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5:口は災いの元 [ドーマウス]
全く、魔物娘というのは厄介だ。

今日も"丸め込む"のに一苦労だった。
あの猫女め。見知らぬ通行人が代わりに餌食になっていなかったら、俺が「ゴールイン」するところだったぜ...。

憂鬱な顔の男 トモヤは、結婚というものに並々ならぬ警戒心を持っていた。

定職に就かず、女(人間)を惑わしては、異常に達者な口先でもってその気にさせ、貢がせる。散々甘い蜜を吸った挙げ句、相手が「結婚」という気持ちを滲ませ始めると、持ち前の驚異的なカンで察知し、物理的にも体裁的にも鮮やかなスピードで「逃げる」。
要するに最低な男である。

人間の女相手なら口先だけで何とかなるが、魔物娘相手となると、避雷針になりそうな男の用意、逃げ足の速さ、そして得意の"舌先三寸"をフルに活かさないと、逃げられないのだ。

もう魔物娘が世に馴染んで幾分経つ。

「俺は都合の良い女と自由がありゃ、それで良いんだよ...」

トモヤにとって、魔物娘は「面倒な女の強化形態」程度の認識でしかなかった。

一段落し、自身のアパートの部屋に戻る。

また隣の部屋から、嬌声と水音が漏れている。隣は人と魔物娘の夫婦だから仕方ない。

...というか、毎回思うが尋常じゃない水音が聞こえているが、あれは大丈夫なのか?部屋が悲惨な事になってそうだ。

そんなことを考えながら、ビールに手を伸ばそうとした。

カラン、と。空の缶がテーブルから落ちる。

「ちっ、切らしてたか...おい、カナコ!...はもう別れたんだった。」

よっこらしょ、と立ち上がり、面倒草さをこらえて上着を着直す。
幸い、まだまだ売れそうな貢ぎ物はたんまり有る。元カノ...と本人は認識しているかすら怪しいが、彼女らから貰った贈り物は全て箱ごと状態良く保存している。
次の餌を見つけるまで、2~3ヵ月は持つだろう。


***


「ふぅーさみぃさみぃ。」

手を擦りながらコンビニへ向かう。

と。そこに。

「うお!?」


寝間着の少女が倒れていた。


「!? ど、どうしたってんだよ...」

駆け込み様子を見る。
呑気なことに、寝ているらしい。

「すぅ...おちゃかい...むにゅ...」

「ん...?この耳...げっ」

彼が苦手とする魔物娘の類いであると分かるまで、そう時間はかからなかった。

「猫女の次は、ネズミ娘かよ...まぁさすがに放置して車に轢かれたりすんのは、気が引けるわな。」

よいしょ...と彼女の脇を抱え、ずるずると道路脇まで引き摺る。
彼には「起こす」「部屋まで連れていく」などという自殺行為は行動リストになかった。

「よし、これでいいだろ。どうせ丈夫なんだろーし。」

少し汚れた彼女の枕の埃を払う。

「あーあ、酔った人間の女だったら、もう少し考えるんだがなぁ。『可愛い』お顔が台無しですよー、とか言やぁ一発なのによ。」

少女の耳がピクリと跳ねる。



−なんだか、とても嫌な予感がした−



「...?」

何か、ここを取り巻く空気が変わったような。
...気のせいか?

