連載小説
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第三章 二人の絵画に恋模様
 卒業制作の品評会での絵画部門は荒れに荒れていた。
 評価する教師陣が頭を抱えて悩みまくっているのだ。
 いつもならリャナンシーのアーリィの作品を最優秀にして、後は気ままに決めるなどという不真面目な事が出来たのだが、今回ばかりはそうもいかない。
 どうしてか。
 それはアーリィの作品が、アルフェリドが最近作り出した技法で描かれているからだった。
 それならば違う作品を最優秀にしてしまえばいいと思うかもしれないが、それもそうはいかないのだ。
 アーリィがただの人間の学生ならばそうしただろうが、アーリィは学生ながらに芸術に対して人間以上の目を持つリャナンシーであり、そのリャナンシーがこの新しい技法を認めて、更には使用しているというのが重要だったのだ。
 極端な話をすれば、人間の芸術界ではリャナンシーが一人でも白といえば、人間たちが黒だと思っているのも白になる世界。
 となるとこの技法は未熟だからとか、生まれたばかりだからといって減点評価は出来ない。
 すると今度は更に問題が出てくる。
 いままでの技法とこの技法のどちらに採点を多く振るのか。
 再三再四の話し合いの末、今回は新しい技法を絵画の新たな地平を開拓したとして評価しようと決定した。
 さてこれでアーリィの作品が最優秀だなと胸を撫で下ろそうとしたが、更に問題が発生したのだった。
 アーリィとアルフェリドの作品がまったく同じ着想と構図であり、両方とも例の新しい技法で描かれ、しかもどちらも優劣の付けられないほどの名画だったのだ。
 二人の絵は共に冬の情景を切り取ったもの。
 アーリィの絵は、極寒の冬山を思わせる暗い夜空に吹雪く森の景色。
 地面を覆う雪が自分の重みで圧縮されて分厚い氷へと変化した様子を、白い絵の具を何層も塗り固めることで表現している。
 そして木に吹雪が叩きつけられて出来た樹氷は、わざと下地に確りとした木を描き、その上に氷を被せることで今までに無い質感と寒々しさを見る人に抱かせた。
 絵の手前側に描かれている川に張られた氷には、所々白い雪で覆われていても、その隙間から川の底にある暗い色が此方を引き込もうとしているように覗き、その場に足を踏み入れた瞬間に川に落ちてしまうのではないかと、見た人に不気味な想像を掻き立たせる。
 タイトルは『永久凍土の絶望』。
 確かにこの絵を眺めていると、絵から冷気が染み出して来て見ている人の足元へ忍び寄り、足先から足全体へと段々と広がり、ふくらはぎ太もも股間と冷たさが侵食していく。
 やがて骨盤に到達した氷精は一瞬にして背骨を駆け上ると、顎と歯の根を狂わせた後で脳髄を犯し、体中をその人間の意志とは無関係にガクガクと震わさせた。
 この絵の前に数分といれば凍え死んでしまうような、まさにブリザードが吹き荒ぶ冬山がこの場に顕現したかのような錯覚を起こさせる。
 こんな場所に人間が放置されれば、余りの寒さに抗う気力さえ失いその場に膝を追ってしまうことだろう。
 まさに絶望という名前に相応しい絵画だった。
 これほどの名画なのだ、これを優秀にすればいいと思いアルフェリドの絵を見ると、その考えを覆させられることになる。
 アルフェリドの絵はアーリィと同じ雪山の情景。
 しかしこの絵は、アーリィとはまったく違った印象を見るものに抱かせる。
 空には透き通る水のような青を薄く使い、清々しい冬の朝を表現していた。
 木の描画方法はアーリィと一緒だったが、絶妙な筆使いで日の光で溶けかかった雪が枝を撓らせた様子を表し、それが今にも白い絵の具を重ねてふわふわとさせた雪で覆われた地面に落ちそうな印象を与える。
 手前側の川面には氷は張っているものの、そこには太陽の照り返しがあり、そのお陰で川の底に魚の影が泳ぐ情景も―ーどうやって描いたか教師ですら判別が困難だが――薄っすらと見て取れた。
 風は吹いていないのかそれとも凪ぐらいなのか、風花がちらちらと絵に浮かび凡庸になりかける絵の印象を引き締めていた。
 タイトルは『いまだ遠き春を想い』。
 確かにこの絵を眺めていると、冬の寒さというよりは春の暖かさを感じる。
 それは溶け掛かった枝に乗った雪のせいなのか、それとも川面の下を泳ぐ魚の影なのか、それとも木々に冬の終わりを感じて芽吹こうとしている生命力を絵を通して感じるからなのか。
 そこから抱くのは、タイトルのように遠くに春があるのではなく、もう一度季節の変わり目特有の吹雪があれば直ぐ春になるような光景。
 そうこの絵はいまだ肌寒く手を擦りつけながらも、もう直ぐ訪れる春を待ちわびて雪山を見ている、そんな風景だった。
 アーリィの絵で心身共に冷え切った身体に、アルフェリドの絵は不思議なほどに安心感と温かみをもたらす。
 そしてアルフェリドの絵を見た後にアーリィの絵を見ると、不思議な事にこれは春前に訪れる季節の変わり目の吹雪なのだと印象ががらりと変わる。
 そうなればなったで確かにアーリィの絵は絶望の絵だった。
 しかしその絶望はこの場に居る人間にではなく、迫り来る春に対して追いやられる冬が抱くものになっている。
 たしかに一枚ずつでも確かに名画だ。それぞれ絶賛されてしかるべき絵だった。
 だが別々に描かれたはずの絵なのに、一対の絵のような不思議な印象を見るものに与える二枚の絵。
 それゆえにこれを見た教師は全員悩んでしまうのだ。この二つの絵に優劣を付けられないと。
 そしてこれが純粋に二枚一組の絵だったらどんなに良かっただろうと頭を抱えてしまうのだ。
 悩みに悩んだ挙句に教師陣は消極的ながらも、芸術学校始まって以来始めて二作品同時に最優秀作品という称号を与えた。
 そして卒業制作作品発表の一般開放の際には、この二つを隣並べて自分たちの判断は間違っていないだろうと世間に問おうとしていた。






