連載小説
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第十一話「結末への道」



「・・・おのれ、よもやこのようなことになるとは・・・」



「師団長、すでに物語は大詰め、残るヒロインの魔物化を止めねばこの物語は完結してしまいます」



「わかっている、しかしブレード、すでに我々は失敗を繰り返している、計画を実行するため、なんとしても物語を打ち切れ」



「ならば残るヒロイン、あの二人を消し去ってご覧にいれましょう」



「ふんっ、だがなブレード、貴様はもう後がない、此度で最後、失敗すれば死をもって償え」



「はっ!」



「士魂め、今に見ておれよ・・・」














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緯度と縁が通学路で出会い、言葉を交わした時よりも、時間はやや過去へと遡る。


その日も慧は早起きして、ジャージ姿で朝駆けをしていた。



「わふう・・・、今日も朝の空気は気持ち良いな〜」


まだ早い時間であるためか街には人の姿は少なく、特にぶつかりそうになることもなく慧は道を走り抜けていく。



「わふふふ・・・、まだまだ行けそう、よーし・・・」



ここは一つ、緯度の家まで行って驚かせてやろう、そう考え、慧は進行方向へ向けて、走り出した。








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緯度のいる夜麻理家のすぐ前、どうやら彼はまだ眠っているようで、部屋のカーテンはしっかりと締めきられ、中を窺い知ることは出来ない。




「わふぅ・・・、緯度ってば、まだ寝てるのか〜」


朝の冷たい空気を吸うことをしないとはもったいない、そう慧は結論付け、彼を起こそうと前に出ようとした。




「っ!」


ふと、何者かの視線を感じて、慧は名状しがたい不思議な寒気に襲われた。



「わふ?、わふ?」


キョロキョロと周りを見渡すが誰もいない、きのせいだったろうか?