「んんっ...おにいさんも...かっこいい...」

「お、お前、もしかして聞こえてんのか...?」

「んー...すやぁ」

聞こえてるのか聞こえて無いのかハッキリしない。

「お前さんの事は『可愛い』と思うし、『魅力的』だとは思うが...おっと、いつものナンパ癖が。魔物娘は守備範囲外なんだ。じゃあな。」

ピクリ、ピクリ。鼠少女の耳が二度跳ねた。

さて、想定外の事が起こったからか、少し身体が熱い。
キンキンのビールでも買いにいこうと、トモヤはその場を後にした。






後ろの眠っている筈の少女から、熱い"視線"を受けている事も知らずに。



***


「あのコンビニ店員、イイ身体してたなぁ。...口説けばヤれっかな?あのタイプの女は...いや、こういう口説き文句のが......」

相変わらず下衆な思考を巡らせながら、帰り道を歩く。

先ほどの道は通らないことにした。少女が起きていたら面倒くさいからだ。

大きく迂回し、河川敷沿いの道を歩く。

「でもあの女...金、持ってなさそうなんだよな......うっ!?」



ぞくり。


トモヤの背筋を冷たいものがなぞり上げる。

河川敷沿い、等間隔に並んだ街灯。

その3つ先に





記憶に新しい寝間着の足元がこちらを向いて、照らされていた。





トモヤは直感した。

−これはまずい−

止まってしまった足を、右に向ける。

焦りと恐怖を振り払うように、住宅街を早足で抜ける。

右に迂回しながら、突き進む。

間違っても、ぶち当たらないように。

そして、彼女が"動いていないなら"左に佇む彼女が見える位置まで来た。

恐る恐る、左を見る。


...彼女は、まだそこに佇んでいた。

足元しか照らされていない為、表情までは窺い知れないが、移動はしていないようだ。

「ふう...。」

トモヤは安堵した。

そう、足元だけ...足元...?


「......!!!」


ビール缶を投げ出し、トモヤは駆け出していた。

彼女の足元が照らされていた。







それが、こちらを向いていた。






面倒、なんてもんじゃない。

今まで培ってきたカンや本能が、今まで感じたこともないほどの警鐘を鳴らしている。

あれは、ヤバイ!逃げなければ!

...いや、万が一、自宅を特定されるとマズイ!

彼はタクシーを拾い、念を入れて隣の県まで、高速道路を経由して逃走した。

どんなに念を入れても、トモヤは後ろの様子が気になって仕方ない。

「いやー、前のお客さんは、妻に悪戯したら覚醒したヤバイ、とか言って逃げてましたねぇ...ま、メイドみたいなのに捕まってましたけど!アッハハハ!」

運転手の世間話なぞ一言も耳に入っていなかった。



目についた一番初めのホテルに、看板すら見ずに飛び込んだ。

寂れたラブホテルのようだった。
この際、しのごの言ってられない。

「色んな女の臭いが誤魔化してくれる...かも...?」

希望的観測を胸に、どっと疲れた身体をベッドに沈める。
もう、風呂に入る元気もない。

緊張の糸が切れたトモヤは、ろくに布団も被らず、仰向けに転がって、意識を手放した。





***





なんだか、乳と獣臭い。

なんだ。また隣のヤツらが、イカれた情事にでもふけってんのか?

うわ、すげー臭い。
でもなんか、甘いような...?

いや今度という今度は、文句言ってやる。


目を開けて起き上がろうとすると、そこは見慣れぬ天井。

どのぐらい寝ていたのだろう。
そうだ、俺はネズミ娘から逃げて...


同時に身体がこわばる。
この重みと湿り気はなんだ?

恐る恐る、顔を向けてみると、

鼠の少女が、上に乗ってすやすや寝息を立てていた。

「ヒッ...な、なんで居んだよ...!」

幸い彼女は、トモヤが寝ている間に挿れた訳ではないらしい。純粋に、腹の上で寝ている。

...しかし。

「うわっ...まじかよ...漏らしてんじゃねーか...」

彼女は自身の寝間着とトモヤの服・ズボンを、"おねしょ" でぐっしょり濡らしていた。
乾き方から見るに、結構な長時間この状態らしい。

「んふぅ...まーきんぐ.....むぅ...」

物騒な寝言だ。

「もう勘弁してくれよ」

退かそうと、彼女の腰を掴む。

「...んっんんっ......」

ショワワァァァ...

