連載小説
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緊急特報!森林奥地に邪教集団を発見した!!

「…ここは?」

明かりが見えた。
長い長い暗闇を歩き、ようやく見つけた出口だ。
彼は、右の道を選んだ生徒である。
左を行った生徒は、雪女に襲われてしまった。
真ん中を行った生徒は、ドラゴンと出会う事になるだろう。
では彼は、一体何に出会ったのだろうか?


出口から飛び出した先に見えたのは、何の変哲もない森の中だった。
もう見慣れた、鬱蒼とした森の姿が目の前に広がっている。
何か、仕掛けや襲撃の類が無いかと一瞬身構えた生徒だが、すぐに警戒を解いた。
どうやら、こっちの道はハズレのようだ。
考えてもみれば、金山なら出入り口が1つなんて事は無いだろう。
自分が選んだ道は、そういう用途の為のものか。

「当たりがあるとすれば、左か真ん中か…」

せめて、左が当たりであってほしい。
真ん中が当たりと言うのは気に食わない話だ。
アイツは、出来るだけ酷い目に会って欲しい。
死ね、とまでは言わないが、あの生意気な鼻っ柱をヘシ折る程度の事はあってほしい。
素直にそう思う。

「神様に祈るか…」

困ったときのなんとやら、である。
そんな事を思いながらも、一応周りを調べておくことにする。
森の中へと、足を踏み入れる。
やはり、今まで自分たちが居た森と、何の変わりも無い。
背の高い木々が天井を覆い、太陽の光もあまり届かない。
そんな中を、宛も無くたださ迷い歩いている。

「…ん?」

しばらくは、変化を見つけられないでいたが、微妙な違和感を覚えた。
それは、一見するとただの石苔の生えた石だった。
だが、よく見ると、その石は、明らかに人の手が入ったものだ。
角が無く、丸く加工されている。
それが1つだけなら、自然の悪戯と言う事で済まされたかもしれない。
問題は、それが規則正しく、奥のほうへと続いている点だ。

「何かあるかな」

このまま引き返してもいいのだが、やはり探究心の方が勝る、男の子だもの。
地面を注意深く見つめて、その石が置いてある方向へと足を向ける。
横道に逸れてしまったがまあ大丈夫だろう。
しかし、奥に進むにつれてどんどん道が広がっていく。
最初は、苔の生えた石ばかりだったのが、今では殆ど苔の生えていない石に変わっている。
疑惑が、確信へと変わっていく。
石に苔が無い、と言う事は、人通りがあると言う事だ。
人と会えるかもしれない。
そう思うと、足取りも軽くなる。
石を辿り、先へ先へと歩みを進める。
すると、急に石の道が消えた。
目の前に、やはり石を使った段差が用意されていた。
これは、石段だ。
その石段を、一歩一歩確かめながら、上へと登る。

「なんだあれ…?」

長い長い石段を登り続ける事数分、慣れない事をしたせいか、膝が悲鳴を上げている。
何とか踏ん張ろうと顔を上げた時、妙なものが目に入った。

「門…か…?」

2本の大きな柱に、横になった柱がくっ付いている。
何とも異様な光景だった。
それが門なのか、はたまたオブジェのようなものなのか。
更にその左右には、少し小さい同じ門のようなものが置かれている。
よくはわからないが、とにかく終着点は見えた。
一気に石段を駆け上がり、その門のようなものをくぐる。

「ヘェ…ハァ…体ッ…鈍ってんなぁ…」

石段を駆け上がった途端、その場に尻餅をついてしまった。
慣れない密林での生活に加え、考え無しに体を酷使した報いだ。
肉体的な疲労が、ここへ来て一気に噴出してきた。

「そういえば…食料…探すんだっけ」

今更ながら、当初の目的を思い出す。
一体自分は何をやっているんだ…

「しっかし…高いなぁ」

呼吸を落ち着けてから、改めて辺りを見渡してみる。
まず目に入ったのは、奥にある山形の建築物。
床が高く、木の質感そのままの質素な作りのその建物だった。
そして、その左右に置かれている動物の石造。
一瞬ガーゴイルか何かかと焦ったが、どうやら違う。
あれは犬か?
とにかく、目に入るもの総てが興味の対象になる。
だが、今一番興味があるのは…

「参拝客か?」

いつの間にか、間近でこっちの顔を覗き込む女性。
白い服に赤い袴を身に纏い、手には箒を握っている。
掃除の途中だったのか。
長く美しい黒髪に、褐色の健康的な肌色。
だが、頭部からピンと伸びた獣耳に、手足を見れば獣のそれ。
そしてふさふさの尻尾と…特徴を見れば一目瞭然。
魔物だ。

「ん、どうした?私の顔に何かついているか?」

「あ…あ…」

そりゃあ、ここは魔物の森だと聞いたので、魔物が居てもおかしくはない。
しかし、しかしだ、魔物にだって生息地域があるだろう?
目の前に居る魔物…彼女は、この場に居るにはどうしても不自然過ぎる。

