酷暑の砂漠。
　話に聞いていた以上の劣悪な環境に私たちのパーティーは壊滅しかかっていた。
　甘かった。
　巨大な砂浜程度の認識しかなかった私たちは、十分な装備も持たずに砂漠を横断しようとした。
　既に水は尽き、気力も根こそぎ削り取られている。
　だから町を見つけた時は涙が出るほど喜んだ。
　これが神の思し召しなら、これから毎日でも教会へ祈りに行くだろう。
「いくぞ！　このまま歩けば朝までには辿り着ける！」
　私は最後の気力を振り絞り、声を出す。
　乾いた喉を震わせたため、喉に痛みが走る。
　他のメンバー達も声は出せない物の、私の声に応えるように大きく頷く。
　私は、この時はまだ気づいていなかった。
　いや気づいていたとしてもどうしようもなかったのだが。
　私たちの目指す町は、普通の町では無かったんだ。



　近付いてみれば見るほど驚きは強くなる。
　ここまで現実味があれば蜃気楼ではないことはわかる。
　だが幻かと思うほど、この町は大きかった。
　まず、外壁だ。
　見上げるほど大きく高い塀が月明かりに照らされている。
　これほどまでに頑丈そうな土壁は１年やそこらでは作れないだろう。
　町の規模は一目でわかるものだ。
　特に外壁はその最たる物で、外壁を見れば町の防衛力や財力といった物がわかる。
　この歩くだけでも苦労する砂漠の中でここまでしっかりとした外壁を作り上げるのは至難の業だろう。
　次に、町の規模だ。
　高く丈夫な外壁。
　それよりなお高い建物が壁の向こう側に見える。
　しかし、町へと近付くに連れて絶望の足音が聞こえ始める。
　外壁を見上げるほど近付いて、やっと私たちは現実を認めた。
　入り口が見当たらない。
　ただ壁があるだけ。
　恐らくはコの字状に塀で囲っているのだろう。
　歩いて回れば中へ入れるだろう。
　だが、辿り着くまでに体力が尽きてしまったらどうする。
　倒れて気絶して、灼熱の太陽に焼かれてしまったら。
　そのまま日干しになって死んでしまう。
「……くっ」
　まだ不安材料はある。
　もし対外交渉のない鎖国的な町だったらどうするか。
　辿り着いたと同時に槍で突き刺されるかもしれない。
　そう考えればこの厚く高い壁も納得がいく。
「それでも、辿り着きさえすれば！」
　気力を振り絞り足に力を込める。
「あと少しだ！　町に入りさえすれば何とでもなる！」
　仲間に振り返り声をかける。
「ああ、そうだな」
「あと少しなんだし。頑張ろう！」
　次々と声が返ってくる。
　大丈夫だ、まだいける。
　仲間の声を励みに顔を上げ、壁伝いに歩き出す。

　一歩、また一歩。
　果てのわからぬ砂漠を歩く事に比べれば、今の方が気持ちの上で楽になっている。
　歩けば必ず町に辿り着ける。
　どこへ向かっているのかもわからない時ほど辛いものは無い。
　一歩、また一歩。
　あと少し、もう少し。
　歩いて、歩いて、歩いて。

　歩いて、歩いて、歩いて。

　そして、意識が遠のいた。



「おーやおや。あと少しって言うのに、全滅かぁ。」


　面白がるような女性の声が、最後に聞こえた。







　もぞもぞと何かが蠢く。
「ぅぅ、ぐっ！」
　くすぐったい様な、言い様の無い感触。
「ぅぅ、くぅっ！！」
　捕まれているような、飲み込まれているような夢。
　声も出せないまま、私は何かに飲み込まれていく。
「ああ、やめ、ぐぅうっ！！」
　苦痛もなく、ただ飲まれる。
「うああぁ！」
「止めなさいあんた達！！」
　不意に、視界を焼くような光に包まれる。
「ぐぁああああっ！！」
　同時に体を焼き焦がす激痛。
　痛みにのたうち、転げまわる。

