感じていた優しい指先。初めて感じる逞しい体。嬉しそうに笑みを浮かべる顔は愛おしく、貴方の全てを感じたいと心が求める。
胸が切なくなり、お腹の奥が熱くなり、私の鼓動は早まって、呼吸は荒くなってくる。
私の胸が貴方の体で押し潰れ、触手が四肢へと絡みつく。感触を確かめるように擦り合わせるとにちゃにちゃといやらしい音が響いてきた。

「貴方…貴方…っ♪」

何度も何度も貴方の体と肌を擦り合わせる。その度に伝わってくる感触は私の体に快感を生み、だけども物足りなさを抱かせる。
もっと欲しい。もっと感じたい。だけど、それ以上に貴方が欲しい。
何が欲しいかはわからない。だけどもこの体はそれを知っているのか自然に手がそこへとのびていた。

「…ん…っ」
「っ!」

びくりと震える貴方に一瞬私は動きを止めた。
起きてしまっただろうか。そう思って耳をすますがしばらくすると先ほどと変わらない寝息が聞こえてくる。ほっと胸をなでおろし伸びた手の先を見た。
夥しい数の触手に覆われたその部分。そこは貴方の男性である象徴であり女性を喜ばすためのもの。私の刺激のせいかそこは大きく膨らんでいる。

「…んくっ」

喉を鳴らして唾を飲み込み私はゆっくりと貴方の体からズボンと下着を取り去った。

「はぁ……っ♪」

初めて見た男性の証。そして、貴方という存在。
それは逞しく反りかえりピンクに色づいていて独特な形をしていた。不思議なものであり体を得た私のどの部分にも、触手とも似ていない。
だけど、とても愛おしい。
ただ見ているだけでも体の奥から何かが湧き上がってくる。
私は恐る恐る貴方へと手を伸ばした。最初はとんっと突いてみる。続いて撫で上げてみるとびくついた。わずかに触れただけでも強く脈打ち震える。ただ触れているだけだというのに私の中には何かいけない気分になって、胸が高鳴った。
今度は数多の触手を広げ、貴方を包み込む。すると燃え上りそうな熱が伝わり、触手の感触に反応する様に跳ねた。

「ぁああ…っ♪」
「…ん、ぁ…」

貴方が私の手の中にいる。力強く脈打つ貴方が私の触手に包まれている。どれも貴方を包むように密着し隙間なく絡みつく。その感触が堪らないのか貴方は上ずった声を漏らした。

「気持ち、いいですか…?」

聞いたところで答えはない。眠っているのだから仕方ない。
だけど私の言葉に反応する様にわずかに貴方は身じろいだ。ただ寝返りを打つつもりだったのかもしれない。体が条件反射で震えただけかもしれない。どっちにしろ貴方が眠っていることに変わりない。
でも私にとってはそれでよかった。
これがただの自己満足だとしても貴方に触れあえるのだから。恩を返せてはいなだろうがようやく私から貴方へ手を伸ばせるのだから。
体をひくつかせる貴方を見て私はもう片方の触手で包み込んだ。先ほどよりもずっと多い触手が絡みつき密着する。先端を嘗め回す様に動いては膨らんだかりをくすぐり、しゃぶりつくす様に触手が蠢く。その都度貴方の眉間には皺が寄り唇の間から切ない声が漏れ出した。

「感じて…いるんですね……♪」

眠りながらも反応してくれる姿に私の中で何かが湧きだす。愛おしさとはまた違う、もっとドロドロとしたもの。それがなんなのかわからないまま私は両腕を上下に振った。触手もつられて上下に蠢く。その度に私に包まれた貴方は一杯触手で擦りあげられた。
何度も何度も上下に振る。にちゃにちゃといやらしい音を立てながら、歪む貴方の顔を眺めながら。
愛おしい。だから気持ちよくなってほしい。
感謝だけでは終わらない。恩返しでは済ませない。もっと熱くあふれ出す感情のまま私は腕と触手を動かし続ける。

「ぅ………ふ、ぁ………っ」

苦しげな吐息と共に貴方は体を震わせた。次の瞬間埋め尽くした両手の触手の間から白濁した液体が吹き出し、私へと降りかる。脈動に合わせて貴方は何度も吐き出してくれた。

「はぁ…♪…あぁあ♪」

触手に粘りついた白濁液。それは私の体液よりもずっと粘着質で不思議な匂いが漂ってくる。この匂いを嗅げばかぐほどお腹の中が熱くなり、もっと別の場所に振りかけて欲しいと心が訴える。
私はこれを見たことがなかったが何だか本能的に知っていた。
これは魔物が最も喜ぶもの。これを注がれた彼女たちの体からは大量の魔力が溢れこぼれてくる。それが私たちを一番潤わせてくれるものであり、一番求める瞬間だ。
それ以外にもこれが男性が気持ちよくなってくれた証だということもわかってる。
つまり、貴方が私の触手で気持ちよくなってくれたという証拠。
私で悦んでくれたという事実。