「って、おいおいおい...!」

トモヤが言う側から新たなおねしょが、トモヤの身体とベッドに、地図を作っていく。

むわっと、人間のソレとは違う、刺激臭と共に甘そうな香りが部屋に広がる。

「んっ...ふぅ......ほかのめす...におい...いっぱい...わたしのでうわがきぃ...んふふ...」

「どいて!くれっ!」

ゴロン、と彼女を仰向けに転がし退ける。


種族ゆえか、もふりとした四肢。

寝息を立てる潤った口。

肌蹴た寝間着から覗く、深い呼吸のたび上下する、すべすべの肌。

チラリと見える鼠径部の窪み。

そして、度重なるおねしょでぐっしょりと濡れた、ドロワーズ。


「...」ゴクリ

長時間密着して寝ていたせいか、身体が熱い。
トモヤは知らぬ内に、彼女の魔力に曝され続けていた。

目の前には、無防備な少女。

その柔らかい身体の感触が、まだ全身に残っている。

蒸れるような熱気。


一夜の過ちぐらいなら。

いや、普段食い物にしている女達とは訳が違う。

クラクラする頭で葛藤が始まる。

「んふ......やぁん......そんなとこ...」

どんな夢を見ているのか解らないが、彼女はモジモジしながら、自身の手を下腹部に滑り込ませる。

ドロワーズの下から聞こえる僅かな水音と、さっきまでとは違う、雌の匂いが隙間から漏れ、トモヤの耳と鼻を刺激する。

トモヤは結局座り直し、ズボンと下着を下ろす。
既に準備万端のソレは、天を仰いでいる。

彼女のドロワーズをずらす。

ピッチリとした、一見未成熟なソコは、赤く熱を帯びて、蜜とおねしょでジュクジュクに濡れている。


味見。そう、味見だ。

魔物娘がどんな具合か味見したら、さっさとオサラバするんだ。

しかも今は、こいつのおねしょで服がびちゃびちゃじゃないか...どの道すぐには出られないし...

もう論理でもなんでもない言い訳を頭に並べながら、彼女の膣内へ腰を沈めていく。

プチプチ...ブチンッ

何度か経験したことの有る、純潔を奪う感覚。

「...ぐっ!?」

しかし、そこから先は別次元だった。
うねる膣壁、吸い付く最奥。
今まで抱いたどの女より、気持ちいいと感じてしまった。

...しかし当の本人はすやすやと未だ寝息をたてている。


起こさずに犯しても、気付かれないまま逃げれるのでは。


ついさきほど、県超えしてすら逃げ切れなかった男の考える事ではないが、それほどトモヤの思考は緩みきっていた。


「くそ、『気持ちいい』締め方しやがって...っ!」

夢中で腰を振るトモヤ。最中に"彼女に言ってはいけない"言葉を呟く。

「んぅ...っ...っ...ふぁ...っ...」

幸せそうに蕩けた顔をしながら犯される彼女の耳が、またピクリと跳ねた。

キュ、キュ、キュ、とリズム良く、膣内が強く収縮する。
白みを帯びた粘液が、結合部からドロリと溢れ出す。
同時に、チョロチョロと彼女の小水がトモヤの下腹を温めた。

「はぁ、はぁ、こいつ...寝ながらイッてんのか...?...はぁぅっ!!」

彼女が脚を腰に回してきたのだ。
腰が今まで無いほど密着する。
竿の根元まで、彼女の絶頂中の膣壁を味わってしまう。

「う、だめだ、出る...出る...っ!」

ビュゥッ ビュクッ ビュクッ...

「...っ!ふぁ...〜〜〜っ!」

キュゥゥッ キュッ  キュッ...

