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一話

 気付けば、俺は血の海に沈んだあの集落の真ん中に居た。今はもう惨状は片付けられていて、それらしいのは壊された建物ぐらいしか目に入らない。
……なんで俺、こんなトコに来たんだろ……
 虚ろな気分でそう呟く。見上げた空にはぽっかりと月が浮かんでいた。独房で見上げた時よりも、気の所為か綺麗に見える。
    ああ、なんて綺麗なのだろう……
……! ……なんで…………
    泣いているんだ?

 月が綺麗だった。そんなことで泣くような男じゃなかった筈だ。でも、両手で押さえようとしても、雫が止め処なく落ちてくる。

 もう、いいんだ。何もかも。信じるものなんてなくした。全部から逃げ出してきた。何時かの最強の座から、俺は丸裸にされて、月を見て泣くほどに弱ってしまったのだ。
 それでもいい。只、泣かせてくれ。自分を見守ってくれるのは、自分だけでいい   

 追い詰められた人間が至る思考とは、酷く稚拙なものだと、この時知った。挙句全身から力が抜け、大量の血が染み込んだ地面に膝を付く。
 そして顔を抑えて、思い切り……   噎び泣いた。
 




    どれほど泣いていただろう。終いには涙は枯れ果てて、地面には水溜りが出来ていた。
「うぅ……っくぅ…………っ!」
   
 ふと頭の先に人の気配を感じる。きっと、今の俺の顔は涙でグチャグチャになって、みっともないだろう。だが、もうそんなものはどうでもいい。誰に見られたって構わない。俺は、顔を上げる。
 其処には、月光に照らされて佇む少女の姿があった。
「あっ」
………
 目が合うと、少女は少しだけ困ったような顔になった。潤みを帯びた円らな瞳に俺の弱々しい姿が映り込んでいる。
 顔を泣き腫らした男が自分を見ているのを察してか、少女は両手をおずっと口元に寄せる。
「あ、あのぅ……
 見た目十二歳ほど。赤い髪を後ろに束ねたその少女は、心配するかのように声を掛けてきた。俺はボロに等しい囚人服の、汚れた袖で涙を拭った。
……ごめ……っ。も、もう……行くから」
「あ   っ」
 俺は彼女に迷惑になると思い、空元気を出して立ち上がる。改めて少女を見ると、その背後には爬虫類の尻尾が見えていた。

 リザードマンの女の子。生き残り。
 別に、だからと言って……

 そう思った途端、嫌でも思い出したのがあの少女の死体。最初に目に付いた犠牲者の姿。その無残な有様と紅が、目の前で瞳を潤ませる少女と髪の色にダブってしまう。
 俺は大袈裟に首を振ってから、両手で頬をパチンと叩く。少女はその音にもビクリと身を震わす。俺は、そんな少女から逃げ出したいという気持ちに駆られるままに背を向けた。
「あ、あのっ!?」
   っ!」
 引き止める声。だが俺はそんな少女の声にさえ怯えてしまい、真夜中の森に全力で駆け出す。
 森に堆積する腐葉土を踏み進め、森の中央部くらいで足を止める。

    俺は、何処に行こうとしていたのだろう?

 そもそも、何故あの集落に足が向いたのかも判らない。全てを失った俺にとって、何処にも帰る場所は無い。かといって、奴等の道具にされるのはまっぴらだ。このまま自宅に帰れば、どうなるか見え透いている。
 ……死にたい。でも、それももう遅いのだ。もう俺は神なんて信じちゃ居ない。信じている間に首が離れれば、俺は安心して召される筈だった。だが、イタズラに生きるよりも、死んでしまった方がこの際マシなのかもしれない   

 この地獄のような欠如感は、順調に俺の心を蝕んでいく。この身なりでは町も歩けない。いっそ、森で暮らすか? いや、どうせ魔物の餌になるだけだ。
 ……それでもいい、か。よほど、マシな最後だ。
 何を考えるにしても、“死”がチラつくようになる。だがそんな時、嘗て何かの為に必死になって磨いた勘という奴が疼き始めるのだった。
    ガサッ
 どうやら、付けられているらしい。この感じだと、先程あの集落で出会った少女だろう。彼女も立派な魔物だ。きっと俺を取って食おうという算段なのだろう。
 だが何時まで経っても襲い掛かってこない。ずっと後ろを向けているというのに、だ。背後の木の幹から此方の様子を伺ってばかり。それどころか、殺気すら微塵も感じられない。
 捕食が目的ではない? では、何故俺なんかを付け狙う   
 俺はもううんざりな思考の渦に巻き込まれる。やがて弱った心は悲鳴を挙げて、考えるのを放棄した。

   !」
 ダッ
 俺は走り出した。彼女を撒けば、この疑問は考えなくて済む。
「! あうぅっ!?」
 彼女は間抜けな声を挙げて追いかけてくる。だが未成熟な体では回転数の次元から追い着ける筈が無い。例え相手がリザードマンでも、だ。
 ダッダッダッダッ……   
 


