(68)マンドラゴラ
マンドラゴラ。人に似た根を持ち、引き抜くと同時に辺りに死をもたらす叫びをあげる植物。
大昔の書物にはそう記されているが、それは大昔の話だ。
今となっては、頭に葉っぱをはやした少女が土の中に埋まっており、引き抜けば生涯その世話と相手をすることになる。
結婚を人生の墓場だと考えるのならば、ある意味死をもたらすという部分は変わっていない。
だが、俺はあえて自ら墓場に飛び込むつもりでいた。
俺の目の前の地面に生えているのは、マンドラゴラだ。
俺が生まれるからこの家で育てている、二十九年物だ。
親父は、もしも自分に息子が生まれたとき、魔術師という家系故、結婚相手に恵まれない場合を見越してマンドラゴラを植えたらしい。
もっとも、俺が生まれてから親父の心配は杞憂だったと胸をなで下ろすほど、俺は女や魔物から好かれた。
だが、結婚するほど深い仲に至ったことはなかった。
なぜなら、俺にはこのマンドラゴラがいたからだ。
いつだったか、俺がまだ片手で数えられるほどの歳の頃、親父は庭に生えた草を指しながら、『これが、おまえのお嫁さんだ』と言った。
おそらくその言葉が俺の心の奥底に刷り込まれ、ほかの魔物との付き合いを遠ざけたのだろう。俺は将来のお嫁さんのため、地面から葉っぱを覗かせるマンドラゴラに水をやり、雑草をむしり、時には話しかけたりした。
そうするうち、俺にはこのマンドラゴラの存在がかけがえのない物のように思えてきた。
もっとも、俺からの一方的な片思いでしかない。
だが、彼女の想いを確かめる価値はあるはずだ。
「よし･･･」
俺は決心を固めると、マンドラゴラの前でかがみ込み、青々と繁る葉っぱに手をかけた。そして、力を込めて全身で引っ張った。
両足に力を込め、指を引き締め、上体を反らしながら引く。
しかし、マンドラゴラは抜けなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ･･･」
俺は全身の力を抜き、地面に尻餅をつきながら呼吸を整えた。
やはり、彼女は俺のことを拒んでいるのだろうか？それとも、職場の上司の魔物が最近言い寄ってくるのが面倒くさくて、いい加減身を固めようと言う動機では不純だというのだろうか。
「いや･･･まだ手はある･･･！」
俺は傍らに置いていたシャベルを手に取ると、葉っぱの近辺の土を掘り始めた。
いつだったか、親父が俺に教えてくれたことがある。大昔はマンドラゴラの収穫の際、犬に引き抜かせる方法が広く使われていたが、実はもう一つ安全に収穫することができる方法があるのだ。
それは、マンドラゴラを周りの土ごと掘り起こし、優しく水をかけて土を洗い流すという物である。
『おまえもそういう人間になれ』と親父は俺に教えてくれたが、重要なのは土を掘り起こすというものだ。
植物の根は細かな毛に覆われており、それが土と土の間に入り込んで根を張るのだ。二十九年物のマンドラゴラは、それほど深々と土を保持しているのだろう。
シャベルで土をどかすうち、金属の先端が柔らかな物にふれた。マンドラゴラの肌だ。土にまみれているため、肌色こそよくわからないが、どうやら肩の辺りらしい。
俺は彼女の肌に傷が入っていないのを確認すると、掘る方向を変えて穴を広げていった。
だが、程なくして再び柔らかな物に当たる。今度は乳房だろうか？
シャベルを起き、指先で土をよけながら俺はマンドラゴラの輪郭をとらえようとした。
聞くところによるとマンドラゴラは少女の姿をしていると言うが、徐々に明らかになっていく彼女の輪郭は、少女と言うには少々大きすぎた。
マンドラゴラは地中にいる間、土の養分を吸収して体を大きくすると言う。どうやら、二十九年という歳月は長すぎたらしい。
「･･･よ･･･ほ･･･」
地面に膝を付き、穴の中に手を突っ込んで彼女の肌を覆う土を取り除いていく。汗が額を流れ、穴の中に滴り落ち、鬱陶しさに額を拭えば土が付く。
そして、彼女の乳房の大きさをおおむね把握したところで、俺はシャベルをとるため身を起こそうとした。しかし、俺の肘がマンドラゴラの顔を覆っていた土に触れ、崩してしまう。
「あ･･･」
土がはがれ落ち、目を閉じる落ち着いた面立ちの女の顔が露わになった瞬間、俺の脳裏を走馬燈が駆け抜けた。
正確に言うと掘り起こしているだけなのだが、この場合どうなのだろう？
水で優しく洗い流していないため、掘り起こした扱いになるかもしれない。
やはり別の古文書にあったとおり、魔女の小便をかけて動きを封じ、その魔女の破瓜の血を滴らせて安全に収穫できる状況にすべきだったが、どうしようもない。そもそも知り合いの魔女は全員非処女の上既婚だ。いったいどうやってそんなもの準備すればいいんだ。
後悔と理不尽な要求への怒りが寄せては返すのを感じながら、俺はマンドラゴラがゆっくりと目を開くのを見ていた。
そして、彼女の青い瞳が俺の両目を捉えた。
「おはようございます、あなた様･･･」