気を取り直して、また一歩家に向かって足を進めてみる。



「っ!」



まただ、何者かがこちらをじっと、まるで獲物を狙う肉食動物か何かのように、息を潜めて観察している。



「だ、誰かいるのかぁっ!?」


明らかにその視線は、緯度の家に近づくたびに強くなっている、慧は家の窓を見上げるが、どの窓も固く閉ざされ、カーテンで締めきられている。



「・・・むむう」



わからない、下手人が、いったいどこからこちらを眺めているのか。


緯度の家の前に立った瞬間、何かが腑に落ちたような気がした。


なんだろうか、答えに辿り着いた、そんな不思議な感覚を慧は覚えたのだ。



そんな慣れない不思議な感覚に陥ってしまった所為だろうか?、俊敏な彼女にしては珍しく、異変の探知に一瞬だけ遅れた。



「うふふふふ・・・」



「わふっ!?」



緯度の家の隣から、何者かが高速で飛び出し、そのまま慧の肩を掴み、空へと舞い戻った。




「わ、わふっ!?、な、なんだお前はっ!、は、離せっ!?」


慌てまくる慧だが、下手人は何も言わず、そのまま彼女を緯度の家の隣家に連れ込んだ。




「うふふふ、そんなに怯えなくても良いよ〜」


素早く猿轡を噛まされてしまったため、慧は口が動かない。



「むー、むーっ!」



目の前にいるのは、露出の多い姿の少女、素肌の大半は外気に晒され、その美しい姿に拍車をかけている。


だが、特筆すべきはそこではない、後ろからは悪魔のような翼が生え、さらには黒く細長い尻尾まで伸びている。



とどめとばかりに頭からは二本の禍々しい角が出ており、明らかに人間ではないことが見てとれた。



「な、ゆめみゃしゃん?」



驚くことに、その淫魔の姿は慧のクラスメイトである夢宮明日奈によく似ていた、まるで彼女が変身したかのような・・・。



「うーん、さすがに勘が鋭いね、けどこの姿のときはアスタロットって呼んで欲しいかな?」



明日奈、否アスタロットはそう呟くと、妖しく、微笑んだ。


「戌井さん、ううん、慧ちゃんは、どんなサキュバスになるのかな?」


「むー、むーっ!」



ゆらりと近寄るアスタロット、何となく嫌な予感がして、慧の背中を冷たいものが走った。



「そんなに怯えなくても良いよ、すぐ、済むから・・・」




ふるふるとアスタロットは尻尾が揺らしながら、慧のジャージのチャックを下ろし、引き締まった素肌を晒す。



「むーっ!、むーっ!」



「さあ、お楽しみはこれからだよ?」







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「・・・結局こなかったな」


放課後まで、ずっと空席のままだったいくつかの机を眺めながら、緯度は嘆息した。


明日奈、佐久耶、慧、普段ならば学校をサボらないような三人が揃って休んでいる、どうなっているのか。



「・・・なあ、妹喜」


教室にはもう残る生徒はなく、現在は夕日染まる教室で、一人緯度は窓の外に視線を向けていた。



「この世界での物語が終われば、我々はどうなるのだろうか?」


これはこの世界に来た頃から気になっていたことだが、おそらく役目が終われば緯度も妹喜も用済みになるだろう。


そうなれば、この世界から立ち去ることになるだろうが、その場合物語はどうなるのか。


『お主の考えていることは何となくわかっておる』



妹喜はそう呟くと、にやりと笑った。




『明日奈たちに情が移ったのじゃろう?、何度も助けたのじゃからなあ・・・』


その通りだ、彼女らは異界の人間、いずれ別れが来ることはわかっていたことだが。


『恐らくじゃが、物語が正しい姿になれば、明日奈たちの記憶に『夜麻里緯度』の記憶は残らぬ、本来の主人公の、本来の記憶しか残らぬじゃろう』



そうだ、物語の中に本来緯度の居場所はない、ゆえに物語が正しい姿となれば、異邦人である緯度の記憶は残らない。


本来の物語の中には、名前のない主人公しかいないのだから。









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夕闇染まる道、一人理梨は歩いていた。



「・・・お兄」


ついつい考えてしまうことは彼女の兄、すなわち緯度のこと。



最近急に積極的になった幼馴染に、大人しそうなクラスメイト、足の速い陸上のエース、さらには上級生の剣道少女。



たくさんの少女に囲まれ、今や理梨のクラスでも噂になるような有様である。


昔はよく兄や明日奈と一緒になって遊んだものだが、今はもう、そうすることは出来ない。



「・・・はあ、せっかく、また一緒に暮らせるようになったのになあ」




仲良くしたくとも、距離感が掴めず、かと言って別に嫌いなわけではない、しかしうかうかしていれば、誰かに兄を・・・。



「うんうん、理梨ちゃんの気持ちはよくわかる、よ?」



不意に聞き覚えのある声がした。



「明日奈、さん?」


振り向こうとして、理梨は後ろから何やら甘い匂いが漂ってきたことに気付いた。



まるで麻酔か何かのように、その匂いは極めて迅速に理梨の集中力を削ぎ、速やかな眠気を与えた。



「お兄、ちゃん・・・」



眠気に抵抗できず、理梨が地面に倒れこむその刹那、誰かが優しく抱きとめた。

朧げな視界の中で一瞬だけ見えたのは、妖しく微笑む、夢宮明日奈の姿だった。








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「夜麻里」


校舎から出ようとして、緯度は後ろから声をかけられた。


「射裟御先輩、今稽古終わりですか?」


声をかけてきたのは射裟御縁だった、竹刀が入った細長い袋を背中に背負っている。


「ああ、君も帰りのようだな、そこまで一緒に歩かないか?」


「はい、ご一緒します」






二人並んで道を歩いているが、どうにも気まずい。


というのも先日縁には佐久耶関連の戦いの一部始終を見られている、なんとなく話し辛いのだ。


「・・・今日佐久耶休んでいたな?」



どうやら縁も中々休まない佐久耶が休んでいることに違和感を感じていたようだ。



「はい、体調不良でしょうか?」



つとめて自然に返してみるが、縁は軽く首を振るった。


「さあ、それはわからないが、ただあの娘はあれで体調管理はしっかりやっているはずだからな、体調を崩すのは珍しい・・・」


しばらく二人の間に会話がなくなり、静寂が支配する。


「射裟御先輩、私は・・・」


先に口を開いたのは緯度だ、やはり話しておくべきだと考えたのだ。


とにかくまずは自分のことを話そうとして、縁のほうを向き、そこで緯度は気付いた。


すさまじく鋭い瞳で、縁は道の一点を睨みつけているのだ。



「夜麻里、恐らくつけられている、しかもかなりの手練だ」


竹刀に手を伸ばしながら縁は呟いた。



「出てこい、こそこそとつけまわすなど、悪趣味が過ぎるぞ」



「くっくっく、さすがは射裟御縁、否、ベリト、と言うべきですか?」




現れたのは青い鎧の戦士、明日奈をさらい高原を操っていた人物、破壊師団の流星のブレードだ。



「何者だ?」


その姿に驚きながらも、そう縁はブレードに訪ねた。



「これは失礼、私は流星のブレード、貴女を・・・」



瞬間、ブレードの姿が掻き消えた。




「・・・八つ裂きにする者です」
16/12/09 20:14更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんにちは〜、水無月であります。

今回は一挙に二人ほどサキュバスに堕ち、おまけに最後のヒロインの前にブレードが現れるお話でありました。

ながながと引っ張って参りましたが、サキュバス的エロゲの世界は次回で終わらせていただけると思います。

ではでは今回はこのあたりで、

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