連載小説
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(80)メロウ
「いい天気だね」
「ああ」
青空の下、私は車いすを押しながら、彼女の言葉にうなづいた。
「こう、さわやかな天気だと、軽く運動して気持ちよく汗をかきたいものだ」
車いすに腰掛けた彼女が、空を見上げる。
「運動といったって、お前はあまり地上じゃ動けないだろう。それともあれか、泳ぐのか?」
「ははは、なにを言っているんだ、君は」
彼女は軽く首をひねり、俺の方をみると、赤い帽子と桃色の髪の下でニヤリと笑みを浮かべた。
「青空の下、気持ちよくセックス・・・青姦さ」
「そうか、そうだよなあ。お前が気持ちよく、なんて言った時点で気がついているべきだった」
彼女はメロウ。桃色の髪の毛と同じく、頭の中も桃色なのだ。
「お褒めに与り光栄だよ」
「褒めてはいないが、貶してもないからな」
「そうか、それはよかった」
彼女は顔を正面に戻し、こくこくと頷いた。
「それで・・・青空のもとで気持ちよく姦淫、つまり青姦が駄目なら、僕はなにをして汗をかけばいいんだい?」
「そうだなあ・・・」
車いすを押しながら、私は考えた。
メロウは人魚型の魔物のため、陸に上がる際はこうして車いすや荷車に乗せる必要がある。
今こそ私が車いすを押しているが、車いすになれた彼女ならば、一人で車輪を操ることもできる。
ならば、多少の身動きする運動ならば、できるはずだ。
「うーん・・・テーブルテニス、とか・・・?」
「テーブルペニス?テーブルを使うのか」
「テーブルは使うが、チンコは使わない」
一言否定してから、私は簡単にテーブルテニスについて説明した。
「なるほど・・・二人で手にしたモノを使って、タマを叩き合うのか」
「おおむねその通りだから、私はなにも言わない」
「むぅ・・・」
彼女はなぜか呻いた。
「でも・・・テーブルの幅によっては、結構身動きしなければならないんじゃないかな?こう、テーブルの横に回り込む必要もありそうだし」
「その辺は、お前の側の左右の縁に壁をつけるとか、ハンデがあっていいだろう」
そうすれば、車いすに座ったままの彼女でも、テーブルテニスを楽しめるはずだ
「僕としては、そう言うハンデをつけてもらうよりも、君と二人で楽しみたいんだけどね」
「もちろん私が相手する。いっておくが、テーブルテニスの話だからな」
先回りして言うと、メロウは一つ頷いた。
「わかってる。というより、君が僕の相手をしてくれるんじゃなくて、君がサポートしてくれるとうれしいんだ。こう、今みたいに車いすを押して、僕を移動させてくれないかな?」
「それって、結構難しくないか?」
自分の足で、テーブルを跳ねる球を追うのと違い、私が車いすを押しては思うように動けないだろう。
「難しくてもいい、二人で楽しめれば、それでいいんだ」
彼女は顔を私の方に向け、腕を伸ばして車いすを押す私の手に触れた。
「それに、共同作業というのはなかなか興奮するものだよ、昼も夜もね」
「お前の言う共同作業って、昼も夜も同じ内容じゃないか」
「そう言う説もあるらしいね」
指の感触を私の手に残し、彼女は手を下ろした。
「ほかにいい運動はないかな?二人で楽しめそうなの」
「そうだなあ・・・水泳とか」
「水泳?確かに浜辺ならば僕も体が濡れて力がでるけど、砂が入って痛いんだよ」
「普通に泳ぐだけだからな。砂は入らない」
どこに、とは明言しない。
「うーん、でも泳ぐなんて慣れているし」
「じゃあ、私に泳ぎを教えてくれないか?もしくは二人で海中散歩」
私はある程度泳ぐことはできるが、本格的に長距離を泳ぐことはできない。
だが、彼女がサポート役についてくれれば、心おきなく泳げるではないか。
「海中散歩かあ・・・うん、いいね」
海の中を二人で泳いでいる様子を思い浮かべたのか、彼女が楽しそうに声を漏らす。
「日の光が降り注ぐ青い海の中を、二人で泳ぐ。もちろん君は、水中呼吸の魔法をかけているから、息継ぎのために海上に戻る必要はない。色とりどりの珊瑚をみたり、魚の群を眺めたり・・・」
「うん、いいじゃないか」
泳ぎの練習ではなく、海中散歩の方がメインになっているが、それはそれで楽しそうだった。
「そして泳ぐのに疲れたら、すこしそこに潜って、岩場の影に並んで座って休むんだ。持ってきていたお弁当を食べて、ぼんやりと水流が肌をなでるのを感じて、ゆっくり過ごす。そうしていると、何となくそう言う気分になってくるはずだから、そのまま青い海の底で姦淫、つまりは青姦さ」
「そうなる前に散歩再開だ」
「ちぇー」
私の言葉に、彼女はつまらなさそうに言った。
「しかし、何でお前はこう・・・口を開けばペニスにおっぱいにヤるだのするだの・・・」