だが、マンドラゴラの土まみれの唇から紡がれたのは、叫びではなく穏やかな挨拶の言葉だった。
「ふぅ･･･これですっきりしましたわ」
庭の一角に設けられた井戸で、水をかけてマンドラゴラの土を洗い流すと、彼女はほっとしたように口を開いた。
泥と土に覆われていた淡い褐色の肌が露わになり、彼女の体つきが日の元に晒されていた。
乳房は先ほど確認したとおりかなり大きく、尻や太腿もムッチリと肉が付いており、俺好みである。
そして何より、落ち着いた物腰や、やや面長の顔立ちは、俺がおぼろげに脳裏に思い浮かべていた理想の女のそれだった。
「さてさて、改めまして挨拶申し上げます。あなた様のお父様より植えられ、育てられて参りました、マンドラゴラでございます」
彼女は、植物の根のようにねじれたつま先を持つ足を折り畳み、ジパング式の正座をすると、俺に向かって頭を下げた。
「いや、ちょっと待ってくれ･･･お前がマンドラゴラだっていうのは十分わかっているが･･･ええと、その言葉遣いとかは･･･？」
「礼儀作法に付きましては、あなた様のお父様より教えられました」
何をやっているんだ、親父。
「そして、わたくしの性格や言葉遣い、及びこの体については、あなた様より直々に･･･」
「え？そんなこと言ったっけ？」
確かに、彼女に水をやりながら話しかけたりしたことはあったが、せいぜい『美人に育てよ』程度の物で、どんな美人になれだとか言った覚えはない。
「あなた様･･･植物は、人や魔物の考えていることがおぼろげにわかるのですよ」
彼女は、簡単な手品の種明かしでもするかのように、俺に説明した。
「ですから、あなた様の好みの女性の顔立ちや、体つき、性格も日々の世話をしていただくうちに、よく伝わりました」
「え？筒抜け･･･？」
「左様でございます」
「う、う、う･･･！」
俺はうぉぉ、と声を上げてその場から逃げ出したくなった。本当に、目の前のマンドラゴラが、俺の性癖ドストライクな体つきや顔立ちだという辺りが、俺の考えのだだ漏れっぷりを示していたからだ。
しかし、俺がその場から逃げ出そうとする前に、マンドラゴラは俺の手を掴んだ。
「ですが、伝わったのはあなた様の考えばかりではありません。あなた様のお気持ちも、よく伝わりました」
振り解こうと思えば楽に逃れられる程度の力だが、彼女の言葉は俺の手を縛り、逃げ出すことを封じていた。
「あなた様が嬉しいと感じることがあれば、わたくしも嬉しく感じます。あなた様に悲しいことがあれば、わたくしも悲しくなります。そして、あなた様がわたくしに向けてくださった、好きというお気持ちも･･･わたくしはしっかりと感じて参りました」
マンドラゴラはぐい、通れの手を引き寄せると、やや重力に負けて垂れ気味の乳房の上に、俺の手を押し当てさせた。
「わかりますか？これまで土の中よりお慕い申し上げてきた、あなた様と出会って、胸が高鳴っているのが･･･」
「ほ、ほんとだ･･･」
植物の根とは思えないほど彼女の体は柔らかく、心臓の鼓動も伝わった。
「いや待て･･･魔物の特性や魔力の影響で、男に反応してるだけじゃないのか･･･？」
「いいえ、違います。そのことは、魔術師のあなた様ならよくご存じのはずです」
自分の思いが、魔力による錯覚なのではないかという俺の指摘に、彼女はゆっくりと首を左右に振った。
「魔力に侵されれば、肉欲にすべてを支配され、体の欲するがまま男を襲う･･･あなた様も経験がおありでしょう？」
「ああ･･･」
確かに、幾度か興奮した魔物に襲われかけたことがあった。彼女たちの様子は、少なくとも目の前のマンドラゴラのように、話が通じそうな様子ではなかった。
「あなた様もわたくしも、魔力の影響は受けておりません。わたくしのこの胸の高鳴りは、純然たるあなた様への気持ちによる物です」
彼女の心臓は、穏やかな言葉と裏腹にどきどきと高鳴っている。まるで、つい先ほどまで走り回ってきたかのような、いや今まさに走っているかのようだ。
「あなた様がわたくしの体を育みながら、わたくしのこの気持ちも育んで下さいました。もはや、わたくしの心はあなた様の物です」
彼女は俺の手を離すと、俺を迎えるように両手を広げながら続けた。
「どうか、わたくしの体も、あなた様の物にして下さい･･･」
彼女のその一言は、俺の意識のタガを外しそうになった。
理想の女が、俺の物にしてくれと求めている。正直、踏みとどまれたのは、奇跡に近かった。
「わかった･･･だが、少し待ってくれ･･･」
俺の言葉に、まさか拒まれるとは思っていなかったのか、マンドラゴラの表情に影が差した。
「そんな･･･」
「お前の気持ちは分かるが、まだ待ってほしいんだ･･･」
「わたくしに、何か不手際が･･･？」
植えられて二十九年、俺が世話するようになって二十余年かけて育み続けた肉体と気持ちが俺に届かなかったことに、彼女は自身のこれまでの行いを振り返った。
だが、わからない。
「違う、お前は悪くない」