「ぐあああぁあっ、うわあぁあっ！？」
　急に視界が開けた、と思うと同時に浮遊感、いや落下。
「くぅ！」
　そして私は床に倒れこんだ。
　床は石の様に硬く、頭から倒れこんだ私は激痛に呻く。
「あっちゃー。やっちゃった」
　痛みで痺れて体が動かない。
　それでも現状を把握しようと私は目を開けて見渡す。
「えーっと。おはよ。元気、みたいね」
「え、ああ」
　少し離れた位置に私を覗き込むようにして身をかがめる少女が居た。
　手に持っている杖は歩行補助用ではなく、魔法使いが使うような飾りの付いた杖。
「君はマジシャンなのか」
「まーね。見ての通り、ってやつ」
「ん？」
　ぎこちない様子に疑問を抱き、ようやくその答えに行き着く。
　彼女の持つ杖の先端からは細い煙が立ち昇っている。
　まるでつい今しがた炎か雷の魔法を使った後のようだ。
「ごめんねー。ちょっと、そこの馬鹿を何とかしようと思ったら、つい」
「いや大事には至っていないから問題は無い。……そこの？」
　もう一人誰か居るのだろうかと彼女の視線を追う。
　そこに居たのは、全身に包帯を巻きつけている女性だった。
「なっ、あ、あなた、大丈夫ですか！？」
　私は痺れが取れてきた体を動かし、女性に近付く。
「んー、無理〜。ビリビリして動けない〜」
「君！　こんな怪我人に対し魔法を使ったのか！？」
「怪我人って？」
「この人の包帯が見えないのか！！」
「包帯、あー、なるほどね」
　少女は何かに納得したように頷く。
「その人、怪我人じゃないよ。むしろ加害者？」
「加害者？」
「そう。貴方に襲い掛かってたら撃退しようと思って。もしかして、お邪魔だった？」
「どういうことなんだ」
　私が襲われていたと聞いてもピンとこない。
　疑問を抱く私に対し、彼女のとった行動は簡潔だった。
「それ」
「それ……、………うわぁああああ！？」
　少女が指差す先に視線を向けて、私は思わず悲鳴を上げた。
　私は何も穿いていなかった。
　下半身がまるきり裸だったのだ。
「おっきいんだね、おにーさんって」
「っっっっっ！！」
　からかう口調を背に、私はベッドの下へと隠れた。

「お大事に〜」
　杖を持つ少女に見送られ、私は病院を後にする。
「歩けばわかるとは言われたが。確かにそうだな」
　この町は一体何なのかと少女に尋ねたとき、少女はそう言った。
　そして目の前の光景はと言えば、こうだった。
「うぅぅ、出る、出るぅウ！！」
「むね、気持ち良いっす！」
「ほらほら、もっと出して〜」
　卑猥の一言では言い表せない光景が広がっていた。
　包帯に身を包んだ女性が男性に絡みつき、あるいは奉仕している。
　いや奉仕と言うのは間違っている。
　彼女達は男に媚びていない。
　むしろ自らが欲して男たちに絡みついている。
「マミー、というのだったか」
　包帯の隙間から見える浅黒い肌。
　その肌に紋章が浮かんで見える。
「砂漠特有のアンデッド。古き王、ファラオに仕える不死者か」
　彼女たちから視線を反らしながら少女から聞いた話を思い返す。
　マミーというアンデッドは、ゾンビやスケルトンとはまったく別種の存在と思っていい。
　人としての意識を持ち、人の様な姿を持っている。
　意思疎通の取れないゾンビや体の大半が骨で構成されているスケルトンとは違い、見分けがつきづらい。
　特殊な包帯と体に浮かぶ紋様。
　あとは浅黒い肌が特徴なのだが、中には例外も居ると言う。
「ファラオの王国、か」
　奇妙な感慨を抱きながら、私は甘い匂いの漂う街中を歩く。

「やっと全員揃ったみたいね」
　芯の通った声に私たちは頷く。
　場所は冒険者達の集う酒場。
　室内は雑多なざわめきと酒の匂いと香辛料の匂いとに包まれている。
　木製の丸テーブルを囲んでいるのは私たちのパーティだ。
　軽鎧とマントを身につけた長髪の女性だけは背筋を伸ばして立っている。
「皆無事で何よりよ」
「ろくな装備も無かった割には、ね」　
　冷ややかな声に彼女の肩が震える。
「どういうこと？」
「言葉どおりよ、ケイト。リーダーの無謀な作戦に乗ったせいで私たちは全滅しかかったって言うの」
「私は悪く無いわよ。天気が少しばかり良すぎただけよ」
「その少しばかりで死に掛けた私達の身にもなったらどう？」
「うるさいわね。第一、砂漠装備を買おうとしたら真っ先に文句を言ったのはあんたでしょ、レイチェル」
　また始まったと髪の短い彼が頭を抱える。
　実際、私も同じ気分だ。
　私たち５人は冒険者になりたての頃から一緒に居るが、出会った頃からこの二人の仲は悪かった。
　直感型で当たると大きいが外れるのも大きい戦士のケイト。
　常に一歩引いた位置で冷静な意見を口にする盗賊のレイチェル。
　水と油みたいに相性が最悪なのだ。
「あんたが馬鹿みたいに大量に買おうとしたからよ」
「そう？　もしあの時、私が買おうとした量を持っていればもっと余裕を持って水を飲めたでしょう」
「結果論よ」
「だから何？　先のことなんて予想できなくて当然でしょ」
　私ももう一人の戦士であるリードも、彼女達の口論には入り込めない。
　ヒートアップしていく口論。
　いつ手が出てもおかしくないほど二人は熱くなっている。
　座っていたレイチェルも既に立ち上がっている。
「どうする？」
　雷に怯えるように身を縮めているリードが小声で訊ねてくる。
「私にもどうしようもないな」
「右に同じ」
　二人してため息を付く。

