5:口は災いの元 [ドーマウス]
全く、魔物娘というのは厄介だ。
今日も"丸め込む"のに一苦労だった。
あの猫女め。見知らぬ通行人が代わりに餌食になっていなかったら、俺が「ゴールイン」するところだったぜ...。
憂鬱な顔の男 トモヤは、結婚というものに並々ならぬ警戒心を持っていた。
定職に就かず、女(人間)を惑わしては、異常に達者な口先でもってその気にさせ、貢がせる。散々甘い蜜を吸った挙げ句、相手が「結婚」という気持ちを滲ませ始めると、持ち前の驚異的なカンで察知し、物理的にも体裁的にも鮮やかなスピードで「逃げる」。
要するに最低な男である。
人間の女相手なら口先だけで何とかなるが、魔物娘相手となると、避雷針になりそうな男の用意、逃げ足の速さ、そして得意の"舌先三寸"をフルに活かさないと、逃げられないのだ。
もう魔物娘が世に馴染んで幾分経つ。
「俺は都合の良い女と自由がありゃ、それで良いんだよ...」
トモヤにとって、魔物娘は「面倒な女の強化形態」程度の認識でしかなかった。
一段落し、自身のアパートの部屋に戻る。
また隣の部屋から、嬌声と水音が漏れている。隣は人と魔物娘の夫婦だから仕方ない。
...というか、毎回思うが尋常じゃない水音が聞こえているが、あれは大丈夫なのか?部屋が悲惨な事になってそうだ。
そんなことを考えながら、ビールに手を伸ばそうとした。
カラン、と。空の缶がテーブルから落ちる。
「ちっ、切らしてたか...おい、カナコ!...はもう別れたんだった。」
よっこらしょ、と立ち上がり、面倒草さをこらえて上着を着直す。
幸い、まだまだ売れそうな貢ぎ物はたんまり有る。元カノ...と本人は認識しているかすら怪しいが、彼女らから貰った贈り物は全て箱ごと状態良く保存している。
次の餌を見つけるまで、2~3ヵ月は持つだろう。
***
「ふぅーさみぃさみぃ。」
手を擦りながらコンビニへ向かう。
と。そこに。
「うお!?」
寝間着の少女が倒れていた。
「!? ど、どうしたってんだよ...」
駆け込み様子を見る。
呑気なことに、寝ているらしい。
「すぅ...おちゃかい...むにゅ...」
「ん...?この耳...げっ」
彼が苦手とする魔物娘の類いであると分かるまで、そう時間はかからなかった。
「猫女の次は、ネズミ娘かよ...まぁさすがに放置して車に轢かれたりすんのは、気が引けるわな。」
よいしょ...と彼女の脇を抱え、ずるずると道路脇まで引き摺る。
彼には「起こす」「部屋まで連れていく」などという自殺行為は行動リストになかった。
「よし、これでいいだろ。どうせ丈夫なんだろーし。」
少し汚れた彼女の枕の埃を払う。
「あーあ、酔った人間の女だったら、もう少し考えるんだがなぁ。『可愛い』お顔が台無しですよー、とか言やぁ一発なのによ。」
少女の耳がピクリと跳ねる。
−なんだか、とても嫌な予感がした−
「...?」
何か、ここを取り巻く空気が変わったような。
...気のせいか?