俺は、不安げに目をさまよわせるマンドラゴラを落ち着かせるよう、彼女の肩を掴み、その瞳をのぞき込みながら続けた。
「ここは庭だ。こんなところでお前を抱いたら、ご近所に丸見えだ」
それから、俺は彼女を抱えあげると、どうにか寝室のベッドまで運んだ。
二十九年物の肉体は、見た目通りの重みを備えており、寝室につく頃には膝が笑うほどだった。
「すみません･･･わたくしが、すぐに立てれば･･･」
「な、なあに･･･二十九年も埋めっぱなしにしていた、俺にも責任があるさ･･･」
今まで使ったことのない足では、早々すぐに歩けない。
その事実もあったが、女性一人をいわゆるお姫様抱っこで運んだという達成感は、俺の心を心地よく満たしていた。
「あなた様、どうぞ･･･わたくしの体は、程良く冷えておりますゆえ、体の火照りも収まるでしょう」
ベッドに横たわるマンドラゴラが、そう俺に言った。
それは暗に、俺に抱いてくれと言っているようだった。
「･･･そうだな、そうさせてもらうか･･･」
俺は、彼女の言葉に頷き、そっとベッドの上に身を横たえた。
そしてマンドラゴラの体を抱き寄せる。
彼女の言葉通り、ムッチリとしたその体は思いの外ひんやりとしており、衣服越しに俺の体から熱を奪っていった。
「いかがですか、あなた様？」
「ああ、本当にひんやりとしていて、気持ちいい･･･」
彼女の背中に手を回し、体を押しつけながら、その柔らかさと火照りが消えていく感覚を、俺は楽しんだ。
「お気に入られたようで、何よりです。うふふ･･･」
彼女の腕が、俺の背中に回り、滲む汗で少しだけ湿り気を帯びたシャツに触れた。
「それにしても、広い背中･･･」
マンドラゴラは、俺の背中を調べるように、ゆっくりと背中を撫で始めた。
「力強く、たくましく･･･殿方というのは、これほど立派なのですね」
「そう褒めないでくれ･･･俺はお前が思っているほど、立派じゃない」
自分ではたくましいどころか、普段の運動不足により若干だらしのない体つきだと思っている。
だというのに、彼女は小さく首を振って続けた。
「いいえ、私は立派なお体だと思っております。背中も、腰も、脚も･･･ほらこんなに」
するすると、彼女の手のひらがシャツやズボンの表面を滑り、衣服越しに俺の体をなぞっていく。ムズムズするようなくすぐったさが皮膚に生じるが、心地の悪いものではない。
「そして、腕･･･わたくしを掘り出し、ここまで連れてきて下さった腕･･･」
太腿から腰を滑り、一度背中に回ってから、肩から二の腕へと彼女の手のひらが移った。
「あなた様がどう感じていらっしゃろうと、わたくしはこの腕が、体が好きです。どうか、そうご自身を卑下なさらないで下さい」
彼女の言葉に、俺は胸の奥に微かな疼きが生じるのを感じた。
痛みのような、寂しさのような、何かかけているような感覚だ。
「あなた様･･･どうかわたくしに、もっとあなた様を感じさせて下さい」
胸の奥の感覚の正体を探るのをやめ、俺は彼女の体に回した腕に、軽く力を込めた。
「ん･･･」
マンドラゴラが俺の抱擁に声を漏らし、両の目蓋を下ろした。
俺の二の腕に手を添え、柔らかな体を微かに動かして、俺の四肢にこもる力を感じているようだった。
そして彼女が俺の体を感じている一方で、俺は徐々に胸の奥の疼きが薄まっていくのを感じていた。こうしてマンドラゴラと体を触れ合わせているだけで、癒されていくようだった。
抱きしめているのは俺の方だというのに、まるでマンドラゴラから抱かれているような気になるのは、彼女の豊満な肉体によるものばかりではないのだろう。
「ん･･･」
「ふ･･･」
互いに小さく息をもらしつつ、少しずつ身じろぎして、相手の体を感じる。
すると、俺は彼女のひんやりとした肉体の芯に、微妙な熱が生じるのを感じた。どうやら、包容を続けるうちに、彼女も興奮してきたらしい。
「ふふ、あなた様･･･」
マンドラゴラが薄く目を開いて、軽く腰を俺の腰の辺りに押しつけた。すると、彼女の柔らかな肉に、ズボン越しの屹立が押し当てられるのを感じた。
どうやら静かに興奮していたのは、俺も同様だったようだ。
「体の火照りを冷ますためでしたのに、別な場所に熱がこもってしまいましたね･･･」
「ああ･･･」
「折角ですから、わたくしで鎮めていただけませんか？」
彼女は少しだけ両足を開き、ズボンを押し上げる肉の棒をその間に導きながら、続けた。
「あなた様に使っていただけるのが、わたくしの悦びなのです」
柔らかな場所と固いモノが、数枚の布地を隔てて触れ合う。彼女の求めは、肉体の感覚とともに俺の心を煽っていく。
そして、庭先ではどうにかかかっていた歯止めが、今はなかった。
「･･･」
俺は、マンドラゴラの顔に唇を近づけ、接吻した。
俺の接近に、彼女は目蓋を下ろし、唇を薄く開いて待ちかまえていた。唇と唇が触れ合い、微かな薬草めいた香りが俺の口腔に入り込んだ。
「んむ･･･」
「ちゅ･･･ん･･･」
互いに互いの唇を擦り、軽く吸いながら、相手の体に触れた。
