君に送る・・・・・


ここは名も無き街。
街に名前が無いなんておかしい?
仕方ないじゃないか本当に無いんだから。


この街の顔役である男の信念に基づき、よほど危険なものでない限り全てを受け入れる自由な街だ。
様々な商品、食べ物、特産品、衣類、本、薬、金属、武器、道具がこの街に集まってくる。顔役の男にそこまでのビジョンがあるかは分からないがこの街はまだまだ発展を続けるだろう。


しかし、この街も全てが順風満帆という訳ではない。
顔役の男、ロウガの方針で全てを受け入れるこの街は人とは違った特徴を持った人、魔物も当たり前のように受け入れる。
それが魔物を排除しようとする勢力、教会や教会の教えに染まった国の逆鱗に触れ、現に今は戦争状態になっている。


だが、誰も彼もこの街から逃げようとはしない。
むしろ「自分たちがこの街を護るんだ。」と意気込み、武器を扱える者は武器を持ち、苦手な者はそれ以外の手段でこの街のために立ち上がっている。
それだけでロウガという男の器と人柄が窺える。いい街だ。
(この男が反魔物国の騎士を殴ったのが戦争の原因だとかいう噂があるが真偽のほどは自分には分からない。)






え?自分は誰かって?
本名を名乗るのは自分の立場上よろしくないので伏せさせていただく。
そうだな・・・・・・俺の知り合いは自分のことをフランとかFとか呼んだりする。今回はそれで頼む。


手前味噌だが自分はこの街でもそこそこ名がある。
この街の有名人100人の中にたぶん入るだろうし、街で自分のことを尋ねれば20人に1人くらいは「あー、知ってるかも。」と答えてくれるだろう。



今、自分はある女性との約束のために待ち合わせの場所に向かっている。
懐中時計を取り出し時間を確認する。約束の時間より10分早く着けるだろう。
紳士たる者、女性は待たせない。



街の大通りから歓楽街へ入り色町に下る、客寄せの女の子の誘いをやんわりと断りとある娼館に辿り着く。
娼館『テンダー』
自分もお世話になるが今日は客として来た訳ではない。
店の脇道をすり抜け裏口に回る、すると

『あ、フランさ〜ん。』
『ディオーレさん!?』

ある女性、サキュバスの『ディオーレ』さんが店の裏口の前で手を振っている。
女性を待たせるとは・・・・・・不覚。紳士失格だ。

『今、「私を待たせてしまった・・・・・・不覚。」とか思いましたね。』
『う・・・・・。どうして分かるんですか?』
『フランさんの考えることはお姉さんには筒抜けなんですよ。ふふふ。最後のお客さんが早漏だったんで早めに終わったんですよ。気にしないでくださいね。』

とディオーレさんが天使のような(サキュバスだから悪魔か?)笑顔で言う。
そう、彼女もこの娼館で働いている。しかも人気No,1だ。
自分も定期的に彼女にバッチリ搾られている。(定期的といっても結構スパンは短い。3日とか。)。そのせいか同世代の奴らよりいくらか若く見えると思われる。



『それより・・・・・早いとこ行きましょ。お腹減っちゃいましたよ。』
『そうですね。待たせてしまった分は取り返しますよ。と言うより、さっきまで食べてたんじゃ・・・・・・・』
『別腹ですよ。』
『ふふ、そうでしたね。』

ディオーレさんが自分の腕に絡みついてくる。仕事終わりにシャワーを浴びたのかシャンプーのいい匂いがする。
彼女は今仕事で着ている露出の高いドレスではなくラフな普段着に上着を羽織っている。
ちなみに、彼女の普段着や仕事で使うドレスは上から下まで自分がプレゼントしたものだ。

こう見えても自分は経済的にかなり余裕がある。
若い時に無茶をして貯めたお金を元手に投資をしたら上手くいき、その後雪だるま式に資金を増やし、今ではこの街でも指折りの資産家だ。さっき言った有名人たる所以がこれだ。
これも若い時に貯めたお金のお陰だ・・・・・・・・・・
自分と腕を組み、見た目通り柔らかな胸を押し付けて笑顔で歩く彼女を見る。



そう・・・・・・・・・・若い時に・・・・・・・・・・・・・・・








ディオーレさんの希望で食事も出来て気軽に飲める居酒屋『フラン軒』で飲むことになった。あ、自分の呼び名とは全く関係ないぞ。
自分とディオーレさんはよく一緒に出かける。
ディオーレさんの仕事が休みの日にショッピングに出かけたり、今みたいに仕事が終わってから飲みにバーや居酒屋に向かったり。
一般的に言えば、デートだな。