「なんでって?楽しいからさ」
彼女は心底楽しそうに、くすくすと笑った。
口を閉じていれば美人なだけに、発言のひどさとの落差が、彼女の残念具合を加速させている。
「楽しい、か・・・黙ってれば美人なのに、もったいないな・・・」
「美人、美人か・・・そうか、美人か・・・」
「黙っていれば、な」
私の発言を、うれしげに繰り返す彼女に、一応釘を差しておいた。
「全く、お前はもったいないなあ。口を開けば下ネタがぽんぽん飛び出してきて・・・メロウの下ネタオルゴールみたいだ」
「すてきな表現をしてくれて、うれしいよ」
「褒めていない。どちらかというと貶している」
「そうか・・・」
メロウは少しだけ、落ち込んだような気配をにじませた。
「君は、その・・・そう言う話題は嫌いなのか?」
メロウはふと、私の機嫌を伺うように、若干弱々しい語調で尋ねた。
「んー、苦手でも、嫌いでもないけど・・・・・・あまり繰り返されると、ちょっとな・・・」
「そう、なのか・・・」
少しだけショックを受けたように、彼女はつぶやいた。
「僕は、その・・・全部が全部ではないけど、話題も行為も好きだ・・・だから、君とそう言う話はしたいし、話している最中の君の反応も楽しかったんだ」
「だから、執拗にそういう発言を繰り返していた、わけか」
「うん・・・」
彼女は小さく頷く。
まるで、友達の女の子に気があるから、意地悪して気を引こうとする男の子のようだ。
「不快だったら、謝る」
「謝らなくていいさ。ただ、あまり人通りのあるところで、大声でそう言うことを言わないでくれ、ってことだ」
「分かった。そうする」
少し、いやかなり気落ちした様子で、彼女は頷いた。
そしてそのまま、私と彼女は、ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、道を進んでいった。
いつしか風に潮の香りが混ざり、海が近づいてくるのが分かる。
そしてある角を曲がると、道の先に青いものが待ち受けていた。
海だ。
私は車いす大しながらまっすぐすすみ、海岸に向かって突き出す小さな公園に入った。
海が眺められる展望台のある、小さな公園だ。
「やっぱり、何度来ても気持ちのいいところだなあ」
ここまでの、若干沈んだ雰囲気を吹き飛ばそうと、私は明るい声で言った。
もちろん本心からの言葉だ。頬をなでる潮風は心地よく、日の光は暖かく、響く波が砂を洗う音は耳に快い。
私は眺めのよい場所に進むと、車いすの上の彼女が海を見られるようを停めた。
「少し大変だったけど、来てよかったな」
「うん・・・ここまで車いすを押させて、すまない・・・」
心底申し訳なさそうに、メロウが謝った。
「言うなよ。私も好きで押しているんだから」
そう、一人ではここまでこようと言う気にはならなかっただろう。
「でも・・・」
「謝らないでくれ。それに、普段のお前らしくないぞ?」
「そう・・・だな・・・」
普段ならばこちらの発言に、そう言う要素を見出して茶化すはずの彼女が、自分自身のらしくなさを認めた。
「さっき、君がそう言う話題はやめてくれ、と言ったからな」
「あれは、辺りに人がいるときの話しだ。二人きりの時なら、大丈夫」
「そうなのか・・・」
彼女は軽く展望台を見回し、公園に私たち以外に誰もいないことを確認した。
「ここなら、言ってもいいのかい?」
「ああ。ただし、あんまり声が大きいと駄目だけどな」
「分かった。じゃあ、二人きりの時に言おうと思っていたことを、言う」
彼女は言葉を切り、しばし間をおいてから、口を開いた。
「僕は君のことが好きだ」
「うん・・・うん?」
突然の告白に、私は一度頷いてしまってから、彼女がなんと言ったのか遅れて反芻した。
「本心を言うと、君といつも口にしているようなことをしたくてたまらないんだ。君のペニスに触りたいし、僕の胸に触ってもらいたい。シたい、ヤりたい、犯してほしい。君と一緒にいると、僕の頭の中はそんな気持ちでいっぱいになるんだ」
身をよじり、私を見上げながら、彼女は続ける。
「こうして一緒に海を見ているだけでも楽しいけど、それ以上のことをしたくてたまらないんだ。だから、お願いだ。僕の気持ちを受け取ってほしい」
彼女は言葉を切ると、頭の上に乗せていた帽子に手を伸ばし、それを取って私に差し出した。
メロウの帽子には、メロウ自身の魔力が詰まっている。それを人に委ねるというのは、自分自身を委ねるに等しい。
つまりは、これからの世話をしてほしいという、求婚の合図だ。
「ええと、ちょっと待て・・・ちょっと待ってくれ・・・」
差し出される帽子を前に、私は混乱する頭をどうにかなだめつつ、考えをとりまとめた。