 結構な時間を走ったが、俺は息一つも乱さない。伊達に、教会騎士トップの座に居た訳ではない。毎日の走り込みはこの国を一周するほどだったのだ。こんな森など、何往復できるか。
 ふと振り返ってみてみる。流石に彼女の気配は消え失せていた。耳を澄ましても、木々のざわめきや夜鳥の鳴き声が聞こえるだけ。
……撒いたか」
 俺はそう呟いて、彼女を意識から葬った。そもそもリザードマンには何の関わり合いも無いのだ。忘れてしまおう。
 と思ったが、そうにも行かないモノを聞いてしまったのだった。

   キャーッ!?」
 バサバサバサッ
 こんな深夜にやかましい悲鳴。寝ていた鳥達も慌てて飛び立つ。声の高さからまだ幼い少女の悲鳴だと想像できる。
 ……となると、自然に悲鳴の主が誰かも連想できた。
………
 いい加減にしてくれっ。俺は、もう何の力も無い男なのだ。これ以上、俺に何を求めるというんだ。   神サマは。
 自分の運命にはうんざりだ。俺は悲鳴を無視して足を一歩前に突き出すが、途端に足が言う事を聞かなくなったのに気付く。
 いや、判っている。今一歩踏み出せないのは自分の臆病さからだ。
 確かに俺は神も何も信じることを辞めてしまった。だが、嘗て騎士となったときに胸に抱いた炎は、今でもまだ……
 


 俺が嘗て神という絶対的な存在に心酔したのは、経典の中に描かれる、我々に都合のいい姿を見てからだ。
 だが当時の俺の眼には、力あるものが弱きを助けるという勧善懲悪の姿しか見えなかった。当然その裏に横たわる思惑など知る由もなく、只純粋に神の慈悲に感銘を受けた。だから、日頃何処かで見守ってくださる神様に感謝を伝える為に教会に入ったのだ。
 何か知らないけれど、俺を守ってくれる。何か知らないけれど、皆を守ってくれる。そう思えたからこそ、その動機に何の疑念も抱かなかった。今思えば、俺はそんな強さを求めていたのかもしれない。だからそんなイメージに近い騎士となって、何時の間にか、本音では神よりも人々を助けたいと願うようになったのかもしれない。その情熱が、まだ俺の中で燻ぶっているのだ。
 そうだ。俺が騎士である事と、神を信じる事は関係ないのだ。武器も鎧もないけれど、俺はこれでも“騎士”なのだ。“騎士”たるもの、弱きを助けるのが責務。
 見て見ぬ振りをするな。それは、人として恥ずべき行為だ。
   っ」

 そう決意を固めた足取りは実に軽かった。身を翻し、今しがた走ってきた道を駆け抜ける。
 心なしか、教会で剣を取っていたどの頃よりも、心が躍っている気がした。
 
 

   止めるでするっ。触るなでするっ」
 拒否を示す少女の声が聞こえ、前方に見えたのは小さな姿と風体の悪い三人組の男達。俺は咄嗟に木の陰に隠れた。どうやらこんな真夜中に野盗がうろついていたらしい。
 魔物じゃなくてよかったと一瞬思うが、よく考えたら魔物同士は大丈夫か。
「お嬢ちゃ〜ん……いい子だからさぁ、その背中にしょってる剣をお兄ちゃん達にくれないかなぁ?」
「駄目でするっ! これは、父上と母上の形見なのでする」
 どうやら野盗共は、少女が背に負う剣を目当てらしい。その剣は少女の身の丈よりも長く、どうやら彼女の言う通り両親の形見である事が納得できた。
 少女が嫌がって渡さないでいると、野盗の一人がこんなことを言い始める。
「おいおい、もう無理矢理奪っちゃどうだ? あとはこのガキ売り払えばいいだろ。見た目も良いし、好き者に売れば良い値も付くだろうよ」
 それを聞いて少女は顔を真っ赤にする。
   ! 不埒でするっ。彼方行って下さいでするっっ」
「おう? 不埒とはなんだ。……なんだったら、試してみるか?」
 そう言って、筋肉隆々の男が下卑た笑みを見せながら少女の腕を掴む。少女は状況判断が遅れたのか、時間差で抵抗する。
……!? いやっ、離すでする!!」
「へへへ、リザードマンの癖に剣を抜かねぇんだな」
 そう指摘されると、少女の表情が焦りに駆られる。
「!! ……お、お前等なんか、剣無しでもやれるでするっ」
「ほほう。なら、お手並み拝見といこうか」
 賊にそう促されると、少女は「うぅ……」と弱弱しく唸るだけで、背に負う剣を抜こうとはしない。その様子を見て、三人の野盗が茶化し続ける。
「どした? やってみせろよ!? ほらっ!?」
………
「ギャハハ、なんだ? 剣も抜けねぇ臆病者め! リザードマンの癖に、剣も抜く度胸がねぇのか!?」
 悔しそうに涙を滲ませる少女。俺は手頃な木の枝を手に取った……
「ったく、腰抜けリザードマンめ! 生意気な口を利いた代わりに、ちょっと痛めつけてやらねぇとなぁ?」
「っ! い、いやぁ……っ」
 野盗の一人が粗末な剣をゆっくりと抜き払う。少女は迫る危険に思わず目を瞑った。


