連載小説
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神への誓いと黒い死神。(後編)
「ねえ、メディ。」
「駄目」
「…まだ、何も言ってないんだけど」
「駄目。アレク、絶対、外出禁止」

 きっぱりとした口調で、メディは言う。
 きゅ、とアレクの身体に絡みつく軟体がさらに圧力を高める。
 アレクは頬を紅潮させながら、深々と嘆息する。

「もう熱も下がったし…少し外を出歩くくらいは許してくれない?」
「駄目。まだ、身体の中、治りきってない」

 アレクが病に倒れてからこの方、メディはずっとこの調子だった。
 ベッドの上から離れようものならすぐに押し止め、必要とあればアレクの身体に密着して動けなくしてしまう。
 現に今、メディはベッドの上に座り込むアレクに絡みつき、アレクの動向を監視している。

「ずっとベッドの上だと、身体が鈍っちゃうんだけど…」
「大丈夫。私が、しっかり、マッサージ、してる」
 
 確かに、そう言っている間にも、メディの軟体は優しくアレクの身体を揉み込んでいる。
 足や腕の各部がグニグニと刺激されており、おそらくこれにより身体の退化を防いでいる。
 しかし、これだけ引きこもりっぱなしだと、自分の意志で動きたいと思ってしまう。
 しばらく依頼された仕事から離れていることもあり、どうにもじっとしていられない。

「でもメディ。こう絡みつかれてると、食べ物すら取りに行けないんだけど」
「大丈夫。私が全部、持ってきてあげる。林檎、食べる?」

 するすると伸びたメディの軟体が机の上に置いてあった林檎を掴みとり、アレクに差し出す。
 …どうにも、過保護が過ぎる気がする。
 今朝も、溜め込んでいた水が切れていたので、川まで汲みに行こうとしたのだが、
 こっそり外へ出ようとしたところルイに見つかり、すぐさま組み伏せられてしまった。
 そして駆けつけたメディに拘束され、以来こうしてずっと捕まっている。

「心配しすぎだと思うんだけどな…」
「油断、しすぎ。アイツ、まだ少しだけ、アレクの中にいる。
 アレクは、アイツの怖さ、わかってない」
「アイツ?」
「追い出すの、とても、苦労した。だから、絶対、返さない」
 
 ひし、とメディはアレクの肩に両手を絡める。
 話を聞く限りだと、メディは先日の病の事を『アイツ』と言っているように思える。
 あの夜のことはよく覚えていないが、メディが何かをしてくれたおかげで、こうして治ったのかもしれない。
 それを思うと、メディにこれ以上心配をかけないためにも、大人しくしているべきなのだろう。
 しかしそれでも、少しでも余力があると、出来ることをしたいと思ってしまう。
 書きかけの契約書とか。

「…アレク。今、お仕事のこと、考えたでしょ」
「あ」

 しまった。
 いつの間にか、ひやりと冷たいメディの手が後頭部辺りを撫でている。
 汗を吸収するためだったのかもしれないが、ついでに思考まで読み取られたらしい。

「アレク、少し元気だと、すぐ無理しようとする。私…こんなに、心配してる、のに」
「ご、ごめん、メディ。でも、やっぱり、少しくらいなら、大丈夫だと思うんだけ、ど…」

 徐々に尻すぼみになっていく、アレクの弁明。
 目と鼻の先にあるメディの眼は、愛着がありつつもひどく冷たい色をしていた。
 何やら、不穏な気配。アレクはごくりと息を飲む。

「わかった。元気がなければ、大人しくなる、よね」
「…メディ?」
「――ルイス。お願い、できる?」

 メディらしからぬ、キリリとした物言い。
 少し離れた位置で丸くなっていたルイが、ぴくりと片耳を挙げる。
 薄く開かれたルイの眼が、メディの視線と少しの間だけ重なる。
 次の瞬間、ルイは返事をするように一鳴きして、欠伸をしながら小屋の外へと出て行った。
 
「えーっと、メディ? 何をするつもり」
「中途半端に、元気だから、アレク、無理する。
 だから――アレクの元気、ギリギリまで、搾り取る」
「え」

 耳元で艶めかしく呟かれ、アレクは硬直する。
 ぐにゃり、とメディの身体がアレクの身体にまとわりつく。
 これまでのマッサージとは違い、明らかに性的な意味を持つ動き。