「人の顔を見て絶句するとは…」

「いや…だってそうだろう…なんでジパングに…」

ジパングには決して居るはずのない、砂漠地域に住んでいる…

「アヌビスが居るんだ…」

こちらを覗き込んで来る魔物の正体は、アヌビスであった。

















「この神社は、狼を祀っている」

「そうですか」

ここは小さな建物の中。
あれから、立ち話もなんだと言われ、彼女に誘われるままここへ通された。
社務所、と言う建物らしい。

「私はラティーファだ、ここで巫女をしている」

「巫女?」

「ジパングのストゥムみたいなものだ」

「神官…?」

「微妙な所だが、そんな所だな」

そう言って、運んできた盆から湯のみをこちらに手渡してくる。
通されたのは小さな板張りの部屋なので、2人も入れば狭く感じる。

「元々ここは大人数は収容できないからな…」

器用に正座しながら、自分の湯のみをこれまた器用に持ち上げ、口に運ぶ。

「どうした?飲まないのか」

「えっ?ああ…頂きます」

急かされる気がするが、こっちも湯飲みを口元に運ぶ。
湯気が湧き出るその液体の正体は、お湯だった。

「お湯か」

「茶なんて大層なものは出せんのだ」

お茶は貴重品なのだとか。

「あの…質問いいですか?」

「山犬信仰についてか?」

「いや、貴女の事について」

「私…?」

自分の事だ、と言われて彼女が目を丸くする。
予想外だったのか…と言うか、誰でも真っ先に質問しそうなものだが。

「何でアヌビスの貴女がジパングに?」

率直に、疑問を口にする。
アヌビスは、自分の国でも何度が目にした事がある。
とりわけ珍しいと言うわけではない。
街を歩けば必ず1人は見つかる、くらいの確率だ。
元々、アヌビスの生息地域は砂漠の遺跡など。
ウルフ種には珍しく冷静で知的、しかし想定外の事態に弱い。
乱れさせてしまえば、ただのメス犬に成り下がる。
とはアヌビスを嫁に貰った人の言葉である。

「誰がメス犬だ」

「聞こえてました…?」

どこから出したのか、手にした杖で頭を小突かれてしまった。
この辺りは、アヌビスそのものだ。

「まあ、色々事情があるのだ、色々と…」

「言いたくなさそうですね?」

「あえて聞くか?」

「いや、本人が嫌ならやめときます」

あまり詮索するのも失礼か、そう思って話題を変える。

「ここには、貴女1人で?」

「名前で呼んでくれて構わない」

「…ここには、ラティーファさん1人だけなんですか?」

微妙に距離感が掴み辛い。
名前で呼べと言われたので、嫌われた訳では無さそうだが…

「…そろそろ、来る頃だ」

「えっ…来るって?」

そう言うと、これまたどこから取り出したのか、手には大きな懐中時計。
金色の、蓋の無いオープンフェイスのシンプルな作りだ。
それを、彼女は黙って眺めている。

「あの…何が来るんですか?」

「…来るぞ」

彼女が顔を上げると同時に、社務所の引き戸が勢い良く開かれる。

「なんだ、客人か?」

どうやら、この神社に居るのはラティーファ1人ではなかったようだ。
同じように、巫女装束を身に纏った女性が入ってきた。
この女性も、ふわふわした獣の耳を頭部から生やしている。
鋭い牙を持つ白毛に覆われた手足に、ゆらゆらと後ろで揺れる長い尾。

「ワーウルフ…?」

狼を祀る神社、と言われれば…成る程、これ以上の適任者は居ないだろう。

「時間通り、正確だな」

「君の指導の賜物さ、ラティーファ」

このワーウルフも、話の輪に加わる。
狭い部屋に3人も居ると、流石に少し息苦しい。

「ボクはこの神社の管理をしている、ハクロと言う」

こちらもまた、器用に正座をしながら自己紹介をする。

「あなたが…ここの管理を?」

「まあそうだね…しかし…やはり管理者としては彼女の方が向いているな」

「ふん、そうだろう?」

そうハクロに言われ、ラティーファがえへん、と胸を張る。
ラティーファの方が、新参者だと言う話を聞かされた。
しかし、やはりアヌビス故か、この場を維持管理する能力は彼女の方が高いとか。

「そう言えば…さっき言ってた山犬信仰って…何ですか?」

「何だ、聞きたかったのか?」

「ええ一応は…」

気になることではあったが、この両人に対する興味のほうが優った。
一通り自己紹介はしてもらったので、今度はこれを聞いてみる。

「ボクが説明しよう」

今度はハクロが変わって説明してくれた。

「山犬信仰とは…要するにボクの事だ」

「えっ…あなたが神?」

「うむ」

なんと言う事だ、目の前に居る彼女が神だった。
神の姿を見るのは初めてだが、こんなに何の感情も浮かばないとは思わなかった。
決して自分が信心深いとは思わないが、やはり神に対する想像みたいなものはある。
しかしまあ、パッと見こんな可愛らしい子が神様だなんて…ジパングは凄いな。
未来に生きてるよ、うん。

「こらハクロ、嘘を言うんじゃない」

「えっ!?嘘なの…」

ラティーファが口を挟む。

「ハッハッハッハ…まあ、軽い冗談だよ」

「冗談ってあんた」

白い歯を見せてケラケラ笑うハクロであった。

「私が説明しよう」

今度はラティーファの方から説明を受ける。
山犬信仰、元々の始まりはここではない遠くの地。
ある僧が、山上に鎮座していると、狼の群れが集まってきた。
そして、その僧は、これを神託と感じたと言う。
猪鹿や火盗除けとして山犬の神札を貸し出すと、効果があったらしい。
これが山犬信仰の始まりだとか。

「へぇ…」

「な、ボクが神様みたいなものだろう?」

「ちょっと違うんじゃないかな…?」

「いや、全然違うと思うぞ」

「2人とも手厳しいなぁ」

狼、くらいしか共通点が無いだろうに。

「ハクロさんは、何かご利益とかあるの?」

「そんなものはないよ」

即答だった。
やっぱりこの人、この仕事に向いてないと思う。




















「さて、では仕事に戻るか」

あれから、しばらく談笑していた。
しかし、懐中時計を見たラティーファがそう言うと、徐に立ち上がった。

「仕事?」

「君は、私達がただこんな服を着て遊んでいるだけだと思っているのか?」

うん、とは言えない。
仕事、と言ってもこの神社に居るのは自分を含め3人だけだ。
接客業務以外に、何をするのか。
そして思い出す、出逢ったばかりのラティーファは、箒を手にしていた。
掃除でもするのかな?

