読切小説
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「こらっ シグ!また遅刻か!」
「ひぃっ!? スイマセン師匠ッ」

早朝早々俺は叱られてしまった。
それもそのはず、約束の時間に1時間も遅れてしまったんだから。
はぁ...憂鬱だ。

「全く...よいか?土地師というものはだな...ブツブツ」

また始まった。
師匠お得意の延々説教。
こぉれがまた長いんだ...ざっと2時間ってとこかな。
ちなみに土地師というのはこの地特有の仕事だ。
何でも山の形を見ただけで何が埋まってる、とか、
森の様子を見ただけでどこに何が生息しているか、とかが分かるんだと。
なんで伝聞調かというとまさにそのとおりだから。
親から何故か知らないけど無理やりこのヘンクツじじいのところへ弟子入りさせられて、毎日良く分からない修行ばかりやらされている。
例えば...そうだな。
川に連れて行かれて、
「その流れをその身に感じるのだっ!」
とかほざいて俺を川に突き落とし、その上あがってこれないように足蹴にしたり、
空を見て師匠が懸命に指差してるものを見つけようとしたけど見つけられず、
見つかるまで食事を抜きにされたり...
まぁ 何の才能も無い俺がそんなものを見つけられるはずもなく、
干からびて転がっているところを偶然通りかかった旅人に助けられたりしたんだけども。
そのときは必死で気付かなかったんだけどなんで土地師が空を見あげにゃならんのか。
結局のところ、そんな無茶な修行で身に付いたのはゴキブリ並みの生命力といったところか。
それだけは何の才能が無くても勝手に身に付いた。
別に身に着けたかったわけじゃないけど...

ゴッ

「こらっ 聞いておるのか!?」
「あ〜 スイマセン」

師匠の愛の鉄槌は俺には効かない。
なぜならすでに数百は受けているからな。
最初の頃は悶絶して床を転げ回るほどの痛みが刺さったけど、
今じゃハエが止まったかな程度にしか感じない。
喜ぶべきか、悲しむべきか。

「全く...もういい。それより修行だ。今日は新しいのをおもいt...
 新しいのをするぞ」

今すさまじく聞き捨てならないセリフが聞こえた気がした。
ま、きっと空耳だろ。

「さて、今日はここから1日歩いたところにある岩場にドワーフの集落があるんじゃが...」

もう嫌な予感しかしない。
師匠が魔物の名前を出した時点でもう危ない。
アマゾネスの旅人を襲えだの、リザードマンと一騎打ちして来いだの、
ケセランパサランを探して来いだの、マタンゴを一体捕獲して来いだの...
何一つ成功した試しがない。
大方殴りこみといったところかな?今回は。

「そこにあるドワーフの宝を盗み出してきて欲しい」

ほぉらやっぱr...今犯罪を犯せと宣告されなかったか?

「その宝というのは幻に包まれておってな。
 ある者は超レアな鉱物じゃと言い、ある者は光り輝く巨大な宝石じゃと言う。どうじゃ?驚いたじゃろう?」
「いや、むしろあんたが『超』なんて若いセリフを発した時点で驚いたけど」
「そうじゃろうそうじゃろう」

ダメだ。完全に自分の世界に入ってしまっている。
それで?なんだ...その...ドワーフの集落に突撃して宝を盗み出せと。
とうとう犯罪行為にまで手を染めることになるとは...

ちなみに俺に選択肢は、ない。
修行を拒否すれば魔物のエサにされるのがオチだ。
逃げ出そうにも俺は記憶力が悪いから元々住んでた家なんて覚えてないし、
どこにあるかさえ分からん。
道を聞こうにもどうやって話しかければいいかわかんないし、
魔物に襲われれば食われてしまうだろう。
言っておくが戦闘能力すらない。
なんで今まで生きてこれたのか不思議なくらいだ。
で? 俺はヘンクツじじいに尋ねた。

「武器は?」
「ふふん 聞いて驚くなかれ...これじゃ!」
「フツウのちぇーん〜」

どこかの青い狸まがいのセリフと共にクソじじいが取り出したのは、
先っちょに変なものがついた普通のチェーンだった。
いや、どう見ても普通のチェーンだ。
ちょっと錆びかけてて変色しかけてはいるが...