「わ、ちょ、メディ…! ちょっと待って。それ、ヘタをすると、外出するより身体に悪いんじゃ」
「大丈夫。きちんと、調節する。腰が抜けて、動けなくなる、程度に――食べて、あげる」
「ま、まだ陽が高いのに――」
「大丈夫。ねこが、人払い、してくれる。誰も、来ない」

 先程のアイコンタクトは、そういう意味か。
 いつの間に、メディとルイはそんなことができるほど仲が良くなったのだろうか。
 
「覚悟、して。アレク――」
「…ッ!」

 メディの拘束が、強くなる。その感触に、アレクは違和感を覚えた。
 いつものメディなら、全く動けなくなるほどアレクを拘束しない。
 しかし、メディの軟体はアレクの意思を完全に無視した動きで、アレクを包みこんでいく。
 少しだけ。ほんの少しだけ生まれた不信と恐怖が、反射的にアレクの身体を突き動かした。

「――ぁ」

 からみつこうとするメディの軟体を払うように振られた、アレクの手。 
 アレクは、自分自身の行動に驚き、絶句する。
 メディは、掠れるような声を喉から漏らし、唖然とする。
 訪れる、静寂。ぴちょん、とメディの体の一部がベッドから滑り落ちる音がした。

「…ご、ごめ…ごめん、なさ、ぃ」

 正気に戻ったかのように、メディの軟体がアレクを解放する。 
 ぽろぽろと零れ落ちるように、メディは謝罪の言葉を呟く。
 身体を小さく震わせ、その紅い瞳からは今にも涙が流れ落ちそうだった。

「………」

 アレクは、考える。
 どうして、メディがあのような行動を取り、そしてこんな反応を見せているのかと。
 妙にアレクから離れることを嫌がり、普段と比べて苛立たしげな、メディの様子。
 深呼吸の後、アレクはメディの肩に手をおいた。びくり、とメディの肩が大きく震える。

「メディ」
「な…な、に?」
「ちょっと良いかな?」
「え? ――わ」

 ぐい、とアレクはメディの肩を引く。
 あっさりと、メディの上半身はアレクへと倒れこむ。
 アレクの胸板に着地したメディの頭に、アレクは両腕を巻き付ける。
 ぼん、とメディの頭から湯気を吹き出した。

「むぅ――! ア、アレ、アレク…!?」
「んー…」

 アレクは眼を瞑りながら、メディを優しく抱きしめる。
 メディの身体は、いつものようにぷるぷるしていて、とても触り心地が良い。
 照れているのか、とても暖かい。
 そして、何やら――優しく吸い付かれているような、感触がある。
 ゆっくりと、アレクは目を開く。そして、言う。

「メディ。もしかして――お腹空いてる?」
「え、あ」
「そういえば、此処数日ずっと何も食べてないよね。僕にお願いもしてこないし」

 そういう事なら、合点が行く。
 これまで、メディは少なくとも一日一回は『食事』を要求してきた。
 しかし、アレクが病に倒れてからはずっと看病につきっきりで、『食事』を摂っていない。
 お腹が空いていたから、メディの意思に関わりなく、軟体がアレクの身体から汗を得ようとしていたのだろうか。

「どうして、何も食べなかったの?」
「だ、だって、アレクが大変、なのに…食べれない、よ」

 ごにょごにょと、メディが申し訳なさそうに呟く。
 一応、メディは果物等を食べることもできると聞いている。
 しかし、どうやらメディは心配のあまり食事が喉を通らなくて、その結果空腹に耐えかねて暴走してしまったということらしい。
 はあ、とアレクは小さく嘆息する。
 妙に律儀なところがあるメディにも少し問題があったかもしれないが、元はといえば無理をして体を壊してしまったこちらが悪い。

「…それじゃあ、仕方ないね。じゃあ、メディ。こっち向いて」
「え。…どうして?」
「どうしてって。ごはん、欲しいんでしょ。確か、こっちでも大丈夫なんだよね」

 アレクが、自らの唇をさしながら言う。
 メディはアレクの意図に気づいたようだが、なぜか今更赤くなった。

「あー…その、うー…ほんとに、良いの?」
「別に、僕は大丈夫。あ、そうだ。メディは大丈夫? 病気が移ったりは――」
「それは、その…大丈夫。私、スライム、だから」
「そっか。メディがそう言うなら。それじゃあ――」