「あ、何か手伝いましょうか?」

「…なんだと!?」

「それは本当かい!?」

予想外の食い付きだった。
ラティーファはいいが、いままでだらしなく姿勢を崩していたハクロまでこの反応だ。
と言うか、正座しても10分も持たないのか…

「確かに…君に手伝って貰えるのなら、それは願っても無い事だが…」

「いやぁ、これは幸先良いと思うね」

反応は対照的だった。
ラティーファの方は腕組みをしながら何か考え事をしている。
ハクロはと言えば、こっちに身を乗り出すような体勢で嬉しそうに笑う。
尻尾も千切れんばかりに勢い良く左右に振られている。
嬉しいのか、そんなに手伝いが嬉しいのかこの人は。

「しかしだ、そう簡単にお願いしても良いものか…」

「本人がやりたいって言ってるんだ、これは断るほうが失礼だと思うよ?」

「しかし…しかしだな…」

「とりあえず、一緒に来てもらおうよ、嫌かどうかは本人に決めてもらえば良い」

そう言われるがままに、ハクロに手を引かれ連れて来られたのは、中央にある大きな建物。
ここは、本殿と言う建物らしい。
履物を脱いで中に上がると、広間があった。
奥には、神殿のようなものが置いてある。
その前に、ハクロと並んで腰を下ろした。
ラティーファは、どこから持ってきたのか、巻物のようなものを手にしている。
自分達の前に立ち、それを広げて見せる。

「よし、では今から仕事内容の説明を行う」

「ボクはもう何回も聞いてるけどね」

「俺は初めてです…」

「黙って聞け」

怒られてしまった。
アヌビスは怒らせると厄介なので素直にそれに従った方が無難だ。

「では気を取り直してだ…我々が今から行うのは犬神憑きだ」

「犬神憑き?」

「簡単に言えば、犬の神を光臨させるのだ」

「どこに?」

「ハクロにだ」

狼に犬の神を憑依させるとは、簡単なように見えて複雑だ。

「最も、今まで一度も成功したことは無いんだがな…」

「えっ?」

無いのかよ。
というか、これ仕事なのか?巫女ってそんな事する職業なんですか。

「説明が終わった所でだ、今から準備にとりかかろう」

手にした巻物を巻き直しながら、ラティーファが歩き出す。
その後ろを、自分とハクロがついていく。

「あの、その巻物結局何だったの?」

「うん?コレか」

目の前に広げられた巻物の説明は何も無かった。
重要な事でも書かれているのかと思ったので肩透かしだった。

「コレは雰囲気を出すために用意したものだ、深い意味はない」

「あ、そうですか」

意外とお茶目な所もあるんだな。
ラティーファに案内された場所は、本殿の裏庭だった。
てっきり本殿の中でやるものだと思っていたので、少々戸惑っている。
そんな自分とは対照的に、当の2人はさっさと準備を整えている。
自分も何か手伝おうかと言ったのだが、今は必要ないとのこと。
なので、2人を後ろから呆然と見つめていた。

「よし、準備が出来たぞ」

待つ事数分、準備を整えたラティーファがそう言うと、こちらに近づいてきた。

「次は君だな」

「いや…あの…なんすかコレ」

「何とは何だ?」

「いやだからこれは一体何なんですか」

準備は出来た、と彼女は言うが…とても自分にはそう見えない。
と言うかこれは一体何なんだ、本当に…
それは、ハクロが本殿の支柱に縛られている姿だった。







「亀甲縛りと言うものだ」

「説明されても困りますよ」

縛られている、とは言うが、明らかにおかしい。
まず手を後ろ手に縛られ、胸を突き出すような姿勢になっている。
足も揃えて正座の体勢をとり、その場に座ってる。
身体の縄は、首にかけられた輪っかから縦に連続した菱縄と。
菱縄を横に引く横縄を使って乳房を囲むように絞りだしている。
服の上からでも、身体のラインがはっきりわかるくらいに締め付けられている。
腰周りや下腹部なども、この体勢ではよくわからないが。
きっと真っ直ぐ伸びた縄に締め付けられているハズだ。

「ふっ…見ろ、このだらしなく発情したメス犬の顔を」

ラティーファが指差す先には、赤面し息が荒くなっているハクロの顔。
こんな扱いを受けて激怒しているかと思いきや、そうでもなかった。
喜んでいる、この顔は。

「ああッ…!相変わらず…君の言葉責めはいいねぇ…」

悶えていた。
なんだこいつら、もしかして…馬鹿にされてるのか、俺?

「犬神を憑依させる方法は、わかりやすく言えば禁欲だ」

「禁欲?」

例えばこれが犬なら、頭部を出して地中に埋める、または支柱に縛り付ける。
そして、その前に食物を置き、餓死寸前までそれを続ける。
餓死しようとするまさにその瞬間に、頸を刎ねる。
刎ねた頸は食物に食い付くので、それを焼いて骨にする。
その骨を器にいれて祀れば、永久にその者に憑き、願いを成就させると言う。

「物騒な話をサラっと言いましたね?」

「だからこっちの禁欲版でやろうと言うのだ」

器用に大きな指で輪を作り、もう片方の指を出し入れする。
なるほど、性欲か、性欲を抑えるのか。

「このマゾメス犬は年中発情しているようなものだからな、その分禁欲の効果も凄いハズだ」

「んんッ!?…あはぁ…いいねぇ…いいよそれ…」

ラティーファが言葉責め(?)を行う度に、縛られたハクロの身体がビクンと跳ねる。
言ってもいいのかな…傍から見たらただの変態だこの2人。

「で、俺は何をすればいいんですか」

このまま、ラティーファの責めを見続けるのが仕事なのだろうか。

「君の仕事は重要だ」

どうやらここで見守るほかにもやる事があるようだ。

「君は、言うなれば餌だ」

「え、餌!?」

「ワーウルフの気性は知っているな?」

ワーウルフの気性、知性は高いが非常に凶暴な性格。
元々ワーウルフは群れで暮らす生き物だ。
人間の男を見れば襲い掛かり、女を見れば噛み付く。
だが一度主人と認めた相手ならば、忠実な態度をとる。