「で?」
「これはフツウという細工師の最高傑作でな...
 振って良し!縛って良し!引っ掛けて良し!という優れものなのだ!
 作られたのは今から300年ほど前で...」

またお得意の妄想話が始まった。
このハゲじじいは見た感じ明らかに普通のものを瞬く間に勇者の武器に仕立て上げるスキルを持つ。
いらねーよそんなスキル。
...とりあえずもらっておこう。
武器の当てはあるんだ。一応。

ヘタレじじいの話を適当に聞き流して昼が過ぎ、とうに冷えた飯をかっこんで向かった先は唯一の知り合いがいる洞穴。
一本道なんだがやや体力のいる構造になっている。
こういうときにゴキブリ並みの生命力が役に立つんだ。
今回は落下1回、切り傷一箇所、青あざ1つで済んだ。
前回よりもあざが1つ増えたな、と思いつつ石のドアを力任せに押し開けた。
明らかに無理がある鈍い音がしてゆっくりと開いた。

「………ノックを」

大きな丸いスコープが押し上げられ大きな1つ目がこちらを見上げた。
どうやら作業の途中だったようだ。金床には真っ赤に焼けた金属が乗っかっている。

「悪いな。作業中だったか...」
「……いや、いい。それより、今回はソレか?」

彼女は俺が握り締めていた古びたチェーンを指差した。
無表情な顔には何の感情も無いように思えるが、その大きな瞳はちょっとだけ光っていた。

「あぁ...まただよ。あのクソじじいが...」
「………まぁ いつも通りで」

こいつはあのじじいと知り合いらしい。
どこで知り合ったのかはさっぱりだが、あのじじいをけなすところを見たことがないのでそれなりに仲はいいんだろう。
ぼーっとしてても仕方が無いので俺はボロくさいチェーンを差し出した。
彼女はゴミも同然のそれを受け取ると凝視して一言。

「……うん いつも通り」

一瞬だけ彼女が微笑んだ気がした。
いつもそうだ。じじいから受け取った武器まがいを渡すと瞳に光が映る。
何かメッセージでも刻んであるのか?と思ってしまう。
まぁそれっぽいものを見つけたためしがないんだけども。
彼女はそれを受け取るなりきびすを返して作業台へと向かった。
浅い青の手に金槌を取りチェーンをたたき始める。
その間俺は何をするともなく、来る途中に拾った石を玩んでいた。


なぜ不器用な俺がコイツと知り合えたのか。
その理由は簡単で、彼女が無くした剣を俺が見つけて、たまたま届けることが出来たからだ。例の修行でここの洞窟に潜らされて散々な目に合いながらどうにか彼女の住まうこの空間にたどり着いた。あの時は確か打ち身3箇所、切り傷17箇所、あざは数え切れないほど、頭部からわずかながらの出血。早い話が血まみれだった。そんな状態でもたぶん例の剣が無ければ入れてもらえなかったと思う。あの剣は俺の身長をはるかに越える崖の上にあった。どの道登らなければ先に進めなかったので泣く泣く登ったついでに拾っておいた。ちなみにそのときに切り傷を8箇所、1度落下して打ち身、あざを数箇所負った。
その剣はどう考えても邪魔になるだけだったんだが、その時にじじいからもらっていた役立たずなブツが剣の鞘だったんだ。まさかと思ってその剣の汚れを払ってさしてみるとぴったり収まったんだな、コレが。でもやっぱり邪魔になった。剣なんて持ったことが無かったからその重さにびっくりしたよ。戦士はこんな重たいもん振り回してるのかと思うと改めてすごいと思った...ってガキの感想文かよ。そんなもんを持ってたもんだからやたら怪我が増えて血まみれという結果になった。じじい修行?ワーストランキングでトップ3に堂々のランクインを果たしたのさ。1番?遺跡に特攻したとき。運よく魔物はいなかったもののまだ作動するトラップが思いのほか多くて、竹やりが突き立った落とし穴に落っこちそうになったり、突然頭上から落ちてきた大きな岩につぶされそうになったり、と死にかけた。利き手を骨折したときは本当にどうしようかと思った。階段が急にツルツルの坂になって壁にぶち当たったんだ。想像してみるとシュールだが笑い事じゃない。まだ随分と上のほうにいたからやたら加速してほんとにつぶれるかと思った。と、話がそれた。っていうか何の話をしていたんだっけか...
あ、そうそう。それからどうにか体重をかけて例の無駄に重いドアを開けてから記憶が無い。
目が覚めると岩のベッドの上だった。
すでに傷は治療されていて驚いたよ。大きな傷から小さな傷まで全て。
慌てて起き上がると激痛が走った。
どこにだって?言わずもがな。全身さ。
それでまた気を失ったってわけだ。生命力はあれど再生速度は常人と同じ...のはずだ。試したこと無いから分からんけど。
次に目覚めた時にはさっき目覚めた時には無かった青い物体が視界の隅に移っていた。なんだろうと首をめぐらせて見るとどうやら人の背のようだ。
けど青いぞ?ぼでぃぺいんてぃんぐか?
と思った矢先その人が振り返ったのさ。