「んんっ...おにいさんも...かっこいい...」
「お、お前、もしかして聞こえてんのか...?」
「んー...すやぁ」
聞こえてるのか聞こえて無いのかハッキリしない。
「お前さんの事は『可愛い』と思うし、『魅力的』だとは思うが...おっと、いつものナンパ癖が。魔物娘は守備範囲外なんだ。じゃあな。」
ピクリ、ピクリ。鼠少女の耳が二度跳ねた。
さて、想定外の事が起こったからか、少し身体が熱い。
キンキンのビールでも買いにいこうと、トモヤはその場を後にした。
後ろの眠っている筈の少女から、熱い"視線"を受けている事も知らずに。
***
「あのコンビニ店員、イイ身体してたなぁ。...口説けばヤれっかな?あのタイプの女は...いや、こういう口説き文句のが......」
相変わらず下衆な思考を巡らせながら、帰り道を歩く。
先ほどの道は通らないことにした。少女が起きていたら面倒くさいからだ。
大きく迂回し、河川敷沿いの道を歩く。
「でもあの女...金、持ってなさそうなんだよな......うっ!?」
ぞくり。
トモヤの背筋を冷たいものがなぞり上げる。
河川敷沿い、等間隔に並んだ街灯。
その3つ先に
記憶に新しい寝間着の足元がこちらを向いて、照らされていた。
トモヤは直感した。
−これはまずい−
止まってしまった足を、右に向ける。
焦りと恐怖を振り払うように、住宅街を早足で抜ける。
右に迂回しながら、突き進む。
間違っても、ぶち当たらないように。
そして、彼女が"動いていないなら"左に佇む彼女が見える位置まで来た。
恐る恐る、左を見る。
...彼女は、まだそこに佇んでいた。
足元しか照らされていない為、表情までは窺い知れないが、移動はしていないようだ。
「ふう...。」
トモヤは安堵した。
そう、足元だけ...足元...?
「......!!!」
ビール缶を投げ出し、トモヤは駆け出していた。
彼女の足元が照らされていた。
それが、こちらを向いていた。
面倒、なんてもんじゃない。
今まで培ってきたカンや本能が、今まで感じたこともないほどの警鐘を鳴らしている。
あれは、ヤバイ!逃げなければ!
...いや、万が一、自宅を特定されるとマズイ!
彼はタクシーを拾い、念を入れて隣の県まで、高速道路を経由して逃走した。
どんなに念を入れても、トモヤは後ろの様子が気になって仕方ない。
「いやー、前のお客さんは、妻に悪戯したら覚醒したヤバイ、とか言って逃げてましたねぇ...ま、メイドみたいなのに捕まってましたけど!アッハハハ!」
運転手の世間話なぞ一言も耳に入っていなかった。
目についた一番初めのホテルに、看板すら見ずに飛び込んだ。
寂れたラブホテルのようだった。
この際、しのごの言ってられない。
「色んな女の臭いが誤魔化してくれる...かも...?」
希望的観測を胸に、どっと疲れた身体をベッドに沈める。
もう、風呂に入る元気もない。
緊張の糸が切れたトモヤは、ろくに布団も被らず、仰向けに転がって、意識を手放した。
***
なんだか、乳と獣臭い。
なんだ。また隣のヤツらが、イカれた情事にでもふけってんのか?
うわ、すげー臭い。
でもなんか、甘いような...?
いや今度という今度は、文句言ってやる。
目を開けて起き上がろうとすると、そこは見慣れぬ天井。
どのぐらい寝ていたのだろう。
そうだ、俺はネズミ娘から逃げて...
同時に身体がこわばる。
この重みと湿り気はなんだ?
恐る恐る、顔を向けてみると、
鼠の少女が、上に乗ってすやすや寝息を立てていた。
「ヒッ...な、なんで居んだよ...!」
幸い彼女は、トモヤが寝ている間に挿れた訳ではないらしい。純粋に、腹の上で寝ている。
...しかし。
「うわっ...まじかよ...漏らしてんじゃねーか...」
彼女は自身の寝間着とトモヤの服・ズボンを、"おねしょ" でぐっしょり濡らしていた。
乾き方から見るに、結構な長時間この状態らしい。
「んふぅ...まーきんぐ.....むぅ...」
物騒な寝言だ。
「もう勘弁してくれよ」
退かそうと、彼女の腰を掴む。
「...んっんんっ......」
ショワワァァァ...