 翌日が一般開放の日となった夜の学校内に、妖精姿のままのアーリィがいた。
 そしてそのアーリィの視線の先には、並んで置かれたアーリィのとアルフェリドの絵画。
 自分の描いた絵を確り見た後に、アーリィはアルフェリドの絵を見つめる。
 本当に素晴しいとアーリィは感じていた。それこそ惚れ直すほどに。
 同じモチーフに同じ構図、しかし与える印象は待ったく真逆。
 温かみと冷たさ。未来への希望と、先の見えない絶望。
 そんな対照的な二つの作品にはもう一点同じで違う部分があった。
 それはこの絵に誰の何の感情を込めたのか。
 両方とも作者自身の感情を込めてはいたが、絵が表すほどに二人の間の感情はかけ離れていたのだ。
 アルフェリドのは将来を楽しみに待ち、アーリィのは未来など見たくは無いと諦めている。
「本当にすごい。流石にあたしが惚れた……」
 そこまで口に出すと、アーリィは目に浮かんだ涙を拭った。
 もうこの学校には用は無い。むしろこの人間の世界にも用は無くなった。
 アルフェリドという愛しい男が居ても、その愛が得られないのならば、この世は全て地獄にしかならない。
 妖精の国へ逃げ帰っても用があるとは思えないし、アルフェリドの居ない世界は寂しいだろうが、アルフェリドの愛を得られるかもしれないと未練を残し、この世界に縋り付くよりは幾分良いだろうと思えた。
「本当にこれで最後……」
 アーリィの手がアルフェリドの絵画の味を記憶に刻み込もうと伸びて、やがてその決心が鈍り手が引っ込められる。
 この絵がアーリィの為に描かれたものではなくても、これは愛するアルフェリドの描いた作品である、手を触れて味わえば幸福感と満腹感を味わえる。
 しかしその一瞬後には、この絵に含まれたアルフェリドの感情を本当の意味で理解することになる。
 もしその中にアーリィの存在が欠片も無かったらと考えると、これ以上絶望したくないと思うと、アーリィはこの作品に手を触れることが出来ないのだ。
 三度四度と試しても、あと数センチというところで決心が鈍る。
 こんなのは自分らしくないと叱咤しても、絵にガラスが張られているかのように、その数センチを越えることは出来ない。
 そんなことを繰り返していると、アーリィの後方でカツリと靴音がした。
 はっとアーリィが振り返ると、そこにはアーリィがその人を想いに想い、恋人になって欲しいと願いに願うアルフェリドがいた。
「!!」
 咄嗟にその場から逃げようとしたが、アーリィの手をアルフェリドは咄嗟に握り締め、そしてがしりと握って放そうとはしない。
「は、放して!」
 がっちりと握られたアルフェリドの手を、蹴ってでも外そうとするアーリィ。
 しかしアルフェリドはそんな彼女の行為をとがめようとはせず、むしろ慈しみさえ籠もった眼差しでアーリィを見つめていた。
「アーリィ、これは俺の我侭だから断ってくれて良いけど。俺とこの場で話さない?」
「あ、あたしは!」
「話す事は無い?本当に?」
 念を押すようにそう言われると、アーリィは押し黙ってしまう。
 だってそうだろう、アルフェリドに対するアーリィの恋心は、千の言葉や万の絵画で表されても費えるようなものではないのだから。
 それを了承と取ったのか、アルフェリドはその場で胡坐をかくと、その膝の上にアーリィを座らせた。
 アーリィが逃げないように腰を、アルフェリドが両手でそっと持った状態で。
「ほら見てごらんこの二つの絵」
 アルフェリドが促し、二人で二人が描いた絵を見る。
「俺はね、この絵を見たときすごく嬉しかったんだ」
「あたしの絵より上手くかけたから、でしょ」
「違うよ。俺の絵とアーリィの絵が二つで一つのように――それこそ分かれていたピースがキッチリと填まったパズルのように、二つが合わさって別の絵の様になった事にだよ」
 そうアルフェリドが噛んで含んだような言葉を聞いて、アーリィは始めて二つの絵を別々の絵ではなく一つの絵としてみた。
 するとどうだろうか、アーリィの絵はアルフェリドの絵の一部に変わったかのように、アーリィの絵から絶望感が無くなり、むしろ光り輝く未来を吹雪が意地悪をして見えなくさせているような印象が生まれていた。
「だからなんだってのよ……」
 しかし絶望感に打ちひしがれていたアーリィの目はまだ曇っているのか、その二つの絵の持つ意味が分かっていない。
「アーリィが絶望したのは、俺が君のことが嫌いになったと思ったからでしょ。というのを踏まえて考えて欲しい。俺の絵とアーリィの絶望の絵が合わさると、まったく別の絵になると言うことはどういうこと?」
「そんなこと判らないよ」
「……やっぱり自分だけだと、自分の気持ちに気が付かないものなんだね」 
 アーリィの腰を持ったままアルフェリドは立ち上がると、アーリィをアルフェリドの絵の直前へと運んだ。
「ちょ、ちょっと」
「ほら、俺の絵に触れてみれば分かるよ」
 片手はアーリィを逃がさないように胴を掴んだまま、アルフェリドはもう一方の手でアーリィの手を掴んでアルフェリドの絵へ近づけていく。