 
    スコーンッ
 投げつけた木の枝は快活な音を鳴らして、野盗の剣を弾いた。偉そうな口を叩いた癖に、グリップが甘いところを見ると素人らしい。剣が地面に突き刺さり、木の枝は突っ伏す。木の枝が当たった手の甲を押さえ、野盗達が騒ぎ始める。
「っ! だ、誰だ!」
 狼狽し、周囲を見渡す三人。俺は落ち着いて、揺れ動くその三人の視線の向きを注意深く洞察する。……其処に一瞬の死角を見出すと、俺は素早く木陰から姿を現し、三人の間を突っ切った。
 カチャンッ
 そして落ちた剣を拾い上げ、少女と野郎の間に立つ。野盗と少女の注目が、一心に俺に集まる。
「テ、テメェ……なにもんだ!?」
   貴様等のような外道に、名乗る名があると思うか?」
「はぅ……
 腕で下がるように少女を促す。ところで片手に握ってみて判った、この剣なのだが……本当にバランスが悪い。刃も曲がっているし、重心もおかしい。騎士の時の支給品の中にもこれほど酷い粗悪品はなかったが、今は無いよりはマシと思おう。
「舐めやがって! でやぁぁっ!!」 
パキィンッ
 と思いたかったが、筋肉隆々の野盗の剣撃一発でそれも折れてしまった。
「あーっ!? 俺の剣!」
 どうやら一番心外だったのは元の持ち主のようで、真夜中の森でそう絶叫が響いた。だが此方はいい迷惑である。お蔭で、偶々足元に転がっていた、さっき投げ付けた手頃な木の棒で応戦しなければならなくなったのだから。
「お? なんだぁ? まさか、その木の棒で、俺らと戦りあう気かよ、にいちゃん」
「へっへぇ……そんなモンでビビルと思ってんのかぁ? 素手でも相手してやんぜぇ? ほれほれ」
 剣を折られた男が、そう言って腕を小突き出して威嚇してくる。じわじわとにじり寄って来るこの男に、俺は呆れながら一発……
 スパコォンッ
「ほぎぇっ」
 その顎に木の棒を鋭く突き当てた。腕の間をすり抜けて顎を捉えた一撃に、一度顎の骨が外れたような快活な音が響く。そうして、素手でも相手をすると豪語していた男はどさりと膝から崩れ落ちるのだった。
……っ!)
 背後では少女が息を呑む。
 俺は倒れこんだ男を蹴り、意識が何処か遠い空に行ってしまっているのを確認してから、残りの二人に注げる。
「相手をしてやるのは俺の方だ。勘違いするな」
 すると筋肉は剣を構え、素直に俺から距離をとるのに対し、さして特徴の無い残りの一人が剣を構えて俺に振り翳してくる。
「でやぁぁっ」
 初撃から体重を乗せて斬り掛かって来るか。こういう輩は中途半端に戦争を経験し、中途半端に人を斬っていたから面倒なのだ。
 気迫だけで斬れるのは、その気迫に怯えた素人相手だけ。つまり、只の虚仮脅しに他ならないことを知らないのだ   
 案の定、相手は片手を目一杯斜め上に持ち上げている。どうやら付き合ってやる必要はなさそうだ。
 パァンッ
「おぉっ!?」
    スパァンッ
 俺は素早く相手の内太腿を木の棒で打つ。初撃から全力で来る奴は相手を攻撃する事しか考えていない。予想外の反撃に体勢を崩す事は必至だ。
 そして隙を作ったこの瞬間に、顎を掠めるように一発、棒の先で撫でるように打つ。こうすれば木の枝全体に蓄積する衝撃が全て相手に伝わるのだ。勿論、威力は保障済み。
 然程力を入れていないように見えるだろうが、その一撃でさして特徴の無い男も崩れ落ちる。それを見た筋肉は目をぎらつかせて剣を握りなおす。よくよく見てみれば、奴だけ腹当てと顎当て、それに太腿までカバーできるグリーブを付けている。

 普通、鎧を着けている相手と相性がいいのは打撃系の武器だ。衝撃は鎧を着けていても体にダメージを伝えられる。俺が手に持っているのは確かに刃のない打撃系だが、如何せん打撃系としてもネックの耐久力が心許ない。今折れてもらっては非常に困るので、(掠めるようにして使う)剣としての使い方しか出来ないのだ。
 剣の使い方としての木の棒では少し手間取るかもしれないが、遣り様はあるだろう。
「どうした!? こねぇのか!?」
 相手は俺を警戒している……風に振舞いながら、その実かなり怯えているようだ。挑発を繰り返す。だが俺は反撃の方が得意なので、逆に挑発し返す。
「それはこっちの台詞だ。まさか、そんな立派な獲物振り回しといて、俺の持つこの何の変哲も無い木の棒にビビッてんのか?」
「な、なにぃ……っ!」
 挑発は成功を見る。思惑通り、奴は唸りをあげて斬りかかって来た。だが渾身の一撃という訳ではなさそうだ。
 俺はゆったりとその刃の向きを目で確認してから、木の棒を傾ける。
 