「……剣は無事」

一瞬何をいっているのか分からなかった。いや、それよりどうして目が1つしかないのかが分からなかった。
結局情報が足りなかった俺はスルーすることにした。
何でだよおいっ!というヤツもいるかもしれんが当時俺にはお化けという概念を知らなかった。親が変人だったのもあるしじじいが変人だったというのもある。とにかく怪異という存在を知らなかったのさ。閑話休題。
剣は無事?どういうことだ?
考えることしばし。俺はやっと思い出した。

「あっ あれね。崖の上にあった剣‥‥で、無事ってどういうこと?」
「……共に戦えるということ」

共に‥‥戦える?
意味が分からん。しかしこの無口がこれ以上の説明をするとも思えなかったのでほとんどカラッポな頭脳を働かせてみたわけだ。
そういえばじじいの家にあったらのべとやらに自我を持つ剣と共に戦う話があった気がする。ということは...
要は剣がまだ使えるといいたいんじゃなかろうか。
そのほとんど推測に過ぎない結論に達した俺はとりあえず適当に返事しておくことにした。

「あ〜そっか。そりゃ良かった」
「……」

そいつは何も答えなかったが1つ頷くと作業に戻った。
きっと話を続けるだろうと思っていたので拍子抜けした俺は所在無げにきょろきょろ辺りを見回してみた。
どうやら鍛冶の仕事場のようだ。
そういうことに別段詳しいわけでもなくどちらかといえば疎い方だから
あまり興味は湧かなかった。
それより目の前の一つ目に興味があった。
わざわざこんな狭っ苦しいところで何をやっているのか。
いや、そりゃ鍛冶なんだろうが...ここどうやって入るんだよ。
まさか俺が入ってきた例のめちゃくちゃ重たい扉ではあるまい。
う〜ん駄目だ。俺のカラッポ頭はもうオーバーヒート寸前だ。
と、突然一つ目が振り返った。

「………」

何も言わない。なんだよ。

「……帰って」
「はぁ?」

思わず声が出てしまった。
いや、この展開なら誰だって反論したくなるだろう。……一部の変人を除いて。

「……集中力」

そう一言言うと一つ目はまた前を向いてハンマーを振り始めた。
集中力?
あ〜もう。俺の頭を爆発させたいんだな!そうなんだろう!!
‥‥でも考えるよりほかに一つ目の片言を理解する方法はない。
う〜ん。
集中力が切れるってことか?後ろにいられると?
ゴル○さー○。−んかよっ!!
いや、でもまぁそうなんだろう。きっとあんまし人と関わったこと無いから神経質なんだ。うん。きっとそうだ。
そう思った俺はじゃあなと一言言って例の扉に手を掛けた。
...手を掛けたはいいものコレどうやって動かすの?
それにまたあの道を抜けなきゃいけないワケ?
冷や汗を垂らしながら振り返ってみると一つ目は相変わらずハンマーを振っていた。
集中力。そうだった忘れてた。
今声を掛ければ一つ目は間違いなく機嫌を損ねるだろう。
それは不味い。というか助けてくれた恩人の嫌がることはしたくない。
‥‥‥あっ そういえばまだ礼を言っていなかった。
「怪我の治療ありがとな、助かったぜ」