「って、おいおいおい...!」
トモヤが言う側から新たなおねしょが、トモヤの身体とベッドに、地図を作っていく。
むわっと、人間のソレとは違う、刺激臭と共に甘そうな香りが部屋に広がる。
「んっ...ふぅ......ほかのめす...におい...いっぱい...わたしのでうわがきぃ...んふふ...」
「どいて!くれっ!」
ゴロン、と彼女を仰向けに転がし退ける。
種族ゆえか、もふりとした四肢。
寝息を立てる潤った口。
肌蹴た寝間着から覗く、深い呼吸のたび上下する、すべすべの肌。
チラリと見える鼠径部の窪み。
そして、度重なるおねしょでぐっしょりと濡れた、ドロワーズ。
「...」ゴクリ
長時間密着して寝ていたせいか、身体が熱い。
トモヤは知らぬ内に、彼女の魔力に曝され続けていた。
目の前には、無防備な少女。
その柔らかい身体の感触が、まだ全身に残っている。
蒸れるような熱気。
一夜の過ちぐらいなら。
いや、普段食い物にしている女達とは訳が違う。
クラクラする頭で葛藤が始まる。
「んふ......やぁん......そんなとこ...」
どんな夢を見ているのか解らないが、彼女はモジモジしながら、自身の手を下腹部に滑り込ませる。
ドロワーズの下から聞こえる僅かな水音と、さっきまでとは違う、雌の匂いが隙間から漏れ、トモヤの耳と鼻を刺激する。
トモヤは結局座り直し、ズボンと下着を下ろす。
既に準備万端のソレは、天を仰いでいる。
彼女のドロワーズをずらす。
ピッチリとした、一見未成熟なソコは、赤く熱を帯びて、蜜とおねしょでジュクジュクに濡れている。
味見。そう、味見だ。
魔物娘がどんな具合か味見したら、さっさとオサラバするんだ。
しかも今は、こいつのおねしょで服がびちゃびちゃじゃないか...どの道すぐには出られないし...
もう論理でもなんでもない言い訳を頭に並べながら、彼女の膣内へ腰を沈めていく。
プチプチ...ブチンッ
何度か経験したことの有る、純潔を奪う感覚。
「...ぐっ!?」
しかし、そこから先は別次元だった。
うねる膣壁、吸い付く最奥。
今まで抱いたどの女より、気持ちいいと感じてしまった。
...しかし当の本人はすやすやと未だ寝息をたてている。
起こさずに犯しても、気付かれないまま逃げれるのでは。
ついさきほど、県超えしてすら逃げ切れなかった男の考える事ではないが、それほどトモヤの思考は緩みきっていた。
「くそ、『気持ちいい』締め方しやがって...っ!」
夢中で腰を振るトモヤ。最中に"彼女に言ってはいけない"言葉を呟く。
「んぅ...っ...っ...ふぁ...っ...」
幸せそうに蕩けた顔をしながら犯される彼女の耳が、またピクリと跳ねた。
キュ、キュ、キュ、とリズム良く、膣内が強く収縮する。
白みを帯びた粘液が、結合部からドロリと溢れ出す。
同時に、チョロチョロと彼女の小水がトモヤの下腹を温めた。
「はぁ、はぁ、こいつ...寝ながらイッてんのか...?...はぁぅっ!!」
彼女が脚を腰に回してきたのだ。
腰が今まで無いほど密着する。
竿の根元まで、彼女の絶頂中の膣壁を味わってしまう。
「う、だめだ、出る...出る...っ!」
ビュゥッ ビュクッ ビュクッ...
「...っ!ふぁ...〜〜〜っ!」
キュゥゥッ キュッ キュッ...