 カシャンッ ガシャッ
「!?」
 あのまま防げば、非力な棒は折れるだろう。同じ徹は踏まない   
 俺は相手が振り下ろしてきた剣に木の棒を軽く当て、受け流すようにして下に降ろす。力を殺された相手の剣は、木の棒に制されるように下にお辞儀している。   まぁ、要するに此れがパリングという奴だ。剣を持つ者なら大抵が教え込まれ、且つ完全習得の難しい技術。今のは木の棒が折れなかったので、上々の出来といったところ。
 しかし、この時ばかりは手に持っているこの只の木の棒が、洗練された名剣に思えたのだった。
「! ほえぇ……っ!?」
 ……何やら背後で凄く間抜けな声がしたが、今は剣闘の最中。折角いなした相手の剣。此れをどうするかの選択に命運が掛かっている。
 無論、違える気は無い。

 ゴベキ   
 最後は折れても構わないという気持ちで、隙だらけな相手の首筋を殴りつける。此処に通う血の筋は、致命傷になる事で有名だ。そして殴る分にはどんな巨漢でも筋肉だるまでも気絶させられる。
 その後者に当て嵌まる此奴は、後ろに大往生すると、ぶくぶくと泡を吹き出すのだった。

……中々頑丈じゃないか、これ」
 思わず賛美した。というのも、あれだけの力で扱ったにも関わらず、手に持った木の棒には皹も入らなかったのを見ての事だ。普通、今みたいな力任せの攻撃なら、騎士に供給されるレベルの剣が折れていてもおかしくないのだが。
   あのぅ」
 俺が自然の神秘(木の棒の頑丈さ)の謎に頭を捻っていると、背後からリザードマンの少女が声を掛けてくる。俺はちらりと少女の方を一瞥したが、関わってはならないと反射的に目を背けた。後は黙々と野盗の武器を奪い、木の棒も片手に持ったまま彼女から離れる。
 「えっ」と少女が驚いたようだが、元々魔物を好き好んで助けた訳ではないのだ。さっさと消えるに限る。
 だがそんな俺の背後を、少女は健気に追い掛けて来るのだった。
「あ、あのっ、あのっ。もし?」 
 また、無視。
「ちょっ、ちょっと待ってでする……
 猶、無視。
「あの、待って……待っ……
 更に、無視。
「あうぅ……っ」
 そして、無視。
……待ってでするぅぅぅっ」

 ……あまり無視し続けるのも好ましくない行いか。声がもう殆ど泣いている。俺は足を止めて振り返った。
 すると、突然振り返った俺に反応できず、少女は「ぽすんっ」と俺の腹に顔を埋めるのだった。
 暫くすると、少女の顔が赤く発熱し始める……
「っ! あうぁ……す、済みませんでするっ!? エリスは、とんでもない恥を曝してしまったでありまするっ!」
………
 なんか、変わった子だな。いや、魔物だし……常識では推し量れない部分もある……か?
……なんだ」
 そう切り返すと、少女は顔を真赤にしながら、もじもじと話し始める。
「あ、あの……あ、貴方様の御名前っ」
 名前を訊いておきたいのか。いや、別に恩を売りたかった訳じゃないが、多分そういう流れなのだろうと勝手に予想していたのだが……
 
「あ、貴方様の御名前、も、若しや……スヴェン様じゃありませぬかっ?」
 スヴェン。それは、確かに俺の名だった。
 何故、俺の名前を知っているんだ、このリザードマンは。俺に魔物の知り合いは居ない。ましてや、俺を知っている連中といえば教会の人間ぐらいだ。しかし、こんな小さな少女、しかもリザードマンが教会の回し者とは考えられない。しかも間抜けな事に、野盗にまで絡まれるとなれば、殆ど白と判断して相違ないだろう。
 俺は一気に張り詰めた緊張を解きほぐし、こう尋ねる。
……そうだが……何故、俺の名を?」
「っ!!」
すると少女は俺の質問を一切意に介さず、目を輝かせ、体中で喜びを表して飛び跳ねるのだった。
「まさか……まさか、こんな所でお会いできるとはっ!」
「?」
 終いには彼女に両手を取られ、ぶんぶんと振り回される。喜びを分けてもらっているらしいが、何を喜んでいるのか全く判らない。お会いできただけで喜ばれる人徳者になった憶えはないのだが。
 ……暫くしてから少女が自ら語り出すのを訊いて、その内どういうことか察しが付いていくのだが。