「あぁ、貴方ぁ…♪」

その事実が私を舞い上がらせる。
もっと悦んでほしくて、もっと出してほしくて私は両手の触手を蠢かせた。先端に絡みつき、裏筋を舐め上げ、根元から何度も扱く。夥しい数の触手でできた壁で締め上げては徹底的に刺激する。

「…ぁっ………ん、く……っ」
「あぁ、いっぱい…♪」

その度その度に貴方は腰を震わせてまだまだ残っていた精液を漏らした。私の触手で気持ち良くなってくれたことを伝えるように何度も震えて吐き出される。
脈動が収まり私が触手を離したそこには粘液に塗れ月明かりでいやらしく照らされる貴方があった。

「ぁあ♪」

きっと貴方は私にもっと気持ちよくされたいはずだ。だから固く脈打ち私を求めるように反り立っている。それならもっと悦んでもらわないと。貴方を悦ばせてあげないと。
私はゆっくり貴方に跨ると触手を使ってそこを広げる。
先ほどからずっと疼いて仕方のない場所。体を持ち、貴方に触れた時から何かを求めていたところ。
それが魔物が男性から精液を貰うための場所だということは知っていた。そして男性もこの中で気持ち良くなることもわかってる。
それならきっと貴方も気持ちよくなってくれることだろう。

「もっと悦んでください…貴方っ♪」

私はそう囁いて眠る貴方を私の中へと迎え、腰を一気に落とした。

「ひゅっ♪」

腰と腰が密着する。貴方のものが私の奥を貫く。その瞬間私の体を激しい快楽が貫いた。

「〜〜〜っ♪」

あまりの強さに声にならない叫びが漏れ貴方に跨ったまま体が大きく跳ね上がった。
何も入ったことのない部分へ肉を割り開いて埋め尽くした貴方。とても熱く脈打って私の中で自己主張する。ここにいるとでも言いたげに私の中で鉄のように固くなる。
今まで触手であり絡まることぐらいしか貴方と触れ合えなかった私が今は貴方と一つとなっている。快楽よりもその事実が私を満たしてくれる。目からは涙があふれ出し貴方の上へと零れ落ちた。

「あ、あな…たと、一つに、なって、ます…♪」

そう言ったところで返事が来ないことはわかってる。それでも私は愛おしい貴方を見下ろして頬を撫でようと触手を伸ばしたその時。

「わっ!」

先に貴方の腕が伸びてきて私の体を捕らえた。力任せに引き寄せられて私は貴方の上に倒れこむ。
一瞬起きてしまったのかと驚いたがどうやら寝ぼけているらしい。貴方の瞼は閉じてまた変わらぬ寝息を立て始めた。
すぐ目の前にある愛おしい顔。瞼は閉じ普段向けてくれた闇色の瞳はないがそれでも見ているだけで嬉しくなる。
そして今の私には見る以外の事もできる。貴方と同じ目があって、鼻があって、耳もあるし、何より言葉を紡げる口もある。
貴方に重ねることのできる唇もある。

「んむっ♪」

私は迷うことなくキスをしていた。重なった唇からは胸とも体とも違う柔らかな感触が伝わってくる。
だけど、この程度では満足できない。ただ重ねるだけがキスではないことだって知っているし、触手のように絡められる舌だって私にはある。
すぐさま舌を差し込み啜り上げる。そうすると表現できない甘さが頭の中まで染み込んできた。美味しくておいしくてやめることなんてできない。眠っていることすら頭の中から消え去りただ貪ることしかできない。

「んむ…♪んん、ちゅ♪…れる、んんん……む♪」

歯の裏を舐め、口内を蹂躙し、貴方の舌を舌で絡め取る。触手とはまた違う柔らかさのあるそれを何度も擦り合わせるとあまりの気持ちよさに頭の中が痺れてきた。
唇を離し、そして体が動き出した。腰は何度も上下して淫らな音を奏でながら快楽を叩きだす。中の肉壁を擦られるたびに淫らな声が漏れ、溢れる粘液が零れ落ちた。それでも動きは止まることなく徐々に乱暴な動きへと変わっていく。
貴方の全てを飲み込みたかった。この固く反りかえったものでもっと私を突き刺してほしかった。
蕩けた肉壁が絡みつく感触が堪らないのか貴方は眠りながらも体を震わせる。それだけではなく耳を澄ませば時折辛く呻く声が聞こえる。しかし痛みを感じてるわけでも苦しがってるわけでもないのは私の中で震える貴方が教えてくれた。