送り込まれる精液のリズムに合わせるように、膣内が脈動し、少しでも精液を多く絞りだそうとする。
トモヤは暫く頭が真っ白になっていたが、今まで経験したことの無いような射精を終え、
少しばかり冷静さを取り戻した頭で、状況を再認識する。
全身の体温が下がった。
魔物娘を、犯してしまった。
一刻も早くこの場を離れなければ、という考えが先によぎるのは、彼の今まで行ってきた業の深さ故である。
「ヤバイ、ヤバイヤバイ...!」
急いで彼女から、自身を引き抜こうとする。
「何処へ行くの...?」
「ヒッ!?」
がしり。と、再び腰に脚を回されて固定される。
ふと彼女の方を見やると、
あれだけ犯しても見ることはなかった、彼女の瞳がこちらを見つめていた。
藍色の瞳は
とても綺麗で
とても深くて
とても暗かった。
「さっきまで、あんなに『可愛い』『魅力的』『気持ちいい』って、囁いてくれたのに...いっぱい"初めて"を愛してくれたのに...」
「...な、なんだよ、それ?し、知らねーなぁ?」
シン、と、部屋の空気が冷たくなった気がした。
暫く無表情だった彼女は、やがて笑みを浮かべる。
暗い瞳に、狂気の光が宿ったように見えた。
「......えへへ...スン...スン...きっと、他のメスの臭いが、まだ混ざってるから、素直になれないんだよ...ね?」
「や、やめろ...離せ...っ!?ちょ、お前、力強...!?」
無粋なほど遠慮なく離れようとしても、腰に回された脚はびくともしない。
「でも、大丈夫だよ?臭いはいっぱいだけど、どれも"心から愛するメスの臭い"なんて一つもないの。」
眠っていた時からは考えられないほど、甘くて、冷やかで、落ち着いた口調。
先程とは違う、明確な意思を持って蠢く膣内。
トモヤは呻き声をあげながら、自身の硬度を取り戻す他無かった。
「私で、本当の愛を、いっぱい感じて欲しいな...。それで、他の女の匂いを全部上書きしたら、永遠の愛を誓い合って...二人で仲良く暮らしていくの...。ね、責任、取って貰えるよね...?"トモヤさん"?」
ベッドの隣、テーブルの上には、トモヤの財布が転がっていた。
免許証が飛び出していた。
何処にも逃げ場はない。
「や、やめろぉ...あぐっ!...やめてくれぇ...!」
「ん...♪感じた他のメスの匂い、25人分...25回、イッて、一緒におねしょして、匂いぶちまけて、上書きしよっ♪私以外、夢の中でも靡かないように...私だけに『可愛い』って、言って貰えるように...♪」
どうも部屋に残る、無関係な女の残り香までカウントされているらしい。
「む、無理だ...死んじまうぅぅっ!?んむぐっ...!?」
錯乱と絶望の中、トモヤは彼女に『誓いのキス』をされていた。
彼女の底のない狂気と愛欲に溢れた瞳に見つめられながら。
***
「あのカップル、随分長いこと頑張るネェ。」
オーガの清掃員がゴミを纏めながら話し掛ける。
「ドーマウスって、いっつも眠りこけてるイメージなんだけどサ。」
すると、奥にいたゲイザーの警備員が、いくつもあるモニターにそれぞれの"目"を向けながら、気だるげに返事をする。
「なーに、ドーマウスの魔力にあてられ続けて、今度は彼氏の側が抑えられなくなってんのさ、きっと。一緒に居れば居る程、離れられなくなる種族だかんね。そのまま結婚待ったなし、さ。」
やれやれ、と目線はモニターに向けたまま首を振る。