「心の準備が!」
「問答は無用。貴女がリャナンシーならば触れれば判ります」
 程なくしてぺたりとアーリィの手がアルフェリドの絵に触れられる。
 その瞬間、アルフェリドの絵に含まれていたリャナンシーが好むモノがアーリィの身体を駆け巡る。
「ふぅううぅうんっ!!」
 愛しい人の描いた絵画という極上の料理に、アルフェリドに餓えに餓えていたアーリィの身体は如実に反応する。
 幸福感であり満腹感であり性的快感とですら言える何かに、アーリィの身体は翻弄されて支配される。
 やがてアーリィの身体がその刺激に満足したのか、多幸感は薄まり段々とアーリィの脳にアルフェリドの絵に含まれていた感情が流れ込んでくる。
 それはアルフェリドがこの学校生活で感じた苦痛であったり、絵画の腕を上昇させるための努力であったり、アルフェリドに関わってくれた人たちに対する感謝で会ったりした。
 しかしその全てを吟味しても、この絵の中にアーリィの姿は欠片も無い。
(やっぱりアルフェリドは自分の事を何とも思っていないのだ)
 絶望しかけるアーリィだったが、ふと覆われた雪の中に隠されるように存在するものに気が付いた。
 その雪をアーリィの小さな手で掻き分けてみると、そこにはまだ小さい春を待つ芽があった。
 この芽はなんだろうと手に触れてみて、アーリィは信じられないと驚愕する。
「俺の絵の中に何があった?」
「え、だって、えぇ!?」
 その芽が内包していたアルフェリドの感情がなんだか判り、アーリィは混乱する。そんなはずはないと。
「どうやら言葉に出さないと判らないようだね」
「だって、そんなわけ、そんな素振り……」
「アーリィ、俺は君のことが好きなんだ。君が俺の絵を見て俺のことを好きになってくれたように、俺は君と直接出会う前に、君の絵を通して君の事を好きになっていたんだよ」
「え、ええぇえ!!」
 アルフェリドの絵に触れて気が付いていたとはいえ、突然の愛の告白にアーリィは狼狽える。
「ほら絵を見て。俺のアーリィへの愛が含まれている絵だからこそ、アーリィの永久凍土のような絶望を溶かしつくして希望に変えてるし、この吹雪も冬から春へ向かう変わり目の合図に変わったんだよ」
「え、じゃあ、本当に」
「言葉で嘘をつけたとしても、絵は嘘はつけないよ。特に俺の技法だとね」
 そう茶化すかのように目を見ながら告げたアルフェリドに、アーリィは顔を熟れた野苺のように真っ赤にさせると、咄嗟に横を向いてアルフェリドから視線を外した。
「ふ、ふんっだ!そんな言葉で騙そうって言ったってそうはいかないんだからね」
「じゃあどうしたら信じてくれる?」
 アーリィは考えをまとめるための時間が欲しくて、口からでまかせで言ったのに、その言葉を受けたアルフェリドは、言葉でアーリィを包囲して逃がすつもりは無いらしい。
「……き、キスしてくれたら、信じてあげる」
「そんなことなら喜んで」 
 ゆっくりとアルフェリドの顔が近づくにつれて、アーリィの瞳は段々と閉じられていき、唇と唇が触れる瞬間にはそのキスの感触を未来永劫覚えていようというかのように、アーリィは確り目を閉じて唇に神経を集中させていた。
 そして二人の間に起きた鳥が枝にそっと降り立つようなキスは、二人の体格差からアルフェリドの唇の端とアーリィの唇全体というアンフェアなキスになった。
「ちょっとサイズが合わなかったかな」
 唇を離して顔を真っ赤にしたアルフェリドは、アーリィに誤魔化すかのようにそう告げる。
「そ、それじゃあ、これでどう」
 アルフェリドの目の前で変身魔法で人間の少女に化けたアーリィは、今度は自分からアルフェリドにキスをする。
 どうやれば恋人のキスになるのか判らない、乙女のキスをアルフェリドの唇へ。
 アルフェリドも経験は先ほどと今回のを合わせて二回しかないが、アーリィが求めてくれた事に嬉しくて、細いアーリィの肢体を壊さないように気遣う抱擁で迎えると、二人はそのまましばらく長く唇を合わせるだけのキスをした。
 そのアルフェリドの唇の熱さを感じたアーリィの心を占領していた絶望感は、悲鳴をあげてアーリィの心から逃げ出した。
 そしてアルフェリドの心の中の愛の新芽はアーリィの唇の温かさに、春を迎えた植物のように急速に成長していく。
 優しい抱擁と子供のようなキスを終えると、二人の心の中の情景は共に雪が溶けて生物の息吹を感じる春風の吹く山の森へと変わっていた。
「これで判ってくれた?」
「うん、判ったよ。でもまだ足りないの」
 もじもじと内股を擦り付けて何かを我慢している様子のアーリィに、アルフェリドはアーリィが何を欲しているのかを察すると、アーリィの膝裏と首元にに手を回すとそのまま抱き上げる。
「きゃぁ!行き成りなにするの!?」
「俺も男だからね、密かにこういうのに憧れてたんだ」
 騎士が救い出した姫を抱きかかえるような格好のまま、アルフェリドは自分の部屋へと向かい始めた。