マンドラゴラは二の腕に添えていただけの手のひらで、俺の肩や脇腹、背中をなぞっていく。
俺は包容していた腕を解き、彼女の体を揉むように撫でながら、片方の手を彼女と俺の間に差し入れた。
ズボンの股間の合わせ目を開き、下着を突き上げる肉棒を取り出す。
すでにそこは固く、熱を帯びており、彼女の少しだけひんやりとした腹肉に触れてびくびくと震えた。
「ん･･･」
腹を圧迫する屹立の感触のためか、マンドラゴラが声を漏らす。
俺は、数度彼女の腹の柔らかさを楽しむと、一度顔を離した。
「ぷは･･･」
息継ぎと共に、ねっとりとした唾液が糸を引いて唇と唇を結び、近すぎてよく見えなかった彼女の顔が見えた。
淡い褐色の肌には赤みが差しており、その瞳はとろんと興奮に溶けていた。
俺との抱擁と接吻で、これほどまでに興奮してくれたのだ。俺の内心に、喜びめいた物が生じる。
「お前の中に･･･入りたい･･･」
もっと彼女に気持ちよくなってほしい。もっと彼女で気持ちよくなりたい。二つの欲望が、俺の口から言葉の形で溢れだすと、マンドラゴラは無言で小さく頷いた。
俺は、腰を浮かして彼女の腹から肉棒を離すと、体をずらして屹立の先端を彼女の両足の間に当てた。
無毛の、まだ未熟な少女めいた縦一本の亀裂しかない陰部が赤黒い亀頭によって押し開かれ、濡れた桃色の肉が内側から覗く。
俺は、屹立の先端で彼女の柔らかさを確かめると、ゆっくりと腰をつきだしていった。
「･･･っ･･･！」
にゅるにゅると、肉の亀裂が屹立によって押し開かれ、粘液に塗れた肉が絡み付いてくる。
少女めいた外見とは裏腹に、軟らかな肉がひしめき合うその内側は、肉体的にもマンドラゴラ自身の興奮的にも完全に熟れていた。
「うぅ･･･！」
俺は肉棒を根本まで差し入れると、小さくうめきながら腰を引いた。
入るときは微かな抵抗感しかなかった肉壷が、引き抜かれていく勃起を逃すまいとするかのように襞を絡みつかせてくる。
うねり、波打ち、緩く締め付けてくる膣襞の感触に、俺の腰が抜けそうになる。
腰の奥から背筋へゾクゾクと上っていく感触を堪えながら、俺は再び腰を突きだした。
マンドラゴラの内側の肉は、じゅぶりと空気を粘液のうちに取り込む音を立てながら、屹立を飲み込んでいく。
そして、膨れた先端が彼女の最奥に達した瞬間、マンドラゴラの唇からか細い吐息が漏れた。
「んっ･･･」
色気を含んだ、体内の熱と興奮が溢れだしたかのような甘い吐息。
あえぎ声でも睦言でもないが、それは十分俺を高ぶらせるだけの力を持っていた。
「く･･･ふ･･･！」
股間に絡みつくマンドラゴラの甘い膣肉抱擁の快感に耐えながら、俺は彼女の内側をかき回すように腰を動かした。
彼女の奥をつつけば、マンドラゴラが声を漏らす。
腰を引けば、カリ首が襞を逆撫でする感触に、彼女が顔を背ける。
そして軽く腰を回しながら突き入れれば、マンドラゴラの眉根が悩ましげに寄る。
淡い褐色の肌を紅潮させ、じんわりと肌に汗の玉を浮かべながら、彼女は俺の動きに声を漏らし、小さく身悶えした。
そして時折、彼女の手足に小さく力がこもり、ぴくんと跳ねる。
限界が近いのだ。
「あなた、様･･･も。う･･･！」
苦しげに、悩ましげに、そして息も絶え絶えに彼女がそう訴えた。
「俺も･･･！」
もはや屹立は、彼女の体内で破裂せんばかりにびくびくと脈動を繰り返しており、俺は射精しないよう耐えるので精一杯だった。
「どうか、いっしょ･･･に･･･！」
マンドラゴラが俺の首の裏に手を回し、俺は彼女の導きに肌を重ねた。
そして、互いに互いの体を抱きしめながら、俺とマンドラゴラはほぼ同時に達した。
「･･･！」
彼女の胎内で肉棒が弾け、白濁の奔流がマンドラゴラの内側を白く染めあげる。
一方彼女の膣肉も、絶頂とそそぎ込まれる精液に襞を打ち震えさせ、一滴も漏らすまいと屹立を締め上げ、さらに搾ろうとするかのように肉を絡み突かせた。
白濁が勢いよく噴き出し、彼女の体が打ち震える。
そして、互いに互いを高めあいながら、俺たちは意識がどろどろに溶けていくのを感じた。
「･･･はぁ、はぁ、はぁ･･･」
程なくして、俺の屹立が限界を迎えて射精を止め、法悦から引き戻された。
全身を熱と息苦しさが満たしていたが、不思議な心地よさが取り残されていた。
「はぁ、はぁ･･･」
俺の下で、マンドラゴラが空気を求めてあえぐ。
彼女の瞳は、興奮に濡れていたが、確かに俺の方に向けられていた。
「これで･･･わたくしの･･･からだも･･･あなた･･･さまの･･･もの･･･」
荒い呼吸の合間に、言葉を挟みながら彼女がそう言うと、にっこりと微笑んだ。
彼女の目尻から、涙が一筋溢れた。
興奮に潤んだ瞳から溢れたのだろうが、俺はその一筋の涙に申し訳なさを覚えた。
二十九年も、放っておいてすまなかった。
そして、これからの長い年月、掘り起こすのが遅れた分も取り返せるよう、彼女を愛することを俺は胸中で誓った。
