読切小説
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恐怖!! 人を食うビーチ
「さーて今夜も始まりました。怪奇ハンター。今回視聴者の方から寄せられた情報によると、T県Rビーチは人を食うそうです。何を言ってるかわからねーと思うが事実らしい。というかそれが事実かどうかを調査するのが今回の企画です。それじゃあ行ってみよー!」
チャラくて雑なMCがふると、映像が切り替わった。
そこは見覚えのあるあの砂浜だ。
なんの変哲もないように見える砂浜が、燦々と日光を浴びて白く輝いている。青い海は波も穏やかで、海水浴にも最適に見えた。もしも強いて奇妙な部分を挙げるとするならば、奇妙な形をした岩が乱立していることだろうか。
まるでヤドリギを束ねたような形状をしている。
その砂浜を前にして海パン姿でパーカーを羽織ったレポーターがマイクを持って立っていた。

「えー、レポーターの山崎です。私は今、情報の寄せられたRビーチに来ております。ご覧ください。なんの変哲もなさそうなビーチですが、このビーチで何人もの男性が、砂浜の中に引き込まれる事件が起こっているそうです。今回は、その目撃者にお越しいただいております」
彼が手をふると、いかにも遊んでいそうな、よく日に焼けたマッチョな男性が海パン姿で現れた。レポーターがマイクを向けた。
「あなた、砂浜が人を食べるところを目撃したそうですね」
「そうそう。俺の友達が、この砂浜でナンパしてさぁ、女をあの岩陰に連れ込んだんだよ。そしたら、きゃーだっけ、きょあーだっけ、女の悲鳴が上がったんだよ。んで、俺が他のダチと一緒に駆けつけたら、あいついねぇでやんの。で、女は座り込んでガタガタ震えてんの。おかしくってさぁ」
と、ゲラゲラと彼は笑った。
友人がいなくなったのに薄情なやつだ。と、他の視聴者は思うだろう。
だが、俺は思わない。なぜなら、その友人がどうなったか、俺は知っているからだ。

案の定レポーターは彼にそうつっこんでいたが、彼はやはり笑って答える。
「だってさぁ、笑わずにはいられないじゃんか。あいつ、数日後にひょっこり帰って来たんだよ。んでなんて言ったと思う? 俺、結婚するんだ、だぜ? まるで天国行ってきたみたいな顔してんの。で、あいつそのまま家も引き払ってどっか行っちまった。もうラインしても繋がんないでやんの。多分、薬でも決まっちまったんだって、俺たちは噂してたんだよ」
テレビに流して良いとは思えない発言をしている彼だが、深夜のニッチな番組だから許されているのだろう。そして、それを帳消しにするようなスクープ映像が撮れていることを俺は知っている。

レポーターは彼にどう答えたらいいか戸惑う様子を見せるが、なんとか取り繕って、この海岸を訪れてから失踪する男性の情報が他にも寄せられていることを話していた。そうして、
「これから私はこの海岸を歩いてみようと思います。この海岸が本当に人を食うのか、身をもって確かめてみたいと思います」
彼はサンダルばきの足で、いかにも恐る恐るといったていで踏み入って行った。
不安を煽るような音楽が流れているが、何のことはない。海パン姿のおっさんがただ昼間のビーチを歩いているだけだ。普段だったら巨乳B級アイドルをレポーターにする場面だが、失踪するのが男だけだというのだから、これも致し方ない話だ。
そして、おっさんが歩き続けるだけで何も起こらないーーこともないのである。

「何も起こりませんね」
ホッとしたような顔を見せるレポーターだが、当然だという気持ちが透けて見えるような下手な演技だった。そして彼があの奇妙な岩に手を触れた、その時だった。
「う、うわぁあああ!」
「ちょ、おい、マジかよ。やばいやばいやばい」突如乱れ出すテレビ画面。レポーターの悲鳴にカメラマンの声が混じる。
「おい、撮れ! 撮っとけよ!」
「山崎さん、大丈夫ですか!」
「火、火持ってこい。誰かライター持ってねぇか!?」
「助けてくれェええ!」
慌てふためき緊迫した状況を伝えてくる音声に、最後に写ったのは、まるで触手のようにうごめきレポーターを内部に取り込む、その奇妙な形をした岩の姿だった。
岩は彼を飲み込むと、そのまま砂浜の中へと沈み込んで行った。

あまりにもショッキングな映像が流れ、シーンとしたスタジオの映像に戻った。
女性ゲストが悲痛な顔をして手で口を覆っているところが大写しにされる。
「え、え? これCGやないん? ホンマ? ホンマなん?」
中堅どころのお笑い芸人が驚いた表情で言っている。
そこにMCの場違いな声が響き渡る。
「いやー、凄かったですね。じゃあ、山崎さんにあの時何があったのか聞いてみましょう。山崎さんいらっしゃーい!」
「おぉい! 戻ってきとんのかい!」
お笑い芸人のツッコミと、ホーッとした女性ゲストの顔が順に映されていく。
そして、呼ばれたレポーターの山崎は、
ーー現れなかった。
「え……?」
半笑いを続けていたMCの顔がとうとう引きつった。

それを見届けた俺はテレビのスイッチを切った。
この番組は生放送でやることをウリにしているから、インタビューを受けた青年の友人のように、山崎が本当に失踪したことは、明日の朝刊に載るかどうか……。

と、失踪した山崎本人である俺はほくそ笑む。
あのいけ好かないMCのあんな間抜けな顔をみれて満足だ。俺はテレビどころか、人間の世界に戻るつもりなんて毛頭ない。
何せ、最高の嫁さんに出会えたのだから。
と、俺は、嫁さんの背中の触手の愛撫を受け、その体に沈み込みようにして抱きしめられていた。人間界のテレビ電波を受信できるここが、どこかは俺には分からない。
俺にわかるのは、ここは海の香りが強いということだけだ。

これからあのビーチには、もしかすると警察の手が入るかもしれない。しかし、それはむしろ願ったり叶ったりだ。きっと男性警官も多数訪れるだろう。
もしかしたら武装してくるかもしれないが、本物の岩と彼女たちを見分けられるわけもない。そうして一人ずつ捕まえられていくのだ。
あのビーチは、俺の嫁さんになった魔物娘、トリトニアたちが男を捕まえるために背中の触手を岩に擬態させて待ち構えているビーチだった。
せっかく本当に危険だということが噂となって警告されているというのに、自分から近づいてくる輩は後を絶たない。
そんなビーチはあの場所だけではない。俺はうっすらと笑う。

俺は裸で彼女の体に沈み込むよう抱かれつつ、ホールのような場所に連れていかれる。
おや、また一人、捕まえられた男と共に、トリトニアが戻ってきた。
ここは彼女たちの巣らしい。
煌びやかな衣装を着たような姿の、海の貴婦人然とした彼女たちが大勢、それぞれの伴侶と交わり自らの体に沈み込ませつつ体を揺すっている。もちろん俺も揺すられる。
そうして俺たちと彼女たちは、夜も昼もない海のどこかで、この舞踏会に興じ続けるのだ。
17/09/24 13:44更新 / ルピナス

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