   こんな所で、“クロウドア戦記”の勇者、“剣帝スヴェン”様にお会いできるとは、誠に光栄でありまするっ。は、初めまして、私はエリスと申します。リザードマンでありまする……! あ、見れば判りまするよね、ご無礼を……っ!」
「ク、クロウドア……? それに……け、剣帝?」
 クロウドア戦記。確かにそんなことを聞いた。だが俺はそんなものに名を連ねる功績を賜ったことは無いし、剣帝だなんて呼ばれたことも無い。教会内で一番の腕前でも、他の国に行けば俺より強い剣士はゴロゴロいる筈だ。
「あ、あの、南のフォンダナ関所での活躍……感動いたしましたっ!! それに、それに、コローニャ山脈で仲間を守る為にドラゴンに立ち向かったその勇姿にも、痺れたでありまするっ!!」
 此処で非常にややこしい話になるのだが、彼女が口にした地名は、この国に実際にある。しかも俺は遠征で度々其処に足を運んでいる。只、フォンダナ関所といっても、フォンダナ村に申し訳程度に設置されている関所で、ちょっと前、施設の壁を直してやった事があるくらい。コローニャ山脈は、山脈ともいえない小さな山で、其処に住むのはコローニャドラゴン……という、小さなトカゲの一種。昔同僚が、どういう経緯なのか、その大群に囲まれて困っていたのを……爆笑して見ていた覚えがある。助けてないし。
「そ、そうなのか……? 言い過ぎでは……っ?」
「何を仰いまするかっ!! その時貴方様は死の淵を彷徨うことになったのでありまするよっ!!?」
 少女はまるで見てきたかのような自信でそう凄む。だが無論、壁を直すくらいで、トカゲに囲まれている同僚に爆笑したくらいで、そんな重症を負う訳が無い。

 此処でピンと来たのが、クロウドア戦記というフレーズだ。どうやら、この娘は何かの本の話をしているらしい。というか、多分それは小説なのだろうと思うのは、彼女が途中からビームサーベルがなんたらかんたら、帝国がなんたらかんたら、とか言い始めたからだ。色々と駄目だろう。
 そう考えると、俺は、不可抗力といえどもかなりややこしい返答をしてしまったことに気付く。彼女の中では細かい事を素っ飛ばして、俺がその小説の主人公だと思い込まれてしまったらしい。少なくとも、その主人公が何故かボロボロの服を着て、こんな夜中に森の中を出歩いているのに、何か思う事は無いのか?
「でも、エリス的には帝国の所業は許せないものがありまする。だって、無抵抗の難民をでするねぇ   
「あの、こんな事を言うのは悪いんだが」
 駄目だこいつ……早く訂正しないと……。そう思って声を掛けると、彼女は突然俺の前に跪くのだった。
「出会って間も無くで、無礼は重々承知でありまするが……   エリスを弟子にして下されっ」
 


 余りに突飛な提案だった。
 だが実際にリザードマンは武芸を発展の為に、自身を倒した相手に求婚と言う形で弟子入りするのはある事らしい。教会騎士の中では聞かないが。
 しかしそれは飽くまで、自分の腕に勝る戦士と出会っての事。助けてもらったからといって弟子入りは、聞いたことも無いし、まだこんな幼さの残る内から腕前の強さ弱さを推し量れる訳がない。
 意図は、直接本人に聞くしかない。そう思った俺は、彼女を見下ろす。
……君達は、自分の力量に勝る者に弟子入りすると聞いた」
「はい。それがリザードマンの掟でありまするから」 
 素直に返事をしてくれるが、その頭は下げられたままだ。俺は再び尋ねる。 
「なら、其れを破ってまで何故俺に弟子入りしようと思ったんだ?」
………
 そう尋ねると、少女は何も語らなかった。

 無理に聞こうとは思わない。寧ろ、何も語らないままでいてくれれば、このまま立ち去る切欠にもなる。只そのタイミングまで手持無沙汰で、なんとなく暗い森の中に耳を澄ませる。
 その時、夜鳥の声の代わりに掠れるような音が聞こえてくるのに気付いた。 
「ひぐ……っ。えぅ   っ」 
 ……それは、目の前の少女の嗚咽だった。