「必要なのは最初の部分だけだ」

ワーウルフは男を襲う。
この部分だけでいいらしい。

「…ああ、ああ〜そうか、成る程な」

なんとなくわかってきた。
現在マゾッ気マックスのハクロだが、サド的な気性ももちろん持っている。
つまり、その気にさせる餌…それが自分なのだ。

「俺が…餌の役目で目の前に居ればいいんですね?」

「大体あってるが、それだけでは足りない」

そう言うと、ラティーファが俺の肩にポンと腕を置く。

「…ッ!?」

触れられた場所から、一気に快感が駆け巡る。
予想外の事態に、頭の中が真っ白になる。

「マミーの呪いを君にかけておいた」

「があッ…ま…マミーの呪いッだって!?」

ラティーファの発した言葉の意味を瞬時に理解する事は出来なかった。
その場に蹲り、頭を両手で覆う。
しかし、ラティーファは容赦なく、丸まった背中を何回も叩く。
その度に、とてつもない快感が体中を駆け回り、身体が大きく波打つ。

「ひぎゃッ!?…も、もうやめて…あぐッ…お、おねがいだからぁ!」

「ふん、中々効きがいいようだな」

反応に満足したのか、ラティーファの責めが止んだ。
たった数度身体を触られただけなのに、この有様だ。
本格的に身体を弄られたらどうなる事か…

「まあ、今から本格的に弄るからな。心配しなくていい」

「いやッ…ハァ…ハァ…やらんでいい…って」

「くふぅ…いい反応するなぁ君…今すぐ飛びつきたいくらいだよ」

女王様に責められる奴隷2人。
仮にも神聖な場所で何をやっているんだろう俺達は。
こんな事、こんな事を信じてなるものか。
これはきっと幻想の類だ、こんな事で神が現れるハズが無い。

「アヌビスは便利だろう…なぁ…」

後ろから襟首を捕まれ、強引に上体を起こされる。
ハクロと同じように、手を後ろ手に縄で縛られてしまった。
咄嗟の事で、何の抵抗も出来なかった。

「君の言うメス犬の責めだ、当然耐えられるな?」

そう言って、意地悪な笑みを浮かべる。
やはり先程の発言を未だに根に持っていたのか。
迂闊な事は口に出来ない、こんなことになってしまうから。


















「身体が敏感になっているから、こうやって身体を摩るだけで」

スーッ…と、ラティーファの指が身体をなぞる。

「あふぅッ!…あぁぁぁぁぁッ!」

ただそれだけで、とてつもない快感が身体を襲う。
片手で襟首を捕まれ、膝立ちのような不安定な体勢でその責めを受け続けている。
彼女の指が身体に触れるたび、身体がビクンと震え、前のめりになる。
しかし、すぐに襟首を引っ張られ、元の体勢に戻されてしまう。
手足の自由もきかず、抵抗する手段を殆ど封じられている。

「まったく、反応はいいが私はうるさいのはあまり好きじゃないんだ」

声を出すのがお気に召さなかったのか、今度は布を口の中に詰め込んできた。
それを後頭部の位置で縛るとあら不思議、猿轡の出来上がりだ。

「んんんんん!?んふー!」

「よしよし、少しは大人しくなったかなッ!」

「んんんッ!?んんーッ!」

不意打ちで、ラティーファの手が一気に下腹部へと伸びた。
服の上から、大事な部分を乱暴に撫で回す。
その様子をじっと見守るハクロが、また悶える。
この繰り返しが、延々と行われていた。
総ては犬神を憑依させる為だと自分に言い聞かせているが、本当にいいのだろか。
大事なものを失ってしまった気がする。

「さて、時間も押してる事だし、少し急がせて貰うか」

無残にも、死刑判決がくだされてしまった。
この、どこまでも事務的で、どこまでも無慈悲な責めが更に身体を襲う。
今更ながら、手伝うと申し入れた事を後悔している。
しかしもう遅かった、口は塞がれ言葉を発することも出来ない。
手足は拘束され、身体は言う事を聞かない状態にされている。

(あ…ヤバイ…意識が…)

ただされるがままに快感を受け続けては、いずれ限界が訪れる。
脳が情報を処理しきれなくなってきた、と言う事はだ。
気を失ってしまうワケだ。

「あ、おい!勝手に堕ちるんじゃない!おい…」

ラティーファの声が遠ざかっていく。
いや、どう考えてもアンタのペース配分が間違ってますがな…
そんな事を心の中で訴えながら、俺の意識は徐々に薄れていった。




「また失敗か…」

そう呟き、ため息を吐きながら気を失った生徒を優しく地面に降ろし、縛っていた縄を解く。
供え物役のこの男が気絶してしまっては、最早儀式の続行は不可能になった。
自分では完璧なペース配分だと思っていたのだが、耐え切れなかったようだ。

「むう…やはり知識より経験が優るか」

知識量の豊富さは自他共に認める所ではある、しかし、やはり圧倒的に経験が少ない。
だが、こうして実験材料が手に入ったので、それはこれから改善出来る。

「何の話してるのさ…?」

「…む?」

同僚のハクロである。
何故か前のめりに倒れていたが、顔を上げこちらに話しかけてくる。
その様子では、どうやら犬神は憑依していないようだ。
やはり失敗か。

「いやッ…はは…君達を見てたら2回くらいイっちゃったよ…」

「駄目じゃないか、あれだけ我慢しろと言っていたのに」

「食べ物とかなら…まだ我慢出来るんだけどね…男はやっぱり我慢出来ないよ」

「…根本的にやり方を考え直さないと駄目なようだな…」

ハクロの縄を解きながら、次回の儀式のやり方について考えをめぐらせて見る。
縛るのが駄目なら埋める、と言う方法もあると彼に述べたが、これはどうだろう。
その場合は、彼も埋めねばならない、それではハクロに性的な欲求を覚えさせるのは難しい。