「貴方っ♪あぁ、貴方っ♪私で、ん♪気持ち良くなって…あぁああっ♪い、る、んですねっ♪」

お腹の中を貴方に引っかかる。その感覚全てが快楽へと変換され淫らな体を駆け回る。私の中全てを埋め尽くされ形がわかるほどきつく絡みついた肉壁と擦れるだけで私はだらしなく涎を垂らし貴方の上で乱れ狂う。
気持ちよさに腰が砕けてしまいそうなのに体が動いてしまうのはこれが魔物の体だからか。初めて得る快楽は強烈過ぎて辛いはずなのにそれすらも快楽は容易く塗り替え、貴方への愛おしさで一杯にさせる。

「あ、ぁあ…、あんっ♪」

そして訪れる快楽の予感。今まで感じていたものよりもずっと大きく私の全てを吹き飛ばしてしまいそうな強烈な感覚。体を手に入れて間もないのにこんなものを感じてしまったら壊れそうだと恐怖するが今さら体を止めることはできなかった。
貴方の膨らんだ先っぽが私の奥を押し上げる。何度も何度も突かれるたびに私の中が収縮する。信じられないくらいに固くなった貴方は私の中で大きく震えていた。
次の瞬間、私の中で貴方が弾けた。

「んんんんんんんんんんんんんっ♪」

その感覚と相まって快楽が私の中で爆発する。
私の奥に熱く滾った白濁液が流れ込んできた。先ほど触手で絡め取ったそれは何にも遮られることなく私の中へと注ぎ込まれていく。どろどろと粘つきながら私を汚し、貴方だけのものだと染め上げていく。

「ひゃあぁああああああああ♪」

今までのと比べ物にならないくらいの気持ちよさに悲鳴のような声が漏れてしまう。腰をがくがくと揺らしあまりの強烈さに意識が飛んでいきそうだった。
だけどこの体はそんなことを許してくれない。叩き込まれる快感を全て味あわせようと私の意識を染めていく。一番奥を叩くように噴出される精液の熱も、その度脈動する感覚も、鉄のように固く大きく膨れ上がった感触も全てが全て快楽となって私を埋め尽くす。

「あぁああああああっ♪」

触手に吐き出された時と違う感覚は私を満たしてくれているという充足感。そして魔物の体が一番求めていたこと。
愛しい相手の証を身に受けることは触手で受け取る時よりもずっと濃厚で染み込んでくる。生きるために女性から魔力を得る必要があったのに今の体では貴方の精液で私は潤されてる。魔力よりもずっと上質で濃密なそれは髪の毛の先から触手の先まで広がっていくようにも感じられた。

「ふぁああ…あぁ♪あ、はぁあ………♪」

ようやく快楽の波が引いた頃私の肌からは汗が滴った。息も絶え絶えで体がさっきよりも重い。だけどお腹の中には溢れんばかりの充足感がある。触手で撫でるそこには貴方が注いでくれた熱いものがたっぷり波打ってる。
温かい…♪
貴方の体と違う熱と貴方が私で気持ち良くなってくれた事実に私は笑みを浮かべた。

「貴方……大好きです…っ♪」

自分の中から貴方を引き抜き、耳元で囁いて体を預けるように肌を重ねる。それでも睡眠の中にいる貴方には聞こえていないことだろう。
眠ったままの貴方にこの言葉が届かなくてもいい。
私の感触が記憶に残らなくてもいい。
これがただの自己満足でもいい。
今は貴方を感じていたい。肌を重ね貴方という愛おしい存在を味わいたい。それだけで十分だ。
貴方にとって私は触手。日々愛される存在。本当ならもっと触れあいたいけど貴方が可愛がってくれるだけでも私は幸せだった。
だけどせめて貴方の安らな寝顔を見たい。愛おしいその顔を瞼の裏に焼き付けたい。そう思って顔を横に向け視線を移すと―

「―…ぁ」
「あ……」





闇色に光る瞳と目があった。











それは植物なのか、動物なのかその前に生物であるのかすらオレこと黒崎ゆうたにはわからなかった。
全体的に緑なのだが先端は紫色をした独特の造形。意思を持つように体をくねらせこちらを見上げるつぶらな瞳。そっと指先を伸ばせば嬉しそうに体を絡めつけ時折粘つく液体が滴り落ちる。それ以外は猫や犬のように人懐っこい愛らしいものだった。
それへ毎日通ったのは母親の趣味のガーデニングの知識があったからか、この誰もいない森で出会えた生物だったからか、はたまたただ単に寂しかったからかもしれない。
だが水をあげても元気になる様子はなく、肥料代わりに動物の骨や魚粉をまくが効果なし。そしてある時自分をゴブリンだという商人の女の子から肥料を貰った。というのもその女の子曰くオレのやり方は全然間違っていたらしい。