「その、いつ頃からだ?私に、そんな気持ちを向けるようになったのは」
メロウとのつきあいは、そこそこ長い。彼女がそんな気持ちを抱えていたのに、それに気がつかないと言うのは鈍感すぎやしないだろうか。
「初めて君と会った頃から・・・と言いたいけれど、違う」
彼女は軽く頭を振った。
「初めてであった頃は、君への感情はほかの人間と変わらなかった。だけど、君がこうして車いすを押してくれたりするうちに、いつの間にか好きになっていたんだ。それに、下ネタトークも魔物の友人たちとするより、君とした方が楽しくなっていた。本当に気持ちに気がついたのは・・・一年前ぐらいかな」
彼女は両目を閉じ、思い出すようにしながら続ける。
「君と離れたあと、また君と会って話をしたくなっていたんだ。それこそ、君がいないのが辛く感じるぐらい。正直、今朝君との待ち合わせ場所に行くまでも、かなり辛かった。だから、どうか・・・僕を受け入れてほしい」
彼女は目を開き、私を見据えた。
その瞳は、涙に濡れていた。
「君が嫌いなところは直す。イヤだと思ったら、何でも言ってほしい。下ネタトークも、二度としないと約束する。もし、ほかに好きな人や魔物がいるんだったら、僕は二番目でもいい。だから、だから・・・」
徐々に言葉がふるえていくが、彼女はついに搾りだした。
「どうか、僕の好きを、受け取ってください・・・」
「・・・・・・」
私は無言でしばし考えてから、彼女の帽子に手を伸ばした。
「っ!」
メロウの指に一瞬力がこもるが、軽く引くと彼女は指をゆるめ、帽子を私に渡した。
私は彼女の帽子をまじまじと確かめる。
「うーん・・・これは、私が被ってもあまり似合わないなあ。だから、ただ受け取って預かるだけになるが・・・それでいいのか?」
「・・・う、うん!受け取ってくれるだけでいい!」
私の発言に、彼女は一瞬呆けてから、かくかくと顔を上下に勢いよく揺すった。
「でも、本当に私でいいのか?」
とりあえず帽子を手に持ったまま、私はそうメロウに問いかけた。
「君じゃないと駄目なんだ。それこそ、一人が辛くて押しつぶされそうなほどに」
私と離れたときのことを思い返したのか、彼女がきゅっと拳を握った。
「・・・・・・そう言ってもらえるとは、光栄だな」
「そう、か・・・」
私の言葉に、彼女が笑みを浮かべる。
そのうれしげな彼女の表情は、私の胸の奥を温めるようだった。
「さて、じゃあ今日はそろそろ帰ろうか」
「え?そんな・・・」
私の言葉に、メロウは不安げに私の方を見上げた。
「もう少し、ゆっくり・・・」
「したいけど、やることがたくさんあるだろう」
車いすを操り、海に背を向けながら、私は続ける。
「これから二人で、どう暮らしていくか、離さなければならない。とりあえず、私の家でいいかな」
「・・・う、うん・・・」
彼女は一瞬目を見開き、顔を赤らめながら頷いた。
「で、でも、話し合いだけで終わるかなあ・・・?ほら、もうただの友人とかそう言う関係じゃないし、間違い・・・じゃなくて一足お先に夫婦生活したりとか・・・」
髪の毛のように桃色に染まる頬を掻きながら、彼女は照れ隠しの言葉を紡いだ。
「夫婦生活は、話が終わった後だ。いいかな?」
そう、メロウに言い聞かせるように、私は言った。
「う、うん・・・」
私の言葉に、彼女は頷いた。
そこには、いつものように軽口を叩くメロウの姿はなく、ただかわいい彼女だけが残っていた。
12/11/18 18:04更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
下ネタトークOKな異性の友人とかいいですよね。
日常的にウンコシッコチンコマンコおっぱいな話ばかりしているようなの。
そう言う異性に限って、いざ様々な要因によりベッドをともにする機会が訪れると、がちがちに緊張したりするんですよ。
普段はにやにや笑みを浮かべながら挑発的な視線を送る目が、こちらを見ることもできず視線をさまよわせ、下ネタランチャーのはずの口はあうあうと開閉を繰り返し、隙あらばチンポキャッチしようとする手はぎゅっとシーツを握りしめる。
そんな彼女に優しく多い被さると、体の下で彼女の体が震えるんです。
安心させるように、優しく体に触れ、ゆっくりなでる。
そして体と体を触れ合わせ、温もりを共有しながらささやくのです。
「かわいいよ」
と。
そしたらもう彼女は胸はドキン、子宮がキュン、アソコはジュンでウェルカムチンコ!状態です。
後はぎこちなくてもいいから愛撫を交わしあい、合体するわけです。
そんなことができる異性の友人が、私はほしい。

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