 アルフェリドの部屋に入った二人は、どちらととも無くお互いを求め始める。
「あむッ……ちゅっ、ちゅっ、はぁむっ」
 リードするのは妖精とはいえ、魔王の魔力で魔物化した事で性に対して貪欲である人間変化したアーリィ。
 彼女の遺伝子に刻まれた魔物が要求する通りに、アルフェリドの唇を啄ばみ舐め回し蹂躙していく。
 しかしアルフェリドも持ち前の学習力を発揮し、アーリィにさせるがままにはさせない。
 アーリィが唇を啄ばむのならばその唇を舐め返し、唇を嘗め回そうとするのならばその舌を唇で啄ばんで動きを止めつつ、唇を前後左右に動かしてアーリィの舌を愛撫する。
「ちゅっ、本当に、ちゅぅ、初めてなの?」
「当たり前、ちゅっちゅ、だろう。アーリィが、はむ、初めての相手だよ」
 キスを途切れさせることもなく、二人は掛け合いを始める。 
「その割には、んちゅぅ、慣れている気がする」
「それはお互い、ちゅるぅ、様じゃないかな」
 その掛け合いとキスに段々と熱が帯びてくる。二人の顔も劣情に真っ赤に染まってきている。
「ねえもっと深く」
「ああ、もっと深く」
 唇だけだったキスが舌を絡ませ合うものへと進む。
 お互いの唇をお互いの唇で塞ぎあい、愛の言の葉をお互いの舌へこすり付けるかのように舌を絡ませ、口内の全ての味を記憶しようとするようにお互いの口内へ舌を侵入させると、内壁を舌で舐めあげていく。
 そのまま二人はアルフェリドの絵の具の匂いが染み付いたベッドに倒れ込むが、相変わらずにお互いの口の中では、ナメクジがダンスのしているかのようにぐちゅぐちゅと音を立て、蛇の交尾のように長々と舌が絡みつき合う。
 そしてアルフェリドがアーリィをベッドに縫い付けると、ゆっくりと口を離した。
「はぁ、はぁ……アーリィ」
 アルフェリドの目はアーリィの放つ微弱な誘惑の魔法にどっぷりとかかったのか、理性を若干は残しながらも雄の本性が浮かんでいた。
「はぁ、待って、初めては、妖精の姿でしたいの」
 そのまま服を脱がしにかかろうとするアルフェリドを静止して、アーリィは押さえつける腕からするりと抜けると、キスをする為だけに掛けていた人間化の魔法を解き妖精の姿へ戻る。
「でもその姿だと」
「大丈夫だよ。それに夢だったんだ……この妖精の姿のままで、愛しい人のを受け入れるの」
 アルフェリドは自分の心配は余計なことだったと理解すると、妖精姿のアーリィを着せ替え人形にそうするように服を止めていた箇所を外していき、程なくアーリィを全裸にしてしまう。
 次にアーリィの胴体を両手で優しく掴むと、露になった小さい乳首を親指の腹で触れるか触れないかの強さで撫で回す。
「アーリィの小さい所に入れるんだったら、愛撫はたっぷりしないとね」
「ひゃぁん、愛撫なんてしなくてもぅ」
「だめだよ性行為はお互いが気持ち良くならないといけないんだから」
 きゅんきゅんと可愛らしい悲鳴を上げるアーリィの乳首を更に苛めていると、アーリィの太ももからとろりと透明な粘性のある液体が流れていくのが見えた。
「どうせだからこっちも撫でてあげる」
 右手を離して人差し指を立てると、アーリィの無毛の割れ目に当てて人差し指全体を使って擦り上げていく。
「あぁっぁあああん!」
 擦り上げるたびにクリトリスと陰唇に走る始めての快感に、アーリィは思わず身もだえして嬌声を上げる。
 そのまま遠慮無しに左手は乳首を責め、右手はアーリィの下半身を責める。
 一分、二分、三分と続けるとアーリィの身体が小刻みに震え始める。
 やり過ぎて何かアーリィに異常が起きたのかと手を止めると、アーリィはアルフェリドの止められた指を掴んで動かして快楽を得ようとする。
「や、やめないでぇ。もうちょっとなのぅ」
 トロトロに蕩けたアーリィの声に、アーリィが小刻みに震え始めたのは良い事なのだとアルフェリドは理解すると、右手で胴体を掴み直して左右の親指でアーリィの胸を苛めるのを再開する。
「お股、おまたをこすってぇ。もうちょっとなの、もうすぐなの」
 アーリィが待てないと自分で太ももを擦り付けあうと、にちゃくちゃと淫靡な音が奏でられる。
「アーリィ足開いて。俺に見せつけるように」
「こうかなぁああああぁあ!」
 左右に開かれたアーリィの股にアルフェリドはむしゃぶりつき、割れ目を舌で舐め上げる。
