連載小説
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ご飯、買いに行こっか
腹と背中が温かい…。てか、柔らかい…。何処からか戻ってきた意識が身体に力を吹き込ませる。気絶にも似たその感覚から覚醒し、ブラックアウトしていた目を開いてみると朧気に薄茶と焦げ茶色を交互に組み合わせたような景色が見えた。……………あぁ、天井か。

「んなっ!?」

木天井!?確かあの図書館は石造りの筈…つーかまずあんなに低くなかっただろ!

「んぅ…。」

驚いていつの間にか掛かっていた蒲団を軽く退けて身体を起こすと、腹にあった温かくて柔らかい物(ソピア)が小さく身動いだ。

「…え?蒲団?」

何で蒲団?あっし確か図書館に居たよな?しかも何で寝転がって?ってかここ何処だよ。

「…パパ〜…?」

後ろから蚊の鳴くような声が聞こえてきたので振り返ってみると、あの綿毛娘が多分ついさっきまであっしが頭を乗っけてたであろう枕の端っこにチョコンと座って目を擦っていた。

「…ふ…………ぁ。」

綿毛娘は大きな欠伸を一つすると、非常にゆっくりと此方に飛んできた。

「うわっ、ちょっ!?」

また顔に抱き着かれては敵わないと右手で阻止しようとするが、綿毛娘は意に介さずにそれを飛び越える。…?何がしたいんだ?

「…うわっ!?」
「♪」

突然頭にかかる小さな重み。それも在るか無いか判らない、例えて言うなら鳥の羽根のような。嬉しそうな声を上げている辺り、きっといつもの笑顔が比較にならない位の満面の笑みなのだろう。撫でてやろうと左手を上げようとしたが、動かない。…何d………

「すぅ…すぅ…。」
「……………………。」

さっきの訂正。動かないんじゃない、動かせない。だってソピアの尻尾が巻きついてるもの。にしても器用だな。下腹部の上にいながらしっかりと巻き付けてる。…動けん。

「…おーい?」
「……………ん。」

蒲団を持ち上げて試しに声をかけてみると、ソピアがほんの少し顔をしかめる。…………………ハッ!いかんいかん、でら可愛い顔ん見惚れとう場合が無いに。とりあえず起きてもらぁ動かれんし此処どっか判らな

「っくちっ!…うゅ?」

突然だが想像してみて欲しい。
ソピアが…いや魔王の娘、大人になれば絶世の美女になるとさえ言われるリリムの年端もいかない少女が自身の可愛らしい嚔であっしの下腹部に頭をぶつけて目を覚まし、もそもそと蒲団から顔だけ出して此方を見てきてまだ半分寝惚けた笑みで

「おにぃちゃん、おはよぅ。」

ほ、ほほほほほ惚れてまうやろーーー!!
何これ何このでら可愛い生き物!寝惚け顔で十分セカンドインパクト並の破壊力があるってのにその上上目遣いで此方気付くとかロリコンじゃなくても萌えるっつの!襲っちゃうぞ!?…いや襲わんけどね?まず親怖いしいくら淫魔でも子供だし。

「はいおはよう。」

つっても声とか態度にゃおくびにも出さんがな!義兄さんの無茶苦茶な物言いに耐えてきたあっしをなめるんじゃ…言ってて悲しくなってきた。

「…ここ、どこ?」

ソピアちゃん、それあっしも今一番知りたい事だよ。城の図書館に居たと思ったらログハウスにしては大き過ぎる木造住宅に居るんだもの。…それよりも

「…ソピアちゃん、尻尾放してくれない?」
「えー、やだー。」
「えー…。」
「えー♪」

はーいそこの綿毛娘、嬉しそうに反復しなくていいから。ソピアもさらに尻尾の力強めなーい。

「…じゃあさ、抱っこしてあげるから。」
「…ほんと?」
「あっしが嘘吐いた事ある?」
「……………。」

ふるふると頭を横に振り、凄く名残惜しそうな顔をしてソピアは自身の白い尻尾を腕からほどいてくれた。…まあ、会って一日も経ってないのに嘘もへったくれも無いけども。

「よしじゃあ一寸、この家を探検といこうか。」
「…うん!」

微笑みかけてくれたソピアの体を抱き上げ、妙に眠気を誘う蒲団から立ち上がる。…綿毛娘の時も思ったけど、この子達って凄く軽い。少し心配になってくる位に。多分飛ぶ関係からなんだろうけど、食うもんちゃんと食ってるんだろうか。

―――――― 居間


「広…。」

寝室っぽい所のドアを開けて階段を降りた先を抜けると、そこには高級ホテルの部屋を隔てる壁を全部引っこ抜いたって位の広さの居間があった。分かりやすく言うなら学校の教室二つ分といった所だろう。しかも家具まで備え付けられていた。

「…んだこれ?」

居間の入り口付近に設置されていた燭台を置くためであろうか小さなテーブルの上に二つ折にされた紙が置かれていた。手に取り、開いて中を見てみると…

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

やっほー♪
驚いた?驚いたでしょ。
君が寝ている間に私の別荘に移させて貰ったわ。
いきなりで悪いんだけど、君に二つ頼み事があるの。
まず一つ、暫くの間ソピアの面倒を見てて欲しい。
私は執務とか諸地域の視察とか仕事が多くてあの子にあまり構ってあげられない、それじゃあの子が可哀想だし君にも懐いてるみたいだから。これに関しては勿論全面的にサポートさせて貰うわ。必要な物とかがあったらいつでも言って頂戴。

もう一つ、時々転移魔法が入った手紙を送るから魔王城に来て君の世界の知識を教えて欲しいのよ。
私達が実現できなさそうでも構わない、とにかく必要ない犠牲を出さないためにこれ以上教会の侵攻を許す訳にはいかないの。戦術兵器日常品何も問わない。役に立つ物を教えてくれたらそれ相応の報酬を渡すわ。

生活費はキッチンの棚の中に入ってるわ。くれぐれもよろしくね。

追伸 犯ってもいいのよ?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…………………。」

うん、最後の一行は見えなかった。「犯」の字なんか見えなかった。ってか魔王日本語いけたんか。また意味分からん文字が書かれてるかと思った…。…キッチンの棚?あぁ…何か棚からはみ出てるけどもしかしてアレ?

「………………。」

居間の隣にあるキッチンの棚から出てきたのは一抱えはある皮袋。持ち上げようとしても片手じゃびくともしない。魔王さん…入れ過ぎや。

くぅ〜…
「あ…あぅ。」

可愛いらしい音が聞こえたかと思ったら、腕の中に居るソピアが顔を真っ赤にして少し俯いていた。

「ご飯、買いに行こっか。」
「…うん。」
12/07/30 23:36更新 / 二文字(携帯版一文字)
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