「ねえ…ラティーファ…前々から思ってたんだけどさ、君やっぱり天然だよね」

「何だと?」

「別に…彼を埋めなくてもいいし…また食べ物でやればいいんだし…」

「…成る程」

「君と居ると飽きないよ…ホントにね」

とりあえず、気絶した彼を何とかしなくてはいけない。
1人では心許ないので、彼女の手を借り再び社務所へと運ぶ。
2人で肩を貸しながら、引きずるように動き出す。

「しかし…刺激に弱い男だな」

彼の苦悶に満ちた表情を眺めながら、ふとそんな事を呟いてしまう。
私の計算では、このペース配分で十分だと思ったのだが。
当の本人に耐性が無さ過ぎたのが原因なのだろうか。

「君ねぇ…彼の顔見てわからないのかい、まだ少年だよ?」

「それはわかる」

「わかってないよ…君は全然わかってない」

「一体何が言いたいんだ」

「こんな経験も無さそうな少年に、いきなりマミーの呪いなんてかけたらどうなると思う?」

「…まさか、そんな…」

ハクロの口から全く予想外だった事を聞かされた。
経験が無い、と彼女は確かにそう言った。

「こんな所まで来てか?」

「確かに、それは妙なんだけどね…」

この場所を考えれば、経験が無いと考える方が不自然だ。
奥深い、魔物達が多く生息しているこの森、この神社に来たのだ。
魔物に襲われたりしても、ある程度は自分で対処できるスキルが求められる。
だが彼には…この少年には、少々失礼だがそんなスキルがあるとも思えない。
単独でここに来たのか…それとも引率する者が居るのか、中々興味深い事だ。

「ま、それは本人の口から聞こうよ」

「…そうだな」

ともかく、社務所に運び入れ、床に寝かせる。
部屋は前述の通り狭いので、人1人を寝かせるだけで精一杯だ。
この社務所、自宅の役割も兼ねているのだが、やはり狭い。

「さてと、じゃあ着替えを用意しないとね」

「着替えだと?」

寝かせ終えて一段落していた時、急にハクロがそんな事を言い出した。
着替えとは一体どう言う事だ。

「作務衣あったよね?あれ取って来るよ」

「だから何故着替えが必要なんだ?」

「えっ…わからないのかい?」

「…?」

わからない、見た所衣服の汚れが目立つ風でも無い。
なぜ着替えが必要なのか。

「ん〜…じゃあ、彼のズボン脱がせてみたら?」

「…なっ!?」

「あれだけ悶えてたんだ、きっと下着の中が汚れてると思うよ〜」

そう言い残し、ハクロは服を取りに部屋を出た。
なるほど、そう言う事か…
この社務所、外からはわかり辛いが実は二階建てになっている。
一階は事務を行う場所で、二階が居住スペースになる。
とは言え、二階も決して広いとは言えない。
基本的に寝室と、服や小物を入れている箪笥があるくらいだ。


「……」

中々、ハクロが戻ってこない。
作務衣を取りに行くと言っていたが、意外と時間が掛かる。
そういえば、作務衣は箪笥の奥に仕舞っていたのを思い出す。
時間が掛かるのもまあ仕方ないか。

「…」

無意識に、仰向きに寝ている彼の股間を凝視してしまう。
下着が汚れていると言ったな、ならズボンを脱がすか…
そう思い、恐る恐る彼のズボンに手をかける。
慎重にボタンを外し、ズボンを一気に脱がす。

「…ッ!!」

生臭いにおいが鼻につく。
下着は確かに、内側から滲んだような染みが出来ている。
においの元はこれだ。

「スンスン…はぁッ…これか…」

鼻先を近づけて見ると、生臭ささが鼻につく。
流石にこの液体の正体が何なのかくらいはわかっている。
だが、あまりこっち方面の経験に乏しい自分としては、中々興味深いものである。

「そんなに嫌いでは…無いか」

元々、臭いのキツイものは好きだ。
小さい頃は、干乾びたミミズの死体に体を擦り付けようとして親に怒られたくらいだ。
それとはまた違うものだが、この臭いは好きかもしれない。

「下着も…脱がした方がいいのかな?」

下着の中が汚れているので、それは当然の事だ。
などど自分に言い聞かせ、意を決して下着にも手を伸ばす。

「…はぁ…あぁ…」

ゆっくりと、下着をおろす。
何故か呼吸が荒くなる。
徐々に、下着の中に隠れていたものが、姿を現す。

「…スーッ…ハァーッ…」

凝縮された臭いが、一気に広がる。
凄い臭いだ…これでは部屋中に臭いが充満してしまうかもしれない。

「せ…液体に塗れているな」

下腹部の…まだ元気に膨張したままの男性器に、半透明の液体が付着している。
これでは気持ちが悪いだろう…早く綺麗にしなくては。

「手ぬぐいで…大丈夫かな?」

懐に忍ばせてあった手ぬぐいを取り出し、男性器についている液体を拭う。
片手で陰茎を持ち上げ、丁寧に布で拭き取る。

「長さに太さ…これは平均値だな」

昔見た資料に書いてあった数値を思い出す。
大体だが、サイズがわかった。

「ふむ…折角だから観察させて貰うか…」

こんな機会はそう訪れないだろう、なので後学のために色々調べさせて貰う事にする。
まず陰茎を持ち上げ、角度、色、感触、臭いなどを確かめる。
様々な視点から見る事も忘れてはならない。

「んっ…熱いな…」

陰茎を握ると、その熱が肉球へと伝わる。
こんなに熱が篭っていたとは思わなかった。
少し驚いた、確かに、これは資料で見ただけではわからない。

「後ろの方が…まだ皮に包まれているな」

亀頭部分を眺めて気付いた、まだ完全に露出しきっておらず下の方は皮が被っている。
気になるので、一思いに全部剥いてみる事にした。
この辺りは汚れが溜まり易く、不衛生である。
と資料に書いていたので、気になっていた所だ。
急にやると刺激が強すぎるらしいので、慎重にゆっくりと皮を剥く。

