連載小説
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侵略!プレデティア帝国
この日の眠りは地震とともに唐突に終わった。いきなりなんだこれは!

「ど、ドレイク!外、外!」
「そ、外ぉ!?」

ニーナが寝間着から着替えるのもそこそこに(絶景だった)窓の外を羽で指した。そこには……

「ま、魔獣!?なんでこんな街中に!」
「わ、わかんない!自警団の人たちもまとめて吹き飛ばされちゃったみたいで……今、街の人たちが避難しているから、私たちも手伝いにいかないと!」
「そ、そうだ……なあああああああああああああ!?
「うわ!何あれ!でかッ!」

街を囲んでいる城壁からぬぅっと顔を出したのは巨大なゴーレム。ただし、この世界で一般的とされているような、魔物のゴーレムではなく、頭はあるが顔はない、本当に持ち主の指示に従うだけの巨大な兵器としてのゴーレムだった。まだこの世界にもこんなでかい兵器が存在できたとは……

「うわ……あんなの見たことない…」
「俺も小説ぐらいでしか見たことねえって……ってやばい!あんな奴が今の町に攻撃を仕掛けたらどう考えたってただじゃすまないぞ!」

と、俺が叫んだ時だ。ゴーレムが……いや、ゴーレムの肩に乗った何者かが大声で叫んだ。

「汚らわしい親魔物領の人間ども!この大いなる神罰の力にひれ伏すがいい!」

どうやら、あれは反魔物領の人間らしい。ゴーレムの肩のあたりをよく見ると、神経質そうな青年が端正な顔を醜悪にゆがめながら高笑いしている。

「さあ、やってしまえ!『聖獣』達よ!汚らわしい魔族とそれに与するごみ屑どもを根絶やしにしてしまええええええぇぇぇぇぇぇ!」

その号令と同時に大量の魔獣たちが一斉にゴーレムの足元から湧いて出てきた。恐らく、くるぶしのあたりにでも格納していた分を解放したんだろう。

「クソ!これ以上被害を出すわけにはいかねえな……ニーナ、お前は街の人たちの避難を手伝ってこい。俺は、あの魔獣どもをなんとかする」
「…………」
「どうした?」
「死なないでね」
「死亡フラグたてんな!……お前にいうことがあるんだから、死ねねえっての」
「ドレイクのほうこそフラグたててるじゃん」
「はっ…………オレ、この戦いが終わったら、部屋の掃除をするんだ……」
「ぷっ……フラグがしょぼーい!」

ひとしきり二人で笑った後、俺たちはハイタッチをしてから自分たちで決めたポジションにつきに行った。

「さてと……」

上空に飛んで魔獣をぐるっと見渡す。蛇に馬、ネズミに兎……手当たり次第の動物を魔獣にしたみたいな感じだな。節操なしめ。まあ、そもそもどうやって魔獣を生み出しているのかわからんが……

「む?……空を飛んでいる人間………貴様!汚らわしい魔物だな!いよいよ汚らわしい魔王が、第一世界の主神様の力の超えてしまいそうになっているのか!?くそ!なおのこと親魔物領の人間を根絶やしにしなくては……ッ!」

うわ!ゴーレムのこぶしが俺の目の前に!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

明らかに即死ものだろ、今の一撃はぁ!

「アブねえだろうが!何しやがるんだぼけぇ!」
「ふん、Gのようにしぶといやつだ!」
「俺をそんなの扱いするんじゃねえ!」

どっかから「私たちを『そんなの』扱いしないで!」って聞こえた気がするが、とっさに口をついて出たんだから仕方ない。

「む?貴様、もしや近くのショボイ教会に召喚されたと噂の化け物ではないか?」
「は?」
「一か月ほど前に、別世界から勇者と間違えて化け物を召喚したとか聞いていたぞ」
「あぁ、確かに俺は先月あたりに二分で勇者をリストラされたが、それがなんだ?」
「やはり化け物は化け物同士でつるむのだな。これで改めて認識できた」
「言ってろ。俺からしたらお前みたいな思考回路してるやつのほうが気持ち悪いモンスターにしか見えね「まあ、それならそれでちょうどいい。お前のことを見つけ次第殺してくれと我が帝国に高額な報酬金とともに依頼が届いていてな、折角だ。殺してやろう!」聞いてねえし、話が物騒だわ」

やっぱりあれなのか?こういう連中って自分の世界に入り込んだら抜け出せないタイプなのか?だからこうやって自分の意見を他人とすり合わせることができずに突っ走れるんですねわかりません。

「だが、貴様は聖獣を使った魔物のデータ収集の際にかなり強いということがわかっている。聖獣ではとてもじゃないが、束になってもかなわないということはわかっている。だから、この私のゴーレムが、直々に相手してやろう!」
「結構です、帰ってくれ」
「くらえ!破城門拳!!」
「微妙にダサい……」

名前が微妙にダサいこぶしは、しかしとんでもない破壊力を持っている。急上昇して躱したが、その一撃で四つの家が砕けて散った。

幸い、住民はすでに避難していたようで、怪我人はいなさそうだ。

「猪口才な……ならば、面での攻撃だ!」
「そんだけでかけりゃ面も点もないっての」

今度は羽虫をつぶすときのように平手で挟もうとしてきた。って、思ったより早い……ッ!