大昔の書物にはそう記されているが、それは大昔の話だ。
今となっては、頭に葉っぱをはやした少女が土の中に埋まっており、引き抜けば生涯その世話と相手をすることになる。
結婚を人生の墓場だと考えるのならば、ある意味死をもたらすという部分は変わっていない。
だが、俺はあえて自ら墓場に飛び込むつもりでいた。
俺の目の前の地面に生えているのは、マンドラゴラだ。
俺が生まれるからこの家で育てている、二十九年物だ。
親父は、もしも自分に息子が生まれたとき、魔術師という家系故、結婚相手に恵まれない場合を見越してマンドラゴラを植えたらしい。
もっとも、俺が生まれてから親父の心配は杞憂だったと胸をなで下ろすほど、俺は女や魔物から好かれた。
だが、結婚するほど深い仲に至ったことはなかった。
なぜなら、俺にはこのマンドラゴラがいたからだ。
いつだったか、俺がまだ片手で数えられるほどの歳の頃、親父は庭に生えた草を指しながら、『これが、おまえのお嫁さんだ』と言った。
おそらくその言葉が俺の心の奥底に刷り込まれ、ほかの魔物との付き合いを遠ざけたのだろう。俺は将来のお嫁さんのため、地面から葉っぱを覗かせるマンドラゴラに水をやり、雑草をむしり、時には話しかけたりした。
そうするうち、俺にはこのマンドラゴラの存在がかけがえのない物のように思えてきた。
もっとも、俺からの一方的な片思いでしかない。
だが、彼女の想いを確かめる価値はあるはずだ。
「よし･･･」
俺は決心を固めると、マンドラゴラの前でかがみ込み、青々と繁る葉っぱに手をかけた。そして、力を込めて全身で引っ張った。
両足に力を込め、指を引き締め、上体を反らしながら引く。
しかし、マンドラゴラは抜けなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ･･･」
俺は全身の力を抜き、地面に尻餅をつきながら呼吸を整えた。
やはり、彼女は俺のことを拒んでいるのだろうか？それとも、職場の上司の魔物が最近言い寄ってくるのが面倒くさくて、いい加減身を固めようと言う動機では不純だというのだろうか。
「いや･･･まだ手はある･･･！」
俺は傍らに置いていたシャベルを手に取ると、葉っぱの近辺の土を掘り始めた。
いつだったか、親父が俺に教えてくれたことがある。大昔はマンドラゴラの収穫の際、犬に引き抜かせる方法が広く使われていたが、実はもう一つ安全に収穫することができる方法があるのだ。
それは、マンドラゴラを周りの土ごと掘り起こし、優しく水をかけて土を洗い流すという物である。
『おまえもそういう人間になれ』と親父は俺に教えてくれたが、重要なのは土を掘り起こすというものだ。
植物の根は細かな毛に覆われており、それが土と土の間に入り込んで根を張るのだ。二十九年物のマンドラゴラは、それほど深々と土を保持しているのだろう。
シャベルで土をどかすうち、金属の先端が柔らかな物にふれた。マンドラゴラの肌だ。土にまみれているため、肌色こそよくわからないが、どうやら肩の辺りらしい。
俺は彼女の肌に傷が入っていないのを確認すると、掘る方向を変えて穴を広げていった。
だが、程なくして再び柔らかな物に当たる。今度は乳房だろうか？
シャベルを起き、指先で土をよけながら俺はマンドラゴラの輪郭をとらえようとした。
聞くところによるとマンドラゴラは少女の姿をしていると言うが、徐々に明らかになっていく彼女の輪郭は、少女と言うには少々大きすぎた。
マンドラゴラは地中にいる間、土の養分を吸収して体を大きくすると言う。どうやら、二十九年という歳月は長すぎたらしい。
「･･･よ･･･ほ･･･」
地面に膝を付き、穴の中に手を突っ込んで彼女の肌を覆う土を取り除いていく。汗が額を流れ、穴の中に滴り落ち、鬱陶しさに額を拭えば土が付く。
そして、彼女の乳房の大きさをおおむね把握したところで、俺はシャベルをとるため身を起こそうとした。しかし、俺の肘がマンドラゴラの顔を覆っていた土に触れ、崩してしまう。
「あ･･･」
土がはがれ落ち、目を閉じる落ち着いた面立ちの女の顔が露わになった瞬間、俺の脳裏を走馬燈が駆け抜けた。
正確に言うと掘り起こしているだけなのだが、この場合どうなのだろう？
水で優しく洗い流していないため、掘り起こした扱いになるかもしれない。
やはり別の古文書にあったとおり、魔女の小便をかけて動きを封じ、その魔女の破瓜の血を滴らせて安全に収穫できる状況にすべきだったが、どうしようもない。そもそも知り合いの魔女は全員非処女の上既婚だ。いったいどうやってそんなもの準備すればいいんだ。
後悔と理不尽な要求への怒りが寄せては返すのを感じながら、俺はマンドラゴラがゆっくりと目を開くのを見ていた。
そして、彼女の青い瞳が俺の両目を捉えた。
「おはようございます、あなた様･･･」
だが、マンドラゴラの土まみれの唇から紡がれたのは、叫びではなく穏やかな挨拶の言葉だった。
「ふぅ･･･これですっきりしましたわ」