「こ、これはまた…」

剥き終わると同時に、一瞬陰茎がピクリと動いた。
そして、皮に隠れていた部分が露出すると、そこはやはり汚れが多い。
非常に不衛生だ、臭いもまたキツイ。
嫌いな臭いでは無いが…いや、一体何を言ってるんだ私は。

「お詫びと言っては何だが…綺麗にしておいてやろう」

敏感な部分なので、ゆっくり優しく、手ぬぐいで汚れを拭き取る。
手ぬぐいが触れる度に、陰茎がビクビク動く。
彼の顔を見ると、顔をしかめている。
今更だが、この状況で起きられると非常に気まずい。
ので、絶対に起きてくれるなよと心の中で祈りながら作業を進める。

「…はぁ、出来た」

何とか起こさずに、下腹部辺りを綺麗に拭き終わった。
しかし、やはり粘性のある液体を拭き取るのは骨が折れる。
せめて手ぬぐいを水で濡らせば良かったか…と思ったが、冷たさでバレるか。

「…スンスン…はぁ…まだ臭いが…」

鼻先を近づけて臭いをかいでみる。
何とか見た目は綺麗にしたものの、臭いがまだ残っている。
水気が必要なのだろうか。

「水か…」

やはり手ぬぐいを…と考えたが、汚れたコレは駄目だ。
かと言って、新しく何枚も使えるものでもない。
水気…拭く、洗う、舐める…
…舐める!?
ピンときた。
これこそ貧乏人の知恵では無いか。
道具に頼らず、余計な手間も必要ない。
完璧だ、我ながら完璧過ぎる発想だ。

「……あぁ…」

思い立ったら即行動。
まだ膨張しきったままの陰茎を持ち上げると、先の方からゆっくり口の中へ含んでいく。

「…んふッ?ふぁ…」

口に含んだ瞬間、少し塩辛いと思えば、生臭い風味や芳ばしい風味が広がる。
全く、何で私はこんな事をしているんだ…
それにしても…やはり嫌いな味ではない。

「んっ…ぷはぁ…」

一度、陰茎部を丸ごと口の中に含み、丹念に舌で舐めあげてから口を離す。
離した陰茎と私の口を、唾液が糸を引いて繋がっている。

「あ…はぁ…はっ…はっ…」

私の唾液でコーティングされた彼の陰茎を見ると、息遣いが更に荒くなる。
だらしなく舌を出し、口を大きく開けてその光景を眺めている。
自分では見えないが、今の私の顔はきっとはしたないメス犬の顔のそれだろう。
情けない、これではハクロの事をとやかく言えないではないか。

「…ちゃんと隅々まで舐め取らないとな…」

一度離した陰茎を、再び口元へと近づける。
今度は、舌を出して満遍なく入念に汚れを舐め取る。
先端部分のくびれ部分は特に汚れが溜まり易い部分だと聞いた。
丹念にその部分に舌を絡ませて、しっかりと汚れを落とす。
これはあくまでも清掃作業だ、それ以外の感情は決して無い…ハズだ。

「んぷはぁっ…はっ…ふぅ…」

我ながら惚れ惚れする仕事ぶりだ。
綺麗に汚れが取れ、私の唾液で全身がコーティングされた下腹部をうっとりしながら眺める。
ただ、今になっても変わらず膨張し切って脈打つその姿を見ると、気の毒に思えてくる。
きっと早く楽になりたいだろう。うん、そうに違いない。
私の尻尾が勢いよく左右に振られ、床をビタンビタンと叩いている。
しかし、これは別に嬉しいとか興奮しているワケではない。
耳もつくように倒して伏せて左右に振れているが、これも決して甘えているわけでは…
いや、もう正直に話そう、とても嬉しいです。

「ハッハッハッ…」

となれば、据え膳食わぬは何とやらだ。折角なので私の中に出して貰おう。
うん、それがいい。
さっそく寝ている彼の上に跨り、袴の帯に手を掛ける。
いざ解こうとして思い出す、この巫女服、実はスカートタイプなのだ。
下着の上に、膝上ほどの長さの白衣を着て、袴を穿いている。
ので、別に脱がなくても捲し上げればそれで大丈夫。

「もうこんなに…」

下着をずらす為に、自分の女性器の辺りを指で触ってみれば、やはり既に湿っている。

「既に準備万端か…」

お互い前戯は必要ないようだ。
さっさと終わらせる、そう思い、片手で彼の陰茎を持ち上げ、こちらの女性器部分に宛がう。
何度か先端を滑らせ、ゆっくりと腰を落としていく。

「んッ!…きゃふぅ…」

強引に、体の内部を広げられる感触。
久しく味わった事の無かった快感が、全身に駆け巡る。
女同士で慰めあったあの寂しい日々よさらばだ。

「久々だからぁッ!…余裕が無いな…くふぅッ!」

腰をおろしただけで、こっちはもう限界が近づいてくる。
まったく余裕が無い。体が震えて止まらない。

「かはッ…こ、これではッ…どっちがメス犬か…わかったものじゃないなァ!」

ハクロの事を責められる立場ではない、それくらい今の自分は敏感になっている。
必死に堪え、呼吸を整えてから再びゆっくりと腰を浮かせる。

「くぅんッ…私だけ気持ちよくなってはぁッ!忍びないッ」

彼にも、気持ちよくなって貰わねばならない。
上体を倒し、彼に覆いかぶさるようになる。
相変わらず、眉をひそめた表情のまま気を失っている顔だ。
首筋から、唇や顔の周りを優しく舐め回す。
まるで、悪さをした飼い犬が主人に許しを乞うように…