……仇を討ちたいのか?」
 言わなくても判る。その涙は、例え魔物だろうが人間とは変わらぬ、悔しさが滲み出ているものだという事は。
 少女は俺の問いに小さく頷いた。
   もう、私達の村の掟はない……皆、死んじゃったのでありまするよぉ……っ」
 少女は目を擦り上げる。
「エリスは、父上と母上に言われて、地下室に隠れていて助かったでする。でも……エリスは、何も出来なかったのでありまする……父上や母上、皆の悲鳴を聞いて震えているだけだった……っ」
 彼女はそう言って、不意に顔を上げ、切なく涙を地面に落とす。
「リザードマンとしてっ、戦士としてっ。……大好きな人達の為に戦って死ねるのなら、それも本望だったのに……エリスは弱いからって、守られてっ。……エリスは、一人おめおめと生き残ってしまった臆病者なのでありまする。だから、剣帝と呼ばれる貴方様から剣の技を教わり、皆の為の弔い合戦をすると誓ったのでありまするっ」
 そう語る少女の目は、その意思に一点張りだった。だが、俺はそんな夢物語を聞いて感動など出来る余裕は無かったのである。
「そうか。なら最初に言っておく」
「! な、なんでありまするか……? 手加減はしない、とかならご安心下されっ! エリスは頑張りまするか   
「諦めろ」
……はいっ?」
 少女は、くいっと首を傾げた。
「死んでいった者達の為に戦うのは、諦めろと言ったんだ」
 簡単に言っているつもりはない。だが、どう甘く見ても、こんな小娘一人で教会が潰せる訳が無い。元々教会に居た俺は、教会の力量は把握している立場だ。少なくとも、現時点ですでに足元に這い蹲る雑魚三匹くらいは一人で掃除出来ていなければならないのだ。
 辛い事を言っているのは判っている。だが、相手の力量とこの小さな戦士の力量、それを公平に推し量った俺の出した結論は   無駄死に。
 
 だが、どうやらこの子は根性だけは一人前のようで、そう言われても目元に涙を溜めるだけで心を折った訳ではなかった。挙句、大声ではっきりこう言った。
「嫌でありまするっっ」
……なら俺は関わらんよ」
 俺が体を背けて歩き出すと、この子は俺の背中に抱きついてきた。
 ガシッ
「そんなの、意地悪でありまする! どうしろと!? エリスにどうしろとっ!?」
「知るかっ」
 グズるこの娘を振り解こうと体を震わせるが、流石リザードマン、俺の体をがっちりホールドしてくれている。力尽くで引き離そうとこの子の手を掴んで、ギョッとした。この年頃の女の子には不釣り合いに歪な感触があったのだ。柔らかくあるべきな筈の肌は固く、刺々しく肉に突き刺さる。リザードマンなのだから、鱗が覆っている部分があって然るべきだろう。だがそれでも歪すぎるこの感触。
 恐る恐る見てみると、其処には血豆やタコが夥しいほど出来て鱗が剥がれて棘となる、痛々しい手があった。
 いや、今はそんなことより、彼女に離れてもらう事の方が先決だ。
「どっ、どうもせんでいいから、早く離れろっ」
「嫌でありまする! 離したら絶対さっきみたいに大人気なく全力で逃げるでありましょう!?」
「そうですケド!?」
「だから、弟子にしてもらえるまで離さないでありまするっ」
「わ、判った! 弟子にしてやるから離せ!」
………
 取り敢えずこの場は弟子にするとか言っといて、離れた瞬間に全力ダッシュかまして逃げよう。うん、それがいい。
 するとこの娘は振り返る俺の瞳をじっと覗きこんでくる。
 そして、突然涙目になって……
   その目は、『取り敢えずこの場は弟子にするとか言っといて、離れた瞬間に全力ダッシュかまして逃げよう』とか考えている目でありまするぅっ!!」
「鋭いなっ!?」
「感服したなら弟子にして下さいっ」
「無茶っ」
「対価をお望みなら、エリスの純潔を差し上げますから……   責任とって下されっ!」
「弟子の話は!?」
 それでも「弟子にしろ」若しくは「お嫁にしろ」と喚き散らすこの娘。俺の背中に顔を擦り付け、腰に回した腕を強く締め付ける。
「判ったっ。逃げない。だから、少し話をさせてくれ」
 観念してそういうと、少女はさっきと同じように俺の目をじっと見詰め、頷いた。
……その目は、確かでありまするね」
 少女は俺の腰から腕を離す。俺も約束をしたからには彼女に向き合って、こう語る。
……俺は君が言う、“剣帝”じゃない。只の騎士……いや、元騎士だ。いまじゃ、見ての通り、野良犬にも劣る男。そんな俺が、君に教える事なんてないんだよ   ?」
 すると彼女は首を振った。
「いいえ。エリスのような者の目からみても貴方様の卓越したその木の棒の技、只者ではないと判りまするっ!」
「いや、この木の棒が専売特許って訳ではないんだが」
 だが少女は話も聞かずに跪くと、こう訴える。
「是非ともエリスに貴方様のひのきのぼうの技をお教え下されっ!」
「どうしてそうなった」
 すると少女は俺を見上げて、きょとんとする。
「え……っ? 勇者様の初期装備といえば、えとあのそのひのきのぼうなのでは……?」
「ややこしいな。ていうか、そもそもこの木はヒノキじゃないと思うぞ」
 俺は手に持っていた木の棒を眺めてみる。何の変哲も無い木の棒だ。
 いや、どう見ても勇者の初期装備としては無理があるだろ。
「ていうか、話は聞いていたか? 俺は君に教えられる事なんて」
「エリスは、貴方様から教わいたいのでありまする」