「………」

聞こえていないのかと思ってもう一度言おうとすると

「……気が散る」

あ、そうですか。スイマセンでした。
思わず俺は素直に謝ってしまった。


結局その後もちゃんとしたコミュニケーションが取れないまま、あの重たい扉を開けて傷だらけになりながら帰った。帰り道はどうにか行きよりは傷も少なく帰れたのだが...何しろ物覚えが悪く2〜3度道を間違えた。
行きは一本道だったのに帰りは分かれ道あるのかよ。。。
でもどうにか俺にしては幸運なことにほとんど怪我も無く家に帰ることが出来た。
が、じじいに鞘はどこかと聞かれ答えられないでいると晩飯抜きにされたけどな。
その次の日、じじいに鞘を探してこいと駆り出されまた行くことになってしまったわけだ。
とはいえ俺も今までのようにイヤではなかった。
剣の事も気になってはいたが何より例の一つ目が気になった。
そういえばアイツが何者かもまだ分かっていなかった。
まぁ見かけよりは親切だということは分かったのだが...
例に漏れず武器を求めた結果もらったおたまを持って俺は再度洞窟に挑戦した。
今回は頭に傷をおうことは無かったが頭を庇ったせいで腕が切り傷だらけになってしまった。まぁよしとしよう。死にかけるよりはマシだ。
どうせ聞こえないだろうが一応ノックをして重たい扉を開けて中に入るとアイツは居なかった。
大方外出中なんだろう。勝手に入ってしまったが居心地の悪い扉の前で来るまで待つ気はサラサラ無い。というかたぶんアイツが帰ってきても分からんと思ったからで...と自分に言い訳していると壁に掛かった一振りの剣が目に入った。
ぴかぴかに磨かれ新品同然だ。いや。新品か。
きっと昨日はコレを作っていたのだろう。
しかし...素人の目から見ても素晴らしい一品だということが良く分かる。
グリップはどんな手でも収まりそうな形で刃は切れ味抜群。だと思う。
とにかく俺のつたない表現では表せそうも無い。それほど綺麗だった。
武器とは思えない。まるで装飾品のようだが実用性もありそうだ。
俺がそれに見とれていると突然声が掛かった。

「……あなた」
「うわっ!?」

例の一つ目だった。
‥‥あれ?コイツ胸があるぞ?

「お前女だったのか!?」

言ってしまって気付いた。とんでもなく失礼なことを叫んでしまったと。

「いっ いや、イヤミじゃなくて純粋にそのぉ‥‥」ゴニョゴニョ

俺のいい訳は尻すぼみに消えていった。
無言の威圧感。
このときほど沈黙が恐いと思った時は無かったと思う。

「……そう」

意外と短い返答をすると彼女は俺が眺めていた剣を指差し呟いた。

「……あなたの剣」
「へ?」

一瞬何を言われたのか理解できなかった。
あなたの剣?それは一体‥‥

「……昨日」

昨日?

「あっ 昨日の崖の上の剣か!」

わずかにコクンと首を縦に振る一つ目。

「あのボロボロの剣を‥‥お前凄いな!」

俺が剣を見たとき、明らかに使い物にはならなかった。
刃こぼれが激しく、何より根元からぽっきり折れていたから。
あの時鞘に収まったのはただしくは刃だけだ。
それが今は繋がって目の前にある。その跡もなくそれはもうぴったりと。
俺が満面の笑顔でそういうと彼女はうつむき首を振った。

「謙遜することなんか無いんだぞ?自慢してもいいくらいだ」

それでもかたくなに首を振る一つ目。
そして思い出したかのように顔を上げると例の剣を指差して言った。

「……あなたのもの」

つまりもらってくれということだろうか。それとも返すと?
だんだんと慣れてきた片言の解釈を考えていると彼女は剣を手に取り鞘に収め俺に差し出した。
しかし、困った。
何が困ったってこんなものを持ち帰ってじじいに見つかったりしたら非常に恐ろしいことになりそうだったからだ。
だって考えても見ろ?
あのじじいからもらったのはどれも無理に「武器」と称したガラクタだった。
そのじじいがこの剣を手に入れたら?
きっと今以上の無理難題を押し付けてくるだろう。
アマゾネスの旅人どころか部族ごと襲えと言い出すかもしれない。
そうなったら溜まったもんじゃない。
まとも武器が手に入るのは嬉しいがそのせいでいんぽっしぶるなじじいミッションが過酷になるのは願い下げだった。
だから俺は断ることにした。