 するとアーリィはその指とはまた違ったざらざらとした感触がクリトリスを舐め上げると、ビクビクと身体を振るわせる。
 アーリィが人生で初めて経験する絶頂。
 頭が真っ白になりふわふわとした感覚に身体全体が包まれながらも、アルフェリドが舐め続ける股からは暴力的なまでの快感が脳髄に叩き込まれ、アーリィを現実世界へ引き戻す。
 そしてまたすぐに絶頂し、頭が真っ白になり、やがて快楽に引き戻され、絶頂、真っ白、引き戻される。
「もういい、もういいのッ!これ以上されると壊れちゃう、あたし壊れちゃうぅうぅ!!」
 胸を愛撫するアルフェリドの指に爪を立てて抗議しながらも、もう一度絶頂するアーリィ。
 性的行為の興奮という熱に浮かされていたアルフェリドだったが、アーリィの叫び声に慌てて手指と舌の動きを止める。
「大丈夫かアーリィ!?」
「もう、あるふぇりどは乱暴なんらから」
 体中に力が入らないのだろう、四肢はビクビクと痙攣して動かせず、緩んだ涙腺から涙を流し、口の端からは涎が零れ、大開きになった股からは愛液がとめどなく流れ出ていた。
「つぎはぁ、あたしがあるふぇりどを気もちよくしてあげるぅ〜♪」
 のろのろとした動きでアーリィはアルフェリドの手の中から脱出し、アルフェリドの股間へ着陸すると、もぞもぞとアルフェリドの分身を外に出そうとする。
 アルフェリドはアーリィがしたいことをさせようと、もうすでにギンギンに勃起した股間のものを取り出してアーリィへ差し出す。
「えへへ〜。あるふぇりどのおちんぽ〜♪」
 すりすりと雁首の辺りに頬を擦りつけながら、愛情一杯に勃起した陰茎を抱きしめるアーリィ。
 軽い性的快感がアルフェリドに走るが、まだまだ射精には余裕はある。
 しかしアーリィを愛撫していたときから高まった性感は、アルフェリドの鈴口からガマン汁をトロトロと流させてしまう。
「あ、出てきたぁ♪ ちゅうぅ、ちゅぱちゅる……うんっく、あはぁ、美味しい……」
 もっと出そうとするかのように、雁首に腕を回して軽く締め上げて、鈴口に口を付けたまま裏筋を身体全体で泡姫のように愛撫していく。
 つるつるとしたアーリィの肌と、小さいながらも柔らかい胸で敏感な裏筋をなぞり上げられると、止め処が無いように鈴口からガマン汁が出て来てしまう。
(気持ちいいけど、このままじゃぁアーリィにされるがままだなぁ……)
 さっきまでの自分の行いを棚上げしたアルフェリドは、何か無いかと首を廻らすと、乾いた絵筆が手の届く所にあった。
 これは使えるかもしれないと絵筆を手に取り、アーリィを裏筋から反対側――つまりはアルフェリドの手前側にアーリィの背中が来るように体位を入れ替えさせた。
「むぅ!……ちゅぱ、うんくっ、ちゅぱっ」
 愛撫を邪魔されて怒ったのかアーリィは抗議のうめき声を上げたが、鈴口の液体を飲み込むと何事も無かったかのように愛撫を再開する。
 直接アーリィの妖精ちっぱい擦りの光景をアーリィの背中側から見る事になると、これはこれで裏筋を責められるのとは違った感触と視覚効果で気持ちがよかった。
 しかしアルフェリドには別の思惑があった。
 乾いた絵筆をアーリィの背中に滑らせていく。
「むうぅうぅ!」
「いたたたた、噛まないで噛まないで。あと作品描いているから余り激しく動かないで」
 アルフェリドの行為が感に触ったアーリィに亀頭部分を歯型が残る程度には強くかまれて悲鳴を上げたアルフェリド。
 しかしアルフェリドの作品という言葉にちょっと興味がわいたのか、それ以上はアルフェリドを痛めつける事もアーリィは無く愛撫を再開した。
「ジパングには『漢字』って言って、一文字に意味がある字があるんだって」
 そう呟いたアルフェリドはアーリィの背中に、乾いた絵筆で漢字を描いていく。
「こう描いて、こう描いて……」
 一画ずつ丁寧に描いていくアルフェリドの絵筆の運びに、リャナンシーの身体が愛する人が自分自身に作品を描いているのだと反応する。
「こう描くと、これで『私』っていう字になるんだよ」
「はぁあぁん……」
 そしてアルフェリドが書き上げて意味のある字になると、アーリィの身体が愛しい人の作品に触れて満腹感と幸福感が溢れてきて思わず喘いでしまう。
「どうやら気に入ってもれえたようだね。じゃあ次へ」