送り込まれる精液のリズムに合わせるように、膣内が脈動し、少しでも精液を多く絞りだそうとする。



トモヤは暫く頭が真っ白になっていたが、今まで経験したことの無いような射精を終え、
少しばかり冷静さを取り戻した頭で、状況を再認識する。
全身の体温が下がった。


魔物娘を、犯してしまった。


一刻も早くこの場を離れなければ、という考えが先によぎるのは、彼の今まで行ってきた業の深さ故である。

「ヤバイ、ヤバイヤバイ...!」

急いで彼女から、自身を引き抜こうとする。




「何処へ行くの...?」

「ヒッ!?」

がしり。と、再び腰に脚を回されて固定される。

ふと彼女の方を見やると、

あれだけ犯しても見ることはなかった、彼女の瞳がこちらを見つめていた。

藍色の瞳は


とても綺麗で


とても深くて


とても暗かった。


「さっきまで、あんなに『可愛い』『魅力的』『気持ちいい』って、囁いてくれたのに...いっぱい"初めて"を愛してくれたのに...」

「...な、なんだよ、それ?し、知らねーなぁ?」



シン、と、部屋の空気が冷たくなった気がした。

暫く無表情だった彼女は、やがて笑みを浮かべる。

暗い瞳に、狂気の光が宿ったように見えた。


「......えへへ...スン...スン...きっと、他のメスの臭いが、まだ混ざってるから、素直になれないんだよ...ね?」

「や、やめろ...離せ...っ!?ちょ、お前、力強...!?」

無粋なほど遠慮なく離れようとしても、腰に回された脚はびくともしない。

「でも、大丈夫だよ?臭いはいっぱいだけど、どれも"心から愛するメスの臭い"なんて一つもないの。」

眠っていた時からは考えられないほど、甘くて、冷やかで、落ち着いた口調。

先程とは違う、明確な意思を持って蠢く膣内。

トモヤは呻き声をあげながら、自身の硬度を取り戻す他無かった。

「私で、本当の愛を、いっぱい感じて欲しいな...。それで、他の女の匂いを全部上書きしたら、永遠の愛を誓い合って...二人で仲良く暮らしていくの...。ね、責任、取って貰えるよね...?"トモヤさん"?」

ベッドの隣、テーブルの上には、トモヤの財布が転がっていた。

免許証が飛び出していた。

何処にも逃げ場はない。

「や、やめろぉ...あぐっ!...やめてくれぇ...!」

「ん...♪感じた他のメスの匂い、25人分...25回、イッて、一緒におねしょして、匂いぶちまけて、上書きしよっ♪私以外、夢の中でも靡かないように...私だけに『可愛い』って、言って貰えるように...♪」

どうも部屋に残る、無関係な女の残り香までカウントされているらしい。

「む、無理だ...死んじまうぅぅっ!?んむぐっ...!?」


錯乱と絶望の中、トモヤは彼女に『誓いのキス』をされていた。

彼女の底のない狂気と愛欲に溢れた瞳に見つめられながら。





***




「あのカップル、随分長いこと頑張るネェ。」

オーガの清掃員がゴミを纏めながら話し掛ける。

「ドーマウスって、いっつも眠りこけてるイメージなんだけどサ。」

すると、奥にいたゲイザーの警備員が、いくつもあるモニターにそれぞれの"目"を向けながら、気だるげに返事をする。

「なーに、ドーマウスの魔力にあてられ続けて、今度は彼氏の側が抑えられなくなってんのさ、きっと。一緒に居れば居る程、離れられなくなる種族だかんね。そのまま結婚待ったなし、さ。」

やれやれ、と目線はモニターに向けたまま首を振る。

「多分どっかで、不用意に『可愛い』とか言ったんだろ。逃げてる風だったし。チャラそうだったし。」

アハハ、と、オーガは笑う。

「それでよりにもよってウチに来るとはネェ!OKしてるようなもんダロ!看板も見なかったのかネ?」

「まぁどのみち逃げらんねぇよ。オレってば見たこと有るもん、旦那をおっかける時のドーマウスの速さ。...ま、"口(マウス)は災いのもと"って、やつかな?...幸せにはなるんだろうけどさ。」



ラブホテル 『ゴールイン』 は、それから二度目の朝を迎えようとしていた。
19/03/06 13:08更新 / スコッチ
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■作者メッセージ
「...で、責任とって働かねばと、うちの会社に来たと。」
「そっス...」

「...僕がそんなこと言ったら、笑いながら妻に『窒息液体責め』とかされそう」
「ウチだと『根性矯正ご奉仕フルコース』だな」
「俺んとこは『失血限界チキンレース』だろうな」
「やっと外出許可が出た...」
「あっチーフ、今回は短めの監禁でしたね。」

「なにこの会社こわい」

***

「マーキング、で御座いますか...。」

「うん...♪お隣さんも、似た匂いがしたから、そうなのかなって...」

「そんな風に考えた事、無かったですね。ただただ、互いの体液が枯れるまで『ご奉仕』してただけなので...。...旦那様にマーキング...ふふ...背徳的な響きで御座いますね...」ゾクゾク

***


此処までが、読切として投稿させていただいた記事の再録で御座います。

この記事は、読切投稿時の、名無しAS様の感想をヒントに作らせていただきました。

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