 アレクはメディの首に両手を回し、ゆっくりと顔を近づける。
 期待と、困惑と、情欲が入り交じった眼で、メディはこちらを見ている。

「…今日は、僕からして良い? いつもは、メディからばっかりだし」
「あ…うん。お願い、します」

 何だか、今日のメディは妙に緊張している気がする。普段はもっと落ち着いているのに。
 するよりされるほうが、ドキドキするタイプなのかもしれない。
 未だ決心がつかないのか、メディは少しの間視線を彷徨わせて逡巡していた。
 しかし、意を決したように目を瞑り、そして唇を少しだけ付き出してきた。

「…ん…」

 唇をこちらへと向けるメディの顔は…やっぱり、かなり、綺麗だった。
 紅く透き通った身体。幼さを残しつつも、妖艶で端正な顔立ち。そして、熟れた果実のように、艶を帯びた唇。
 思わず、ごくりと唾を飲み込む。
 まだ何もしていないのに、少しくらりときてしまった。

「…んん…」

 少し焦れているのか、メディが甘い息を吐き出しながら呻く。
 あまり勿体ぶるのも、良くないかもしれない。
 アレクは決心して、メディの唇にゆっくりと自らのそれを近づけ――そして、優しく押し付けた。
 柔らかい、湿った感触。目を瞑るメディの眉に、きゅっと力が込められる。

「ん…」
 
 少しの間、アレクは柔らかいメディの唇の感触を楽しむ。
 しかし、メディが最も好むのは、その次の段階。
 アレクは前座もほどほどに、メディの口の中へ自らの舌を少しだけ侵入させた。

「ん…♪」

 メディの顔が、一瞬で喜色に染まる。
 アレクの舌がメディの唇をこじ開けようとした瞬間、メディの舌が待ってましたと言わんばかりに絡みついてきた。
 二人の舌が絡まる。吸い付かれるような優しい感触が、アレクの舌を襲う。

「んっ…!」

 メディの舌の粘度がいつもより高く、吸いつきが強い。
 少しの間押し付けられただけで、アレクは呻き声を漏らして脱力しそうになる。
 しかし、アレクにも意地があった。負けじとメディの舌に自らのそれを巻き付けようとする。

「んんっ♪」

 メディが嬉しそうな声を上げた。
 次の瞬間、アレクは異様な感覚に凍りついた。
 メディの舌に自らのそれを絡みつかせようとした瞬間、メディの舌が突然長さを増して、逆に絡みついてきた。
 人間では、ありえない長さの舌。それが、アレクの舌に余すことなく巻き付いていく。

「むぐっ…!」

 うねうねと、メディの舌がアレクのそれに巻きついたまま蠢く。
 その甘い感触に、アレクの意識はぐらりと傾いた。
 メディの唇に押し付けていた口の端が、少しだけ緩む。
 すかさずメディの舌がさらに伸び、アレクの口の中に侵入した。

「んー…っ♪」

 それからはもう、何が何だか分からなくなった。
 舌を揉みほぐされ、口の中を舐め回され――アレクの脳裏は、真っ白に染め上げられた。
 メディの舌はアレクの口の中を隈無くまさぐり、そしてしゅるしゅると自らの口へと戻って行く。
 アレクの舌は唾液を絞るように幾度か絞めつけられた後、やっとメディの舌から解放される。
 最後にアレクの唇を一舐めして、ようやくメディはアレクから離れた。

「――ぷはぁっ♪」

 大満足、といった様子で、メディは満面の笑みを浮かべる。唾液を奪われたからか、アレクの喉はカラカラだった。
 いつの間にか、アレクの首にはメディの両手が回されていた。脱力するアレクの身体を、メディが優しく支えている。
 圧倒的、だった。今までのメディのキスは、本気ではなかったのだと改めて理解する。
 …やはり、男としては、少し悔しい。
 メディは魔物であるから仕方ないといえど、もう少しは対抗出来るよう努力したい。

「アレク」
「ん、なに――むぐ」

 メディに呼ばれたかと思ったら、突然また唇を奪われた。
 しかし今度は吸い付かれるのではなく、逆に何かを流し込まれた。
 とても、甘い液体。飲み慣れた果実酒に似た、しかし苦味を全く含まない爽やかな味。