 このままではアルフェリドへの愛撫にならないと感じたアーリィは、鈴口に溜まる液体を味わうのを止め、アルフェリドが背中に文字を描くのに対抗しようと魔物の本能に任せて陰茎を弄り回し始める。
「じゅるる、にゅるにゅる、ぎゅ〜、しゅこしゅこしゅこ」
「なんか急に激しく、なってきたね……」
 アーリィの急な変化にビクリと陰茎が反応し、睾丸の中身が移動を始めるのを感じたアルフェリドは、下腹に力を入れて射精するのを堪えると、アーリィの背中に文字を描いていくのを再開する。
「『私』は、『君』を……」
「こしゅこしゅこしゅ――!」
 アルフェリドは丁寧にアーリィの背中に文字を描き、アーリィは激しく身体全体でアルフェリドを攻め立てる。
「『愛』してる……っとこれで完成ッ!」
「あはあぁあんっ!」
 アーリィの背中に愛の一文字を書き終えると、アルフェリドは我慢し切れなくなり、アーリィへ向けて白濁した精液を吐き出してしまった。
 一方のアーリィも背中に描かれた恋文を作品と受け取り、その文字から発信された言いようのない愛しさに身体を震わせる。
 そしてアーリィにびしゃびしゃとかかった精液は、アーリィの身体全てをどろりとした粘液で覆ってしまった。
「はぁはぁ――はぁああう、なにこれぇすごぉい、アルフェリドの精液に含まれている喜びが、あたしのなかに、入ってくるぅ――!!」
 どうやら愛の文字を完成させた瞬間に射精した事で、精液もアルフェリドの作品の一部だとリャナンシーの身体は誤認したようだ。
 ということはいまのアーリィは、アルフェリドの精液に全身を犯されているような快楽を得続けてている事だろう。
「駄目ぇえ、これ気持ち良すぎる、壊れる、狂っちゃう、アルフェリド、挿入れてアルフェリドぉ。おまんこにアルフェリドのおちんぽ挿入してぇ!」
「え、ええ!?い、入れるの?」
「良いから、はやくぅぅぅうう、広がったまま閉じなくなっちゃっても良いから、だからぁああんっ!!」
 余りのアーリィのよがり狂い様に、慌ててアルフェリドは勃起し続けていた陰茎をアーリィのスジまんこに押し当てると、一気に突き入れた。
「ぐぶぅう!」
 無理やり小さな穴を陰茎が掻き分けて入り、子宮越しに内臓を殴りつけたために、アーリィの口から肺の空気が押し出されて出た鈍い悲鳴が漏れる。
「お゛おぉおぉぁぁ……」
 アルフェリドの陰茎を膣内に貰えたお陰なのか、アーリィは大口を開けて呻きながらしゃわしゃわと小便を漏らて絶頂し、瞳ががぐるりと上に向けられると気絶した。
 アーリィの要望通りとはいえ、しかしながらいま見知らぬ人が傍目から二人を見るとどう見えるのだろうか。
 全身をアルフェリドの精液でべとべとにされて、気絶しているアーリィの膣はアルフェリドの陰茎に限界以上に広げられ、中から押し上げられたお腹は醜い位にぼっこりと盛り上がり、二人の繋がっている場所からは膣液と処女喪失の鮮血が交じり合ったものがだらだらと垂れているこの状況。
 明らかに、鬼畜野郎が小さな妖精を自分本位に惨たらしく犯しているようにしか見えない。
 この光景に眼をそらすように、アルフェリドは湿らせた布でアーリィの身体を侵している精液を拭き取り、声をかけてアーリィを起こし始めた。
「アーリィ……大丈夫かいアーリィ」
 左手は胴体に添えたまま、右手指でアーリィを軽く触る程度の力で小突いて起こそうとする。
「だ、だいじょうぶ……」
 どうやらアルフェリドが身体を拭いているときには大分覚醒していたのだろう、二・三度軽く触れるだけで眼を覚ました。
「ほ、本当に?なんかお腹が在りえないような感じになってるんだけど」
「処女を喪失したっていうのに痛くも無いよ。その代わりにアルフェリドと繋がっていると、アルフェリドの絵に触れたときのように、アルフェリドの心があたしに流れ込んでくる様な気がする」
 アーリィがいま感じている感覚は、優れた芸術作品に触れたときにリャナンシーが感じるのと同じものだった。
「ああ、なんだかわかっちゃった気がする。どうしてあたし達リャナンシーが芸術作品を食べても満足せずに、愛しい人と繋がりたがるのか」
 この時代のとある思想には、雌雄の分かれている生物には、ベターハーフと呼ばれる運命の伴侶を求める本能があるとするものがあり、そして求め合う伴侶が合わさると一つの完全な固体として完成し、それは全ての生物より気高く美しい存在になるというものだった。