「いい加減にしなさいよ！」
「なに？　やる気？」
　私達が手をこまねいている間に事態は切迫していた。
　二人は互いの得物に手をかけ、いつでも引き抜けるようにしている。
　それに気づいたリードが慌てて席から立ち上がる。
「おいおい、お前達！？」
「リードは黙ってて！」
「邪魔しないで」
　幾らなんでもやりすぎだろう、と言うより早く二人から同時に制止される。
　ここで私は一つだけ疑問を抱いた。
　普段ならここまで熱くなる前に止める人物が居るのだ。
　だが今回は止めようともしていない。
　不思議に思って私は５人目の仲間、ノインを見る。
「……ノイン？」
　ノインは普段から目深にフードを被った魔法使い。
　表情を読み取ろうにもフードの陰に隠れてよくわからない。
　しかし彼女が普段と何か違う事に私は気づいた。
「ノイン、どうしたんだ？」
　全員が集まってから一言も言葉を発していない彼女に私は近付く。
　近付いて、彼女に肩をつかまれた。
「なっ、いったい、なにを？」
　言って彼女の手を取る。
「いたっ、な、何を……っ」
　ノインが肩をつかむ力に私は顔をしかめ、彼女の手の甲を見て私は気づいた。
　病弱なほど白かった肌は浅黒くなっている。
　恐らくは砂漠の日に焼けたのだろうが、もう一つ彼女の手に変化があった。
　肌の色よりも濃い色合いの、太筆で描かれたような文様。
「ノイン、君はまさか！？」
　問いかけるより早く、私は床へと押し倒された。

「バード、なにやってんだ！　早くこの二人を止めてくれ！」
「それよりこっちを頼む！」
「なに言ってんだ、こっちの方が先だろ！」
「ノインが、んむっ！？」
　彼女の異変を伝えようとして、唇が柔らかい物で塞がれる。
　キスをされている。
　同時にフードの陰の中にある彼女の顔の紋様を見つける。
　フードに隠れている整った顔立ち。
　中性的で意志の強そうな眉。
　そして頬に描かれた一筆書きの文様。
　不思議と彼女にその紋様は似合っているように思えた。
「んっ、ちゅぅ、ちゅううっ」
　唾液を全て吸い取るような強力な吸引。
　恋人がするように頬に手を当ててのキス、ではなく逃げられないように両肩を押さえつけてのキス。
　そして徐々に意識が遠のいていく。
　おぼろげに思い出す。
　アンデッドは精を食糧とし、体内の精が足りなければ理性を失い本能のままに貪る。
　マミーといえどアンデッド。
　精が足りないならば何よりもまずそれを補給しようとする。
　不味い。
　このまま意識を失えば殺されることは無いにしても、暫くの間は倒れたままだろう。
　次の目標は恐らくリード。
　その次は？
　レイチェルかケイトのどちらかだろう。
　それは不味い。ものすごく不味い。
　なぜならば、マミーとは女性を同族のマミーに変えてしまうのだ。
「じゅず、じゅぅっるるっ」
　唾液と共に意識が吸われていく。
　朦朧とする中、一心不乱に口付けを求めるノインを愛しく感じて、紋様の浮かぶ彼女の頬を撫でる。
「んっ、っっっ！？」
　するとノインは目を硬く閉じて体を震わせた。
　手の力が強くなり、肩が痺れるほど痛む。
「ぐぅ、んんっ！？」
　痛みに顔をしかめると、キスがより一層熱の篭った物に変わる。
　ただ吸うだけだったキスは舌を絡める濃厚なキスへ。
　漏れ出ると息も心なしか熱くなっているようだ。
　私の愛しさが彼女に伝わったのかと小さな感動を抱き、痛みに構わず彼女の頬を撫でる。
　また、何かを堪えるように彼女が震える。
　気づけば私は彼女の頬を撫でながら自ら欲して彼女と舌を絡めてキスをしていた。
「っっっぅっ！！」
　ひときわ強くノインが体を震わせ、くたりと私の上に倒れこんできた。
　肩を掴む力の抜けている。
「ぷはぁっ」
　長いキスの後に吸い込んだ空気は、甘い香りがした。