庭の一角に設けられた井戸で、水をかけてマンドラゴラの土を洗い流すと、彼女はほっとしたように口を開いた。
泥と土に覆われていた淡い褐色の肌が露わになり、彼女の体つきが日の元に晒されていた。
乳房は先ほど確認したとおりかなり大きく、尻や太腿もムッチリと肉が付いており、俺好みである。
そして何より、落ち着いた物腰や、やや面長の顔立ちは、俺がおぼろげに脳裏に思い浮かべていた理想の女のそれだった。
「さてさて、改めまして挨拶申し上げます。あなた様のお父様より植えられ、育てられて参りました、マンドラゴラでございます」
彼女は、植物の根のようにねじれたつま先を持つ足を折り畳み、ジパング式の正座をすると、俺に向かって頭を下げた。
「いや、ちょっと待ってくれ･･･お前がマンドラゴラだっていうのは十分わかっているが･･･ええと、その言葉遣いとかは･･･？」
「礼儀作法に付きましては、あなた様のお父様より教えられました」
何をやっているんだ、親父。
「そして、わたくしの性格や言葉遣い、及びこの体については、あなた様より直々に･･･」
「え？そんなこと言ったっけ？」
確かに、彼女に水をやりながら話しかけたりしたことはあったが、せいぜい『美人に育てよ』程度の物で、どんな美人になれだとか言った覚えはない。
「あなた様･･･植物は、人や魔物の考えていることがおぼろげにわかるのですよ」
彼女は、簡単な手品の種明かしでもするかのように、俺に説明した。
「ですから、あなた様の好みの女性の顔立ちや、体つき、性格も日々の世話をしていただくうちに、よく伝わりました」
「え？筒抜け･･･？」
「左様でございます」
「う、う、う･･･！」
俺はうぉぉ、と声を上げてその場から逃げ出したくなった。本当に、目の前のマンドラゴラが、俺の性癖ドストライクな体つきや顔立ちだという辺りが、俺の考えのだだ漏れっぷりを示していたからだ。
しかし、俺がその場から逃げ出そうとする前に、マンドラゴラは俺の手を掴んだ。
「ですが、伝わったのはあなた様の考えばかりではありません。あなた様のお気持ちも、よく伝わりました」
振り解こうと思えば楽に逃れられる程度の力だが、彼女の言葉は俺の手を縛り、逃げ出すことを封じていた。
「あなた様が嬉しいと感じることがあれば、わたくしも嬉しく感じます。あなた様に悲しいことがあれば、わたくしも悲しくなります。そして、あなた様がわたくしに向けてくださった、好きというお気持ちも･･･わたくしはしっかりと感じて参りました」
マンドラゴラはぐい、通れの手を引き寄せると、やや重力に負けて垂れ気味の乳房の上に、俺の手を押し当てさせた。
「わかりますか？これまで土の中よりお慕い申し上げてきた、あなた様と出会って、胸が高鳴っているのが･･･」
「ほ、ほんとだ･･･」
植物の根とは思えないほど彼女の体は柔らかく、心臓の鼓動も伝わった。
「いや待て･･･魔物の特性や魔力の影響で、男に反応してるだけじゃないのか･･･？」
「いいえ、違います。そのことは、魔術師のあなた様ならよくご存じのはずです」
自分の思いが、魔力による錯覚なのではないかという俺の指摘に、彼女はゆっくりと首を左右に振った。
「魔力に侵されれば、肉欲にすべてを支配され、体の欲するがまま男を襲う･･･あなた様も経験がおありでしょう？」
「ああ･･･」
確かに、幾度か興奮した魔物に襲われかけたことがあった。彼女たちの様子は、少なくとも目の前のマンドラゴラのように、話が通じそうな様子ではなかった。
「あなた様もわたくしも、魔力の影響は受けておりません。わたくしのこの胸の高鳴りは、純然たるあなた様への気持ちによる物です」
彼女の心臓は、穏やかな言葉と裏腹にどきどきと高鳴っている。まるで、つい先ほどまで走り回ってきたかのような、いや今まさに走っているかのようだ。
「あなた様がわたくしの体を育みながら、わたくしのこの気持ちも育んで下さいました。もはや、わたくしの心はあなた様の物です」
彼女は俺の手を離すと、俺を迎えるように両手を広げながら続けた。
「どうか、わたくしの体も、あなた様の物にして下さい･･･」
彼女のその一言は、俺の意識のタガを外しそうになった。
理想の女が、俺の物にしてくれと求めている。正直、踏みとどまれたのは、奇跡に近かった。
「わかった･･･だが、少し待ってくれ･･･」
俺の言葉に、まさか拒まれるとは思っていなかったのか、マンドラゴラの表情に影が差した。
「そんな･･･」
「お前の気持ちは分かるが、まだ待ってほしいんだ･･･」
「わたくしに、何か不手際が･･･？」
植えられて二十九年、俺が世話するようになって二十余年かけて育み続けた肉体と気持ちが俺に届かなかったことに、彼女は自身のこれまでの行いを振り返った。
だが、わからない。
「違う、お前は悪くない」
俺は、不安げに目をさまよわせるマンドラゴラを落ち着かせるよう、彼女の肩を掴み、その瞳をのぞき込みながら続けた。
「ここは庭だ。こんなところでお前を抱いたら、ご近所に丸見えだ」