 その考え方を絵画の世界で例えるならば、アルフェリドとアーリィの描いたあの冬山の絵がまさにそれになるだろう。
 一つ一つでも完成しているように見えてもそれではまだ未完成で、二つ合わさった時に初めて真価を発揮したあの絵画。
 そしてアーリィがその思想を引き合いに出して考え付いた、リャナンシーが伴侶と繋がる理由。
 それは自分と愛しい人が一つになった時だけに現れる完璧な生命体という、神すらも作り出す事の出来なかった究極の芸術作品を味わうためなのだと。
「ねえアルフェリド、これだとあたしが動けないから、動かしてくれない?」
「本当に大丈夫なんだよね」
「すごく心配性なんだねアルフェリドは。大丈夫だよ、一緒に気持ちよくなろう」
 そこまでアーリィに言われて漸く決心がついたのか、アルフェリドはアーリィの胴体を両手で掴むと、大きなストロークで前後に揺すり始めた。
 ずるずると内臓を掻き出す様に抜けていく陰茎に時折走る、アーリィの骨盤のどこかに当たったゴリゴリとした感触。
 限界まで引き抜かれた陰茎が再度膣奥へと進んでいくと、めりめりと骨盤の関節が悲鳴を上げて陰茎を受け入れ、最奥まで突き入れるとお腹が破れそうなほどに膨らんでしまう。
「あたしは、気持ちいいよ。だから、そんなに気にしないで、あたしの、膣内で気持ちよくなってよ」
 顔に出てしまっていたのか、それとも繋がっている所からリャナンシーの力で読み取ったのか、アーリィはアルフェリドにそうお願いした。
「……判ったよ」
 苦しさのためなのかそれとも気持ちよさのためなのかは判断がつかないが、途切れ途切れに言葉に出すアーリィの言葉を信じて、アルフェリドは極力気にしないように努めて、振幅の大きさはそのままに間隔を短くして、アルフェリドは遠慮なくアーリィの小さく狭いながらも射精させようと絡みついてくる膣内を蹂躙する。
「そうだよ、アルフェリドが気持ちよくなれば、あたしも気持ちよくなるんだよ。だからもっと遠慮しないで」
「はぁはぁ、はぁはぁ……」 
 アーリィがオナホールであるかのように両手でつかみ、ガンガンと腰を打ち付けて陰茎から腰にかけて走る快感に身を任せるアルフェリド。
 そして打ち付けるたびに下腹に精液が溜まり、腰が重くなってくる。
「はぁはぁ、もうそろそろ……」
「でそうだね、いいよそのまま膣内に頂戴。あたしのちっちゃな子宮を、ぱんぱんにして」
 溜め池が決壊するかのように、アルフェリドの下腹に溜まっていた大量の精液が尿道を土石流のように走っていく。
「出るぅ!!」
「!!!」
 雄の本能に従いアーリィの最奥に陰茎を突き立てたアルフェリドは、その場で溜まった精液を全て吐き出していく。
 子宮に感じる子種の熱さに身を焼かれ、子種に内包されている快楽を読み取って身を焦がして、アーリィは声にならない悲鳴を上げた。
 どくどくと波打つように吐き出された精液は、やがてアーリィの子宮を風船のように膨らませ、それでも入りきらなかった精液は、アーリィとアルフェリドの僅かな隙間から外へと零れ落ちていった。
「はぁはぁ……なんかアーリィを道具のように使うのは、俺には慣れそうも無いよ」
 ぐったりとベッドの上に座り込んだアルフェリドは、陰茎をアーリィの膣内に入れたままそう感想を告げた。
「今日は全てが初めてだったから、お互いに勝手が判らなかっただけ。次からは一緒に気持ちよくなる方法探そう」
「そうだね、そうしよう」
 アーリィを掴んで自分の一物を引き抜くと、アーリィの痛々しいまでに開きっぱなしになった膣から白い液体がぼとぼとと落ちてくるのを見て、やはりこういうのは慣れそうもないと再確認したアルフェリド。
「抜いちゃうの?」
「嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど……」
 どこか心細そうなアーリィの態度に、アルフェリドはその不安を払拭するかのように胸に掻き抱いた。
「これじゃあ満足できない?」
「……しょうがないからこれで満足してあげる♪」
 アルフェリドの胸に顔を埋めると、ぐりぐりと自分の匂いを擦りつけるアーリィ。
 そして二人はベッドに身体を預けると、性行為の疲労感からお互いどちらとも無く寝入ってしまった。
 決して放しはしないというようにぴったりと合わさった二人は、二人で一つのような印象を見ているものに与えた。