「ぷは! …何これ。もしかして、林檎?」
「正解。喉、乾いた、でしょ?」

 メディの軟体から、何かが排出される。
 しおしおになるまでひからびた、林檎。先程、メディがアレクに差し出したモノ。
 …寸前まで体液を吸い取られていた身としては、多少恐怖を感じざるをえない。

「あ。…だ、大丈夫。アレクは、ちゃんと、加減する」
「う、うん…わかってる」 

 それでも、メディが本気になったらこうなってしまうのだろうか。
 元よりメディは魔物なのだから、こういうことができても不思議じゃない。

「大丈夫。人は、傷つけたこと、ないし…食べない。アレクに、嫌われたく、ないし」
「…うん。わかってる」

 少なくとも、アレクはメディの言葉を信じている。
 彼女はちょっとしたミスをしたときにごまかそうとすることはあるけれど、基本的には誠実だ。
 文字に起さない言葉のあやふやさは十二分に理解しているが、言葉を何も信じないのであれば、誰も信じられない。 

「というか、アレク以外、食べたくない」
「…あ、そう」

 喜ぶべきなのだろうけど、何やら複雑な気持ちだった。
 体調が戻ったら、体力をつけておいて方が良さそうだ。

「ところで、アレク」
「ん」
「…おっきく、なってるね」
「…う、うん」

 当然といえば、当然の結果。
 あれだけ濃厚な口づけを交わして、反応しないほうがおかしい。
 申し訳なさそうな、しかし何かを期待するような眼で、こちらを見つめるメディ。

「えっと…アレク?」
「あー、その。…お手柔らかに、ね。病み上がりだし」
「ん♪」

 嬉々として、メディはアレクの服に手をかける。
 やれやれとアレクは嘆息しながら、メディが服を脱がせようとするのを手伝った。

「ねえ、メディ」
「ん?」

 メディが軟体を駆使してするするとアレクの下半身を剥いたところで、
 アレクはふと、思いついたことを言ってみる。

「今日は、僕もメディを…その、気持よくしてあげたいんだけど。駄目かな」
「そ…それ、って…例え、ば?」
「えっと、例えば…メディの核、触ってあげるとか」
「え」

 びくり、とメディは大きく体を震わせて硬直する。
 そして顔を赤く染めながら、少しの間悩むように頭を抱える。

「だ…駄目。今日は…駄目」

 そういうメディの顔は、まるで何かを我慢しているようだった。
 本当は直ぐにでもして貰いたいと、目が言っている。

「どうして?」
「…そんなこと、してもらったら…止まらなく、なっちゃう。
 アレク、病み上がりなのに…加減、できなく、なるかも」
「あー…」
 
 それは…確かに、不味い。
 先程の林檎のようになってしまうのは、さすがに御免被りたい。

「だから、今日は…こっちで、してあげる」

 むに、と股間に柔らかいモノが押し付けられる。
 艶めかしくアレクの下腹部で歪むメディの柔らかい双球に、アレクは思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。

「こっちなら、加減、しやすい」

 メディの胸は、いつの間にか以前よりもさらに少し大きくなっていた。
 さながら、赤い果実のよう。

「…えい」

 屹立したアレクの肉棒が、ふくよかな谷間に挟み込まれる。
 アレクは思わず、呻き声を出してしまうそうになった。
 柔らかく、弾力があり、吸い付かれるような感触がある。
 未だ空腹であるメディの軟体が、無意識に獲物を離すまいとしているのだろうか。

「ど、どう? アレク。これで、良い?」
「え、あ、うん」

 あからさまに、上の空といった返事を返してしまった。
 実のところ、予想以上に気持ちが良かった。
 メディの胸はルイほどではなく、アレクの肉棒全体を覆えるほど大きくない。
 しかし、ただ胸元に挟み込んだ肉棒を両手で押し包まれただけで、アレクは達しそうになっていた。

「えっと、確か、ねこは…」
「っ…!」
 
 過去の情事を思い出すように呟きながら、メディはアレクの分身を捏ね回す。
 肉棒をしっかりと包んだまま、双球が竿を舐め上げる。
 双球は亀頭へと辿り着くと、ぐにぐにと亀頭を揉みしだいた後、また竿を下っていく。
 その、繰り返し。