それから、俺は彼女を抱えあげると、どうにか寝室のベッドまで運んだ。
二十九年物の肉体は、見た目通りの重みを備えており、寝室につく頃には膝が笑うほどだった。
「すみません･･･わたくしが、すぐに立てれば･･･」
「な、なあに･･･二十九年も埋めっぱなしにしていた、俺にも責任があるさ･･･」
今まで使ったことのない足では、早々すぐに歩けない。
その事実もあったが、女性一人をいわゆるお姫様抱っこで運んだという達成感は、俺の心を心地よく満たしていた。
「あなた様、どうぞ･･･わたくしの体は、程良く冷えておりますゆえ、体の火照りも収まるでしょう」
ベッドに横たわるマンドラゴラが、そう俺に言った。
それは暗に、俺に抱いてくれと言っているようだった。
「･･･そうだな、そうさせてもらうか･･･」
俺は、彼女の言葉に頷き、そっとベッドの上に身を横たえた。
そしてマンドラゴラの体を抱き寄せる。
彼女の言葉通り、ムッチリとしたその体は思いの外ひんやりとしており、衣服越しに俺の体から熱を奪っていった。
「いかがですか、あなた様？」
「ああ、本当にひんやりとしていて、気持ちいい･･･」
彼女の背中に手を回し、体を押しつけながら、その柔らかさと火照りが消えていく感覚を、俺は楽しんだ。
「お気に入られたようで、何よりです。うふふ･･･」
彼女の腕が、俺の背中に回り、滲む汗で少しだけ湿り気を帯びたシャツに触れた。
「それにしても、広い背中･･･」
マンドラゴラは、俺の背中を調べるように、ゆっくりと背中を撫で始めた。
「力強く、たくましく･･･殿方というのは、これほど立派なのですね」
「そう褒めないでくれ･･･俺はお前が思っているほど、立派じゃない」
自分ではたくましいどころか、普段の運動不足により若干だらしのない体つきだと思っている。
だというのに、彼女は小さく首を振って続けた。
「いいえ、私は立派なお体だと思っております。背中も、腰も、脚も･･･ほらこんなに」
するすると、彼女の手のひらがシャツやズボンの表面を滑り、衣服越しに俺の体をなぞっていく。ムズムズするようなくすぐったさが皮膚に生じるが、心地の悪いものではない。
「そして、腕･･･わたくしを掘り出し、ここまで連れてきて下さった腕･･･」
太腿から腰を滑り、一度背中に回ってから、肩から二の腕へと彼女の手のひらが移った。
「あなた様がどう感じていらっしゃろうと、わたくしはこの腕が、体が好きです。どうか、そうご自身を卑下なさらないで下さい」
彼女の言葉に、俺は胸の奥に微かな疼きが生じるのを感じた。
痛みのような、寂しさのような、何かかけているような感覚だ。
「あなた様･･･どうかわたくしに、もっとあなた様を感じさせて下さい」
胸の奥の感覚の正体を探るのをやめ、俺は彼女の体に回した腕に、軽く力を込めた。
「ん･･･」
マンドラゴラが俺の抱擁に声を漏らし、両の目蓋を下ろした。
俺の二の腕に手を添え、柔らかな体を微かに動かして、俺の四肢にこもる力を感じているようだった。
そして彼女が俺の体を感じている一方で、俺は徐々に胸の奥の疼きが薄まっていくのを感じていた。こうしてマンドラゴラと体を触れ合わせているだけで、癒されていくようだった。
抱きしめているのは俺の方だというのに、まるでマンドラゴラから抱かれているような気になるのは、彼女の豊満な肉体によるものばかりではないのだろう。
「ん･･･」
「ふ･･･」
互いに小さく息をもらしつつ、少しずつ身じろぎして、相手の体を感じる。
すると、俺は彼女のひんやりとした肉体の芯に、微妙な熱が生じるのを感じた。どうやら、包容を続けるうちに、彼女も興奮してきたらしい。
「ふふ、あなた様･･･」
マンドラゴラが薄く目を開いて、軽く腰を俺の腰の辺りに押しつけた。すると、彼女の柔らかな肉に、ズボン越しの屹立が押し当てられるのを感じた。
どうやら静かに興奮していたのは、俺も同様だったようだ。
「体の火照りを冷ますためでしたのに、別な場所に熱がこもってしまいましたね･･･」
「ああ･･･」
「折角ですから、わたくしで鎮めていただけませんか？」
彼女は少しだけ両足を開き、ズボンを押し上げる肉の棒をその間に導きながら、続けた。
「あなた様に使っていただけるのが、わたくしの悦びなのです」
柔らかな場所と固いモノが、数枚の布地を隔てて触れ合う。彼女の求めは、肉体の感覚とともに俺の心を煽っていく。
そして、庭先ではどうにかかかっていた歯止めが、今はなかった。
「･･･」
俺は、マンドラゴラの顔に唇を近づけ、接吻した。
俺の接近に、彼女は目蓋を下ろし、唇を薄く開いて待ちかまえていた。唇と唇が触れ合い、微かな薬草めいた香りが俺の口腔に入り込んだ。
「んむ･･･」
「ちゅ･･･ん･･･」
互いに互いの唇を擦り、軽く吸いながら、相手の体に触れた。
マンドラゴラは二の腕に添えていただけの手のひらで、俺の肩や脇腹、背中をなぞっていく。