「多分どっかで、不用意に『可愛い』とか言ったんだろ。逃げてる風だったし。チャラそうだったし。」
アハハ、と、オーガは笑う。
「それでよりにもよってウチに来るとはネェ!OKしてるようなもんダロ!看板も見なかったのかネ?」
「まぁどのみち逃げらんねぇよ。オレってば見たこと有るもん、旦那をおっかける時のドーマウスの速さ。...ま、"口(マウス)は災いのもと"って、やつかな?...幸せにはなるんだろうけどさ。」
ラブホテル 『ゴールイン』 は、それから二度目の朝を迎えようとしていた。
今日も"丸め込む"のに一苦労だった。
あの猫女め。見知らぬ通行人が代わりに餌食になっていなかったら、俺が「ゴールイン」するところだったぜ...。
憂鬱な顔の男 トモヤは、結婚というものに並々ならぬ警戒心を持っていた。
定職に就かず、女(人間)を惑わしては、異常に達者な口先でもってその気にさせ、貢がせる。散々甘い蜜を吸った挙げ句、相手が「結婚」という気持ちを滲ませ始めると、持ち前の驚異的なカンで察知し、物理的にも体裁的にも鮮やかなスピードで「逃げる」。
要するに最低な男である。
人間の女相手なら口先だけで何とかなるが、魔物娘相手となると、避雷針になりそうな男の用意、逃げ足の速さ、そして得意の"舌先三寸"をフルに活かさないと、逃げられないのだ。
もう魔物娘が世に馴染んで幾分経つ。
「俺は都合の良い女と自由がありゃ、それで良いんだよ...」
トモヤにとって、魔物娘は「面倒な女の強化形態」程度の認識でしかなかった。
一段落し、自身のアパートの部屋に戻る。
また隣の部屋から、嬌声と水音が漏れている。隣は人と魔物娘の夫婦だから仕方ない。
...というか、毎回思うが尋常じゃない水音が聞こえているが、あれは大丈夫なのか?部屋が悲惨な事になってそうだ。
そんなことを考えながら、ビールに手を伸ばそうとした。
カラン、と。空の缶がテーブルから落ちる。
「ちっ、切らしてたか...おい、カナコ!...はもう別れたんだった。」
よっこらしょ、と立ち上がり、面倒草さをこらえて上着を着直す。
幸い、まだまだ売れそうな貢ぎ物はたんまり有る。元カノ...と本人は認識しているかすら怪しいが、彼女らから貰った贈り物は全て箱ごと状態良く保存している。
次の餌を見つけるまで、2~3ヵ月は持つだろう。
***
「ふぅーさみぃさみぃ。」
手を擦りながらコンビニへ向かう。
と。そこに。
「うお!?」
寝間着の少女が倒れていた。
「!? ど、どうしたってんだよ...」
駆け込み様子を見る。
呑気なことに、寝ているらしい。
「すぅ...おちゃかい...むにゅ...」
「ん...?この耳...げっ」
彼が苦手とする魔物娘の類いであると分かるまで、そう時間はかからなかった。
「猫女の次は、ネズミ娘かよ...まぁさすがに放置して車に轢かれたりすんのは、気が引けるわな。」
よいしょ...と彼女の脇を抱え、ずるずると道路脇まで引き摺る。
彼には「起こす」「部屋まで連れていく」などという自殺行為は行動リストになかった。
「よし、これでいいだろ。どうせ丈夫なんだろーし。」
少し汚れた彼女の枕の埃を払う。
「あーあ、酔った人間の女だったら、もう少し考えるんだがなぁ。『可愛い』お顔が台無しですよー、とか言やぁ一発なのによ。」
少女の耳がピクリと跳ねる。
−なんだか、とても嫌な予感がした−
「...?」
何か、ここを取り巻く空気が変わったような。
...気のせいか?