「テンタクル・ブレイン!?珍しいですね、こんなところに生えるなんて」
「やっぱ珍しいのか。他見てきてもこれが生えてるところ全然ないからさ」
「触手の森の浅い所に結構いるのが普通ですよ」
「…ん?触手?」
「しかし随分と弱って…旦那、いったいどうやってこの子を世話してきたんで?」
「水とか骨粉とか魚粉まいてたけど」
「…旦那、それって普通の植物の場合ですよ」
「いい肥料にはなるだろ」
「確かに肥料にはなりますがこの子に必要なのはまた違うこういった肥料ですよ」

そう言って手渡されたのは紫色に輝く液体。瓶の中で妖しく輝くそれは絵本の魔女が鍋でかき混ぜるような思い切り体に害をもたらすものに見えた。

「いいですか旦那。これを水に混ぜてまくんですよ」
「へぇ、液体タイプの肥料か」
「ただ一気に混ぜてはいけません。あくまで少量ですからね。原液のままやったりでもしたら…」
「枯れるわけだ」
「いや、枯れるわけではありませんが……まぁ、このまま愛でたかったら控えてくださいね」
「…?」

あの子が言いたかったのはこういうことなんだろう。
オレの視線の先には砕け散ったガラス瓶がある。紫色の液体はなくなり、植木鉢も砕け、中に詰まっていた土は内側から爆発したのか四散していた。さらには本来いるべきはずの植物―あの子はテンタクル・ブレインと呼んでいた―がいなくなっている。

―そして、先ほどからオレの上で腰を振り快楽に酔いしれていた一人の少女。

実は先ほどからずっと起きていた。彼女がオレのベッドに近づき、服を脱がし、愛する様に肌を重ねて求めるように触手を動かし絶頂に震えるその様を全て見ていたし、感じていた。

というか、ガラスの砕け散る音で目が覚めていた。

元々夜中の寝つきはあまりいい方ではないし、さらにはあんな大きな音をたてられては起きないわけがない。鉢が砕ける音だって大きかったし囁かれた声は潜められてはなかった。
テンタクル・ブレインと似た瞳と触手を持つ彼女。それは彼女がオレの愛でていたテンタクル・ブレインと同じ存在だからだろう。
だがいきなりそんな現実離れしたことが起きて平常でいられるほどオレは鈍くない。正直戸惑ったし今まで植物と見ていた相手が愛らしい少女になっていたのだ、どう反応すればいいのかわからないのでずっと狸根入りをしていたわけだ。

それは今の彼女も同じだろう。

今まで眠っていると思った相手が起きていた。しかもずっと上に跨って一方的に犯していた。愛の言葉を囁いては全身でオレの体を絡め取っていた。
オレの上で真っ赤な顔をしてどうすればいいのかわからず固まる元テンタクル・ブレイン。元が植物みたいな色合いだったのに顔は燃えだしそうなほど真っ赤になっている。
どうしよう。このままにしておいても事態が進展するわけではないし、かといって変に刺激したら爆発しそうだ。

「…えっと」

気まずい沈黙の中とりあえず普段のように手を伸ばす。

「あぅ…♪」

その頬を撫でると固まっていた彼女は瞼を閉じて嬉しそうに口元を綻ばせた。
植物とは思えない柔らかく温かな感触が伝わってくる。触手であったころに近いがこの感触はもう人となんら変わらないものだった。
その体を抱き寄せると蔦色の瞳と視線がぶつかる。恥ずかしげに頬を染めながらにこちらをまっすぐ見据える彼女にオレは微笑みかけた。
少女であってもテンタクル・ブレインであることに変わりない。彼女はオレの事を全く知らないわけではないし、オレもまた彼女を理解していないわけじゃない。なら、接し方が変わっても余所余所しくなる必要はないか。
そう結論付けると彼女からも腕を伸ばして抱きしめてくる。人間のように指はないが夥しい数の触手が生える腕は一本一本がオレの体に絡みついてきた。
それはまるでいつものように、オレの指先に絡んでくるかのごとく。

「貴方…♪」

そして甘えるように身を寄せてくる彼女。外見は変わってもやはり中身はそのままらしい。

「…まったく、仕方ないな」

そう言いながらもやはり嬉しい。照れくさくてもやはりいつも通りの様子に笑みを浮かべずにはいられないのだった。


―HAPPY END―
14/02/22 23:39更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は元テンタクル・ブレインのテンタクルさんのお話でした
育てていた植物が愛情を抱いて恋をする、なんて話ロマンチックでいいなぁなんて思いながら書いていました
しかし現代知識しか持ち合わせていない主人公にとって触手相手は困惑しまくりです


ちなみに途中出てきた商人のゴブリンは実は以前ワーシープのお話で出てきたのと同じ方だったりします

さらには今回書かせていただいたこの森で他にもマンティスや河原でサハギン、ユニコーンなどといった魔物も登場する予定です

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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