読切小説
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赤い首輪
 ある親魔物領に、とても仲の良い男の子と女の子がいました。
 男の子は女の子が大好きで、女の子の気持ちが聞きたくて仕方ありません。
 だから男の子は女の子に、

「ねえ、僕のこと好き?」

 と聞きました。
 すると女の子は、

「君が私と同じ学校に入ったら、教えてあげる」

 と答えました。

 男の子と女の子は同じ学校に入りました。
 クラスも同じで、二人は相変わらず仲が良いままです。

 ある日、男の子は女の子に

「約束通り教えてよ。僕のこと、好き?」

 と聞きました。
 すると女の子はまた、

「君が私と同じ騎士学校に入ったら、教えてあげる」

 と答えました。

 男の子はその日から一生懸命に剣を練習して、女の子と同じ騎士学校に入学しました。
 そこでもクラスが同じで、周囲でも評判の仲の二人でした。

「なあ、同じ騎士学校にも入ったぞ。俺のこと、好きか?」

 心も体も大きくなってきて、少し言葉使いも変わった少年が聞きます。

「お前が私と同じ騎士団に入ったら、教えてやる」

 少年と同じく成長して、話し方も凛々しくなった少女は答えました。

 少年と少女は優秀な剣の腕を買われて、同じ騎士団に入隊しました。
 やっぱり部隊も同じ。周囲からの扱いも公認カップルのそれです。
 でも、少年はまだ少女の本当の気持ちを聞いていません。

「なあ、同じ騎士団にだって入ったぞ。今度こそ教えてくれ。俺のこと、好きか?」

 少年の問いに、少女は少し困ったような顔をして

「……お前が部隊の隊長になったら、教えてやる」

 と答えました。

 少年は剣の腕を磨き続けました。
 剣の練習はあの日から一度も欠かしたことがありません。
 少女の本当の気持ちを聞くために、ずっと努力を続けているのです。

 それからまたしばらくの年月が経って。
 努力の甲斐もあり、ついに彼は部隊の隊長になりました。
 立派な青年になった彼は、美しい女性になった彼女に聞きました。

「もう良いんじゃないか? なあ……俺のこと、好きか?」

 彼女は目を泳がせて、頬を赤くしながら答えます。

「こ……恋人になったら、教えて……やる……」

 彼は真剣な表情で言います。

「だったら……俺の恋人になってくれ」
「……! あ、ああ! もちろんだ!」

 そうして二人は恋人になりました。
 しかし仲が良いのは小さな子供の頃からまったく同じ。
 周りの皆も今更か、といった顔でした。
 ですが、彼にとっては大事なことが残っています。
 もう聞くまでもないでしょうけれど、彼女の気持ちを聞かなくてはなりません。

「さあ、もう逃げられないぞ……教えてくれ。俺のこと、好きか?」

 そう少し意地悪く笑いながら聞く彼の前で、彼女は顔を真っ赤に染めながらこう言いました。

「お、お前が! その……私と……け……けけけ、結婚したら、教えてやる!」

 それを聞くと、彼は一瞬だけあっけに取られました。
 でもその後は、優しく微笑んで彼女を抱きしめました。

「分かった……頼む。俺と結婚してくれ。絶対に幸せにするから」

 彼を抱き返しながら、彼女はとても嬉しそうな表情をして

「……はい!」

 とだけ、応えました。


 それから一ヶ月ほどの後。
 今日は二人の結婚式の日です。

 普段の無骨な鎧姿とは打って変わって、二人は素敵なタキシードとウェディングドレス姿。
 皆が祝福してくれる中、彼が剣ダコでいっぱいの指で、彼女の手を引いて歩きます。
 彼の手は、その努力の証。
 ずっと彼女が大好きで、どこまでも懸命に追い続けてきた、彼の人生の勲章です。

「俺のこと、好きか?」

 彼が聞きました。もう余計な言葉は必要ありません。

 すると彼女は、

「もう……隠しておけないな」

 と呟きました。

 彼女が自分の首に巻いてある首輪を、そっと外します。

 首が、外れました。

 デュラハンの彼女が、ずっと隠してきた本音。
 
 それが首から漏れていきます。

 そして、彼女は目尻を涙で輝かせながら、だけど幸せいっぱいの笑みを向けて、こう答えるのでした――










『――――――大好きです。私と結婚してくれてありがとう――――――』









 あの日の男の子と女の子は、少年と少女になり、彼と彼女になって。

 それから恋人になって。そして今、幸せに満ちた夫婦になって

 いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
17/04/05 22:49更新 / まわりの客

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