 馬鹿のように真直ぐで、曇りのない瞳。さっきまで泣いていた所為で瞼が赤く腫れているが、嘘など全く感じさせなかった。
    俺はそれに、僅かながら恐怖を感じた。
……だ、だから、俺は」
「貴方様は先程、泣いていらっしゃったでありまする」
 そう言われて、ハッとなる。俺が月を見て泣いていたのを、彼女に一部始終見られたのを今更思い出した。
「何があったかは存じ上げませぬが、きっと、何かを失われたんだと思いまする。ですから、同じように何かを失ったエリスなら、貴方様の気持ちが判ると思いまして……
 自身の胸にごつごつした手を当ててそう語る。
 俺は、確かに生き甲斐としていたものを失ったが、彼女ほど取り返しの付かないものではなかった筈だと気付く。そう考えると、死のうとまで思っていた自分が恥ずかしくなってきてしまった。
「でも、それは弟子にするのとは関係ないのでは?」
 その話を聞けば、尚更弟子にする訳にはいかない。彼女には、まだ将来がある。適わない相手と戦う術を、無駄に与える事は   即ち命を奪う事と等しい。
 それなのに彼女はこっちの気も知らず、恥ずかしげもなくこう言って見せるのだ。
「こんな事を申すのもおこがましいのでありまするが、同じ痛みを背負ったお方を師と仰げば、見出せるものがあるかと」
………
 彼女は黙っている俺に不安を感じたのか、改めて俺の目を覗き込んで、訴えかけてくる。
「駄目なのでするかっ? エリスは……エリスは、貴方様に教えを乞いたいのでありまするっ。他の誰でもない、貴方様のお側で、貴方様の剣を見たいのでありまする! それでも駄目なのでするか!?」
 そう語ると、少女は打ちひしがれたように膝を付き、また涙を落とし始める。だが今度の涙の意味は、俺には理解出来てやれなかった。
 やがて、少女は自らぽつりぽつりと話し始める。

「やはり、エリスに才能がないのを見抜かれてのことでありまするか   ?」
「え?」
……エリスはあの集落の中でも落ち毀れでありました。エリスの母上も弱いリザードマンだったようで、皆から冷やかされてばかりでした。剣を持ってみても、槍を持ってみても、斧を持ってみても、杖を持ってみても、エリスは誰にも適わなかったのでありまする」
 才能   人が生まれ出でてから、まるで運命のような顔をして横たわるもの。
 俺は教会内でのトップに立ったが、いまだ世界は広く、自分がそれに恵まれているとは慢心できない状態にある。それなのに、目の前に居るこの未熟な戦士は世界を見渡してもいないというのに、自分の才能をそう決め付けている。そして残酷な事に、その殆んどは事実なのだろう。
 神というのは、矢張りいないのだ。こういう真直ぐで誠実な者に、見合う才能を与えればいいのに。例え相手が魔物でも、正直にそう思えた。
「でもっ、エリスはリザードマンとして、戦士として、今まで一度もめげずに励んできたつもりなのでありまする!! 例え才能が無くても……其れを試す場を求めたいのでありまする!!」
    ザァッ
 そう言うと、彼女は地面に頭を付ける。俺に対して、土下座までしたのだ。
「だから、どうかお頼み申し上げまする! エリスを、貴方様のお側においてくださいっ」

 それをみて、俺は冷ややかな気持ちになった。少なくとも、目の前の弱者に対して哀れみを抱いたのだ。そして目の前に無様な姿を曝す相手に、無理解な愚情を抱いた。
 俺は口を開く。
 


「君が戦士と口にするのは、まだ早い   
………
「自分を気高き戦士だというのなら、そうやって軽々しく頭を下げはしない。……ほら」
 俺はそう言って、手を差し伸べる。彼女は俺の手を見て「え?」と驚くが、不満そうに俯きながら俺の手を取ると、立ち上がる。
 俺は続けて、彼女の背後を指差した。
「戦士を語るなら、まずその背に負う剣を抜け」
 彼女は身の丈程の剣を背に負っている。背負っている以上、それを扱えるものを踏んだのだが、彼女は驚いた顔をして首を振った。
「エ、エリスにこれは、抜けないのでありまする」
「何故?」
「こ、これは……崇高な魂を持つ、本当に強い戦士しか抜けないように作られたものでして……あの、その」
 どうやら彼女の持つ剣は魔剣の類のようだ。強力な効能と引き換えにシビアな条件を課せられている道具。扱えれば、一つ国が作れるものもあるという。
 あの野盗共は、それを知って襲ってきた……というのは、考えすぎか。
「では、対等の武器を使うことにしよう」
……え?」
 俺は先程、野盗二人から奪った剣の片方を腰からとり、彼女に手渡す。片手に持った木の棒は捨て、俺も一本の剣を片手に取る。
 突然剣を渡された彼女は、戸惑っていた。
「え? え?」
「戦士なら、自分の我を通したいときは、決闘で決めるもの。違うか?」
……え? でも、それでは……
「俺は相手の誇りを疎んじる気は無い。“リザードマンの流儀”にも逆らわないつもりだ。何か、不満があるか?」
 俺はそう言いながら、少女に笑い掛ける。彼女は、中々頭はいいらしい。直ぐに嬉しそうに笑顔を返す。
……っ! いいえっ。いざ、尋常に   勝負でありまするっ!」
 嫌気が、差したのだ。
 先程、この娘に抱いた卑しい感情。それは、嘗て小さな山の頂に立った者の、愚かしい驕りに他ならない。それは、騎士でもなんでもない。只のクズ野郎の至る思考だ。
 弱き者を守るという本当の意味を、俺は見失いかけていたのかもしれない。