「んっ…んむぅ…んぷっ…あはぁ…」

少々舐めすぎてしまった。
彼の顔が私の唾液塗れになっている。
後で拭いておこう。

「そろそろッ…くはぁッ…こっちもげんっかいだ!」

あまり楽しんでいる余裕は無かった。
一気に腰の動きを早める。
がっつくようで私らしくないが、これも仕方ない。
だって久しぶりだもの。

「あぁくッ!?…またッ…また中で大きくなったぁ!」

彼も限界が近いのか、私の中で更に大きく膨らみ、小さく震えている。

「んふっ…きみも…鬼畜だなァッ!かはぁ…っこんな凶悪なモノでぇ!」

彼の顔を両手で包み、顔を近づける。
相変わらずその表情は険しいが、時折少しだが反応を見せる。
そんな彼を見ていると、嗜虐心とも被虐心とも取れない感情が湧き出てくる。
私が責めているのか、実は彼に責められているのではないか。
よくわからない。
まさかこんな、出会って日も経たないような男に…堕とされるかもしれない。

「もう…駄目ッだぁ…ッ…ああぁ!」

もうすぐ絶頂を迎えようかと言う時に、気付いた事がある。
この狭い建物では、絶頂時の声を聞かれてしまうかもしれない。
勿論聞かれる相手は、あのハクロである。
マズい、非常にマズい。
もし聞かれたら、これをネタにこの後ずっといい様に弄られてしまう。
それだけは避けないと、私のクールなイメージがッ…

「ッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

咄嗟に、両手で自分の口を塞ぐ。
体は反り上がり、尻尾もピンと真上を向く。
必死に声を押し殺して、絶頂の波が過ぎ去るのを待つ。

「……はぁ…はぁ…あぁ…」

何とか気付かれずに済んだみたいだ。
ひとまず、当面の危機は去ったと思って良い。
彼はと言えば、相変わらず気絶したまま目覚めはしなかった。
しかし、彼もまた絶頂に達したと言う事だけはわかる。
私の中に、彼の精液が流れ込んでくる感覚がある。

「…ここまでやって起きないとは…本当に…大した奴だ…」

将来大物になるかもしれない。
成長が今から楽しみだ。

















手早く後始末を済ませ、衣服の乱れを整えてハクロが来るのを待つ。
何とか気付かれずに終わったのでホッとする。
しかし、まだ油断は禁物だ。
何しろアイツは微妙な空気の変化にも気付く敏感さだ。
出来るだけ証拠を隠滅しておかねばならない。
そして、この部屋中に充満した臭いが問題になった。
生臭さと女の臭いが混ざったような、そんな臭いだった。
今の時季では少々厳しいが、換気する必要がある。
香でも焚いて臭いを上書きしようかと思ったが、そんな事に貴重な香は使えない。
やれやれ、後始末も大変だな…
とにかく換気を、そう思って障子戸をゆっくり開く。

「…」

そこには、正座をしているハクロが居た。

「…やぁ」

「…な、何をしてるんだ?こんな所で」

「いや、その…着替えを」

「あ、ああ…うん、そうか…」

ハクロの腕には、確かに取ってくると言っていた作務衣を大事そうに抱えていた。

「…なら、はやく着替えを…」

「ねぇ、ラティーファ」

出来るだけ自然な風を装っている。
顔に表情も出していないはずだ、臭いを誤魔化せれば後は…

「何だ、ハクロ」

上手く誤魔化せ…

「凄く良かったよ、君の盛りのついたメス犬っぷり!」

グッと親指を立てて、爽やかにそう言い放つ。
見られていた。
ああ…もう、色々最悪だ、今日は本当に…厄日だ。











「…クサッ!」

臭いがする。
この生臭くさいような、良い臭いのような結構ギリギリの臭いは。
それに、何か顔中がカピカピする。
確か…マミーの呪いをかけられて…気絶したんだよな?
余計に疲れた気がする…体がだるい。
あとなんか寒い、とっても寒い。

「…お、起きたか…」

「よく眠れたかい?」

白黒2つの顔が、こちらを覗きこんでくる。
こんな酷い目に会った元凶どもだ。

「…もう、マミーの呪いは解けました?」

上体を起こして見ると、何故か着ている服が異なっている。
灰色の、着物のようなものが着せられている。

「ふ、服が汚れたからな…」

「あれだけやればねぇそりゃ汚れるよ、うんうん」

様子がおかしい。
ラティーファはと言えば、顔を真っ赤にして下を向いたままだ。
一方のハクロはというと、そんなラティーファを見てニヤニヤ笑っている。
俺が気を失っている間になにかあったのか。
出合った当初とは、2人の立場が逆になったような、そんな印象を受ける。

「ところでさ、聞かせて欲しい事があるんだけど」

「はい?」

「君が、いや…君たちがどうやってこんな場所まで来たのか、気になるんだよ」

いつになく真剣な表情のクロハの目がこちらを見つめる。
そう言えば話して無かったな、と言うか説明する暇も無かったけど。
どこから説明しようか、やっぱり最初からか。
俺が説明を始めると、ラティーファがお茶を炒れて来てくれた。
更にやれ肩は凝って無いかだの、寒くは無いかだの。
まるでこちらの機嫌を伺うように、落ち着きが無くなっていた。

「彼女の事は放って置いていいから、続けて」

「いいの?」

「やらせてあげなよ、色男さん」

「誰が色男やねん」

とにかく、今までの出来事を総て説明する。
何故自分がこの場所に居るのか、どうやって来たのか。
もうすっかりお馴染みとなった光景である。





「…と、言うわけです」

話終わって、お茶を啜りながら一服する。
しかしまあ、思い返せば、なんて無茶をしたものか。
これは絶対単位貰わないと死んでも死にきれんわ、うむ。

「…そうか、そうだったのか…」

「そりゃこんな所にホイホイやって来たら…食べられちゃうよね」

「何の話ですかそれ」

「いや、こっちの話さ」

相変わらずはぐらかされる。
もう聞くだけ無駄かな。

「…なら、こっちも説明しないとな」

「うん、そうだねラティーファ」

「説明?」

「何でこんな事をしてるのかって…聞きたくないか?」

「ああ…そうか、そうだよね」

確かに、犬神を憑依させるだ何だと言ってたが。
そもそも、何でそんなことをしようとしたんだろう。
犬神を憑依させると、願いが叶うと言ってたけど。
その願いって一体…