「んんっ...おにいさんも...かっこいい...」
「お、お前、もしかして聞こえてんのか...?」
「んー...すやぁ」
聞こえてるのか聞こえて無いのかハッキリしない。
「お前さんの事は『可愛い』と思うし、『魅力的』だとは思うが...おっと、いつものナンパ癖が。魔物娘は守備範囲外なんだ。じゃあな。」
ピクリ、ピクリ。鼠少女の耳が二度跳ねた。
さて、想定外の事が起こったからか、少し身体が熱い。
キンキンのビールでも買いにいこうと、トモヤはその場を後にした。
後ろの眠っている筈の少女から、熱い"視線"を受けている事も知らずに。
***
「あのコンビニ店員、イイ身体してたなぁ。...口説けばヤれっかな?あのタイプの女は...いや、こういう口説き文句のが......」
相変わらず下衆な思考を巡らせながら、帰り道を歩く。
先ほどの道は通らないことにした。少女が起きていたら面倒くさいからだ。
大きく迂回し、河川敷沿いの道を歩く。
「でもあの女...金、持ってなさそうなんだよな......うっ!?」
ぞくり。
トモヤの背筋を冷たいものがなぞり上げる。
河川敷沿い、等間隔に並んだ街灯。
その3つ先に
記憶に新しい寝間着の足元がこちらを向いて、照らされていた。
トモヤは直感した。
−これはまずい−
止まってしまった足を、右に向ける。
焦りと恐怖を振り払うように、住宅街を早足で抜ける。
右に迂回しながら、突き進む。
間違っても、ぶち当たらないように。
そして、彼女が"動いていないなら"左に佇む彼女が見える位置まで来た。
恐る恐る、左を見る。
...彼女は、まだそこに佇んでいた。
足元しか照らされていない為、表情までは窺い知れないが、移動はしていないようだ。
「ふう...。」
トモヤは安堵した。
そう、足元だけ...足元...?
「......!!!」
ビール缶を投げ出し、トモヤは駆け出していた。
彼女の足元が照らされていた。
それが、こちらを向いていた。
面倒、なんてもんじゃない。
今まで培ってきたカンや本能が、今まで感じたこともないほどの警鐘を鳴らしている。
あれは、ヤバイ!逃げなければ!
...いや、万が一、自宅を特定されるとマズイ!
彼はタクシーを拾い、念を入れて隣の県まで、高速道路を経由して逃走した。
どんなに念を入れても、トモヤは後ろの様子が気になって仕方ない。
「いやー、前のお客さんは、妻に悪戯したら覚醒したヤバイ、とか言って逃げてましたねぇ...ま、メイドみたいなのに捕まってましたけど!アッハハハ!」
運転手の世間話なぞ一言も耳に入っていなかった。
目についた一番初めのホテルに、看板すら見ずに飛び込んだ。
寂れたラブホテルのようだった。
この際、しのごの言ってられない。
「色んな女の臭いが誤魔化してくれる...かも...?」
希望的観測を胸に、どっと疲れた身体をベッドに沈める。
もう、風呂に入る元気もない。
緊張の糸が切れたトモヤは、ろくに布団も被らず、仰向けに転がって、意識を手放した。
***
なんだか、乳と獣臭い。
なんだ。また隣のヤツらが、イカれた情事にでもふけってんのか?
うわ、すげー臭い。
でもなんか、甘いような...?
いや今度という今度は、文句言ってやる。
目を開けて起き上がろうとすると、そこは見慣れぬ天井。
どのぐらい寝ていたのだろう。
そうだ、俺はネズミ娘から逃げて...
同時に身体がこわばる。
この重みと湿り気はなんだ?
恐る恐る、顔を向けてみると、
鼠の少女が、上に乗ってすやすや寝息を立てていた。
「ヒッ...な、なんで居んだよ...!」
幸い彼女は、トモヤが寝ている間に挿れた訳ではないらしい。純粋に、腹の上で寝ている。
...しかし。
「うわっ...まじかよ...漏らしてんじゃねーか...」
彼女は自身の寝間着とトモヤの服・ズボンを、"おねしょ" でぐっしょり濡らしていた。
乾き方から見るに、結構な長時間この状態らしい。
「んふぅ...まーきんぐ.....むぅ...」
物騒な寝言だ。
「もう勘弁してくれよ」
退かそうと、彼女の腰を掴む。
「...んっんんっ......」
ショワワァァァ...