 翌日、部屋にホブゴブリンのマールが尋ねてきた。
 どうしたのだろうと首を捻るアルフェリド。
「あのですね、アルちゃんはもうそろそろ卒業だから言うか躊躇ったんですけど……女の子を連れ込むのはまあいいとしてですね、出来ればもうちょっと声を落として欲しいのですよ。他の学生さんが欲求不満になっちゃいますから」
 そう真っ赤な顔で照れながら注意してきたマールに、申し訳なくなり頭を下げるアルフェリド。
「アルフェリド……もっとぉ子宮えぐってぇ〜――むにゃむにゃ」
 そしてアーリィはベッドの上ですやすやと眠りながら、アルフェリドとの新しい生活を夢見ていた。




11/08/14 21:19更新 / 中文字
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■作者メッセージ


この物語を書きはじめ、苦悩する二人に苦労させられる作者。

そもそもこの作品。
事の起こりは『ネタが被っても気にしないでSS書こうぜ!』というもの。
しかし主人公を芸術家に、ヒロインをリャナンシーにしたことが運の尽き。
構想ではシリアルな話だったはずが、あれよあれよとシリアスに。
甘エロだけだったはずが、苦悩と挫折と恋愛へ。

なるほどお前ら(アーリィとアルフェリド)は作者のことなど知る由も無いな。
ふっ。

もうどうにでもなれー(AA略)

という感じで出来たのが今回のSSでした。

うーんどうしてこうなった。
短編はアイデア勝負でどうにかなるし、
長編は設定後付で割かし楽できるけど、
中篇作品は物語の整合性やらがめんどいから嫌いなのに……

まあいいかそんなこと。

というわけで似たもの同士の恋愛模様はいかがだったでしょうか。
楽しく読んでいただけたのなら幸いです。

そしていまさらですがこの主人公はとある絵の天才を思い浮かべながら作ったのです。

印象派の画家、作品名にひまわりがある
となれば思い浮かぶのは一人ぐらいしかいないわけなので、ばればれだと思いますがw

それではまた次の作品でお会いしましょう。


というのは嘘で、実はもうちょっとだけ続くよ♪


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