『・・・・でねえ、その人結構ハードなプレイが好みでねえ・・・・』
『はい。・・・・・・ええ。・・・・・・・お疲れ様です。』

こうやって、ほぼ毎日いろんなお客の相手をしているディオーレさんの愚痴を聞くのは自分の仕事だ。
今日はだいぶハードなSMプレイをされたらしい。縛られたとか叩かれたとか。プレイをした奴に殺意が芽生ゲフンゲフン

『もうね、娼婦だからいいれすけどわらしがあの人の恋人だったらいやれすよ・・・・・・・女将さん、ウォッカもう1う。』
『大丈夫ですか?飲みすぎですよ?』
『いいんれふ、わらしおさけにはつよいれふからー。それに、ふらんしゃんもいまふし。』

酔っ払っているのでいつものお姉さんスマイルではなく、にへへ、と向日葵のように笑う。
こうやってストレスの多い彼女の仕事のガス抜きに少しでも役に立てていれば、自分は幸せだ。こうやって2人で飲む甲斐がある。


そうしてディオーレさんの愚痴を聞きながら時間が経つ。
やはり飲みすぎたのかディオーレさんは自分が少し目を離した隙に眠ってしまった。
時たまあることだが、女将さんに謝ってお勘定をお願いする。
女将さんも「いいんですよ。」と言ってディオーレさんが飲んだビンを片付けてくれる。いいお店だ。


ディオーレさんを背負って店を出る。
今日みたいなことは初めてではないので慣れたもんだ。
彼女の住むマンションに向かい、合鍵で鍵を開ける。
女性らしい綺麗な部屋だ。
よく整頓された部屋に彼女の好みの小物が並べられている。その中に自分とショッピングした時に買ったものがあるとやはり嬉しい。

『う・・・・・みゅう・・・・・・・』

ディオーレさんをベッドに下ろして寝かせる。
溜め込んだものを吐き出したからか、それともお酒のお陰か、気持ちよさそうな顔をしている。
さて、彼女が起きた時のために何かすっきりするものでも作って・・・・・・

スッとディオーレさんの手が伸びて、ギュっと自分の袖を掴む

『ふらんさぁん・・・・・・』
『ディオーレさん・・・・・・・』

彼女が夢見がちな目で自分を見つめ、艶っぽい唇で、悩ましげな声で自分の名前を呼ぶ・・・・・・・・・・
自分も彼女の名前を呼んで答え、彼女の手を掴み、もう一方の手で彼女の頬を撫で、誘うように潤った彼女の唇に自分のそれを近づけ・・・・・・・・・













『お水、汲んでくるだけですよ。すぐに戻ります。』


彼女にそう囁くと安心させるように彼女の手を撫でて優しく外す。
コップに水を汲んで戻ってくると彼女はもう完全に眠っていた。







危なかったぁ・・・・・・・・・
もう少しで押し倒してしまうところだった。



いや、別にディオーレさんを抱きたくない訳ではない。
定期的に彼女に搾られてるわけだし、今のような状況で彼女を抱いたことももちろんある。
だが、今日はダメだ。
フラン軒での愚痴で今日の客はSMだったと分かっている。
以前、同じような客を相手にした後自分が彼女を抱いた時、身体にはまだ縄の痕や鞭の痕が残っていた。彼女は嬌声をあげながらも瞳には涙があった。


「ごめんなさい。終わってからすぐ後だとまだ痕が残っちゃってて・・・・・・・・いえ!フランさんとするのが嫌なんじゃないです!でも・・・・・やっぱり貴方に抱かれるなら少しでもキレイな方がいいなぁと思ってしまって・・・・・・・」


そう聞いた時、自分は欲望のままに彼女を抱いてしまったことを後悔しました。
それ以来、彼女の身体に痕が残っている時は絶対に抱かないと心に決めました。もう彼女の涙は見たくないですから・・・・・・

サキュバスのフェロモンムンムンな身体に誘うような言葉を振り切って我慢するのは並大抵のことではありません。
それでも、自分が我慢できるのは・・・・・・・・・・・・





たぶん・・・・・・・いや、確かに彼女を・・・・・・・・・・・



愛しているから、なんでしょう。









自分の上着のポケットに手を入れ、そこに入れてある小さめの箱に指を触れます。
・・・・・・・・所謂、給料3ヶ月分の・・・・・・・ってやつです。

10年以上もこんな風に付かず離れず、おっさんと呼んでも差し支えない歳になっても、自分を誘ってくれて、自分が買った物を大事にしてくれて、自分に心を開いてくれいる・・・・・・・・・