「悪いけど...もらえない」
「………」

彼女は押し黙ってしまった。
俺は慌てて付け加えた。

「あ〜っと、この剣の出来が悪いとかじゃ断じてないぞ?
 かなりいい出来だと思うし、いい値で売れると思う。
 けど俺には手に余るんだ。そもそも剣なんて使ったことないし。
 だからお前が持っててくれ。俺が持ってても宝の持ち腐れってやつだ」

慣れないことわざを駆使してフォローを試みた。
しかし相変わらず彼女は黙ったままだ。

「‥‥‥」

俺もこれ以上言葉が浮かばず沈黙。
こりゃもう駄目かな。と思い始めたそのとき、彼女が口を開いた。

「……私の父の剣」

急に予想外の単語が出てきた。
ちょっと待て。話が飛びすぎてわからん。何?父の剣だって?

「……わたしのもの」

そういうと差し出していた剣を引っ込めて抱きしめた。
えっと、これはどういう展開なんですか?
彼女の大きな瞳から涙が零れ落ちた。
えっ?えっ?俺どうしたらいいの?
展開に置いてけぼりにされた俺は戸惑うほか無かった。
でも「女の子は絶対泣かせちゃいけないんだ」という変態親父の忠告を思い出しとにかく泣き止ませるための方法を考える。
けど、こういうときってどうするんだ?
理由も分からんのに慰めるもクソもあるんかい。
そう思った時、ふと思った。
親父さんの形見ならそれを彼女の親父さんだと考えることも出来るよな?
じゃあこういうのはどうだろうか。

「なぁ、そんなに泣くなよ。あんたの親父さんはあんたに笑ってて欲しいはずだぜ?」
「………」

彼女の涙がちょっと収まったように見えた。
おや?効き目がある?

「親ってのはな。いつだって自分の子の幸せを願ってるもんなんだ。
 だから泣いてんなよ。笑えって」
「……これは嬉し涙」

あ、そうですか。ごめんなさい。
涙が収まったころ彼女が訥々と話し出したことには、どうやらここはサイクロプスと呼ばれる魔物の巣窟だったらしく、彼女はそこで生まれ育った。だがある日突然身体が変化し始め、今の姿になったという。両親や親戚も男女問わずに。きっと彼女の親父さんは驚いたことだろう。朝になったら女性になってたなんてどりーむらn‥‥悪夢だっただろう。何でも彼女の部族では身体の大きいものが偉かったらしい。よって皆似たり寄ったりの体つきになってしまったために当然混乱が起きた。運の悪いことに付近の町から襲撃を食らい、部族の者たちは慣れない身体で戦えるはずもなく混乱していたために巣を飛び出し散り散りになってしまったそうな。けどその中でも正気を保てたものもあり、彼らは仲間をかき集め人間に立ち向かった。しかし多勢に無勢。あっという間に仲間が地に伏し、斃れてゆく光景に絶えられなくなった父が一時退却を図る。けれどもそう簡単にいく筈もなく、彼女らは追い詰められていきとうとう父が囮になるといい始める。当然の如く皆反対したが父は聞く耳を持たず、単身で敵の下へ行ってしまう。取り残された彼女らは泣く泣く逃走を開始するが待ち伏せていた兵士に母親を殺される。前には兵士、後ろにも兵士。行き場をなくした彼女は山に身を隠すしかなかった。そのとき足を滑らせて落ちたのがこの工房だったそうな。
それからはどうにか火を確保したりライフラインを確保したりで時間を潰し、
例の出来事を忘れようとしていたらしい。
しかしそこへ父の剣を携えた血まみれの俺が現れた、というわけだ。
当然彼女は動揺した。何せ剣を抱えてるのはどう考えても兵士ではなく、
かといって彼女の仲間でもなかったんだから。
けれど剣は彼女の種族にとってはとても大切なもの。
それを探して、しかも鞘まで命がけで持ってきた人が悪人であるはずがないと思ったらしい。
そういった経緯で彼女は俺の恩人となったと。
彼女からすれば俺が恩人らしいんだが...どうも実感が湧かない。