「さて。どういうことだか説明してくれる？」
　今すぐにでも剣を引き抜こうとしているケイトに、私は答える。
「ノインはどうやらマミーになっているようだ」
「マミーっていうと、あの街中を歩き回っているアンデッド？」
「ああ」
　私は痛む頬をさする。
「なによ。嫌味のつもり？　それ」
「そういうわけじゃないよ。単に痛いだけ。それに、あれは勘違いされても仕方ない状況だったからね」
「そうね」
　私は体中に走る痛みに苦笑い浮かべる。
　ノインが気絶した後、私たちに気づいたケイトが「ノインに私が襲い掛かっている」と勘違いしてしまったのだ。
　この痛みは、彼女の怒りの表れだと思って欲しい。
　剣を引き抜かなかっただけ彼女が冷静だったのだと私はほっとしている。
「確かに。この子の紋様は町で見かけたマミーと同じタイプね」
　パーティで一番年下（自称）のノインは他のメンバーと仲がいい。
　特に一番年上のレイチェルからは姉妹の様にいつも一緒に行動している。
　ノインの変化を冷静に観察しながらも、レイチェルは自分の髪を弄り続けている。
　落ち着かないときに自分の髪を弄るのは彼女の癖だ。
　見た目ではわからないが、内心彼女の事が心配でたまらないのだろう。
「マミーについてはどれくらい知ってる？」
「んー。アンデッドでしょう？」
「包帯でぐるぐる巻きにされているアンデッド」
「砂漠特有のアンデッドね。聞いた話ではファラオとかいう王様の眷属らしいけど。詳しい話はわからないわ」
「私も一から十まで聞いたわけじゃないけれど」
　前置きをしながら私は聴いた限り全てを伝える。
「なんだ。じゃあ問題ないわね」
　私の簡単な説明の後、ケイトが楽観的なことを言い出す。
「おい、問題ないのかよ！？」
「そうよ。だって、マミーって精が足りてれば人と同じ様に考えたり出来るんでしょ。町にいるマミーも半分以上は自分の意思で男の人を……襲ってたし」
　具体的にどう襲っていたのか思い出したようで、ケイトは顔を赤くしてそっぽ向ける。
「確証が無い以上はその直感に頼るしか無いわね。治す方法がないみたいだから」
「無いかどうかは、調べてみたいとね」
「じゃあ、ここにずっと滞在するってのか？」
　リードが驚いたような喜んだような嘆くような声を出す。
「そうよ。嬉しいでしょ？　男の人はただ気持ちが良いだけなんだからさ」
「何なら貴方はここでずっと過ごしていてもいいのよ」
「うえぇええ！？」
　女性二人に冷たい視線を投げかけられてリードが頭を抱える。
　３人のやり取りを見ていた私は、なるほどと頷いた。
「確かに問題はなさそうだ。みんながこの調子なら、あとはノインが納得してくれればいい。そうすれば何時も通りだ」
「そういうことよ」
　ケイトも頷いてくれた。
　レイチェルも声には出さない物の、目で賛同してくれた。
「じゃあこれからどうしようか」
「何って。ノインに精（ごはん）あげないといけないんでしょ？」
「……」
「……」
「……なによ」
「いや、ケイト。その、さ」
「ノインは処女よ？」
「……あ」