「って、おいおいおい...!」
トモヤが言う側から新たなおねしょが、トモヤの身体とベッドに、地図を作っていく。
むわっと、人間のソレとは違う、刺激臭と共に甘そうな香りが部屋に広がる。
「んっ...ふぅ......ほかのめす...におい...いっぱい...わたしのでうわがきぃ...んふふ...」
「どいて!くれっ!」
ゴロン、と彼女を仰向けに転がし退ける。
種族ゆえか、もふりとした四肢。
寝息を立てる潤った口。
肌蹴た寝間着から覗く、深い呼吸のたび上下する、すべすべの肌。
チラリと見える鼠径部の窪み。
そして、度重なるおねしょでぐっしょりと濡れた、ドロワーズ。
「...」ゴクリ
長時間密着して寝ていたせいか、身体が熱い。
トモヤは知らぬ内に、彼女の魔力に曝され続けていた。
目の前には、無防備な少女。
その柔らかい身体の感触が、まだ全身に残っている。
蒸れるような熱気。
一夜の過ちぐらいなら。
いや、普段食い物にしている女達とは訳が違う。
クラクラする頭で葛藤が始まる。
「んふ......やぁん......そんなとこ...」
どんな夢を見ているのか解らないが、彼女はモジモジしながら、自身の手を下腹部に滑り込ませる。
ドロワーズの下から聞こえる僅かな水音と、さっきまでとは違う、雌の匂いが隙間から漏れ、トモヤの耳と鼻を刺激する。
トモヤは結局座り直し、ズボンと下着を下ろす。
既に準備万端のソレは、天を仰いでいる。
彼女のドロワーズをずらす。
ピッチリとした、一見未成熟なソコは、赤く熱を帯びて、蜜とおねしょでジュクジュクに濡れている。
味見。そう、味見だ。
魔物娘がどんな具合か味見したら、さっさとオサラバするんだ。
しかも今は、こいつのおねしょで服がびちゃびちゃじゃないか...どの道すぐには出られないし...
もう論理でもなんでもない言い訳を頭に並べながら、彼女の膣内へ腰を沈めていく。
プチプチ...ブチンッ
何度か経験したことの有る、純潔を奪う感覚。
「...ぐっ!?」
しかし、そこから先は別次元だった。
うねる膣壁、吸い付く最奥。
今まで抱いたどの女より、気持ちいいと感じてしまった。
...しかし当の本人はすやすやと未だ寝息をたてている。
起こさずに犯しても、気付かれないまま逃げれるのでは。
ついさきほど、県超えしてすら逃げ切れなかった男の考える事ではないが、それほどトモヤの思考は緩みきっていた。
「くそ、『気持ちいい』締め方しやがって...っ!」
夢中で腰を振るトモヤ。最中に"彼女に言ってはいけない"言葉を呟く。
「んぅ...っ...っ...ふぁ...っ...」
幸せそうに蕩けた顔をしながら犯される彼女の耳が、またピクリと跳ねた。
キュ、キュ、キュ、とリズム良く、膣内が強く収縮する。
白みを帯びた粘液が、結合部からドロリと溢れ出す。
同時に、チョロチョロと彼女の小水がトモヤの下腹を温めた。
「はぁ、はぁ、こいつ...寝ながらイッてんのか...?...はぁぅっ!!」
彼女が脚を腰に回してきたのだ。
腰が今まで無いほど密着する。
竿の根元まで、彼女の絶頂中の膣壁を味わってしまう。
「う、だめだ、出る...出る...っ!」
ビュゥッ ビュクッ ビュクッ...
「...っ!ふぁ...〜〜〜っ!」
キュゥゥッ キュッ キュッ...
