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第十二話「流星堕つる日」



凄まじい速度で動くブレード、その動きたるや鷹ロイドの比ではない。


縁のすぐ前に立つと、素早く剣を振り上げた。


だが必殺であったはずの動きは、突如として中断させられる。



「ブレードっ!」


その動きを見切った緯度が素早く動き、ブレードが剣を振り上げた瞬間に、拳打を喰らわせたからだ。



「ぬおっ!」



慌てて後方に下がりながら、ブレードは緯度の動きに心底驚嘆していた。



先日明日奈を攫った際にはまったく動きについてこれなかったにも関わらず、今は見事に見切り、カウンターを決めて見せた。


鷹ロイドとの戦いが、緯度を成長させていたのだ。



「ほほう、なかなかの実力ですね・・・」


にやりと笑うブレード、どうやらまだやるつもりのようだ。



「・・・逃げてください射裟御先輩、狙いは貴女です」


ブレードの目的は物語を途中で強引に終わらせること、今この場で縁を滅ぼし、サキュバス的エロゲの物語を終わらせるつもりだ。



「馬鹿な、後輩を捨てて逃げることなぞ出来ないっ!」



左右の瞳に決意をみなぎらせ、縁は正面からブレードを睨みつけた。


「貴様が誰かは知らんが、この首、ただでやるつもりはないっ!」



竹刀袋から木刀を引き抜くと、縁は鋭い一撃をブレードに加える。


「むっ!」


不意をついた一撃にブレードは反応しきれず、まともに刺突を受けた。



「ほう、さすがは射裟御縁、なかなかの実力、と申し上げておきましょうか」



慇懃無礼な態度でブレードは一礼してみせると、今度は右手にエネルギーを集めた。


「さあ、受けてみなさい」


瞬間放たれる凄まじい衝撃波、だが緯度は素早く身体を捻り、縁を庇うとともに倒れこむようにして衝撃波をかわした。


「ふむ、かわしましたか・・・」


しかし縁は倒れこむ際に頭をぶつけてしまったようで、気を失っていた。


「ブレードっ!」


縁を近くの民家の屋根の下に寝かせ、鋭い瞳で睨みつける緯度、ブレードは鎧の奥で嘲笑を滲ませる。



「愚かですね、所詮彼女らはエンターテイマーの駒にすぎません、にも関わらず、何故貴方はそこまでムキになるのですか?」



「たとえそうだとしても、彼女らはそれぞれが、一人の人間として悩み、考え、生きている




こうなれば最早一つの世界に生きる人間となんら変わらないっ!」




緯度の凄まじい迫力に、知らずブレードは後ろへと後退していた。


「貴様、貴様は一体っ!?」



「通りすがりの一読者だっ!、覚えておけっ!」



瞬間、緯度は召喚された武器を掴み、ブレードに挑みかかった。







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ブレードに対抗する形で引き抜いたのは双刀、菊水と放下である。