「この神社…元々は人間のお爺さんが1人で管理してたんだよ」

「神社の話か…」

「金山で栄えた頃には、人も多く訪れてくれたんだ」

「私は、その頃の話は知らないな」

ラティーファがここに来たのは、もう金山が閉鎖され、人も居なくなった頃だと言う。
全盛期の頃の話は、ハクロしか知らないらしい。

「ボクもその頃は、この辺りをうろつくただのワーウルフだった」

山犬信仰もあってか、この神社では、半ば厄介者扱いのハクロも歓迎されたそうだ。
しかし、ある出来事がきっかけとなり、それが突然終わってしまった。
とてつもなく厄介な災いが、この金山に住みついたのだ。

「お爺さんもね、最後までこの神社に残ってたんだけど…亡くなったのはもう随分前だ」

2人が1人となり、孤独の中でこの場所をずっと守っていた。
そんな時に現れたのが、ラティーファなのだとか。

「私も言わねばなるまい」

「いや、無理して言わなくても…」

「駄目だ、君に、君には聞いて貰わないと駄目なんだ」

「俺に?」

「おやおや、すっかり心を許してるね」

「茶化すな、ハクロ」

ラティーファの表情は真剣そのものだ。
そして彼女の口から、ゆっくりとここに来た経緯を聞かされた。

「単刀直入に言えばだ、管理していた遺跡が無くなったんだ」

「無くなった?」

「別に人間に滅ぼされたとか、そういうのじゃない…ただ無くなったんだ」

今一要領を得ないが、勤め先が、ある日出社してみると倒産していた。
みたいな感じだろうか?

「そして私は探した…遥か東方にある島国ジパング、そこにあると言う伝説の…!」

「で、伝説の…?」

「トットリ砂丘を!」

「……」

「……プッ」

「わ、笑うな!ハクロ!」

「…ハハハハハッ!いや、これは笑うって…だって、だってさ」

ラティーファは、トットリ砂丘に遺跡なりピラミッドなりがあると思っていたそうだ。
そこに行けば、何かがあると胸をときめかせて砂丘に足を踏み入れた時の様子を想像してみる。

「……足で踏むと砂がキュッキュと鳴っていたぞ…」

「それから?」

「…それだけだ」

「うん?」

「それだけだ!何だお前達は2人して!私をバカにして!」

ラティーファが怒ってしまった。
あんまり笑うと悪い、まあ可笑しいけど。
そして、失意の内にジパングを放浪して辿りついたのが、この神社らしい。

「ボクが雇い主だよ」

「クソッ…こんな奴に」

意外と、理由なんてこんなものだ。
そう思うと、怒りも収まってしまう。

「ははッ…もう、俺…バカだなぁ」

全部自分のせいにしておこう、うん、もう…いいか。














「じゃあ、お世話になりました」

そろそろ出発しないと、日が暮れてしまう。
そうなる前に、皆の所に戻らないと…
身支度を整え、神社を後にする。
下着が妙にカピカピになって違和感が凄い。
でも、今更言い出し難いので我慢する。

「荷物持った?ラティーファ?」

妙な信仰に、妙な2人だった。
それもこれでおさらば出来る…

「持ち物が多すぎだハクロ、プロのトラベラーは荷物は最低限しか持たないものだ」

本当に、これっきりのハズだ…

「でも長旅になりそうだしねぇ…異国って初めてなんだよボク」

「なら私が先輩だな、ちゃんと私の言う事を聞くんだぞ」

「やれやれ…アヌビスのツアー旅行だなんて…息が詰まりそうだよ」


「おい」

「何だ?」

「どうしたんだい?」

「何で着いて来るんだ?」

何故か2人が並んで着いて来る。
なんでだよ、アンタら神社あるんじゃないのか。

「いいじゃないか別に、知らない仲じゃないんだし」

「答えになってないよ」

「…嫌か?私達が着いていくのは」

ラティーファが、泣きそうな顔でこっちを見つめる。
こんなの卑怯じゃん、断ったら石投げられそうだし。
…まあ、連れて行っても色々言われると思うけど。

「…好きにすればいいよ、もう…」

「…えっ!?そ、そうか…ならうむ…つ、着いて行かせて貰おう!」

「ご両親に挨拶しないとね〜嫁が2人ですけどって」

「はあ?誰か結婚すんの?」

と言うか家来るのかよこいつら…
どんだけ厚かましいのさ、マジで。
目的は果たせず、人数だけが増える始末。
こりゃあ、落第点だな。
せめて別の道に行った奴らが金でも見つけてくれたらいいんだけどな…




「…感じるか、ハクロ?」

「うん、久しぶりに暴れてるね、彼女」

「そう言えば…彼はここに3人で来たと言ってたな?」

「1人は左の道…あそこは旅籠があるだけなんだけど…」

「じゃあ真ん中は…」

「考えるのは止そう…」

「し、しかし…彼の友人が」

「アヌビスの君にならわかるだろ?行っても無駄な事くらい」

「…竜め」

真ん中の道を進めば、金脈がある。
しかし、そこに居るのはとても厄介な魔物だ。
並みの人間では、対峙する事さえ出来ないだろう。
人を喰らい、この地に災いをもたらすその竜には…
元々、犬神を憑依させて叶えようとしていた願いはそれだ。
1つは、災厄除け、そしてもう1つが、素敵な出会いがありますように、と。
欲張ってはいけない。1つは既に叶ったのだから。

11/01/04 00:11更新 / 白出汁
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■作者メッセージ
狼祀ってる神社が結構近くにありました。
世の神社には変わったものを祀ってる所が一杯あるみたいですね。
兎の神社もあった気がします。

そんな事より巫女さんだよ巫女さん!
俺だって獣娘の巫女さんに会いたいよ!
おみくじ引いたら大吉でした。
これで今年の運を使い果たしたかもしれない…

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