「アブねッッッ!!!???」

頭がくらくらした。しまった、衝撃波かッ!

「隙ありだ!クソ虫が!」

こぶしが目の前に迫る。が、

「くらってたまるかよ!『狩りの爪』!」

オレだって、設計上は両親が作ったキメラの中じゃ最強なんだ。攻撃力なら負けてはいない。

腕を振るい、ゴーレムの腕を弾く……弾く?

おかしい。俺の攻撃は、生物であるならともかく、無機物に対しては絶対的な破壊力を持つはず………じゃあなんで今、俺の爪はゴーレムの腕を真っ二つにせずに弾くだけだったんだ?

「ほう。やはり、情報提供者の情報は間違っていなかったということだな」
「なんだと?」

肩に乗っているプレデティアの男が片方の口角をゆがめて笑う。

「お前は、生き物は殺せない。そういう制約のもと生きている」
「…………」
「私たちはその情報をある男から聞いていた。まあ、それは君を殺すように頼んだ者と同一人物だがな。それはいいんだ」

あいつは腕を大きく広げながら演劇でもやっているかのようにくるくる回りながら高説を垂れる。その間におとなしくするつもりはないので、ゴーレムに何度も何度も爪をぶつける……が、傷一つつかない。

「我々にとって重要だったのは、そんな生き物を殺せない代わりに無機物には絶大な力を持った化け物が、敵側についたときのことを考えなければならないことだった。そして、結論はすぐに浮かんだ」

ぞっとするほど悪意に満ちた顔。

「だったら、生き物としての体裁を亡くさない兵器を作ればいい」

………一瞬思考が止まった。今、こいつは何と言った?

同時に浮かぶ、最悪の手法。こいつら、まさか……

「どうしても。生き物、つまり生物兵器を作ろうとするとその生き物に付きまとうのは、生き物としての寿命、命の限界。それを超えたのが無機物の兵器。この世界にあの、『魔王』の娘が君臨してこの世界の『魔王』となる前まではその考えのもと、ゴーレムが生み出されていた……だが、あの十三皇女が来てからというもの、この世界で生み出されるゴーレムは魔物ばかりだった……つまり、生き物になってしまっていた……だが今、それは最大の武器となったのだ!」

こぶしを振るい熱弁をふるう。そいつ。その顔はもはや狂気といっても過言ではない。

そして、最悪の研究成果を自慢する。

「私たちは、生み出したゴーレムの存在、命の全存在を殺して、しかし魂をその身に繋げさせたまま、『生物と非生物の中間』のゴーレムを生み出した!」

つまり、神を信じて生きているものが神を否定する行為を行った。俺の両親のように。俺たちキメラのような……

「まだまだ、これには研究する余地がある……だが、今わかった。お前にはもうこれで十分だ。化け物め」
「…………化け物はどっちだクソ野郎」

だが、それなら俺じゃなくても

「おやおやぁ?君ができないなら他のものがこのゴーレムを壊せばいい…とでも考えたか?無駄無駄。これには、生物としての機能も残してある。それは限定条件のもと、究極に強化された自己治癒能力(リジェネレーション)!傷をつけた端から自己修復していくぅッ!」

「私の魔物を殺したいという『意思』が生き続けている限りこのゴーレムには、それが働き続ける。つまり!貴様の破壊力で一撃で壊さない限り、このゴーレムは動き続ける!そして、貴様はこのゴーレムに決定打を与えることができない!」

「貴様は我々に勝てない!」

「だが、我々は負けない、ということが確定するだけでは、時間稼ぎだけはできてしまう。そこで、私はこうすることにした」

そこで、やつは俺から目をそらした。そらした先にいたのは……



「ブラックハーピーのみんな!子供たちを最優先で向こうの山に避難させて!ワームの人はできる限り多くの人をいっぺんに運んで!私はElica通りの人たちを救助してくる!」


懸命に頭を使って避難の指示を全力で出しているニーナがいた。



「さて、君の攻撃する力で、彼女を守れるのかね?」



ゴーレムの巨大な腕が、両手を合わせて振り下ろされた振り下ろされた振り下ろされた振り下ろされた










ぐしゃりと、肉をつぶす音が、俺の耳に響いた
14/02/18 19:18更新 / しんぷとむ
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■作者メッセージ
そろそろ私のSSに共通することが多い設定について話すべきでしょうか?

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