「っくぅ…!」

 ぬるぬるとした胸に股間を揉まれる毎に、アレクの耐久力は急激に削られていった。
 メディの双球は、まるでアレクの肉棒を離すまいとするように吸着力を増していく。
 ねっとりとした強い快感が、着実にアレクを侵食していく。

「…あ。ピクピク、してる…」

 胸元に挟まれたまま、快感に震えるアレクの肉棒。
 艶めかしい笑みを浮かべて、メディが嬉しそうに笑う。

「たくさん、出してね」
 
 メディの動きが、少しだけ速度を増す。
 優しく、徐々に追い詰めるように、双球がアレクの分身を蹂躙する。
 まずい。もう、我慢できそうにない。しかし、やはりあまりにも早いのは体裁が悪い。
 尿道口から液体が漏れ出すのを感じ、アレクは反射的に下半身に力を入れて堪える。

「我慢しちゃ、駄目」

 そんなアレクの心境を見透かすように、メディが言う。
 メディの双球が肉棒の先端へと移動し、亀頭を包み込んだまま交互に揺さぶられる。
 強すぎる快感に、アレクの視界が歪む。

「ぅ、あ…!」

 脱力し、呻き声を上げてメディの肩に寄りかかりながら――アレクは果てた。

「んっ…!」
 
 どくん、とメディの胸に包まれた肉棒が大きく震える。
 紅く半透明の双球の中に、どくどくと精液が注ぎこまれていく。
 メディはそれを愛おしげに見下ろしがら、優しく乳房を揺らし続ける。

「っちょ、メ、メディ、待って…まだ、出てるから…!」
「駄目。全部、出して」

 精液を浴びて粘度を増した胸元に、アレクの肉棒はもう一度挟み直される。
 あまりの快感に腰をひこうとしたが、後ろに回りこんだメディの軟体に押し留められる。
 下半身をがっちりと軟体に拘束される。さらに、軟体は収縮を繰り返すアレクの陰嚢にまでまとわりつく。

「っくぁ…――!」
「ここも、もみもみ、してあげる。全部、絞り取って、あげる」

 舐め転がすように、軟体に陰嚢を包まれがら揉みしだかれる。
 搾り出すように、双球に亀頭を吸われながら精液を扱き出される。
 どくん、とまた勢い良く精液が放出される。メディの胸元が白く濁っていく。
 気持よすぎて、声も出ない。

「わあ…本当に、たくさん、出た」

 メディが、軽く乳房を持ち上げる。
 未だ亀頭を包み込んだままの双球は、吐き出された精液によってぬるぬるになり、白く染まっていた。
 快感の余韻に飲まれながら、アレクは呆然とそれを眺める。

「アレク、大丈夫?」
「…あ。いや、その。…大丈夫、かな」 

 快感の波が引き、頭がゆっくりと冷えてくる。
 別に、身体は何とも無い。しかし…また、一方的に翻弄されてしまった。
 これで加減したというのなら、本気はどれほどのものなのか。
 アレクは自分の情け無さを目の当たりにして、歯噛みする。

「…アレク。もしかして、嫌だった?」
「嫌、そうじゃ、ないけど…やっぱり、こうも一方的だと、悔しいかな」

 幸いというべきか、メディの弱点は核であるとわかっている。
 体調が戻ったら、今度はこちらがメディを気持ちよくしてあげようと、アレクは心に誓った。
 そんなアレクの心境は、どうやらメディに読み取られることはなかったらしい。
 自らが搾り出した白い液体を満足そうに眺めながら、メディが上目遣いでこちらを見つめてくる。 

「じゃあ、アレクの、貰うね?」
「え? …わ。っと…――!」

 メディの胸が、吸引するようにアレクの分身に吸い付いた。
 双球に付着していた精液が、みるみるうちにメディに吸収されていく。
 達したばかりで敏感な肉棒を吸われ、アレクの身体は反射的に強張ってしまう。
 肉棒に残っていた精液を全て吸収したことを確認した後、やっとメディの双球はアレクを解放した。