まぁそんなこんなで彼女と出遭ったわけだ。
どう考えても偶然で、そもそもこんな山に生き物、しかも知的生命体がいるなんて思わなかった俺はよくここに来る。
少なくともじじいといるよりは女の子と居た方がいい。
何?回想シーンが長い?キニスルナ。

「……出来た」

彼女は作業台からおそらく完成したと思われる武器を持ち上げ此方に持ってきた。

「これは‥‥?」
「……武器」
「いや、見ればわかるよ。そうじゃなくて」
「……フレイルと呼ばれる。鈍器」

彼女はあの頃から比べると随分話せるようになったと思う。
最初は片言過ぎてなんのこっちゃだったが、最近では随分と優しくなった。
いや、最初から優しかったのかもしれない。言葉が足りなかっただけで。

「へぇ、どうやって使うんだ?」
「……試す?」
「いいえ、丁重にお断りいたします」

以前真ん中から真っ二つな大剣を直してもらった時、試したことがあった。
‥‥思い出すのも恐ろしい。
まさか物静かな彼女が俺の手から大剣を引ったくり目の前に突き刺すとは思わなかった。さも切れ味がよさそうに輝く刃がわずかに俺の前髪を切断した時はガチでチビりそうになった。
それ以来丁重にお断りすることにしている。
何故毎回そのやり取りをするのかというと、まぁおふざけというヤツだ。

「……先に付いた錘を相手に投げ当てて使う。遠心力」
「なるほど。このチェーンでか」
「……上級者ならばその鎖も上手く使う」
「一応全体が武器ってわけか」

彼女はコクンとわずかに頷いた。
毎度丁寧に説明してくれる。しかしこの子の頭の中はどうなっているのだろうか。
いつも違った材料で違った種の武器、しかもその説明。
フレイルはまだ見たことがあったものの(らのべの挿絵でだったが)見たこともない武器の説明も平然とこなす。
ちゃくらむって何?美味しいの?
俺が悶々とそんなことを考えていると彼女が首を傾げて言った。

「……今日はどこに行くの?」

修行の内容を聞くのも習慣になってしまっている。
ミッションのたびにここに来るものだから大体のことは話してしまった。
しかしこの話題は毎度のように変わる。早い話が話の種なんだ。

「ドワーフの宝とやらを盗み出せと。意味が分からん
 まず何でよりにもよってドワーフだよ。この間商人の持つ宝石を盗めと言われて失敗したばっかなんだぜ?しかも何かじじいのこと話したら逆に同情されたし。二度とするなと釘刺されたし。その直後にドワーフの宝を盗み出せ?あのじいさんどうかしちゃってるんじゃないのか?いや、前からどうかしてるか。あのじいさんは病気だった。ああっ!もう。どうにかしてくれよ」
「………」

一見黙りこくっているように見えるが少し華奢な肩が震えている。
笑っているんだ。俺には笑いのセンスなんぞないんだとハナから諦めていたのだが、何かが彼女のツボにはまったようだ。
毎度良く分からんところで笑う。けど悪い気はしない。
昔のことなんざさっさと忘れて今を楽しめればいいんだから。
それに貢献していると思えば悪い気はしなかった。

「さぁて、じゃ、行ってきますか」
「……ちょっと フッ 待って」

彼女は笑いをこらえながらどこかへ去っていった。
ん?ココ以外に部屋があったのか?
と、ふと思って彼女の去った方へ行こうとしたその時、その先の暗闇から突如彼女が現れた。
当然の如く何も考えていない俺は彼女を避けることも受け流すことも受け止めることも出来ずそのまま背後に倒れてしまった。ゴッと鈍い音と共に目の前に火花が散った。いくらじじいに叩かれたとはいえ岩とは初対面だ。ううっ頭に響く‥‥。
しかしどうにか彼女は無事なようで安堵した。
上手く下敷きになれたようだ。痛いけど。