これを交互にふるい、緯度はブレードの攻撃に対処していく。



ブレードが攻撃を仕掛ければ素早く防御しつつ、もう片方の刀で攻撃に転じ、ブレードが守りに入れば連続攻撃を仕掛けて隙を狙う。



『・・・(うむ、間違いなく、強くなっておるな・・・)』



いつの間にか緯度の肩から降り、眠り込んでいる縁の膝に乗りながら、妹喜はかつての弟子の成長に舌を巻いた。



緯度の剣術の実力は恐らく縁とやっと良い勝負をするくらいのもの、仮に拳銃を使わなければ三本中二本敗れても仕方ないだろう。


だが今緯度は、縁を遥かに上回る実力を持つブレードと互角以上に渡り合い、あまつさえ圧倒しつつある。


何故これほどの、限界を越えた力を出すことが出来るのか。


『・・・(ふむ、明日奈らと、出会ったため、か?)』


緯度はこの世界に来て明日奈や佐久耶、理梨など様々な人物に出会った。



彼女らと出会い、物語を完結させねばならないという意思が、決意が、緯度の実力を、限界以上にまで高め、力を引き出しているのだ。



「ちいっ!、やってくれますねっ!」



素早く空中に飛び上がり、ブレードは衝撃波を放つ。


「甘いっ!」



だが、最早その程度の技は緯度には通用しなかった。


とんっ、と地面を蹴り攻撃をかわすと、そのまま横に飛びながら放下をブレードめがけて投擲した。


「なにっ!」


慌ててこれを回避するブレードだが、緯度は着地点を瞬時に蹴り、上空へと斬りかかる。



「喰らえっ!」


下段から菊水を切り上げる緯度、しかしかすかにずれ、結局ブレードの胸甲を微かに切り裂くにとどめた。


「外したか・・・」


着地すると、地面に突き刺さっていた放下を腰に戻し、菊水を構え直す。



「まさか貴方がこれほどの使い手とは、思いませんでしたよ?」


反対側に着地すると、ブレードは手にしていた剣を構え直す。


「流星のブレード・・・」



「さあ、決着をつけましょう、私か貴方か、どちらかがここで滅びるのです」



瞬間、ふわりと空中に舞い上がると、ブレードは背中から巨大な翼を展開した。


「さあ、ここからが本番ですよ?」


純白のその翼は、まるで白鳥か天使を思わせるような美しい翼をしている。

だが、あまりに禍々しい鎧をブレードは身につけているため、とてもではないが全体像から天使をイメージすることは出来ない。



「遊びは終わりです」



空中から凄まじい速度で急降下するブレード、その速度たるや先ほどの比ではない。


「くっ!」


菊水を立てて防御の型をとるが、あまりにブレードの落下速度が早かったために、緯度は大きく跳ね飛ばされた。



「・・・やってくれるな」


背中をぶつけたものの、戦えないというほどのダメージではない、なんとか緯度は菊水を構え直す。



「ほう、見切りましたか、いやいや、大したものですね」



空中に浮かび上がり、またしてもブレードは剣を構え、翼を展開する。



「ですが貴方は今この場で私に滅ぼされるのです、それが貴方の運命です」



「運命?、馬鹿な、私の運命はお前に決められるものではない」


今度は菊水を腰に納め、放下を引き抜くと、正面に構え直す。



「それを今から、証明してみせよう」



「・・・ふっ、なるほど、さすがは『最後に来る者』、あの方の見る目は間違い無かった、ということでしょうか?」



何やら呟くとブレードは右手から凄まじい光を放ち、周りを光に包み込んだ。


「うおっ!」


とんでもない光である、あまりの眩しさに眼を開けていることすら出来ない。



「これで終わりですっ!」


瞬間、視界が光に支配されて見えなくなりながらも、緯度はブレードがこちらに近づく気配を感じた。



「・・・くっ!」


来る、そう感じたその刹那。


「やらせないっ!」


何者かが現れ、ブレードを弾き飛ばした。


「なっ、貴女はっ!」


視力が戻り、前が見えるようになると、緯度も自分の前に立ち、ブレードを攻撃した人物の姿が見えた。


「あ、明日奈っ!」


「うん、助けに来たよ、緯度くん」


にこりと微笑む明日奈、だがその姿はサキュバスらしい姿に変わり、後ろからも尻尾と羽が生えている。



『明日奈、ではなく今はアスタロットと呼ぶべきじゃろうな』



ヒソヒソと緯度に耳打ちする妹喜、とにかくなんとかピンチは乗り切れたようだ。



「緯度くん、あいつが緯度くんをいじめるなら私は・・・」


珍しく敵意をブレードに向けるアスタロット、よほど頭にきているようだ。


『緯度、お主の力をアスタロットに、絆が深まり、物語の結末が近い今ならば出来るはずじゃ』



何を言っているのかさっぱりわからない、力をアスタロットに、だと?



『チャンスは一度きり異界の力を受ければ、一時的にアスタロットは強化されるはずじゃ』



「強化、こうか?」


緯度はこちらに背中を向けているアスタロットの後ろにつくと、両手で肩甲骨の辺りを突いてみた。


「ちょっとくすぐったいぞ?」



「え?、あっ!!、んんんんあああああ・・・」

瞬間、アスタロットの翼が真っ白に染まり、その頭の角は一回り大きくなっていた、さらには右手に魔界銀の剣が出現している。



『うむ、サキュバスではなく、どうやらリリムに姿を変えたようじゃな』


「・・・行くぞ、明日奈っ!」


緯度は放下に光り輝く力を纏わせる。


「これで終わりだ」


「うんっ!」


互いに大きく飛び上がると、それぞれ対面するようにブレードを挟みこんだ。



「これが我等の全力(マキシマムドライブ)だっ!」


そのまま高速で動き、中心にいるブレードを二人で斬り伏せた。



「・・・ふっ!、これで流星のブレードもお終いか・・・」


落下しながら鎧がバラバラと砕けていき、一瞬だけ緯度は鎧の奥にある生身のブレードと目があった。


「ブレード・・・」


だがそれも一瞬のこと、その全容を見ることはなく、そのままブレードは消滅した。


「・・・ふう」


着地すると、アスタロットは元のサキュバスの姿に戻った。



「・・・ありがとう、明日奈」


もし明日奈が来なければ、緯度はブレードに負けていただろう。


「ううん、お礼を言うのは私の方だよ?、緯度くん」


ふふっ、と笑うとアスタロットは明日奈の姿に変身した。


「ずっと私やみんなを守ってくれてたんだよね?、本当にありがとう、君のことは、ずっと忘れないよ?」


「・・・明日奈」



傾いた夕日が、微かに悲しげな緯度の表情を照らしていた。








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部屋にあったクローゼットを抜けると、そこは最初に来た図書館である。


「ここに来るのも久しぶりだな」


ゆっくりと部屋にある巨大なタペストリーに向かって歩いていく。



「うむ、また、新たな世界がお主を待っておるよ」


久しぶりに魔物娘の姿に戻った妹喜は、タペストリーの近くにある細長い紐に手をかけ、一息に引っ張った。


瞬間、上から新しいタペストリーが降りてきて、空気が変わった。


「これは・・・」


タペストリーには漆黒の太陽と、それを取り囲むように四色の玉があり、後ろには微かに荒れ果てた荒野が見える。



「・・・ここは、魔界自然紀行の世界か」

16/12/11 21:48更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

なんとか流星のブレードを打ち倒し、サキュバス的エロゲの物語を守りきった緯度たちですが、次はサプリエート・スピリカと四精霊が待つ、魔界自然紀行の世界へと飛ぶようであります。

次回からは新章突入、頑張らせていただきます。


ではでは今回はこの辺りで。

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