送り込まれる精液のリズムに合わせるように、膣内が脈動し、少しでも精液を多く絞りだそうとする。
トモヤは暫く頭が真っ白になっていたが、今まで経験したことの無いような射精を終え、
少しばかり冷静さを取り戻した頭で、状況を再認識する。
全身の体温が下がった。
魔物娘を、犯してしまった。
一刻も早くこの場を離れなければ、という考えが先によぎるのは、彼の今まで行ってきた業の深さ故である。
「ヤバイ、ヤバイヤバイ...!」
急いで彼女から、自身を引き抜こうとする。
「何処へ行くの...?」
「ヒッ!?」
がしり。と、再び腰に脚を回されて固定される。
ふと彼女の方を見やると、
あれだけ犯しても見ることはなかった、彼女の瞳がこちらを見つめていた。
藍色の瞳は
とても綺麗で
とても深くて
とても暗かった。
「さっきまで、あんなに『可愛い』『魅力的』『気持ちいい』って、囁いてくれたのに...いっぱい"初めて"を愛してくれたのに...」
「...な、なんだよ、それ?し、知らねーなぁ?」
シン、と、部屋の空気が冷たくなった気がした。
暫く無表情だった彼女は、やがて笑みを浮かべる。
暗い瞳に、狂気の光が宿ったように見えた。
「......えへへ...スン...スン...きっと、他のメスの臭いが、まだ混ざってるから、素直になれないんだよ...ね?」
「や、やめろ...離せ...っ!?ちょ、お前、力強...!?」
無粋なほど遠慮なく離れようとしても、腰に回された脚はびくともしない。
「でも、大丈夫だよ?臭いはいっぱいだけど、どれも"心から愛するメスの臭い"なんて一つもないの。」
眠っていた時からは考えられないほど、甘くて、冷やかで、落ち着いた口調。
先程とは違う、明確な意思を持って蠢く膣内。
トモヤは呻き声をあげながら、自身の硬度を取り戻す他無かった。
「私で、本当の愛を、いっぱい感じて欲しいな...。それで、他の女の匂いを全部上書きしたら、永遠の愛を誓い合って...二人で仲良く暮らしていくの...。ね、責任、取って貰えるよね...?"トモヤさん"?」
ベッドの隣、テーブルの上には、トモヤの財布が転がっていた。
免許証が飛び出していた。
何処にも逃げ場はない。
「や、やめろぉ...あぐっ!...やめてくれぇ...!」
「ん...♪感じた他のメスの匂い、25人分...25回、イッて、一緒におねしょして、匂いぶちまけて、上書きしよっ♪私以外、夢の中でも靡かないように...私だけに『可愛い』って、言って貰えるように...♪」
どうも部屋に残る、無関係な女の残り香までカウントされているらしい。
「む、無理だ...死んじまうぅぅっ!?んむぐっ...!?」
錯乱と絶望の中、トモヤは彼女に『誓いのキス』をされていた。
彼女の底のない狂気と愛欲に溢れた瞳に見つめられながら。
***
「あのカップル、随分長いこと頑張るネェ。」
オーガの清掃員がゴミを纏めながら話し掛ける。
「ドーマウスって、いっつも眠りこけてるイメージなんだけどサ。」
すると、奥にいたゲイザーの警備員が、いくつもあるモニターにそれぞれの"目"を向けながら、気だるげに返事をする。
「なーに、ドーマウスの魔力にあてられ続けて、今度は彼氏の側が抑えられなくなってんのさ、きっと。一緒に居れば居る程、離れられなくなる種族だかんね。そのまま結婚待ったなし、さ。」
やれやれ、と目線はモニターに向けたまま首を振る。
「多分どっかで、不用意に『可愛い』とか言ったんだろ。逃げてる風だったし。チャラそうだったし。」
アハハ、と、オーガは笑う。
「それでよりにもよってウチに来るとはネェ!OKしてるようなもんダロ!看板も見なかったのかネ?」
「まぁどのみち逃げらんねぇよ。オレってば見たこと有るもん、旦那をおっかける時のドーマウスの速さ。...ま、"口(マウス)は災いのもと"って、やつかな?...幸せにはなるんだろうけどさ。」
ラブホテル 『ゴールイン』 は、それから二度目の朝を迎えようとしていた。
19/03/06 13:08更新 / スコッチ
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