　私たちのパーティは新たに発生した問題をどう解決するのか。
　全員で頭を抱えながら、砂漠の町での初日を過ごした。




　太陽輝く晴天の昼。
　焦げ付く暑さから逃れようと一人の女性が建物に入り込む。
「おや。授業中じゃなかったんだ？」
「きゃうんっ！？」
　入り込んだ先では何時も通り、教室に乱入してきたマミーに襲われる若い教師と、その光景をじっくりと観察している生徒（中には羊皮紙に何かを熱心に書き込んでいる生徒も居る）の姿があった。
　そして何時も通り、興味津々に尻尾を振りながらも一歩引いた位置で動かないアヌビスの少女。
　その背後に立ち包み込むように抱きしめると、少女は可愛らしい悲鳴を上げる。
「な、あ、貴女はあの時の！」
「あの時の、なんだったかなー？」
　少女の生真面目な反応を猫耳の彼女は笑う。
　語尾が間延びした意味ありげな笑顔に少女が次の言葉を迷う。
「あの、あの時の、母様のご友人の、スフィンクス、の人！」
「正解〜。ご褒美に舐めなめしてあげるよ〜」
「きゅぅううん♪」
　敏感な耳の内側を舐められて少女がうっとりと声を出す。
「イリスったら、かわいー」
「うぅぅ、い、いまは授業中なんですよ！　部外者は、きゅぅ、出て行ってください！」
「あれ？　今って性行為の授業じゃなかったんだ」
「文化歴史学です！」
「あれが？」
　フサフサとした毛の猫手で指差された先を見て、イリスが俯く。
「あ、あれは。国民生活の一環で、きゃうんっ♪」
「話が長い〜」
　イリスの薄い胸を肉球で撫でる。
　質感柔らかな肉球は胸以上の弾力をイリスの胸に与える。
「きゃう、きゅうん、きゃうぅん」
「ふふー。こうするともっと気持ち良いよねー」
　イリスの肩に顎を乗せ、柔らかな体を密着させる。
　猫の尻尾が上機嫌に揺れる。
「きゅぅ……んんっ！」
「ん？　んー、ああ、なるほどねー」
　唐突に軽くイッた少女。
　スフィンクスにとっては予想外のタイミング。
　その理由を考え、周囲を見回すと、答えが見つかった。
「イリスちゃんったら、あのせんせーの精液でイッちゃったんだー？」
「っっっ！！」
　ぎゅうっと内股を閉じるイリス。
　無論、その動きを見逃さない彼女ではない。
「おやー？　どうしたのかな」
「や、やめてぇ」
　硬く閉じられた太ももをフサフサの手の甲で撫でる。
　じわじわと閉じる足の力を削ぎながらスフィンクスは次のラウンドを開始したマミーたちを見やる。

　この町に来て１年になる彼だが、未だにマミー相手に押し倒されてばかりいる。
　近くにはいくらでも男性が居るだろうに、わざわざ学校に来るマミーは少なくない。
　現に彼女が見ているだけでも、何人かのマミーは既に常連客だ。
　彼が抵抗しないからか、精がおいしいからかはわからない。
　確かな事は、幼いアヌビスの少女があの教師に対し淡い恋心を抱いている事。
　そして今の状況をあまりよく思っていないこと。
「どうするかねー」
「んんー？」
　すっかり彼女の愛撫に身をゆだねている少女は夢うつつにぼんやりとしている。
　このまま手管の限りを尽くせば幾らでも「調教」できる、そんな可能性さえ感じられるほど少女は無防備に愛撫を受け入れている。
「やっぱり」
「なに？　どうかした？」
「せんせぇは、おおきな胸がすきなんでしょうか？」
　先生に跨り腰を揺らしているマミーは快楽をさらに得ようと自らの胸をもみし抱いている。
　女性の細い指で形を自在に変える胸は扇情的で、胸の大きさを強調しているようにも見える。
「おねぇさんも、むねが大きいです」
「お、おねーさん？」
「はい。おおきいです」
　赤くなった顔に見つめられて彼女はどきりとしてしまう。
「あー、イリスちゃん、発情しちゃってるか」
「はつじょー、なんですか？　このふわふわとしているものがはつじょーですか？」
　普段の６割り増しで愛らしさを振りまくイリスに、スフィンクスは冷や汗をかく。
　不味いなぁ、本当に食べたくなってきちゃった。
　ぺろりと舌なめずりをしながらも何とか心を落ち着かせる。
「そーゆーのは、おかーさんに聞きなさい」
「そうですね。母様もむねはあまりおおきくないようですから」
　うわぁ。
　本人が聞けば確実に落ち込みそうな事をすらっと言い放つ少女に彼女の顔が引きつる。
「ま、まぁ。ナーリスの胸が大きいとか小さいとかそういうのじゃなくてさ。こういうのはおかーさんに聞くといいんだよ」
「おねぇさんはおしえてくれないのですか？」
「うぅ、そ、それはねぇ」
　きゅーんと甘える声と共に上目遣いをされてノックダウン寸前。
　それでも彼女は耐えた。
「おかーさんにまず聞くこと。いいね？」
「んぅ、はい」
　頭を撫でて誤魔化すと、スフィンクスは滑るような動きで窓へと躍り出る。
「そいじゃ、またねー」
「……はい」
　こくりと顔を赤らめたまま小さく頷くイリス。
　そのイリスに手を振るとスフィンクスは窓枠を蹴り、猫の俊敏さで空を駆けて行った。