俺は包容していた腕を解き、彼女の体を揉むように撫でながら、片方の手を彼女と俺の間に差し入れた。
ズボンの股間の合わせ目を開き、下着を突き上げる肉棒を取り出す。
すでにそこは固く、熱を帯びており、彼女の少しだけひんやりとした腹肉に触れてびくびくと震えた。
「ん･･･」
腹を圧迫する屹立の感触のためか、マンドラゴラが声を漏らす。
俺は、数度彼女の腹の柔らかさを楽しむと、一度顔を離した。
「ぷは･･･」
息継ぎと共に、ねっとりとした唾液が糸を引いて唇と唇を結び、近すぎてよく見えなかった彼女の顔が見えた。
淡い褐色の肌には赤みが差しており、その瞳はとろんと興奮に溶けていた。
俺との抱擁と接吻で、これほどまでに興奮してくれたのだ。俺の内心に、喜びめいた物が生じる。
「お前の中に･･･入りたい･･･」
もっと彼女に気持ちよくなってほしい。もっと彼女で気持ちよくなりたい。二つの欲望が、俺の口から言葉の形で溢れだすと、マンドラゴラは無言で小さく頷いた。
俺は、腰を浮かして彼女の腹から肉棒を離すと、体をずらして屹立の先端を彼女の両足の間に当てた。
無毛の、まだ未熟な少女めいた縦一本の亀裂しかない陰部が赤黒い亀頭によって押し開かれ、濡れた桃色の肉が内側から覗く。
俺は、屹立の先端で彼女の柔らかさを確かめると、ゆっくりと腰をつきだしていった。
「･･･っ･･･！」
にゅるにゅると、肉の亀裂が屹立によって押し開かれ、粘液に塗れた肉が絡み付いてくる。
少女めいた外見とは裏腹に、軟らかな肉がひしめき合うその内側は、肉体的にもマンドラゴラ自身の興奮的にも完全に熟れていた。
「うぅ･･･！」
俺は肉棒を根本まで差し入れると、小さくうめきながら腰を引いた。
入るときは微かな抵抗感しかなかった肉壷が、引き抜かれていく勃起を逃すまいとするかのように襞を絡みつかせてくる。
うねり、波打ち、緩く締め付けてくる膣襞の感触に、俺の腰が抜けそうになる。
腰の奥から背筋へゾクゾクと上っていく感触を堪えながら、俺は再び腰を突きだした。
マンドラゴラの内側の肉は、じゅぶりと空気を粘液のうちに取り込む音を立てながら、屹立を飲み込んでいく。
そして、膨れた先端が彼女の最奥に達した瞬間、マンドラゴラの唇からか細い吐息が漏れた。
「んっ･･･」
色気を含んだ、体内の熱と興奮が溢れだしたかのような甘い吐息。
あえぎ声でも睦言でもないが、それは十分俺を高ぶらせるだけの力を持っていた。
「く･･･ふ･･･！」
股間に絡みつくマンドラゴラの甘い膣肉抱擁の快感に耐えながら、俺は彼女の内側をかき回すように腰を動かした。
彼女の奥をつつけば、マンドラゴラが声を漏らす。
腰を引けば、カリ首が襞を逆撫でする感触に、彼女が顔を背ける。
そして軽く腰を回しながら突き入れれば、マンドラゴラの眉根が悩ましげに寄る。
淡い褐色の肌を紅潮させ、じんわりと肌に汗の玉を浮かべながら、彼女は俺の動きに声を漏らし、小さく身悶えした。
そして時折、彼女の手足に小さく力がこもり、ぴくんと跳ねる。
限界が近いのだ。
「あなた、様･･･も。う･･･！」
苦しげに、悩ましげに、そして息も絶え絶えに彼女がそう訴えた。
「俺も･･･！」
もはや屹立は、彼女の体内で破裂せんばかりにびくびくと脈動を繰り返しており、俺は射精しないよう耐えるので精一杯だった。
「どうか、いっしょ･･･に･･･！」
マンドラゴラが俺の首の裏に手を回し、俺は彼女の導きに肌を重ねた。
そして、互いに互いの体を抱きしめながら、俺とマンドラゴラはほぼ同時に達した。
「･･･！」
彼女の胎内で肉棒が弾け、白濁の奔流がマンドラゴラの内側を白く染めあげる。
一方彼女の膣肉も、絶頂とそそぎ込まれる精液に襞を打ち震えさせ、一滴も漏らすまいと屹立を締め上げ、さらに搾ろうとするかのように肉を絡み突かせた。
白濁が勢いよく噴き出し、彼女の体が打ち震える。
そして、互いに互いを高めあいながら、俺たちは意識がどろどろに溶けていくのを感じた。
「･･･はぁ、はぁ、はぁ･･･」
程なくして、俺の屹立が限界を迎えて射精を止め、法悦から引き戻された。
全身を熱と息苦しさが満たしていたが、不思議な心地よさが取り残されていた。
「はぁ、はぁ･･･」
俺の下で、マンドラゴラが空気を求めてあえぐ。
彼女の瞳は、興奮に濡れていたが、確かに俺の方に向けられていた。
「これで･･･わたくしの･･･からだも･･･あなた･･･さまの･･･もの･･･」
荒い呼吸の合間に、言葉を挟みながら彼女がそう言うと、にっこりと微笑んだ。
彼女の目尻から、涙が一筋溢れた。
興奮に潤んだ瞳から溢れたのだろうが、俺はその一筋の涙に申し訳なさを覚えた。
二十九年も、放っておいてすまなかった。
そして、これからの長い年月、掘り起こすのが遅れた分も取り返せるよう、彼女を愛することを俺は胸中で誓った。
12/10/31 21:36更新 / 十二屋月蝕
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