『んん・・・・・・・・フランしゃん・・・・・・・・・だいしゅき・・・・・・・・・』

・・・・・・・・・・・・・寝言。

勘違いしてもいいのかな?
たとえ勘違いでも、けじめは付けなければならない年齢になってしまった。

でも、あと一歩が踏み出せない。

脳裏に過ぎるのは十数年前のあの日の記憶。

確かに、自分が好きだと言った種族は貴女ではない。

けど、いつの間にかこの歳になるまで貴女以外にここまで深い関係になる女性は作れなかった。


それが答えにならないかな・・・・・・・・・・・






君に送る・・・・・・・・・・モノも、言葉も、今日も君に渡せなかった。
でもいつか。そう、いつか・・・・・・・
















































『ん・・・・・、うう・・・・・・・・・フランさん・・・・・・?』

私が起きるとベットの脇で彼が眠っていた。
彼は私が激しいプレイをされた後は絶対に私を抱かない。
随分と前に私がそういうことを言ったのだが、彼は守ってくれている。
そのために私のベットで寝ない程だ。

フランさんを起こさないように水を飲みに台所に向かう。
そこには二日酔いの私のために考えたと思われる朝食の下ごしらえが用意してあった。
フランさんは料理も上手い。彼は「紳士の嗜みですよ。」と言っていたが。
ありがとう、フランさん。



水を飲んで部屋に戻る。
フランさんはまだ眠ったままだ。
起こさないように、彼の上着のポケットを調べる。

・・・・・・・・・・・・あった。

私が「ソレ」に気が付いたのはちょっと前。
彼の脱いだ服をたたんでいた時に上着から落ちたのだ。
最初は私以外の誰かに渡すものだと思い、かなり動揺しました。
ですが・・・・・・・・彼が私とデートしている時、ポケットを気にしているのを見て・・・・・・・・・
勘違いしてもいいですよね?





『ねぇ、これは何なの?』

と私が聞いてしまれえばいいことなんでしょう。

でも、あと一歩が踏み出せません。

思い出すのは、十数年前のあの日の記憶。

あの日の私の言葉が、彼の・・・・・・いえ、私の後一歩も踏みとどまらせているのでしょう。

でも、あれから10年以上経って、私と同期の方は皆結婚してお店から卒業していきました。

私にも何回も何回も身請けの話がありました。

でも、全て断ってしまいました。



それが答えになりませんか・・・・・・・・・・・








貴方から貰う・・・・・・・・・・モノも、言葉も今日も貴方から貰えなかった。
でもいつか。そう、いつか・・・・・・・・・・・



どうも、明けましておめでとうございます。
腐乱死巣です。

新年1発目のSSは宿利京祐様のところのキャラを拝借しましたものになりました。
申し訳ありません!!!!!!!(土下座)
宿利様の素晴らしい作品「Lost in BLUE」の第六十八話を読んだら滾っちゃいまして!!!
本当に申し訳ありません!!!(ジャンピング土下座)

時間軸的にはゲリラ戦以降だったらどこでも入れられるように書いたつもりです。
個人的には六十八話の少し前で、この心の動きがあって、六十八話の会話の直後に指輪を渡すとかキャーーーーーーーーーーー!!
そのままゴールインとかキャーーーーーーーーーーー!!!

すみません!!興奮してすみません!!妄想して本当にすみません!!!(焼き土下座)


以前からこの2人のその後と2人の日常の様子を書きたいなぁと思っていました。
シチュエーションが凄く俺好みで美味しいんです。むしゃむしゃ。
2人が長々と続けている日常とそれを変えたい2人の変化の兆しとか、そんなのを表現できたらよかったのになぁ・・・・・・・・・・・文才が欲しい。


えーと、初めての方へ
この拙いSSを200%楽しむためには宿利様の「Bad Communication」、拙作の「無題」、宿利様の「Lost in BLUE」を読んでいただけるとより一層楽しめると思います。

そうでなくても宿利様の作品は素晴らしいので一見の価値ありです!ぜひどうぞ。

最後に、宿利様。
書いた設定とかが間違ってればご指摘お願いいたします。
そして、こんな拙いSSでよろしかったらもらってやって下さい。



ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

ではまた次のお話で

11/01/18 13:28 腐乱死巣

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