「大丈夫か?」

声をかけたが反応がない。まさかどこか打ち付けたのか?
心配になって彼女の顔を覗き込む。そして丁度その時彼女もまた顔を上げた。
すなわち至近距離で見つめ合うことと相成った。
しばらくの沈黙の後、俺は慌てて彼女を押し戻し‥‥押し戻し‥‥あれ?
腕を上げようとしたのだが上がらない。下を見てみるとそれもそのはず。
何故か彼女の腕ががっちりと俺をほーるどしていた。
どうしてこうなった。
彼女は頬を紅く染め此方を大きな潤んだ瞳で見つめていた。
そしてその控えめな唇が開いたかと思うと、

「……わたしを……抱いて」

彼女のものとは思えぬ爆弾発言が飛び出した。


あまりにも突然で、且つ淫らな一言に俺のモノg‥‥俺の思考が真っ白になったことは言うまでもない。

「いっ いくらなんでも突然すぎるだろ!?そういうものはちゃんと手順を踏んでだな‥‥」

ってあれ?でもそれって最終的には許可するってことじゃあ‥‥
その考えに至ってか至らないでか、彼女はか細い、今にも消え入りそうな声で言った。

「……わたしじゃ…だめ?」

わずかな間でその表情が曇り、泣きそうな顔になる。
とはいえとても微妙な変化だ。彼女のそばにいた俺だからこそ分かる程度の変化。しかし、俺の心を揺さぶるには充分な変化だった。
今にも理性の箍が外れそうだった。彼女を押し倒したい、襲ってしまいたい。
俺だって男だ。けれど乱暴に彼女を犯すのだけは嫌だった。
そんなことをすれば彼女が壊れてしまいそうだったから。
今までの関係がぎこちないものになってしまいそうで、終わってしまいそうで、ただただ恐かった。

「俺は‥‥‥」

けれど答えは出さなければならない。
このままではどの道関係はぎこちないものとなるだろう。
それなら俺は‥‥‥

「好きだ。愛している」

そう言って俺は彼女を抱きしめた。
きっと彼女は他の何かを期待しただろう。
けれど今の俺にはそれが精一杯だった。
彼女はビクンと身体を震わせてしなやかな、わずかにひんやりとした手で俺を抱きしめて、

「……私も」

と、消え入りそうな声で言った。


それ以来じじいに内緒で彼女に会いに行っている。
会いに行って何をするか?野暮なこと聞くんじゃねぇよ。
あのことがあってからというもの、さらに彼女の口数は増え、日常会話ぐらいは難なくこなせるようになってきた。
最初を思い返すとすごい進歩だ。
もちろん今でもじじいの依頼は尽きることなく、武器の作成も相変わらず続いている。
何でも彼女の話によると訓練になるのだとか。
インゴットで作るのが普通なんだが古い材料と新しい材料を合わせて作ることも必要なんだと。
そうすると使っていた人の意思が受け継がれるんだとか何とか。
俺にはさっぱり分からなかったが。
もういっそじじいから離れようと画策したこともあったんだが、
なんだかんだで体力補強にはなってるし、今やめると彼女-まだ名前を出してなかったな。ミリナという-の仕事がなくなってしまうので結局未だにやめられずに居る。
いずれ鉱脈かなんかを探し出してそこの手伝いをしながら彼女を支えてやるつもりだ。
力仕事は俺の分野だしな。
さて、与太話はこの辺にして...

ん?今日は何をするのかって?
ドラゴンの巣窟に飛び込むのさ!
何のこれしき!絶対に生きて帰ってやらあ!!
11/04/13 18:10更新 / 緑青

■作者メッセージ
ゴ○ゴ○ーてぃー○読んでると地理の勉強になる...
と社会科の先生が言ってたけど定かじゃない。

すさまじく微妙な仕上がりです。
う〜ん。どこをどう間違えたんだろう。
長くなってしまいました...それともコレが普通?
そしてヒロインの役どころが少ないという。
ナニコレ状態。

エ○は書いていません。
なんだか長くなってしまったのでカットです。
え?そこはカットしちゃ駄目?
あー...感想で書いてほしいなどあれば書かせていただきます...

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