「ん…♪ …ごちそうさま。大満足」
「…お粗末さま。もう、これでおしまいだよね?」
「うん。名残惜しい、けど」

 そう言いながら、メディはすっかり力を失ったアレクの肉棒を残念そうに見つめる。
 どうやら白昼の情事は、これでおしまいらしい。
 しかし、メディはアレクの分身は解放したものの、アレク自身を解放するつもりはない様子。
 衣類を着直している最中にも、メディは決してアレクから離れようとしなかった。

「…ねえ、メディ。もう逃げないから、離してくれない?」
「や。今日は、アレクから、離れたくない、気分」

 ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべながら、メディはアレクの腕に両腕を巻き付ける。
 実を言うと、メディの『食事』で体力を消費したことで、もうベッドから離れる気は失せていた。 
 かといって、白昼堂々眠りにつく気分にもなれない。

「じゃあ…本でも読む? 何か読みたいものがあれば、読んであげるけど」

 今思えば、最近メディと一緒にいる時間が少なくなってきていた。
 体調が戻るまで、メディとの時間を楽しむのも良いかもしれない。
 アレクの言葉を聞いた瞬間、花が咲いたように、メディが顔を綻ばせる。
 こくこくと頷いたかと思うと、メディはものすごい速さで棚へと軟体を伸ばし、一冊の本を抜き取った。

「じゃあ、じゃあ、これ。これ、読んで、欲しい」
「う、うん…わかった」
 
 その剣幕に若干及び腰になってしまいながらも、アレクは本を受け取る。
 題目は、レオニス公国史。
 少し難しい言葉が多い本だが…まあ、大丈夫だろう。

「アレク、早く、早く」
「はいはい。ちょっと待ってね…ええと、何々――」

 ベッドの端に座り、アレクは本を音読する。そんなアレクの膝の上に座り、メディはアレクの言葉に耳を傾ける。
 結局その日は、ずっと本を読み聞かせるだけで終わった。
 しゃべり疲れて喉が渇くたびに、メディに口移しで果汁を補充される、そんな一日。
 時はゆっくりと、しかし瞬く間に過ぎ――気づけば、日は既に傾きかけ、身体が食事を欲する時間になっていた。



 これといって調度品も置いていない、殺風景な部屋。
 硝子製の窓から夕暮れの斜光が差し込み、薄暗い石造りの部屋を照らしている。

「――それで、『黒のキング』殿。今度は誰を潰せばいいんだ?」

 体重を投げ出すように腰掛けたのが悪かったのだろうか。
 ひどく大きな音を立てて、木製の椅子が軋んだ。
 
「人聞きの悪いことを言ってくれるな。そういう仕事ばかりを頼んだつもりはない。
 お前が勝手に、必要以上の人間を潰しているだけだろう」 

 『黒のキング』は、淡々と言う。
 整えられた口髭を備え、幾重にも皺が刻まれた顔は、仮面のように微動だにしない。
 それらの特徴と豪奢な帽子や服が、この初老の男が根っからの貴族であることを示している。

「よく言う。あんたの駒が動くたびに、どこぞの誰かが失脚する。
 直接誰かをぶちのめす仕事でなくとも、あんたの依頼は大概誰かを貶めることになる」
「…何が言いたい、『黒のナイト』」

 少々、戯れが過ぎたらしい。口調こそ変わりないが、気分を害しているのは間違いない。
 こちらとしてはちょっとした冗談のつもりだったが、やはりこの貴族サマは戯言や無駄な会話をあまり好まない様子。
 『黒のナイト』は、早々に引き下がる。諸手を上げて、謝罪する。

「失礼。誰が死のうと、何が起ころうと俺は何も知らなくて良い。駒は駒らしく、言われたことをやれば良い――だったっけか」
「懸命だ。お前ほど役立つ駒は、他にいない」
「そりゃどうも」

 適当に答えながら、『黒のナイト』は眼前に置かれた机の上に視線を向ける。
 机の上には、巨大な羊皮紙が広げられている。そこに描かれているのは、この国、レオニス公国全体の地図。
 『黒のナイト』は、ぼんやりと地図の一角に置かれたそれを眺める。
 黒い馬を象った、小さな置物。貴族の余興に用いられる、騎士を示す駒。

「マンドラゴラを探せ。それが、次の仕事だ」

 『黒のキング』は、淡々と言う。
 視線の先にあった騎士の駒がその手によって持ち上げられ、移動される。
 此処、バラノフ伯領から――公国の辺境にある、魔物が出ると噂される森の付近へ。
 