 決着は直ぐに着いた。
 彼女の剣の構えは、それはそれは教科書どおりだった。だが、何かに欠ける。今まで幾百の相手と戦ってきた俺は、構えを見て相手の至らぬ点を的確に見破れるようになっていたと思っていたが、どうやらそれも驕りだったらしい。表現は難しいのだが……要するに、何処に打ち込んでもすんなり倒せそうなのだ。
(隙だらけ、と言っていいのか?)
 それも違う気がする。少なくとも彼女は戦闘の知識があり、構えにもそれが伺える。構え自体は隙のない、合理的なもの……の筈なのに、なんだ、この頼りなさは。
 どっち道、このまま俺が打ち込んでしまえば彼女に攻撃が当たる……気がする。刃のある剣で攻撃すればそれは只事では済まない。
 ということで、相手の攻撃を待つのだが、彼女は短絡的に攻撃してきてくれた。ちゃんと相手の出方を伺おうとしたのだろうか?
「てやぁっ!」
 カキ〜ン
   あうっ!?」
 逆に凄いな。剣を当てて防御しただけで、剣が弾き飛んで行ってしまった。そもそもグリップが甘いのか? いや、俺を抱き締めたあの力を持ってすれば、そんなことにはならない筈なんだが。
 本当にこの子が何故弱いのか、俺には判らなかった。剣を弾き飛ばされて、顔を真っ赤にして悔しそうに項垂れるというこの様子を察するに、冗談でもないようだ。
「むむぅ……っ。戦士の命ともあろう剣を弾き飛ばされるなど、エリスはとんだ恥を曝してしまったのでありまするぅ……!!」
………
 すると、途端に悔しがっていた少女は(逆に)ぽかんとしている俺に向き直って、不安そうな顔を見せるのだった。
「しかし、本当によろしいのでありまするか?」
「ん?」
「エ、エリスは……本当に、貴方様の弟子になっていいのでするか?」
 嬉しいような、不安なような。そんな表情を忙しくする彼女の姿が可愛らしいと、そう思えてしまった俺に、其れを拒否する言葉など一切浮かんで来る筈はなかった。
「何を遠慮しているんだ。逆に迷惑に思われていないか心配だ。君達は掟に従わなければならないといえども、俺みたいな男に弟子入りしなければならないなんて、な」
   っっ! い、いえっ。誠に、恐縮で、あ、ああありまする……っ!」

 後から思い出すと、あの台詞は我が人生の中で一番の恥に思えてくる。気付けば夜も明けていて、黎明が東の空から覗いているのだった。
「さて、と。確か、君の名前は……
「はい。エリスでするっ」
「エリス   。なんだ、戦いの女神の名前じゃないか」
「はいでするっ。 母上が、立派な戦士になれということで!」
 と言っても、争いの女神だけど。   という台詞が喉まで出掛かった。エリスという名前の裏はともかく、少女の嬉しそうな笑顔は正に女神と言ってもいいかもしれない。俺はすっかり体中の緊張も解き解れ、大きく空に伸びをする。
「ふぅ。一先ず、何処かで休もうか」
 そう提案すると、何故かこの子は顔を真っ赤にしてそわそわし始めるのだった。
「っ!! さ、早速でありまするか……っ。ま、待って下され、まだ心の準備が……っ」
「実は今まで一睡もしてなくてな。かなり眠いんだ……ふぁ〜あ」
「がくっ」
 俺が特大の欠伸を一つ放ると、彼女は疲弊したように膝を落とした。
 

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【メモ-人物】
“エリス=ルードヴィッヒ=オーギュストコロン”-1

リザードマンの12歳。語尾に「〜る」をつけるのが癖。赤い髪を後ろに束ねているのが特徴。
おちこぼれであったが集落一の努力家であった為、仲間からも認められていた。(スヴェンとは真逆)
教会の手が及ぶまでは、リザードマンの集落で平和に暮らしていた。

健気で一途な性格。それでいて頑固。正義感だけならスヴェンに勝る。また、自分の命を投げ出す覚悟をこの年で携えており、精神的には立派なリザードマンといえる。後、意外とませている。

冗談かと思われるくらい弱いのだが、何故か防御力と魔力レジストだけは異常値を示している。(本人は頑丈に育ったとしか思っていない。)防御力チート。

10/03/13 16:14 Vutur

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