「マンドラゴラねぇ…何とも珍しいモノを。愛玩にでも?」

 そういえば、少し前に『猫』に逃げられたと聞いた。
 新しい玩具でもご所望なのだろうか。

「それは間に合っている。別の用途だ。
 ――『黒い死神』の名を、聴いたことはあるか」

 何とも仰々しく、同時に安っぽい名称。
 しかし、現在この国では口にすることすら憚られているという、その言葉。
 知らないわけがない。

「疫病だろ。最近、この国で流行ってる。 
 死神に魅入られると、身体中に黒い痣が浮き出て死ぬ、だっけか。
 また、街が一つ消えたらしいな」
「その治療に、マンドラゴラの根が必要になる。
 生死は問わない。だが、薬として使えない状態で持ってくるなどという真似はしてくれるな」

 地図上に置かれた黒の騎士の周りに、さらに幾つかの駒が置かれる。歩兵を示す、そっけない装飾の黒い駒。
 並べられた駒のうち、一つだけ黒い布で覆われている駒があった。
 まるで、黒い外套を身に纏っているかのように。

「駒を幾つか、連れて行け。詳しくは、これに書いてある」

 差し出された手紙を受け取り、封を開ける。
 わざわざ手紙に記したのは、おそらく盗み聞きを防ぐため。
 そこに書かれた文章を一瞥し、『黒のナイト』は軽く目を見開いた。

「他に、聞きたいことは?」

 疑問は、幾らでもある。
 マンドラゴラの根を何に使うのか。
 たかが魔物一匹を狩るために、なぜこんな大層な人選をしたのか。
 しかし、『黒のナイト』はそれらの疑問を飲み込んだ。盤上の駒に、余計な思考は必要ない。

「いや、良い。やるべきことは、大体わかった。
 いつも通り駒を引き連れて辺境へ行って、マンドラゴラを狩ってくればいいんだろ」

 そう言いながら、『黒のナイト』は手紙を傍らに置いてあった蝋燭に近づける。
 薄い作りの紙はすぐに焼け焦げ、炭となって地図の上に散らばった。

「そういうことだ。健闘を祈る」

 『黒のキング』は、淡々と言う。
 結局、終始表情を変えることはなかった。いつも思うことだが、その様はまるで人形のようだ。
 罪人を処刑した時、村一つを焼き討ちにした時、政敵を陥れた時――ただの一度も、その涼しげな表情を崩したところを見たことがない。
 噂では、女を犯すときですらこの鉄仮面らしい。その仮面の下に、どんな歪んだ素顔が隠されていることやら。
 …まあ、人のことは言えないが。

「了解、『黒のキング』殿。
 こちちはいつも通りやっておく。そちらもいつも通り頼む」

 『黒のナイト』は、立ち上がる。
 今度の仕事は、弱っちい魔物の捜索。正直、任務自体はそれほど楽しめそうにない。
 しかし、一つだけ気になることがある。
 
「魔物が出る森――か」

 部屋を出ると同時に、『黒のナイト』は呟いた。
 肩を鳴らし、首を鳴らし、ぼんやりと歩みを進めながら兜をかぶり直す。
 ふと傍らの壁を見ると、そこには高価そうな装飾が為された大鏡が埋め込められていた。
 鏡には、全身を漆黒の甲冑に身を包んだ大男の姿が映っている。
 
「………」 

 生憎と、『黒のキング』ほど仮面を被るのはうまくない。
 鏡に映る漆黒の騎士、その兜の隙間から見える口元は――どうしようもなく愉しそうに、笑っていた。


11/06/26 23:20更新 / SMan
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■作者メッセージ
どうも、SManです。
宣告通りギシアン回です。スライムっぽさを出してみたかった結果がコレ。
うん、やっぱりムズカシイネ。個人的には頑張ったつもり。
後半は暗くむさい空間が広がってますが、キニシナイ。

今回でサイドストーリーはおしまい。次回からやっと本編スタートです。
物語も佳境に入りました。どことなく物語を追ってもらいながら、和んでもらえれば幸甚に存じます。

次回、『黒い死神』に対抗するための秘薬、マンドラゴラの根を廻る三つ巴。
乞うご期待ください。

 それでは。

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